機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

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第38話 人類を導くガンダム

 

西暦2308年――廃棄資源採掘基地・中央採掘区画

六基の大型フィンファングが、リ・ニューガンダムの背から一斉に離れた。

片側に並んでいた六基は瞬く間に散開し、正面、左右、上下へとエクシアを取り囲んでいく。単純に数で包囲したわけではない。一基ごとに位置も高度も異なり、どこへ逃げても別の射線へ入るよう計算された配置だった。

次の瞬間、六方向からビームが走る。

「っ……!」

刹那は反射的に機体を跳ね上げた。

一射目を躱し、二射目をGNソードで弾く。三射目が肩を掠め、回避した先へ四射目が飛び込んできた。

操縦桿を強く引く。

エクシアが強引に姿勢を変え、二本のビームが機体のすぐ脇を抜けていった。背後では大型の採掘設備が直撃を受け、爆発と共に巨大な破片を撒き散らす。

刹那は短く息を吐いた。

速い。

それ以上に厄介なのは、六基が完全に連携していることだった。一つを避けた先に次がいる。射撃を追っているだけでは、いずれ捉えられる。

『どうしたんだい、刹那』

リボンズの声は穏やかだった。

『真のイノベイターの力は、その程度なのか?』

刹那の眉が僅かに動く。

「まだ始まったばかりだ」

再び六基が動く。

今度は機械だけを見なかった。

フィンファングを操っているのはリボンズだ。六つに分かれて見えても、その根にある意思は一つ。

刹那は感覚を広げた。

リボンズの意識が僅かに動く。

その瞬間。

エクシアも動いた。

ビームが放たれるより早く射線を抜け、二本目、三本目の間へ機体を滑り込ませる。

「そこだ」

GNソードが一基を捉えかけた。

だが、その刃が届く直前。

リ・ニューガンダム本体が動いた。

「っ!」

赤と白の機体が一気に距離を詰める。

ビームサーベル。

刹那は咄嗟にGNソードを合わせた。

刃と刃がぶつかり、衝撃がエクシア全体を走る。身体まで直接殴られたような感覚に、刹那は歯を食いしばった。

『僕はフィンファングを操るだけのパイロットじゃない』

「分かっている!」

エクシアが蹴りを放つ。

リ・ニューガンダムは僅かに身を引いて避け、そのまま側面へ回り込む。刹那がGNソードを振り向けた瞬間には、背後のフィンファングが既に砲口を向けていた。

「くっ……!」

機体を沈める。

ビームが頭上を抜けた。

さらに正面からリ・ニューのサーベル。

受ける。

弾かれる。

刹那の呼吸が僅かに乱れた。

強い。

機体性能だけではない。

六基のフィンファングを同時に扱いながら、本体でも近接戦を仕掛けてくる。イノベイドとしての処理能力も、パイロットとしての技量も高い。

それでも。

ここで引く選択肢はなかった。

外では仲間が戦っている。

自分がリボンズを引き受ける。

そう決めたからこそ、ロックオンたちは何も言わず外の戦場へ向かった。

アーミアも。

レイナスも。

誰もここへ割り込んでこない。

刹那を信じている。

「俺は……ここで止まれない」

《アニマ》を巡らせる。

自分の身体から、エクシアへ。

操縦席。

フレーム。

腕。

脚。

それらを一つずつ意識する必要はない。

エクシアは、自分だ。

青白い光が機体を包む。

《オーバーライズ》。

リボンズが目を細めた。

『それが、アーミアから受け取った力か』

「教わった」

刹那の声は短い。

「でも、使うのは俺だ」

エクシアが加速した。

それまで追われていた機体が、一転してリ・ニューガンダムの懐へ入る。

GNソードが横薙ぎに走り、赤と白の胸部装甲を浅く切り裂いた。

初めて。

リ・ニューガンダムへ傷が入る。

リボンズの脳量子波が大きく揺れた。

驚き。

そして、明確な苛立ち。

刹那はそれを感じながら、操縦桿を握る手に力を込めた。

届く。

勝てない相手ではない。

胸の奥に湧いた手応えが、焦りを押し返していく。

     ◆

リボンズは傷ついた装甲を一度だけ確認した。

『《オーバーライズ》……』

イオリア計画には存在しない力。

自分の知らない力を、刹那・F・セイエイが使っている。

『君は、その力まで自分のものにしたつもりかい?』

「借りたつもりはない」

『アーミアに教わったんだろう?』

「教わった」

刹那は否定しない。

「でも、使うのは俺だ」

その返答が、リボンズには理解し難かった。

与えられたことを否定しない。

他人から学んだことも隠さない。

それでも、自分の選択として前へ進む。

リボンズは六基のフィンファングを一度自分の背後へ戻した。

片側に大型兵装が並び、リ・ニューガンダム本来の姿が再び完成する。

『分からないな、刹那』

「何がだ」

『君には力がある。人類がまだ持っていない認識力も、ガンダムも、《アニマ》もある。なのに、なぜそれを使って人類を導こうとしない?』

「導く必要がない」

即答だった。

リボンズの目が細くなる。

『なら誰が導く?』

「誰でもない」

『人間に任せれば、また争うだけだ』

リ・ニューガンダムが踏み込む。

刃と刃が激突した。

『人類は何度同じことを繰り返した! 争い、憎み、奪い合い、それでも自分たちだけでは変われない!』

六基のフィンファングが再び散る。

刹那は奥歯を噛んだ。

その言葉が、全く理解できないわけではない。

自分自身。

クルジスで戦った。

少年兵として人を殺した。

それが正しいと信じていた。

だからこそ。

簡単に否定することもできない。

一斉射撃。

エクシアが回避する。

一発。

二発。

三発。

四発目が左肩を捉えた。

「ぐっ!」

衝撃に身体が揺れる。

エクシアの左肩装甲が吹き飛び、警告表示が視界の端を赤く染めた。

リボンズは止まらない。

『ならば導く者が必要だ! 彼らより先を知り、正しい道を示せる存在が!』

リ・ニューガンダムが迫る。

六基のフィンファングが背後に広がり、赤と白の機体を巨大な翼のように飾った。

リボンズの声が強くなる。

「この機体こそ、人類を導くガンダムだ!」

その言葉と同時に。

六基のフィンファングが一斉に動いた。

採掘区画全体が、光で埋まる。

     ◆

逃げ道がない。

刹那は瞬時に理解した。

六基のフィンファング。

リ・ニューガンダム本体。

全方向から射線が重なり、どこへ抜けても次の攻撃が待っている。

左肩は損傷している。

《オーバーライズ》だけでは押し切れない。

それでも。

刹那の中に、退くという考えは浮かばなかった。

負けたくない。

ここで死にたくない。

何より。

外で待っている仲間のところへ戻りたい。

刹那は一度だけ大きく息を吸った。

「TRANS-AM」

赤い光がエクシアを包む。

《オーバーライズ》は解除しない。

赤いGN粒子の中を、青白い《アニマ》が走る。

前回は。

何が起きるか分からないまま使った。

今は違う。

自分の意思で。

使う。

「行くぞ、エクシア」

エクシアが光の中へ突っ込んだ。

一基目。

射撃の直前に軌道を変え、GNソードで両断する。

二基目が上方から狙う。

壁面を蹴り、一気に跳ね上がる。

刃が走る。

二基目。

破壊。

『何……!?』

リボンズの声が僅かに乱れた。

三基目と四基目が左右から同時に射撃する。

刹那はその中心へ飛び込んだ。

二本のビームが交差する寸前。

エクシアが通過する。

凄まじい速度と負荷で視界が揺れた。

それでも刹那はGNソードを振るう。

三基目を切断。

四基目が離脱する。

その正面へ、リ・ニューガンダムが飛び込んできた。

『僕を忘れるな!』

「忘れていない!」

二機の刃が激突する。

TRANS-AM。

《オーバーライズ》。

その両方を使ってなお、リ・ニューガンダムは押し返してくる。

刹那の腕に重さがかかる。

まるで自分自身の腕を押されているような感覚だった。

「ぐ……っ!」

『なぜだ……!』

リボンズの声が響く。

『なぜそこまで人間を信じられる!』

刹那は一瞬。

答えに詰まった。

人間が必ず正しいとは思っていない。

争わないとも。

裏切らないとも。

思っていない。

自分自身が。

その間違いを知っている。

だから。

「信じているわけじゃない」

『何?』

刹那はリボンズのサーベルを押し返す。

「それでも、自分で変わるしかない」

そのままリ・ニューを弾く。

背後。

四基目のフィンファングが迫る。

刹那は振り向きざまにGNソードを振った。

切断。

残り二基。

     ◆

リボンズの余裕が。

確実に失われ始めていた。

『君は甘い!』

「そうかもしれない!」

刹那は否定しなかった。

『人類は君を裏切るかもしれない!』

「それでもだ!」

『君が守ろうとしている者同士が、また殺し合うかもしれない!』

刹那の表情が僅かに歪む。

そんな未来がないとは言えない。

それでも。

「最初から全部決めるよりはいい!」

エクシアが踏み込む。

リ・ニューがサーベルを振る。

受け流す。

五基目のフィンファングが横から攻撃する。

刹那は機体を沈め、ビームを頭上へ通した。

そこから一気に跳ね上がる。

GNソード。

五基目を両断。

残り一基。

リボンズの表情に。

初めて。

明確な焦りが浮かんだ。

『僕がいなければ、人類は道を失う!』

「違う!」

最後のフィンファングがエクシアの背後へ回り込む。

正面にはリ・ニューガンダム。

完全な挟撃。

刹那の身体に一瞬だけ強い緊張が走った。

判断を間違えれば。

終わる。

死ぬ。

怖くないわけではない。

その感情を自覚した瞬間。

逆に。

頭が澄んだ。

帰る。

ここで終わらない。

最後のフィンファングが砲口を向ける。

刹那は逃げず。

リ・ニューガンダムへ向かった。

フィンファングの射線が。

リ・ニュー自身へ重なる。

リボンズが気づく。

『なっ――』

射撃が止まる。

ほんの一瞬。

刹那はその隙を逃さなかった。

GNソードが閃く。

最後のフィンファングが真っ二つになる。

六基。

全てを失った。

     ◆

リボンズが息を呑んだ。

背中の片側に並んでいた六基のフィンファングは、一基も残っていない。

それでも。

リ・ニューガンダムは止まらなかった。

『まだだ!』

サーベルを構え、正面から突っ込んでくる。

エクシアも迎え撃つ。

TRANS-AMの残り時間は僅か。

左肩は損傷。

脚部にも警告。

刹那の身体も疲労で重い。

それでも。

今は。

戦うほどにリボンズが分かる。

怒り。

焦り。

恐れ。

そして。

その奥にあるもの。

「リボンズ!」

『何だ!』

「お前は、人類を導きたいんじゃない!」

リ・ニューの動きが僅かに鈍る。

「人類に必要とされたいんだ!」

『……!』

リボンズの脳量子波が大きく乱れた。

『知ったようなことを……!』

リ・ニューが斬り込む。

刹那が受ける。

激突。

もう一度。

互いの機体が接触するほど近い距離で、刃が何度も交わる。

リボンズの余裕は完全に消えていた。

『僕は人間とは違う!』

「違わない!」

刹那は短く返す。

『僕には人類を導く力がある!』

「だから上に立つのか!」

『僕にはその資格がある!』

「誰が決めた!」

リボンズの表情が止まる。

刹那は。

その一瞬。

踏み込んだ。

最後の激突。

ビームサーベル。

GNソード。

二本の刃が交差する。

エクシアとリ・ニューガンダムが。

背中合わせになった。

数秒遅れて。

リ・ニューガンダムの右腕が、サーベルごと宙へ飛んだ。

     ◆

エクシアが振り返る。

GNソードの切先が、リ・ニューガンダムのコックピットへ向けられる。

刹那の呼吸は荒い。

肩が上下し、操縦桿を握る手にも僅かな震えが残っていた。

勝った。

その事実より先に。

生きている。

その感覚が来た。

外へ戻れる。

仲間のところへ。

張り詰めていたものが僅かに緩む。

リボンズの声が届いた。

『……撃たないのか』

刹那はGNソードを向けたまま答える。

「必要がない」

『僕は君を殺そうとした』

「知っている」

『僕を生かせば、また君たちの敵になるかもしれない』

「それはお前が決めることだ」

リボンズは言葉を失った。

刹那は一度。

ゆっくり呼吸を整える。

「俺は、お前の上に立つために戦ったんじゃない」

『……』

「お前を倒して、人類を導くつもりもない」

リボンズは傷だらけのエクシアを見ていた。

TRANS-AMは終わっている。

青白い《アニマ》も薄れている。

それでも。

刹那は勝った。

そして。

自分の位置へ上がってこようとはしない。

『なら、誰が導くんだ』

先ほどまでとは違う。

静かな問いだった。

刹那は答える。

「人は、自分で変わる」

『そんなものを信じるのか』

「ああ」

『人は間違える』

「俺も間違えた」

『争う』

「俺も戦ってきた」

『それでも?』

「それでもだ」

刹那はGNソードを少し下げた。

「一人が全部決めるよりいい」

リボンズは黙っている。

「俺も人類を導かない。お前にも導かせない」

『……』

「でも、お前が人類の中にいることまで否定するつもりはない」

リボンズの瞳がゆっくりと見開かれた。

刹那は続ける。

「お前も俺も、特別だから人の上に立つんじゃない」

一度だけ息を整える。

「変われるなら、同じ人間だ」

リボンズは何も言わなかった。

以前。

普通の人間と変わらない。

刹那にそう言われた時。

侮辱だと思った。

自分を、人間と同じ場所まで引きずり下ろされたと感じた。

だが。

今は違って聞こえる。

刹那は自分を見下していない。

勝者として敗者を許しているわけでもない。

同じ場所へ。

立てと言っている。

人類を導く存在ではなく。

その中の一人として。

リボンズの手が。

ゆっくりと操縦桿から離れた。

リ・ニューガンダムから力が抜ける。

『……僕は』

短く息を吐く。

『君に勝てなかった』

刹那は黙って聞いている。

『機体でも』

一度。

間が空く。

『考え方でも』

そして。

リボンズは初めて。

自分から認めた。

『……僕の負けだ、刹那・F・セイエイ』

刹那は目を閉じた。

ほんの一瞬だけ。

全身から力が抜ける。

だが。

まだ終わっていない。

外では戦闘が続いている。

目を開く。

「リボンズ」

『何だい』

「帰るぞ」

リボンズが僅かに目を見開く。

『……どこへ?』

「プトレマイオスだ」

『僕を連れていくつもりか?』

「ああ」

『僕は君たちの敵だった』

「知っている」

『ヴェーダを奪った』

「ああ」

『君を殺そうとした』

「それも知っている」

刹那は一拍置く。

「話は帰ってからすればいい」

リボンズはしばらく黙った。

やがて。

小さく笑う。

これまでの。

人を見下すような笑みではない。

自嘲に近く。

どこか力の抜けたものだった。

『君という人間は……本当に分からないな』

「俺も、お前のことは分からない」

『そうか』

「ああ」

その時。

採掘基地全体が大きく揺れた。

外では。

まだ戦いが続いている。

アレハンドロ・コーナー。

アルヴァトーレ。

そして多数のGN-X。

刹那の表情が再び引き締まる。

「行くぞ」

エクシアが出口へ機体を向ける。

片腕を失い、六基のフィンファング全てを失ったリ・ニューガンダムも、少し遅れてその後を追った。

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