機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

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第39話 黄金の終焉

第39話 黄金の終焉

西暦2308年――廃棄資源採掘基地周辺宙域

採掘基地の外では、まだ戦闘が続いていた。

プトレマイオスを囲むGN-Xの数は多い。最初の包囲こそ崩したものの、後方から新たな部隊が加わり、戦線そのものは簡単には終わらなかった。

その中心で、黄金の巨体が圧倒的な存在感を放っている。

アルヴァトーレ。

ヨハンのスローネアインが遠距離から射撃を続け、ミハエルのツヴァイが死角を狙って接近する。その二機を援護するようにネーナのドライが位置を変え、周囲から近づくGN-Xを牽制していた。

「正面装甲への攻撃は効果が薄い。ミハエル、無理に切り込むな」

『分かってる! けど、こいつ硬すぎんだろ!』

ツヴァイのビームサーベルがアルヴァトーレの装甲を掠める。

しかし浅い。

直後、巨大なアームが振るわれた。

「ミハエル!」

『見えてる!』

ツヴァイが急上昇する。

その直下を巨大な腕が通過し、後方にいたGN-X一機を巻き込んで吹き飛ばした。

ネーナが思わず声を上げる。

『また味方巻き込んだ!』

アルヴァトーレからアレハンドロの声が響く。

『役に立たない兵士など知ったことか! 君たちさえ消せればそれでいい!』

ヨハンの表情が僅かに険しくなった。

「自軍の兵士だぞ」

『必要な犠牲だ。世界を変えるためには、取捨選択というものが必要なのだよ』

『うわ』

ネーナが露骨に嫌そうな声を出した。

『なんかこの人、思ってたより嫌い』

『今さらかよ』

ミハエルが返す。

『俺は最初から気に入らねえぞ』

ヨハンだけは冷静だった。

「会話に付き合う必要はない。機体だけを見ろ」

『はいはい』

『了解』

三機が再び散る。

その周囲では、ロックオンたちもGN-X部隊との戦闘を続けていた。

デュナメスの射撃が一機のライフルを撃ち抜く。別方向ではキュリオスが複数機を引きつけながら高速で飛び回り、ヴァーチェはプトレマイオスへ向かう敵だけを選んで砲撃している。

まだ三人とも《オーバーライズ》には届いていない。

それでも、訓練の成果は既に戦闘へ現れ始めていた。

ロックオンはデュナメスの右腕。

アレルヤはキュリオスの脚部。

ティエリアはヴァーチェの胴体を中心に。

必要な瞬間だけ《アニマ》を流し、機体の反応を僅かに引き上げる。

完全ではない。

だが、以前とは違う。

『こいつら、また数が増えてないか?』

ロックオンが二機目を牽制しながらぼやく。

レイナスのGN-Xがその横を抜け、接近してきた敵機のサーベルを受け流した。

『多分増えてるな。だからって今から点呼を取るわけにもいかないだろ』

『そりゃそうだがよ!』

『目の前の分だけ見とけ。全部まとめて相手にしようとすると、数に付き合わされる』

レイナスは敵の腕を蹴り上げ、武器を弾き飛ばす。そのまま撃墜までは狙わず、次にプトレマイオスへ向かおうとする機体へ進路を変えた。

アーミアのアストレアも、トリニティへ向かおうとするGN-Xを押さえている。

「先生、右から三機」

『見えてる。二機こっちで取る』

「じゃあ残りは私が」

『頼む』

二人が別方向へ分かれる。

ネーナが一瞬だけアーミアの方を見た。

だが。

すぐにアルヴァトーレへ視線を戻す。

今は。

自分たちの相手がいる。

     ◆

「兄貴、このままじゃ埒が明かねえ!」

ミハエルが苛立った声を上げた。

アルヴァトーレは確実に損傷している。

それでも、まだ動きが鈍るほどではない。

火力。

装甲。

機体そのものの巨大さ。

正面から削り合えば、こちらが先に持たない。

ヨハンは敵の動きを追う。

「砲撃の直前、正面の防御が薄くなる」

『ならそこを狙う?』

ネーナが聞く。

「ああ。ただし一度で決める」

『俺が前に出る』

ミハエルが即座に言った。

「囮になるつもりか?」

『近い方が狙うだろ、あいつ』

ヨハンは少し考えた。

「無茶はするな」

『兄貴、それ今さらだろ』

ミハエルが笑う。

「ネーナ」

『分かってる。ミハ兄の援護でしょ』

「違う」

ネーナが一瞬黙る。

「お前が隙を作る」

『私が?』

「ドライなら広い範囲を見られる。アルヴァトーレの砲門と周囲のGN-X、両方を見ろ。ミハエルが入れる道を作ってくれ」

ネーナの表情が変わった。

任されている。

ただ後ろから援護するのではない。

二人を繋ぐ役目を。

「……分かった」

声から軽さが消える。

「やる」

ヨハンが頷いた。

「行くぞ」

     ◆

ツヴァイが加速した。

真正面からアルヴァトーレへ向かう。

アレハンドロが笑う。

『自分から死にに来たか!』

複数の砲門がツヴァイへ向く。

ネーナはそれを見ていた。

どの砲門が先に光るのか。

どのGN-Xがミハエルの進路を塞ぐのか。

「右!」

『分かった!』

ツヴァイが急旋回する。

直後、巨大なビームがその場所を貫いた。

左からGN-X二機。

ドライが射撃し、一機が回避、もう一機が進路を変える。

「そのまま!」

『言われなくても!』

ミハエルが笑い、さらに接近する。

アルヴァトーレが再び砲口を向けた。

今度はヨハンも動く。

アインの大型GNランチャーが光る。

「今だ!」

高出力射撃。

アルヴァトーレが防御を正面へ集中させる。

その瞬間、ミハエルが機体の下へ潜った。

『もらった!』

ツヴァイのサーベルがアルヴァトーレ下部の装甲を深く切り裂いた。

爆発。

黄金の巨体が大きく揺れる。

『何っ!?』

初めて、アレハンドロの声から余裕が消えた。

「効いてる! ミハ兄、離れて!」

『分かってる!』

ツヴァイが離脱する。

その直後、アルヴァトーレの巨大な腕が振り抜かれた。

紙一重でツヴァイの装甲を掠める。

『危ねえ……!』

「だから無茶しないでって言ってるでしょ!」

『当たってねえんだから問題ない!』

「当たってからじゃ遅いの!」

「二人とも、次に集中しろ!」

ヨハンの一喝で、二人は即座にアルヴァトーレへ視線を戻した。

『了解!』

「分かった!」

三人の動きは途切れない。

一度開いた傷口を、今度こそ逃すつもりはなかった。

     ◆

アルヴァトーレ内部。

複数の警告表示が赤く染まっていた。

アレハンドロは苛立たしげにコンソールを叩く。

「忌々しい……!」

計画通りなら。

ソレスタルビーイングはとうに崩壊していた。

ガンダムは力を失い。

トリニティも消え。

世界は自分の手で統合されるはずだった。

なのに。

何もかもが違う。

リボンズが言っていた。

アーミア・リー。

未来を知る女。

あの女が。

全てを狂わせた。

「たかが一人の女のせいで……!」

通信が入る。

アレハンドロは顔を上げた。

リボンズ。

「リボンズ! 今まで何をしていた!」

返事まで。

少し間があった。

『アレハンドロ』

その声は。

妙に落ち着いていた。

アレハンドロの眉が寄る。

「刹那・F・セイエイはどうした?」

『僕が負けた』

数秒。

意味が理解できなかった。

「……何?」

『刹那との勝負は終わった。僕の負けだ』

アレハンドロの顔が歪む。

「何を言っている……?」

『そのままの意味だよ』

「馬鹿な!」

拳をコンソールへ叩きつける。

「お前はイノベイドだろう! ヴェーダを掌握した! 私たちが世界を変えるのだ! 今さら負けたなどと――!」

『僕は降りる』

その言葉で。

アレハンドロの表情が完全に変わった。

「……裏切るのか?」

『そういう言い方になるのかな』

「私をここまで連れてきておいて!」

声が荒れる。

「計画を進めたのはお前だ! ヴェーダを奪えと言ったのも、ガンダムを排除しろと言ったのも! それを今さら、自分だけ負けを認めて終わりだと!?」

リボンズは黙って聞いている。

『アレハンドロ。もうやめた方がいい』

「黙れ!」

アルヴァトーレの巨体がさらに動く。

「私がここで勝てばいい! ガンダムを全て消せば、世界は私を認める!」

『……そうか』

リボンズの声から。

わずかな感情が消えた。

『僕も少し前まで、似たようなことを言っていた気がするな』

「私とお前を一緒にするな!」

『今なら、刹那が何を言いたかったのか少し分かる』

「黙れと言っている!」

アレハンドロは通信を切った。

呼吸が荒い。

敗北。

そんなものは認めない。

リボンズが負けた。

だから何だ。

自分が勝てばいい。

自分こそが。

世界を変える。

そのために。

ここまで来た。

     ◆

採掘基地の搬入口から。

二つのGN粒子反応が現れた。

フェルトが即座に確認する。

「基地内部から二機出てきます!」

スメラギが画面を見る。

一機は。

傷ついたエクシア。

「刹那!」

もう一機。

赤と白。

右腕を失い。

背部の大型フィンファングも全てなくなっている。

リ・ニューガンダム。

ブリッジの空気が変わった。

ロックオンから通信が入る。

『おい、刹那! そいつまで一緒なのか!?』

『ああ』

返ってきた刹那の声は疲れていた。

それでも。

はっきりしている。

『リボンズは降りた』

『……何?』

ティエリアの声だった。

リボンズ本人が通信へ入る。

『君がティエリア・アーデか』

『リボンズ・アルマーク……!』

ティエリアの声には明確な警戒が混じった。

直接顔を合わせたことはない。

だが、アーミアから未来を聞いた時から、その名前も立場も知っている。

リボンズもまた、ヴェーダを通してティエリアの存在を把握していた。

『話をする機会は後であるだろう。今はアレハンドロが残っている』

スメラギもすぐに切り替えた。

『その通りね。刹那は機体の状態を見ながらプトレマイオスまで下がって。リボンズもこちらへ。妙な動きをしたら撃つわ』

『当然の対応だと思う』

レイナスがGN-Xで一機を押し返しながら、二機の方を見る。

『……ずいぶん派手にやったな、刹那』

『ああ』

『勝ったのか』

短い問い。

刹那は一拍置く。

『勝った』

レイナスの口元が僅かに上がった。

『なら十分だ。後はこっちで片付ける』

刹那は外の戦場を見る。

アルヴァトーレ。

そして。

その周囲を飛ぶ三機のスローネ。

『トリニティがやる』

レイナスが答える。

『みたいだな』

二人とも。

そこへ割り込むつもりはなかった。

     ◆

アルヴァトーレは。

明らかに動きが荒くなっていた。

先ほどまでのような計算された砲撃ではない。

巨大な火力を。

ただ振り回している。

『なぜだ!』

アレハンドロの声が全域通信へ流れる。

『なぜ私の計画が崩れる! 私は世界を統合した! 人類を一つにしたのは私だ!』

ネーナが顔をしかめる。

「何言ってるの、この人」

ミハエルが笑う。

『追い詰められておかしくなったんじゃねえか?』

ヨハンはアルヴァトーレだけを見ている。

「油断するな。追い詰められた相手ほど何をするか分からない」

『ソレスタルビーイングなど、私がいなくても消える運命だった! トリニティ! お前たちも本来ならとうに役目を終えていたはずだ!』

三人の表情が変わる。

未来を聞いた今。

その言葉の意味は分かる。

自分たちは。

使い捨てられる予定だった。

だが。

ヨハンは静かだった。

「それがどうした」

アレハンドロが一瞬黙る。

「俺たちは今、生きている」

ミハエルが笑う。

『そういうことだ。悪いな。予定が狂って』

ネーナは。

以前なら。

もっと感情的に返していたかもしれない。

今は。

違った。

「私たちは、あんたの道具じゃない」

アレハンドロの顔が歪む。

『私が与えた力で戦っておいて!』

「ガンダムはあんたのものじゃない!」

『黙れ!』

アルヴァトーレの砲門が一斉に開く。

ヨハンが叫ぶ。

「散開!」

巨大なビーム。

三機が散る。

その瞬間。

アルヴァトーレの損傷箇所が大きく開いた。

先ほどツヴァイが切り裂いた場所。

ヨハンが見逃さない。

「ミハエル!」

『任せろ!』

ツヴァイが一直線に飛び込む。

今度は。

ネーナも同時に動いた。

ドライの射撃が、ツヴァイへ向かおうとしたGN-Xを牽制する。

「行って!」

『おう!』

ミハエルが叫ぶ。

ツヴァイのサーベルが。

損傷部分へ深く突き刺さった。

『こんな……!』

アレハンドロの声。

「離れろ、ミハエル!」

ヨハンの指示。

ツヴァイがサーベルを抜いて後退する。

そして。

アインの砲口が。

その傷口へ向いた。

「終わりだ、アレハンドロ・コーナー」

高出力のGNビーム。

直撃。

黄金の装甲が。

内側から爆発する。

     ◆

巨大な爆発。

アルヴァトーレの外装が崩れる。

だが。

その中から。

さらに一つの反応が飛び出した。

『まだだ!』

金色のモビルスーツ。

アルヴァアロン。

満身創痍ではある。

それでも。

動いている。

ミハエルが呆れた声を上げる。

『まだ出てくんのかよ!』

アレハンドロは完全に余裕を失っていた。

『私は終わらない! 私はコーナー家の悲願を達成する! イオリアの亡霊に奪われた計画を取り戻したのは私だ!』

アルヴァアロンが射撃する。

三機が散開。

『私こそが世界を導く! 私こそが――!』

「もういい」

ネーナの声だった。

アレハンドロが止まる。

「さっきから、自分のことばっかり」

『何だと……!』

「世界とか、人類とか言ってるけど」

ドライが前へ出る。

ネーナの目には。

恐怖はなかった。

「結局、自分が偉くなりたいだけじゃん」

アレハンドロの顔が。

怒りで歪む。

『小娘があああっ!』

アルヴァアロンがドライへ向かって突進した。

「ネーナ!」

ヨハンの声。

だが。

ネーナは逃げない。

「来ると思った」

ドライが横へ滑る。

その瞬間。

アレハンドロの視界から。

ネーナが消える。

代わりに。

正面へ。

ツヴァイ。

『兄貴!』

「撃て!」

アイン。

ツヴァイ。

ドライ。

三機。

同時。

アインのビーム。

ツヴァイのサーベル。

ドライの射撃。

三方向から。

黄金の機体へ突き刺さる。

『私が――!』

アルヴァアロンの装甲が砕ける。

『私こそが――世界を――!』

ネーナが。

最後に言った。

「知らない」

爆発。

金色の機体が。

光の中へ消えた。

     ◆

戦場に。

一瞬。

静寂が訪れた。

アルヴァトーレ。

アルヴァアロン。

二つの反応が消失する。

ヨハンは爆発の光を見つめたまま、しばらく何も言わなかった。

ミハエルが先に息を吐く。

『……終わったか』

ネーナも。

動かない。

自分たちを。

本来なら使い捨てようとしていた男。

その男を。

三人で倒した。

ヨハンが静かに言う。

「まだだ」

『兄貴?』

「周囲のGN-Xが残っている」

ミハエルが一瞬黙り。

笑った。

『やっぱ兄貴だわ』

ネーナも小さく笑う。

「じゃあ帰るのは、その後だね」

三機が。

再び並ぶ。

アイン。

ツヴァイ。

ドライ。

誰一人欠けていない。

そこへ。

アーミアから通信が入った。

『ネーナ』

「アーミア!」

思った以上に。

明るい声が出た。

『無事ですね?』

「うん!」

『ヨハンさんとミハエルさんも?』

『問題ない』

『ピンピンしてるぜ』

アーミアが小さく息を吐く。

『よかったです』

ネーナは。

少しだけ笑った。

「帰ったらさ」

『何です?』

「褒めてね」

一拍。

アーミアも笑う。

『はい』

それだけで。

ネーナは満足した。

その直後。

レイナスの通信が全員へ入る。

『感動してるところ悪いが、残業がまだ残ってる』

ロックオンが即座に返す。

『お前、そういう言い方するから台無しなんだよ』

『俺だって終わったと思いたかったんだけどな。向こうが帰ってくれない』

前方。

残存するGN-X部隊。

指揮の中心だったアレハンドロを失い。

既に動きは乱れている。

スメラギの声が響く。

『全機、残存部隊を押し返す。無理に撃墜する必要はないわ。戦闘意思を失った機体は追わないで』

『了解』

刹那も。

傷ついたエクシアで。

遠くからその光景を見ていた。

三機のスローネ。

生きている。

未来では。

ここにいなかった者たち。

リボンズの声が静かに届いた。

『随分と変わったんだね』

刹那は答える。

「ああ」

『これが、君の言っていた変化か』

刹那は少しだけ考える。

「違う」

『何?』

「あいつらが、自分で変わった」

リボンズは。

何も返さなかった。

ただ。

三機のスローネを。

静かに見ていた。

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