機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

40 / 56
第40話 変わった結末

 

西暦2308年――廃棄資源採掘基地周辺宙域

アルヴァアロンの爆発が消えていく。

黄金の光が闇へ溶けていく中、残されたGN-X部隊の動きにも明らかな変化が生じていた。攻撃は続いているが、先ほどまでのような統制はない。

前へ出る機体。

距離を取る機体。

プトレマイオスを狙おうとする機体。

その場で判断を迷う機体。

一つの部隊として動いていたはずのGN-Xが、急速にまとまりを失っていく。

フェルトが戦況を確認する。

「敵部隊の一部が後退を始めています」

スメラギはすぐに答えた。

「追わないで。離脱する機体には手を出さない」

『了解』

ロックオンが返す。

デュナメスのライフルは構えたままだが、撤退へ移ったGN-Xには撃たない。別方向ではキュリオスが接近してきた一機を牽制し、進路を変えさせる。

ヴァーチェも砲撃を止めた。

ティエリアが周囲を確認する。

『戦闘を継続する機体だけを排除する』

「それでいいわ」

スメラギは戦術モニターを見つめる。

アレハンドロは死亡。

リボンズは敗北を認めた。

この戦場を動かしていた二人が消えた今、戦闘を続ける理由そのものが急速に失われている。

それでも数機が前へ出た。

レイナスのGN-Xが、そのうちの一機と正面からぶつかる。敵のビームサーベルを受け流し、手首を蹴り上げて武器だけを弾き飛ばした。

『もう終わってる。まだやるなら付き合うが、今から続けても得する奴はいないだろ』

返答はない。

だが、武器を失ったGN-Xは数秒停止した後、ゆっくりと距離を取った。

レイナスも追わない。

別方向では、アーミアのアストレアが一機を牽制していた。

「もう戦う必要はありません」

相手の銃口は向いたまま。

アーミアも武器を下ろさない。

数秒。

長い沈黙。

やがてGN-Xのライフルが下がった。

その機体も反転する。

一機。

また一機。

戦場から離れていく。

やがて、こちらへ銃口を向けるGN-Xはいなくなった。

     ◆

「……戦闘終了」

フェルトが静かに告げた。

誰もすぐには反応しなかった。

本当に終わったのか。

まだどこかに伏兵がいるのではないか。

そんな緊張が、全員の身体に残っている。

スメラギも数秒待った。

周辺反応。

敵性機なし。

接近反応なし。

そこでようやく息を吐く。

「全機、帰投して」

少しだけ声が柔らかくなる。

「終わりよ」

その一言で、張り詰めていたものが一気に緩んだ。

『……終わったかぁ』

ロックオンの声。

『長かったな』

アレルヤも息を吐く。

ティエリアは何も言わなかったが、ヴァーチェの武器を完全に収納した。

三機のスローネも並んでプトレマイオスへ戻っていく。

ネーナは、その途中でアストレアの横へ機体を寄せた。

『アーミア』

「近いです」

『今くらいいいじゃん』

「ぶつけないでくださいね」

『ぶつけないって』

いつもの調子。

それを聞くだけで、アーミアは少し安心した。

三人ともいる。

ヨハン。

ミハエル。

ネーナ。

誰一人欠けていない。

彼女の知っていた歴史とは、もう違う。

     ◆

最後に帰投したのは、エクシアとリ・ニューガンダムだった。

プトレマイオスの格納庫に、赤と白の機体がゆっくりと入ってくる。

整備班の空気が変わった。

右腕を失い、六基のフィンファングを全て失ったリ・ニューガンダム。それでも敵の中心にいた人物の専用機であることに変わりはない。

イアンは機体を見上げながら、すぐに整備員へ指示する。

「武装系は全部落とせ。動力まで止める必要はないが、勝手に出られん状態にはしておけ」

リボンズから通信が入る。

『好きにするといい。今の状態で武装六基も失った機体で逃げるほど、僕も見苦しくはない』

イアンが眉を寄せる。

「十分見苦しいことをしてきた奴が言う台詞か?」

『それは否定しないよ』

言い方にはまだ余裕があった。

降伏したからといって。

性格まで変わったわけではない。

その隣では、エクシアも固定される。

コックピットが開き、刹那が外へ出た。

足を床へ着けた瞬間、僅かに身体が揺れる。

「刹那!」

フェルトが先に気づく。

ロックオンも歩いてくる。

「おい、大丈夫か?」

「問題ない」

そう答えた直後。

また少し身体が傾いた。

ロックオンが肩を掴む。

「説得力ねえぞ」

「……少し疲れただけだ」

「少しでそんな顔になるかよ」

刹那は反論しなかった。

TRANS-AM。

《オーバーライズ》。

さらに真のイノベイターとして脳量子波を使い続けた。

身体への負担がないわけではない。

アーミアも近づく。

「医務室へ行ってください」

「先に――」

「先にはありません」

即答だった。

刹那が止まる。

「でも」

「リボンズのことなら逃げません。先生もいます。ティエリアもいます。スメラギさんもいます」

レイナスが少し離れたところから口を挟む。

「今回は素直に行っとけ。勝った直後に倒れたら、格好つかないだろ」

刹那が見る。

「格好は関係ない」

「ならもっと簡単だ。行け」

数秒。

刹那は黙った。

そして。

「分かった」

フェルトが僅かに驚く。

ロックオンも笑う。

「最近ほんと聞き分け良くなったな、お前」

「必要だから聞いた」

「はいはい」

刹那はそのまま医務室へ向かった。

     ◆

リ・ニューガンダムのコックピットが開く。

格納庫にいる全員の視線が集まった。

リボンズ・アルマークが、ゆっくりと機体から降りる。

武器は持っていない。

逃げる様子もない。

それでも。

空気は張り詰めていた。

ティエリアが前へ出る。

初めて。

二人が直接向かい合う。

「リボンズ・アルマーク」

リボンズもティエリアを見る。

「君がティエリア・アーデか」

「僕のことを知っているのか」

「ヴェーダを通してね。君が僕を知っているのは、アーミア・リーから聞いたからだろう?」

「そうだ」

ティエリアの表情は固い。

「君はヴェーダを奪った」

「ああ」

「ソレスタルビーイングを自分の都合で利用し、僕たちを排除しようとした」

「概ねその通りだね」

あまりにもあっさり認めるため、ティエリアの眉が僅かに動いた。

「悪びれるつもりはないのか?」

「今ここで殊勝な顔をして謝れば、君は信用するのかい?」

「するわけがない」

「なら無駄だろう?」

ティエリアの目つきがさらに鋭くなる。

「君は……」

「安心してくれ。君に好かれようとは思っていない」

少し離れたところで、ロックオンがいれば間違いなく何か言っていたであろう沈黙が落ちた。

ティエリアは一度息を整える。

「なぜここへ来た」

「刹那に連れてこられた」

「質問の意味を理解しているはずだ」

「もちろん」

リボンズは僅かに肩をすくめた。

「逃げようと思えば、機体を捨てて別の方法を探すこともできた。でも、負けを認めた直後にそれをやれば、さすがに格好がつかない」

「そんな理由で?」

「半分はね」

ティエリアは黙って続きを待つ。

リボンズも少しだけ表情を落ち着かせた。

「もう半分は、刹那の言葉を確かめてみたくなった」

「刹那の?」

「人は自分で変わる、と」

その言葉を口にしてから、リボンズは僅かに苦笑した。

「僕がそれを試す側になるとは思わなかったけどね」

ティエリアはしばらく黙っていた。

許したわけではない。

信用したわけでもない。

だが。

少なくとも。

話す意味すらない相手ではない。

「スメラギ・李・ノリエガが君の扱いを決める」

「そうしてくれ」

「ヴェーダへの接続も勝手には許さない」

リボンズが僅かに笑う。

「僕が『分かった』と言えば安心するのかい?」

「しない」

「なら、その警戒を続けるといい。僕もその方が分かりやすい」

最後まで。

素直にはならない。

ティエリアはその態度に苛立ちながらも、リボンズから目を逸らさなかった。

     ◆

「……で」

スメラギが腕を組んでいた。

その前にはリボンズ。

左右にはティエリアとレイナス。

少し後ろにアーミア。

ヨハンたちトリニティも格納庫から移動してきている。

正式な話は後に回す。

今は最低限の確認だけ。

「あなたを信用したわけじゃない」

「それはさっきティエリアにも言われた」

「当然でしょう」

「君たちはよく意見が合う」

ティエリアの眉が動く。

スメラギは無視した。

「ヴェーダへのアクセスは禁止。プトレマイオスのシステムにも触れない。移動できる範囲もこちらで決める」

「ずいぶん厳重だね」

「不満?」

「まさか。今の僕を自由に歩かせる方がどうかしている」

「分かってるなら結構」

「ただ、監視役を何人も付けるなら、もう少し面白い相手にしてほしいかな」

ティエリアが即座に言う。

「君に選択権はない」

「そういうところだよ、ティエリア」

「何がだ」

「真面目すぎる」

「君に言われたくない」

その返しに、リボンズが僅かに笑った。

レイナスは二人を見比べる。

「思ったより普通に喋るんだな」

リボンズが視線を向ける。

「君はレイナス・レノアークだね」

「ああ」

「随分と妙な男だと聞いている」

レイナスが少し眉を上げる。

「誰から聞いた」

「さて」

「そこで濁すのか」

「その方が君は気になるだろう?」

「面倒な性格してるな」

「君に言われるのは少し不本意だな」

アーミアが二人を見比べる。

「仲良くなるのは後にしてください」

レイナスが横を見る。

「これが仲良く見えるのか?」

「少なくとも会話は成立してます」

リボンズが小さく笑う。

「僕は嫌いじゃないけどね」

「俺は保留で」

「慎重だね」

「会って五分で評価を決めるほど暇じゃない」

「なるほど」

スメラギが額へ手を当てた。

「あなたたち、話を戻していい?」

「どうぞ」

リボンズの返事だけは妙に素直だった。

スメラギが睨む。

「……その態度、わざとでしょう」

「何のことかな」

敗北は認めた。

だが。

憎まれ口まで捨てるつもりはないらしい。

スメラギは大きく息を吐く。

「詳しい話は全員が落ち着いてから。今日はもう終わり」

そして少し声を強くした。

「これは命令よ。整備班も含めて、交代で休んで」

ロックオンが即座に手を上げる。

「賛成」

「あなたは医務室にも行きなさい」

「俺?」

「さっき被弾したでしょう」

「見てたのか」

「艦長ですもの」

ロックオンが諦めたように肩をすくめる。

「はいはい」

リボンズがそのやり取りを見ている。

「ずいぶん普通なんだね」

スメラギが見る。

「何が?」

「ソレスタルビーイングだよ。もう少し秘密結社らしいものを想像していた」

「あなたが勝手に想像してただけでしょう」

「それもそうだね」

     ◆

プトレマイオス・格納庫

戦闘が終わってから、しばらく後。

アーミアはアストレアの前に立っていた。

損傷はある。

だが、致命的ではない。

整備で戻せる。

少し離れた場所には。

三機のスローネが並んでいる。

アイン。

ツヴァイ。

ドライ。

アーミアは静かにそれを見ていた。

「アーミア」

振り向く。

ネーナだった。

パイロットスーツのまま、こちらへ歩いてくる。

「医務チェックは?」

「終わった」

「本当に?」

「ほんと」

「ミハエルさんは?」

「ミハ兄も終わった。ヨハン兄は整備の人と話してる」

そこまで言って、ネーナはアーミアの前で止まった。

何か言いたそうにしている。

「どうしました?」

「……帰ってきた」

アーミアは一瞬、言葉を失った。

ネーナは自分でも何を言いたいのか、上手く整理できていないらしい。

「三人で」

「はい」

「ちゃんと」

「はい」

ネーナが少し笑う。

「帰ってきた」

今度はアーミアも笑った。

「おかえりなさい」

その言葉を聞いた瞬間。

ネーナが一歩近づいた。

そして、そのままアーミアへ抱きつく。

アーミアは驚いたが、離さなかった。

背中へ手を回す。

「怖かったですか?」

「……ちょっとだけ」

「そうですか」

「でも勝った」

「見てました」

ネーナが顔を上げる。

「褒めてくれるって言った」

「覚えてます」

アーミアは少し考え、ネーナの頭を撫でた。

「よく頑張りました」

ネーナの表情が一気に緩む。

「……へへ」

少し離れたところを通りかかったミハエルが足を止める。

「完全に懐いたな」

ネーナが振り返る。

「うるさい」

「何も悪いこと言ってねえだろ」

その後ろからヨハンも来た。

アーミアが二人を見る。

「二人も無事でよかったです」

ヨハンが頷く。

「ああ」

ミハエルは片手を上げる。

「俺も褒めてくれていいぜ」

「無茶をしたので半分です」

「半分!?」

ネーナが笑う。

「当たり前じゃん」

「お前も結構危なかっただろ!」

「私はちゃんとやったもん」

「俺もちゃんとやった!」

「声が大きいです」

アーミアが言うと、二人とも止まった。

少し間が空き。

ヨハンが口元を僅かに緩める。

     ◆

少し離れた通路から、レイナスもその様子を見ていた。

隣にはスメラギ。

「何?」

スメラギが聞く。

「別に」

「そういう顔じゃないけど」

「三人とも生きて戻ったなと思っただけだ」

スメラギも格納庫を見る。

未来では。

ここにいなかったはずの三人。

そして。

本来なら敵として残るはずだったリボンズ。

何もかも。

変わった。

「あなたはどう思う?」

「何が?」

「ここまで変わったこと」

レイナスは少し考えた。

「今さらじゃないか」

スメラギが横を見る。

「最初からアーミアがいる。その時点で同じ歴史になる方が難しいだろ」

「それはそうだけど」

「なら、変わった後の面倒を見るしかない」

スメラギが苦笑する。

「簡単に言うわね」

「簡単じゃないから、考える人がいるんだろ」

「それ、私に投げてない?」

「適材適所だな」

「やっぱり投げてるじゃない」

レイナスは答えず、格納庫へ視線を戻した。

     ◆

アーミアも。

同じことを考えていた。

知っている歴史では。

この時期。

ソレスタルビーイングは大きな傷を負った。

失った人もいた。

離れた人もいた。

トリニティは、ここにはいなかった。

リボンズも、こうして生きてプトレマイオスへ来ることはなかった。

だが。

今、目の前には。

ヨハンがいる。

ミハエルがいる。

ネーナがいる。

刹那も。

ロックオンも。

アレルヤも。

ティエリアも。

そして。

リボンズまで。

生きている。

未来を知っていたはずなのに。

もう、この先が分からない。

以前なら。

それを怖いと思ったかもしれない。

だが。

今は違った。

ネーナがまだ隣にいる。

アーミアはその頭を軽く撫でる。

「アーミア?」

「何でもありません」

未来は。

もう記録の中にはない。

なら。

ここから先は。

自分たちで作るしかない。

アーミアは並んだガンダムたちを見上げた。

西暦2308年。

彼女が知っていた戦いは。

まったく違う形で終わった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。