機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

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第50話 専用機

 

西暦2308年――プトレマイオス・格納庫

地球圏の監視を続けながら、プトレマイオスでは各機の修理と整備が進められていた。

エクシア、デュナメス、キュリオス、ヴァーチェ。

アストレア。

正式に合流した三機のスローネ。

その中に混じって、レイナスが現在使用している鹵獲GN-Xも固定されている。

レイナスはそのGN-Xの前で腕を組んでいた。

「……」

少し離れた場所ではイアンが端末を確認している。

アーミアもアストレアの整備状況を見に来ていた。

レイナスはGN-Xを見上げ、それから格納庫に並ぶ機体を順番に見る。

しばらくして。

何かに気づいたようにアーミアへ振り返った。

「そういや俺に専用機ってなかったのか?」

アーミアが目を瞬く。

「専用機ですか?」

「未来の俺の話だ」

レイナスは自分のGN-Xを親指で示す。

「さすがにこの先ずっと、拾った機体を乗り継いでたわけじゃないだろ?」

「それは……」

アーミアは少し笑った。

「ありましたよ」

レイナスの反応は早かった。

「あるのか」

「はい」

「どんな機体?」

「急に食いつきましたね」

「専用機の話だからな」

イアンが端末から顔を上げる。

「分かりやすすぎるだろ、お前さん」

「自分専用のMSがあったって聞いて興味持たない方がおかしいだろ」

「それはお前さんの基準だ」

レイナスは気にせずアーミアを見る。

「名前は?」

アーミアは答えた。

「最初は《アステリオン》です」

「最初は?」

レイナスがすぐに引っかかった。

アーミアが少しだけ間を置く。

「その後に《ガンダム・アルティオール》」

レイナスの眉が上がる。

「その後?」

「さらに《アルティオール・ネクスト》があります」

今度は完全に黙った。

数秒。

「……三機?」

「はい」

「全部俺の?」

「先生の専用機です」

レイナスはもう一度確認するように聞く。

「アステリオン」

「はい」

「アルティオール」

「はい」

「アルティオール・ネクスト」

「はい」

少し間が空く。

そして。

レイナスが妙に感心した声を出した。

「俺、結構専用機あるな」

アーミアは即答した。

「先生、よく壊しますから」

「……」

イアンの手が止まった。

レイナスも止まった。

「その言い方だと、俺が雑に扱ってるみたいだろ」

アーミアが首を傾げる。

「違うんですか?」

「戦ってたら機体が壊れることくらいある」

「何回も?」

「……」

「アステリオンがあって」

「分かってる」

「アルティオールがあって」

「もういい」

「その後にネクストまで」

「未来の俺に聞いてくれ」

イアンが深く息を吐いた。

「今から専用機を作る側としては、あまり聞きたくない話だな」

レイナスが振り返る。

「まだ作るって言ってないだろ」

「お前さんの顔がもう作らせる気満々なんだよ」

「そう見えるか?」

「見える」

アーミアも頷いた。

「見えます」

レイナスは否定しなかった。

     ◆

そこへデュナメス側からロックオンが歩いてきた。

「何の話だ?」

レイナスが答える。

「未来の俺には専用ガンダムが三機あったらしい」

ロックオンが一度止まる。

「三機?」

「ああ」

「乗り換えすぎじゃねえか?」

アーミアが横から答えた。

「よく壊しますから」

「おい」

ロックオンが吹き出す。

「なるほどな」

「納得するな」

少し離れたエクシア側から刹那もやってきた。

「専用ガンダム?」

「ああ」

レイナスが少し嬉しそうに答える。

「アステリオン、アルティオール、アルティオール・ネクストだ」

刹那はすぐにアーミアを見る。

「ガンダムなのか」

「全部ガンダムです」

「見たい」

レイナスが刹那を見る。

「お前も食いつくんだな」

「ガンダムだ」

「そうだったな」

そこだけは妙に納得が早かった。

     ◆

イアンがアーミアへ向き直る。

「記録は残っとるのか?」

「未来端末にあります」

「三機とも?」

「確認してみます」

アーミアが2364年から持ってきた個人端末を取り出し、保存記録を検索する。

最初に表示されたのは《アステリオン》。

続いて《ガンダム・アルティオール》。

そして。

《アルティオール・ネクスト》。

レイナスが横から画面を覗く。

刹那も反対側から見る。

ロックオンまで後ろに回った。

アーミアが端末を少し下げる。

「近いです」

三人が少しだけ離れた。

「……ちゃんと三機あるな」

レイナスが呟く。

「だから言ったでしょう」

「いや、疑ってたわけじゃない」

画面を切り替える。

まずアステリオン。

アーミアが言う。

「私の知る歴史では、これがこの時期の先生の専用機です」

レイナスが反応する。

「この時期?」

「はい。2308年です」

「今じゃないか」

「そうなります」

イアンの表情も変わる。

「未来の機体じゃなく、この時代に完成しとった機体なのか」

「私のいた歴史では」

アーミアは念を押した。

レイナスが格納庫を見回す。

当然、そこにアステリオンはいない。

「こっちじゃ作られてない」

「少なくとも、今のところは」

「歴史が変わった影響か」

「可能性はあります」

断定はできない。

すでにアーミアが知る歴史とは多くの部分が違っている。

本来存在した機体が、同じ時期に存在していなくても不思議ではなかった。

     ◆

レイナスは次の記録へ目を向ける。

「こっちがアルティオールか」

「はい」

「いつ頃?」

「アステリオンより後です」

「で、そのさらに後がネクスト」

「そうです」

レイナスは三機の記録を行き来する。

イアンが横から覗き込んだ。

「ちょっと待て。全部詳細データが残っとるのか?」

「そこまではまだ確認していません」

「なら先に全部見るな!」

イアンの声が格納庫へ響いた。

レイナスが振り返る。

「なんで怒るんだ?」

「技術屋の前で未来の完成形を三世代分まとめて見せる奴があるか!」

「参考になるだろ」

「なりすぎるんだ!」

ロックオンが苦笑する。

「難しいもんだな」

イアンは端末を指す。

「仮に詳細な設計情報が残っとったとしても、それをそのまま作るつもりはないぞ」

レイナスが聞く。

「なんで?」

「今と条件が違うからだ!」

イアンは順番に指を立てる。

「技術も違う。使える部品も違う。設備も違う。何より」

レイナスを見る。

「未来のその機体に乗ってたお前さんと、今ここにいるお前さんが同じ条件とは限らん」

アーミアが頷く。

「私もそう思います」

レイナスは少し考える。

「まあ、それはそうか」

「意外と素直だな」

「未来の完成品をそのままコピーするより、今の俺用に作った方が面白そうだろ」

イアンが止まる。

「……結局そこか」

「大事だろ」

     ◆

アーミアはアステリオンの記録を見ながら言う。

「私の知る歴史の先生と、今の先生はもうかなり違います」

「俺自身はそこまで変わってないと思うけどな」

「周囲が違います」

トリニティが生きている。

リボンズが敵ではなくなった。

ヴェーダとの関係も違う。

刹那はこの時点ですでに真のイノベイターへ覚醒している。

「同じ歴史をなぞる必要はありません」

「なら」

レイナスがイアンを見る。

「アステリオンを参考にはする。でも、そのまま作る必要はないってことか」

「そういうことだ」

イアンが頷く。

「未来のアルティオールやネクストも同じだ。答え合わせ用には使える。だが最初からそこへ飛ぶつもりはない」

レイナスは端末を見る。

「なるほどな」

少しだけ。

楽しそうに笑う。

「それならそれでいい」

     ◆

その時。

格納庫入口から声がした。

「随分楽しそうだね」

リボンズだった。

隣にはリジェネもいる。

レイナスが見る。

「今度は何だ?」

「ヴェーダ関連の確認で来たら、専用ガンダムが三機あるとか聞こえてね」

「聞こえてたのか」

「君たちの声が大きいんだよ」

リジェネがアーミアの端末を見る。

「未来の機体?」

アーミアが答える。

「一部はこの時代の機体です。私のいた歴史では」

レイナスが少し得意そうに言う。

「俺の専用機だ」

リボンズがアステリオンの表示を見る。

「まだこの世界には存在していないんだろう?」

「未来じゃ俺のだ」

「君は本当に所有権の主張が早いね」

「専用機なんだからいいだろ」

「壊すらしいけど?」

レイナスがアーミアを見る。

「もう広めたのか?」

「今ここで話しただけです」

リボンズが少し笑う。

「僕にも聞こえたよ」

レイナスが嫌そうな顔をする。

「未来の俺も好きで壊してるわけじゃないだろ」

アーミアが答える。

「たぶん」

「たぶん?」

「先生、結構無茶しますから」

「未来の俺の悪評だけ増えてないか?」

リジェネが楽しそうに口を挟む。

「三機も専用機が必要になるくらいには?」

「その言い方やめろ」

     ◆

リボンズは三機の記録を眺める。

「でも、興味深いね」

イアンが警戒する。

「何を考えとる?」

「何も仕込まないよ」

「まだ聞いとらん」

「君の顔に書いてある」

リボンズは改めてアステリオンを見る。

「《ソレスタルビーイング》号側の技術も使える」

イアンが眉を上げる。

「協力する気か?」

「そのつもりだけど?」

「妙なことをするなよ」

「昨日から何度同じことを言われたかな」

ティエリアがいれば確実にもう一度言うだろう。

レイナスもリボンズを見る。

「変な機能は付けるなよ」

「君まで?」

「俺が乗るんだぞ」

「壊すのに?」

「まだ言うか」

レイナスの顔が少し険しくなる。

「壊れたから次が作られたとは限らないだろ」

アーミアが考える。

「全部が全部そうだったとは言いませんけど」

「ほら」

「壊したこと自体は否定してません」

「……」

ロックオンが肩を震わせる。

     ◆

イアンは未来端末から視線を外し、現在のGN-Xを見る。

「まずは今の機体を調べ直す」

レイナスが聞く。

「GN-Xを?」

「ああ。お前さんが実際にどう使っとるかも含めてな」

次にアステリオン。

アルティオール。

ネクスト。

三つの記録を見る。

「未来の機体から使える考え方だけ拾う」

「それで?」

「現在のガンダムの技術も見る」

「それで?」

「《ソレスタルビーイング》号側の技術も、使えるなら使う」

リボンズが頷く。

「協力するよ」

「勝手に設計へ入るな」

「信用がないな」

「当然だ」

イアンは最後にレイナスを見る。

「その上で、今のお前さん専用の機体を考える」

レイナスが止まった。

「……本当に作るのか?」

「まだ検討だ!」

「今のはほぼ作るって意味だろ」

「急かすな!」

アーミアが笑う。

「先生、嬉しそうですね」

「そりゃな」

レイナスは隠さなかった。

「今まで拾った機体ばっかりだったんだ。専用機って響きくらい楽しませてくれ」

イアンが呆れたように言う。

「作る側としては、その後の三機を見ると不安しかないがな」

「そんなに壊さないって」

アーミアが横から言う。

「未来でも多分そう言ってます」

「お前、未来の俺に厳しくないか?」

「長い付き合いなので」

「反論しづらいな」

     ◆

刹那はもう一度アステリオンの記録を見る。

「レイナス」

「ん?」

「どれに乗りたい?」

レイナスが少し考える。

画面には三機。

アステリオン。

アルティオール。

アルティオール・ネクスト。

未来だけを見れば。

後に続く機体の方が進んでいるのだろう。

だが。

レイナスはアステリオンを指した。

「今ならこれだな」

アーミアが少し意外そうに見る。

「ネクストじゃないんですか?」

「未来の俺がそこまで行く過程を、最初から飛ばすのもつまらないだろ」

イアンが僅かに目を細めた。

レイナスは続ける。

「今の俺が乗る機体なら、今の俺に合わせればいい」

それから。

少し笑う。

「その結果、未来のアステリオンと別物になったって構わない」

アーミアも笑った。

「そうですね」

「ただし」

レイナスがイアンを見る。

「乗ってて面白い機体にしてくれ」

「注文が雑なんだよ!」

「性能だけ高くてもつまらないだろ」

「技術屋に余計な火を付けるな!」

そう言いながら。

イアンの顔も。

少しだけ楽しそうだった。

リボンズがそれを見る。

「結局、君も作る気になっているじゃないか」

「うるさい!」

「僕は何も悪いことを言っていないよ」

格納庫に笑いが広がる。

未来には。

《アステリオン》があった。

その先には。

《ガンダム・アルティオール》。

そして。

《アルティオール・ネクスト》。

だが。

今から生まれる機体が。

同じ道を辿るとは限らない。

未来の記録は答えではない。

ただの参考だ。

レイナスは自分のGN-Xを見上げる。

「悪いな。もう少しだけ付き合ってくれ」

まだ。

新しい機体は影も形もない。

それでも。

その顔は。

戦闘の時とは違う意味で。

かなり楽しそうだった。

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