機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

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第53話 Visitor from Jupiter

 

西暦2308年――プトレマイオス・ブリーフィングルーム

スクリーンには、銀色の木星が映っていた。

その中央に、ゆっくりとタイトルが浮かび上がる。

――劇場版――

【ソレスタルビーイング2

-Visitor from Jupiter-】

部屋は静かだった。

前作《劇場版ソレスタルビーイング》。

そのスピンオフとして制作された《劇場版レイヴン》。

そこまでは、この場にいる多くの人間が内容を知った。

だが、これは違う。

西暦2314年。

実際に起きたELS来訪を題材に、その後制作された映画。

内容を知っているのは、アーミアただ一人だった。

ミライがスクリーンを見たまま尋ねる。

「これが、《レイヴン2》の代わりに作られた作品なんですね?」

「はい」

アーミアが答える。

「当初予定されていた《レイヴン2》を大幅に作り直して、《劇場版ソレスタルビーイング》の正式な続編になっています」

レイナスは椅子へ深く座った。

「予告の時点で俺が銀色の俺と殴り合ってたんだが」

「いましたね」

「レイヴン・バーストも撃ってたな」

「撃ってました」

「嫌な予感しかしない」

クリスティナが笑う。

「もう諦めたら?」

「まだ諦めるには早いだろ」

アーミアは何も言わず、再生ボタンを押した。

     ◇

暗転。

音もない。

最初に映し出されたのは木星だった。

巨大な惑星。

その影から。

一つ。

二つ。

銀色の物体が現れる。

やがて数は増え。

百。

千。

数える意味すらなくなっていく。

静かなナレーション。

『人類は、ついに出会った』

銀色の群れが木星圏を覆う。

『地球の外から訪れた――もう一つの生命と』

画面が切り替わった。

地球連邦軍。

非常警報。

発進する艦艇。

展開するモビルスーツ。

そして。

銀色の物体と接触した一機が。

ゆっくりと。

銀色へ変わっていく。

別の機体。

艦艇。

兵器。

次々と。

ヒリングが小さく息を呑む。

「これが……ELS」

「はい」

アーミアは短く答えた。

映画とはいえ。

その光景には。

覚えがある。

     ◇

地球連邦軍の防衛線。

通信が錯綜する。

『対象増加!』

『第三防衛艦隊後退!』

『接触された機体が制御不能!』

爆発。

崩れる戦列。

その中央を。

一機のガンダムが抜けた。

『前へ出る』

低い声。

マイケル・チャン。

顔の傷。

前作と同じ男。

だが。

以前のような。

ただ勢い任せの英雄ではなかった。

コックピット。

マイケルは僅かに咳き込む。

手袋で口元を押さえ。

手を見る。

微かな血。

それを。

何でもないように拭った。

ジェニファーの声が通信へ入る。

『マイケル』

『聞こえてる』

『また?』

短い沈黙。

『大したことじゃない』

『あなたの「大したことじゃない」は信用してない』

マイケルが少し笑った。

『知ってる』

アレルヤが画面を見る。

クリスティナも。

先ほどまでの笑顔を少し引っ込める。

ミライが小さく尋ねた。

「宇宙粒子病……?」

アーミアが頷く。

「マイケルは前作から患っています」

スクリーン。

マイケルが前を見る。

無数のELS。

『相手が何者かは後で調べればいい』

ガンダムの腕が上がる。

『今は、あそこに取り残された人間を帰す』

粒子。

加速。

『それが俺たちの仕事だ』

ガンダムが。

銀色の群れへ突っ込んだ。

ネーナが少し身を乗り出す。

「前より静かだね」

レイナスが頷く。

「こっちの方が主人公っぽいな」

刹那は何も言わない。

ただ。

マイケルを見ていた。

     ◇

長距離砲撃。

銀色の物体が。

次々と撃ち抜かれる。

狙撃型ガンダム。

ウォーレン。

眼鏡の奥で。

余裕の笑みを浮かべる。

『マイケル』

『何だ』

『少し右へ寄れ』

『理由は?』

ウォーレンがライフルを構える。

『そこにいると』

照準。

『君まで俺に撃ち抜かれる』

発射。

マイケルの機体すれすれを通過したビームが。

その向こうのELSをまとめて貫く。

『先に言え』

『言っただろう?』

ウォーレンは眼鏡を押し上げる。

『少し右へ寄れ、と』

ロックオンが嫌そうな顔をする。

「相変わらずだな」

クリスティナが笑う。

「私は好き」

『宇宙は広い』

ウォーレンが次の標的へ照準を合わせる。

『だが――』

一射。

『俺の射線を外れて飛べるほどじゃない』

ロックオンが額を押さえた。

「撃つたびに一言いるか?」

レイナスが横を見る。

「慣れろ」

「お前は慣れたのか?」

「諦めただけだ」

     ◇

地球近傍。

別の防衛線。

重装型ガンダムが。

大型ELSを真正面から受け止めていた。

『こげん数で押しかけてきよって!』

オルソン。

筋骨隆々。

ティエリアの眉間に。

深い皺が寄る。

『地球は観光地じゃなかぞ!』

巨大な腕で一体を殴り飛ばす。

『勝手に入ってきたら――』

もう一体。

『帰り道くらい教えてやらんばい!!』

砲撃。

爆発。

ネーナが笑う。

「オルソン好き」

ティエリアが即座に返す。

「やめろ」

「なんで?」

「理由はない」

『まだ来るとね!』

オルソンが豪快に笑う。

『よか! まとめて来んしゃい!』

ロックオンが肩を震わせる。

ティエリアは見ないことにした。

     ◇

戦闘後。

艦内医務室。

マイケルは診察台に座っていた。

ジェニファーが。

彼の腕へ薬剤を投与する。

『数値が下がってる』

『いつものことだ』

『いつもだから問題なの』

マイケルは黙る。

ジェニファーは端末を置く。

『進行してる』

『分かってる』

『なら――』

『分かってるよ』

声は荒くない。

マイケルは。

ジェニファーを見る。

『自分の身体のことくらい、俺が一番分かってる』

『だったら休んで』

『それはできない』

ジェニファーの表情が強張る。

『どうして』

『まだ動けるからだ』

『それだけ?』

マイケルが少し考える。

『それだけで十分だろ』

ジェニファーが立ち上がる。

『十分じゃない!』

部屋に。

珍しく。

彼女の声が響いた。

『あなたはいつもそう!』

マイケルは黙って聞く。

『残ってる時間が少ないなら、その全部を戦いに使えばいいみたいな顔をする!』

『そんなつもりはない』

『同じよ!』

ジェニファーの目に。

涙が浮かぶ。

『病気で死ぬのも嫌』

『ああ』

『戦場で死ぬのはもっと嫌』

『分かってる』

『分かってない』

マイケルは。

ゆっくり立った。

ジェニファーの前へ行く。

『分かってる』

静かに。

『だから死ぬ気はない』

ジェニファーが顔を上げる。

『戦えるうちに戦う』

一拍。

『でも、戦場で使い切るつもりもない』

彼女の手を取る。

『帰る』

『……』

『お前にまた怒られるところまで含めて、帰る』

ジェニファーは。

少しだけ。

笑った。

『本当に?』

『ああ』

『約束?』

『約束だ』

クリスティナが。

「……いい」

アレルヤが小さく言う。

「こっちの方がいいね」

ロックオンも頷く。

「前作より大分まともだな」

レイナスが見る。

「映画の話だよな?」

「何の話だと思った?」

     ◇

地球。

ELS接触区域。

軍の保護施設。

一人の少女が。

窓際に座っていた。

短いダークブラウンの髪。

まだ幼さの残る顔。

そして。

右腕。

袖口から。

銀色が覗く。

アーミアが止まった。

「……」

スクリーン。

少女が。

右腕を左手で押さえている。

表示。

《ミア・リー》

クリスティナが。

アーミアを見る。

フェルトも。

ネーナも。

ヒリングも。

そして。

ミライ。

「……何ですか」

アーミアが言う。

ミライが淡々と読み上げる。

「ミア・リー」

「はい」

「短いダークブラウンの髪」

「はい」

「右腕にELS」

「はい」

「人間の肌へ擬態可能」

「……」

ミライがアーミアを見る。

「偶然ですか?」

「映画です」

レイナスが笑う。

「完全にお前だろ」

アーミアが睨む。

「先生は黙っててください」

「俺だけじゃなくなって安心した」

「何にですか」

     ◇

施設。

研究者。

軍人。

医師。

ミアを囲む。

『右腕を切除するべきです』

『ELS側へ情報が送られている可能性がある』

『本人の意思より安全保障を――』

ミアは。

黙っている。

銀色の右腕が。

僅かに震える。

そこへ。

扉が開いた。

黒いコート。

レイヴン。

レイナスが。

「出たな」

スクリーン。

『止まってください!』

警備兵が前へ出る。

レイヴンは止まらない。

『危険です!』

『何がだ』

『その少女です!』

レイヴンが。

ミアを見る。

『少女が一人座ってるだけに見えるが』

『右腕にELSが融合しています!』

レイヴンが。

僅かに目を細める。

『だから?』

軍人が詰まる。

『人間じゃないものが混ざってるから、人間じゃないって言いたいのか』

ミアが。

顔を上げる。

『半分だろうが、一割だろうが』

レイヴンが歩く。

『本人が自分を人間だと言ってるなら――』

ミアの前へ。

『俺はまず、そっちを信じる』

レイナスが。

「……」

クリスティナが横を見る。

「どう?」

「臭い」

「即答」

『それに』

レイヴンが銀色の右腕を見る。

『自分と違うものを見るたびに怯えてたら』

不敵な笑み。

『宇宙なんて狭すぎる』

レイナスが顔を覆う。

「何で一言余計なんだ」

     ◇

レイヴンが。

ミアへ手を伸ばす。

その瞬間。

銀色の右腕が。

すっ。

後ろへ逃げた。

ブリーフィングルーム。

全員が。

現実のレイナスを見る。

次に。

現実のアーミアを見る。

レイナスが言う。

「これは俺たちの方が先か?」

「映画の方が後です」

「じゃあ完全に使われてるな」

スクリーン。

レイヴンが止まる。

『……嫌われたか』

ミアが慌てる。

『違います!』

『そうか?』

『この子が勝手に……』

『この子?』

『右腕のELSです』

レイヴンは。

数秒考える。

そして。

笑った。

『宇宙人に嫌われる程度なら安いもんだ』

ミアが目を瞬く。

『これまで嫌われてきた数に一つ増えるだけだ』

現実のレイナスが眉を上げる。

「そこは妙に現実的だな」

ロックオンが笑う。

「その部分は本人寄りなんじゃねえか?」

「嫌な寄せ方するな」

     ◇

映画の中で。

ミアは。

ELSの存在を感じ取れる少女として描かれていた。

言葉ではない。

感情とも違う。

膨大な。

何か。

それに晒され。

ミアは何度も倒れる。

ある日。

マイケルが。

彼女を見舞う。

『もう無理です』

ミアが言う。

『あれだけの数……』

マイケルは。

椅子へ座った。

『そうか』

ミアが顔を上げる。

怒鳴らない。

励まさない。

ただ。

静かに。

『なら、今日はやめよう』

『……え?』

『無理だと思った時に無理をすると、ろくなことにならない』

ジェニファーが。

廊下の外から。

僅かに笑う。

マイケルが言う。

『俺も経験がある』

ミアが。

彼を見る。

『病気……』

『ああ』

マイケルは。

少しだけ笑った。

『身体ってのは、根性論を聞いてくれない』

レイナスが。

「そこは正しいな」

イアンも頷く。

『でも』

マイケルが続ける。

『明日もできないとは限らない』

ミアは黙る。

『今日、一歩しか進めないなら一歩でいい』

一拍。

『明日また一歩進めばいい』

『でも、それじゃ間に合わなかったら?』

マイケルは。

少し考えた。

『その時は』

彼女を見る。

『俺たちが時間を稼ぐ』

ミアの目が揺れる。

『君が答えを出すまで』

立ち上がる。

『俺たちは戦う』

そして。

少し笑う。

『そういう役割分担でいいだろ』

刹那が。

静かに画面を見ていた。

先ほどまでとは。

少し違う目で。

     ◇

宇宙。

ELSが防衛線を突破する。

ウォーレン。

狙撃。

『残念だ』

一体。

『君たちが宇宙から来たのは認めよう』

二体。

『だが』

眼鏡。

『この先には』

照準。

『俺がいる』

発射。

巨大ELSを撃ち抜く。

ロックオンがため息をついた。

「やっぱこいつは変わらないな」

レイナスが笑う。

「安定してるじゃないか」

『悪いね』

ウォーレンが微笑む。

『女性との約束なら破ることもあるが』

次弾。

『狙撃の約束だけは外さない主義なんだ』

ロックオンが。

「最低だろ」

クリスティナが。

「キザというかクズ寄りになってきた」

「そこまでモデルにするなよ」

     ◇

オルソン。

巨大ELSと格闘戦。

『どげんした!』

拳。

『宇宙から来た割には』

蹴り。

『根性が足りんばい!』

ティエリアが。

「ELSに根性を要求するな」

『まだまだ!』

オルソンが両腕を広げる。

『九州男児はなぁ!』

ティエリアが身構える。

『一回引き受けた仕事は最後までやるったい!!』

爆発。

ティエリアが。

少し黙る。

ロックオンが。

「今のは?」

「……台詞としては悪くない」

ネーナが笑う。

「認めた」

「オルソンを認めたわけではない」

     ◇

戦況は。

悪化する。

マイケルのコックピット。

警告。

心拍。

血中数値。

宇宙粒子病の進行を示す異常。

ジェニファーの声。

『マイケル! 戻って!』

『まだ動く』

『そういう問題じゃない!』

『分かってる』

息が荒い。

だが。

声は。

まだ落ち着いている。

『でも、今俺が抜けたら防衛線が崩れる』

『あなたが倒れたら同じでしょ!』

『だから』

マイケルが。

操縦桿を握る。

『倒れる前に終わらせる』

ジェニファーが。

声を強くする。

『そういうことを言ってるんじゃない!』

マイケルは。

返さない。

数秒。

そして。

『……悪い』

『謝らないで』

『違う』

マイケルの表情が。

僅かに柔らかくなる。

『帰ったら、ちゃんと怒られる』

ジェニファーが止まる。

『だから』

前を見る。

『今は行かせてくれ』

沈黙。

長い。

やがて。

ジェニファーが。

『……絶対に帰ってきて』

『ああ』

『約束したよね』

『覚えてる』

『だったら』

涙。

『守って』

マイケルが。

静かに笑う。

『任せろ』

     ◇

その直後。

ジェニファーの機体が。

ELSに囲まれた。

『ジェニファー!』

マイケルの声が。

初めて。

大きく変わった。

加速。

警告。

身体。

それでも。

止まらない。

『来ないで!』

『無理だ』

『あなたの身体じゃ!』

『関係ない』

『ある!』

マイケルが。

一体を斬る。

二体目。

三体目。

息が切れる。

『マイケル!』

『俺は』

一撃。

『病気だから戦ってるんじゃない』

もう一撃。

『病気だから諦めるつもりもない』

ジェニファーの機体へ手を伸ばす。

『今ここで』

ELSを振り払う。

『お前を助けられるのが俺なら――』

機体同士が。

掴む。

『俺が行く』

ジェニファーが。

泣きながら怒鳴る。

『馬鹿!』

マイケルが。

僅かに笑った。

『知ってる』

『大馬鹿!』

『それも聞いた』

『……好き』

マイケルが。

止まった。

ブリーフィングルームも。

止まった。

クリスティナが口を押さえる。

アレルヤが。

嫌な予感を覚える。

スクリーン。

マイケルが。

一度。

深く息を吐く。

『……それ』

『何』

『帰ってから、もう一回言ってくれ』

『なんで?』

『今聞いたら』

マイケルが。

少し笑う。

『死ねなくなる』

ジェニファーが。

怒る。

『最初から死なないで!!』

マイケルが笑った。

『そうだったな』

レイナスが。

「こっちの方がいいな」

クリスティナも。

「分かる」

アレルヤは。

何も言わなかった。

     ◇

ミア。

右腕。

ELS。

彼女が。

何かに気づく。

『違う……』

マイケルが振り返る。

『何が?』

『この人たち』

ミアの声が震える。

『殺したいんじゃない』

全員が止まる。

『分からないんです』

銀色の右腕。

『私たちが何なのか』

『だから』

涙。

『触れてる』

『同化して』

『知ろうとしてる』

マイケルは。

しばらく。

何も言わなかった。

そして。

『なら』

ミアを見る。

『教えればいい』

『どうやって?』

マイケルが。

静かに答える。

『それを考えるために』

前を見る。

『俺たちはここまで来たんだろ』

ミアが。

少しずつ。

呼吸を整える。

『怖いです』

『俺も怖い』

即答だった。

ミアが見る。

『病気も怖い』

マイケルは続ける。

『死ぬのも怖い』

『ジェニファーを残すのは、もっと怖い』

ジェニファーが。

通信越しに。

黙る。

『でも』

マイケルは。

拳を握る。

『怖いから手を伸ばさないっていうのは』

一拍。

『たぶん、一番後悔する』

ミアが。

右腕を見る。

マイケルが言う。

『怖くていい』

『震えててもいい』

声が。

少しずつ。

強くなる。

『それでも』

そして。

ここで初めて。

あの熱が。

一気に上がる。

『届くかもしれないなら――手を伸ばせ!!』

ミアが顔を上げる。

『届かなかったら俺たちがもう一度道を作る!!』

マイケルの声が響く。

『十回でも百回でもだ!!』

ガンダムが。

前へ出る。

『だから、お前は答えを諦めるな!!』

ネーナが。

「熱い……」

刹那も。

ほんの僅かに。

目を細めた。

     ◇

そこへ。

低い声。

『話は終わったか』

黒いコート。

レイヴン。

レイナスが。

「また美味しいところだけ持っていくな」

スクリーン。

レイヴンがマイケルを見る。

『お前は少女を連れて行け』

『あんたは?』

『道を開ける』

『一人で?』

レイヴンが。

笑う。

『俺を誰だと思ってる』

レイナスが顔を覆う。

「始まった」

『百年』

光。

『戦争を見た』

さらに。

『百年』

拳。

『人間の馬鹿さ加減を見た』

青白い光。

『それでも』

目が光る。

『俺はまだ、人間に飽きてない』

レイナスが。

「臭い」

リボンズが笑う。

「相当だね」

『何度間違えても』

レイヴンが。

ELSの群れを見る。

『何度壊しても』

一歩。

『最後に手を伸ばせるなら』

さらに一歩。

『まだ終わっちゃいない』

現実のレイナスが。

少しだけ黙った。

クリスティナが見る。

「今のは?」

「……少しだけマシ」

「厳しいなあ」

     ◇

巨大なELSが。

レイヴンの姿を模倣する。

銀色の巨人。

黒いレイヴンと。

銀色のレイヴン。

向かい合う。

『俺を真似るか』

銀色の拳。

激突。

『悪くない』

もう一撃。

『だが』

レイヴンが。

拳を押し返す。

『姿を真似ただけで』

青白い光。

『俺が歩いた百年まで真似したつもりになるな!』

レイナスが。

「映画の俺、百年って言葉好きすぎないか?」

ロックオンが。

「設定として便利なんだろ」

スクリーン。

『俺が俺なのは』

一撃。

『力があるからじゃない!』

二撃。

『長く生きたからでもない!』

三撃。

銀色の巨体が。

吹き飛ぶ。

『何度失敗しても!』

レイヴンが追う。

『面倒だと愚痴って!』

さらに。

『嫌になって!』

拳。

『それでも次の日になったらまた立ってる!』

青白い光。

『それが俺だ!!』

レイナスが。

「……そこは妙に俺っぽいな」

アーミアが笑う。

「でしょう?」

「嬉しそうに言うな」

     ◇

最後の道。

ウォーレン。

オルソン。

ジェニファー。

マイケル。

レイヴン。

全員が。

ミアを中心へ送り届けるために。

戦う。

ウォーレン。

最後の長距離射撃。

『ミア』

照準。

『前だけ見ろ』

一射。

道が開く。

『少女が振り返るのは』

眼鏡。

『恋をした時だけでいい』

ロックオンが。

「その台詞いるか?」

クリスティナが笑う。

「ウォーレンだから」

     ◇

オルソン。

巨大ELSを。

真正面から押さえる。

『行かんね!!』

ミアが振り返る。

『でも!』

『振り返る暇があるなら走らんか!』

力。

『若いもんが前に行かんでどうするとね!』

機体が軋む。

『後ろは――』

豪快に笑う。

『ワシら大人に任せんしゃい!!』

ティエリアが。

何も言わなかった。

ネーナが横を見る。

「今の良かった?」

「……台詞だけならな」

     ◇

マイケル。

警告。

身体。

限界。

視界が揺れる。

ジェニファーが叫ぶ。

『マイケル!』

『まだだ』

『もうやめて!』

『まだ動ける』

『だから――!』

『ジェニファー』

静かな声。

彼女が止まる。

『俺は』

呼吸。

『生きて帰る』

一機。

斬る。

『お前との約束も』

二機。

撃つ。

『まだ聞いてない返事も』

三機。

『全部』

身体が。

限界を訴える。

それでも。

『持って帰る』

ジェニファーが。

泣く。

『……絶対よ』

『ああ』

マイケルの声が。

再び。

熱を帯びる。

『だから行け、ミア!!』

ガンダムが。

最後の道を作る。

『俺たちの未来を――』

叫ぶ。

『宇宙の向こうまで届けてこい!!』

     ◇

最後。

レイヴン。

一人。

無数のELS。

『レイヴン!』

マイケルの通信。

『もういい! 戻れ!』

レイヴンは。

振り返らない。

『まだ道が狭い』

『十分だ!』

『若い奴らが未来へ行くんだ』

拳。

『なら古い男は』

青白い光。

『邪魔な石くらい退けておく』

レイナスが。

「言い方だけなら悪くないのに」

『宇宙よ――』

「やっぱり始まった」

スクリーン。

レイヴンが。

両腕を広げる。

『よく見ておけ』

光。

『これが』

さらに。

『百年生きても懲りずに前へ進む――』

最大。

『人間って生き物だ!!』

ミライが。

完全に見入る。

『超絶究極――!!』

アーミアが。

懐かしそうに笑う。

『レイヴン・バーストォォォォォッ!!』

宇宙が。

青白く染まる。

ネーナが。

「出たぁぁぁ!」

ヒリング。

「レイヴン・バースト!」

クリスティナ。

「レイヴン・バースト!」

ミライまで。

「超絶究極!」

レイナスが。

「お前らまで覚えるな!!」

     ◇

銀色の世界。

ミア。

巨大な存在。

言葉はない。

ただ。

光。

感情。

記憶。

人類。

戦争。

家族。

喜び。

悲しみ。

マイケル。

ジェニファー。

ウォーレン。

オルソン。

そして。

レイヴン。

ミアが。

涙を流す。

銀色の右手。

人間の左手。

二つを。

重ねる。

『これが……』

静かに。

『私たちです』

光。

宇宙に。

巨大な銀色の花が咲いた。

     ◇

地球。

戦いの後。

医務室。

マイケルは。

ベッドに寝ていた。

ジェニファーが。

隣の椅子に座る。

『……怒ってるか』

『怒ってる』

『そうか』

『ものすごく』

『そうか』

『もう無茶しないって言った』

『言ってない』

ジェニファーが睨む。

『帰るとは言った』

マイケルが。

僅かに笑う。

『だから帰ってきた』

ジェニファーの目に。

涙が浮かぶ。

『ずるい』

『知ってる』

しばらく。

沈黙。

マイケルが。

静かに聞く。

『あの時の続き』

『……何』

『好きだって言った』

ジェニファーが。

赤くなる。

『聞こえてたでしょ』

『聞こえた』

『じゃあ何』

マイケルは。

真面目な顔になる。

『もう一回聞きたい』

ジェニファーは。

しばらく彼を見る。

そして。

笑った。

『好き』

マイケルが。

目を閉じる。

『……そうか』

『それだけ?』

『いや』

目を開ける。

『俺もだ』

ジェニファーが。

少し笑う。

『知ってた』

『なら聞くな』

『あなたが言うのを待ってたの』

マイケルが。

少し困ったように笑う。

ジェニファーが。

彼へ近づく。

キス。

ブリーフィングルーム。

クリスティナが。

「きゃああ!」

ネーナも。

「した!」

ヒリングも。

「やっと!」

アレルヤが。

静かに天井を見た。

ロックオンが肩を叩く。

「頑張れ」

「だから何に?」

     ◇

夕方。

ミア。

銀色の右腕。

レイヴンが隣を歩く。

『怖くないんですか?』

『何が』

『これ』

ミアが。

右腕を見る。

レイヴンも見る。

『右手だろ』

『ELSです』

『それで?』

ミアが。

止まる。

レイヴンは歩き続ける。

『右だろうが左だろうが』

一拍。

『お前の手だ』

ミアが。

目を見開く。

レイヴンは。

夕陽へ向かう。

『それに』

黒いコート。

『知らないものが怖いなら』

振り返る。

『知ればいい』

少し笑う。

『宇宙は広い』

そして。

最後。

『怖がってるだけじゃ――もったいないだろ』

現実のレイナスが。

少し黙った。

アーミアが横を見る。

「今のは?」

「……まあ」

「まあ?」

「臭いけど、まだ許せる」

「評価基準そこなんですね」

     ◇

エンドロール。

壮大な音楽。

【CELESTIAL BEING 2

-Visitor from Jupiter-】

照明は。

まだ戻らない。

最初に口を開いたのは。

クリスティナだった。

「……マイケル、前作よりかなり良くなってない?」

アレルヤも頷く。

「うん」

レイナスが。

「病気の設定をちゃんと使ってたな」

スメラギも。

スクリーンを見る。

「限りがあるから急ぐ。でも、死に急いでるわけじゃない」

「そこは大きいですね」

アーミアが答える。

ミライは。

既に大量の記録を作っていた。

「マイケルの熱血表現も、普段はかなり抑えられています」

ロックオンが笑う。

「その分、終盤だけすげえけどな」

「そこがいいんじゃない?」

クリスティナが言う。

ティエリアは。

別の部分が気になっていた。

「何故オルソンは今回も最後まで九州弁だった」

アーミアが答える。

「人気だったので」

「それは説明になっていない」

ネーナは。

アーミアを見る。

そして。

右腕。

「でもやっぱりミアって」

「違います」

「まだ何も言ってないよ?」

「分かります」

ミライが。

「アーミアさんがモデルである可能性は――」

「計算しなくていいです!」

レイナスが笑う。

「諦めろ。どう見てもお前だ」

アーミアが振り返る。

「先生」

「何だ」

「百年生きても懲りずに前へ進む――」

「やめろ」

「人間って生き物だ!」

「やめろって」

クリスティナが吹き出す。

ミライも笑う。

アーミアは。

スクリーンへ視線を戻した。

銀色の花。

その下。

最後に。

小さな文字。

《――分からないからこそ、知ろうとする者たちへ。》

レイナスは。

少しだけ。

黙ってそれを見る。

クリスティナが横を見る。

「これは?」

「文句ない」

「珍しい」

「レイヴンの台詞じゃないからな」

アーミアが笑った。

映像が。

完全に終わる。

数秒後。

ミライが。

ゆっくり口を開いた。

「もう一回――」

「駄目だ」

レイナスが即答した。

「まだ最後まで言ってません」

「分かる」

「作品分析のために」

「今日は終わりだ」

クリスティナが。

「私はもう一回見てもいいけど」

ネーナ。

「私も!」

ヒリング。

「次は食べ物用意しようよ」

ミライの表情が明るくなる。

「上映環境として正しいです」

レイナスは。

椅子へ深く沈んだ。

「……未来の娯楽って面倒だな」

アーミアが。

未来端末を閉じながら笑った。

「先生」

「今度は何だ」

「まだ映画、ありますよ」

レイナスが。

ゆっくり。

顔を向けた。

「……まだあるのか?」

アーミアは。

答えなかった。

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