西暦2308年――プトレマイオス・ブリーフィングルーム
スクリーンには、銀色の木星が映っていた。
その中央に、ゆっくりとタイトルが浮かび上がる。
――劇場版――
【ソレスタルビーイング2
-Visitor from Jupiter-】
部屋は静かだった。
前作《劇場版ソレスタルビーイング》。
そのスピンオフとして制作された《劇場版レイヴン》。
そこまでは、この場にいる多くの人間が内容を知った。
だが、これは違う。
西暦2314年。
実際に起きたELS来訪を題材に、その後制作された映画。
内容を知っているのは、アーミアただ一人だった。
ミライがスクリーンを見たまま尋ねる。
「これが、《レイヴン2》の代わりに作られた作品なんですね?」
「はい」
アーミアが答える。
「当初予定されていた《レイヴン2》を大幅に作り直して、《劇場版ソレスタルビーイング》の正式な続編になっています」
レイナスは椅子へ深く座った。
「予告の時点で俺が銀色の俺と殴り合ってたんだが」
「いましたね」
「レイヴン・バーストも撃ってたな」
「撃ってました」
「嫌な予感しかしない」
クリスティナが笑う。
「もう諦めたら?」
「まだ諦めるには早いだろ」
アーミアは何も言わず、再生ボタンを押した。
◇
暗転。
音もない。
最初に映し出されたのは木星だった。
巨大な惑星。
その影から。
一つ。
二つ。
銀色の物体が現れる。
やがて数は増え。
百。
千。
数える意味すらなくなっていく。
静かなナレーション。
『人類は、ついに出会った』
銀色の群れが木星圏を覆う。
『地球の外から訪れた――もう一つの生命と』
画面が切り替わった。
地球連邦軍。
非常警報。
発進する艦艇。
展開するモビルスーツ。
そして。
銀色の物体と接触した一機が。
ゆっくりと。
銀色へ変わっていく。
別の機体。
艦艇。
兵器。
次々と。
ヒリングが小さく息を呑む。
「これが……ELS」
「はい」
アーミアは短く答えた。
映画とはいえ。
その光景には。
覚えがある。
◇
地球連邦軍の防衛線。
通信が錯綜する。
『対象増加!』
『第三防衛艦隊後退!』
『接触された機体が制御不能!』
爆発。
崩れる戦列。
その中央を。
一機のガンダムが抜けた。
『前へ出る』
低い声。
マイケル・チャン。
顔の傷。
前作と同じ男。
だが。
以前のような。
ただ勢い任せの英雄ではなかった。
コックピット。
マイケルは僅かに咳き込む。
手袋で口元を押さえ。
手を見る。
微かな血。
それを。
何でもないように拭った。
ジェニファーの声が通信へ入る。
『マイケル』
『聞こえてる』
『また?』
短い沈黙。
『大したことじゃない』
『あなたの「大したことじゃない」は信用してない』
マイケルが少し笑った。
『知ってる』
アレルヤが画面を見る。
クリスティナも。
先ほどまでの笑顔を少し引っ込める。
ミライが小さく尋ねた。
「宇宙粒子病……?」
アーミアが頷く。
「マイケルは前作から患っています」
スクリーン。
マイケルが前を見る。
無数のELS。
『相手が何者かは後で調べればいい』
ガンダムの腕が上がる。
『今は、あそこに取り残された人間を帰す』
粒子。
加速。
『それが俺たちの仕事だ』
ガンダムが。
銀色の群れへ突っ込んだ。
ネーナが少し身を乗り出す。
「前より静かだね」
レイナスが頷く。
「こっちの方が主人公っぽいな」
刹那は何も言わない。
ただ。
マイケルを見ていた。
◇
長距離砲撃。
銀色の物体が。
次々と撃ち抜かれる。
狙撃型ガンダム。
ウォーレン。
眼鏡の奥で。
余裕の笑みを浮かべる。
『マイケル』
『何だ』
『少し右へ寄れ』
『理由は?』
ウォーレンがライフルを構える。
『そこにいると』
照準。
『君まで俺に撃ち抜かれる』
発射。
マイケルの機体すれすれを通過したビームが。
その向こうのELSをまとめて貫く。
『先に言え』
『言っただろう?』
ウォーレンは眼鏡を押し上げる。
『少し右へ寄れ、と』
ロックオンが嫌そうな顔をする。
「相変わらずだな」
クリスティナが笑う。
「私は好き」
『宇宙は広い』
ウォーレンが次の標的へ照準を合わせる。
『だが――』
一射。
『俺の射線を外れて飛べるほどじゃない』
ロックオンが額を押さえた。
「撃つたびに一言いるか?」
レイナスが横を見る。
「慣れろ」
「お前は慣れたのか?」
「諦めただけだ」
◇
地球近傍。
別の防衛線。
重装型ガンダムが。
大型ELSを真正面から受け止めていた。
『こげん数で押しかけてきよって!』
オルソン。
筋骨隆々。
ティエリアの眉間に。
深い皺が寄る。
『地球は観光地じゃなかぞ!』
巨大な腕で一体を殴り飛ばす。
『勝手に入ってきたら――』
もう一体。
『帰り道くらい教えてやらんばい!!』
砲撃。
爆発。
ネーナが笑う。
「オルソン好き」
ティエリアが即座に返す。
「やめろ」
「なんで?」
「理由はない」
『まだ来るとね!』
オルソンが豪快に笑う。
『よか! まとめて来んしゃい!』
ロックオンが肩を震わせる。
ティエリアは見ないことにした。
◇
戦闘後。
艦内医務室。
マイケルは診察台に座っていた。
ジェニファーが。
彼の腕へ薬剤を投与する。
『数値が下がってる』
『いつものことだ』
『いつもだから問題なの』
マイケルは黙る。
ジェニファーは端末を置く。
『進行してる』
『分かってる』
『なら――』
『分かってるよ』
声は荒くない。
マイケルは。
ジェニファーを見る。
『自分の身体のことくらい、俺が一番分かってる』
『だったら休んで』
『それはできない』
ジェニファーの表情が強張る。
『どうして』
『まだ動けるからだ』
『それだけ?』
マイケルが少し考える。
『それだけで十分だろ』
ジェニファーが立ち上がる。
『十分じゃない!』
部屋に。
珍しく。
彼女の声が響いた。
『あなたはいつもそう!』
マイケルは黙って聞く。
『残ってる時間が少ないなら、その全部を戦いに使えばいいみたいな顔をする!』
『そんなつもりはない』
『同じよ!』
ジェニファーの目に。
涙が浮かぶ。
『病気で死ぬのも嫌』
『ああ』
『戦場で死ぬのはもっと嫌』
『分かってる』
『分かってない』
マイケルは。
ゆっくり立った。
ジェニファーの前へ行く。
『分かってる』
静かに。
『だから死ぬ気はない』
ジェニファーが顔を上げる。
『戦えるうちに戦う』
一拍。
『でも、戦場で使い切るつもりもない』
彼女の手を取る。
『帰る』
『……』
『お前にまた怒られるところまで含めて、帰る』
ジェニファーは。
少しだけ。
笑った。
『本当に?』
『ああ』
『約束?』
『約束だ』
クリスティナが。
「……いい」
アレルヤが小さく言う。
「こっちの方がいいね」
ロックオンも頷く。
「前作より大分まともだな」
レイナスが見る。
「映画の話だよな?」
「何の話だと思った?」
◇
地球。
ELS接触区域。
軍の保護施設。
一人の少女が。
窓際に座っていた。
短いダークブラウンの髪。
まだ幼さの残る顔。
そして。
右腕。
袖口から。
銀色が覗く。
アーミアが止まった。
「……」
スクリーン。
少女が。
右腕を左手で押さえている。
表示。
《ミア・リー》
クリスティナが。
アーミアを見る。
フェルトも。
ネーナも。
ヒリングも。
そして。
ミライ。
「……何ですか」
アーミアが言う。
ミライが淡々と読み上げる。
「ミア・リー」
「はい」
「短いダークブラウンの髪」
「はい」
「右腕にELS」
「はい」
「人間の肌へ擬態可能」
「……」
ミライがアーミアを見る。
「偶然ですか?」
「映画です」
レイナスが笑う。
「完全にお前だろ」
アーミアが睨む。
「先生は黙っててください」
「俺だけじゃなくなって安心した」
「何にですか」
◇
施設。
研究者。
軍人。
医師。
ミアを囲む。
『右腕を切除するべきです』
『ELS側へ情報が送られている可能性がある』
『本人の意思より安全保障を――』
ミアは。
黙っている。
銀色の右腕が。
僅かに震える。
そこへ。
扉が開いた。
黒いコート。
レイヴン。
レイナスが。
「出たな」
スクリーン。
『止まってください!』
警備兵が前へ出る。
レイヴンは止まらない。
『危険です!』
『何がだ』
『その少女です!』
レイヴンが。
ミアを見る。
『少女が一人座ってるだけに見えるが』
『右腕にELSが融合しています!』
レイヴンが。
僅かに目を細める。
『だから?』
軍人が詰まる。
『人間じゃないものが混ざってるから、人間じゃないって言いたいのか』
ミアが。
顔を上げる。
『半分だろうが、一割だろうが』
レイヴンが歩く。
『本人が自分を人間だと言ってるなら――』
ミアの前へ。
『俺はまず、そっちを信じる』
レイナスが。
「……」
クリスティナが横を見る。
「どう?」
「臭い」
「即答」
『それに』
レイヴンが銀色の右腕を見る。
『自分と違うものを見るたびに怯えてたら』
不敵な笑み。
『宇宙なんて狭すぎる』
レイナスが顔を覆う。
「何で一言余計なんだ」
◇
レイヴンが。
ミアへ手を伸ばす。
その瞬間。
銀色の右腕が。
すっ。
後ろへ逃げた。
ブリーフィングルーム。
全員が。
現実のレイナスを見る。
次に。
現実のアーミアを見る。
レイナスが言う。
「これは俺たちの方が先か?」
「映画の方が後です」
「じゃあ完全に使われてるな」
スクリーン。
レイヴンが止まる。
『……嫌われたか』
ミアが慌てる。
『違います!』
『そうか?』
『この子が勝手に……』
『この子?』
『右腕のELSです』
レイヴンは。
数秒考える。
そして。
笑った。
『宇宙人に嫌われる程度なら安いもんだ』
ミアが目を瞬く。
『これまで嫌われてきた数に一つ増えるだけだ』
現実のレイナスが眉を上げる。
「そこは妙に現実的だな」
ロックオンが笑う。
「その部分は本人寄りなんじゃねえか?」
「嫌な寄せ方するな」
◇
映画の中で。
ミアは。
ELSの存在を感じ取れる少女として描かれていた。
言葉ではない。
感情とも違う。
膨大な。
何か。
それに晒され。
ミアは何度も倒れる。
ある日。
マイケルが。
彼女を見舞う。
『もう無理です』
ミアが言う。
『あれだけの数……』
マイケルは。
椅子へ座った。
『そうか』
ミアが顔を上げる。
怒鳴らない。
励まさない。
ただ。
静かに。
『なら、今日はやめよう』
『……え?』
『無理だと思った時に無理をすると、ろくなことにならない』
ジェニファーが。
廊下の外から。
僅かに笑う。
マイケルが言う。
『俺も経験がある』
ミアが。
彼を見る。
『病気……』
『ああ』
マイケルは。
少しだけ笑った。
『身体ってのは、根性論を聞いてくれない』
レイナスが。
「そこは正しいな」
イアンも頷く。
『でも』
マイケルが続ける。
『明日もできないとは限らない』
ミアは黙る。
『今日、一歩しか進めないなら一歩でいい』
一拍。
『明日また一歩進めばいい』
『でも、それじゃ間に合わなかったら?』
マイケルは。
少し考えた。
『その時は』
彼女を見る。
『俺たちが時間を稼ぐ』
ミアの目が揺れる。
『君が答えを出すまで』
立ち上がる。
『俺たちは戦う』
そして。
少し笑う。
『そういう役割分担でいいだろ』
刹那が。
静かに画面を見ていた。
先ほどまでとは。
少し違う目で。
◇
宇宙。
ELSが防衛線を突破する。
ウォーレン。
狙撃。
『残念だ』
一体。
『君たちが宇宙から来たのは認めよう』
二体。
『だが』
眼鏡。
『この先には』
照準。
『俺がいる』
発射。
巨大ELSを撃ち抜く。
ロックオンがため息をついた。
「やっぱこいつは変わらないな」
レイナスが笑う。
「安定してるじゃないか」
『悪いね』
ウォーレンが微笑む。
『女性との約束なら破ることもあるが』
次弾。
『狙撃の約束だけは外さない主義なんだ』
ロックオンが。
「最低だろ」
クリスティナが。
「キザというかクズ寄りになってきた」
「そこまでモデルにするなよ」
◇
オルソン。
巨大ELSと格闘戦。
『どげんした!』
拳。
『宇宙から来た割には』
蹴り。
『根性が足りんばい!』
ティエリアが。
「ELSに根性を要求するな」
『まだまだ!』
オルソンが両腕を広げる。
『九州男児はなぁ!』
ティエリアが身構える。
『一回引き受けた仕事は最後までやるったい!!』
爆発。
ティエリアが。
少し黙る。
ロックオンが。
「今のは?」
「……台詞としては悪くない」
ネーナが笑う。
「認めた」
「オルソンを認めたわけではない」
◇
戦況は。
悪化する。
マイケルのコックピット。
警告。
心拍。
血中数値。
宇宙粒子病の進行を示す異常。
ジェニファーの声。
『マイケル! 戻って!』
『まだ動く』
『そういう問題じゃない!』
『分かってる』
息が荒い。
だが。
声は。
まだ落ち着いている。
『でも、今俺が抜けたら防衛線が崩れる』
『あなたが倒れたら同じでしょ!』
『だから』
マイケルが。
操縦桿を握る。
『倒れる前に終わらせる』
ジェニファーが。
声を強くする。
『そういうことを言ってるんじゃない!』
マイケルは。
返さない。
数秒。
そして。
『……悪い』
『謝らないで』
『違う』
マイケルの表情が。
僅かに柔らかくなる。
『帰ったら、ちゃんと怒られる』
ジェニファーが止まる。
『だから』
前を見る。
『今は行かせてくれ』
沈黙。
長い。
やがて。
ジェニファーが。
『……絶対に帰ってきて』
『ああ』
『約束したよね』
『覚えてる』
『だったら』
涙。
『守って』
マイケルが。
静かに笑う。
『任せろ』
◇
その直後。
ジェニファーの機体が。
ELSに囲まれた。
『ジェニファー!』
マイケルの声が。
初めて。
大きく変わった。
加速。
警告。
身体。
それでも。
止まらない。
『来ないで!』
『無理だ』
『あなたの身体じゃ!』
『関係ない』
『ある!』
マイケルが。
一体を斬る。
二体目。
三体目。
息が切れる。
『マイケル!』
『俺は』
一撃。
『病気だから戦ってるんじゃない』
もう一撃。
『病気だから諦めるつもりもない』
ジェニファーの機体へ手を伸ばす。
『今ここで』
ELSを振り払う。
『お前を助けられるのが俺なら――』
機体同士が。
掴む。
『俺が行く』
ジェニファーが。
泣きながら怒鳴る。
『馬鹿!』
マイケルが。
僅かに笑った。
『知ってる』
『大馬鹿!』
『それも聞いた』
『……好き』
マイケルが。
止まった。
ブリーフィングルームも。
止まった。
クリスティナが口を押さえる。
アレルヤが。
嫌な予感を覚える。
スクリーン。
マイケルが。
一度。
深く息を吐く。
『……それ』
『何』
『帰ってから、もう一回言ってくれ』
『なんで?』
『今聞いたら』
マイケルが。
少し笑う。
『死ねなくなる』
ジェニファーが。
怒る。
『最初から死なないで!!』
マイケルが笑った。
『そうだったな』
レイナスが。
「こっちの方がいいな」
クリスティナも。
「分かる」
アレルヤは。
何も言わなかった。
◇
ミア。
右腕。
ELS。
彼女が。
何かに気づく。
『違う……』
マイケルが振り返る。
『何が?』
『この人たち』
ミアの声が震える。
『殺したいんじゃない』
全員が止まる。
『分からないんです』
銀色の右腕。
『私たちが何なのか』
『だから』
涙。
『触れてる』
『同化して』
『知ろうとしてる』
マイケルは。
しばらく。
何も言わなかった。
そして。
『なら』
ミアを見る。
『教えればいい』
『どうやって?』
マイケルが。
静かに答える。
『それを考えるために』
前を見る。
『俺たちはここまで来たんだろ』
ミアが。
少しずつ。
呼吸を整える。
『怖いです』
『俺も怖い』
即答だった。
ミアが見る。
『病気も怖い』
マイケルは続ける。
『死ぬのも怖い』
『ジェニファーを残すのは、もっと怖い』
ジェニファーが。
通信越しに。
黙る。
『でも』
マイケルは。
拳を握る。
『怖いから手を伸ばさないっていうのは』
一拍。
『たぶん、一番後悔する』
ミアが。
右腕を見る。
マイケルが言う。
『怖くていい』
『震えててもいい』
声が。
少しずつ。
強くなる。
『それでも』
そして。
ここで初めて。
あの熱が。
一気に上がる。
『届くかもしれないなら――手を伸ばせ!!』
ミアが顔を上げる。
『届かなかったら俺たちがもう一度道を作る!!』
マイケルの声が響く。
『十回でも百回でもだ!!』
ガンダムが。
前へ出る。
『だから、お前は答えを諦めるな!!』
ネーナが。
「熱い……」
刹那も。
ほんの僅かに。
目を細めた。
◇
そこへ。
低い声。
『話は終わったか』
黒いコート。
レイヴン。
レイナスが。
「また美味しいところだけ持っていくな」
スクリーン。
レイヴンがマイケルを見る。
『お前は少女を連れて行け』
『あんたは?』
『道を開ける』
『一人で?』
レイヴンが。
笑う。
『俺を誰だと思ってる』
レイナスが顔を覆う。
「始まった」
『百年』
光。
『戦争を見た』
さらに。
『百年』
拳。
『人間の馬鹿さ加減を見た』
青白い光。
『それでも』
目が光る。
『俺はまだ、人間に飽きてない』
レイナスが。
「臭い」
リボンズが笑う。
「相当だね」
『何度間違えても』
レイヴンが。
ELSの群れを見る。
『何度壊しても』
一歩。
『最後に手を伸ばせるなら』
さらに一歩。
『まだ終わっちゃいない』
現実のレイナスが。
少しだけ黙った。
クリスティナが見る。
「今のは?」
「……少しだけマシ」
「厳しいなあ」
◇
巨大なELSが。
レイヴンの姿を模倣する。
銀色の巨人。
黒いレイヴンと。
銀色のレイヴン。
向かい合う。
『俺を真似るか』
銀色の拳。
激突。
『悪くない』
もう一撃。
『だが』
レイヴンが。
拳を押し返す。
『姿を真似ただけで』
青白い光。
『俺が歩いた百年まで真似したつもりになるな!』
レイナスが。
「映画の俺、百年って言葉好きすぎないか?」
ロックオンが。
「設定として便利なんだろ」
スクリーン。
『俺が俺なのは』
一撃。
『力があるからじゃない!』
二撃。
『長く生きたからでもない!』
三撃。
銀色の巨体が。
吹き飛ぶ。
『何度失敗しても!』
レイヴンが追う。
『面倒だと愚痴って!』
さらに。
『嫌になって!』
拳。
『それでも次の日になったらまた立ってる!』
青白い光。
『それが俺だ!!』
レイナスが。
「……そこは妙に俺っぽいな」
アーミアが笑う。
「でしょう?」
「嬉しそうに言うな」
◇
最後の道。
ウォーレン。
オルソン。
ジェニファー。
マイケル。
レイヴン。
全員が。
ミアを中心へ送り届けるために。
戦う。
ウォーレン。
最後の長距離射撃。
『ミア』
照準。
『前だけ見ろ』
一射。
道が開く。
『少女が振り返るのは』
眼鏡。
『恋をした時だけでいい』
ロックオンが。
「その台詞いるか?」
クリスティナが笑う。
「ウォーレンだから」
◇
オルソン。
巨大ELSを。
真正面から押さえる。
『行かんね!!』
ミアが振り返る。
『でも!』
『振り返る暇があるなら走らんか!』
力。
『若いもんが前に行かんでどうするとね!』
機体が軋む。
『後ろは――』
豪快に笑う。
『ワシら大人に任せんしゃい!!』
ティエリアが。
何も言わなかった。
ネーナが横を見る。
「今の良かった?」
「……台詞だけならな」
◇
マイケル。
警告。
身体。
限界。
視界が揺れる。
ジェニファーが叫ぶ。
『マイケル!』
『まだだ』
『もうやめて!』
『まだ動ける』
『だから――!』
『ジェニファー』
静かな声。
彼女が止まる。
『俺は』
呼吸。
『生きて帰る』
一機。
斬る。
『お前との約束も』
二機。
撃つ。
『まだ聞いてない返事も』
三機。
『全部』
身体が。
限界を訴える。
それでも。
『持って帰る』
ジェニファーが。
泣く。
『……絶対よ』
『ああ』
マイケルの声が。
再び。
熱を帯びる。
『だから行け、ミア!!』
ガンダムが。
最後の道を作る。
『俺たちの未来を――』
叫ぶ。
『宇宙の向こうまで届けてこい!!』
◇
最後。
レイヴン。
一人。
無数のELS。
『レイヴン!』
マイケルの通信。
『もういい! 戻れ!』
レイヴンは。
振り返らない。
『まだ道が狭い』
『十分だ!』
『若い奴らが未来へ行くんだ』
拳。
『なら古い男は』
青白い光。
『邪魔な石くらい退けておく』
レイナスが。
「言い方だけなら悪くないのに」
『宇宙よ――』
「やっぱり始まった」
スクリーン。
レイヴンが。
両腕を広げる。
『よく見ておけ』
光。
『これが』
さらに。
『百年生きても懲りずに前へ進む――』
最大。
『人間って生き物だ!!』
ミライが。
完全に見入る。
『超絶究極――!!』
アーミアが。
懐かしそうに笑う。
『レイヴン・バーストォォォォォッ!!』
宇宙が。
青白く染まる。
ネーナが。
「出たぁぁぁ!」
ヒリング。
「レイヴン・バースト!」
クリスティナ。
「レイヴン・バースト!」
ミライまで。
「超絶究極!」
レイナスが。
「お前らまで覚えるな!!」
◇
銀色の世界。
ミア。
巨大な存在。
言葉はない。
ただ。
光。
感情。
記憶。
人類。
戦争。
家族。
喜び。
悲しみ。
マイケル。
ジェニファー。
ウォーレン。
オルソン。
そして。
レイヴン。
ミアが。
涙を流す。
銀色の右手。
人間の左手。
二つを。
重ねる。
『これが……』
静かに。
『私たちです』
光。
宇宙に。
巨大な銀色の花が咲いた。
◇
地球。
戦いの後。
医務室。
マイケルは。
ベッドに寝ていた。
ジェニファーが。
隣の椅子に座る。
『……怒ってるか』
『怒ってる』
『そうか』
『ものすごく』
『そうか』
『もう無茶しないって言った』
『言ってない』
ジェニファーが睨む。
『帰るとは言った』
マイケルが。
僅かに笑う。
『だから帰ってきた』
ジェニファーの目に。
涙が浮かぶ。
『ずるい』
『知ってる』
しばらく。
沈黙。
マイケルが。
静かに聞く。
『あの時の続き』
『……何』
『好きだって言った』
ジェニファーが。
赤くなる。
『聞こえてたでしょ』
『聞こえた』
『じゃあ何』
マイケルは。
真面目な顔になる。
『もう一回聞きたい』
ジェニファーは。
しばらく彼を見る。
そして。
笑った。
『好き』
マイケルが。
目を閉じる。
『……そうか』
『それだけ?』
『いや』
目を開ける。
『俺もだ』
ジェニファーが。
少し笑う。
『知ってた』
『なら聞くな』
『あなたが言うのを待ってたの』
マイケルが。
少し困ったように笑う。
ジェニファーが。
彼へ近づく。
キス。
ブリーフィングルーム。
クリスティナが。
「きゃああ!」
ネーナも。
「した!」
ヒリングも。
「やっと!」
アレルヤが。
静かに天井を見た。
ロックオンが肩を叩く。
「頑張れ」
「だから何に?」
◇
夕方。
ミア。
銀色の右腕。
レイヴンが隣を歩く。
『怖くないんですか?』
『何が』
『これ』
ミアが。
右腕を見る。
レイヴンも見る。
『右手だろ』
『ELSです』
『それで?』
ミアが。
止まる。
レイヴンは歩き続ける。
『右だろうが左だろうが』
一拍。
『お前の手だ』
ミアが。
目を見開く。
レイヴンは。
夕陽へ向かう。
『それに』
黒いコート。
『知らないものが怖いなら』
振り返る。
『知ればいい』
少し笑う。
『宇宙は広い』
そして。
最後。
『怖がってるだけじゃ――もったいないだろ』
現実のレイナスが。
少し黙った。
アーミアが横を見る。
「今のは?」
「……まあ」
「まあ?」
「臭いけど、まだ許せる」
「評価基準そこなんですね」
◇
エンドロール。
壮大な音楽。
【CELESTIAL BEING 2
-Visitor from Jupiter-】
照明は。
まだ戻らない。
最初に口を開いたのは。
クリスティナだった。
「……マイケル、前作よりかなり良くなってない?」
アレルヤも頷く。
「うん」
レイナスが。
「病気の設定をちゃんと使ってたな」
スメラギも。
スクリーンを見る。
「限りがあるから急ぐ。でも、死に急いでるわけじゃない」
「そこは大きいですね」
アーミアが答える。
ミライは。
既に大量の記録を作っていた。
「マイケルの熱血表現も、普段はかなり抑えられています」
ロックオンが笑う。
「その分、終盤だけすげえけどな」
「そこがいいんじゃない?」
クリスティナが言う。
ティエリアは。
別の部分が気になっていた。
「何故オルソンは今回も最後まで九州弁だった」
アーミアが答える。
「人気だったので」
「それは説明になっていない」
ネーナは。
アーミアを見る。
そして。
右腕。
「でもやっぱりミアって」
「違います」
「まだ何も言ってないよ?」
「分かります」
ミライが。
「アーミアさんがモデルである可能性は――」
「計算しなくていいです!」
レイナスが笑う。
「諦めろ。どう見てもお前だ」
アーミアが振り返る。
「先生」
「何だ」
「百年生きても懲りずに前へ進む――」
「やめろ」
「人間って生き物だ!」
「やめろって」
クリスティナが吹き出す。
ミライも笑う。
アーミアは。
スクリーンへ視線を戻した。
銀色の花。
その下。
最後に。
小さな文字。
《――分からないからこそ、知ろうとする者たちへ。》
レイナスは。
少しだけ。
黙ってそれを見る。
クリスティナが横を見る。
「これは?」
「文句ない」
「珍しい」
「レイヴンの台詞じゃないからな」
アーミアが笑った。
映像が。
完全に終わる。
数秒後。
ミライが。
ゆっくり口を開いた。
「もう一回――」
「駄目だ」
レイナスが即答した。
「まだ最後まで言ってません」
「分かる」
「作品分析のために」
「今日は終わりだ」
クリスティナが。
「私はもう一回見てもいいけど」
ネーナ。
「私も!」
ヒリング。
「次は食べ物用意しようよ」
ミライの表情が明るくなる。
「上映環境として正しいです」
レイナスは。
椅子へ深く沈んだ。
「……未来の娯楽って面倒だな」
アーミアが。
未来端末を閉じながら笑った。
「先生」
「今度は何だ」
「まだ映画、ありますよ」
レイナスが。
ゆっくり。
顔を向けた。
「……まだあるのか?」
アーミアは。
答えなかった。