機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

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第61話 外から見た変化

 

西暦2308年――ユニオン領・軍技術研究施設

大型モニターには、ソレスタルビーイングに関する戦闘記録が時系列順に並べられていた。

グラハム・エーカーは壁際に立ち、何度も見た映像を改めて眺めている。隣ではビリー・カタギリが解析データを整理し、その少し後ろではレイフ・エイフマンが椅子に腰掛けたまま、一つ一つの記録へ目を通していた。

「最近は随分と静かだね」

ビリーが言うと、グラハムは腕を組んだ。

「以前なら、戦闘が起きれば彼らが現れる可能性まで作戦へ織り込んでいた。それが今では、こちらが警戒しても姿を見せないことの方が多い」

ソレスタルビーイングが消滅したわけではない。それは最後の大規模戦闘で確認している。

従来から存在する四機のガンダムに加え、タクラマカンから確認されるようになった白い追加ガンダム。さらに後から現れた三機のガンダムも、最後には同じ側で戦っていた。

そこへ、レイナス・レノアークが操る鹵獲GN-Xまで加わっている。

戦力を失ったから動けないと考えるには、最後に確認された姿と噛み合わなかった。

「修理や補給のために活動を抑えている可能性はある」

ビリーが言う。

「でも、それだけとは限らない」

エイフマンが画面から目を離さず答えた。

「我々が知っているのは、表へ出てきた結果だけだ。彼らの内部で何が起きているかまでは分からん」

グラハムは小さく頷いた。

「ならば、見えているものから考えるしかないな」

「その通りだ」

エイフマンが映像を切り替えた。

映し出されたのはタクラマカン砂漠。

白い追加ガンダムが青白い光を纏い、包囲網の中を駆け抜けている。

グラハムには見覚えがあるどころではなかった。

「あの機体とは私が直接やり合った」

「覚えているよ。報告書も随分熱の入った内容だったからね」

「当然だ。あれほどの相手を前にして、無味乾燥な文章だけで済ませる方が難しい」

「軍の報告書に情熱は求められてないんだけどな」

ビリーの言葉を聞き流しながら、グラハムは画面を見る。

あの時。

白いガンダムは、それまで確認されていたガンダムとは違う青白い光を全身に纏った。

機体の動きも変わった。

そして。

同じ戦場でもう一つ、同じ現象が起きた。

映像が切り替わる。

AEUのイナクト。

その全身にも、青白い光が広がっていく。

操っていたのはレイナス・レノアーク。

「こちらはもっと奇妙だね」

ビリーが映像を止める。

「元はAEUの量産機だ。少なくとも、あの青白い現象を発生させるための専用装備が最初から積まれていたとは考えにくい」

グラハムが口元を上げる。

「本人は、あの場で初めて使ったと言っていた」

「本当に?」

「ああ。私と戦いながらな」

ビリーは額へ手を当てた。

「どうして君たちは戦闘中にそんな会話をしてるんだ」

「必要な確認だった」

「どこが?」

「少なくとも今、役には立っている」

言われてみれば否定しづらい。

ビリーは何も返さず、次の映像を出した。

今度は宇宙。

国連軍のGN-X部隊と、ソレスタルビーイングのガンダム群。

その中で近接戦闘を主体とする一機のガンダムが、青白い光に包まれる。

「そして後の戦闘では、従来から存在する近接型まで同じ現象を使った」

エイフマンが言う。

「白い追加機。AEUのイナクト。そしてこの近接型。三機に機体構造上の共通点を求めるのは難しい」

「操縦者側に何かある?」

ビリーが尋ねた。

「可能性の一つだ」

エイフマンはすぐに断定しなかった。

「あるいは、我々がまだ観測できていない共通条件があるのかもしれん。現時点で分かっているのは、特定のガンダムだけに搭載された機能とは考えにくいということだ」

グラハムは次の映像へ目を向ける。

近接型ガンダムの機体表面が赤く染まる。

大量のGN粒子。

一時的な、極端な性能上昇。

その現象自体も、国連側ではすでに複数回確認されていた。

そして。

赤い光の中へ、青白い光が重なる。

二つの現象を同時に維持したガンダムが、GN-X部隊を一気に押し返していく。

グラハムの目が細くなる。

「あの時の動きは、今見ても異常だな」

「赤色発光状態だけでも性能は大幅に上がっている」

ビリーが数値を追う。

「そこへ、青白い現象まで重なった。単純に二つを足しただけなのか、それとも相互に何か作用しているのかは分からないけど……少なくとも、相手側は二種類の強化を同時に扱える」

「その操縦者自身にも、何か変化が起きていた可能性がある」

エイフマンが付け加えた。

「機体の挙動だけでは説明し切れん部分がある」

グラハムが視線を向ける。

「そこまで分かるのか?」

「分からんから言っている」

エイフマンは淡々と答えた。

「機体性能の上昇だけで全て説明できるなら、私はここまで映像を見返しておらん」

ビリーが苦笑する。

「教授らしい答えですね」

しばらく三人とも黙った。

画面には、最後の大規模戦闘におけるソレスタルビーイングの戦力が映っている。

数は増えた。

機体は強くなった。

未知の現象も増えた。

だが、その後。

ソレスタルビーイングの大規模な武力介入は、目に見えて減っている。

「力を失ったから静かになったわけではない」

グラハムが呟く。

「むしろ逆かもしれん」

エイフマンが答えた。

ビリーが二人を見る。

「強くなったから、戦う必要がなくなった?」

「それもまだ飛躍だ」

教授は首を振った。

「ただし、以前と同じ行動原理で動いていると考えるのも危険だろうな」

グラハムは画面の中のガンダムを見つめた。

「ならば次に会った時は、何のために剣を抜くのかも見なければならんな」

ビリーが嫌そうに横を見る。

「次に会う前提なんだ」

「会わない方が不自然だろう?」

「君の場合、自分から会いに行きそうなのが問題なんだよ」

グラハムは答えず、僅かに笑った。

エイフマンはそんな二人を横目に、再び白い追加ガンダムの映像へ戻していた。

青白い光。

それが最初に現れた時から。

ソレスタルビーイングは、少しずつ以前とは違うものへ変わり始めていたのかもしれない。

だが。

その変化の意味を、外にいる彼らはまだ知らなかった。

◆

西暦2308年――国連軍・人類革新連盟系部隊駐屯施設

セルゲイ・スミルノフは、最新の情報報告を読み終えて端末を置いた。

向かいにはソーマ・ピーリスが座っている。

「ソレスタルビーイングの活動は、以前より減少しています」

ピーリスが報告する。

「大規模な武力介入は、ほとんど確認されていません」

「そうだな」

セルゲイも同じ資料を見ていた。

最後に大規模な交戦を行った時、彼らは弱体化しているどころではなかった。

従来のガンダム。

白い追加機。

後から現れた三機。

そして鹵獲GN-X。

さらに。

機体を赤く変化させる異常な高出力状態。

青白い光を伴う、別系統の強化現象。

「戦力を失って姿を消した、と考えるのは楽だが」

セルゲイが言う。

「実際に戦った我々が、その判断をするわけにはいかん」

ピーリスも異論はなかった。

あの戦場を覚えている。

特に。

近接型ガンダム。

赤い光と青白い光を同時に纏った後、その動きは明らかに変わった。

だが。

ピーリスにとって本当に忘れられないのは、機体の性能ではなかった。

「中佐」

「何だ」

「以前報告した、あの脳量子波についてですが」

セルゲイは彼女を見る。

ピーリスは言葉を選んだ。

「あの近接型ガンダムのパイロットです。戦闘の途中から、それまでとはまったく違う脳量子波を感じました」

「オレンジ色のガンダムから感じるものとは別だったのだな」

「はい」

自分と何度も共鳴してきた、あの可変型ガンダムのパイロットとは違う。

あの時。

突然現れた。

明確な存在感。

強烈な脳量子波。

ピーリス自身にも、それが何だったのか説明できない。

「機体が変化したのと、ほぼ同じ時期です」

「関連があると思うか?」

「分かりません」

ピーリスは正直に答えた。

「ただ、偶然と切り捨てるには……」

「気になるか」

「はい」

セルゲイは少し考えた。

「ならば報告として残しておけばいい。分からないものを無理に説明する必要はない」

ピーリスは頷いた。

だが。

まだ表情は晴れない。

セルゲイには、その理由も分かっていた。

「もう一つの件か」

ピーリスの視線が動く。

「……はい」

オレンジ色のガンダム。

そのパイロット。

何度も自分へ呼びかけた声。

マリー。

マリー・パーファシー。

知らない名前。

それなのに、聞くたびに頭の奥が反応する。

「なぜ、あのパイロットが私をその名で呼んだのか。まだ分かりません」

「こちらの記録にも、現時点では有力な情報はない」

セルゲイは事実だけを答えた。

「だが、相手が何の根拠もなく名前を口にしたと決めるのも早いだろう」

ピーリスの表情が硬くなる。

「私はソーマ・ピーリスです」

「ああ」

セルゲイは否定しなかった。

「今のお前はな」

ピーリスが顔を上げる。

セルゲイはそれ以上踏み込まなかった。

今この場で結論を出す必要はない。

本人にも分からないことを、他人が先回りして決めるべきでもない。

話を戻すように、セルゲイはソレスタルビーイングの活動記録を開いた。

「彼らについては、敵性武装組織という評価に変更はない」

ピーリスも姿勢を戻す。

「はい」

「我々の軍へ攻撃を行い、国家の意思とは無関係に武力介入を続けてきた。その事実は、活動が減ったからといって消えるものではない」

「では、再び遭遇した場合は交戦を?」

「状況による」

セルゲイは即答した。

「敵だから撃つ。味方だから撃たない。それだけで全ての状況が決まるほど、戦場は単純ではない」

ピーリスは黙って聞いている。

「任務を妨害するなら戦う。こちらを攻撃するなら応戦する。だが、相手に交戦の意思がなく、こちらにも戦う必要がないなら、無意味に部下を危険へ晒す理由はない」

「以前とは対応を変える、と?」

「相手が変わっているなら、こちらも情報を更新する。それだけだ」

最後の大規模戦闘。

国連軍が撤退を始めた後。

ソレスタルビーイングは追撃してこなかった。

彼らにも余裕がなかった可能性はある。

赤い高出力状態を使った反動も確認されている。

だが。

追撃がなかったという事実は変わらない。

そして今。

世界中の紛争へ片端から姿を見せていた組織は、沈黙に近い状態を続けている。

「何を考えているのでしょうか」

ピーリスが呟いた。

セルゲイは画面を見る。

「それが分かれば苦労はせん」

少しだけ口元を緩めた。

「だから軍には情報部というものがある」

ピーリスも、ほんの僅かに表情を緩めた。

◆

西暦2308年――国連軍・作戦司令施設

カティ・マネキンは、複数の報告書を並べたまま腕を組んでいた。

その横では、パトリック・コーラサワーが戦闘映像を眺めている。

「結局、大人しくなったんじゃないですか?」

カティが横を見る。

「何がだ」

「ソレスタルビーイングですよ」

パトリックは画面を指した。

「前はあちこちに出てきて、戦争やってる奴を片っ端から殴ってたでしょう。それが最近は全然出てこない」

「随分雑なまとめ方だな」

「でも間違ってませんよね?」

カティは否定しなかった。

大規模戦闘後。

ソレスタルビーイングの活動頻度は明らかに低下している。

問題は。

その理由だ。

「損傷した機体と艦を修復している可能性はある」

「やっぱり休んでるんじゃないですか」

「それだけならいいがな」

カティは最後の大規模戦闘の記録を出した。

四機のガンダム。

白い追加ガンダム。

後から現れた三機のガンダム。

そして。

一機の鹵獲GN-X。

パトリックの顔が変わった。

「あっ」

カティは嫌な予感がした。

「こいつ!」

「大声を出すな」

「イナクト泥棒!」

画面にはレイナス・レノアークのGN-Xが映っている。

「まだ根に持っているのか」

「当たり前でしょう! 返してもらってませんからね!」

「お前の所有物ではない」

「俺が乗ってたんですよ!」

「軍の備品だ」

「そういう話じゃないんです!」

カティは溜息をつき、映像を進めた。

パトリックはまだ何か言いたそうだったが、次に映った光景を見て少しだけ表情を変える。

近接型のガンダム。

機体が赤く染まる。

その状態だけでも、通常時とは比較にならない動きを見せる。

さらに。

青白い光が重なった。

「これですよ」

パトリックが言う。

「何がだ」

「赤くなるだけでも十分反則なのに、青いのまで一緒に使った奴」

「青白い、だ」

「そこ重要です?」

「報告ではな」

パトリックは納得していない顔をしたが、画面へ戻る。

「あの時、急に速くなったんですよ。いや、赤くなった時点でも速かったけど……何というか、動き方まで変わったっていうか」

カティが彼を見る。

「そこは分かるのか」

「俺だってエースですよ?」

「自称ではな」

「自称じゃありません!」

抗議を無視し、カティは再生速度を落とした。

赤色発光状態。

青白い強化。

その二つが重なった瞬間から、近接型ガンダムの回避と攻撃の繋がりが明らかに変化している。

「ユニオン側からも同様の分析が上がっている」

「へえ」

「青白い現象については、タクラマカンの白い追加ガンダムで確認された後、レイナス・レノアークがAEUのイナクトでも使用している」

パトリックの眉が跳ねる。

「俺のイナクトです」

「AEUのイナクトだ」

「そこ訂正します?」

「する」

カティは淡々と続ける。

「さらに近接型ガンダムでも確認された。同じ装備を持つ同型機だから起きる現象、という説明では通らない」

「じゃあ何なんです?」

「分からん」

「分からないんですか」

「分からないから調べている」

パトリックは数秒黙った。

「ガンダムって、分からないもの多すぎません?」

「その意見には同意する」

珍しく即答された。

パトリックは少し嬉しそうな顔をしたが、カティは構わず別の資料を開く。

「問題は戦力だけではない」

「まだあるんですか?」

「ソレスタルビーイングの行動だ」

以前。

紛争があれば介入。

軍事力を確認すれば攻撃。

三大国家群の部隊とも、必要なら迷わず交戦した。

それが現在。

活動そのものが減っている。

「弱くなったからじゃないんですよね?」

「少なくとも、そう断定できる材料はない」

「なら、何で戦わないんです?」

カティは少しだけ目を細めた。

「そこが問題だ」

パトリックは首を傾げる。

「戦わないなら、いいことじゃないですか」

「軍人としては、相手が戦わない理由まで考える必要がある」

「面倒ですね」

「仕事だからな」

「俺、パイロットでよかったです」

カティが冷たい視線を向ける。

パトリックは咳払いした。

「でもまあ……前と同じじゃないってのは分かりますよ」

「どう違う?」

「前はガンダムを見つけたら、どうせ向こうもこっちを敵として殴りに来るって感じだったでしょう?」

カティは黙って続きを促した。

「今は、こっちから何もしなければ本当に戦わないかもしれない」

「かもしれない、だ」

「はい。でも、だったらこっちも前と同じ感覚で撃ちに行ったら、わざわざ戦争を一個増やすことになるじゃないですか」

カティは数秒、パトリックを見た。

「……何です?」

「いや」

視線を戻す。

「珍しく、筋道まで含めてまともだった」

「珍しくは余計ですよ!」

カティは僅かに口元を緩めた。

だが。

言っていることは間違っていない。

ソレスタルビーイングは敵性武装組織。

その評価を変えるだけの材料はまだない。

だが。

相手の行動が変わり始めているなら。

こちらも。

過去の記録だけを頼りに対応するわけにはいかなかった。

◆

数日後――国連軍統合情報部

ソレスタルビーイングに関する評価資料が更新された。

武装組織としての危険度。

高。

保有戦力。

従来から確認されている四機のガンダム。

タクラマカン以降確認されている白い追加ガンダム。

後に出現した三機の追加ガンダム。

レイナス・レノアークが使用する鹵獲GN-X。

未知の強化現象。

一つ。

ガンダム数機で確認される、赤色発光と大量のGN粒子放出を伴う急激な性能上昇。

もう一つ。

白い追加ガンダム、AEU製イナクト、近接型ガンダム、レイナスのGN-Xで確認されている、青白い発光を伴う強化現象。

両者が同時に使用された記録も存在する。

原理。

不明。

そして。

活動傾向。

明確な変化あり。

以前に比べ、大規模な武力介入の頻度が低下。

最後の大規模交戦では、撤退する国連軍への追撃を確認せず。

組織の戦力低下によるものか。

方針変更によるものか。

別の目的があるのか。

現時点では判断不能。

敵性組織としての評価は維持。

ただし。

過去の行動傾向のみを前提とした対応は推奨しない。

それは。

ソレスタルビーイングへの信頼ではなかった。

まして。

和解でもない。

ただ。

世界の側も。

気づき始めていた。

ガンダムを使って世界へ武力介入していた組織が。

以前とは。

少し違う方向へ動き始めていることに。

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