西暦2308年――月裏側宙域・《ソレスタルビーイング》号
地上から届いた緊急情報を最初に拾ったのはクリスだった。
管制卓に表示された複数の警報を追っていた彼女の表情が、途中で明らかに変わる。都市部でほぼ同時に爆発が発生し、その混乱に乗じて武装集団が公共施設を占拠していた。
「スメラギさん、これ見てください」
中央モニターへ現地映像が映し出される。
黒煙の上がる市街地。封鎖された道路。占拠された建物の周囲には現地軍と警察が展開していたが、内部に多数の民間人が残されているため、迂闊には動けない。
フェルトが入ってくる情報を整理しながら報告する。
「犯行声明を確認しました。拘束されている構成員の釈放と資金提供を要求。拒否された場合は追加の爆破を行うとしています」
「人質は?」
「確認できているだけで百四十名以上です。負傷者も出ています」
その数字を聞いた時点で、スメラギの判断は決まった。
「情報収集を優先。必要なら介入するわ」
ブリッジの空気が変わる。
以前のように、事件が起きたというだけで即座にガンダムを送り込むわけではない。だが、百人を超える民間人が直接危険に晒されている以上、見過ごす理由もなかった。
現地の地図、施設の構造、周辺道路、地下設備。
必要な情報が次々とモニターへ展開されていく中で、リボンズだけは犯行声明を妙に興味深そうに眺めていた。
「なるほど」
スメラギが横を見る。
「何?」
「随分、自信があるらしい」
「自信?」
「人質がいる。爆弾がある。逃走経路も用意している。だから、自分たちが交渉の主導権を握っていると思っている」
リボンズはそう言って、わずかに笑った。
その横顔を見たヒリングがすぐに顔をしかめる。
「その顔、何か企んでるでしょ」
「失礼だな。僕は人質を助けようとしているだけだよ」
少し離れた場所で端末を見ていたレイナスが口を挟む。
「言ってることはまともなんだけどな。顔と声がどうにも不穏なんだ」
「君に人相について評価されたくはないかな」
「そこはお互い様ってことにしておこう」
リジェネがリボンズの端末を覗き込む。
「で、何か見つけたの?」
「もう少しだ」
そのやり取りを聞きながら、ミライはリボンズとモニターを交互に見ていた。
やがて、何かに気づいたように目を細める。
「……始まりそうですね」
リボンズが振り返る。
「何がだい?」
「悪役が相手を追い詰める場面」
一瞬、周囲が静かになった。
レイナスがミライを見る。
「まだ何もしてないぞ」
「雰囲気で分かります」
「何の雰囲気だ」
ミライは少し考えてから答えた。
「ラスボスのです」
ヒリングが吹き出した。
リボンズは何も言わず、端末へ向き直る。
少なくとも、その時点では。
まだミライの評価は少し早かった。
◆
調査を始めてしばらくすると、一見何の繋がりもない情報が画面上へ並び始めた。
複数の偽装企業。
小口に分けられた資金。
名義の異なる倉庫。
暗号化された通信。
武器の輸送経路も一つではない。
それぞれが別々の組織として切り離され、仮に一つが摘発されても全体へ辿り着けないよう細かく分散されていた。
ティエリアがデータを追いながら言う。
「即席の組織ではないな」
「ああ。数年は準備している」
リボンズは淡々と答えながら複数の記録を重ねていく。
「資金の動かし方も悪くない。通信経路も頻繁に変えている。かなり慎重だ」
クリスが画面を見る。
「それなのに、もう繋がってるの?」
「慎重だからこそだよ」
「どういうこと?」
「隠すための行動に、同じ人間の癖が出ている」
送金時刻。
通信が集中する曜日。
暗号鍵を更新する周期。
輸送会社を切り替える間隔。
一つ一つは意味を持たない情報が、重ねられるほど形を持ち始める。
「無作為に見せようとしても、完全な無作為にはならない」
リジェネが少し笑う。
「気づいてしまえば早いね」
「そういうことだ」
そしてリボンズは、一件の通信回線を開いた。
スメラギが気づく。
「ちょっと。何してるの?」
「確認だよ」
「何の?」
接続処理を進めながら、リボンズは平然と答えた。
「彼らが、まだ自分たちに選択肢があると思っているかどうか」
少し離れた場所からミライが呟く。
「始まった」
レイナスが横を見る。
「何が?」
「第二形態です」
「勝手に進化させるな」
◆
西暦2308年――地上・武装集団占拠施設
「政府から返答は?」
「まだです」
武装集団の指導者は苛立ったように舌打ちした。
要求を突きつけてから時間は経っている。しかし返ってくるのは交渉継続の申し入ればかりで、構成員の釈放にも資金提供にも応じる気配がない。
それでも焦る必要はなかった。
こちらには人質がいる。
市内には追加の爆弾もある。
逃走経路も複数確保している。
時間が経てば経つほど不利になるのは政府側。
男はそう考えていた。
見慣れない通信が入るまでは。
「何だ?」
部下が端末を確認する。
「発信元不明です」
「政府か?」
「違います」
男は少し迷った後、回線を開いた。
『聞こえるかな?』
若い男の声だった。
あまりにも落ち着いていた。
人質事件の最中にいる相手と話しているとは思えないほど、声には焦りも緊張もない。
「誰だ」
『名乗るほどのことでもないよ』
「ふざけるな」
『そうかな? 僕としては君たちより真面目に話しているつもりだけどね』
男の顔が険しくなる。
「何の用だ」
短い沈黙。
その後。
『まず、人質は百四十二名』
男の表情が止まった。
『別棟に二十七名。負傷者は四名。一人は右脚からの出血が多い。そろそろ処置をした方がいい』
室内にいた構成員たちが互いを見る。
人質の正確な人数は外部へ公表していない。
負傷者の状態に至っては、内部にいる人間しか知らないはずだった。
「……どうして知っている」
リボンズは少し笑った。
『その程度で驚くのかい?』
一拍。
『まだ何も始めていないんだけどね』
◆
《ソレスタルビーイング》号。
ヒリングが早くも笑いを堪えていた。
「絶対楽しんでる!」
「相手の心理状態を確認しているだけだよ」
「今の一言、絶対いらなかったでしょ!」
ロックオンも呆れたように通信席を見る。
「必要以上に性格悪くなってないか?」
「必要な範囲だと思っているけど?」
その横でミライだけが妙に真剣だった。
「いいですね」
リボンズが振り返る。
「……何が?」
「導入です」
「導入?」
「最初に少しだけ情報を見せるんですよね。どこまで知られてるのか分からない状態にして、相手に勝手に考えさせる」
ミライは画面から目を離さない。
「そのあと、本命を出す」
レイナスが嫌な予感を覚えたように横を見る。
「お前、何の分析をしてるんだ?」
「王道です」
「その王道は知らない方がいい気がするな」
リボンズは小さく息を吐いた。
「僕は人質救出をしているんだけどね」
「分かってます」
ミライは素直に頷いた。
「でも、やり方がすごくラスボスです」
「……もういい」
◆
地上。
『君たちは逃走用の輸送機を用意している』
その一言で室内の空気が変わった。
男は何も答えない。
『空港北側、第三格納庫。民間登録を偽装した輸送機が一機。操縦士は二人』
「何の話だ」
『まだとぼけるのかい?』
リボンズの口調は変わらない。
『残念だけど、その二人ならもう現地当局に確保された』
男が部下へ視線を飛ばした。
「確認しろ!」
慌てて連絡する。
応答はない。
何度呼び出しても同じだった。
その沈黙すら見透かしたように、通信の向こうから声が続く。
『一つ』
「……何?」
『選択肢が一つ消えた』
男の顔が歪む。
「貴様……!」
『そんなに怒らなくてもいい。まだ残っているだろう?』
その一言で。
男は初めて、自分たちの逃走計画そのものを読まれている可能性に気づいた。
「南側の車両を動かせ!」
部下へ指示を飛ばす。
しかし。
『それは二つ目だね』
男の動きが止まる。
『黒い車両が三台。南側地下駐車場。偽造ナンバーも準備済み』
沈黙。
『十五分前に押収されたよ』
部下の端末へ連絡が入る。
顔色が変わった。
「車両が……なくなっています!」
『二つ目』
「黙れ!」
『君が数えてくれないから、僕が代わりに数えているだけだよ』
男は回線を切ろうとする。
その前に。
『まだある』
指が止まった。
『西側の非常通路』
「……」
『三百メートル先に車両を二台。そのまま港へ向かって、小型船で海上へ出る予定だった』
男の顔から血の気が引いた。
『悪くない計画だ』
一瞬。
まるで褒めるような声だった。
だからこそ。
次の一言が余計に重かった。
『知っている相手に使わなければ、ね』
「通信を切れ!」
部下が慌てて操作する。
画面が暗転した。
男が荒い息を吐く。
数秒後。
別の端末が鳴った。
誰も触ろうとしない。
それでも勝手に音声が流れる。
『機械に当たっても、道は戻ってこないよ』
男が端末を睨みつける。
『西側も現地軍が確保した』
短い沈黙。
『これで三つ目』
◆
艦内。
ミライの目が少し輝いた。
「今の強いですね」
レイナスが額へ手を当てる。
「評価するな」
「『悪くない計画だ。知っている相手に使わなければね』ですよ?」
「聞いてたから知ってる」
「完全に強敵の台詞です」
「今助けてる側だからな」
ヒリングはもう隠す気もなく笑っている。
「リボンズ、今の絶対言いたかったでしょ!」
「事実を伝えただけだよ」
リジェネも口元を緩める。
「普段より間の取り方が丁寧だけどね」
「君までそっち側なのかい?」
「面白いからね」
アーミアはリボンズの背中を見ながら、少し呆れたように言った。
「先生、止めなくていいんですか?」
レイナスはしばらく通信を聞いてから答える。
「人質に手を出させず、銃も撃たずに戦意を削ってる。今のところ止める理由はないな」
「今のところ、ですか」
「あとで本人の気分が良くなりすぎたら考える」
リボンズが振り返らずに言う。
「聞こえているよ」
「なら少し自重してくれれば仕事が減る」
「必要性を感じないね」
「だろうな」
◆
地上では、武装集団の空気が明らかに変わっていた。
逃走経路を三つ潰された。
しかも相手は、それをただ潰すだけではない。
こちらが何を頼りにしているか知った上で、一つずつ目の前で奪ってくる。
男は自分の中に残っている手段を数え直した。
人質。
爆弾。
国外にいる協力者。
資金。
まだ終わってはいない。
「爆弾がある」
自分に言い聞かせるように呟く。
「こちらにはまだ爆弾がある!」
通信が繋がった。
待っていたかのように。
『ようやくそこまで来たか』
男の顔が歪む。
『君たちが設置した爆弾は十一』
「……!」
『八つは、すでに解除作業に入っている』
画面上の数字が十一から三へ減った。
『残りは三つ』
男が起爆端末を握る。
『この建物に一つ。遠隔起爆式が二つ』
「そこまで分かっているなら――」
『押せばいい』
男の指が止まった。
予想していなかった答えだった。
『どうした?』
「……」
『それが君たちの切り札なんだろう?』
「貴様……」
『僕が止められると思っているなら、確かめればいい』
男は端末を見る。
押せない。
もし起爆しなかったら。
自分たちに本当に何も残っていないことを、自分自身で証明することになる。
リボンズはその沈黙を待っていた。
『なるほど』
声に、わずかな笑いが混じる。
『反応しないことを確認する方が怖いらしい』
「黙れ!」
『君たちはずっと、他人に選択を迫っていた』
リボンズの声音が静かになる。
『仲間を解放するか、人質を失うか』
『金を払うか、爆発を見るか』
『選ぶのは相手で、自分たちは安全な場所から結果を見る』
男の指が震える。
『随分、気分が良かったんだろうね』
「黙れ!」
『自分たちだけが選択肢を持っている間は』
室内にいた構成員たちが指導者を見る。
『でも』
短い間。
『自分の選択肢を奪われる側になると、途端に声が大きくなる』
「貴様に何が分かる!」
『少なくとも、君より今の状況は理解している』
淡々とした返答だった。
『輸送機はない』
一つ。
『車両もない』
二つ。
『地下経路も塞いだ』
三つ。
『資金口座も凍結された』
四つ。
男の顔が強張る。
『海外にいる協力者も、すでに何人か確保された』
「……」
『そして爆弾』
リボンズはわざとそこで止めた。
『本当に使えると思っているなら、押せばいい』
男は動けない。
『どうした?』
「……」
『さっきまでは、あれだけ他人へ決断を迫っていたじゃないか』
その声には怒りも焦りもなかった。
ただ、逃げ場のない事実だけが積み上げられていく。
男は拳を握る。
「俺たちは……世界を変えるために……!」
その言葉を聞いた瞬間。
リボンズの笑みが少し薄れた。
『世界を?』
声音が変わる。
低くなったわけではない。
むしろ静かになった。
『自分たちの逃げ道一つ守れない君たちが?』
男の顔が歪む。
『随分、大きな話をするんだね』
「貴様に何が分かる!」
『では教えてくれ』
リボンズは穏やかに問い返した。
『民間人へ銃を向けなければ届かない理想に、どれほどの価値がある?』
男は答えられない。
『君たちは世界を人質にしたつもりだった』
一拍。
『でも実際には、自分たちが逃げられない部屋を作っただけだ』
◆
《ソレスタルビーイング》号。
今度はミライもすぐには口を開かなかった。
数秒。
その言葉を反芻するように黙った後。
「……今のはかなりラスボスでした」
レイナスが横を見る。
「結局そこに戻るのか」
「だって、『世界を人質にしたつもりで、自分が逃げられない部屋を作っただけ』ですよ?」
「聞いてたって」
「決戦前に言う台詞です」
ヒリングが腹を抱えて笑う。
「リボンズ、絶対ノリノリ!」
リボンズは通信から目を離さない。
「相手の戦意を削っているだけだ」
リジェネが肩をすくめる。
「普通に投降を勧めるだけでもいいと思うけどね」
「それで応じるなら、最初から人質など取っていないだろう?」
ティエリアが画面を見たまま口を挟む。
「理屈としては正しい」
レイナスがティエリアを見る。
「そこだけ拾うと、余計に本人が調子に乗るぞ」
「事実を述べただけだ」
「そういうところは相性いいんだな」
ミライはなおも真剣な顔でリボンズを見ていた。
「元ラスボスが味方になると、普通はこう……少し丸くなるんですけど」
リボンズの眉が動く。
「僕はラスボスだった覚えはないけど?」
「でも今のは完全にそうです」
「話を聞いているのかい?」
「はい」
ミライは頷く。
「しかも味方になって弱体化しないタイプです」
レイナスが小さく笑った。
「そこは大事なんだな」
「すごく大事です」
「何の基準だ」
「作品として」
「そうかい」
レイナスは理解を諦めた。
◆
地上。
指導者の周囲で、空気が崩れ始めていた。
一人の構成員が銃を床へ置く。
「おい!」
「もう無理です」
「拾え!」
「拾ってどうするんですか!」
別の男も銃口を下げた。
「逃げ道もない。金もない。爆弾も使えるか分からない」
「まだ分からん!」
『なら、押してみればいい』
またリボンズの声が割り込んだ。
男が叫ぶ。
「貴様は黙れ!」
『僕は止めていないよ』
「……!」
『君が押さないだけだ』
男は起爆端末を見る。
それでも指は動かない。
『不思議だね』
リボンズの声は穏やかなままだった。
『さっきまで他人の命を賭け金にしていた人間が、自分の最後の手札を失うのは怖いらしい』
「黙れ……」
『君たちが人質に与えていた恐怖を、少しは理解できたかな?』
男の呼吸が荒くなる。
周囲を見る。
すでに多くの構成員が武器を下ろしていた。
誰も自分を見ようとしない。
『さて』
リボンズが続ける。
『残っているものを確認しよう』
男は目を閉じる。
聞きたくない。
だが、声は止まらない。
『逃げ道はない』
『資金もない』
『協力者も捕まっている』
『爆弾も切り札にはならない』
そして。
『部下たちも、もう君の命令を聞く気がない』
男が周囲を見る。
誰も銃を構えていなかった。
『残っているのは何だい?』
「……」
『信念?』
沈黙。
『意地かな?』
男は唇を噛む。
『どちらでも構わない』
リボンズの声が少しだけ柔らかくなる。
『武器を捨てれば、生きて考える時間は残る』
男の手が震える。
『それとも』
そこでリボンズは一度だけ言葉を切った。
『本当に何も残っていないことを、最後まで自分で証明するかい?』
数秒。
金属音が響いた。
男の手から銃が落ちた。
続いて。
起爆装置も床へ落ちる。
◆
「現地軍より連絡。武装集団、投降を開始しました」
フェルトの報告に、ブリッジ全体の緊張がようやく緩んだ。
「人質は?」
スメラギが尋ねる。
「順次保護されています。負傷者の搬送も始まりました」
「そう……」
スメラギが長く息を吐く。
ガンダムは一機も出なかった。
銃撃戦も起きていない。
結果だけを見れば、これ以上ない形だった。
ロックオンが通信席へ視線を向ける。
「仕事だけ見りゃ文句なしなんだけどな」
リボンズが振り返る。
「なら問題ないだろう?」
クリスが苦笑する。
「仕事だけならね」
ヒリングが即座に続ける。
「煽りすぎ」
「必要な心理的圧力だよ」
リジェネも口元を緩める。
「最後の方は半分くらい趣味に見えたけどね」
「心外だな」
そこで。
ミライが静かに手を上げた。
「はい」
リボンズが嫌そうな顔をする。
「……何かな?」
「採点していいですか?」
「駄目だ」
「百点です」
「聞いていないね」
ミライは構わず指を折り始めた。
「逃げ道を一つずつ潰す」
一本。
「切り札を使うことすら怖がらせる」
二本。
「相手の思想まで否定する」
三本。
「しかも自分は安全な場所から一歩も動かない」
四本。
レイナスが口を挟む。
「最後のは言い方が悪いな」
「でも合ってます」
「合ってるけどな」
ミライは満足そうに頷いた。
「完璧なラスボスムーヴでした」
リボンズが眉を寄せる。
「だから僕は人質を救った側だと言っているだろう?」
「そこがいいんです」
「何がいいんだい?」
「味方側なのにラスボスの演出だけ残ってるところです」
ヒリングがまた笑い出した。
クリスまで口元を押さえている。
リボンズは助けを求めるようにレイナスを見る。
「君からも何か言ってくれないかな」
レイナスは少し考えた。
「仕事は完璧だった」
「そうだろう?」
「俺が向こう側なら、二度とお前とは通信したくない」
リボンズの笑みが消える。
「それは褒めているのかい?」
「最大限にな。撃たずにそこまで嫌がられるなら、交渉役としては大したもんだろ」
「他には?」
「そこから先まで面倒を見る仕事は請けてない」
アーミアが小さく笑った。
リボンズは不満そうに息を吐く。
「君たちは本当に……」
ミライがすぐに反応する。
「今の言い方もラスボスっぽいです」
「ミライ」
「はい」
「しばらく黙っていてくれないかな」
「そうやって静かに圧を――」
「ミライ」
今度はスメラギが止めた。
「はい」
ようやく静かになる。
その数秒後。
レイナスがぽつりと言った。
「まあ、人を助けるラスボスってことでいいんじゃないか?」
リボンズがゆっくり振り返る。
「君まで続けるのかい?」
「悪くないだろ。今日はちゃんと助けた側なんだから」
「そこを強調しなければならない時点で何かおかしくないかな?」
「気にするな。結果は出てる」
「便利な言葉だね」
「そういう時に使う言葉だからな」
そのやり取りを聞いて、ミライがまた笑い始める。
かつて、自分こそが人類を導く存在だと信じていた男。
その男は今、ソレスタルビーイングの側に立ち、人質を一人も失わせることなく武装集団を投降へ追い込んでいた。
ただ。
逃げ道を先に潰し。
切り札を奪い。
相手が最後まで握っていた自尊心まで丁寧に剥がしていくその姿は。
味方になったからといって。
以前の胡散臭さまで消えるわけではないらしかった。