機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

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第9話 変わりゆく世界

 

西暦2307年――数か月後

アーミア・リーが2364年からこの時代へ飛ばされてから、数か月が過ぎていた。

その間にも、世界は止まることなく動き続けた。

ソレスタルビーイングによる武力介入は世界各地で続き、紛争、軍事行動、テロ――そのたびに四機のガンダムが姿を現した。

ガンダムエクシア。

ガンダムデュナメス。

ガンダムキュリオス。

ガンダムヴァーチェ。

当初は正体不明の存在として世界に衝撃を与えたその名も、今では知らぬ者の方が少ない。

アーミアにとって、それは知っている歴史だった。

少なくとも、大きな流れについては。

だが、最初の頃のように何かが起こるたび、2364年から持ってきた端末を開くことはなくなっていた。

ニュースを見て、ブリーフィングを聞き、帰還したマイスターたちの話を聞く。

未来の記録ではなく、今この時代で起きていることを自分の目で見る。

数か月前にレイナスから言われた言葉が、今も残っていた。

――お前にとっちゃ、ここは過去の世界なのかもしれない。でもな、五十年以上先から続く今でもあるはずだ。

だからといって、歴史を変えることへの迷いが消えたわけではない。

ただ、過去の記録と目の前の現実を一つ一つ照合することだけは、やめていた。

◆

ソレスタルビーイング地上施設・格納庫

「先生」

「ん?」

「それ、何してるんですか?」

「見れば分かるだろ」

「分からないから聞いてるんです」

整備区画の端で、レイナスは大きな工具箱を抱えていた。

数か月前なら、彼が整備区画へ入っただけでも誰かが様子を見に来ただろう。今は整備員たちも気にした様子を見せず、それぞれの作業を続けている。

「イアンに頼まれたんだよ。手が足りないから持ってこいって」

「先生が?」

「俺だって工具箱くらい運べるさ。百年以上生きてて荷物一つ運べないんじゃ、さすがに割に合わない」

「そういう意味じゃありません」

アーミアは思わず笑った。

変わったのだ。

数か月前、自分たちは二人揃って素性不明の不審人物だった。

いや、経歴だけを見れば今も大して変わらない。

レイナスは異世界出身で、年齢不詳。少なくとも百歳を越え、《アニマ》というこの世界では未知の力を使う。

アーミアもまた、自分がどこから来たのかを明かしていない。レイナスとの本当の関係についても、説明を避けたままだ。

それでも数か月という時間は、少しずつ二人の立場を変えていた。

レイナスはソレスタルビーイングの武力介入そのものにはほとんど参加せず、必要に応じて地上施設を手伝っていた。物資を運び、イアンの整備を手伝い、暇さえあれば機体を眺め、時折シミュレーターにも座る。

そして、ごく稀に現場へ出た。

その度に何かしら問題を増やして帰ってくるのは、アーミアとしてはどうにかしてほしかったが。

「そういえば先生。この前の件、どうなりました?」

レイナスの手が止まる。

「……どの件だ?」

「分かってますよね?」

「心当たりが多くてな」

「グラハム・エーカーさんのフラッグです」

「ああ。それなら返した」

「本当に?」

「本当だよ。借り物は返す主義だ」

「無断で乗った時点で、借り物じゃないと思います」

「細かいところを気にすると長生きできないぞ」

「長生きした本人が言うと説得力ありそうに聞こえるから、やめてください」

レイナスは肩をすくめた。

この一件も、アーミアは知らなかった。

レイナスがこの時代、グラハム・エーカーのフラッグを借りて戦ったことなど、未来で本人から聞いた覚えはない。

以前の自分なら、端末を開いて記録を探したかもしれない。

今は違う。

知らない過去があってもいい。

五十年以上一緒にいても、レイナス・レノアークという人間のすべてを知っているわけではないのだから。

◆

同施設・ブリーフィングルーム

「各陣営の動きが、明らかに変わってきてるわ」

スメラギの言葉に、集まった面々の視線が中央モニターへ向いた。

刹那、ロックオン、アレルヤ、ティエリア。

そして、アーミアとレイナス。

数か月前なら、この場所へ二人揃って入ること自体、簡単には許されなかった。

今では必要と判断されたブリーフィングには参加を認められている。もちろん、ヴェーダを含めたソレスタルビーイングの全情報にアクセスできるわけではない。

それでも二人は、もう「昨日現れた正体不明の人間」ではなかった。

スメラギが画面を切り替える。

そこには各国の軍備増強、対ガンダム戦術、新型モビルスーツに関する情報が並んでいた。

「ユニオン、人類革新連盟、AEU。どこも以前より明確にガンダムを意識して動いてる。これまでの介入データも相当分析されていると考えた方がいいわね」

「当然だな」

レイナスがモニターを見ながら言った。

「一方的に殴られ続けてくれるほど、軍隊ってのは親切じゃない。同じ手札を何度も見せれば、向こうだって対策くらい立てる」

ティエリアがレイナスを見る。

「だからといって、武力介入を停止する理由にはならない」

「止めろとは言ってないよ」

レイナスは気にした様子もない。

「ただ、最初の頃と同じ商売はできなくなるって話だ。こっちの手札が割れれば、その分だけ相手の見積もりも正確になる」

「相変わらず例えが金絡みだな」

ロックオンが苦笑する。

「分かりやすいだろ?」

「お前にはな」

「長年染みついた生活習慣ってのは、そう簡単には抜けないんだよ」

アーミアはそのやり取りを聞きながら、モニターへ目を戻した。

世界は確実に、ガンダムの存在へ適応し始めている。

それは彼女の知る歴史にもあった流れだ。

ソレスタルビーイングが圧倒的な性能差を見せれば、三大国家群も黙ってはいない。ガンダムを捕獲し、解析し、対抗するために動き始める。

そして、その先に何があるのか。

アーミアは知っている。

すべてではない。

だが、忘れようのない出来事はいくつもあった。

それでも彼女は口を開かなかった。

まだ、その時ではない。

◆

数週間後――プトレマイオス

さらに時間が過ぎ、アーミアは宇宙へ上がっていた。

プトレマイオス。

初めて乗るはずなのに、不思議な感覚があった。

2364年にアーミア自身が艦長を務めていた外宇宙艦《スメラギ》とは、時代も構造も役割もまったく違う。

それでも、この船とここにいる人々の先に、自分が生きていた時代がある。

そう考えると、無関係な船とは思えなかった。

「アーミア」

「はい?」

名前を呼ばれて振り返る。

そこにはスメラギがいた。

「どうかした?」

「いえ。少し考え事をしてました」

「最近、多いわね」

「……そうですね」

スメラギは少しだけアーミアを見て、それ以上は聞かなかった。

この数か月で、彼女との距離も変わった。

アーミアが何かを隠していることを、スメラギは忘れていない。

それでも毎日のように問い詰めることはしなかった。

話せるようになるまで待っているのか。

それとも、まだ観察しているだけなのか。

そこまでは分からない。

だが、だからこそアーミアは思う。

いつかは自分から話さなければならない。

自分がどこから来たのか。

この時代の先に何があるのか。

そして、自分が知っているソレスタルビーイングの未来を。

その「いつか」が、少しずつ近づいている気がした。

◆

西暦2308年――ソレスタルビーイング地上施設

年が変わった。

西暦2308年。

アーミアがこの時代へ現れてからも、ソレスタルビーイングは武力介入を続けていた。

世界もまた、それに対抗するため変化し続けている。

そしてある日、スメラギから全員へ招集が掛かった。

ブリーフィングルームへ入ったアーミアは、中央に表示された情報を見た瞬間、足を止めた。

人類革新連盟。

AEU。

ユニオン。

三大国家群による合同軍事演習。

参加兵力の規模は、それまでとは比較にならない。

そして演習地点として表示された地名を見た瞬間、アーミアの表情が変わった。

――タクラマカン砂漠。

「……来た」

思わず声が漏れた。

隣にいたレイナスが、こちらを見る。

「アーミア?」

「……何でもありません」

そう答えたものの、今までとは違った。

ガンダムアストレアのように、自分が知らなかった過去ではない。

これは知っている。

アーミア自身がこの時代へ来るより遥か後、歴史として知っただけの出来事でもない。

レイナスから聞いた話。

ソレスタルビーイングに残された記録。

そして、自分へと繋がっていく歴史の中でも、大きな転換点の一つ。

タクラマカン砂漠。

大規模な合同軍事演習を餌に、三大国家群がソレスタルビーイングを誘い出す。

長時間にわたる消耗戦。

追い詰められていくガンダムマイスターたち。

そして、この戦いの先には――。

アーミアは無意識に右手を握った。

今は人間の肌と変わらない。

その内側にいるELSが、微かに反応したような気がした。

これまでアーミアは、できるだけ歴史へ直接介入しないようにしてきた。

自分の知る歴史では、この時代にはすでにレイナスがいる。

ならば、自分が余計なことをしなくても、大きな流れは同じ場所へ向かうかもしれない。

そう考えていた。

だが。

目の前に表示されたタクラマカンの文字を見て。

数か月前。

レイナスから言われた言葉が蘇る。

――お前にとっちゃ、ここは過去の世界なのかもしれない。でもな、五十年以上先から続く今でもあるはずだ。

過去ではない。

今だ。

ならば。

自分もまた。

この時代にいる一人なのだ。

「アーミア?」

今度はスメラギだった。

アーミアは顔を上げる。

「大丈夫?」

「……はい」

答えながら、もう一度タクラマカンの地図を見る。

まだ決めてはいない。

ここで自分が何をするのか。

どこまで介入するのか。

未来の情報を使うのか。

《アニマ》を使うのか。

戦場へ出るのか。

だが、一つだけ分かる。

これまでのように、ただ歴史を見ているだけでは済まない。

その時が。

近づいていた。

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