死に至るTS俺っ子を救うために包丁でサクサクされる話 作:かりほのいおり
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パチンとカチンコの音がした気がした。
廊下を歩く足を止めて周りを見渡すけれど、朝の廊下に人影はない。不思議な感覚、やたらとはっきりと耳に聞こえたそれが何処から聞こえてきたのか、何となく気になった。
それもこれも、いつもより早く家を出たからだろうか?
GW明けの気まぐれに心変わりを起こしたというより、四連休明けに行きたくない気分をさっさと蹴り飛ばすために、こんな朝早くに無理やり足を運んでいた
一通り周りを探してみたけれども音の発生源は見当たらず、しかたなく再び教室へ向かって歩き出す。通る過ぎる教室の全てが空っぽで、少しだけ新鮮な気持ちを噛み締めながら行く。
けれども、自分の教室に限っては無人では無かった。
それも、そいつにどういう理由があるかは知らないけれども、窓際の日当たりのいい俺の特等席を覗き込んでいる不審者が居るのだから、わざわざ早起きした価値があるというもの。
誰がやってるのかはすぐに分かった。学ランに身を包んでポニーテールに髪を纏めている奴なんて、この教室には一人しかいないのだから。
「おはよう白井」
不意に背後から声を掛ければぴょんと飛び上がり、壊れかけのロボットの様に不自然な動きで白井はこっちを振り返った。
「お、おはよう……えーっと佐久間だっけか」
「そうだけど」
不審な動きに目をつけるより先に、名前を覚えられていないほうが少しだけショックではあった。同じクラスになって一ヶ月経つというのに。まあほとんど事務的な会話しかしてないから、実際仕方ないのかもしれないけれど。
「それにしても俺より早く来てるなんて驚いたな、これから部活?」
「そういう訳じゃないんだけど、いや、まあそんな感じだな」
「……? はあ、なるほど」
これを機会に会話を繋げようと思ったけれども、相手の返答もしどろもどろ、何処かよそよそしくこちらに目を合わせようもしない。
なんとなく言葉に詰まって、気まずい空気だった。それを中和するべくキジバトの呑気な鳴き声が窓の外から流れてくるけれども、この場においてはなんの役にも立ちやしない。
「じゃ、じゃあ俺これから用事があるから」
「お、おう、まあ頑張れよ」
白井がバタバタと教室の外へと駆け出していくのを見送りながら、一つため息をつく。
全く、何をやってるのやら。
自分の机で何をしてるのか単刀直入に聞けばいいのに、それを聞く度胸すらないのだから救われない。
まさか、あいつからのラブレターが入ってるなんてこともないだろう。そこまで自惚れてる訳でもないけれど、それでもほんの少しだけお祈りしながら机の中へと手を突っ込んだ。
手に当たるのは置き勉した教科書の滑らかな表紙、それに教科書より一回り小さいごわっとした感触。
それに触れた瞬間、心臓が跳ね上がる。その鼓動を必死に抑えようと努めて、手をそっとそれを抜き出して。
手に取ったのは確かに自分の見知らぬ封筒。
いや、正確に言えばほんの少しの既視感があった。それの原因がわからないまま、そっと封筒をひっくり返して。
その瞬間、ばちんと視界に星が散って見えた。
崩れ落ちそうになる体を慌てて机に手をついて支える。
捲った先、封筒の宛名が俺の名前ではないということにショックを受けたというのは確かにある。でも、それが一番大きな衝撃ではない。
ぼやける視界で黒板を振り返る。
そこには5月7日(水)もしっかり記されて、今は懐かしい名前が日直として挙げられていた。
辛うじて椅子に腰を下ろす。
今起こっている現実にどうにも理解が追いつかない。
あの時、確かに俺は橋から突き落とされたはずなのだ、そうして川で溺れて意識を失って、それからどうしてここに流れ着くのだろう。
死の間際に走馬灯でも振り返っているとでもいうのだろうか。
走馬灯のなかで行動の自由があるなんて新発見だな、目が覚めたら酒の話題にでもできるに違いない。
まあ、次に目が覚める保証があるかもわからないけれども。
でも、死んだら死んだでそれはそれでいい気がした。
あいつはもしかしたら悲しむかもしれないけれど、もう一度生きてる白井に会えたのだから、俺としてはその代価をちゃんと貰えている。
それに、もしかしたらずっとこの夢が続くかもしれない。
死後の世界とはこういうことなのかもしれない。
人生の分岐路に巻き戻ってやり直すチャンスを貰える、要するに前提知識あるの強くてニューゲーム。
それなら俺はどうするべきだろうか。
白井が間違って俺の机に入れてしまった封筒を、意味もなく片手で弄んでいた。中身を確認するまでもないだろう、これが追憶であるとするならばその内容が過去と変わる訳ではないのだから。
手紙の中身を変えるための行動の機会は無い、今提示されてる選択肢はこれをどうするか。
もちろん、どうするかは決まっている。
手紙を親切に俺の前方の机に移すことなく、鞄の底へとそっと仕込んだ。
これでちゃんと後悔を無くせるはずだろう。
⚪︎
退屈な授業をやり過ごしながら、教室の最前列にいる白井の背中をぼんやりと眺めていた。朧げに記憶にしか残ってないあいつが、今は確かに生きている。
この頃は俺とあいつにまだ大して繋がりもない時期。このあとの放課後で白井が振られてから、自分たちの仲がようやくスタートを切ることになる。
こんなに近くにいるのに話しかけられないもどかしさ。だからと言って段階を経るべきところを、前提知識を元にいきなり距離を詰めることができるはずもない。
「お前、成人式の日は気をつけろよ」
なんて、ほとんど縁のないクラスメイトに話しかけられるのはあまりに恐怖体験がすぎるだろう。
親密度でやれることが決まるのだ、そしてそのための関係性がまだ結べていない。今の自分がそんな犯罪予告スレスレの予言をしたところで、気味が悪いと思われて距離を離されるだけ。
結局、放課後までやったことはラブレターを盗んだだけ。
変わったのはこの一つだけだろう。意識しないところで何か変わってるかもしれないけれども、この選択で何が変わるというのか。
一足先に教室を抜け出した白井の背中を見て、慌てず騒がずちゃんと鞄を携えてゆっくりと歩き始めた。
クソボケは今回、校舎裏に現れない。
それはつまりラブレターの不発ということ、白井は何も知らないまま待ちぼうけをして、最終的に自分の恋の終わりを知るだろう。
恐らく、それは前回の世界となんら変わりはない。
クソボケは何も知らない。
そのまま変わらぬ友人関係は続くかもしれないし、それとも白井から自然と距離をとることになるかもしれない。
前回の絶縁状態と比べたら、多少良化だろうか。
じゃあ、俺はどうなるのだろうか?
白井と繋がるためのイベントが無くなったら、今の俺はどうなるのだろうか?
他人の失恋イベントを踏み台にして距離を詰められたという一面は認めざるを得ない。それがなかったとしても問題仲良く仲良くなれたとは言い切れない。
まあ、そうだとしても、今回横槍を刺しこんだことに後悔はないのだけれども。むしろそうすることでようやく、心の楔として打ち込まれた後悔を振り解けるのだから。
「……って、一人だけ損するっていう算段を立てたんだけどなぁ」
校舎裏の人気のないところで、誰かが声を殺して泣いているのをじっと聞いていた。
これがラブレターを入れ替えなかった先の結末だ。
前と何の違いもありゃしない。俺のせいで泣いてるのか、クソボケのせいで泣いてるのかの違いでしかない。
当の本人達は何も気づかぬまま、無実の罪を着せて着させて。その事実を俺だけが知っている。
全く、なんて大悪役の立ち回り。
太腿を一度強く抓って、一度大きく咳払いをした。
まだ夢は覚めない、それならばやるべきことを全部やらなければ。
警告は功を奏したのか、白井はこちらに背を向けて顔を拭っているようだった。
きっと、そのまま何事もなかったかのようにスルーしてくれと願っているだろうけれども、そうは問屋が卸さない。
「今日は偶然、機会が噛み合うな」
「……ああ、佐久間か。こんなところに何しに来たんだ?」
こっちのセリフだよとは言えなかった。
だって相手がどういう目的でここに来ているのか知っているのだから。必死に笑顔を取り繕ってはいたけれど、やっぱり目は赤く充血したままで全部綺麗に取り隠せるはずがない。
「散歩、暇つぶし、そっちは?」
「まあ、うん……隠しても無駄か」
ずるずると壁に寄りかかって腰を下ろして、ポツポツと言葉を漏らした。
「俺はね、告白するつもりだったんだよ。慣れない手紙を書いて、好きになっちゃいましたって下手なセリフを入れて、もしよろしければここに来てくださいってラブレターを書いてさ」
「それで、失敗したと」
「そ、だーれもきやしない。てっきり咳払いを聞いた時は来たかと思ったけれど、結局お前だしな」
ほんと期待外れだよ、そう言ってまた腰を上げた。
「ま、どうせ無理だと思ってたし、諦めはすっぱりつきそうなんだけどな」
「その割には泣いてたように見えるけど」
「花粉アレルギーなんだよ、花粉。ブタクサな」
そう言って時期ハズレの花粉をあげて、力無くヘラヘラと白井は笑っている。
その姿が俺にはどうにも前よりも悪化しているように感じたのだ。あのこっ酷く振られたあの時より、ずっと虚勢を張っているようにしか見えない。
もしかして、何かを間違えたのだろうか?
首を振ってその考えを追い出そうとして、それから目を逸らすために何となく口を開いた。
「白井はさ、そいつのことをなんで好きになったんだ?」
「何でだろうな……冷静になればわからない、でも、好きになるのに理由がいるのか? 理由はわからなくても、無性に他人のことを欲しくなって、他にあげたくないと思うのならそれは恋っていうんじゃないのか?」
好きになることに理由はいらない。
なるほど、言われてみればたしかにその通りなのかもしれない。
俺が白井に恋をした理由は何だったか。一番初めにそれがあることを認識したのは、そのラブレターを見た時のような気がした。
それが自分のうちにあることをわかればいい。
本当の始まりがわからなくても、自分が相手に抱く感情が恋だとわかっているのなら、心が勝手に体を動かすのだから。
「実際のところ、直接面と向かって振られるのと間接的に振られるのどっちが良かったと思う?」
自然とそんな問いが口から出る。
それを聞いて、当然のように白井は言った。
「どっちでもまっぴらごめんだね。振られるならどちらにしろ、結末は何も変わらないだろ?」
間接的に振られる方がまだマシと答えて欲しい。
そうであれば自分の行いに確信を持てたのに、俺は。
それを聞いたからには、GOサインが出たのも同義だった。
後悔をやり直すために来ているのに。このままでも未練も解けるというのに、あまりに自己満足なことをやろうとしている。
「んじゃ、俺はそろそろ行くから。さようならだ」
「おう、また明日……そういえば!」
取り返しのつかないことになるという警鐘を振り切る
これが走馬灯であるならば、何をやったって自由なのだ。もうすでに全部終わったこと、それならば全部こっちのやりたいようにやらせて貰おうじゃないか。
気怠げに振り返った白井に向けて、とっておきの一枚を引き出した。
「最後に、これ、なんだと思う?」
「……は?」
ぽかんとした表情は一瞬、瞬く間に顔が面白いぐらい真っ赤に染まった。なかなか愉快な光景だ、ここまで一泡吹かせたことは前を含めても記憶になかった。
だが、それを面白がって観察をしている暇はない。相手が正気に戻るより先に脱兎の如く逃走を開始した。
逃げ切れるだろうか?
重い身体を必死に動かしながら算段を立てる。確か、白井は相当に運動神経が良かったはずだ、まともに追いかけっこをしていたらすぐに追いつかれるだろう。
だが、校舎裏を抜けさえすれば、人混みに入り込みさえすればワンチャンあるかもしれない。
あまりに薄い希望、後ろから追いかける足音の近さを考えればそれもほぼ不可能に思えた。
曲がり角を曲がるちょうどのタイミング、それを見据えて減速した俺の脇腹に突き刺さるドロップキック。あまりにあっけない逃走劇の幕切れ、おそらく10秒もたっちゃいない。
鞄は無惨に吹き飛ばされて、自分ももんどり打って倒れながらも手紙はちゃんと掴んでいた。ほっとするのも束の間、胸ぐらを掴んで引き起こされる。
「なんのつもりだよ、佐久間」
さっきの力無い表情はどこへやら、怒りに燃えるそれは俺のよく知っている白井の顔。
そうだよな、お前はそういう奴だった。
「手紙の差し出し先を間違ってたんだよ、白井。お前は俺の机に手紙を入れたんだ」
前後間違い。教室の配置を思い出しているのか、その可能性を考慮して一瞬動きが止まった。
本来なら、間違えることはなかったのだろう。念には念を入れて机の配置を最終的に確認していたはずだった。
けれども途中で運悪く俺がやってきたから、その手間を省いてしまったのかもしれない。
おおよそそんなことを考えているのだろう。さっと顔が青くなって、また直ぐに赤くなる。あ、う、と思考がオーバーヒートして蒸気が出そうにして思わず茶々を入れたくなった。
「ま、ぬ、け」
ゴンと鼻に強い衝撃が走る。
煽りの代償は頭突き、ぷつりと血管が切れる音がして、鼻血が溢れる気がするけれども間違いなく自業自得だった。
煽られて少しだけ頭が冷えたのか、白井は冷たい視線で俺のことを見下ろしている。こっちが鼻血を出してようが知ったこっちゃないという様相で言うのだ。
「間違ってるのがわかってるなら、入れ替えてくれれば良いじゃねえかよ。それぐらいの優しさもないのか? それとも何だ、お前は俺のことを笑いに来たのか? 俺は見せ物だとでも?」
「いや、そうは思ってない」
「じゃあ何だってんだよ」
「……俺が、嫌だったから」
「何?」
俺は何で手紙を入れ替えなかったのだろうか?
その告白が失敗するという前提知識は確かにあった。
そこから白井が傷つくのをみたくないという殊勝な考えを行動に移したとでもいう主張するつもりか?
それは違うだろう、一部要因としてあったとしてもそれは主要因ではない。
「本当にさ、自分本位な理由なんだ」
困惑の色が瞳に浮かんでいた。まだ殴打されても仕方がないと思ってそれを受け入れているとうのに、その権利すら忘れて白井はじっと俺の答えを待っている。
俺の後悔は何だったのか?
いまだにちゃんと覚えている。
そう、初めに手紙を入れ替えた時に俺は願っていた。
ああ、きっとこの告白が失敗しますようにって。
そうしたら自分にもチャンスが来るって。
だから、自分の選択の結末を見に行った。
望むべき結果は確かに手に入れることができて、願いは叶った。
でも、代償として後悔を背負った。
失敗する事を祈って作った関係性に何の意味がある、人を傷つけてまで得たこの友情に何が。
始まりのところで俺たちは関係性の構築を失敗していた、どこか致命的なまでに捻じ曲がっていた。
「このタイミングじゃないと、チャンスはないって分かってるんだ」
「だから、何のチャンスかを俺に教えろって言ってんの」
直ぐにわかるというのに、白井はそう答えを急かす。
きっとこれで未練は解けるだろう。もしかしたら未来は今よりずっと悪い方向に進んで、白井とまともに話すこともなくなるのかもしれない。
それでも、まだマシ。
トロッコのレールは、切り替えない。
きっと、白井はまたちゃんと失恋するのだろう。
もしかしたら、その弱みに漬け込んで以前と同じ関係性に至るのかもしれない。
だが、そんな未来は選ばない。
それより先に俺が全部潰す。それを望むのであればちゃんとしたやり方を経由しなければいけない。
他人のおこぼれを拾うやり方ではなく、自分から動かなければいけない。
それが、後悔の解き方って奴だろう。
「白井、俺は、お前のことが好きだったんだ」
結局、前の世界では最後の最後まで言えなかった言葉。
所詮は友情止まり、最後は喧嘩別れで顔も合わせることもなかったあいつに、ようやく。
「ごめんなさいに決まってるだろ、馬鹿」
そうして呆気なく振られるのも、また当然。
失敗するのが大前提、それをちゃんと覚悟していたのに、やっぱりどうしようもない青空が目に沁みるのだ。
気がつけば、ずっと馬乗りに乗ってた白井も俺の上からどいていた。
「そもそも、他人に告白しようとしてる奴に告白してうまく行くとでも?」
「さあ、でも、告白に成功したのなら今しかチャンスはないだろ?」
「ははん、お前は俺が上手くいくと信じたわけだ」
全くの見当違いだ、俺は告白が失敗することを確信しているというのに。何にも分かっちゃいない、それでも先ほどと比べれば上機嫌な白井を見れば少し心が晴れた気がした。
鼻血は全く止まらないけれども、それでもずっとマシな気分。
「誰がお前のことを好きになるかってーの、全く勝手なことしやがってさ」
「何もしてないけどな、ってかポケットティッシュ持ってる?」
「いーや、したね」
試しに鞄をあさってみたけれども、白井も空っぽの両手を示すばかりで俺も持ち合わせていない。
仕方なく保健室へ向かおうとすると、隣をピッタリと付いてくる。
いく先が同じなのだろうか?
試しに足を止めてみると白井もまたすぐに足を止めた。どこへいくつもりだよと言おうとして、無用な口論になる気がしてすぐに諦める。
まあすぐにどっかにいくだろう、片手で鼻を押さえつつトボトボと歩く。たまに通り過ぎる生徒にギョッとしたような顔で見られるけれども知ったこっちゃない。
周りに人気が失せたところで、不意に背中に張り手のような衝撃を感じた。それの原因が誰なのかは考えるまでもない。
「俺のことを好きなら手紙を握りつぶしてみなかったことにすればよかったのに、ほんと馬鹿な奴。そうして弱みに漬け込めば良かったんじゃねーの?」
「泣いてるやつを見過ごしたらさ、男が廃るんだよ」
「何じゃそりゃ」
ふはと白井は変な笑い声を上げた。
「こっちが校舎裏で泣いてたから罪悪感に駆られて飛び出してきたとでも?」
「まあ、正直に言えばそういうこと」
「俺に嫌われるとは思わなかったのか?」
「その時はその時だろ」
即答、ようやく保健室に辿り着いて振り返れば、少し離れたところで白井が立ち止まっていた。
「……ふん。ま、俺は別に気にしてないけど」
そう呟きながら、俺より先に保健室の扉に手をかけた。アンラッキーなことに保険医もちょうど席を外している様子。
仕方なくそこら辺にあったティッシュを鼻に詰めていると、ふと白井の行動が目についた。
保健室の片隅にあるゴミ箱へ近づいていき、無造作に取り出したのはさっきまで俺が持っていた封筒で。白井はそれをおもむろに真っ二つに引き裂いた、四つ八つ十六つと、どんどん取り返しのない形へ成り果てていく。
改めて出せばいいのに、そうする理由が俺にはさっぱりわからない。
口も挟めずそれを見ているうちに気がつけばラブレターだったものは残骸へと成り果てて。
当然の行き先の如くゴミ箱へと投げ込まれ、一仕事を終えたと言わんばかりに手を軽く叩く。
「これはな、送り先を間違えた手紙だ」
白井は、くるりと振り返ってそう言った。
「俺が出し先を間違えて、本来は届くはずがなかった手紙なんだよ」
善意の第三者は、前回は現れた。
何も言わずに宛先を変えた奴。
でも今回は、そいつは現れない。
「これで良い。うん、お前は何も気にしなくて良い」
白井は、俺のために破いたのだ。
俺が自分が損をする行動だと分かっていながらとった行動。それを補填するために、本来届くはずのなかった手紙を不通の手紙として扱った。
「手紙はそのうち新しく書くよ、今度は出し先を絶対に間違えない」
呆気に取られてぼんやりと突っ立っている俺を放置して、白井は保健室から出る直前、何かを思い出したように振り向いた。
「それと、お前とはとりあえず友達からな」
パッと花開く笑顔に撃ち抜かれて。
それから、そのまま。