死に至るTS俺っ子を救うために包丁でサクサクされる話 作:かりほのいおり
でも遅れるかも
⚪︎
パチンとまたカチンコの音がした気がした。
立ちくらみのような感覚に首を振る。
ぼやけた視界が引き戻されることに大した時間はかからなかった。少し周りを真渡せば本棚や学習机から中身は抜け落ちて、かわりに床に数個段ボールが置いてあった。
「これは……俺の部屋、だよな?」
確信が持てないけれど、確かにその筈だ。
今ここに立っている場面に繋がる記憶がないのだ、その代わりにさっきまでの保健室でのはっきりと記憶が残っている。
不思議な感覚だった。そのタイミングで自分の記憶を切り取って、そこにぺたりと貼り付けみたいに。
どのタイミングかは予想がついているけれども、念のためズボンのポケットを漁れば懐かしいプラスチックボディのスマホが見つかった。
安っぽいスマホを思わず鼻で笑いつつ3/18という日付を見て、一つ確信を抱く。
「こっちから引っ越す最終日、か」
どうやら俺は、後悔をめぐる旅をしているらしい。
前回はラブレターの取扱いという選択だった。
最終的には渡したけれどもその過程は全く異なり、しかも手紙はバラバラに引き裂かれる始末。
それにどういう意味があったのかはわからない。
俺が何かをするための猶予期間というやり方だったのかもしれないけれど、その選択の後に俺と白井がどういう関係に至ったのだろうか?
LINEのやり取りを遡るも、特段前の世界とは何も変わりがないように見えた。俺が告白したにも関わらず前と代わりない友人関係を続け、挙げ句の果てには前と同じ轍を踏んで冷戦期間に突入しているようだ。
「学習能力のない奴……」
まったく。
ハンと鼻を鳴らしてポケットにスマホを突っ込み、ついでに財布も放り込んで部屋を出る。
まあ、仕方がないことかもしれない。
あの大立ち回りをした時の記憶を、昔の自分が覚えているのか割と疑問に思えた。その記憶が残っていないのであればもっと上手く立ち回れているような気がするのだ。
もしかしたら今の自分は過去を追体験して、知らない分岐を選んでいるけれども、これは単純なやりなおしではないのかもしれない。
そう、たとえば二重人格と呼ばれるものだったり。
それならば、なんとなく今の現象が説明できるような気がした。
普通の生活を送る自分と過去の失敗を踏まえた俺が、その二つが記憶を共有もせずに、一つの体に共存しているのかもしれない。
「まあでも、結論を出すのは俺じゃなくて医者だしな」
そして俺もまた医者の教えを乞う気はさらさらない、そこに白黒つける意味は全くないし、何より時間が惜しい。
そっと廊下の扉を開いて、ギリギリまで両親が荷造りしている音を聞きながら、静かに音がしないように家を出る。
あの日使っていた荷台付きのママチャリは、まだ玄関横に置かれていた。
三月にしては肌寒い気温の中、風を切ってママチャリは進んでいく。
目的地である白井の家が何処にあるかはちゃんと覚えていた。本来の歴史であれば、喧嘩別れのまま、口を聞かずにそのまま引っ越したのだけれども。
今回の後悔はきっとそれだろう。
同じ高校へ行けないことの不満で白井は露骨に気を悪くしていたし、俺は俺でどうしようもないだろと意地を張っていた。互いの意地の張り合いの結果、冷戦は長続きし最終的には俺は何も言わずに街を出たのだ。
喧嘩別れをした事、それ自体が後悔かと言われれば少し違う。
正確に言えば、喧嘩別れした事で約束していた事を果たせなかった事。高校に合格したらお祝いにどこか遊びに行こうと約束をしていた。
それを流したことだけが心残りだった。
急ブレーキを踏んで家の前。
呼び鈴を押すより先にスマホを取り出して通話ボタンを押した。出ないなんてことは考えなかった、あいつならばきっと出てくれるだろうという信頼があったから。
『……いきなり何の用だよ』
「早く窓の外を見ろ、それで直ぐわかる」
『はあ?』
不機嫌そうに返事しながらも疑うことはなく。半纏姿が様になっている白井が窓からひょっこりと顔を出して、思わず堪えようのない笑顔が溢れる。
「ほら、今から約束を果たしにいくぞ!」
あいつに届くように、大きな声で。
⚪︎
相変わらずのポニーテール。
大して飾り気もなく、いつも通りの格好で白井は降りて来た。何で直前に連絡するんだよとブツクサ文句を言いながらも、結局は後ろの荷台に腰掛けているだから慣れたもの。
まだ喧嘩してる最中なのに、どちらも頭を下げてすらいないのに、それでも求められれば出てくるのだから全く不思議な関係に思えた。
まあ、だからこそ喧嘩が長引いたのだろう。
どちらが悪いかを決めかねて、最後までそのままにした。
期限を知っていたのは自分だけ、期限がいつか来ることを知りながら見ないふりをしたのは白井で。
はたしてどっちの方が悪いかと聞かれたら間違いなく俺と答えるけれども、白井だったらどう答えるだろうか。あいつなら、自分の方が悪かったと答えるのかもしれない。
全くそんなことはないというのに。
「で、約束ってどこまでいくつもりなんだよ」
「そりゃ海まで行くに決まってんだろ」
「はあ!? ちょっ、止まれって!」
止まれと言われて止まる馬鹿はいない。
呆れた声を振り切って、風を切ってペダルを漕ぐ。
スピードを落としたいのなら足を地面に擦り付ければ良いのに、しょうがなく背中にしがみつく体温が湯たんぽみたいにやたら暖かかった。
ふと耳に懐かしい着信音が届いた気がした。
そのうち切れるだろうと黙ってペダルを漕ぐけれども、切るまでかけるといわんばかりに再度なり始める。
仕方なく木陰に自転車を停めて、誰からの電話か確認することもなく電源を黙って切る。まあ、きっと両親だろう、引っ越しの直前にどっかに逃げ出したことにようやく気づいたに違いない。
「……出なくていいのか?」
「俺さ、本当は今日引っ越しなんだよね。現在進行形で脱走してるわけだけれど」
「何で俺を巻き込んでるんだよ!?」
「じゃないといつまで経っても海に行けないだろ」
天国に行くためには海に行かないといけない、天国で海の話をするために。ふと、そんなフレーズを思い出した。
なるほど、もしかしたら海に着いたら未練も果たされて、川の中で意識を取り戻すのかもしれない。
そんな嫌な想像をしてブルっと身が震えた。
「ってか、こういう話を直前で言うべきじゃないだろ。わかってたら見送りにも出たし、海に行くのも余裕を持って計画できたのに」
「見送りはしなくていいよ。なんかこう、湿っぽい空気になりそうだしさ。お前が来るとさあ、絶対今生の別れみたいな雰囲気を醸し出すだろ?」
「誰が泣き虫だって……?」
「俺はそんなこと一言も言ってないけどな!?」
背後から頭蓋にアイアンクロー、馬鹿騒ぎをしながらそれでも自転車は進んでいく。
俺だって、もっと前に戻りたかったさ。
本当に、心の底から、こんな何も選択肢が限られる直前じゃなくて、もっと前に戻ってくればのにと思っている。
そうすれば真っ先に素直に謝って、引っ越しまでの間、もっと一緒にいる時間も増やせたのに。
後悔後先に立たず、ぼんやりとしている俺の背中を軽く叩かれて意識が引き戻される。
「ちょっと、コンビニに寄ってくれ」
「あいよ、トイレか?」
「お前にデリカシーという言葉を是非教えてやりたいよ」
呆れたようなため息を背に、丁度通りかかったコンビニへと自転車を停めた。
結構進んだ気がするけれどもまだまだ遠い。と言うか現実的に海を目指すならこんな自転車じゃなくてさっさと駅を目指して、そこから電車を使ってめざした方がいいに決まってる。
まあ、そうできない理由がちゃんとあるのだけれども。
「こっから海まで後どれぐらい?」
「さあ、3時間ぐらいで着くんじゃないかな」
「マジでノリと勢いで生きてるよな、お前」
コンビニへ入ろうとして、けれどもUターンをしてすぐに戻ってくる。そのままぐいっと胸ぐらを掴まれて、目を覗き込まれて思わず面食らう。
「な、何?」
「……お前、本当に佐久間 稔か?」
「は?」
思わずキョトンとする。
返す言葉も洒落た返しも思いつかず、どういう意味かと戸惑っているとパッと服から手を離した。
「なんか、そんなことはありえないとわかってるんだけど、お前、やっぱりいつもと違って変だよ。なんというかこう、いつもと違ってブレーキが壊れてる」
「否定はしない。でも今日が会える最後だから、そういう気分なのも仕方ないだろ」
「そうかもしれないな。でも、俺が知ってる佐久間はそういう奴じゃなかった。あいつはな、肝心なところで最後の一歩を躊躇うようなやつだった」
それはまさしく以前の自分を言い表すのに相応しい言葉で、思わず苦笑いがもれる。その一歩を踏み越えられるような人間だったら、もっと楽に生きれたかもしれない、そして成人式にも向かっていただろう。
そうでないからこその自分で、その悔いを晴らす為に俺が今ここにいるのだから。
「これと似たようなことは前にもあったよな。あのラブレターの時、あの時の佐久間は今と同じようにものすごくぶっ飛んでいるように見えた」
「そんなことはないと思うけどな、後悔しない為に行動するのは誰だってそうだろ?」
「それだよ、やっぱりお前は佐久間だけど佐久間じゃない」
引っ掛かった、そう言わんばかりにぴたりと俺のことを指差して言った。
「だってお前は、あの時のことを何一つ覚えてなかったじゃないか」
ガツンと衝撃を喰らった気分だった。
間違いなく盲点の一撃。果たしてそれが本当なのか、ハッタリなのかもわからない。ハッタリであるならば真っ先に否定しなければいけなかったけれども、俺は何も言い返せない。
勝負はついたと言わんばかりに白井は肩を竦めてコンビニに入っていった。
なるほど、たしかに。
ちゃんと底の底まで見抜かれた、それでもやりようはある。
ここで旅程は終わりだとしても、全部曝け出してしまえばいいのだ。俺が未来に起こることを知っていることも、心の楔になっている後悔をやり直そうとしていることも。
帰ってきた白井はコンビニ袋を一つ携えていた。
日は高い、もしかして昼飯だろうかと眺めていると、袋から取り出すのはガリガリくんコーラ味×2本。
「一本100円で買うか?」
「どんなぼったくり商売だ……わかったよ、買うよ」
俺に2本食わせる気かよと咎めるような視線に責められて、ポケットから財布を取り出した。
中身はやっぱり残金が乏しい、白井はその財布をじっと見つめていた。
「佐久間……その財布バリバリさせるのやめろよな、一緒に居てまじで恥ずかしいから」
「うるせえよ、こっちの勝手だろ」
「ふん、で、話したいことがあるんだろ?」
そらきた、アイスを袋から取り出す暇もなく弾が飛んでくる。
どう返すかは決まっていた、口を開こうとして。
「どうした?」
「……ちょっと待て」
どうしても口が動かないのだ、自分が未来を知っているという事実を告げようとした瞬間に、縫い付けられたように舌が固められてしまう。
まさか、やれることにきまりがある?
未来がある程度の範囲内に収まるように、こっちの動きを決められている?
訝しげにこっちを見る白井を置いてスマホを取り出した。
電源の再投入、着信履歴をスルーしてメモ帳に文字を打ち込もうとして、けれどもやっぱり体が動かない。
伝えられない。
これから何が起こるかを、俺がここにどうやってきたかすらも。恐らく例外はないのだろう。俺がそのことを伝えようと動けば、その意思に反応して勝手に静止がかけられる。
「……食わないのか、アイス」
「……ああ、溶ける前に食わなきゃな」
こっちの様相が変わったのに気がついたのか、白井はそれ以上の追求。しようとしなかった。
ただ、じっと俺が答えるのを待っている。
どこまで言える、どこまで正直になれる?
未来のことは言えないにしても、どこまで腹を曝け出せる?
「とにかく、俺は間違いなく佐久間 稔だよ」
「それは分かってる、でもお前は俺に何かを隠してる。それをちゃんと話してほしいんだよ」
俺は未来に起こる事を知っている。
お前は成人式に行く途中で死ぬ。
悉くが規制に引っかかる、まるでその事実だけは捻じ曲げられないというかのように。酷い頭痛がする、だが、ここで平静を失ってもどうにもならないことも分かっていた。
「言えない、悪いけどこれだけで察してくれ」
「……じゃあ、今日の目的は?」
「一緒に海に行くために」
その言葉に嘘が混じってないか、俺の目をじっと覗き込む。
顔が近づくだけで思わずドギマギするけれども、少しして何事もなかったかのように離れていった。
「今だけは、仕方ないから信用してやる。それと、お前は本当にどうやって海まで行く気なんだよ」
「そりゃ、川を下っていけばそのうち海までつくだろ」
溶けかけたアイスを一気に口へ放り込む。
はずれ、白井は呆れたような顔をして再び荷台に腰掛けていた。
「お前、本当何も考えてないよな。今回は仕方ないから俺が案内してやるけど」
「っても、案内されるまでもないと思うけどなぁ」
「いいからこっちの指示に従えっつーの!」
もう少し進めば河川敷に着くのに。
そこからダラーッと降って行けば海まで行けるというのに、あまりに計画性のない青写真を訂正するべく、後ろから指示が飛んでくる。
俺が目指す道から逸れて、気がつけば知らない道に入り込んでいた。前方には高架鉄道、それに沿って進めと指示が飛ぶ。
「本当にこっちであってるんだよな?」
「失礼な、最短経路を選んでるつもりだよ」
嘘つき、内心でそう呟く。
気が付けば白井は荷台から飛び降りて、俺の隣をゆっくりと歩いていた。
スピードを合わせるべく、俺も自転車から降りるしかない。後ろに戻れと指図できるはずもない。
「だからさ、海に行きたいならこういうやり方なんだよー
そういって、白井はぴたりと足を止めた。
目線の先には駅、最終通告。
「ここが終点だ、俺たちはこのままじゃ海まで行けない」
返す言葉もない。
今日じゃなきゃいけないのに。
俺たちはこれ以降会うことはないのに、それを言葉に出せない。
「冷静に考えればさ、ここから海に行くなら電車を使うだろ。その方法が目の前にあるのに何でそうしない」
「……考えなしだから」
「ふーん、そう。じゃあ、お前その場でちょっとジャンプしてみろ」
「カツアゲはよろしくないと思うんですけどね、俺は」
抵抗虚しくマジックテープの財布を晒される。
あまりに貧弱な中身だった。少しは未来を予想して節制を試みてくれよ、過去の自分よ。
まあ、あの頃は喧嘩もして内心でやさぐれてたし仕方ないかもしれないけれど。隣から感じる冷たい目線を無視して現実逃避を重ねていると、白井の声が滑り込んでくる。
「結局、俺たちには金がない。引き返すならここが限界なんだ、そしてお前にはもう時間がない」
時間、それは引っ越しまでのタイムリミット。
「お前のことは信頼してるよ。あんな馬鹿なことをするぐらいなんだから、どれだけ正直に生きてるか俺だって分かってる」
そう言って、白井は俺を置いて歩き始めた。
慌ててコンビニの駐輪場に自転車を置くけれども、それすら待たずに進んでいくから鍵をかける暇もない。
駅の構内をとおって、改札前。
このままじゃ、俺は後悔を果たせない。
それはいい、別に俺の後悔はどうでもいい。
今の最優先は白井が死ぬという未来を変えること。
今ここで何か行動を取らなければいけないのだ、次回のやり直しがあるかもわからない。ここが俺と白井とあった最終地点、次があるかもしれないなんて皮算用をする方が馬鹿だろう。
でも、俺は未来に起こることの警告もできないのだ。
どうすればいい、どうすれば未来を変えられる。
白井の手を掴もうと手を伸ばして空を切る、それでも必死に振り向かせようと口を動かすことしかできない。
「約束は、約束はどうするんだよ。全部終わったら一緒に行くって約束しただろ!?」
「馬鹿だな、別に今じゃなくても良いだろ? 今よりずっと自由に時間が使えるようになってからでも間に合うんだから」
「それは……っ」
違う、俺には今しかないのに。
「おおまけだよ、特別に、お前が来るまでずっと待っててやるから」
言えない、口が動かないのだ。
それは無理なんだよ、俺はお前に会いにいくことはなかった。
やっぱり俺が全部悪かった。そのための機会はお前が提示してくれていたのに、俺たちは大人になっても会えなかった。
どうしようもない俺を置いて、白井は改札へと消えていく。
それから、そのまま。
⚪︎
パチンとカチンコの音が聞こえたような気がした。
ガバリと勢いよく起き上がれば目の前には河川が広がって、街並みを朝日が照らし始めている。吐く息は白く煌めいて掻き消えていくのだから、今ここがどこなのかは大体予想がついた。
一番初めの、あの川に戻って来ているのだ。
念のために体のあちこちを確認するけれども痛むところはどこもない。それどころか衣服に濡れてるところも、スマホが水没した形跡もないのだから、あの時川に落ちた記憶ですら夢のような気がした。
そう、全部夢だったらよかったのに。
ちゃんと分かっている。あのニュースは間違いなく現実だったという事を、いくら酔っていたとは言えあんな悪夢を見るはずがないということも。
欄干から身を乗り出して落下した先が河川敷で、そこからずっと夢を見ていたのだろう、きっとそんな気がした。
もしかしたら夢ではなく走馬灯かもしれないけれど、そこらへんは大差がないだろうからほっておいてもいいだろう。
そういえば。
土手で寝そべっていたせいで凝り固まった体をほぐしながら、家に放置してしまったあいつのことを思い出す。そのままふらっと家を出て一向に帰ってこなかったから、結構心配させてしまったかもしれない。
まさか、探し歩いて出歩いていたりはしないだろうか。今まで自分が目を覚まさなかった事を考えると、そこらへんで力尽きてぶっ倒れているかもしれない。
そのまま、野垂れ死でもされたら夢見が悪くなる。
まあ、きっと家にいるだろう。
スマホに心配をする連絡も入ってなかったし、きっとそのまま酔い潰れたに違いない。
家に向かってとぼとぼと歩いていると、タイミングよくあいつの人影が見えた。
「悪い、もしかして俺のこと探してたか?」
「……ッ」
さっと幽霊を見たかのように顔を青ざめるのを見て、思わず首を傾げる。流れるようにペタペタと容赦なくこっちの体を触って実在を確認するけれども、そうする意味がわからない。
「いや、お前、なんでここにいるんだよ」
「何でって、そりゃ昨日一緒に酒を飲んでたから」
「違うだろ! お前は今日成人式に参加する予定じゃなかったのかよ!?」
あわあわと時間を確認するのを見て、思わずぽかんとする。
理解が追いつかない、今日の成人式に俺が参加する予定?
何を言ってるのか分からない、だが。咄嗟に取り出したスマホの日付は、確かに1月11日を指している。
まだ、間に合う。
事件が起きた時間はいつだ? 分からない、そこまで詳細にニュースを見ていなかった、そこから目を逸らそうとしていた。
慌ただしく思考が回り始める、最優先は白井を成人式の会場に行かせなければいい。そもそも俺が現地に行くまでもないのだ、そうしてしまえば最優先目標は達成できる。
隣で騒ぎ立てる彼女の口を塞いで、俺は通話ボタンを押した。
『……何だよこんな朝に、これから会うんだから今電話かけてくる必要ないだろ』
警告しろ、今日の成人式に行くなって言ってしまえ。
『何とか言えよ……もしかして、寝ぼけてるのか?』
そうじゃない、そうじゃないんだ。
どうしたって口が動かない、まだルールは適応されているのか。
『ったく、変なことしやがって、それじゃもう切るからな』
そう言いながらも、白井はまだ電話を切らない。
俺が何かを言う事を期待して、じっとそこで待っている。
「……今から、今度こそそっちに向かうよ」
『知ってるよ、んなの。ってか早く来い、久しぶりに話したいことはたくさんあるんだから』
通話が切れる、もう俺には実力行使しか残されていない。
時間を見る、服装を変える暇もないぐらいのギリギリのタイムスケジュール、間に合うか? いや、間に合わせる。
「悪い、俺はもう行かなきゃ」
「おう、さっさと行っちまえよ。こっちは一人寂しく酒飲んで待ってるからさ」
勢いよく背中を押されて、冬の空気を噛み締めて俺は走り始めた。