ハリー・ポッターと時を止める少女 作:メイドと血の魔法学校
「まずは買い物に使う金をどうにかせんとな」
ハグリッドを先頭に、サクヤとハリーはダイアゴン横丁を進んでいった。
けれど、サクヤはまっすぐ歩くことに集中するだけでも少し苦労していた。
右を見ても左を見ても、気になるものばかりなのだ。
大きさの違う鍋を天井まで積み上げた店。
何本もの箒を軒先に並べている店。
籠いっぱいのフクロウがこちらを眺めている店。
さらに書店らしき場所のショーウィンドウでは、一冊の本が誰の手も借りずに浮かび、ぱらぱらと勝手にページをめくっている。
昨日までなら、どれも作り物だと思っていただろう。
しかし今は違う。
(ここじゃ、これが普通なんだ……)
魔法が存在するという事実そのものよりも、魔法を前提に街全体が動いていることの方が、サクヤには不思議に感じられた。
そんなふうに周囲へ気を取られているうちに、前を歩いていた巨大な背中が止まった。
「ここだ」
ハグリッドが顎を上げる。
「グリンゴッツ」
サクヤも足を止め、その横から顔を出した。
そこだけは周囲の商店とは明らかに違っていた。
白い石造りの建物が、横丁を見下ろすようにそびえている。
入口には磨き上げられた金属の扉があり、日の光を受けて眩しいほど光っていた。
銀行というより、宮殿か何かのようにも見える。
「魔法界で一番安全な銀行だ」
ハグリッドは当然のことのように言った。
「ここから何か盗もうなんて考える奴は、相当どうかしとる」
ずいぶんな言い方だ。
だが、その言葉が冗談ではないことは、入口へ近づいたところですぐに分かった。
扉の左右には、人間とはまるで違う姿の者が立っていた。
小柄な身体。
細長い指。
尖った顔立ち。
サクヤの知っている童話なら、間違いなく怪物の役を与えられそうな外見である。
ところが服装は正反対だった。
赤と金を使った制服には乱れ一つなく、サクヤたちが近づくと、その一人がきっちりと一礼して扉を開く。
(銀行員……なんだ)
ついじっと見てしまったサクヤの耳元へ、ハグリッドが小声で言った。
「子鬼だ」
それから、いつもより少し声を低くする。
「無礼なことさえせんかったら大丈夫だ。ただ、わざわざ怒らせるような真似はせん方がいい」
なんとなく、その忠告は真面目に受け取った方がいい気がした。
扉の向こうには、巨大なホールが広がっていた。
白い大理石の床。
高い天井。
奥まで続く長いカウンター。
そこでは何十人もの子鬼が仕事をしている。
分厚い帳簿へ猛烈な勢いで文字を書き込む者。
金貨を天秤に載せ、一枚ずつ確認している者。
山のような書類を次々と分類している者。
客の声や硬貨の触れ合う音が響いているのに、妙に秩序立って見える場所だった。
サクヤがその光景を眺めていると、ハグリッドが二人の方へ向き直った。
「さて。ここからは別々に動くぞ」
「別々?」
「サクヤは、あそこの受付だ」
指の先には、他より少し小さなカウンターがある。
その上には、『ミナシゴ基金』と書かれた札が置かれていた。
「そこで手続きをしてくるんだ」
「ミナシゴ基金?」
初めて聞く名前だった。
ハグリッドもその反応を見て、首を傾げる。
「ありゃ。説明されとらんかったか」
一瞬考えたあと、サクヤにも分かるよう言葉を選び直した。
「まあ簡単に言えば、学校へ通う金を用意できん子のための制度だな。親がおらん子とか、家に金の余裕がない子とか、そういう子供に学用品なんかの金を出してくれる」
「……私も使っていいの?」
サクヤは少しためらった。
自分より困っている人がいるのではないか、という考えが真っ先に浮かんだからだ。
そんな顔を見て、ハグリッドは笑う。
「使ってほしいからある制度なんだぞ」
そして、大きな手で軽くサクヤの肩を叩いた。
「誰でもちゃんと学校に通えるようにって、いろんな人が金を出してくれとる。必要な子が遠慮して使わんかったら、そっちの方が困るわい」
「……なるほど」
それなら話は分かる。
サクヤの知識で一番近いものを探すなら、奨学金や就学支援制度のようなものだろう。
「じゃあ、俺とハリーは?」
「こいつの金庫へ行く」
ハグリッドはハリーを指した。
「両親が残した金があるからな」
そう言うと、本当に説明はそれだけで十分だと思っているらしく、
「終わったらここらへんで合流しよう」
と付け加え、ハリーを連れて奥へ行ってしまった。
「ここらへんって……」
ずいぶん大雑把である。
しかし巨大なハグリッドなら、戻ってくれば嫌でも見つかるだろう。
サクヤはそう割り切り、『ミナシゴ基金』と書かれたカウンターへ向かった。
受付には、一人の子鬼が座っていた。
「あの……ミナシゴ基金の手続きをしたいんですけど」
子鬼は書類から顔を上げた。
鋭い目がサクヤを頭の先から足元まで一度だけ確認する。
「お名前を」
「サクヤ・ベスターです」
「ベスターさんベスターさん……」
子鬼は脇に置かれていた名簿を開き、指先でページを追っていった。
しばらくして、その動きが止まる。
「ございました。サクヤ・ベスター様ですね」
どうやら事前に話は通っていたらしい。
「少々お待ちください」
そう告げると、子鬼は席を離れた。
サクヤは言われた通り待った。
やがて戻ってきた子鬼の手には、一冊の小さな帳簿と革製の袋があった。
袋がカウンターへ置かれると、中で硬貨がぶつかり合って音を立てる。
「こちらが今年度分の支給金です」
「これ全部?」
「はい。ただし、自由に使える小遣いという意味ではございません」
釘を刺すように言われ、サクヤは伸ばしかけた手を止めた。
子鬼は帳簿を開く。
「ミナシゴ基金では、ホグワーツ在学中の七年間、授業を受けるために必要な費用を負担いたします。教材、制服、学用品などが主な対象となります」
ページには日付や金額、購入品を書く欄が並んでいた。
「支給は原則として一年ごと。使った際には、この帳簿へ金額と用途を記録してください」
「毎回?」
「原則としては」
子鬼はそこで少しだけ目を細めた。
「もっとも、忘れたからといって記録そのものが消えるわけではありません」
「……?」
「帳簿と支給袋には、基金側で魔法を施しております」
子鬼が帳簿の表紙を指で軽く叩いた。
「記入を忘れた場合でも、支出内容は自動的に補われます。また、不自然な出費が続いた場合には、一時的に袋を開けられなくなる場合があります」
サクヤは思わず革袋を見る。
ただの袋にしか見えない。
「そんなことまでできるの?」
「必要になったからできるようにした、と申し上げた方が正確でしょう」
淡々とした返答だった。
しかし、その目が一瞬だけ遠くを見た。
おそらく過去に色々あったのだ。
「……悪用した人、いたんですね」
「何人も」
即答だった。
サクヤはそれ以上聞かないことにした。
子鬼は咳払いを一つする。
「年に一度、次年度分の受け取りと帳簿の確認のため、グリンゴッツへお越しください。年度途中で資金が不足した場合も追加申請は可能ですが、その場合も使用状況を確認いたします」
つまり、本当に必要な出費なら困らないが、好き放題使えるわけではないらしい。
それなら納得できる。
「ちなみに」
子鬼の口調が、ほんの少し柔らかくなった。
「菓子類や、常識的な範囲の娯楽については禁止しておりません」
「え?」
「学生生活に必要なのは教科書だけではありませんので」
そこで初めて、子鬼の表情がわずかに緩んだ。
「節度の範囲でお使いください」
サクヤも少しだけ笑った。
「わかりました」
「では、以上です。良い学校生活を」
子鬼は革袋と帳簿をサクヤの方へ滑らせる。
「ありがとうございます」
礼を言うと、子鬼はすでに次の書類へ視線を落としていた。
ただ、羽ペンを持った手だけが軽く上がる。
サクヤは帳簿と袋を受け取り、なくさないよう大切にしまった。
▽ ▽ ▽
受付の近くには、何種類かの案内冊子が置かれていた。
その中からサクヤは、『はじめての魔法界通貨』と書かれた一冊を取った。
ハグリッドとは明確な待ち合わせ場所を決めていない。
とはいえ、ホール中央の目立つ場所にいれば見つけてもらえるだろう。
サクヤは大扉の近くへ移動し、壁際でパンフレットを開いた。
ハグリッドたちがすぐ戻ってくるとは思っていない。
漏れ鍋で一時間待ったばかりだ。
待つことには、少し慣れてしまった。
(へえ……)
貨幣の種類。
それぞれの交換比率。
代表的な商品の値段。
順番に読んでいくうちに、一つ気づく。
(思ってたより安い)
サクヤがこれまで暮らしてきた普通の社会――魔法を使わない人たちの世界を何と呼ぶのかは、まだ知らない――と比べると、全体的に物価が低いように思える。
感覚だけなら、三割ほど安いだろうか。
もちろん単純比較できない品物も多い。
それでも、学用品を揃えた瞬間に基金のお金が全部なくなる、という心配はなさそうだった。
サクヤが安心してページをめくっていると、遠くから見覚えのある巨体が現れた。
ハグリッドだ。
その隣にはハリーもいる。
「おお、いたいた!」
サクヤを見つけたハグリッドが近づいてくる。
「待たせたな。そっちはちゃんと済んだか?」
「うん。大丈夫だった」
答えながら、サクヤは二人の様子を見比べた。
ハリーはかなり重そうな鞄を持っている。
しかし表情はどこか明るく、自分の財産を初めて見た興奮がまだ残っているようだった。
一方。
ハグリッドは明らかに様子がおかしい。
顔色が悪い。
それも少し疲れたという程度ではなく、乗り物酔いでもした直後のような青ざめ方だった。
「……ハグリッド、大丈夫?」
「ん? ああ。なんともない、なんともない」
そう答えるわりには、まったく大丈夫そうに見えない。
(地下で何してきたんだろ……)
気にはなった。
だが本人が話すつもりもなさそうなので、サクヤはひとまず聞かないことにした。
▽ ▽ ▽
グリンゴッツでの用事を終えた三人は、再びダイアゴン横丁へ戻った。
建物の外へ出た途端、ハリーが眩しそうに目を細める。
その隣では、ハグリッドがさらにひどい顔をしていた。
銀行へ入る前から顔色は悪かったが、今はもう隠す気力すらないらしい。
「次は……制服だな」
ハグリッドは力なく言いながら、通りの先を指した。
「あっちに店がある。二人で先に行っとってくれ」
「ハグリッドは?」
サクヤが尋ねる。
「俺は漏れ鍋に戻って、ちょっと元気の出るもんを飲んでくる。あのトロッコは何度乗っても好かん……」
それだけ言い残すと、ハグリッドは重い足取りで来た道を戻っていった。
サクヤは遠ざかる大きな背中を見送ってから、隣のハリーを見る。
「……トロッコって?」
「ああ」
ハリーは少し苦笑した。
「地下の金庫まで、それに乗って行くんだ。ものすごく速くて……遊園地のジェットコースターよりひどいと思う」
「へえ」
「ハグリッド、たぶん酔ったんじゃないかな」
なるほど。
あの青い顔にも納得がいった。
(ちょっと乗ってみたいかも)
サクヤはそう思ったが、口には出さなかった。
この先グリンゴッツを利用するなら、そのうち嫌でも経験することになるだろう。
二人はハグリッドに教えられた方向へ歩き、ほどなく一軒の店の前で立ち止まった。
看板には、『マダム・マルキンの洋装店』とある。
「ここ……よね?」
「たぶん」
ハリーも、看板を確認してうなずいた。
サクヤが扉を押し開ける。
するとすぐに、店の奥にいたふくよかな女性と目が合った。
「あら、いらっしゃい」
女性は二人の姿を見るなり、親しげに笑った。
「ホグワーツへ入学する子たちね?」
サクヤがうなずく。
どうやら、この女性がマダム・マルキンらしい。
「それならお任せくださいな。制服なら一式ここで揃えられますよ。今から採寸すれば、今日のうちにお渡しできます」
「今日中?」
サクヤにはありがたい話だった。
まだダイアゴン横丁の地理すらろくに分かっていないのだ。
制服のためだけに明日またここまで来る、なんてことは避けたい。
「お願いします」
「はいはい。じゃあ、こちらへどうぞ」
マルキンに案内され、二人は店の奥へ進んだ。
そこにはすでに、一人の少年が踏み台の上で採寸を受けている。
その横にサクヤ、さらに隣にハリーが並ばされた。
マルキンはサクヤの肩へ長い黒いローブを掛け、手際よく丈を確認していく。
裾の位置を決めるたび、布へピンが留められていった。
「お喋りするのは構わないけど、身体は動かさないでね」
「はーい」
そう言われたので、サクヤは首を動かさず、視線だけで店内を見回した。
棚には畳まれた布。
壁には採寸用の道具。
奥には完成したローブが何着も掛けられている。
(……普通だ)
サクヤは少しだけ残念に思った。
せっかく魔法使い専門の洋服屋なのだから、勝手に空を飛び回る服だとか、見る角度によって色が変わる布だとか、そのくらいあってもよさそうなのに――今のところ、見た目だけなら普通の仕立屋と大差ない。
そんなことを考えていると、隣から声を掛けられた。
「君も新入生?」
採寸中だった少年である。
サクヤと同じくらい白い肌に、淡い金髪。
整った格好といい、妙に堂々とした態度といい、いかにも育ちの良さそうな少年だった。
「うん。今年から」
「やっぱりね。じゃあ、君も入学用品を揃えに来たんだ」
少年はどこか得意げな口調で話を続ける。
「僕の父上は教科書を見に行ってる。母上は杖の店だったかな」
そこで少し身を乗り出しかけ、マルキンに肩を押し戻された。
「でも、僕が楽しみにしてるのは箒だね」
「箒?」
サクヤが反応すると、少年は待ってましたとばかりに顔を明るくした。
「競技用のだよ。ニンバスから新型が出たんだ。きっと今までのモデルよりずっと速い」
「へえ……」
「一年生は自分の箒を学校へ持っていっちゃいけないらしいけどね」
少年は鼻で笑う。
「父上を説得して、なんとか持ち込むつもりさ」
説得と言いつつ、表情を見る限り、かなり強引に頼むつもりらしい。
「君は? 箒を持ってる?」
少年がこちらを向く。
ところがサクヤの顔をまともに見た瞬間、一度言葉が止まった。
「……?」
「いや、なんでもない」
少年は慌てたように視線を逸らす。
白い頬が、ほんの少しだけ赤くなっていた。
サクヤは特に気にせず答えた。
「持ってないよ」
「じゃあ、クィディッチもやったことないのか」
「クィディッチ?」
今度は少年の方が驚く番だった。
「知らないの?」
「初めて聞いた」
少年はサクヤを改めて見る。
「もしかして、マグル生まれ?」
「その『マグル』って何?」
「魔法を使わない人間のことだよ」
「へえ」
また一つ、新しい単語を覚えた。
同時に、一つ疑問が浮かぶ。
魔法使いではない両親からも、魔法使いの子供が生まれるということだろうか。
「じゃあ私は、どっちなんだろ」
「分からないの?」
「両親を知らないから」
少年は少しだけ目を見開いた。
「亡くなったのか?」
「多分」
あまりにもあっさりした返答だったため、逆に少年の方が戸惑った。
サクヤ自身は、両親という存在にほとんど思い入れがない。
物心ついた頃から孤児院にいたのだ。
死んだのか。
どこかで生きているのか。
あるいは単に自分を捨てたのか。
何一つ分からない。
ただ、どの場合であっても今さら会いたいとは思わなかった。
「……なら、きっと魔法使いの家の生まれだよ」
少年はそう言った。
どうやら励ましているつもりらしい。
その言葉を聞いて、サクヤは少し考える。
(魔法使いの親から生まれた方がいい、みたいな考え方があるのかな)
今の一言だけでは断定できない。
だが少なくとも、この少年自身はそう考えているようだった。
「私はずっと孤児院にいたから、魔法界のことは何にも知らないの」
サクヤは少年へ笑いかけた。
「だから、知ってることを教えてくれると助かる」
それから、少年の服装を改めて眺める。
「あなたは詳しそうだし。結構いい家の子でしょ?」
「分かる?」
「なんとなく」
高貴な雰囲気、とまで言うつもりはない。
ただ、身なりも話し方も、どう見ても庶民の子供ではなかった。
これで実家が田舎の小さな農場とかだったら、そちらの方が驚きである。
少年は満更でもなさそうに顎を上げた。
「まあね。マルフォイ家の跡取りなんだから、それくらい当然さ」
そして、改めて名乗る。
「僕はドラコ・マルフォイ」
「私はサクヤ・ベスター。サクヤでいいよ」
サクヤが微笑むと、ドラコはまた少しだけ頬を赤くした。
「……サクヤ、か」
誤魔化すように一度咳払いする。
そして今度は、サクヤの向こう側を見た。
「そっちの子は?」
ハリーもまた、ぎこちない様子で採寸を受けていた。
「ああ、あの子も私と似たような感じ。両親がいなくて、今日一緒に買い物することになったの」
「二人だけで来たのか?」
「違うよ。ホグワーツの人が案内してくれてる」
サクヤはそこで、意図的にハリーの名前を出さなかった。
漏れ鍋であれだけ騒ぎになったばかりだ。
本人が名乗りたいならともかく、わざわざこちらから有名人だと教える必要はない。
ドラコはしばらくハリーを見ていたが、不意に窓の外へ目を向けた。
「……もしかして、案内役ってあれ?」
サクヤも視線を追う。
通りの向こうから、巨大な人影が歩いてきていた。
ハグリッドだ。
しかも両手には、大きなアイスクリームを三つ抱えている。
「うん。ハグリッド」
「ハグリッドが?」
ドラコの表情がわずかに引きつった。
「まあ……荷物持ちとしてなら役には立ちそうだけど」
「力はありそうよね」
サクヤは普通に同意した。
ちょうどその頃、ハグリッドは店の前まで到着した。
扉へ手を伸ばそうとして、両手がアイスクリームで塞がっていることに気づく。
数秒考えた末、彼は店の外で待つことにしたらしい。
ドラコが小さく鼻を鳴らした。
「あいつ、学校の敷地にある粗末な小屋で暮らしてるんだってさ。ずいぶん野蛮な暮らしをしてるらしいよ」
隣でハリーが何か言おうとした気配がした。
それより先に、サクヤが口を開く。
「あら、そういう暮らしって今は人気あるんじゃない?」
「……人気?」
ドラコが怪訝そうな顔をする。
「自然の多いところへ引っ越したり、わざと便利な街を離れて暮らしたりする人。普通の人たちの間では、そういうのに憧れる人もいるみたいよ」
「わざわざ不便な場所へ?」
ドラコには本気で理解できないらしい。
「マグルの考えることはよく分からないな」
「そこは私も少し分かる」
サクヤはあっさり同意した。
「わざわざ高いお金を払って不便になるのは、私も嫌かな」
そう言ってから肩をすくめる。
「もっとも、私は孤児院暮らしだから、贅沢を言えるような生活でもないんだけど」
「だったら、ホグワーツへ行けるのはちょうどいいじゃないか」
ドラコは言う。
「全寮制なんだから、少なくとも学校にいる間は孤児院へ戻らなくていい」
「それはそうかも」
サクヤは少しだけ考えた。
ホグワーツがどんなところなのか、まだほとんど知らない。
ただ、食事も寝床も用意される学校なら、少なくとも今までより生活環境が悪くなることはなさそうだ。
「はい、おぼっちゃま。終わりましたよ」
マルキンの声がした。
どうやらドラコの採寸が終わったらしい。
「もう?」
ドラコは踏み台から軽く飛び降りる。
店員から包みを受け取ると、一度サクヤを振り返った。
「それじゃあ、またホグワーツで。サクヤ」
「うん。またね」
ドラコはそのまま店を出る。
外で待っていたハグリッドの横を通り過ぎる際、一度だけ彼を横目で見た。
それから小さく鼻を鳴らし、人混みの中へ消えていった。
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