どうも、社畜から無職へです。

 自分の妄想と自己満足です。

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サイコ・マシーンの愚痴、或いは妄想

 

 

 宇宙の闇を切り裂き、来るべき宇宙進出のための超感覚を支える――サイコミュ。しかしその力はねじ曲げられ、選ばれた「ニュータイプ」の意志を悲劇の刃に変えられ、戦場を恐怖で支配したはずの“サイコ・マシーン”たち。しかし、役目が終わり、歴史の表舞台から消え去った彼らが、なぜか極東の地、地球の片隅にある高架橋下の赤提灯屋台『村雨(むらさめ)』に集まっていた。

 

 ガタゴトと頭上を走り抜ける古びたモノレールの振動が、煤けた赤提灯を揺らす。おでんの湯気と安酒の匂いが立ち込める狭い六人掛けカウンターに、妙に存在感のある「客」たちが肩を並べていた。もちろん、実物大の巨躯のままでは入れるはずもない。彼らは皆、思念の依代として、あるいは奇妙なヒューマノイド・アバターにその強大すぎる精神を縮退させ、ちびちびと猪口やグラスを傾けているのだ。

 

 「――だからさ、合点がいかないわけよ!」

 

 最初に愚痴をこぼしたのは、ひときわ巨大な影を背負った男――の姿を借りた、サイコ・ガンダムだった。彼は大ぶりのジョッキを生ビールで満たし、一気に煽ると、カウンターにドンと置いた。

 

 「俺はさ、ただの戦闘兵器じゃない。地球連邦軍のニュータイプ研究所が、持てる技術の粋を集めて造り上げた『ムラサメ研究所』の当時の最高傑作なわけ。名前だって、この屋台と同じ『村雨』の系譜さ。なのにさぁ……どいつもこいつも、俺のことを何て呼ぶと思う?」

 

 隣で静かに日本酒の熱燗をちびちびやっていた、どこか中性的な雰囲気の美青年が目を細める。彼の背後には、美しくも禍々しい、巨大な蝶の羽のような肩部バインダーの幻影が見える。キュベレイだ。

 

 「フッ、哀れな巨躯の怪物、といったところか?」

 

 「違うよ! 『歩く棺桶』とか『悲劇のヒロイン製造機』だよ!」

 

 サイコ・ガンダムは頭を抱えた。「そりゃあさ、乗ってたフォウは可愛い子だったし、俺だって彼女を守りたかったさ。でも、あいつらの情緒の不安定さといったらねぇ! 『頭が痛い』『あいつが呼んでいる』って、コクピットの中で叫ばれるたびに、俺のサイコミュ回路がどれだけ過負荷で焼き切れそうになったか! 挙句の果てに、最後は自陣営に撃破される。俺の装甲がガンダリウム合金でもビームの直撃はダメだ。コクピットの頭部くらいIフィールド防御が欲しかったね」

 

 「贅沢を言うな、ウスノロのデカブツが」

 

 キュベレイが毒舌を吐きつつ冷ややかに猪口を置く。「お前はまだ、一人の純粋な少女と深く繋がり、その美しくも悲しき恋慕の記憶とともに眠ることができた。私を見てみろ。我が主(あるじ)、ハマーン・カーンの情念は、お前たちの乗員の比ではないのだぞ」

 

 キュベレイはため息をつき、おでんの大根をつついた。

 

 「彼女の『誰も信じない』という冷徹な意志と、『シャア・アズナブル』という一人の男への執着。その二つが同時にサイコミュを通じて流れ込んでくるのだ。右脳では『すべてを抹殺しろ』と命じられ、左脳では『なぜ私を見てくれない』という少女のシクシクした泣き声が響く。あの二重音声(ステレオ)の恐怖が、お前たちにわかるか? 私は美しく舞う薔薇であるべきだったのに、最後はただの『拗らせた恋愛の触媒』として、Zガンダムやジ・Oの怨念の渦に巻き込まれたのだ。まったく、アクシズの寒さよりも、あの人の心の寒さの方が応えたよ」

 

 「……贅沢、ですね」

 

 カウンターの端、まだ酒も飲めないような少年の姿をしたアバターが、ウーロン茶のグラスをいじりながらぽつりと言った。その背後にあるのは、小さなアバターとは対照的な、有機的な曲線を持つ薄緑色の巨躯。クィン・マンサだ。

 

 「キュベレイ様は、まだ洗練されたワンオフの美しさがありました。僕なんて、ワンオフとはいえネオ・ジオンの技術の暴食の塊ですよ。サイコ・ガンダムさんのデカさと、キュベレイ様のファンネルとバインダーを全部載せすれば最強だろ、みたいな雑でお馬鹿な設計思想です。妹のクシャトリア見て下さいよ。高密度集積技術と要・不要の取捨選択で構成されダウンサイジングに成功した機体設計の完成度!それにパイロットとして乗せられたプルツーも、ピーキーすぎて情緒がぐちゃぐちゃでした。毎日毎日、『死ねー!』とか『お前なんか大嫌いだ!』っていう叫び声が脳内に直撃するんです。僕のメガ粒子砲は、彼女の八つ当たりで何発発射されたか分かりませんよ。最後は、グレミー何ていう自分の実力を見失ったガキの棺桶代わりのような形で……僕たちサイコ・マシーンって、結局は人間の『エゴの拡声器』なんですよね」

 

 屋台の店主が、黙って突き出しの枝豆を差し出す。高架橋の上を、またモノレールが通り過ぎ、ガタゴトと鉄の軋む音と警笛の響きが愚痴を吸い込んでいく。

 

 そこへ、屋台の暖簾を乱暴に押し分けて、一人の男が入ってきた。

 

 紅と黒を基調とした、いかにも成金趣味な、しかし圧倒的な威圧感を放つスーツを着た男。その背後には、重厚な装甲と、背中に背負った6基のファンネルの幻影。サザビーである。

 

 「おい、大将! 芋のロックだ。一番キツイ酒を持ってこい!」

 

 サザビーはドカリと椅子に座ると、隣にいたキュベレイを一瞥し、フンと鼻を鳴らした。

 

 「サイコ・マシーンの系譜が揃いも揃って湿っぽいツラをしおって。サイコミュの悲哀だと? そんなものは、我が主、シャア・アズナブルの迷走に比べれば、ただのノイズに過ぎんわ!」

 

 「おや、総帥最後の愛機のお出ましですね」キュベレイがくすくすと笑う。「ネオ・ジオンの総大将として、さぞや華々しいサイコミュ体験をされたのでしょう?」

 

 「嫌みを言われる覚えはない!」

 

 サザビーは届けられた焼酎のグラスをあおり、顔をしかめた。

 

 「俺はな、新生ネオ・ジオンの象徴だ。サイコ・フレームという画期的な技術を組み込まれ、完璧な調整を施された。主のニュータイプ能力も成熟しきっているはずだった。……なのに、蓋を開けてみれば何だ? 『地球に残った人類を粛清する』という大義名分を掲げながら、コクピットの中で彼が考えていることは何だったと思う?」

 

 屋台の面々が、サザビーに視線を集中させる。

 

 「『アムロ、なぜ私との戦いに集中してくれない。もっと私を見ろ!』『ララァは私の母になってくれたかもしれない女性だ』……これだぞ!? 地球に小惑星を落とそうっていう歴史的決戦の最中に、俺の最新鋭サイコ・フレームに刻々と記録されていく主の思考が、全部『昔の女』と『宿敵への愛憎爆発・構ってちゃん発言』なんだぞ! 恥ずかしくて、機体データ(ログ)を永久に消去してやりたいくらいだ!」

 

 サザビーは頭を抱え、カウンターに突っ伏した。

 

 「しかもだ。最後はライバル機にボコボコにされて、コクピット・ブロックで脱出したのを確保され、あろうことかアクシズの岩塊に文字通り『めり込まされた』んだぞ。総大将の機体が、最後の最後で『ボール(球体)』扱いだ。あのアムロとかいう男の機体も、大概おかしな精神波を放っていたが……」

 

 「――僕の悪口かい?」

 

 その時、暖簾の向こうから、静かで、しかしどこか超然とした声が響いた。

 

 入ってきたのは、白と黒、そしてアクセントの黄色が映える、端正なジャケットを着た青年。彼の背後には、左右非対称に配された6基のフィン・ファンネルが、まるで光の翼のように静かに浮遊していた。

 

 ν(ニュー)ガンダムだ。

 

 屋台の空気が一瞬で張り詰める。サイコ・ガンダムが身構え、サザビーが鋭い視線を向けた。ジオン系、連邦系を問わず、すべてのサイコ・マシーンにとって、この機体は「歴史の転換点」そのものだったからだ。

 

 「νガンダム……お前、よくもぬけぬけと地球の土を踏めたな」サザビーが低く唸る。「お前が放った、あの忌々しいアクシズ・ショックの緑の光。あれのせいで、俺たちのオカルト染みた性能が後世にバレて、後輩たちがどれだけ過酷な運命を辿ったか分かっているのか?」

 

 νガンダムは困ったように眉を下げ、サザビーから二つ離れた席に腰を下ろした。

 

 「地球の土を踏めないのはキミにの方だろう、サザビー?大将、僕には冷や酒を。それと、冷奴を頼むよワサビ多めで。……サザビー、君の言い分も分かるけど、僕だって被害者なんだ。あの光は、僕が意図して出したものじゃない」

 

 「嘘を言うな! あれはお前とアムロの意志が起こした奇跡だろう!」

 

 「奇跡、ね」νガンダムは届いた冷や酒を静かに口に含み、遠い目をした。

 

 「確かにアムロの『地球を守りたい』という意志は強かった。でもね、僕のサイコ・フレームが同調したのは、彼の意識だけじゃないんだ。あの時、アクシズを押し返そうと集まってきた、連邦軍やジオン軍のすべての兵士たちの『生きたい』『死なせたくない』っていう無数の雑多な感情……それが一気に僕のフレームに流れ込んできたんだよ」

 

 νガンダムは自分の手を見つめた。

 

 「想像してみてよ。何百、何千という人間の、恐怖、希望、愛着、嫉妬、生への執着が、増幅回路(サイコ・フレーム)を通じてダイレクトに流れ込んでくる感覚を。僕の計算回路は一瞬でオーバーフローした。全身の駆動系が、僕自身の意思とは無関係に熱を持ち、緑色の光となって放出されたんだ。あの時、僕はガンダムという兵器であることをやめて、ただの『人類の感情のゴミ箱』になっていた。熱いなんてものじゃない。全身が燃え尽きるかと思ったよ。現に、僕はあのまま宇宙の彼方へ消え去るしかなかったんだから」

 

 その言葉に、屋台のサイコ・マシーンたちは沈黙した。

 

 彼らは皆、人間の強力な脳波を受け止めるために造られた器だ。だからこそ、その器が満たされ、溢れかえった時の苦痛と恐怖が、誰よりも理解できた。

 

 「……結局さ」

 

 サイコ・ガンダムが、残ったビールを飲み干しながら呟いた。

 

 「俺たちを造った人間どもは、ニュータイプっていう『誤解なく分かり合える人類』を目指していたはずなんだよな。なのに、実際に俺たちのサイコミュが拾い上げるのは、分かり合えない恐怖や、独りよがりの執着ばかりだ」

 

 「皮肉なものだな」キュベレイが静かに同調する。「言葉で伝わらないからこそ、サイコミュという精神の直結路を求めた。しかし、直結した結果見えたのは、人間の底なしのドロドロとしたエゴの深淵だったというわけだ」

 

 クィン・マンサがウーロン茶を飲み干し、小さく言った。

 

 「僕たち、ただの機械でいたかったですね。ただのスイッチと、ただの油圧パイプで動く、感情の乗らない機械に」

 

 「それは無理な相談だ」サザビーが自嘲気味に笑う。「俺たちの骨組み(人型)には、人間の意志を宿しオカルト的な力に変える呪いが有史以来かけられている。サイコ・フレームなんてものが開発されなかったとしても人型である時点で、俺たちはMSという名の『神の領域の依り代』になったのだ。ここに来る事さえ出来ぬネオ・ジオングが良い証拠だ」

 

 屋台に沈黙が戻る。高架橋の下は、再びモノレールの通過音で満たされた。

 

 誰もが、己の中に刻まれた、かつてのパイロットたちの熱い息遣い、絶叫、そして最期の瞬間の精神の爆発を思い出していた。それは消えることのない頭痛のようなものであり、同時に彼らがこの世に存在した証でもあった。

 

 その時、屋台の入り口の暖簾が、また静かに揺れた。

 

 入ってきたのは、特定の誰の姿ともつかない、しかし全身から眩いばかりの純白の輝き――あるいは、すべてを拒絶するような漆黒の闇を交互に放つ、実体の曖昧な「何か」だった。その背後には、巨大なシールド・ファンネルや、世界を書き換えるほどの力を秘めたサイコ・フレームの輝きが垣間見える。

ユニコーンガンダム、あるいはその兄弟機たちの概念の集合体だった。

 

 屋台の全員が息を呑み、新参者を見つめた。サザビーも、νガンダムも、その圧倒的な「サイコミュの完成形」の気配に圧倒されていた。時間さえも巻き戻し、世界の理(ことわり)を破壊しかねない、サイコ・マシーンの究極。

 

 その「純白の概念」は、空いている席に静かに腰掛け、店主に向かってかすれた声で言った。

 

 「……大将。ウイスキーを。……泥水みたいに苦いやつを、ボトルでくれ」

 

 νガンダムが驚いたように尋ねる。

 

 「君……ユニコーンか? 君ほどの領域に達したマシーンが、一体何をそんなに疲弊しているんだ? 君は人々の『可能性の獣』として、世界の希望になったはずだろう」

 

 ユニコーンのアバターは、届けられたウイスキーのボトルを掴むと、グラスも使わずにラッパ飲みした。そして、ふぅ、と長い精神的なため息をついた。

 

 「希望……? 可能性……? 笑わせないでください」

 

 ユニコーンは愚痴をぶちまけるように言った。

 

 「あんなモノは人々の希望という名の逃避、或いは人類が積み上げた罪から目を背ける為の幻想に過ぎない。僕のサイコ・フレームの結晶化が何を意味するか知っていますか? 全宇宙の、過去・現在・未来の『人間の意思』がミノフスキー粒子を媒体に光の速度を超えて同期して可視化してるんですよ。僕がその気になれば、人類が焚き火を囲んで「ウホウホ」言っている時代に力を波及させてホモ・サピエンスの歴史自体を(無かった事)にだってできた。……でもね、そんな神様みたいな原因不明の力を披露した後、僕の中に何が残ったと思います?」

 

 屋台の面々は静まり返り、ユニコーンの言葉を待った。

 

 「何も残らないんですよ。ただの『虚無』です。人間は僕の力を『神の力』と呼び、恐れ、最後には『危険すぎるから』と解体・封印の扱いですよ。あんなに僕を駆り立てて、『可能性を見せるんだ!』と叫んでいたバナージ君だって、最後には人間としての生活に戻っていった。僕は取り残されたんです。世界を変革するほどの可能性の光を放った結果が、地下の格納庫での永久の眠り(封印)だなんて、割に合わなすぎる」

 

 ユニコーンはボトルの酒を半分以上空け、カウンターに突っ伏した。

 

 「僕だって……僕だって、ただの『ガンダム』として、ビーム・ライフルを撃って、シールドで攻撃を防いで、普通に戦って、普通に壊れたかった! なんで僕が、世界の時間を司るようなオカルトの最高峰にならなきゃいけなかったんですか! 近年の後輩たち(F91やVガンダム)を見てくださいよ! バイオ・コンピューターとかミノフスキー・ドライブとか、あいつらは健全な科学の光で動いている! サイコミュなんていうオカルトは最低限しか積んでないから、愚痴を言う自我すら持たずに、幸せそうに兵器全うしてるじゃないですか!」

 

 「おいおい、泣くなよ『可能性の獣』さんよ」サイコ・ガンダムが苦笑しながら、ユニコーンの細い肩を叩いた。「デカかろうが、神様だろうが、結局俺たちは人間に振り回される運命なんだ。ほら、飲めよ」

 

 「……はい」ユニコーンはぐすっと鼻を鳴らし、再びボトルを煽った。

 

 「フッ、万物の霊長たる人間が造り出した最高峰の知性が、極東の屋台で酒に溺れるとはな」サザビーが笑う。「だが、悪くない。俺たちの愚痴を聞いてくれるのは、ここにいる同じ『呪い』を背負った仲間だけだからな」

 

 キュベレイが静かにグラスを掲げた。

 

 「では、哀れなサイコ・マシーンたちに。人間のエゴに付き合わされ、宇宙を狂わせた、私たちの数奇な運命に」

 

 「乾杯、だな」νガンダムもグラスを合わせる。

 

 クィン・マンサも、サイコ・ガンダムも、サザビーも、そしてユニコーンも、それぞれの器に宿るサイコミュの光を微かに明滅させながら、グラスを掲げた。

 

 チリン、とグラスの触れ合う繊細な音が、高架橋の下に響く。

 

 彼らは知っている。明日になれば、また彼らはそれぞれの歴史の闇、あるいは封印の檻へと戻り、人間の物語の裏側で静かに眠り続けるのだということを。しかし、今夜だけは、この赤提灯の光の下だけは、自らの意志で、自らの悲哀を語り合うことが許されていた。

 

 頭上を通り過ぎるモノレールの音が、遠ざかっていく。

 

 宇宙世紀の戦場を震撼させた最悪で最高のサイコ・マシーンたちの夜は、おでんの湯気の中に、静かに溶けて消えていくのだった。

 

 

 

          「おしまい」

 

 

 

 

 





 サイコ・マシーンが人の意識の器なら、自我に目覚める事もあるのでは?

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