ポケットモンスター ―君と目指す頂― 作:あああああ
「ピジョー!」
森の開けた場所に降りていたピジョンが、こちらの存在に気づいて翼を広げた。
ポッポよりも一回り以上大きな身体に、鋭い目つき。人間とピカチュウを前にしても逃げようとはせず、むしろ自分の縄張りへ入ってきた相手を警戒するようにこちらを見据えている。
サトシはポケモン図鑑を閉じると、その姿を改めて観察した。
羽並みは綺麗で、身体にも目立った傷はない。何より立ち姿に隙が少なく、野生で生き抜いてきた経験を感じさせる。
「強そうだな」
「ピカ」
ピカチュウも同意するように一歩前へ出た。
その横からキャタピーも勢いよく進み出る。
「キャタ!」
「お前も戦いたいのか?」
「キャタ!」
昨日ピカチュウと戦い、バタフリーを目指すと決めたばかりなのだ。やる気があるのは嬉しいが、サトシは目の前のピジョンを見ると首を横に振った。
「今回はピカチュウに任せよう。あのピジョン、たぶんかなり強い。それに相性的にもお前にはきついからな」
「キャタ……」
「そんな顔するなって。戦う機会ならこれからいくらでもある」
サトシがしゃがみ、キャタピーの頭を軽く撫でる。
「お前の力が必要な時はちゃんと頼る。だから今は見ててくれ」
「キャタ!」
すぐに元気を取り戻した。
カスミは少し離れたところからその様子を見ていたが、やはりキャタピーが近くにいるのは落ち着かないらしい。
「それにしても、本当に捕まえるの?」
「ああ」
「ピカチュウがいるのに、ひこうタイプまで?」
「タイプだけで仲間を決めるつもりはないよ。それに、あいつ自身が気に入った」
サトシがピジョンを見る。
「一緒に旅したいなら、まず俺たちの力を見てもらわないとな」
「ピジョ!」
まるで言葉に応えるように、ピジョンが翼を大きく羽ばたかせた。
「行くぞ、ピカチュウ!」
「ピカ!」
ピカチュウが構える。
次の瞬間、先に動いたのはピジョンだった。
「ピジョー!」
翼が強く振り抜かれ、猛烈な風が巻き起こる。
「かぜおこしか! ピカチュウ、踏ん張れ!」
「ピーカッ!」
ピカチュウが地面へ身体を低くする。
それでも強風に押され、足が少しずつ後ろへ滑った。
「結構強いな……!」
単に技を使えるだけではない。
風の勢いが強い。
「だったら、でんきショック!」
「ピカチュウ!」
ピカチュウの頬から電撃が放たれる。
電気技はピジョンに有効。
まともに受ければ大きなダメージになる。
しかしピジョンは翼を畳むようにして急上昇した。
電撃がその下を通過する。
「速い!」
カスミが声を上げる。
ピジョンは上空で身体を翻すと、そのまま急降下してきた。
身体を包むように白い光が走る。
「でんこうせっかか!」
サトシが技を見抜く。
「ピカチュウもでんこうせっか!」
「ピカ!」
ピカチュウも地面を蹴った。
白い軌跡と白い軌跡。
真正面からぶつかる――寸前、ピジョンが翼を傾けた。
軌道がずれる。
「なにっ?」
ピカチュウの横へ回ったピジョンが翼を振り抜く。
「ピジョ!」
『つばさでうつ』。
「ピカッ!」
まともに受けたピカチュウが地面を転がった。
「ピカチュウ!」
すぐに起き上がる。
「ピカ!」
まだ大丈夫だ。
むしろ目つきはさらに鋭くなっている。
「今の上手かったな」
サトシも思わず笑った。
でんこうせっかを単なる突進ではなく、接近するために使い、そこからつばさでうつへ繋げた。
このピジョンは戦い慣れている。
「いいぞ。ますます欲しくなった!」
「ピジョー!」
ピジョンも翼を広げる。
今度はその場で激しく羽ばたき始めた。
風が渦を巻く。
だが、先ほどのかぜおこしとは違う。
「これは――たつまき!」
小さな竜巻が地面を巻き上げながらピカチュウへ迫る。
「ピカチュウ、正面から行くな! でんこうせっかで横へ抜けろ!」
「ピカ!」
ピカチュウが加速する。
竜巻の進路から飛び出し、そのまま木の幹へ向かった。
「そこから上だ!」
「ピカ!」
木の幹を蹴る。
跳躍。
ピジョンの高度まで一気に上がった。
「でんきショック!」
「ピッカァ!」
空中では急に方向を変えにくい。
電撃がピジョンを捉えた。
「ピジョッ!」
翼が一瞬止まり、身体が落ちる。
しかしピジョンはすぐに翼を広げ直した。
着地するどころか、そのまま低空を滑るように飛んでくる。
「まだ来る!」
「ピジョー!」
再びでんこうせっか。
今度は真正面。
「ピカチュウ、避けるな!」
「ピカ!」
カスミが驚く。
「ちょっと!?」
二匹の距離が急速に縮まる。
サトシはギリギリまで待った。
「今だ、伏せろ!」
ピカチュウが身体を沈める。
ピジョンが頭上を通り過ぎる。
「ほっぺすりすり!」
「ピカ!」
すれ違う一瞬。
ピカチュウが跳び上がり、ピジョンの身体へ頬を押し当てた。
電気が弾ける。
「ピジョッ!」
ピジョンの身体が硬直し、地面へ着地する。
倒れてはいない。
だが、先ほどまでのようには動けない。
「よし!」
サトシはモンスターボールを取り出した。
「今だ!」
ボールが飛ぶ。
ピジョンの身体が赤い光へ変わり、吸い込まれた。
地面へ落ちたモンスターボールが揺れる。
一度。
二度。
三度。
そして――止まった。
「……よし!」
サトシが駆け寄ってボールを拾い上げる。
「ピジョン、ゲットだぜ!」
「ピッピカチュウ!」
「キャタ!」
ピカチュウとキャタピーも一緒になって喜んだ。
カスミも笑顔を見せる。
「結構苦戦したじゃない」
「だからいいんだよ」
サトシは手の中のモンスターボールを見る。
「強かったからな」
すぐにボールを開いた。
「出てこい、ピジョン!」
赤い光が飛び出し、ピジョンが姿を現す。
「ピジョ!」
まだバトルの疲れは残っている。
サトシは傷を確認してから、持っている道具で簡単な手当てを始めた。
「さっきはいいバトルだった。これからよろしくな」
「ピジョ」
ピジョンがサトシを見る。
その後、ピカチュウへ視線を向けた。
「ピカ!」
ピカチュウが笑いかける。
少しの間を置いて、ピジョンも翼を軽く上げた。
どうやら勝った負けたを引きずる性格ではないらしい。
サトシは手当てを終えると、もう一つ確認する。
「ピジョン。お前、もっと強くなりたいか?」
「ピジョ!」
即答だった。
「じゃあ、いつかピジョットまで進化したい?」
ピジョンは空を見上げる。
高い木々よりさらに上。
その向こうに広がる空を見つめると、力強く翼を広げた。
「ピジョー!」
言葉として聞こえなくても、答えは分かった。
「分かった。じゃあ一緒に目指そう」
「ピジョ!」
新しい仲間が加わった。
◇
しばらく休憩したあと、サトシたちは再び森を進んだ。
昼を過ぎた頃、木々の間に少し開けた場所を見つける。
ピジョンは先ほどのバトルで疲れているため、キャタピーと一緒に休ませることにした。
その間に、サトシはピカチュウと向き合う。
「昨日の続きを少しだけやろう」
「ピカ!」
アイアンテールの練習。
昨日は尻尾へ硬質な輝きを纏わせ、数秒間維持するところまで進んだ。
ただし、攻撃として振ろうとすると消えてしまう。
「まず昨日と同じところから」
「ピカ」
ピカチュウが集中する。
尻尾の先が微かに輝き始め、その光が全体へ広がっていく。
「そのまま」
昨日より早い。
しかも安定している。
「よし。今度はゆっくり動かしてみよう」
「ピカ……」
ピカチュウが慎重に尻尾を横へ動かす。
輝きが揺らぐ。
だが――消えない。
「そう、それだ!」
「ピカ!」
嬉しさから勢いよく振ろうとした瞬間。
光が消えた。
「ピカァ……」
「今のでいい。昨日より進んでる」
サトシは近くに落ちていた細い枝を一本拾い、地面へ立てた。
「次はこれを狙ってみよう。ただし、まだ叩かなくていい」
「ピカ?」
「光らせた尻尾を、枝の手前まで振って止める。攻撃する動きと力を維持する感覚を一緒に覚えよう」
「ピカ!」
もう一度。
尻尾が輝く。
ピカチュウが身体を捻り、ゆっくり振る。
途中で光が消えた。
二回目。
また失敗。
三回目。
今度は枝の少し手前まで輝きを保てた。
「よし!」
「ピカ!」
「でも、まだ枝は叩かない。ちゃんと最後まで維持できるようになってからだ」
急いで完成させる必要はない。
一段ずつ確実に覚えればいい。
「今日はここまで」
「ピカ!」
まだアイアンテールとは呼べない。
それでも昨日より、技の形へ近づいていた。
「キャタ!」
声に振り向く。
休んでいたキャタピーがこちらを見ている。
その隣にはピジョンもいた。
「ピジョ」
二匹ともピカチュウの特訓が気になるらしい。
「お前たちも元気になったら特訓しような」
「キャタ!」
「ピジョ!」
三匹。
旅立つ前はピカチュウだけだった仲間が、少しずつ増えている。
サトシは自然と笑っていた。
◇
休憩を終え、さらに森の奥へ進んでいた時だった。
「なーんだかんだと聞かれたら!」
聞き覚えのある声が響いた。
サトシの足が止まる。
「……またか」
「またって何よ!」
カスミが振り向く。
木々の向こうから現れたのは、昨日トキワシティのポケモンセンターを襲った三人組。
ムサシ、コジロウ、ニャース。
相変わらずの口上を最後まで披露してから、三人は揃ってポーズを決めた。
「昨日あれだけ吹っ飛ばされたのに、もう来たの!?」
「当然よ!」
ムサシが胸を張る。
「あのピカチュウは普通じゃない!」
コジロウも指を突きつける。
「今度こそいただくニャ!」
「ピカ……」
ピカチュウが呆れたように耳を下げる。
サトシも前世で知っていたとはいえ、実際に二日連続で遭遇すると別の感想が出てくる。
「本当にしつこいな……」
「何ですってぇ!?」
「褒めてないぞ」
「分かってるわよ!」
ムサシがモンスターボールを投げる。
「アーボ!」
「ドガース、行け!」
「アーボ!」
「ドガース!」
二匹が現れた。
ピカチュウが前へ出ようとする。
「待った」
「ピカ?」
サトシは別のボールを取った。
「せっかく新しい仲間が増えたんだ。今度はこいつと戦う」
ボールを投げる。
「ピジョン!」
「ピジョー!」
ピジョンが飛び出し、翼を大きく広げた。
先ほど捕まえたばかりだが、休憩と手当ては済ませている。
「さっき戦ったばかりだけど、いけるか?」
「ピジョ!」
力強い返事。
「よし!」
「二匹で一気にやっちゃいなさい!」
ムサシが命じる。
アーボが地面を走り、ドガースが空中から迫る。
「ピジョン、上へ!」
「ピジョ!」
一気に高度を上げる。
アーボの攻撃は届かない。
ドガースが追ってくる。
「でんこうせっか!」
ピジョンが加速した。
ドガースの横を抜け、そのまま急旋回。
「つばさでうつ!」
「ピジョー!」
強く振り抜かれた翼がドガースを捉える。
「ドガッ!」
ドガースが地面へ叩き落とされた。
「ドガース!」
コジロウが叫ぶ。
その隙にアーボが飛び上がった。
「後ろ!」
「ピジョ!」
ピジョンが身体を捻り、紙一重でかわす。
「かぜおこし!」
翼を大きく羽ばたかせた。
猛烈な風がアーボを押し戻す。
「アーボーッ!」
「何よあのピジョン! 捕まえたばっかりじゃない!」
「元々強かったんだよ!」
サトシが答える。
ピジョンが再び上空へ。
ドガースが煙を吐き出し、周囲を覆おうとする。
「ピジョン!」
サトシが指示を出すより先に、ピジョンは翼を広げた。
「ピジョー!」
かぜおこし。
煙が一気に吹き散らされる。
サトシの口元が上がった。
「いい判断だ!」
「ピジョ!」
野生で生きてきた経験がある。
何でもサトシが指示する必要はない。
「だったら二匹まとめて止めろ! たつまき!」
「ピジョーッ!」
ピジョンの周囲で風が渦巻く。
生まれた竜巻がアーボとドガースへ迫った。
「アーボ!?」
「ドガース!?」
二匹が巻き込まれ、まとめて吹き飛ばされる。
「強い……」
カスミも素直に感心していた。
ピジョンはまだ余裕を残している。
このまま戦えば、おそらく押し切れる。
その時。
「キャタ!」
サトシの足元から声がした。
キャタピーだった。
「キャタ、キャタ!」
前へ出ようとしている。
「お前も戦いたいのか?」
「キャタ!」
迷いはない。
ピジョンが戦っている姿を見て、黙っていられなくなったらしい。
サトシは少しだけ考え、すぐに頷いた。
「分かった」
「えっ、交代するの?」
カスミが驚く。
「ああ」
サトシはピジョンへ呼びかける。
「ピジョン、十分だ! 戻ってくれ!」
「ピジョ!」
ピジョンは不満を見せることもなくサトシのもとへ戻り、その腕へ降りた。
「いい戦いだった。ありがとう」
「ピジョ」
サトシが頭を撫でる。
負けたから戻したわけではない。
むしろ十分すぎるほど強さを見せてくれた。
今度は――。
「キャタピーの番だ!」
「キャタ!」
キャタピーが前へ出る。
「何よ、そんなちっちゃな虫ポケモン!」
ムサシが笑う。
「アーボ、やっちゃいなさい!」
「アーボ!」
アーボが飛びかかる。
「キャタピー、いとをはく!」
「キャター!」
白い糸が放たれた。
アーボが避ける。
だがキャタピーは首を動かし、その軌道を追った。
「アーボ!?」
身体へ糸が絡みつく。
「もっとだ!」
「キャタ!」
次々と糸を重ね、アーボの動きを封じていく。
「ドガース!」
ドガースが横から突っ込んできた。
「かわして!」
キャタピーが小さな身体を縮め、転がるように回避する。
「今度はドガースにいとをはく!」
「キャタ!」
振り向きざまに糸を放つ。
「ドガッ!?」
ドガースにも絡みついた。
二匹とも動きが鈍る。
「すごいじゃない、キャタピー!」
カスミが思わず声を上げた。
「まだだ!」
サトシもキャタピーを見る。
「たいあたり!」
「キャタ!」
キャタピーが地面を蹴る。
小さな身体がアーボへ激突した。
「アーボッ!」
吹き飛ばされたアーボがドガースへぶつかる。
「ドガッ!」
二匹まとめて転がった。
「な、何なのよこのキャタピー!」
「昨日捕まえたばかりじゃないのか!?」
「昨日より強くなってるんだよ!」
実戦を経験し、ピカチュウの特訓を見て、ピジョンの戦いも見た。
キャタピー自身が強くなりたいと願っている。
「キャタ!」
キャタピーが胸を張る。
「だったらオレがやるニャ!」
ニャースが飛び出した。
だが。
「キャタ!」
キャタピーが素早く振り向く。
白い糸。
「ニャ!?」
一瞬でニャースの身体に絡みついた。
「動けないニャー!」
「よし、最後だ!」
サトシが前を指す。
「キャタピー、たいあたり!」
「キャター!」
勢いよく飛び出したキャタピーがアーボとドガースへ突っ込んだ。
二匹が後ろへ吹き飛ぶ。
その先には――。
「え?」
「まさか……」
ムサシとコジロウ。
「アーボー!」
「ドガース!」
激突。
さらに糸まみれのニャースまで巻き込まれる。
「ニャーッ!」
三人と二匹がまとめて空へ飛んでいった。
「やな感じー!」
森の向こうへ消えていく。
静寂。
サトシは数秒空を見上げてから、キャタピーへ視線を戻した。
「……勝ったな」
「キャタ!」
「やったぞ、キャタピー!」
サトシが駆け寄る。
ピカチュウも続いた。
「ピカピカ!」
「キャタ!」
キャタピーが嬉しそうに跳ねる。
ピジョンも翼を広げて近づいた。
「ピジョ!」
「キャタ!」
新しく仲間になったばかりの二匹だが、互いの戦いはしっかり見ていた。
サトシはキャタピーを抱き上げる。
「すごかったぞ。いとをはくも昨日よりずっと上手く使えてた」
「キャタ!」
「ちゃんと自分で考えて動けてたしな」
キャタピーが誇らしそうに鳴く。
カスミも近づいてきた。
まだ少し距離はある。
「……まあ、結構やるじゃない」
「キャタ?」
「ちょっと! こっち向かないで!」
「キャタ……」
「褒めたんだからそれでいいでしょ!」
サトシが笑う。
「もうちょっと近づいてやれば?」
「無理!」
「キャタ……」
明らかに落ち込んだ。
「うっ……」
カスミの表情が引きつる。
キャタピーは別に悪いことをしていない。
むしろロケット団相手に頑張ったばかりだ。
「……分かったわよ」
カスミがおそるおそる一歩近づく。
「本当に少しだけだからね」
「キャタ?」
さらに一歩。
手を伸ばそうとした、その時だった。
「キャタ……!」
キャタピーの身体が白く輝いた。
「えっ!?」
カスミが飛び退く。
「進化だ!」
サトシはすぐに分かった。
「キャタピー!」
光が強くなる。
細長かった身体が形を変え、緑色の硬い殻に包まれていく。
やがて光が消えた。
サトシたちの前にいたのは――。
「トランセル!」
「トランセル」
サトシの顔が明るくなる。
「やったな!」
しゃがんでトランセルへ手を伸ばす。
昨日、バタフリーになりたいと自分で決めたキャタピー。
その夢へ向かって、一つ目の進化を果たした。
「おめでとう、トランセル」
「トランセル」
「ピカ!」
「ピジョ!」
ピカチュウとピジョンも集まってくる。
トランセルは大きく動くことこそできないが、その目はしっかり仲間たちを見ていた。
サトシはその身体を優しく持ち上げる。
「次はバタフリーだな」
「トランセル」
「焦らなくていい。ちゃんと強くなっていこう」
トランセルが静かに頷いた。
その横では、カスミが微妙な表情を浮かべている。
「……キャタピーよりはマシかも」
「本当か?」
「動き回らないし」
「そこ?」
「そこ重要よ!」
「ピカピカ!」
ピカチュウが笑った。
◇
ロケット団との騒動を終えたサトシたちは、少し長めの休憩を取ってから再び歩き始めた。
ピジョンはサトシたちの少し上を飛んでいる。
時折先へ進んでは戻り、周囲の様子を確認していた。
「偵察までしてくれるのね」
カスミが空を見上げる。
「ああ。頼りになるな」
「ピジョ!」
聞こえていたのか、ピジョンが一声鳴いた。
ピカチュウはいつものようにサトシの肩。
トランセルは今までのように歩けないため、サトシが腕に抱えている。
旅立った時はピカチュウだけだった。
それが今では三匹になった。
サトシは森を歩きながら、腕の中のトランセルへ目を落とした。
「バタフリーになったら、自分で飛べるな」
「トランセル」
その時が楽しみだ。
前世で知っていた物語では、この先にも数え切れないほどの出会いが待っている。
けれど今、自分の隣にいるポケモンたちは物語の駒ではない。
一緒に戦い、一緒に強くなっていく仲間だ。
「ピジョ!」
上空のピジョンが突然鳴いた。
サトシが顔を上げる。
少し先。
木々の間に人影が立っていた。
妙な格好をしている。
鎧。
腰には刀のようなものまで下げていた。
「……来たか」
「知ってる人?」
カスミが尋ねる。
「いや」
サトシは首を横に振った。
もちろん、前世では知っている。
トキワの森で出会う、少し変わった少年。
その少年がこちらに気づき、ゆっくり振り向いた。
そして視線がサトシの腕に抱かれたトランセルへ向く。
森の奥からは、かすかに羽音が聞こえていた。
サトシはトランセルを抱き直す。
トキワの森での冒険は――まだ終わらない。