ポケットモンスター ―君と目指す頂―   作:あああああ

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第31話 ポケモンゼミ!知識と実戦!

アキラとサンドに別れを告げた翌日。

 

サトシたちはクチバシティを目指し、森の中を伸びる道を歩いていた。

 

木々の隙間から差し込む朝日が道を照らし、頭上ではピジョンとバタフリーが並んで飛んでいる。肩の上にはいつものようにピカチュウが座り、ときおり周囲へ耳を向けていた。

 

「それにしても、昨日のサンドは強かったな」

 

サトシが呟くと、ピカチュウがすぐに反応した。

 

「ピカ!」

 

「『まるくなる』で『アイアンテール』を受けられた時は驚いたよ。身体そのものがかなり鍛えられてた」

 

「ピカピカ」

 

「でも最後の二発はよかった。特に二発目の――」

 

「まだその話してるの?」

 

後ろからカスミの呆れた声が飛んでくる。

 

サトシが振り返った。

 

「だって強かったんだから仕方ないだろ?」

 

「昨日から何回目よ」

 

「強い相手とのバトルは何回考え直しても面白いからな」

 

「ピカ!」

 

「はいはい。似た者同士ね」

 

カスミがため息をつく。

 

その隣ではタケシが地図を確認していた。

 

「このまま進めばクチバシティ方面で間違いない。ただ、まだ少し距離があるな」

 

「じゃあ今日も野宿か?」

 

「たぶんな」

 

そんな会話をしながら歩いていると、不意にサトシの足が止まった。

 

「ん?」

 

「どうしたの?」

 

「向こうに誰かいる」

 

サトシが森の奥を見る。

 

ピカチュウも同じ方向へ耳を向けた。

 

少し離れた場所から複数の人間の気配がする。それ自体は珍しくないが、微かに聞こえてくる声には穏やかではないものが混じっていた。

 

「何か揉めてるみたいだ」

 

サトシたちは顔を見合わせ、その方向へ向かった。

 

◇

 

木々を抜けると、小さな空き地に出た。

 

そこには数人の少年少女が集まっている。

 

その中心で、一人の少年が地面に座り込んでいた。

 

「だから、こんな問題も分からないようじゃ駄目なのよ!」

 

「ご、ごめん……」

 

「謝る前に覚えなさい!」

 

少年は俯いている。

 

カスミの眉が寄った。

 

「ちょっと!」

 

全員が振り向く。

 

「何してるのよ!」

 

「誰?」

 

「それはこっちの台詞よ。みんなで一人を囲んで!」

 

カスミがずかずかと前へ出る。

 

タケシも少年を見る。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、うん……」

 

サトシは周囲の生徒たちを見た。

 

制服のような服装。

 

普通の旅人には見えない。

 

「君たち、トレーナー?」

 

「そうよ」

 

一人の少女が答えた。

 

「私たちはポケモンゼミの生徒」

 

「ポケモンゼミ?」

 

少年がゆっくり立ち上がった。

 

「ポケモントレーナーになるための学校なんだ。僕はジュン」

 

ジュンは自分の服についた土を払う。

 

「ゼミを卒業できれば、ジムを回らなくてもポケモンリーグへの出場資格がもらえるんだ」

 

「へえ」

 

サトシが興味を示した。

 

「そんな制度があるんだな」

 

存在自体は前世の知識にある。

 

だが、実際にこの世界で目にするのは当然初めてだった。

 

「タイプ相性や技、育成方法、バトル理論……いろんなことを勉強するんだ」

 

ジュンが説明する。

 

「試験もいっぱいあって……僕、なかなか成績が上がらなくて」

 

そこで表情が曇った。

 

先ほどの生徒が腕を組む。

 

「だから私たちが特訓してあげてるのよ」

 

「それを特訓って言うの?」

 

カスミが睨む。

 

険悪な空気になりかけた時。

 

「何を騒いでるの?」

 

凛とした声が響いた。

 

一人の少女が歩いてくる。

 

周囲の生徒たちがすぐに道を空けた。

 

「セイヨさん!」

 

「またジュン?」

 

少女――セイヨはジュンを見る。

 

「もう少し真面目に勉強した方がいいわよ。ポケモンリーグへ出たいんでしょう?」

 

「う、うん……」

 

「だったら結果を出さないと」

 

その言葉に、サトシがセイヨを見る。

 

「君もポケモンゼミの生徒?」

 

「そうだけど」

 

セイヨの視線がサトシの肩のピカチュウへ向く。

 

「あなたは?」

 

「マサラタウンのサトシ。ポケモンリーグを目指して旅してる」

 

「旅?」

 

「ジムを回ってるんだ」

 

セイヨは少し驚いた後、どこか自信ありげに笑った。

 

「ずいぶん大変な方法を選んだのね」

 

「そうか?」

 

「八つのジムを回ってバッジを集めるんでしょう? ゼミなら卒業するだけでリーグへの出場資格を得られるのよ」

 

サトシは少し考える。

 

「でも俺、旅するの好きだよ」

 

「ピカ!」

 

「いろんなポケモンに会えるし、いろんなトレーナーとも戦える。それに――」

 

腰のバッジケースを取り出す。

 

開く。

 

中には二つ。

 

グレーバッジ。

 

ブルーバッジ。

 

「もう二個取ったしな」

 

「二個……」

 

ジュンが目を輝かせた。

 

「すごい!」

 

「まだ二個だよ。あと六個」

 

サトシはケースを閉じる。

 

セイヨはバッジよりもサトシ自身を見ていた。

 

「じゃあ、ある程度は知識もあるのね?」

 

そこからセイヨはいくつかの問題を出した。

 

タイプ相性。

 

技の特徴。

 

進化。

 

状態変化。

 

サトシは一つずつ答えていく。

 

ゲームの知識だけではない。幼い頃からオーキド博士の研究所へ通い、この世界のポケモンについて改めて学んできた。

 

やがてセイヨが、少し複雑な条件の問題を出す。

 

サトシは少し考えてから答えた。

 

「それなら状況によるんじゃないか?」

 

「え?」

 

「相性だけならその答えでいいと思う。でも実際のバトルなら、距離とか地形とか、覚えてる技でも変わるだろ?」

 

セイヨが黙る。

 

「タイプ相性を覚えるのは大事だよ。俺も考える。でも、それだけで勝敗が全部決まるわけじゃない」

 

「だったら――実際に試してみる?」

 

「バトル?」

 

「ええ」

 

サトシの表情が一瞬で明るくなる。

 

「やる!」

 

「即答!?」

 

カスミが叫んだ。

 

◇

 

ポケモンゼミの訓練用フィールド。

 

話を聞きつけた生徒たちが周囲に集まり、ジュンも最前列から見守っている。

 

セイヨがモンスターボールを構えた。

 

「一対一でいい?」

 

「ああ」

 

「だったら――カラカラ!」

 

ボールが開く。

 

「カラ!」

 

頭蓋骨を被り、手に骨を持ったカラカラがフィールドへ降り立った。

 

サトシは少しだけ相手を観察する。

 

構えに迷いがない。

 

セイヨが知識だけのトレーナーではないことは、それだけでも分かった。

 

肩のピカチュウが前へ出ようとする。

 

だが、サトシはその頭を軽く撫でた。

 

「今日は応援」

 

「ピカ?」

 

「昨日いっぱい戦っただろ?」

 

「ピカピカ」

 

ピカチュウが下がる。

 

サトシは頭上へ声をかけた。

 

「バタフリー!」

 

「フリ?」

 

「やってみるか?」

 

「フリィ!」

 

迷いのない返事。

 

「よし。君に決めた!」

 

バタフリーがフィールドへ飛び出した。

 

「始めよう!」

 

「いいわ」

 

セイヨが先に動く。

 

「カラカラ、ホネこんぼう!」

 

「カラ!」

 

カラカラが一気に距離を詰める。

 

「バタフリー、上へ!」

 

「フリ!」

 

飛び上がる。

 

骨が空を切った。

 

だがセイヨは慌てない。

 

「ホネブーメラン!」

 

「カラ!」

 

骨が投げられた。

 

「かぜおこし!」

 

「フリィ!」

 

正面から風をぶつける。

 

骨の速度が僅かに落ち、軌道がずれる。

 

バタフリーの横を通過した。

 

「よし!」

 

「まだよ」

 

セイヨの言葉と同時に、サトシも気づく。

 

「バタフリー、後ろ!」

 

「フリ!?」

 

戻ってきた骨が背後から迫っていた。

 

バタフリーが身体を捻る。

 

だが――。

 

ゴッ!

 

「フリィッ!」

 

翼の端を骨が打った。

 

「バタフリー!」

 

体勢を崩しながら高度を落とす。

 

なんとか墜落は免れたものの、飛び方が少し乱れていた。

 

セイヨがすぐに追撃を命じる。

 

「カラカラ、もう一度!」

 

「カラ!」

 

再び骨が飛ぶ。

 

「避けろ!」

 

バタフリーが上昇する。

 

一度目。

 

避ける。

 

だが戻ってくる二度目まで考えなければならない。

 

「フリ!」

 

今度は自分から身体を沈め、戻ってきた骨もかわした。

 

「そうだ!」

 

サトシが笑う。

 

「一回見たもんな!」

 

「でも避けるだけじゃ勝てないわよ」

 

セイヨの言う通りだった。

 

空を飛べるバタフリーにはカラカラの近接攻撃が届きにくい。

 

その代わり、カラカラには『ホネブーメラン』がある。

 

遠距離でも一方的な有利ではない。

 

しかも――。

 

「ホネブーメラン!」

 

また飛んでくる。

 

「かぜおこし!」

 

風でずらす。

 

だがカラカラは戻ってきた骨を受け取ると、すぐ次を投げた。

 

「なるほど……」

 

サトシの目が細くなる。

 

セイヨはバタフリーを休ませないつもりだ。

 

羽ばたき続けさせ、回避を繰り返させる。

 

飛行できるから有利。

 

そこで思考を止めず、飛行するためにも体力が必要だと考えている。

 

「ちゃんと考えてるな」

 

「当然よ」

 

セイヨが答える。

 

「知識は使うために覚えるものよ」

 

「それには同意!」

 

「だったら負けなさい!」

 

「それは嫌だ!」

 

「フリィ!」

 

バタフリーも同意するように鳴いた。

 

「いとをはく!」

 

「フリ!」

 

白い糸が飛ぶ。

 

「カラカラ、避けて!」

 

カラカラが横へ跳ぶ。

 

糸は地面へ付着した。

 

もう一本。

 

また避けられる。

 

さらに一本。

 

「何をしてるの?」

 

セイヨが警戒する。

 

サトシは答えない。

 

「続けろ!」

 

バタフリーが飛びながら糸を放つ。

 

カラカラを直接捕まえることにこだわらない。

 

地面。

 

足場。

 

カラカラの周囲。

 

何本もの糸が残る。

 

ハナダジムで水上に糸を張った経験。

 

あの時は、水中から出てくるヒトデマンを捉えるために使った。

 

今回は違う。

 

カラカラの動ける場所を少しずつ削る。

 

「カラカラ、糸のないところへ!」

 

「カラ!」

 

セイヨもすぐ意図に気づいた。

 

カラカラが場所を変える。

 

「ホネブーメラン!」

 

骨が飛ぶ。

 

バタフリーが避ける。

 

一度目。

 

そして――。

 

「フリ!」

 

自分から後ろを見る。

 

戻ってくる骨もかわした。

 

「いいぞ!」

 

最初に受けた攻撃から学んでいる。

 

しかし。

 

「カラカラ、今!」

 

「カラ!」

 

サトシが目を見開く。

 

「バタフリー!」

 

骨を避けた直後。

 

カラカラ自身が走っていた。

 

バタフリーが戻ってくる骨へ意識を向ける瞬間を狙ったのだ。

 

「ホネこんぼう!」

 

「カラァ!」

 

跳び上がる。

 

ゴッ!

 

骨がバタフリーを捉えた。

 

「フリィッ!」

 

今度こそ地面へ落ちる。

 

「バタフリー!」

 

土埃。

 

ピカチュウが身を乗り出す。

 

「ピカ……!」

 

「どう?」

 

セイヨが言う。

 

「飛んでいれば安全なんてことはないの」

 

「ああ」

 

サトシはフィールドを見つめる。

 

「強いよ、セイヨ」

 

「今さら?」

 

「だから――勝ちたい」

 

土埃の中。

 

「フリ……」

 

バタフリーが身体を起こした。

 

羽ばたく。

 

一度。

 

二度。

 

再び宙へ浮く。

 

かなり消耗している。

 

それでも戦意は消えていない。

 

まだやれる。

 

強くなりたい。

 

その意思が伝わってくる。

 

「行けるな?」

 

「フリィ!」

 

「よし!」

 

サトシはカラカラを見る。

 

カラカラも無傷ではない。

 

『かぜおこし』を何度か受けている。

 

だが、バタフリーの方が消耗は大きい。

 

長引けば不利だ。

 

なら――ここで決める。

 

「バタフリー、かぜおこし!」

 

「フリィィ!」

 

強風が吹く。

 

「踏ん張って!」

 

「カラ!」

 

カラカラが姿勢を低くする。

 

耐える。

 

「そのままホネブーメラン!」

 

風の中から骨が飛ぶ。

 

サトシは叫ばない。

 

バタフリーへ意識を向ける。

 

上。

 

それだけの単純な像。

 

「フリ!」

 

バタフリーが上昇する。

 

骨が下を通過した。

 

「今よ! 戻ってくる!」

 

セイヨが叫ぶ。

 

カラカラも構える。

 

バタフリーの背後から骨が戻ってくる。

 

サトシも見えている。

 

だが――。

 

バタフリーは振り向かなかった。

 

「え?」

 

セイヨが目を見開く。

 

「フリィ!」

 

バタフリーが突然急降下した。

 

骨が頭上を通り過ぎる。

 

サトシも一瞬驚いた。

 

自分は下へ行けとは伝えていない。

 

バタフリー自身が選んだ。

 

そして、戻ってきた骨は――。

 

「カラ?」

 

カラカラの手へ戻る。

 

ほんの一瞬。

 

受け取るために意識が上へ向いた。

 

その先。

 

地面近くを飛ぶバタフリー。

 

「そういうことか!」

 

サトシが意図を理解する。

 

「そのまま行け!」

 

「フリィ!」

 

バタフリーが低空を飛ぶ。

 

カラカラが迎撃しようと一歩踏み出した。

 

その足が――。

 

糸に触れる。

 

「カラ!?」

 

身体が僅かに止まった。

 

最初からフィールドへ張っていた糸。

 

「今だ!」

 

「フリィィ!」

 

バタフリーが羽ばたく。

 

「かぜおこし!」

 

至近距離。

 

強風が直撃した。

 

「カラァッ!」

 

カラカラの身体が浮く。

 

踏ん張れない。

 

足元には糸。

 

姿勢も崩れている。

 

「バタフリー!」

 

サトシが拳を握る。

 

バタフリーもすでに動いていた。

 

「たいあたり!」

 

「フリィィィ!」

 

風に乗る。

 

これまでより速い。

 

ドンッ!

 

真正面から激突した。

 

「カラァ!」

 

カラカラが大きく吹き飛ばされる。

 

地面を転がり――止まった。

 

「カラカラ!」

 

セイヨが呼ぶ。

 

「カラ……」

 

カラカラは腕を地面につく。

 

立ち上がろうとする。

 

だが、力が入らない。

 

そのまま倒れた。

 

静かになる。

 

セイヨがしばらくカラカラを見つめる。

 

「……カラカラ、戦闘不能」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

「よし!」

 

サトシが拳を上げた。

 

「フリィ!」

 

バタフリーが嬉しそうに鳴く。

 

だが直後、高度が落ちた。

 

「おっと!」

 

サトシが駆け寄り、降りてきたバタフリーを両腕で受け止める。

 

「大丈夫か?」

 

「フリ……」

 

疲れている。

 

翼も重そうだ。

 

それでも、その表情は嬉しそうだった。

 

「やったな」

 

サトシが笑う。

 

「最後の避け方、俺もびっくりしたよ」

 

「フリィ」

 

「自分で考えたんだな」

 

「フリ!」

 

ピカチュウも駆け寄る。

 

「ピカピカ!」

 

バタフリーが誇らしげに羽を動かした。

 

ハナダジムでは、サトシが作った糸の仕掛けを使ってヒトデマンを倒した。

 

今回は違う。

 

同じ経験を使いながら、最後にはバタフリー自身が相手を見て、自分で次の動きを選んだ。

 

それが勝利につながった。

 

サトシはバタフリーの頭を優しく撫でる。

 

「また強くなったな」

 

「フリィ!」

 

◇

 

セイヨはカラカラのところへ歩いていき、その身体を抱き上げた。

 

「ごめんね、カラカラ」

 

「カラ……」

 

「よく頑張ったわ」

 

サトシもバタフリーを休ませながら近づく。

 

「強かったよ」

 

「……でも負けた」

 

「俺たちだって危なかった」

 

実際、あと一度まともに『ホネこんぼう』を受けていたら分からなかった。

 

「それに、セイヨが言ってたことが間違ってたわけじゃないよ」

 

「え?」

 

「タイプ相性も技の知識も大事だろ? 俺だって知らないより知ってる方がいいと思う」

 

サトシは先ほどまで戦っていたフィールドを見る。

 

残された糸。

 

骨の落ちた跡。

 

バタフリーが叩きつけられた場所。

 

「でも実際に戦うと、相手も考えるし、ポケモンだって自分で動く」

 

サトシは腕の中のバタフリーを見る。

 

「問題みたいに答えが一つじゃないんだと思う」

 

セイヨもバタフリーを見る。

 

「……最後の動きも、あなたの指示?」

 

「いや」

 

サトシは笑った。

 

「バタフリーが自分で考えた」

 

「フリ」

 

「俺も途中で気づいたくらいだよ」

 

セイヨはしばらく黙った。

 

それから腕の中のカラカラを見る。

 

「……そっか」

 

小さく呟く。

 

「私も、もっとカラカラを見ないといけないのかもね」

 

「カラ?」

 

「問題集じゃなくて、あなたをね」

 

「カラ!」

 

カラカラが嬉しそうに鳴いた。

 

◇

 

その頃。

 

ポケモンゼミの別棟。

 

「ふっふっふ……」

 

ムサシが机の前で不敵に笑っていた。

 

隣にはコジロウ。

 

そしてニャース。

 

三人の前には大量の問題用紙が置かれている。

 

「今まで私たちに足りなかったものが、ようやく分かったわ」

 

「何だ?」

 

「知性よ!」

 

「今さらニャ?」

 

「うるさい!」

 

ムサシが机を叩く。

 

「力で駄目なら頭! 頭脳でサトシたちを上回ればいいのよ!」

 

「なるほど!」

 

コジロウが納得する。

 

「ポケモンの知識を完璧にすれば、ピカチュウ対策だって立てられる!」

 

「そういうこと!」

 

ニャースだけが疑わしそうな顔をしていた。

 

「嫌な予感しかしないニャ……」

 

数分後。

 

「分かるかこんなものぉぉぉ!」

 

ムサシが問題用紙を投げた。

 

「早すぎるニャ!」

 

「この問題おかしくないか!?」

 

コジロウまで叫ぶ。

 

「おかしいのはお前たちの頭ニャ!」

 

「何ですって!?」

 

騒ぎは当然、周囲まで響いた。

 

◇

 

「何か聞こえなかった?」

 

カスミが振り返る。

 

「聞こえた」

 

サトシも同じ方向を見る。

 

「この声……」

 

「ピカ……」

 

サトシとピカチュウが同時に嫌そうな顔をした。

 

直後。

 

ドンッ!

 

建物の扉が開く。

 

「こうなったら実戦よ!」

 

「知識なんてなくても最後に勝てばいい!」

 

「さっきと言ってることが真逆ニャ!」

 

飛び出してきた三人。

 

サトシたちは固まった。

 

ロケット団も固まった。

 

「……」

 

「……」

 

ムサシが指を差す。

 

「なんであんたたちがいるのよ!」

 

「こっちの台詞だ!」

 

「ピカ!」

 

結局。

 

いつものように戦いになった。

 

「アーボ!」

 

「ドガース!」

 

二匹が飛び出す。

 

サトシはピカチュウへ視線を向けた。

 

だが。

 

「今日は休んでていいよ」

 

「ピカ?」

 

サトシが頭上を見る。

 

「ピジョン!」

 

「ピジョ!」

 

そしてバタフリーを見る。

 

先ほどの戦いで消耗している。

 

サトシは一瞬考えたが、バタフリー自身が前へ出た。

 

「フリ!」

 

「……まだやる?」

 

「フリィ!」

 

返ってくる意思は強い。

 

ただし無理はさせない。

 

「分かった。きつくなったらすぐ下がるぞ」

 

「フリ!」

 

ピジョンとバタフリーが並ぶ。

 

「またあの鳥と虫!?」

 

ムサシが叫ぶ。

 

「アーボ、行きなさい!」

 

「ドガース、煙だ!」

 

黒い煙が広がる。

 

視界が塞がれる。

 

しかし。

 

「バタフリー!」

 

「フリ!」

 

バタフリーが羽ばたく。

 

「かぜおこし!」

 

強風。

 

煙が一気に吹き散らされた。

 

「なっ!?」

 

「ピジョン、でんこうせっか!」

 

「ピジョォ!」

 

高速で突っ込み、アーボを吹き飛ばす。

 

「ドガース!」

 

ドガースが向きを変える。

 

「ピジョン、上!」

 

ピジョンが上昇する。

 

「たつまき!」

 

「ピジョォォン!」

 

渦巻く風が生まれる。

 

「バタフリー、かぜおこし!」

 

「フリィィ!」

 

二つの風が重なる。

 

「ちょっと待ってぇぇぇ!」

 

「これはまずいぞ!」

 

「ニャースまで巻き込まれてるニャァァ!」

 

ロケット団が空へ舞い上がった。

 

「やな感じぃぃぃ!」

 

声が遠ざかっていく。

 

静寂。

 

サトシは空を見上げる。

 

「……何しに来たんだ?」

 

「ピカ」

 

ピカチュウも首を傾げた。

 

◇

 

夕方。

 

サトシたちはポケモンゼミを出ることになった。

 

ジュンとセイヨが見送りに来ている。

 

「僕、もう少し頑張ってみる」

 

ジュンが言った。

 

「学校を辞めるんじゃなくて、勉強しながらポケモンともちゃんと向き合ってみるよ」

 

「うん。それがいいと思う」

 

「いつか僕もリーグに出る!」

 

「その時はバトルしようぜ!」

 

「うん!」

 

セイヨも一歩前へ出る。

 

「次に会ったら負けないから」

 

「俺たちも負けないよ」

 

「フリ!」

 

バタフリーまで返事をする。

 

セイヨが少し笑った。

 

「まずはバタフリー対策から考えておくわ」

 

「だったら俺たちも、それまでにもっと強くなる」

 

「……やっぱり変な人」

 

「だからなんで!?」

 

笑い声の中、サトシたちは再び旅へ出た。

 

◇

 

しばらく歩いたところで。

 

「バタフリー」

 

「フリ?」

 

サトシが呼ぶと、頭上を飛んでいたバタフリーが降りてきた。

 

「今日のバトル、よかったよ」

 

「フリィ!」

 

嬉しそうに羽ばたく。

 

『いとをはく』。

 

『かぜおこし』。

 

『たいあたり』。

 

今ある技を組み合わせるだけでも、以前よりずっと戦えるようになった。

 

何より、自分で相手を見て動けるようになっている。

 

だからこそ。

 

「そろそろ、次の技も考えてみようか」

 

「フリ?」

 

バタフリーが首を傾げる。

 

サトシの頭には、すでに一つの技が浮かんでいた。

 

『サイケこうせん』。

 

今のバタフリーにとって、新しい攻撃の選択肢になる技だ。

 

もちろん、思いついたからといってすぐ使えるようになるわけではない。

 

まずは感覚を掴むところから。

 

そこから練習を重ねて、実戦で安定して使えるところまで持っていく。

 

「次の休憩から、少しずつ練習してみよう」

 

「フリィ!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウも応援するように鳴き、ピジョンがその上を旋回した。

 

サトシは仲間たちを見上げる。

 

知識は大切だ。

 

経験も大切だ。

 

そしてポケモン自身が考え、積み重ねた経験を次の戦いへ活かすことも。

 

その全部が、強さにつながっていく。

 

「よし、クチバシティ目指して行こう!」

 

「ピカ!」

 

「フリィ!」

 

「ピジョォン!」

 

サトシたちは再び歩き出した。

 

次の出会いと、次の戦い。

 

そしてまだ見ぬポケモンたちが待つ、道の先へ。

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