ポケットモンスター ―君と目指す頂― 作:あああああ
アキラとサンドに別れを告げた翌日。
サトシたちはクチバシティを目指し、森の中を伸びる道を歩いていた。
木々の隙間から差し込む朝日が道を照らし、頭上ではピジョンとバタフリーが並んで飛んでいる。肩の上にはいつものようにピカチュウが座り、ときおり周囲へ耳を向けていた。
「それにしても、昨日のサンドは強かったな」
サトシが呟くと、ピカチュウがすぐに反応した。
「ピカ!」
「『まるくなる』で『アイアンテール』を受けられた時は驚いたよ。身体そのものがかなり鍛えられてた」
「ピカピカ」
「でも最後の二発はよかった。特に二発目の――」
「まだその話してるの?」
後ろからカスミの呆れた声が飛んでくる。
サトシが振り返った。
「だって強かったんだから仕方ないだろ?」
「昨日から何回目よ」
「強い相手とのバトルは何回考え直しても面白いからな」
「ピカ!」
「はいはい。似た者同士ね」
カスミがため息をつく。
その隣ではタケシが地図を確認していた。
「このまま進めばクチバシティ方面で間違いない。ただ、まだ少し距離があるな」
「じゃあ今日も野宿か?」
「たぶんな」
そんな会話をしながら歩いていると、不意にサトシの足が止まった。
「ん?」
「どうしたの?」
「向こうに誰かいる」
サトシが森の奥を見る。
ピカチュウも同じ方向へ耳を向けた。
少し離れた場所から複数の人間の気配がする。それ自体は珍しくないが、微かに聞こえてくる声には穏やかではないものが混じっていた。
「何か揉めてるみたいだ」
サトシたちは顔を見合わせ、その方向へ向かった。
◇
木々を抜けると、小さな空き地に出た。
そこには数人の少年少女が集まっている。
その中心で、一人の少年が地面に座り込んでいた。
「だから、こんな問題も分からないようじゃ駄目なのよ!」
「ご、ごめん……」
「謝る前に覚えなさい!」
少年は俯いている。
カスミの眉が寄った。
「ちょっと!」
全員が振り向く。
「何してるのよ!」
「誰?」
「それはこっちの台詞よ。みんなで一人を囲んで!」
カスミがずかずかと前へ出る。
タケシも少年を見る。
「大丈夫か?」
「あ、うん……」
サトシは周囲の生徒たちを見た。
制服のような服装。
普通の旅人には見えない。
「君たち、トレーナー?」
「そうよ」
一人の少女が答えた。
「私たちはポケモンゼミの生徒」
「ポケモンゼミ?」
少年がゆっくり立ち上がった。
「ポケモントレーナーになるための学校なんだ。僕はジュン」
ジュンは自分の服についた土を払う。
「ゼミを卒業できれば、ジムを回らなくてもポケモンリーグへの出場資格がもらえるんだ」
「へえ」
サトシが興味を示した。
「そんな制度があるんだな」
存在自体は前世の知識にある。
だが、実際にこの世界で目にするのは当然初めてだった。
「タイプ相性や技、育成方法、バトル理論……いろんなことを勉強するんだ」
ジュンが説明する。
「試験もいっぱいあって……僕、なかなか成績が上がらなくて」
そこで表情が曇った。
先ほどの生徒が腕を組む。
「だから私たちが特訓してあげてるのよ」
「それを特訓って言うの?」
カスミが睨む。
険悪な空気になりかけた時。
「何を騒いでるの?」
凛とした声が響いた。
一人の少女が歩いてくる。
周囲の生徒たちがすぐに道を空けた。
「セイヨさん!」
「またジュン?」
少女――セイヨはジュンを見る。
「もう少し真面目に勉強した方がいいわよ。ポケモンリーグへ出たいんでしょう?」
「う、うん……」
「だったら結果を出さないと」
その言葉に、サトシがセイヨを見る。
「君もポケモンゼミの生徒?」
「そうだけど」
セイヨの視線がサトシの肩のピカチュウへ向く。
「あなたは?」
「マサラタウンのサトシ。ポケモンリーグを目指して旅してる」
「旅?」
「ジムを回ってるんだ」
セイヨは少し驚いた後、どこか自信ありげに笑った。
「ずいぶん大変な方法を選んだのね」
「そうか?」
「八つのジムを回ってバッジを集めるんでしょう? ゼミなら卒業するだけでリーグへの出場資格を得られるのよ」
サトシは少し考える。
「でも俺、旅するの好きだよ」
「ピカ!」
「いろんなポケモンに会えるし、いろんなトレーナーとも戦える。それに――」
腰のバッジケースを取り出す。
開く。
中には二つ。
グレーバッジ。
ブルーバッジ。
「もう二個取ったしな」
「二個……」
ジュンが目を輝かせた。
「すごい!」
「まだ二個だよ。あと六個」
サトシはケースを閉じる。
セイヨはバッジよりもサトシ自身を見ていた。
「じゃあ、ある程度は知識もあるのね?」
そこからセイヨはいくつかの問題を出した。
タイプ相性。
技の特徴。
進化。
状態変化。
サトシは一つずつ答えていく。
ゲームの知識だけではない。幼い頃からオーキド博士の研究所へ通い、この世界のポケモンについて改めて学んできた。
やがてセイヨが、少し複雑な条件の問題を出す。
サトシは少し考えてから答えた。
「それなら状況によるんじゃないか?」
「え?」
「相性だけならその答えでいいと思う。でも実際のバトルなら、距離とか地形とか、覚えてる技でも変わるだろ?」
セイヨが黙る。
「タイプ相性を覚えるのは大事だよ。俺も考える。でも、それだけで勝敗が全部決まるわけじゃない」
「だったら――実際に試してみる?」
「バトル?」
「ええ」
サトシの表情が一瞬で明るくなる。
「やる!」
「即答!?」
カスミが叫んだ。
◇
ポケモンゼミの訓練用フィールド。
話を聞きつけた生徒たちが周囲に集まり、ジュンも最前列から見守っている。
セイヨがモンスターボールを構えた。
「一対一でいい?」
「ああ」
「だったら――カラカラ!」
ボールが開く。
「カラ!」
頭蓋骨を被り、手に骨を持ったカラカラがフィールドへ降り立った。
サトシは少しだけ相手を観察する。
構えに迷いがない。
セイヨが知識だけのトレーナーではないことは、それだけでも分かった。
肩のピカチュウが前へ出ようとする。
だが、サトシはその頭を軽く撫でた。
「今日は応援」
「ピカ?」
「昨日いっぱい戦っただろ?」
「ピカピカ」
ピカチュウが下がる。
サトシは頭上へ声をかけた。
「バタフリー!」
「フリ?」
「やってみるか?」
「フリィ!」
迷いのない返事。
「よし。君に決めた!」
バタフリーがフィールドへ飛び出した。
「始めよう!」
「いいわ」
セイヨが先に動く。
「カラカラ、ホネこんぼう!」
「カラ!」
カラカラが一気に距離を詰める。
「バタフリー、上へ!」
「フリ!」
飛び上がる。
骨が空を切った。
だがセイヨは慌てない。
「ホネブーメラン!」
「カラ!」
骨が投げられた。
「かぜおこし!」
「フリィ!」
正面から風をぶつける。
骨の速度が僅かに落ち、軌道がずれる。
バタフリーの横を通過した。
「よし!」
「まだよ」
セイヨの言葉と同時に、サトシも気づく。
「バタフリー、後ろ!」
「フリ!?」
戻ってきた骨が背後から迫っていた。
バタフリーが身体を捻る。
だが――。
ゴッ!
「フリィッ!」
翼の端を骨が打った。
「バタフリー!」
体勢を崩しながら高度を落とす。
なんとか墜落は免れたものの、飛び方が少し乱れていた。
セイヨがすぐに追撃を命じる。
「カラカラ、もう一度!」
「カラ!」
再び骨が飛ぶ。
「避けろ!」
バタフリーが上昇する。
一度目。
避ける。
だが戻ってくる二度目まで考えなければならない。
「フリ!」
今度は自分から身体を沈め、戻ってきた骨もかわした。
「そうだ!」
サトシが笑う。
「一回見たもんな!」
「でも避けるだけじゃ勝てないわよ」
セイヨの言う通りだった。
空を飛べるバタフリーにはカラカラの近接攻撃が届きにくい。
その代わり、カラカラには『ホネブーメラン』がある。
遠距離でも一方的な有利ではない。
しかも――。
「ホネブーメラン!」
また飛んでくる。
「かぜおこし!」
風でずらす。
だがカラカラは戻ってきた骨を受け取ると、すぐ次を投げた。
「なるほど……」
サトシの目が細くなる。
セイヨはバタフリーを休ませないつもりだ。
羽ばたき続けさせ、回避を繰り返させる。
飛行できるから有利。
そこで思考を止めず、飛行するためにも体力が必要だと考えている。
「ちゃんと考えてるな」
「当然よ」
セイヨが答える。
「知識は使うために覚えるものよ」
「それには同意!」
「だったら負けなさい!」
「それは嫌だ!」
「フリィ!」
バタフリーも同意するように鳴いた。
「いとをはく!」
「フリ!」
白い糸が飛ぶ。
「カラカラ、避けて!」
カラカラが横へ跳ぶ。
糸は地面へ付着した。
もう一本。
また避けられる。
さらに一本。
「何をしてるの?」
セイヨが警戒する。
サトシは答えない。
「続けろ!」
バタフリーが飛びながら糸を放つ。
カラカラを直接捕まえることにこだわらない。
地面。
足場。
カラカラの周囲。
何本もの糸が残る。
ハナダジムで水上に糸を張った経験。
あの時は、水中から出てくるヒトデマンを捉えるために使った。
今回は違う。
カラカラの動ける場所を少しずつ削る。
「カラカラ、糸のないところへ!」
「カラ!」
セイヨもすぐ意図に気づいた。
カラカラが場所を変える。
「ホネブーメラン!」
骨が飛ぶ。
バタフリーが避ける。
一度目。
そして――。
「フリ!」
自分から後ろを見る。
戻ってくる骨もかわした。
「いいぞ!」
最初に受けた攻撃から学んでいる。
しかし。
「カラカラ、今!」
「カラ!」
サトシが目を見開く。
「バタフリー!」
骨を避けた直後。
カラカラ自身が走っていた。
バタフリーが戻ってくる骨へ意識を向ける瞬間を狙ったのだ。
「ホネこんぼう!」
「カラァ!」
跳び上がる。
ゴッ!
骨がバタフリーを捉えた。
「フリィッ!」
今度こそ地面へ落ちる。
「バタフリー!」
土埃。
ピカチュウが身を乗り出す。
「ピカ……!」
「どう?」
セイヨが言う。
「飛んでいれば安全なんてことはないの」
「ああ」
サトシはフィールドを見つめる。
「強いよ、セイヨ」
「今さら?」
「だから――勝ちたい」
土埃の中。
「フリ……」
バタフリーが身体を起こした。
羽ばたく。
一度。
二度。
再び宙へ浮く。
かなり消耗している。
それでも戦意は消えていない。
まだやれる。
強くなりたい。
その意思が伝わってくる。
「行けるな?」
「フリィ!」
「よし!」
サトシはカラカラを見る。
カラカラも無傷ではない。
『かぜおこし』を何度か受けている。
だが、バタフリーの方が消耗は大きい。
長引けば不利だ。
なら――ここで決める。
「バタフリー、かぜおこし!」
「フリィィ!」
強風が吹く。
「踏ん張って!」
「カラ!」
カラカラが姿勢を低くする。
耐える。
「そのままホネブーメラン!」
風の中から骨が飛ぶ。
サトシは叫ばない。
バタフリーへ意識を向ける。
上。
それだけの単純な像。
「フリ!」
バタフリーが上昇する。
骨が下を通過した。
「今よ! 戻ってくる!」
セイヨが叫ぶ。
カラカラも構える。
バタフリーの背後から骨が戻ってくる。
サトシも見えている。
だが――。
バタフリーは振り向かなかった。
「え?」
セイヨが目を見開く。
「フリィ!」
バタフリーが突然急降下した。
骨が頭上を通り過ぎる。
サトシも一瞬驚いた。
自分は下へ行けとは伝えていない。
バタフリー自身が選んだ。
そして、戻ってきた骨は――。
「カラ?」
カラカラの手へ戻る。
ほんの一瞬。
受け取るために意識が上へ向いた。
その先。
地面近くを飛ぶバタフリー。
「そういうことか!」
サトシが意図を理解する。
「そのまま行け!」
「フリィ!」
バタフリーが低空を飛ぶ。
カラカラが迎撃しようと一歩踏み出した。
その足が――。
糸に触れる。
「カラ!?」
身体が僅かに止まった。
最初からフィールドへ張っていた糸。
「今だ!」
「フリィィ!」
バタフリーが羽ばたく。
「かぜおこし!」
至近距離。
強風が直撃した。
「カラァッ!」
カラカラの身体が浮く。
踏ん張れない。
足元には糸。
姿勢も崩れている。
「バタフリー!」
サトシが拳を握る。
バタフリーもすでに動いていた。
「たいあたり!」
「フリィィィ!」
風に乗る。
これまでより速い。
ドンッ!
真正面から激突した。
「カラァ!」
カラカラが大きく吹き飛ばされる。
地面を転がり――止まった。
「カラカラ!」
セイヨが呼ぶ。
「カラ……」
カラカラは腕を地面につく。
立ち上がろうとする。
だが、力が入らない。
そのまま倒れた。
静かになる。
セイヨがしばらくカラカラを見つめる。
「……カラカラ、戦闘不能」
その言葉を聞いた瞬間。
「よし!」
サトシが拳を上げた。
「フリィ!」
バタフリーが嬉しそうに鳴く。
だが直後、高度が落ちた。
「おっと!」
サトシが駆け寄り、降りてきたバタフリーを両腕で受け止める。
「大丈夫か?」
「フリ……」
疲れている。
翼も重そうだ。
それでも、その表情は嬉しそうだった。
「やったな」
サトシが笑う。
「最後の避け方、俺もびっくりしたよ」
「フリィ」
「自分で考えたんだな」
「フリ!」
ピカチュウも駆け寄る。
「ピカピカ!」
バタフリーが誇らしげに羽を動かした。
ハナダジムでは、サトシが作った糸の仕掛けを使ってヒトデマンを倒した。
今回は違う。
同じ経験を使いながら、最後にはバタフリー自身が相手を見て、自分で次の動きを選んだ。
それが勝利につながった。
サトシはバタフリーの頭を優しく撫でる。
「また強くなったな」
「フリィ!」
◇
セイヨはカラカラのところへ歩いていき、その身体を抱き上げた。
「ごめんね、カラカラ」
「カラ……」
「よく頑張ったわ」
サトシもバタフリーを休ませながら近づく。
「強かったよ」
「……でも負けた」
「俺たちだって危なかった」
実際、あと一度まともに『ホネこんぼう』を受けていたら分からなかった。
「それに、セイヨが言ってたことが間違ってたわけじゃないよ」
「え?」
「タイプ相性も技の知識も大事だろ? 俺だって知らないより知ってる方がいいと思う」
サトシは先ほどまで戦っていたフィールドを見る。
残された糸。
骨の落ちた跡。
バタフリーが叩きつけられた場所。
「でも実際に戦うと、相手も考えるし、ポケモンだって自分で動く」
サトシは腕の中のバタフリーを見る。
「問題みたいに答えが一つじゃないんだと思う」
セイヨもバタフリーを見る。
「……最後の動きも、あなたの指示?」
「いや」
サトシは笑った。
「バタフリーが自分で考えた」
「フリ」
「俺も途中で気づいたくらいだよ」
セイヨはしばらく黙った。
それから腕の中のカラカラを見る。
「……そっか」
小さく呟く。
「私も、もっとカラカラを見ないといけないのかもね」
「カラ?」
「問題集じゃなくて、あなたをね」
「カラ!」
カラカラが嬉しそうに鳴いた。
◇
その頃。
ポケモンゼミの別棟。
「ふっふっふ……」
ムサシが机の前で不敵に笑っていた。
隣にはコジロウ。
そしてニャース。
三人の前には大量の問題用紙が置かれている。
「今まで私たちに足りなかったものが、ようやく分かったわ」
「何だ?」
「知性よ!」
「今さらニャ?」
「うるさい!」
ムサシが机を叩く。
「力で駄目なら頭! 頭脳でサトシたちを上回ればいいのよ!」
「なるほど!」
コジロウが納得する。
「ポケモンの知識を完璧にすれば、ピカチュウ対策だって立てられる!」
「そういうこと!」
ニャースだけが疑わしそうな顔をしていた。
「嫌な予感しかしないニャ……」
数分後。
「分かるかこんなものぉぉぉ!」
ムサシが問題用紙を投げた。
「早すぎるニャ!」
「この問題おかしくないか!?」
コジロウまで叫ぶ。
「おかしいのはお前たちの頭ニャ!」
「何ですって!?」
騒ぎは当然、周囲まで響いた。
◇
「何か聞こえなかった?」
カスミが振り返る。
「聞こえた」
サトシも同じ方向を見る。
「この声……」
「ピカ……」
サトシとピカチュウが同時に嫌そうな顔をした。
直後。
ドンッ!
建物の扉が開く。
「こうなったら実戦よ!」
「知識なんてなくても最後に勝てばいい!」
「さっきと言ってることが真逆ニャ!」
飛び出してきた三人。
サトシたちは固まった。
ロケット団も固まった。
「……」
「……」
ムサシが指を差す。
「なんであんたたちがいるのよ!」
「こっちの台詞だ!」
「ピカ!」
結局。
いつものように戦いになった。
「アーボ!」
「ドガース!」
二匹が飛び出す。
サトシはピカチュウへ視線を向けた。
だが。
「今日は休んでていいよ」
「ピカ?」
サトシが頭上を見る。
「ピジョン!」
「ピジョ!」
そしてバタフリーを見る。
先ほどの戦いで消耗している。
サトシは一瞬考えたが、バタフリー自身が前へ出た。
「フリ!」
「……まだやる?」
「フリィ!」
返ってくる意思は強い。
ただし無理はさせない。
「分かった。きつくなったらすぐ下がるぞ」
「フリ!」
ピジョンとバタフリーが並ぶ。
「またあの鳥と虫!?」
ムサシが叫ぶ。
「アーボ、行きなさい!」
「ドガース、煙だ!」
黒い煙が広がる。
視界が塞がれる。
しかし。
「バタフリー!」
「フリ!」
バタフリーが羽ばたく。
「かぜおこし!」
強風。
煙が一気に吹き散らされた。
「なっ!?」
「ピジョン、でんこうせっか!」
「ピジョォ!」
高速で突っ込み、アーボを吹き飛ばす。
「ドガース!」
ドガースが向きを変える。
「ピジョン、上!」
ピジョンが上昇する。
「たつまき!」
「ピジョォォン!」
渦巻く風が生まれる。
「バタフリー、かぜおこし!」
「フリィィ!」
二つの風が重なる。
「ちょっと待ってぇぇぇ!」
「これはまずいぞ!」
「ニャースまで巻き込まれてるニャァァ!」
ロケット団が空へ舞い上がった。
「やな感じぃぃぃ!」
声が遠ざかっていく。
静寂。
サトシは空を見上げる。
「……何しに来たんだ?」
「ピカ」
ピカチュウも首を傾げた。
◇
夕方。
サトシたちはポケモンゼミを出ることになった。
ジュンとセイヨが見送りに来ている。
「僕、もう少し頑張ってみる」
ジュンが言った。
「学校を辞めるんじゃなくて、勉強しながらポケモンともちゃんと向き合ってみるよ」
「うん。それがいいと思う」
「いつか僕もリーグに出る!」
「その時はバトルしようぜ!」
「うん!」
セイヨも一歩前へ出る。
「次に会ったら負けないから」
「俺たちも負けないよ」
「フリ!」
バタフリーまで返事をする。
セイヨが少し笑った。
「まずはバタフリー対策から考えておくわ」
「だったら俺たちも、それまでにもっと強くなる」
「……やっぱり変な人」
「だからなんで!?」
笑い声の中、サトシたちは再び旅へ出た。
◇
しばらく歩いたところで。
「バタフリー」
「フリ?」
サトシが呼ぶと、頭上を飛んでいたバタフリーが降りてきた。
「今日のバトル、よかったよ」
「フリィ!」
嬉しそうに羽ばたく。
『いとをはく』。
『かぜおこし』。
『たいあたり』。
今ある技を組み合わせるだけでも、以前よりずっと戦えるようになった。
何より、自分で相手を見て動けるようになっている。
だからこそ。
「そろそろ、次の技も考えてみようか」
「フリ?」
バタフリーが首を傾げる。
サトシの頭には、すでに一つの技が浮かんでいた。
『サイケこうせん』。
今のバタフリーにとって、新しい攻撃の選択肢になる技だ。
もちろん、思いついたからといってすぐ使えるようになるわけではない。
まずは感覚を掴むところから。
そこから練習を重ねて、実戦で安定して使えるところまで持っていく。
「次の休憩から、少しずつ練習してみよう」
「フリィ!」
「ピカ!」
ピカチュウも応援するように鳴き、ピジョンがその上を旋回した。
サトシは仲間たちを見上げる。
知識は大切だ。
経験も大切だ。
そしてポケモン自身が考え、積み重ねた経験を次の戦いへ活かすことも。
その全部が、強さにつながっていく。
「よし、クチバシティ目指して行こう!」
「ピカ!」
「フリィ!」
「ピジョォン!」
サトシたちは再び歩き出した。
次の出会いと、次の戦い。
そしてまだ見ぬポケモンたちが待つ、道の先へ。