ポケットモンスター ―君と目指す頂― 作:あああああ
ポケモンゼミを後にしたサトシたちは、クチバシティを目指して旅を続けていた。
昨日のバトルで活躍したバタフリーはすっかり元気を取り戻し、ピジョンと並んで頭上を飛んでいる。肩にはいつものようにピカチュウが座り、森の中を吹き抜ける風に耳を揺らしていた。
旅そのものは順調だった。
少なくとも――サトシはそう思っていた。
「……タケシ」
「なんだ?」
「さっきもこの岩、見なかった?」
サトシが指差した先には、特徴的な形をした大岩がある。
カスミも立ち止まり、岩を見つめた。
「私もそう思ってた」
「ピカ」
ピカチュウまで頷く。
三人と一匹の視線が、一斉にタケシへ向けられた。
地図を持っていたタケシはしばらく黙り込み、やがてゆっくり顔を上げる。
「……道に迷ったな」
「やっぱり!」
カスミの声が森に響いた。
「タケシが地図見てたんじゃない!」
「森の道が地図と違うんだ!」
「それをもっと早く言いなさいよ!」
「まあまあ」
サトシが二人の間へ入る。
「歩いてれば、どこかには出るだろ」
「その考え方が一番危ないのよ!」
「ピカピカ」
ピカチュウまで笑っている。
その時だった。
サトシの表情が僅かに変わる。
「……ん?」
「どうしたの?」
「向こうにポケモンがいる」
森の奥。
微かな生命の気配がある。
一匹。
いや――もう一匹。
敵意は感じない。
「行ってみよう」
サトシたちは木々の間を抜けていった。
◇
森を抜けた先には、小さな水辺があった。
そこで水を飲んでいたのは――。
「ナゾノクサ!」
カスミの顔が輝く。
まだこちらには気づいていない。
「かわいい!」
カスミはすぐにモンスターボールを取り出した。
「私、ゲットする!」
「いきなり?」
「野生のポケモンなんだから普通でしょ!」
ボールを投げる。
「ヒトデマン、お願い!」
「ヘアッ!」
ヒトデマンが現れた。
ナゾノクサが驚いて振り向く。
「ナゾ!?」
「ヒトデマン、行くわよ!」
だが、その瞬間。
サトシが森へ顔を向けた。
一つの生命の気配が急速に近づいてくる。
強い警戒心。
そして、それ以上に強烈な――。
守るという意思。
「カスミ、待って!」
「え?」
茂みが大きく揺れた。
「ダネッ!」
緑色の身体が飛び出す。
「フシギダネ!?」
フシギダネはナゾノクサの前へ着地すると、カスミとヒトデマンを鋭く睨んだ。
「ダネ!」
背中から二本の蔓が伸びる。
『つるのムチ』。
「ヒトデマン、避けて!」
「ヘアッ!」
ヒトデマンが横へ跳ぶ。
蔓が地面を打ち、土が飛び散った。
だが、フシギダネは追撃しなかった。
ナゾノクサの前から動かない。
「かなり強そうね……」
カスミが身構える。
サトシは一歩前へ出た。
「待って」
「サトシ?」
「こいつ、俺たちと戦いたいんじゃない」
フシギダネを見る。
その強い警戒心の奥にあるものは、はっきりしていた。
「ナゾノクサを守ってるんだ」
「ダネ……」
フシギダネの目が僅かに動く。
「カスミ」
「……分かったわよ」
カスミはヒトデマンを戻した。
そしてナゾノクサへ目を向ける。
「ごめんね。驚かせちゃったわね」
「ナゾ……」
フシギダネはしばらく三人を警戒していたが、やがてナゾノクサへ顔を向けた。
「ダネ」
「ナゾ!」
二匹はそのまま森の奥へ消えていった。
サトシはその背中を見送る。
「フシギダネか……」
「何よ、その顔」
「強かった」
「やっぱりそこ!?」
「ピカ!」
ピカチュウまで楽しそうに鳴く。
サトシは笑った。
「でも、今追いかけて捕まえる気はないよ」
あのフシギダネには何か事情がある。
それを無視してバトルを仕掛ける気にはなれなかった。
◇
再び森を進み始めて、しばらく。
「この辺、少し変じゃないか?」
タケシが立ち止まった。
「何が?」
「人が通った跡がある」
確かに草が不自然に倒れている。
完全な未開の森ではないらしい。
「じゃあ、近くに誰かいるのかもな」
サトシが一歩踏み出す。
――カチッ。
「……ん?」
足元から小さな音。
次の瞬間。
バサッ!
「うわっ!?」
網が跳ね上がった。
「ピカァ!?」
サトシとピカチュウがまとめて宙吊りになる。
「サトシ!」
「罠!?」
逆さになったサトシが揺れる。
「……波導で罠って分からないの?」
カスミが呆れたように見上げた。
「罠は生きてない!」
「威張って言うこと!?」
「ピカ……」
ピカチュウまで情けない声を出した。
バタフリーが『いとをはく』で網を固定し、ピジョンが紐を切る。
二匹に助けられ、サトシとピカチュウは無事に地面へ降りた。
「助かった」
「ピカ……」
タケシは罠を調べる。
「ポケモンを捕まえるためじゃなさそうだな」
「じゃあ、人を近づけないため?」
サトシは先ほどフシギダネが消えた方向を見る。
「もしかして……」
三人は今度こそ足元へ注意しながら先へ進んだ。
それでも――。
「うわっ!」
「タケシ!」
古い吊り橋が崩れた。
タケシの身体が川へ落ちる。
「タケシ!」
サトシとカスミが橋の端まで走る。
下には激しい流れ。
タケシの姿が見えなくなった。
「どうしよう!」
カスミが青ざめる。
「待って」
サトシは川下へ意識を向けた。
流れていく生命の気配。
「いる。まだ無事だ」
「本当!?」
「ああ。でも流されてる!」
二人は急いで川下へ向かった。
◇
しばらくして。
「タケシ!」
ようやく見つけたタケシは、思っていたより元気そうだった。
そして、その隣には一人の女性がいる。
「心配したのよ!」
「悪かった」
「怪我は?」
「ほとんどない。この人が助けてくれた」
女性が柔らかく微笑む。
「私はミドリ」
「俺、サトシです」
「カスミよ」
「ピカ!」
簡単に挨拶を交わす。
「あなたたち、あの罠を抜けてきたのね」
ミドリの言葉に、サトシたちは顔を見合わせた。
「あれ、ミドリさんが?」
「いいえ」
ミドリは首を振る。
「フシギダネよ」
「やっぱり!」
「知ってるの?」
「さっき会いました。ナゾノクサを守ってた」
「そう……」
ミドリの表情が柔らかくなる。
「なら、あの子らしいわ」
彼女に案内されて森の奥へ進む。
やがて視界が開いた。
「ここは……」
カスミが息を呑む。
そこには、たくさんのポケモンがいた。
身体に包帯を巻いたポケモン。
疲れて休んでいるポケモン。
人間を警戒するように、少し離れたところからこちらを見ているポケモンもいる。
先ほどのナゾノクサもいた。
「ナゾ!」
「あ……」
カスミがしゃがむ。
「さっきはごめんね」
ナゾノクサは少し迷った後、カスミへ近づいてきた。
「ここは傷ついたポケモンたちが休む場所なの」
ミドリが説明する。
「私はできる範囲で、この子たちの世話をしてるの」
タケシの目が変わった。
傷ついたポケモンたちを一匹ずつ見ていく。
「俺にも手伝わせてください」
「もちろん」
その時。
「ダネ!」
聞き覚えのある声。
サトシが振り返る。
フシギダネが立っていた。
こちらを警戒している。
「また会ったな」
「ダネ……」
ピカチュウが肩から降りる。
「ピカ」
一歩近づこうとした瞬間。
「ダネ!」
蔓が地面を叩いた。
ピカチュウが止まる。
「ピカ……」
「いいよ、ピカチュウ」
サトシがしゃがむ。
「まだ俺たちを信用してないんだ」
フシギダネを見る。
「無理に信用しなくていいよ」
「ダネ?」
「俺たちがどんな奴か、見てればいい」
フシギダネは何も返さなかった。
それでも、先ほどより僅かに警戒が薄れたように見えた。
◇
その日は、しばらく隠れ里で休ませてもらうことになった。
タケシはミドリと一緒に傷ついたポケモンの世話をしている。
カスミもナゾノクサたちと過ごしていた。
サトシは少し離れた場所で、バタフリーと向き合う。
「昨日話した新しい技、少しやってみようか」
「フリ!」
目指すのは『サイケこうせん』。
ただし、今日は技を完成させるための練習ではない。
まずは力を集める感覚を覚える。
「撃とうとしなくていい。まずは一か所に集めるところから」
「フリ」
バタフリーが目を閉じる。
集中。
僅かに身体の周囲へ力が集まり始めた。
「そのまま」
「フリ……!」
淡い光が生まれかける。
しかし――。
ふっ。
消えた。
「フリィ……」
「大丈夫。最初なんだから」
もう一度。
今度は先ほどより長い。
それでも技にはならない。
三度目。
光が揺らぎ――また消えた。
バタフリーが悔しそうに鳴く。
「今日はここまで」
「フリ?」
「疲れた状態で続けても仕方ないよ」
サトシは水を渡す。
「まずは力を集める感覚を覚えよう。明日またやればいい」
「フリ……」
少し悔しそうではあるものの、バタフリーは素直に頷いた。
「ピカ!」
ピカチュウも励ます。
その様子を――。
少し離れた場所からフシギダネが見ていた。
「ダネ……」
サトシは気づいていた。
けれど、あえて声はかけなかった。
◇
夕方。
突然、大きな音が森に響いた。
ドォン!
「何!?」
ポケモンたちが一斉に騒ぎ始める。
サトシが立ち上がった。
森の向こうから三つの気配。
もう覚えてしまった。
「……またか」
「ピカ……」
ピカチュウまで同じような顔をする。
煙の向こうから声が響いた。
「なんだかんだと聞かれたら!」
「答えてあげるが世の情け!」
「やっぱりロケット団!」
「ピカ!」
ムサシ、コジロウ、ニャースが姿を現した。
「こんなところにポケモンがいっぱい!」
「まとめていただくぞ!」
「今日こそ大収穫ニャ!」
「ダネ!」
真っ先にフシギダネが前へ出る。
背後には傷ついたポケモンたち。
「フシギダネ!」
ミドリが呼ぶ。
それでもフシギダネは退かない。
守る。
その意思は強かった。
サトシも前へ出る。
「俺たちもやる」
フシギダネが横目で見る。
「ダネ……」
「ここを守りたいんだろ?」
サトシは笑った。
「だったら一緒に守ろう」
「ピカ!」
ピカチュウが隣へ並ぶ。
上空にはピジョン。
「ダネ!」
フシギダネが最初に動いた。
伸びた蔓が捕獲用の網を掴み、そのまま引き倒す。
「何するのよ!」
「ドガース!」
黒い煙が広がった。
「ピジョン!」
「ピジョ!」
「かぜおこし!」
「ピジョォ!」
強風。
煙が一気に吹き飛ぶ。
視界が開いた。
「今だ!」
「ダネ!」
フシギダネの蔓がアーボを捕らえる。
「アーボ!?」
そのまま振り回し――ドガースへ叩きつけた。
「ピカチュウ!」
「ピカ!」
前。
まとめて。
短い意図が伝わる。
「でんきショック!」
「ピッカァァァ!」
電撃が走る。
アーボとドガース。
その後ろにいた三人まで巻き込んだ。
「ぎゃああああ!」
「またこのパターン!?」
「飛ぶニャァァ!」
爆発。
「やな感じぃぃぃ!」
三人は空の彼方へ消えていった。
静かになった森。
サトシはフシギダネを見る。
「強いな」
「ダネ」
「俺たち、結構いい感じだったんじゃない?」
「ダネ……」
フシギダネは少しだけ顔を背けた。
けれど今度は、ピカチュウが近づいても蔓を振るわない。
「ピカ」
「ダネ」
二匹が短く鳴き交わす。
サトシは何も言わず、その様子を見ていた。
◇
ロケット団を追い払った後。
ミドリがサトシへ声をかけた。
「サトシ君」
「はい?」
「フシギダネを連れていってくれない?」
「え?」
フシギダネも振り向く。
「ダネ?」
ミドリはフシギダネの前へしゃがんだ。
「あなたはずっと、この場所を守ってくれた」
「ダネ……」
「でも、もう大丈夫。みんなも少しずつ元気になってる」
周囲のポケモンたちが集まってくる。
ナゾノクサもいる。
「あなたには、もっと広い世界を見てほしいの」
フシギダネは仲間たちを見る。
長い間、自分が守ってきた場所。
簡単には決められない。
サトシはしばらく待ってから口を開いた。
「ミドリさん」
「なに?」
「俺はフシギダネに来てほしいです」
フシギダネを見る。
「強いし、もっと一緒にバトルしてみたい」
「ダネ」
「でも――決めるのはフシギダネだよ」
ミドリが微笑む。
サトシはフシギダネの前へしゃがんだ。
「俺と一緒に来る?」
沈黙。
フシギダネはサトシを見る。
ピカチュウを見る。
ピジョン。
バタフリー。
カスミ。
タケシ。
そして最後に、ミドリと隠れ里の仲間たちを振り返った。
「ダネ……」
やがて。
一歩。
サトシの方へ進む。
そして――。
バシッ!
蔓を地面へ叩きつけた。
「……バトル?」
「ダネ!」
強い戦意。
サトシの口元が上がる。
「やっぱりそうなるよな!」
「ピカ!」
ピカチュウも前へ出た。
◇
隠れ里の一角。
サトシとフシギダネが向かい合う。
「一対一」
「ダネ!」
「俺たちが勝ったら、一緒に来てくれるんだな?」
「ダネ!」
意思は明確だった。
「よし!」
サトシが腕を振る。
「ピカチュウ!」
「ピカ!」
ピカチュウがフィールドへ飛び出す。
フシギダネが低く構えた。
「始めよう!」
先に動いたのはフシギダネ。
「ダネ!」
二本の『つるのムチ』が左右から迫る。
「でんこうせっか!」
「ピカ!」
ピカチュウが加速。
一本目をかわす。
二本目には身体を沈める。
蔓が頭上を通過した。
「そのまま行け!」
ピカチュウがフシギダネへ迫る。
だが。
「ダネ!」
フシギダネが蔓を地面へ叩きつけた。
土が舞い上がる。
「ピカ!?」
一瞬、視界が遮られる。
サトシはフシギダネの位置を大まかに捉える。
左。
短い移動の像。
「ピカ!」
ピカチュウが横へ跳んだ。
直後、さっきまでいた場所を蔓が薙ぐ。
「やるな!」
「ダネ!」
フシギダネが前へ出た。
『たいあたり』。
ピカチュウも避けきれない。
ドンッ!
「ピカッ!」
地面を滑る。
「力もある……!」
小柄でも、ずっとこの場所を守ってきた。
実戦経験がある。
「ピカチュウ!」
「ピカ……!」
すぐに起き上がった。
まだやれる。
むしろ目が燃えている。
「俺も同じ気持ちだ」
サトシが笑う。
「本気で行こう!」
「ピカ!」
『でんこうせっか』。
先ほどより速度が上がる。
フシギダネの蔓が追う。
右。
左。
ピカチュウが細かく切り返す。
一本をかわす。
さらにもう一本。
「ダネ!」
フシギダネも諦めない。
ピカチュウの進行方向を読んで、先回りするように蔓を伸ばす。
「ピカ!?」
身体へ巻きついた。
「ピカチュウ!」
フシギダネがそのまま振り回す。
地面へ。
「ピカァ!」
叩きつけられた。
カスミが驚く。
「強い……!」
「ずっとここを守ってきたんだ」
タケシが答える。
「野生での経験が違う」
サトシも同じことを感じていた。
フシギダネは強い。
なら――。
「ピカチュウ」
「ピカ!」
ここからは力で押し切るだけではない。
相手を見て。
考えて。
その上で勝つ。
「でんこうせっか!」
ピカチュウが走る。
フシギダネの蔓。
一本。
かわす。
二本目。
跳ぶ。
だがフシギダネも待っていた。
跳んだ先へ蔓が伸びる。
「今!」
ピカチュウが身体を捻った。
足が蔓へ触れる。
ほんの一瞬。
その蔓を足場にする。
「ピカ!」
さらに高く跳んだ。
「ダネ!?」
フシギダネが初めて大きく目を見開く。
ピカチュウが頭上へ回る。
「アイアンテール!」
「ピッカァ!」
尻尾が硬質な光を帯びる。
「ダネ!」
フシギダネも退かない。
蔓を交差させて迎え撃つ。
激突。
バシィン!
ピカチュウが弾かれる。
フシギダネも後退する。
着地。
サトシとピカチュウの意識が重なる。
まだ終わらない。
「もう一度!」
「ピカ!」
着地した瞬間から『でんこうせっか』。
フシギダネも蔓を振るう。
右。
左。
ピカチュウはぎりぎりで抜ける。
距離が縮まる。
「ダネ!」
フシギダネが『たいあたり』で迎え撃った。
「アイアンテール!」
「ピッカァァァ!」
正面。
激突。
ドンッ!
土煙が舞い上がった。
やがて――。
「ダネ……」
フシギダネが膝をつく。
それでも立とうとする。
一度。
二度。
「ダネ……!」
だが、力が抜けた。
ピカチュウも大きく息を切らしながら立っている。
「ピカ……!」
決着だった。
◇
サトシがフシギダネへ近づく。
「強かった」
「ダネ……」
悔しそうだ。
けれど、その瞳から戦意が消えたわけではない。
むしろ――。
次はもっと強くなりたい。
そんな感情が伝わってくる。
サトシは手を差し出した。
「俺たちと来る?」
フシギダネはその手を見る。
少しだけ間を置いて。
「ダネ!」
頷いた。
「よし!」
サトシはモンスターボールを取り出した。
ただ、その前に一つだけ確認する。
「フシギダネ」
「ダネ?」
「これから旅してたら、もっと強くなると思う」
「ダネ」
「その中で、いつか進化する時が来るかもしれない」
フシギダネが静かに聞いている。
「でも、俺が勝手に決めるつもりはないよ」
サトシは笑った。
「進化したくなったら進化すればいい。今のままでいたいなら、それでもいい」
「ダネ……」
「今すぐ決めなくていいから」
フシギダネは少し考えるように目を伏せた。
今はまだ分からない。
進化したいとも。
進化したくないとも。
そんな曖昧な感情。
それで十分だった。
「これから一緒に考えよう」
「ダネ!」
フシギダネが顔を上げる。
サトシはモンスターボールを差し出した。
フシギダネが自分から額を触れさせる。
赤い光。
ボールへ入る。
一度。
二度。
三度。
――カチッ。
サトシがボールを持ち上げた。
「フシギダネ――ゲットだ!」
「ピッピカチュウ!」
頭上ではピジョンとバタフリーも嬉しそうに鳴いた。
◇
出発の時。
フシギダネはもう一度ボールから出ていた。
「ダネ……」
隠れ里を見る。
ナゾノクサをはじめ、多くのポケモンたちが集まっている。
「ナゾ!」
「ダネ!」
ミドリが優しく微笑んだ。
「行ってらっしゃい、フシギダネ」
「ダネ……」
寂しそうに仲間たちを見る。
それでも最後には、力強く頷いた。
サトシは急かさず待っていた。
やがてフシギダネが自分から振り返り、サトシの隣へ並ぶ。
「もういいのか?」
「ダネ!」
「よし」
サトシも前を見る。
ピカチュウ。
ピジョン。
バタフリー。
そして――フシギダネ。
四匹目の仲間。
進化するかどうかは、まだ決めなくていい。
これからたくさんの場所へ行き、いろんな相手と戦って、もっと強くなる。
その中でフシギダネ自身が答えを見つければいい。
「クチバシティ目指して、出発!」
「ピカ!」
「ダネ!」
「フリィ!」
「ピジョォン!」
新しい仲間を加えた一行は、再び森の道を歩き始めた。
その先で待つ――次の出会いへ向かって。