ポケットモンスター ―君と目指す頂―   作:あああああ

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第32話 かくれざと!守りぬくフシギダネ!

ポケモンゼミを後にしたサトシたちは、クチバシティを目指して旅を続けていた。

 

昨日のバトルで活躍したバタフリーはすっかり元気を取り戻し、ピジョンと並んで頭上を飛んでいる。肩にはいつものようにピカチュウが座り、森の中を吹き抜ける風に耳を揺らしていた。

 

旅そのものは順調だった。

 

少なくとも――サトシはそう思っていた。

 

「……タケシ」

 

「なんだ?」

 

「さっきもこの岩、見なかった?」

 

サトシが指差した先には、特徴的な形をした大岩がある。

 

カスミも立ち止まり、岩を見つめた。

 

「私もそう思ってた」

 

「ピカ」

 

ピカチュウまで頷く。

 

三人と一匹の視線が、一斉にタケシへ向けられた。

 

地図を持っていたタケシはしばらく黙り込み、やがてゆっくり顔を上げる。

 

「……道に迷ったな」

 

「やっぱり!」

 

カスミの声が森に響いた。

 

「タケシが地図見てたんじゃない!」

 

「森の道が地図と違うんだ!」

 

「それをもっと早く言いなさいよ!」

 

「まあまあ」

 

サトシが二人の間へ入る。

 

「歩いてれば、どこかには出るだろ」

 

「その考え方が一番危ないのよ!」

 

「ピカピカ」

 

ピカチュウまで笑っている。

 

その時だった。

 

サトシの表情が僅かに変わる。

 

「……ん?」

 

「どうしたの?」

 

「向こうにポケモンがいる」

 

森の奥。

 

微かな生命の気配がある。

 

一匹。

 

いや――もう一匹。

 

敵意は感じない。

 

「行ってみよう」

 

サトシたちは木々の間を抜けていった。

 

◇

 

森を抜けた先には、小さな水辺があった。

 

そこで水を飲んでいたのは――。

 

「ナゾノクサ!」

 

カスミの顔が輝く。

 

まだこちらには気づいていない。

 

「かわいい!」

 

カスミはすぐにモンスターボールを取り出した。

 

「私、ゲットする!」

 

「いきなり?」

 

「野生のポケモンなんだから普通でしょ!」

 

ボールを投げる。

 

「ヒトデマン、お願い!」

 

「ヘアッ!」

 

ヒトデマンが現れた。

 

ナゾノクサが驚いて振り向く。

 

「ナゾ!?」

 

「ヒトデマン、行くわよ!」

 

だが、その瞬間。

 

サトシが森へ顔を向けた。

 

一つの生命の気配が急速に近づいてくる。

 

強い警戒心。

 

そして、それ以上に強烈な――。

 

守るという意思。

 

「カスミ、待って!」

 

「え?」

 

茂みが大きく揺れた。

 

「ダネッ!」

 

緑色の身体が飛び出す。

 

「フシギダネ!?」

 

フシギダネはナゾノクサの前へ着地すると、カスミとヒトデマンを鋭く睨んだ。

 

「ダネ!」

 

背中から二本の蔓が伸びる。

 

『つるのムチ』。

 

「ヒトデマン、避けて!」

 

「ヘアッ!」

 

ヒトデマンが横へ跳ぶ。

 

蔓が地面を打ち、土が飛び散った。

 

だが、フシギダネは追撃しなかった。

 

ナゾノクサの前から動かない。

 

「かなり強そうね……」

 

カスミが身構える。

 

サトシは一歩前へ出た。

 

「待って」

 

「サトシ?」

 

「こいつ、俺たちと戦いたいんじゃない」

 

フシギダネを見る。

 

その強い警戒心の奥にあるものは、はっきりしていた。

 

「ナゾノクサを守ってるんだ」

 

「ダネ……」

 

フシギダネの目が僅かに動く。

 

「カスミ」

 

「……分かったわよ」

 

カスミはヒトデマンを戻した。

 

そしてナゾノクサへ目を向ける。

 

「ごめんね。驚かせちゃったわね」

 

「ナゾ……」

 

フシギダネはしばらく三人を警戒していたが、やがてナゾノクサへ顔を向けた。

 

「ダネ」

 

「ナゾ!」

 

二匹はそのまま森の奥へ消えていった。

 

サトシはその背中を見送る。

 

「フシギダネか……」

 

「何よ、その顔」

 

「強かった」

 

「やっぱりそこ!?」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウまで楽しそうに鳴く。

 

サトシは笑った。

 

「でも、今追いかけて捕まえる気はないよ」

 

あのフシギダネには何か事情がある。

 

それを無視してバトルを仕掛ける気にはなれなかった。

 

◇

 

再び森を進み始めて、しばらく。

 

「この辺、少し変じゃないか?」

 

タケシが立ち止まった。

 

「何が?」

 

「人が通った跡がある」

 

確かに草が不自然に倒れている。

 

完全な未開の森ではないらしい。

 

「じゃあ、近くに誰かいるのかもな」

 

サトシが一歩踏み出す。

 

――カチッ。

 

「……ん?」

 

足元から小さな音。

 

次の瞬間。

 

バサッ!

 

「うわっ!?」

 

網が跳ね上がった。

 

「ピカァ!?」

 

サトシとピカチュウがまとめて宙吊りになる。

 

「サトシ!」

 

「罠!?」

 

逆さになったサトシが揺れる。

 

「……波導で罠って分からないの?」

 

カスミが呆れたように見上げた。

 

「罠は生きてない!」

 

「威張って言うこと!?」

 

「ピカ……」

 

ピカチュウまで情けない声を出した。

 

バタフリーが『いとをはく』で網を固定し、ピジョンが紐を切る。

 

二匹に助けられ、サトシとピカチュウは無事に地面へ降りた。

 

「助かった」

 

「ピカ……」

 

タケシは罠を調べる。

 

「ポケモンを捕まえるためじゃなさそうだな」

 

「じゃあ、人を近づけないため?」

 

サトシは先ほどフシギダネが消えた方向を見る。

 

「もしかして……」

 

三人は今度こそ足元へ注意しながら先へ進んだ。

 

それでも――。

 

「うわっ!」

 

「タケシ!」

 

古い吊り橋が崩れた。

 

タケシの身体が川へ落ちる。

 

「タケシ!」

 

サトシとカスミが橋の端まで走る。

 

下には激しい流れ。

 

タケシの姿が見えなくなった。

 

「どうしよう!」

 

カスミが青ざめる。

 

「待って」

 

サトシは川下へ意識を向けた。

 

流れていく生命の気配。

 

「いる。まだ無事だ」

 

「本当!?」

 

「ああ。でも流されてる!」

 

二人は急いで川下へ向かった。

 

◇

 

しばらくして。

 

「タケシ!」

 

ようやく見つけたタケシは、思っていたより元気そうだった。

 

そして、その隣には一人の女性がいる。

 

「心配したのよ!」

 

「悪かった」

 

「怪我は?」

 

「ほとんどない。この人が助けてくれた」

 

女性が柔らかく微笑む。

 

「私はミドリ」

 

「俺、サトシです」

 

「カスミよ」

 

「ピカ!」

 

簡単に挨拶を交わす。

 

「あなたたち、あの罠を抜けてきたのね」

 

ミドリの言葉に、サトシたちは顔を見合わせた。

 

「あれ、ミドリさんが?」

 

「いいえ」

 

ミドリは首を振る。

 

「フシギダネよ」

 

「やっぱり!」

 

「知ってるの?」

 

「さっき会いました。ナゾノクサを守ってた」

 

「そう……」

 

ミドリの表情が柔らかくなる。

 

「なら、あの子らしいわ」

 

彼女に案内されて森の奥へ進む。

 

やがて視界が開いた。

 

「ここは……」

 

カスミが息を呑む。

 

そこには、たくさんのポケモンがいた。

 

身体に包帯を巻いたポケモン。

 

疲れて休んでいるポケモン。

 

人間を警戒するように、少し離れたところからこちらを見ているポケモンもいる。

 

先ほどのナゾノクサもいた。

 

「ナゾ!」

 

「あ……」

 

カスミがしゃがむ。

 

「さっきはごめんね」

 

ナゾノクサは少し迷った後、カスミへ近づいてきた。

 

「ここは傷ついたポケモンたちが休む場所なの」

 

ミドリが説明する。

 

「私はできる範囲で、この子たちの世話をしてるの」

 

タケシの目が変わった。

 

傷ついたポケモンたちを一匹ずつ見ていく。

 

「俺にも手伝わせてください」

 

「もちろん」

 

その時。

 

「ダネ!」

 

聞き覚えのある声。

 

サトシが振り返る。

 

フシギダネが立っていた。

 

こちらを警戒している。

 

「また会ったな」

 

「ダネ……」

 

ピカチュウが肩から降りる。

 

「ピカ」

 

一歩近づこうとした瞬間。

 

「ダネ!」

 

蔓が地面を叩いた。

 

ピカチュウが止まる。

 

「ピカ……」

 

「いいよ、ピカチュウ」

 

サトシがしゃがむ。

 

「まだ俺たちを信用してないんだ」

 

フシギダネを見る。

 

「無理に信用しなくていいよ」

 

「ダネ?」

 

「俺たちがどんな奴か、見てればいい」

 

フシギダネは何も返さなかった。

 

それでも、先ほどより僅かに警戒が薄れたように見えた。

 

◇

 

その日は、しばらく隠れ里で休ませてもらうことになった。

 

タケシはミドリと一緒に傷ついたポケモンの世話をしている。

 

カスミもナゾノクサたちと過ごしていた。

 

サトシは少し離れた場所で、バタフリーと向き合う。

 

「昨日話した新しい技、少しやってみようか」

 

「フリ!」

 

目指すのは『サイケこうせん』。

 

ただし、今日は技を完成させるための練習ではない。

 

まずは力を集める感覚を覚える。

 

「撃とうとしなくていい。まずは一か所に集めるところから」

 

「フリ」

 

バタフリーが目を閉じる。

 

集中。

 

僅かに身体の周囲へ力が集まり始めた。

 

「そのまま」

 

「フリ……!」

 

淡い光が生まれかける。

 

しかし――。

 

ふっ。

 

消えた。

 

「フリィ……」

 

「大丈夫。最初なんだから」

 

もう一度。

 

今度は先ほどより長い。

 

それでも技にはならない。

 

三度目。

 

光が揺らぎ――また消えた。

 

バタフリーが悔しそうに鳴く。

 

「今日はここまで」

 

「フリ?」

 

「疲れた状態で続けても仕方ないよ」

 

サトシは水を渡す。

 

「まずは力を集める感覚を覚えよう。明日またやればいい」

 

「フリ……」

 

少し悔しそうではあるものの、バタフリーは素直に頷いた。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウも励ます。

 

その様子を――。

 

少し離れた場所からフシギダネが見ていた。

 

「ダネ……」

 

サトシは気づいていた。

 

けれど、あえて声はかけなかった。

 

◇

 

夕方。

 

突然、大きな音が森に響いた。

 

ドォン!

 

「何!?」

 

ポケモンたちが一斉に騒ぎ始める。

 

サトシが立ち上がった。

 

森の向こうから三つの気配。

 

もう覚えてしまった。

 

「……またか」

 

「ピカ……」

 

ピカチュウまで同じような顔をする。

 

煙の向こうから声が響いた。

 

「なんだかんだと聞かれたら!」

 

「答えてあげるが世の情け!」

 

「やっぱりロケット団!」

 

「ピカ!」

 

ムサシ、コジロウ、ニャースが姿を現した。

 

「こんなところにポケモンがいっぱい!」

 

「まとめていただくぞ!」

 

「今日こそ大収穫ニャ!」

 

「ダネ!」

 

真っ先にフシギダネが前へ出る。

 

背後には傷ついたポケモンたち。

 

「フシギダネ!」

 

ミドリが呼ぶ。

 

それでもフシギダネは退かない。

 

守る。

 

その意思は強かった。

 

サトシも前へ出る。

 

「俺たちもやる」

 

フシギダネが横目で見る。

 

「ダネ……」

 

「ここを守りたいんだろ?」

 

サトシは笑った。

 

「だったら一緒に守ろう」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが隣へ並ぶ。

 

上空にはピジョン。

 

「ダネ!」

 

フシギダネが最初に動いた。

 

伸びた蔓が捕獲用の網を掴み、そのまま引き倒す。

 

「何するのよ!」

 

「ドガース!」

 

黒い煙が広がった。

 

「ピジョン!」

 

「ピジョ!」

 

「かぜおこし!」

 

「ピジョォ!」

 

強風。

 

煙が一気に吹き飛ぶ。

 

視界が開いた。

 

「今だ!」

 

「ダネ!」

 

フシギダネの蔓がアーボを捕らえる。

 

「アーボ!?」

 

そのまま振り回し――ドガースへ叩きつけた。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

前。

 

まとめて。

 

短い意図が伝わる。

 

「でんきショック!」

 

「ピッカァァァ!」

 

電撃が走る。

 

アーボとドガース。

 

その後ろにいた三人まで巻き込んだ。

 

「ぎゃああああ!」

 

「またこのパターン!?」

 

「飛ぶニャァァ!」

 

爆発。

 

「やな感じぃぃぃ!」

 

三人は空の彼方へ消えていった。

 

静かになった森。

 

サトシはフシギダネを見る。

 

「強いな」

 

「ダネ」

 

「俺たち、結構いい感じだったんじゃない?」

 

「ダネ……」

 

フシギダネは少しだけ顔を背けた。

 

けれど今度は、ピカチュウが近づいても蔓を振るわない。

 

「ピカ」

 

「ダネ」

 

二匹が短く鳴き交わす。

 

サトシは何も言わず、その様子を見ていた。

 

◇

 

ロケット団を追い払った後。

 

ミドリがサトシへ声をかけた。

 

「サトシ君」

 

「はい?」

 

「フシギダネを連れていってくれない?」

 

「え?」

 

フシギダネも振り向く。

 

「ダネ?」

 

ミドリはフシギダネの前へしゃがんだ。

 

「あなたはずっと、この場所を守ってくれた」

 

「ダネ……」

 

「でも、もう大丈夫。みんなも少しずつ元気になってる」

 

周囲のポケモンたちが集まってくる。

 

ナゾノクサもいる。

 

「あなたには、もっと広い世界を見てほしいの」

 

フシギダネは仲間たちを見る。

 

長い間、自分が守ってきた場所。

 

簡単には決められない。

 

サトシはしばらく待ってから口を開いた。

 

「ミドリさん」

 

「なに?」

 

「俺はフシギダネに来てほしいです」

 

フシギダネを見る。

 

「強いし、もっと一緒にバトルしてみたい」

 

「ダネ」

 

「でも――決めるのはフシギダネだよ」

 

ミドリが微笑む。

 

サトシはフシギダネの前へしゃがんだ。

 

「俺と一緒に来る?」

 

沈黙。

 

フシギダネはサトシを見る。

 

ピカチュウを見る。

 

ピジョン。

 

バタフリー。

 

カスミ。

 

タケシ。

 

そして最後に、ミドリと隠れ里の仲間たちを振り返った。

 

「ダネ……」

 

やがて。

 

一歩。

 

サトシの方へ進む。

 

そして――。

 

バシッ!

 

蔓を地面へ叩きつけた。

 

「……バトル?」

 

「ダネ!」

 

強い戦意。

 

サトシの口元が上がる。

 

「やっぱりそうなるよな!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウも前へ出た。

 

◇

 

隠れ里の一角。

 

サトシとフシギダネが向かい合う。

 

「一対一」

 

「ダネ!」

 

「俺たちが勝ったら、一緒に来てくれるんだな?」

 

「ダネ!」

 

意思は明確だった。

 

「よし!」

 

サトシが腕を振る。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウがフィールドへ飛び出す。

 

フシギダネが低く構えた。

 

「始めよう!」

 

先に動いたのはフシギダネ。

 

「ダネ!」

 

二本の『つるのムチ』が左右から迫る。

 

「でんこうせっか!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが加速。

 

一本目をかわす。

 

二本目には身体を沈める。

 

蔓が頭上を通過した。

 

「そのまま行け!」

 

ピカチュウがフシギダネへ迫る。

 

だが。

 

「ダネ!」

 

フシギダネが蔓を地面へ叩きつけた。

 

土が舞い上がる。

 

「ピカ!?」

 

一瞬、視界が遮られる。

 

サトシはフシギダネの位置を大まかに捉える。

 

左。

 

短い移動の像。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが横へ跳んだ。

 

直後、さっきまでいた場所を蔓が薙ぐ。

 

「やるな!」

 

「ダネ!」

 

フシギダネが前へ出た。

 

『たいあたり』。

 

ピカチュウも避けきれない。

 

ドンッ!

 

「ピカッ!」

 

地面を滑る。

 

「力もある……!」

 

小柄でも、ずっとこの場所を守ってきた。

 

実戦経験がある。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ……!」

 

すぐに起き上がった。

 

まだやれる。

 

むしろ目が燃えている。

 

「俺も同じ気持ちだ」

 

サトシが笑う。

 

「本気で行こう!」

 

「ピカ!」

 

『でんこうせっか』。

 

先ほどより速度が上がる。

 

フシギダネの蔓が追う。

 

右。

 

左。

 

ピカチュウが細かく切り返す。

 

一本をかわす。

 

さらにもう一本。

 

「ダネ!」

 

フシギダネも諦めない。

 

ピカチュウの進行方向を読んで、先回りするように蔓を伸ばす。

 

「ピカ!?」

 

身体へ巻きついた。

 

「ピカチュウ!」

 

フシギダネがそのまま振り回す。

 

地面へ。

 

「ピカァ!」

 

叩きつけられた。

 

カスミが驚く。

 

「強い……!」

 

「ずっとここを守ってきたんだ」

 

タケシが答える。

 

「野生での経験が違う」

 

サトシも同じことを感じていた。

 

フシギダネは強い。

 

なら――。

 

「ピカチュウ」

 

「ピカ!」

 

ここからは力で押し切るだけではない。

 

相手を見て。

 

考えて。

 

その上で勝つ。

 

「でんこうせっか!」

 

ピカチュウが走る。

 

フシギダネの蔓。

 

一本。

 

かわす。

 

二本目。

 

跳ぶ。

 

だがフシギダネも待っていた。

 

跳んだ先へ蔓が伸びる。

 

「今!」

 

ピカチュウが身体を捻った。

 

足が蔓へ触れる。

 

ほんの一瞬。

 

その蔓を足場にする。

 

「ピカ!」

 

さらに高く跳んだ。

 

「ダネ!?」

 

フシギダネが初めて大きく目を見開く。

 

ピカチュウが頭上へ回る。

 

「アイアンテール!」

 

「ピッカァ!」

 

尻尾が硬質な光を帯びる。

 

「ダネ!」

 

フシギダネも退かない。

 

蔓を交差させて迎え撃つ。

 

激突。

 

バシィン!

 

ピカチュウが弾かれる。

 

フシギダネも後退する。

 

着地。

 

サトシとピカチュウの意識が重なる。

 

まだ終わらない。

 

「もう一度!」

 

「ピカ!」

 

着地した瞬間から『でんこうせっか』。

 

フシギダネも蔓を振るう。

 

右。

 

左。

 

ピカチュウはぎりぎりで抜ける。

 

距離が縮まる。

 

「ダネ!」

 

フシギダネが『たいあたり』で迎え撃った。

 

「アイアンテール!」

 

「ピッカァァァ!」

 

正面。

 

激突。

 

ドンッ!

 

土煙が舞い上がった。

 

やがて――。

 

「ダネ……」

 

フシギダネが膝をつく。

 

それでも立とうとする。

 

一度。

 

二度。

 

「ダネ……!」

 

だが、力が抜けた。

 

ピカチュウも大きく息を切らしながら立っている。

 

「ピカ……!」

 

決着だった。

 

◇

 

サトシがフシギダネへ近づく。

 

「強かった」

 

「ダネ……」

 

悔しそうだ。

 

けれど、その瞳から戦意が消えたわけではない。

 

むしろ――。

 

次はもっと強くなりたい。

 

そんな感情が伝わってくる。

 

サトシは手を差し出した。

 

「俺たちと来る?」

 

フシギダネはその手を見る。

 

少しだけ間を置いて。

 

「ダネ!」

 

頷いた。

 

「よし!」

 

サトシはモンスターボールを取り出した。

 

ただ、その前に一つだけ確認する。

 

「フシギダネ」

 

「ダネ?」

 

「これから旅してたら、もっと強くなると思う」

 

「ダネ」

 

「その中で、いつか進化する時が来るかもしれない」

 

フシギダネが静かに聞いている。

 

「でも、俺が勝手に決めるつもりはないよ」

 

サトシは笑った。

 

「進化したくなったら進化すればいい。今のままでいたいなら、それでもいい」

 

「ダネ……」

 

「今すぐ決めなくていいから」

 

フシギダネは少し考えるように目を伏せた。

 

今はまだ分からない。

 

進化したいとも。

 

進化したくないとも。

 

そんな曖昧な感情。

 

それで十分だった。

 

「これから一緒に考えよう」

 

「ダネ!」

 

フシギダネが顔を上げる。

 

サトシはモンスターボールを差し出した。

 

フシギダネが自分から額を触れさせる。

 

赤い光。

 

ボールへ入る。

 

一度。

 

二度。

 

三度。

 

――カチッ。

 

サトシがボールを持ち上げた。

 

「フシギダネ――ゲットだ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

頭上ではピジョンとバタフリーも嬉しそうに鳴いた。

 

◇

 

出発の時。

 

フシギダネはもう一度ボールから出ていた。

 

「ダネ……」

 

隠れ里を見る。

 

ナゾノクサをはじめ、多くのポケモンたちが集まっている。

 

「ナゾ!」

 

「ダネ!」

 

ミドリが優しく微笑んだ。

 

「行ってらっしゃい、フシギダネ」

 

「ダネ……」

 

寂しそうに仲間たちを見る。

 

それでも最後には、力強く頷いた。

 

サトシは急かさず待っていた。

 

やがてフシギダネが自分から振り返り、サトシの隣へ並ぶ。

 

「もういいのか?」

 

「ダネ!」

 

「よし」

 

サトシも前を見る。

 

ピカチュウ。

 

ピジョン。

 

バタフリー。

 

そして――フシギダネ。

 

四匹目の仲間。

 

進化するかどうかは、まだ決めなくていい。

 

これからたくさんの場所へ行き、いろんな相手と戦って、もっと強くなる。

 

その中でフシギダネ自身が答えを見つければいい。

 

「クチバシティ目指して、出発!」

 

「ピカ!」

 

「ダネ!」

 

「フリィ!」

 

「ピジョォン!」

 

新しい仲間を加えた一行は、再び森の道を歩き始めた。

 

その先で待つ――次の出会いへ向かって。

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