ポケットモンスター ―君と目指す頂―   作:あああああ

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第34話 ゼニガメぐんだん登場!

ヒトカゲが仲間になった翌日、サトシたちはクチバシティを目指して木々に囲まれた街道を歩いていた。

 

昨日まで四匹だった仲間に新しく加わったヒトカゲは、早くも一行に馴染み始めている。今もピカチュウやフシギダネと一緒に歩き、時折何かを話すように鳴き声を交わしていた。

 

「ピカピカ!」

 

「カゲ!」

 

「ダネ!」

 

そんな三匹の様子を眺めながら、サトシは前世の記憶を辿る。

 

ヒトカゲとの出会いを終えた今、原作通りに出来事が続くのであれば、そろそろ次の出会いが待っているはずだった。

 

「……そろそろかな」

 

「何が?」

 

カスミが振り返る。

 

「いや、こっちの話」

 

そう答えた直後、足元からパキッと乾いた音が聞こえた。

 

「ん?」

 

嫌な予感がして下を見るが、気づいた時には遅かった。足元の地面が一気に崩れ、サトシ、カスミ、タケシの三人は揃って穴の中へ落下する。

 

「うわぁぁぁぁ!?」

 

「きゃああああ!」

 

「また落とし穴かぁぁぁ!」

 

三人は重なるように穴の底へ落ちた。

 

「痛ったぁ……もう、なんなのよ!」

 

土まみれになったカスミが文句を言いながら身体を起こす。その隣でサトシも服についた土を払い、上から聞こえてきた笑い声に顔を上げた。

 

「ゼニゼニ!」

 

「ゼニー!」

 

「ゼニ!」

 

穴を覗き込んでいたのは、揃ってサングラスをかけた五匹のゼニガメだった。その中央には他の四匹とは違う、尖った形のサングラスをかけた一匹が立っている。

 

その姿を見た瞬間、サトシの中で前世の記憶と目の前の光景が重なった。

 

(やっぱり、ゼニガメ団か)

 

トレーナーに捨てられ、人間を信用できなくなったゼニガメたちが集まって結成したゼニガメ団。そして中央にいるリーダーこそ、原作では後にサトシの仲間となり、長い旅を共にしたゼニガメだった。

 

もっとも、それはあくまで前世で知っている物語に過ぎない。

 

ヒトカゲの時と同じように、原作で仲間になったからといって、最初から自分のポケモンになると決めつけるつもりはなかった。目の前にいるゼニガメは物語の登場人物ではなく、この世界で自分の意思を持って生きているポケモンなのだから。

 

「ゼニ!」

 

リーダーが楽しそうに笑うと、他の四匹もそれにつられて笑い始める。

 

「ゼニゼニ!」

 

「ゼニー!」

 

「ちょっと! 笑ってないで出しなさいよ!」

 

カスミが怒鳴るものの、五匹はむしろそれを面白がっているようだった。

 

その時、穴の上から別の声が響く。

 

「こらーっ! またあなたたちね!」

 

「ゼニ!?」

 

ゼニガメ団の表情が一変した。

 

声のした方を見ると、そこにはバイクに乗ったジュンサーの姿があった。彼女を見るなりゼニガメ団は慌てて逃げ出し、あっという間に森の中へ散ってしまう。

 

「待ちなさい!」

 

ジュンサーは追いかけようとしたものの、まずは穴へ落ちているサトシたちを助けることにしたらしい。

 

しばらくして無事に穴から出ることができた三人は、ジュンサーから先ほどのゼニガメたちについて話を聞くことになった。

 

「あの子たちはゼニガメ団。この辺りで悪戯を繰り返しているの」

 

「どうしてあんなことを?」

 

タケシが尋ねると、ジュンサーの表情が少し曇った。

 

「あのゼニガメたちは、元々それぞれ別のトレーナーに捨てられた子たちなのよ。それから人間を信用しなくなって、同じ境遇の仲間同士で集まるようになったみたい」

 

「捨てられた……」

 

その言葉を聞いたヒトカゲが、小さく「カゲ……」と声を漏らした。

 

昨日まで自分も同じように、信じていたトレーナーを待ち続けていたのだ。思うところがあるのだろう。

 

サトシは何も言わず、その頭へそっと手を置いた。

 

「カゲ?」

 

「大丈夫」

 

「……カゲ」

 

ヒトカゲは少しだけ目を細めた。

 

ゼニガメ団の事情そのものは、前世の記憶から知っている。それでも実際にこの世界で聞くのでは、その言葉が持つ重みはまるで違っていた。

 

「だからって悪戯していいわけじゃないけど……」

 

カスミも複雑そうな顔をする。

 

「ああ。でも、人間を信用できなくなった理由はあるんだな」

 

サトシはゼニガメ団が消えていった森へ視線を向けた。

 

前世の記憶通りなら、あのリーダーはやがて自分の仲間になる。

 

けれど、先のことを知っているからこそ、それを当然だと思いたくはなかった。

 

今回も目の前のゼニガメ自身と向き合えばいい。

 

◇

 

その頃、森の奥ではムサシ、コジロウ、ニャースの三人がゼニガメ団に捕まり、揃って木に縛りつけられていた。

 

「いたたたた……」

 

「なんで私たちがこんな目に遭わなきゃいけないのよ!」

 

「ニャー……」

 

少し離れた場所では、ゼニガメたちがロケット団から奪った食べ物を楽しそうに分け合っている。

 

「ゼニ!」

 

「ゼニゼニ!」

 

悔しそうに暴れるムサシを横目に、ニャースは何かを思いついたように目を細めた。

 

「二人とも静かにするニャ。こいつら、上手く使えるかもしれないニャ」

 

「使う?」

 

「どうやって?」

 

ニャースは答える代わりにゼニガメ団へ向き直り、できる限り愛想のいい笑顔を浮かべた。

 

「ゼニガメのみなさーん、ちょっとニャーの話を聞いてほしいニャ」

 

「ゼニ?」

 

リーダーが怪訝そうに振り返った。

 

◇

 

ジュンサーと別れたサトシたちは、再びクチバシティへ向けて歩き始めた。

 

やがて川沿いの道へ差しかかったところで、サトシは何気なく周囲へ視線を巡らせる。

 

原作の記憶が正しければ、この辺りで再びゼニガメ団と遭遇するはずだった。

 

「サトシ、さっきからどうした?」

 

タケシが不思議そうに尋ねる。

 

「いや、ちょっと――」

 

答えようとした瞬間、近くの草むらが大きく揺れた。

 

「ゼニ!」

 

「来た!」

 

飛び出してきたのは、やはり五匹のゼニガメだった。

 

「ゼニガメ団!」

 

さらに、その後ろからニャースまで姿を現す。

 

「ニャーッハッハッハ! 今度こそお前たちを捕まえるニャ!」

 

「ニャースまで!」

 

「ゼニ!」

 

リーダーの合図でゼニガメ団が動き出す。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウがすぐにサトシの前へ出た。

 

原作で何が起こったのかは覚えている。しかし、今の自分たちまで同じように簡単に捕まるつもりはない。

 

「『でんこうせっか』!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが地面を蹴ると、一瞬でゼニガメたちの間を駆け抜ける。追いかけようとしたゼニガメたちが振り返るより早く方向を変え、そのままニャースへ迫った。

 

「速すぎるニャ!」

 

ニャースが慌てて仕掛けを作動させると、地面から網が跳ね上がる。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは寸前でそれを飛び越えた。

 

しかし、着地地点を読んでいたリーダーのゼニガメが素早く向きを変える。

 

「ゼニ!」

 

放たれた『みずでっぽう』が横から直撃し、ピカチュウの身体がそのまま川へ弾き飛ばされた。

 

「ピカッ!」

 

「ピカチュウ!」

 

サトシがすぐに川岸へ駆け寄る。

 

水面へ落ちたピカチュウは泳いで岸へ戻ろうとするが、その周囲の水面が不自然に揺れ始めた。

 

サトシには、その先に何が起こるのか覚えがあった。

 

「まずい! ピカチュウ、早く岸へ!」

 

「ピカ!」

 

だが間に合わない。

 

水中から飛び出してきた野生のトサキントたちがピカチュウへ襲いかかる。

 

「トサ!」

 

「ピカァ!」

 

「ピカチュウ!」

 

サトシは迷うことなく川へ飛び込んだ。冷たい水を掻き分けながらピカチュウのところまで泳ぎ、その身体を抱き上げて岸へ戻る。

 

カスミとタケシに引き上げてもらった時には、ピカチュウの身体にはいくつもの傷ができていた。

 

「ピカ……」

 

「ピカチュウ、大丈夫か!」

 

タケシがすぐに傷の状態を確認し、険しい表情を浮かべる。

 

「薬が必要だ。このまま放っておくのはまずい」

 

サトシが頷いた直後、周囲から複数の足音が聞こえた。

 

顔を上げると、いつの間にかゼニガメ団に囲まれていた。

 

「ゼニ!」

 

◇

 

気がついた時には、サトシたちは洞窟の中にいた。

 

サトシ、カスミ、タケシは縄で拘束され、傷ついたピカチュウは檻の中に入れられている。そばではリーダーのゼニガメが腕を組み、ニャースと一緒にこちらを見張っていた。

 

「ピカ……」

 

「ピカチュウ……」

 

弱々しい声を漏らすピカチュウを見て、サトシは縄を握り締める。

 

「薬が必要なんだ。このままじゃピカチュウの傷が悪化する」

 

「ゼニ……」

 

リーダーは黙ってピカチュウを見る。

 

川へ落ちるきっかけを作ったのが自分の『みずでっぽう』だったことは分かっているのだろう。先ほどまでの強気な態度とは違い、少し迷っているように見えた。

 

「俺を町へ行かせてくれ。薬を取ったら必ず戻る」

 

「サトシ!」

 

カスミが驚いて振り向く。

 

ニャースも慌てて口を挟んだ。

 

「そんなことしたら、そのまま逃げるに決まってるニャ!」

 

だが、リーダーはサトシをしばらく見つめた後、何かを決めたように仲間へ合図を送った。

 

サトシの縄が解かれる。

 

「ゼニ!」

 

ゼニガメは時間を示すように時計を指差した。

 

「明日の昼までに戻ってこいってことか?」

 

「ゼニ」

 

「分かった」

 

サトシは立ち上がり、真正面からゼニガメを見る。

 

「絶対戻る。カスミもタケシも、ピカチュウもここにいるし――何より、お前と約束したからな」

 

「ゼニ……」

 

一瞬だけ、ゼニガメが目を見開く。

 

サトシはそれ以上何も言わず、洞窟を飛び出した。

 

◇

 

森へ出たサトシは、ピカチュウの薬を手に入れるため町へ向かって走り続けた。

 

前世の記憶がある以上、この先で何が起こるのかも大まかには分かっている。それでも、今は原作の流れを考えている場合ではない。実際に傷ついたピカチュウが待っているのだ。

 

ようやく町へ辿り着くと、必要な薬を手に入れ、ほとんど休むことなく来た道を引き返した。

 

ところが森へ戻ったところで、前方からムサシとコジロウが飛び出してくる。

 

「待ちなさい!」

 

「その薬を置いていけ!」

 

「やっぱり来たか……」

 

「ピカチュウが弱ってる今がチャンスなのよ!」

 

「薬は渡してもらうぞ!」

 

二人が道を塞いだものの、サトシに相手をしている時間はない。横へ大きく進路を変え、そのまま二人の脇を駆け抜けた。

 

「ちょっと!」

 

「待て!」

 

急な斜面へ差しかかると、足元を確かめながら一気に駆け下りる。大きな木の根を越える瞬間だけ波導で身体を支え、着地すると再び自分の脚で走り続けた。

 

「待ちなさーい!」

 

「速すぎるぞ!」

 

二人の声が次第に遠ざかっていく。

 

サトシは一度も振り返らなかった。

 

「待ってろよ、ピカチュウ!」

 

◇

 

洞窟では、時間が経つにつれてピカチュウの呼吸が弱くなっていた。

 

「ピカ……」

 

カスミは不安そうに入口を見つめる。

 

「サトシ、大丈夫よね……」

 

「戻ってくる」

 

タケシは迷いなく答えた。

 

リーダーのゼニガメも、何度も洞窟の入口へ目を向けている。

 

やがて外から足音が聞こえた。

 

「ピカチュウ!」

 

「サトシ!」

 

息を切らしたサトシが洞窟へ飛び込んでくる。

 

「薬、持ってきた!」

 

逃げることもできたのに、本当に戻ってきた。

 

リーダーのゼニガメは驚いたようにサトシを見つめた。

 

「早くピカチュウを!」

 

「ゼニ!」

 

檻が開けられると、サトシはすぐにピカチュウを抱き上げ、タケシと一緒に傷の処置を始める。

 

しばらくしてピカチュウの呼吸が落ち着くと、サトシもようやく安堵の息を吐いた。

 

「もう大丈夫だ」

 

「ピカチュ……」

 

ピカチュウが安心したように目を細める。

 

少し離れたところでは、リーダーのゼニガメがその様子を黙って見つめていた。

 

サトシは約束を守った。

 

その事実が、これまで人間を信用してこなかったゼニガメの中に、確かな変化を生み始めていた。

 

◇

 

それからしばらくして、洞窟の外から聞き覚えのある声が響いた。

 

「よーし、今よ!」

 

「なっ!?」

 

直後、激しい爆発が起こって洞窟全体が大きく揺れる。

 

サトシたちが急いで外へ出ると、そこには気球に乗ったムサシとコジロウの姿があった。

 

「ゼニガメ団なんてもう用済みよ!」

 

「まとめて吹き飛ばしてやる!」

 

「ニャーを置いていくニャー!?」

 

ニャースが慌てる中、気球から次々と爆弾が落とされる。

 

「みんな、散れ!」

 

「ゼニ!」

 

サトシたちとゼニガメ団はそれぞれ爆発を避けて走る。

 

だが、近くで起きた爆発の衝撃を受けたリーダーのゼニガメが大きく吹き飛ばされ、そのまま甲羅を下にして地面へ落ちた。

 

「ゼ、ゼニ……!」

 

必死に手足を動かすものの、ひっくり返った身体を起こせない。

 

その頭上には、さらに次の爆弾が落ちてきていた。

 

「ゼニガメ!」

 

サトシは考えるより先に駆け出していた。

 

爆弾が迫る中、ゼニガメのところまで飛び込み、その小さな身体へ覆い被さる。

 

「ゼニ!?」

 

「頭を引っ込めろ!」

 

ゼニガメを胸元へ抱え込み、自分の身体で包むように庇った直後、背後で爆弾が炸裂した。

 

激しい轟音と熱風が押し寄せ、巻き上げられた土煙が辺りを覆い尽くす。

 

「サトシ!」

 

カスミたちの声が響く。

 

やがて煙が薄れていくと、その中からサトシがゆっくりと身体を起こした。服は土で汚れ、腕にはいくつか擦り傷ができている。

 

それでも、腕の中にいるゼニガメには大きな怪我はなかった。

 

「……いてて。ゼニガメ、大丈夫か?」

 

「ゼニ……?」

 

「よかった」

 

無事を確認したサトシは、それだけ言って笑った。

 

自分を捕まえた相手だからとか、これから仲間になるかもしれないからとか、そんなことは関係ない。

 

目の前で危険に晒されているポケモンがいたから助けた。

 

ゼニガメは何も言わず、ただサトシの顔を見つめていた。

 

◇

 

ロケット団が落とした爆弾は周囲の草木へ燃え移り、森の中で火の手が上がり始めていた。

 

「まずい、火を消さないと!」

 

「ゼニ!」

 

リーダーが真っ先に立ち上がり、その声に応えるように残りの四匹も集まる。

 

「ゼニゼニ!」

 

五匹は一斉に『みずでっぽう』を放ち、燃え広がる炎へ水を浴びせ始めた。

 

「俺たちも手伝う! フシギダネ、ピジョン、バタフリー、ヒトカゲ!」

 

「ダネ!」

 

「ピジョォン!」

 

「フリィ!」

 

「カゲ!」

 

フシギダネは『つるのムチ』で燃えた枝や倒木をどかし、ピジョンとバタフリーは翼で煙を散らして避難経路を確保していく。

 

「ヒトカゲは逃げ遅れたポケモンを探してくれ! 炎は使うなよ!」

 

「カゲ!」

 

ヒトカゲもすぐに駆け出し、サトシたちも周囲に残っているポケモンの避難を手伝った。

 

その間もゼニガメ団は休むことなく水を放ち続ける。

 

「ゼニ!」

 

リーダーが声を上げると、他の四匹がすぐに位置を変えて別の場所へ『みずでっぽう』を向けた。

 

悪戯ばかりしていた時とはまるで違う、見事な連携だった。

 

やがて炎は少しずつ弱まり、最後に残っていた火もゼニガメたちの水によって消えていった。

 

「ゼニ……!」

 

五匹が疲れ切ったようにその場へ座り込む。

 

サトシも額の汗を拭いながら笑った。

 

「やったな」

 

「ゼニ」

 

リーダーがサトシを見る。

 

その目にはもう、最初に出会った時のような強い敵意はなかった。

 

◇

 

事件が収まると、ゼニガメ団が町を火事から救ったことはすぐにジュンサーにも伝わった。

 

「あなたたち、やればできるじゃない」

 

「ゼニ?」

 

「その力、悪戯じゃなくて町のみんなを守るために使ってみない?」

 

ジュンサーは五匹を見渡しながら続ける。

 

「この町の消防団になってくれたら、みんなも安心できるわ」

 

ゼニガメたちは互いの顔を見合わせた。

 

かつてトレーナーに捨てられ、人間を信用できなくなり、悪戯を繰り返すことで自分たちだけの居場所を作っていた。

 

そんな彼らを、今度は人間の方から必要としてくれている。

 

「ゼニ!」

 

四匹のゼニガメが嬉しそうに声を上げる。

 

だが、リーダーだけはすぐには頷かなかった。

 

長く一緒に過ごしてきた仲間たちを見て、それからジュンサーや町の人々へ目を向け、最後にサトシを見る。

 

「ゼニ……」

 

しばらくして何かを決めたように歩き出すと、そのままサトシの前までやってきた。

 

「どうした?」

 

「ゼニ!」

 

ゼニガメはサトシを指差し、次に自分自身を指差す。

 

その様子を見ていたカスミが笑った。

 

「もしかして、サトシについていきたいんじゃない?」

 

「ゼニ!」

 

力強く頷くゼニガメを見て、サトシの顔にも自然と笑みが浮かんだ。

 

前世の記憶がある以上、このゼニガメが原作で自分の仲間になったことは最初から知っていた。

 

それでも、知識として知っていた結末と、実際にゼニガメ自身の意思で選んでもらうことはまったく違う。

 

「俺も、お前と一緒に旅したい」

 

「ゼニ!」

 

サトシはモンスターボールを取り出したものの、すぐには差し出さなかった。

 

「その前に、一つだけ話しておきたい」

 

「ゼニ?」

 

「お前はゼニガメからカメール、その先にはカメックスへ進化できる。でも、今ここで進化するかどうかを決めなくていい」

 

ゼニガメが静かに話を聞く。

 

近くではフシギダネとヒトカゲもサトシを見ていた。二匹にも同じように、自分の進化は自分で選べばいいと伝えてある。

 

「これから旅をして、いろんなものを見て、いろんな相手と戦って、それから自分がどうなりたいか決めればいい。進化したいと思った時は教えてくれればいいし、今の姿でいたいと思ったなら、それもお前の選択だからな」

 

「ゼニ……」

 

ゼニガメは少し考えるように俯いた後、やがて顔を上げた。

 

「ゼニ!」

 

今はまだ答えが出ていない。

 

それでもサトシと一緒に旅をしたいという気持ちは、その表情を見れば十分に分かった。

 

「ああ。一緒に考えていこう」

 

「ゼニ!」

 

サトシがモンスターボールを差し出すと、ゼニガメは一度だけ後ろを振り返った。

 

「ゼニ!」

 

「ゼニゼニ!」

 

「ゼニー!」

 

長く一緒に過ごしてきた四匹の仲間たちが、笑顔でリーダーを送り出す。

 

ゼニガメも嬉しそうに笑い返した後、自分からモンスターボールへ触れた。

 

身体が赤い光へ変わってボールへ吸い込まれ、一度、二度、三度と揺れた末に、カチッと小さな音を立てて止まる。

 

「よし!」

 

サトシはモンスターボールを手に取ると、高く掲げた。

 

「ゼニガメ――ゲットだ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「ダネ!」

 

「カゲ!」

 

「フリィ!」

 

「ピジョォン!」

 

仲間たちの声が重なった。

 

◇

 

出発前、サトシは六匹全員を外へ出していた。

 

長い付き合いのピカチュウを中心に、ピジョン、バタフリー、フシギダネ、ヒトカゲ、そして新しく仲間になったゼニガメが集まっている。

 

「ゼニ!」

 

ゼニガメはいつものサングラスをかけたまま、どこか得意げに腕を組んでいた。

 

「カゲ?」

 

ヒトカゲが興味深そうにサングラスを覗き込むと、ゼニガメは少し得意げにその位置を直して見せる。

 

「ゼニ」

 

「カゲ!」

 

「ピカピカ!」

 

それを見たピカチュウまで会話に加わり、三匹の周囲はすぐに賑やかになった。

 

そんな仲間たちを眺めながら、サトシは旅立ちの日を思い返す。

 

あの日、隣にいたのはピカチュウだけだった。

 

それがキャタピーと出会い、ピジョンが加わり、キャタピーはバタフリーへ進化した。さらにフシギダネ、ヒトカゲ、そして今回のゼニガメと出会い、気づけば一緒に旅をする仲間は六匹になっている。

 

「これで六匹か」

 

トレーナーが一度に連れて歩ける上限まで、ついに手持ちが揃った。

 

これから新しいポケモンが仲間になれば、オーキド博士の研究所へ預け、状況に合わせて入れ替えながら旅をすることになるだろう。

 

前世の知識を持つサトシには、この先で出会いたいポケモンも数多くいる。

 

けれど、ただ仲間の数を増やしたいわけではない。

 

誰が仲間になっても一匹一匹と向き合い、それぞれが望む強さや未来を一緒に探しながら、世界の頂点を目指していく。

 

その考えだけは、これから先どれほど仲間が増えても変わらない。

 

「よし、行こう! 次はクチバシティだ!」

 

「ピカ!」

 

「ゼニ!」

 

「カゲ!」

 

「ダネ!」

 

仲間たちの元気な声を背中に受けながら、サトシは再びクチバシティへ続く道を歩き始めた。

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