ポケットモンスター ―君と目指す頂―   作:あああああ

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第38話 ピカチュウVSライチュウ!速さで掴む勝利!

「今度は勝ちに来た」

 

クチバジムのフィールドに、サトシの声が響く。

 

その言葉に応えるように、サトシの前へ立ったピカチュウの頬から小さな電気が弾けた。

 

「ピカ!」

 

対するライチュウも一歩前へ出る。

 

昨日と同じ相手。

 

電撃の出力、身体の大きさ、一撃の重さ。そのどれもがピカチュウを上回り、初戦では最後まで立ち向かいながらも敗北した。

 

それでも、サトシにもピカチュウにも迷いはなかった。

 

昨日の敗北で分かったことがある。

 

そして何より――。

 

ピカチュウ自身が、ライチュウへ進化するのではなく、この姿のまま勝つことを選んだのだ。

 

「HAHAHA! いい顔になったじゃねえか、ベイビー!」

 

マチスは腕を組み、楽しそうに笑っている。

 

「だが、昨日負けたことを忘れたわけじゃねえだろうな?」

 

「もちろん」

 

サトシは即答した。

 

負けたことをなかったことにするつもりなどない。

 

「だから戻ってきたんだ」

 

「ピカ!」

 

「かみなりのいしは使わなかったみてえだな」

 

マチスがピカチュウを見る。

 

「ライチュウになれば、もっと強い電撃を出せる。昨日それを嫌ってほど分からされたはずだぜ?」

 

ピカチュウは何も言わず、ただライチュウを見つめ返した。

 

サトシも笑う。

 

「進化しなかったんじゃない」

 

「あ?」

 

「ピカチュウが、今は進化しないって決めたんだ」

 

ピカチュウの耳がぴんと立つ。

 

「進化すれば強くなれる。それを否定するつもりはないよ。でも、進化するかどうかと、今の姿でどこまで強くなれるかは別だろ」

 

「ピカ!」

 

マチスはしばらくサトシを見ると、やがて口元を吊り上げた。

 

「面白え。だったら証明してみろ!」

 

「そのつもり!」

 

サトシとマチスがそれぞれ定位置につく。

 

昨日と同じフィールド。

 

昨日と同じ二匹。

 

だが、戦い方まで同じにするつもりはない。

 

観客席ではカスミとタケシが二匹を見守っていた。

 

「今度は勝てるわよね……?」

 

「簡単じゃない」

 

タケシはフィールドから目を離さない。

 

「ライチュウの強さは昨日分かった。問題は、サトシとピカチュウがあの強さをどう崩すかだ」

 

審判が二匹を確認し、腕を上げる。

 

「クチバジム、再戦! 使用ポケモンは一体! どちらかが戦闘不能になった時点で終了!」

 

一瞬の静寂。

 

「始め!」

 

◇

 

「ピカチュウ、『でんこうせっか』!」

 

開始と同時にサトシが叫ぶ。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが地面を蹴った。

 

白い光を纏い、一気に加速する。

 

「またそれか! ライチュウ、迎え撃て!」

 

「ライ!」

 

ライチュウが太い尻尾を振り上げる。

 

昨日なら、ここから攻撃へ入っていた。

 

だが――。

 

「そのまま右!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウがライチュウへ接近する直前、鋭く右へ曲がった。

 

「なに?」

 

攻撃しない。

 

ライチュウの周囲を走る。

 

「左!」

 

ピカチュウが今度は反対方向へ切り返す。

 

ライチュウが身体の向きを変える。

 

その瞬間には、ピカチュウはもう別の場所へいる。

 

「止まれ!」

 

「ピカ!」

 

急停止。

 

ライチュウがピカチュウの動きを追って身体を捻った直後――。

 

「もう一回!」

 

再加速。

 

「ピカ!」

 

「ちょこまかと!」

 

マチスが眉を寄せる。

 

「ライチュウ、電撃だ!」

 

「ライチュウ!」

 

電気が走る。

 

「左へ!」

 

ピカチュウが跳ぶ。

 

電撃が地面を焦がす。

 

「そのまま走れ!」

 

着地と同時に再加速。

 

二発目。

 

避ける。

 

三発目。

 

ピカチュウは直前で急停止し、目の前を電撃が横切った瞬間、逆方向へ駆け出した。

 

「速い……!」

 

カスミが目を見開く。

 

タケシは昨日との違いに気づいていた。

 

「昨日は『でんこうせっか』を攻撃へ繋げるために使うことが多かった。今日は違う」

 

「え?」

 

「ライチュウを動かしてるんだ」

 

フィールドでは、ライチュウが何度も身体の向きを変えていた。

 

右。

 

左。

 

後ろ。

 

再び右。

 

ピカチュウの動きを追うたび、大きな身体を旋回させなければならない。

 

直線的な動きならライチュウも速い。

 

だが、細かい方向転換ではピカチュウの方が上だった。

 

(やっぱりだ)

 

サトシは確信する。

 

前世で知っていた弱点。

 

しかし、それだけを理由に作戦を決めたわけではない。

 

昨日、実際に戦った。

 

その中で、ライチュウが急な切り返しに対応しきれない瞬間を何度も見た。

 

ならば徹底的に使う。

 

「なるほどな」

 

マチスも気づいたらしい。

 

「昨日のバトルでライチュウの動きを見てやがったか」

 

「そういうこと!」

 

「だがな!」

 

マチスが腕を振る。

 

「速いだけで勝てるほど、俺のライチュウは甘くねえぞ! 広く撃て!」

 

「ライチュウ!」

 

電撃が一方向ではなく、ライチュウの周囲へ広く放たれた。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

走り続けていたピカチュウが跳ぶ。

 

だが、すべては避けきれない。

 

「ピカッ!」

 

電撃が後ろ脚を掠める。

 

着地が僅かに乱れた。

 

「そこだ!」

 

ライチュウが踏み込む。

 

「ライ!」

 

太い尻尾が横薙ぎに振るわれる。

 

「上!」

 

ピカチュウが跳んだ。

 

尻尾は足元を通過する。

 

だが――。

 

「読んでるぜ!」

 

マチスが笑った。

 

ライチュウがその場で身体を回転させる。

 

振り抜いた尻尾が、その勢いのまま上へ跳ね上がった。

 

「ピカッ!?」

 

空中のピカチュウへ直撃。

 

小さな身体が弾き飛ばされた。

 

「ピカチュウ!」

 

地面へ落ちたピカチュウが転がる。

 

「ピカ……!」

 

すぐに起き上がったものの、確かなダメージがある。

 

マチスが笑う。

 

「同じ相手と二回戦ってるのは、お前だけじゃねえんだぜ!」

 

サトシは一瞬目を見開き――すぐに笑った。

 

「そりゃそうだ」

 

自分たちが昨日の敗北から学んだように、マチスもこちらの戦い方を見ている。

 

だから面白い。

 

「ピカチュウ、ここからだ!」

 

「ピカ!」

 

◇

 

再び二匹が向かい合う。

 

先ほどまでのように、ただ速度で翻弄するだけでは通じない。

 

サトシはライチュウを見る。

 

昨日から何度も感じていた。

 

ライチュウは強い。

 

なら、その強さと正面から付き合う必要はない。

 

「ピカチュウ、『エレキボール』!」

 

「ピカ!」

 

尻尾の先へ電気が集まる。

 

形成された電気の球が、ライチュウへ向かって放たれた。

 

「そんなもん撃ち落とせ!」

 

ライチュウが正面を向く。

 

「ライ!」

 

電撃が放たれ、『エレキボール』と正面からぶつかる。

 

バンッ!

 

電気が弾ける。

 

一瞬、ライチュウの視界が黄色い光に覆われた。

 

その時には――。

 

「走れ!」

 

ピカチュウがすでに動いていた。

 

「ピカ!」

 

『でんこうせっか』。

 

自分が放った『エレキボール』とは別方向から、ライチュウへ迫る。

 

「横だ、ライチュウ!」

 

マチスが気づく。

 

ライチュウが振り向こうとする。

 

しかし遅い。

 

「『アイアンテール』!」

 

「ピカァ!」

 

白く輝く尻尾がライチュウの脇腹へ叩き込まれた。

 

「ライッ!」

 

ライチュウの身体が横へ飛ぶ。

 

床を滑りながらも踏み止まるが、顔には苦痛が浮かんでいる。

 

「よし!」

 

「まだだ!」

 

サトシは止めない。

 

「ピカチュウ、もう一度接近!」

 

「ピカ!」

 

「ライチュウ、近づけるな!」

 

電撃。

 

ピカチュウは右へ。

 

さらに電撃。

 

左へ。

 

三発目が逃げ道を塞ぐ。

 

「前へ!」

 

「ピカ!?」

 

カスミが驚く。

 

「なんで前!?」

 

ピカチュウは逃げるのではなく、電撃を放つライチュウへ真正面から踏み込んだ。

 

距離が近すぎる。

 

広範囲へ放電するためにライチュウが狙いを散らした、その一瞬。

 

「懐へ入れ!」

 

ピカチュウがライチュウの腕の下へ滑り込む。

 

「『ほっぺすりすり』!」

 

「ピカ!」

 

身体を寄せる。

 

バチッ!

 

「ライッ!?」

 

ライチュウの身体が僅かに硬直する。

 

「離れろ!」

 

ピカチュウが即座に後ろへ跳ぶ。

 

直後、ライチュウの腕が空を切った。

 

「ちっ!」

 

マチスが舌打ちする。

 

ライチュウが身体を震わせる。

 

まだ戦える。

 

しかし先ほどまでと比べれば、動きが僅かに鈍っていた。

 

「効いてる」

 

タケシが呟く。

 

「サトシは一発で倒そうとしていない。少しずつライチュウの動きを崩してる」

 

◇

 

「面白え!」

 

マチスが叫んだ。

 

苛立っているのではない。

 

むしろその顔には、昨日以上に楽しそうな笑みが浮かんでいる。

 

「ここまで俺のライチュウとやり合うピカチュウは久しぶりだ!」

 

「まだ終わってない!」

 

「ああ! だから――もっと来い!」

 

マチスが腕を振り上げる。

 

「ライチュウ! 最大まで上げろ!」

 

「ライ……!」

 

ライチュウの頬から激しい火花が弾ける。

 

今までとは違う。

 

空気そのものが震えるほどの電気。

 

サトシの表情が変わった。

 

「ピカチュウ、来るぞ!」

 

「ピカ!」

 

「まとめて吹き飛ばせ!」

 

「ライチュウゥゥゥ!!」

 

閃光。

 

ライチュウを中心に強烈な電撃が広がった。

 

一点を狙うのではない。

 

フィールドそのものを覆う。

 

「走れ!」

 

ピカチュウが『でんこうせっか』で駆ける。

 

一筋目をかわす。

 

二筋目の間を抜ける。

 

だが、逃げられる範囲が狭い。

 

「ピカッ!」

 

背中へ電撃が掠める。

 

それでも走る。

 

「ピカチュウ、止まるな!」

 

「ピカ!」

 

次の電撃。

 

避ける。

 

しかし、その先にも電気が走っている。

 

「跳べ!」

 

ピカチュウが跳躍する。

 

空中で身体を捻る。

 

完全には避けられなかった。

 

「ピカァッ!」

 

電撃を受け、地面へ落ちる。

 

「ピカチュウ!」

 

砂煙が上がった。

 

カスミが息を呑む。

 

やがて煙の中から、小さな影が立ち上がる。

 

「ピカ……!」

 

身体には焦げ跡。

 

息も荒い。

 

だが、まだ目は死んでいない。

 

「ピカチュウ」

 

サトシが呼ぶ。

 

ピカチュウが振り返る。

 

一瞬だけ目が合った。

 

それだけで十分だった。

 

「まだいけるな?」

 

「ピカ!」

 

力強い返事。

 

マチスが大きく笑う。

 

「根性あるじゃねえか!」

 

「それだけじゃない」

 

サトシが構える。

 

「俺たちは、まだ全部出してない!」

 

◇

 

戦いは終盤へ入っていた。

 

ピカチュウもライチュウも、無傷ではない。

 

ライチュウは『アイアンテール』を何度も受け、さらに『ほっぺすりすり』によって動きが鈍っている。

 

ピカチュウも強烈な電撃を受け、序盤ほど自由に走れる状態ではなかった。

 

それでも――。

 

速さでは、まだピカチュウが上だ。

 

「パワー勝負なら俺たちの勝ちだ!」

 

マチスが叫ぶ。

 

「ライチュウ、決めるぞ!」

 

「ライ!」

 

再びライチュウが電気を溜め始める。

 

サトシはその姿を見る。

 

昨日なら。

 

ここで『10まんボルト』をぶつけていたかもしれない。

 

強い電撃には、強い電撃。

 

だが、それではライチュウの土俵だ。

 

「ピカチュウ」

 

「ピカ」

 

「撃ち合わない」

 

ピカチュウの耳が立つ。

 

「俺たちの戦い方でいくぞ!」

 

「ピカ!」

 

「ライチュウ、いけぇ!」

 

巨大な電撃が放たれた。

 

「『でんこうせっか』!」

 

ピカチュウが走る。

 

真正面から迫る電撃。

 

直前まで引きつける。

 

「右!」

 

急旋回。

 

電撃がピカチュウのすぐ横を通り過ぎる。

 

「逃がすな!」

 

ライチュウが身体を向ける。

 

再び電撃。

 

「左!」

 

切り返す。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウがライチュウへ近づく。

 

「尻尾で潰せ!」

 

「ライ!」

 

太い尻尾が振り上げられる。

 

昨日、ピカチュウの『アイアンテール』を受け止め、そのまま押し返した力。

 

マチスも同じ展開を狙っている。

 

「そのまま!」

 

サトシは止めない。

 

ピカチュウがさらに近づく。

 

ライチュウの尻尾が振り下ろされる。

 

「今、止まれ!」

 

「ピカ!」

 

急停止。

 

ほんの一瞬。

 

ライチュウの尻尾が、ピカチュウの鼻先を掠めて地面へ叩きつけられた。

 

ドンッ!

 

「なに!?」

 

大きく振り抜いた分、すぐには戻せない。

 

そしてピカチュウはもう止まっていなかった。

 

「後ろへ回れ!」

 

「ピカ!」

 

ライチュウの脇を抜ける。

 

振り返ろうとするライチュウ。

 

だが、その大きな身体では間に合わない。

 

「『アイアンテール』!」

 

「ピカァァ!」

 

白く輝く尻尾が背中へ直撃した。

 

「ライチュウッ!」

 

ライチュウが前へ倒れ込む。

 

「よし!」

 

カスミが叫ぶ。

 

「ライチュウ!」

 

マチスの声。

 

ライチュウは両腕を地面につく。

 

震えながらも身体を起こした。

 

「ライ……!」

 

まだ立つ。

 

「すごい……」

 

カスミが思わず呟いた。

 

サトシも同じ気持ちだった。

 

強い。

 

本当に強い。

 

だからこそ――ここで倒す。

 

「ライチュウ! 立て!」

 

「ライ!」

 

ライチュウが完全に立ち上がった。

 

その頬に電気が集まる。

 

最後の一撃。

 

サトシにも分かった。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウも構える。

 

今度は逃げない。

 

昨日覚えた技。

 

まだ覚えて間もない。

 

それでも、何度も練習し、昨日の初戦でも実戦で使った。

 

そして今は――。

 

ライチュウをここまで崩している。

 

「これで決めるぞ!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウの頬から電気が溢れる。

 

全身を黄色い光が包む。

 

マチスも叫んだ。

 

「ライチュウ、ぶっ放せ!」

 

「ライチュウゥゥ!!」

 

「ピカチュウ――『10まんボルト』!」

 

「ピィィカァァァ――チュウゥゥッ!!」

 

二匹の電撃が放たれた。

 

激突。

 

眩い光がフィールドを覆う。

 

バチバチと電気が弾け、互いの電撃が押し合う。

 

「負けるな、ライチュウ!」

 

「ライィィ!」

 

ライチュウが出力を上げる。

 

一瞬、ピカチュウの電撃が押される。

 

「ピカ……!」

 

「ピカチュウ!」

 

サトシは叫ぶ。

 

「真正面の力だけで勝とうとしなくていい!」

 

「ピカ!?」

 

「今日ここまで、お前が作った差がある!」

 

ライチュウの身体にはダメージが蓄積している。

 

何度も受けた『アイアンテール』。

 

『ほっぺすりすり』による負担。

 

ピカチュウの速度へ対応し続けた疲労。

 

対するピカチュウも傷ついている。

 

条件は楽ではない。

 

だから最後は――。

 

「今のお前が出せる電気を、全部ぶつけろ!」

 

「ピカ……!」

 

ピカチュウが踏ん張る。

 

「ピィィィカァァァァ――チュウゥゥゥッ!!」

 

『10まんボルト』の光がさらに強くなる。

 

「ライ!?」

 

ライチュウの足が僅かに滑った。

 

一歩。

 

また一歩。

 

そして――。

 

電撃の均衡が崩れた。

 

「ライチュウゥゥッ!!」

 

ピカチュウの『10まんボルト』がライチュウを飲み込む。

 

爆発するような光。

 

フィールドを激しい風が駆け抜けた。

 

やがて。

 

光が消える。

 

「ライ……」

 

ライチュウの身体が揺れた。

 

一度は踏み止まろうとする。

 

しかし――。

 

「……チュウ」

 

そのまま前へ倒れた。

 

静寂。

 

審判がライチュウを確認する。

 

「ライチュウ、戦闘不能!」

 

一拍置いて。

 

「勝者――マサラタウンのサトシ!」

 

「……!」

 

サトシは一瞬、その言葉を聞いて動きを止めた。

 

次の瞬間。

 

「よっしゃあああっ!」

 

「ピッカチュウ!」

 

ピカチュウが駆けてくる。

 

サトシもフィールドへ飛び出し、その小さな身体を抱き上げた。

 

「やったな、ピカチュウ!」

 

「ピカピカ!」

 

「勝ったぞ!」

 

「ピッカァ!」

 

カスミとタケシも駆け寄ってくる。

 

「やったじゃない、サトシ!」

 

「ああ。見事な勝負だった」

 

「ありがとう!」

 

サトシは笑いながらピカチュウを抱き締める。

 

昨日は負けた。

 

進化という選択肢もあった。

 

それでもピカチュウは、この姿で勝つことを選んだ。

 

そして今日。

 

その選択を、自分自身の力で証明した。

 

◇

 

「ライチュウ」

 

マチスが倒れた相棒のそばへしゃがむ。

 

「よくやった」

 

「ライ……」

 

ライチュウが目を開き、小さく鳴く。

 

マチスはその頭を大きな手で撫でた。

 

それから立ち上がり、サトシたちの方へ歩いてくる。

 

「サトシ」

 

昨日までとは違う呼び方だった。

 

「はい」

 

マチスはサトシを見る。

 

続いて、腕の中のピカチュウへ視線を移した。

 

「ベイビー扱いは取り消しだ」

 

「ピカ?」

 

「進化しなくても強くなれる――ってだけじゃねえな」

 

マチスは笑う。

 

「自分の強さをちゃんと伸ばしてやれば、進化前だろうが関係ねえ。お前とピカチュウに教えられたぜ」

 

サトシは首を横へ振った。

 

「俺は、進化しない方が強いとは思ってないです」

 

「ん?」

 

「進化して強くなるポケモンもいるし、進化したいポケモンだっている。ピカチュウが今は進化しないって決めただけです」

 

「ピカ!」

 

「だから、俺はその選択で強くなれるように一緒に戦う。それだけです」

 

マチスは数秒黙り――やがて豪快に笑った。

 

「HAHAHA! ますます気に入ったぜ!」

 

懐から小さなケースを取り出す。

 

その中に収められていたのは、橙色に輝くバッジ。

 

「これは俺とライチュウを倒した証だ」

 

サトシへ差し出す。

 

「オレンジバッジ。受け取りな!」

 

サトシは両手で受け取った。

 

ニビジムのグレーバッジ。

 

ハナダジムのブルーバッジ。

 

そして――。

 

三つ目。

 

クチバジムのオレンジバッジ。

 

サトシは高く掲げた。

 

「クチバジム――勝ったぞ!」

 

「ピッカチュウ!」

 

「やったわね!」

 

「これで三つ目だな」

 

カスミとタケシも笑う。

 

三つ目のバッジ。

 

セキエイ大会への道を、また一歩進んだ。

 

◇

 

ジムを出た後、サトシたちはポケモンセンターへ戻り、ピカチュウを診てもらった。

 

激しいバトルだったため疲労は大きかったものの、幸い大きな怪我はない。

 

十分な治療と休息を取った後、夕方にはピカチュウも元気を取り戻していた。

 

ポケモンセンターを出ると、海から吹く風が街を通り抜けていく。

 

「ピカチュウ」

 

「ピカ?」

 

「ライチュウ、強かったな」

 

「……ピカ」

 

ピカチュウは素直に頷いた。

 

負けた初戦も。

 

勝った再戦も。

 

どちらも簡単な戦いではなかった。

 

サトシはポケットへ手を入れる。

 

中には、ジョーイから預かった『かみなりのいし』が入っている。

 

今は使わない。

 

それがピカチュウの選択だ。

 

けれど、進化そのものを否定するつもりもない。

 

いつか気持ちが変わるなら、その時また話せばいい。

 

変わらないなら、それもピカチュウの選択だ。

 

「まだまだ強くなれるな」

 

「ピカ!」

 

「『10まんボルト』も覚えたばっかりだし、『アイアンテール』だってもっと磨ける。『エレキボール』も『でんこうせっか』も――」

 

「ちょっとサトシ」

 

カスミが呆れたように割って入る。

 

「ジム戦が終わった直後なのに、もう次の特訓の話?」

 

「だって、もっと強くなれるだろ?」

 

「ピカピカ!」

 

ピカチュウまで同意する。

 

「似た者同士ね……」

 

カスミがため息をつき、タケシが笑った。

 

「それがサトシとピカチュウだからな」

 

「よし!」

 

サトシは港の向こうへ広がる空を見上げた。

 

「次へ行こう!」

 

「ピカ!」

 

海風が吹き抜ける。

 

その風を受けながら、サトシはまだ見ぬ次の出会いへ思いを馳せる。

 

ピカチュウだけではない。

 

ピジョン。

 

バタフリー。

 

フシギダネ。

 

ヒトカゲ。

 

ゼニガメ。

 

そしてオーキド博士の研究所へ転送されたクラブ。

 

旅を始めてから、仲間は少しずつ増えてきた。

 

強くなる道は、一つではない。

 

進化する者。

 

今の姿を選ぶ者。

 

新しい技を覚える者。

 

得意なものをさらに磨く者。

 

それぞれに違う道がある。

 

だからこそ、そのすべてを見てみたい。

 

仲間たちと一緒に、どこまで行けるのか。

 

サトシは三つのバッジが収められたケースを閉じると、再び歩き始めた。

 

世界最強のポケモントレーナー。

 

そして、ポケモンマスター。

 

その頂は、まだ遥か遠い。

 

けれど――。

 

今日も確かに、その頂へ一歩近づいた。

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