ポケットモンスター ―君と目指す頂― 作:あああああ
ザザーン……。
ザザーン……。
一定の間隔で繰り返される波の音が、少しずつ意識を現実へ引き戻していく。
「……ん……」
頬に触れる砂の感触。
全身に残る鈍い痛み。
サトシは眉を寄せながら、ゆっくりと目を開いた。
視界に入ったのは青い空だった。
「ここは……」
身体を起こした瞬間、直前までの出来事が一気に蘇る。
コジロウに捨てられたコイキング。
ギャラドスへの進化。
集まってきた大量のギャラドス。
そして――『りゅうのいかり』によって生まれた巨大な水の竜巻。
「そうだ!」
サトシは勢いよく起き上がった。
「ピカチュウ!」
返事はない。
いつもなら真っ先に聞こえてくるはずの声が、どこからも聞こえてこなかった。
「ピカチュウ!」
もう一度呼ぶ。
それでも返事はない。
周囲を見回すと、少し離れた砂浜にカスミとタケシが倒れていた。
「カスミ! タケシ!」
二人のもとへ駆け寄る。
幸い呼吸はしている。
目立った大怪我もなさそうだった。
「おい、起きろ!」
「う……」
「ん……サトシ……?」
先にタケシが目を覚まし、続いてカスミもゆっくりと身体を起こした。
「いたたた……何なのよ、もう……」
「二人とも大丈夫か?」
「ああ。身体中痛いけどな」
「私も……って、ここどこ?」
カスミが周囲を見回す。
海。
砂浜。
その奥には鬱蒼とした森。
どうやら、どこかの島へ流れ着いたらしい。
サトシは腰のベルトへ手を伸ばした。
そこで表情が変わる。
「……ない」
「何が?」
「モンスターボールが三つない」
残っているのは、ピジョンとバタフリーのボール。
だが――。
「フシギダネとヒトカゲとゼニガメのボールがない。それにピカチュウも……」
「じゃあ、あの時に離ればなれになったの!?」
カスミが立ち上がる。
サトシも焦りを感じていた。
だが、すぐに目を閉じた。
「サトシ?」
タケシが声をかける。
その意味に気づいたカスミが口を閉じた。
「……波導ね」
以前、ニビジムでサトシ自身から聞いている。
生き物の存在や大まかな位置を感じ、自分の意思や簡単なイメージを伝えることのできる力。
サトシは呼吸を整えた。
身体の奥から波導を広げていく。
砂浜。
森。
さらに、その向こうへ。
数え切れないほどの生命の気配が返ってきた。
野生のポケモン。
木々の中を飛び回る小さなポケモン。
地面の下に潜むものまでいる。
それらを一つずつ意識の外へ追いやりながら、サトシは探した。
誰よりもよく知っている波導を。
幼い頃からずっと一緒だった。
ピチューだった頃から知っている。
だから――。
「……いた」
サトシが目を開いた。
「本当!?」
「ああ」
表情が僅かに緩む。
「ピカチュウは生きてる」
「よかったぁ……」
カスミが胸を撫で下ろした。
タケシも安堵したように息を吐く。
「場所は分かるのか?」
「大体の方向なら」
サトシは森の奥を見る。
「でも、かなり離れてる。この島には野生のポケモンも多いから、波導が重なって正確な場所までは分からない」
さらに意識を集中させる。
ピカチュウの近くにも複数の生命反応がある。
「フシギダネたちも、多分一緒だ」
「なら、まずはそっちへ向かおう」
「ああ」
サトシは立ち上がった。
そして改めて島を見渡す。
ギャラドスの『りゅうのいかり』。
仲間たちとの離散。
どこかの島への漂着。
ここまで条件が揃えば、心当たりは一つしかない。
(この島……)
前世の記憶が蘇る。
(きょだいポケモンの島か)
ならば、この先に何が待っているのかも知っている。
巨大なポケモンたち。
もっとも――。
(本物じゃないんだよな)
正体は巨大なポケモン型の機械。
だが、それをいきなりカスミやタケシへ説明するわけにはいかない。
それに、原作知識があるからといって安心するつもりもなかった。
自分がこの世界に来てから、すでに多くの出来事が変わっている。
原作知識は大きな武器だ。
だが、未来そのものが保証されているわけではない。
「行こう」
サトシは森へ足を向ける。
「こっちだ」
◇
「ピカ……」
別の海岸。
砂浜に倒れていたピカチュウが、ゆっくりと顔を上げた。
「ピカ?」
身体を起こし、周囲を見る。
だが――。
「ピカピ!?」
サトシがいない。
ピカチュウは慌てて立ち上がった。
「ピカピ! ピカピー!」
返事はない。
代わりに見つけたのは、砂浜に転がっている三つのモンスターボールだった。
ピカチュウが駆け寄る。
見覚えのあるボールだ。
一つずつボタンを押していく。
白い光が三つ。
「ダネ?」
「カゲ?」
「ゼニ?」
フシギダネ。
ヒトカゲ。
ゼニガメ。
三匹が姿を現した。
最初は状況が分からず周囲を見回していたが、すぐにサトシがいないことへ気づく。
「ダネ?」
「カゲ……?」
「ゼニゼニ?」
「ピカ、ピカチュウ!」
ピカチュウが身振りを交えながら説明する。
ギャラドスの『りゅうのいかり』で吹き飛ばされた後、自分も今目を覚ましたところだ。
サトシたちがどこにいるかは分からない。
フシギダネが森を見る。
「ダネ」
ヒトカゲも立ち上がった。
「カゲ!」
ゼニガメはサングラスの位置を直す。
「ゼニ!」
四匹の意見はすぐに一致した。
サトシを探す。
自分たちがサトシを探しているのなら、きっとサトシも自分たちを探している。
特にピカチュウには疑う理由など一つもなかった。
「ピカ!」
先頭に立ち、歩き始める。
しばらく海岸沿いを進んでいると――。
「ヤァ……ドン……」
一匹のヤドンがいた。
海へ尻尾を垂らし、ぼんやりと座っている。
ピカチュウが近づく。
「ピカピカ?」
「ヤァ……」
「ピカ?」
「……ドン」
「…………」
ピカチュウが首を傾げた。
「ダネ……」
フシギダネがため息をつく。
ヒトカゲも困ったように首を傾げ、ゼニガメは腕を組んだ。
「ゼニ……」
どうやら情報を聞き出すのは難しそうだ。
「ピカ」
四匹はヤドンを残し、再び歩き始めた。
ヤドンはそんな四匹を気にする様子もなく、ただ海を眺め続けていた。
◇
サトシたちは森の中を進んでいた。
「ピジョン!」
サトシがボールを投げる。
白い光からピジョンが現れ、そのまま空へ舞い上がった。
「上からピカチュウたちを探してくれ。ただし、あまり遠くへ行きすぎるなよ!」
「ピジョン!」
ピジョンは大きく羽ばたき、木々の上へ出た。
「バタフリーも頼む!」
「フリー!」
続いてバタフリーも飛び立つ。
空からピジョン。
木々の間はバタフリー。
そしてサトシ自身は波導。
三方向からピカチュウたちを探していく。
「こういう時、その力って本当に便利ね」
カスミが言う。
「便利だけど、何でも分かるわけじゃないよ」
サトシは歩きながら答えた。
「距離が離れるほど曖昧になるし、他のポケモンが多い場所だと気配も重なる」
「それでも十分すごいと思うぞ」
タケシが笑う。
その時だった。
ズシン――。
地面が揺れた。
「な、何!?」
カスミが足を止める。
ズシン。
ズシン。
一定の間隔で地面が震える。
巨大な何かが歩いているような――。
「来るぞ」
サトシが言った。
「来るって何が――」
木々の向こう。
巨大な影が動いた。
そして。
「ギャオォォォォ!」
森の上から、巨大なポケモンが姿を現した。
「サ、サイドン!?」
カスミが叫ぶ。
だが普通のサイドンとは比較にならない。
木々よりも遥かに大きい。
「で、でかすぎるだろ!」
タケシも目を見開いた。
サトシは巨大サイドンを見上げる。
(やっぱりだ)
記憶通り。
ただし、本物ではない。
サトシは波導を広げる。
そして確信した。
巨大な身体から――生命の波導を感じない。
「二人とも、こっち!」
「え!?」
「いいから!」
巨大サイドンが腕を振り上げる。
サトシたちは一斉に走った。
ドォォン!
背後で地面が大きく揺れる。
「何なのよ、あれ!」
走りながらカスミが叫ぶ。
「多分、本物のポケモンじゃない!」
「本物じゃない!?」
「あいつから波導を感じない!」
「じゃあ何なんだ!?」
「そこまではまだ分からない!」
もちろん、本当は知っている。
だが今は逃げることが先だ。
サトシたちは木々の間を走り抜け、巨大サイドンから距離を取った。
やがて地響きが遠ざかる。
「はぁ……はぁ……」
カスミが木へ手をつく。
「巨大なサイドンとか、反則でしょ……」
「本物じゃないなら、誰かが作った機械か何かか?」
タケシが推測する。
「その可能性は高いと思う」
サトシは頷いた。
嘘ではない。
「とにかく、巨大ポケモンを見つけても戦わない方がいい。ピカチュウたちを探すのが先だ」
「そうね」
その時。
「ピジョォン!」
上空からピジョンが戻ってきた。
「何か見つけたか?」
「ピジョン! ピジョ!」
翼で一方向を示す。
同時に。
サトシも感じた。
「……近づいてる」
「ピカチュウ?」
「ああ」
確実に先ほどより近い。
「この方向だ!」
◇
その頃。
ピカチュウたちも森の中へ入っていた。
「ピカ」
先頭のピカチュウが足を止める。
茂みの向こうから声が聞こえた。
「もう歩けないニャ……」
聞き覚えのある声。
ピカチュウの頬に電気が走る。
「ピカ……」
茂みを抜ける。
そこにいたのは――。
「ニャ!?」
ニャース。
アーボ。
ドガース。
「ピカチュウ!」
「ニャース!」
互いに睨み合う。
「こんなところで会うとは好都合ニャ! ムサシたちがいなくても、ここでお前を――」
ニャースがアーボとドガースを見る。
「やっつけるニャ!」
「チャーボ……」
「ドガース……」
二匹は動かなかった。
「……ニャ?」
ニャースが振り返る。
「何してるニャ! 攻撃するニャ!」
アーボとドガースは顔を見合わせる。
そして首を横へ振った。
「な、なんでニャ!」
ニャースは二匹のトレーナーではない。
それに、今は自分たちもムサシとコジロウを探している最中だった。
ピカチュウたちと戦っている場合ではない。
「ダネ」
フシギダネも警戒は解かないものの、すぐに戦うつもりはなかった。
「カゲ」
ヒトカゲも同じ。
ゼニガメはサングラス越しにニャースを見る。
「ゼニ」
「なんニャ、その目は!」
ピカチュウがサトシを探していることを伝える。
アーボとドガースも、それぞれムサシとコジロウを探しているらしい。
目的は同じだった。
「……つまり」
ニャースが腕を組む。
「今だけ休戦ってことニャ?」
「ピカ」
「ダネ」
「カゲ」
「ゼニ」
ニャースはしばらく唸ったあと、仕方なさそうに頷いた。
「仕方ないニャ。ムサシとコジロウを見つけるまでニャ!」
奇妙な一団が出来上がった。
そして再び森を進み始める。
だが――。
ズシン。
「ニャ?」
ズシン。
今度は前方の木々が揺れる。
巨大な影。
「な、何ニャ……?」
木々の向こうから現れたのは――。
巨大なカメックスだった。
「ゼ、ゼニィ!?」
ゼニガメのサングラスがずり落ちる。
「カメェェェェェ!」
巨大カメックスが砲口を向ける。
「逃げるニャァァァ!」
一斉に走り出した。
「ピカ!」
「ダネ!」
「カゲ!」
「ゼニィィ!」
ゼニガメは走りながら何度も後ろを振り返る。
自分と同じ系統の面影を持ちながら、遥かに巨大な姿。
もちろん目の前のそれは本物ではない。
だが、ゼニガメにはまだそんなことは分からない。
ただ、その巨大な姿が強く目に焼きついていた。
◇
その後も、島では異常な出来事が続いた。
サトシたちの前には巨大なサンダー。
ピカチュウたちの前には巨大なフシギバナ。
別の場所を彷徨っていたムサシとコジロウの前には巨大なファイヤー。
「ダネ……!」
巨大なフシギバナを前に、フシギダネが思わず足を止める。
大きな花。
太い四肢。
圧倒的な存在感。
「ダネ……」
自分の進化した先に存在する姿。
フシギダネは何かを考えるように、その姿を見つめた。
だが巨大フシギバナが動き出す。
「ピカ!」
ピカチュウに呼ばれ、フシギダネも我に返って走り出した。
さらに先では――。
「カゲ……!」
今度はヒトカゲが立ち止まった。
巨大なリザードン。
翼を広げた姿は、ヒトカゲから見ればまるで別の生き物のように大きい。
巨大リザードンが咆哮する。
「カゲ……」
ヒトカゲは怖がっていた。
それでも、視線を逸らさなかった。
炎を吐き、空を飛ぶその姿をじっと見上げている。
いつか。
自分も――。
「ピカ!」
再びピカチュウの声。
「カゲ!」
ヒトカゲは頷き、仲間たちを追った。
◇
「またいた!」
カスミが叫ぶ。
今度は巨大なピカチュウだった。
「ピッカァァァ!」
「本物だったら洒落にならないな……」
タケシが呟く。
「でも波導はない」
サトシは冷静だった。
すでに正体が分かっている。
少なくとも、生きた巨大ポケモンではない。
「やっぱり全部機械か何かだと思う」
「誰がこんなもの作ったのよ!」
「さあな」
サトシは苦笑する。
(ロケット団なんだよな……)
正確にはサカキが関係する遊園地。
だが、それを口にするわけにはいかない。
その時だった。
サトシが突然足を止めた。
「……!」
波導。
これまでより、遥かにはっきり感じる。
「サトシ?」
「近い」
「え?」
サトシは目を閉じる。
間違いない。
「ピカチュウだ!」
走り出した。
「ちょっと、サトシ!」
カスミとタケシも後を追う。
木々を抜ける。
さらに走る。
そして――。
「ピカ!?」
向こうから黄色い影が現れた。
「ピカチュウ!」
「ピカピー!」
ピカチュウが駆け出す。
サトシも速度を上げた。
「ピカ!」
飛び込んできたピカチュウを両腕で受け止める。
「よかった……!」
ぎゅっと抱き締める。
「ピカ、ピカピ!」
「心配したぞ」
「ピカァ……」
ピカチュウもサトシの服を強く掴んだ。
言葉にする必要などなかった。
離れていた時間は長くない。
それでも、互いに無事だと分かった瞬間の安心感は大きかった。
「ダネ!」
「カゲ!」
「ゼニ!」
「フシギダネ! ヒトカゲ! ゼニガメ!」
三匹も駆け寄ってくる。
サトシはしゃがみ込み、一匹ずつ身体を確認した。
「怪我はないか?」
「ダネ!」
「カゲ!」
「ゼニ!」
「よかった」
その後ろから。
「ニャース!」
「チャーボ!」
「ドガース!」
「お前たちも一緒だったのか」
「成り行きニャ!」
ニャースが胸を張る。
「別に仲良くなったわけじゃないニャ!」
「ピカ」
ピカチュウが呆れたように見る。
そこへ――。
「ニャース!」
「アーボ!」
「ドガース!」
別方向からムサシとコジロウが走ってきた。
「ムサシ!」
「コジロウ!」
「やっと見つけたニャー!」
ロケット団も再会を果たす。
「アーボ!」
「ドガース!」
ムサシとコジロウがそれぞれ自分のポケモンを抱き締める。
サトシはその様子を見て、小さく笑った。
敵同士ではある。
それでもポケモンを大切に思う気持ちまで全部が嘘というわけではない。
「ところで」
カスミが周囲を見る。
「これからどうするの?」
「島から出る方法を探さないとな」
タケシが答える。
すると。
ガタン。
どこかから機械音が聞こえた。
全員が振り返る。
そこには古びた線路が伸びていた。
「線路?」
「ってことは、どこかに繋がってるのか?」
サトシはその先を見る。
記憶にある。
この先には――。
「行ってみよう」
一行は線路を辿って進んだ。
やがて見つけたのは、小さなトロッコだった。
「これなら移動できる!」
コジロウが真っ先に乗り込む。
「ちょっと待て!」
「早い者勝ちよ!」
ムサシも飛び乗る。
「ニャハハハ! お先ニャ!」
ニャースがレバーへ飛びついた。
ガコン!
「ニャ?」
トロッコが動き始める。
最初はゆっくり。
だが線路は下り坂だった。
ガタン、ガタン、ガタン!
徐々に速度が上がる。
「ちょ、ちょっと待つニャ!」
「止めなさい!」
「止まらない!」
「やっぱりな……」
サトシは額を押さえる。
「何落ち着いてるのよ!」
カスミに怒鳴られながら、サトシたちも別のトロッコへ乗り込むことになった。
「行くぞ!」
ガコン!
こちらも走り出す。
「うわぁぁぁ!」
トロッコが森を突っ切る。
巨大サイドン。
巨大サンダー。
巨大ファイヤー。
次々と巨大ポケモンが現れる。
だが今度はサトシも落ち着いていた。
「全部波導がない!」
「じゃあやっぱり!」
「ああ! 機械だ!」
そして暴走するトロッコは、その巨大ポケモンたちまで巻き込んでいく。
「危ない!」
ドォォォォン!!
巨大サイドンと巨大カブトプスが激突した。
身体の一部が砕ける。
中から飛び出したのは――。
金属。
配線。
機械部品。
「やっぱり!」
タケシが叫ぶ。
「本当にロボットだったのね!」
カスミも目を丸くする。
次々と巨大ポケモンたちが衝突し、壊れていく。
巨大リザードンの翼が外れる。
巨大フシギバナの身体から煙が上がる。
巨大カメックスの甲羅が開き、中の機械が露出した。
「カゲ……」
ヒトカゲが壊れた巨大リザードンを見る。
少し残念そうだった。
サトシはそれに気づく。
「ヒトカゲ」
「カゲ?」
「本物じゃなかったな」
「カゲ……」
「でも」
サトシは笑う。
「リザードンってポケモン自体は本当にいるぞ」
「カゲ!」
ヒトカゲの目が輝いた。
「いつか会えるといいな」
「カゲ!」
隣ではフシギダネも、壊れた巨大フシギバナを見ていた。
サトシは何も言わなかった。
進化するかどうか。
それを決めるのはフシギダネ自身だ。
ただ、今日見た姿が何かのきっかけになるかもしれない。
それで十分だった。
◇
騒ぎが収まった頃。
島の奥から、観光客らしき人々と係員が駆けつけてきた。
「な、なんてことだ!」
「ポケモンランドが!」
「全部壊れてる!」
カスミが瞬きをする。
「……ポケモンランド?」
話を聞けば、ここは巨大なポケモン型ロボットを使ったテーマパークだったらしい。
その名もポケモンランド。
しかも――。
「この施設、ロケット団が関係してるの!?」
カスミが声を上げる。
「知らないわよ!」
ムサシが叫ぶ。
「私たちだって初めて来たわ!」
「下っ端には知らされてないこともあるニャ!」
「自分で下っ端って言ったな」
「言ってないニャ!」
「今言っただろ」
「気のせいニャ!」
騒がしいやり取りを聞きながら、サトシは壊れた巨大ポケモンたちを見る。
(知ってはいたけど……)
前世ではアニメの一話として見ていた。
実際に巻き込まれると、とんでもない場所だった。
「もう巨大ポケモンはしばらく見たくないわ……」
カスミが疲れ切った声を出す。
「同感だ」
タケシも頷いた。
「ピカ……」
ピカチュウまで同意する。
サトシは笑った。
「とにかく、みんな無事だったんだからいいだろ」
「それはそうだけどね」
カスミも少しだけ笑う。
サトシはピカチュウの頭へ手を置いた。
「ピカ?」
「離れてても見つけられてよかった」
「ピカピカ!」
ピカチュウが笑う。
その時。
「ヤァ……ドン……」
聞き覚えのある声がした。
全員が振り返る。
海辺。
最初にピカチュウたちが出会ったヤドンが、相変わらずぼんやりと尻尾を海へ垂らしている。
「まだいたのか」
サトシが苦笑した、その瞬間。
海中から一匹のシェルダーが飛び出した。
「シェル!」
ガブッ!
「ヤァァァァドォォォン!」
ヤドンの尻尾に噛みつく。
白い光が身体を包んだ。
「進化!?」
カスミが目を丸くする。
光の中でヤドンの身体が変わっていく。
やがて現れたのは――。
「ヤドラン……」
「ヤドランになった!」
「すごいな……」
タケシが感心する。
「ヤァ……ドン……」
進化したというのに、本人は相変わらずのんびりしていた。
「……あんまり変わってないわね」
「そこはヤドンだからな」
「ヤドランだぞ」
三人が顔を見合わせる。
そして。
「はははっ!」
自然と笑い声が漏れた。
サントアンヌ号の沈没。
海底からの脱出。
ギャラドスの『りゅうのいかり』。
仲間との離散。
巨大ポケモンの島。
散々な目に遭った。
それでも。
「行こう、ピカチュウ」
「ピカ!」
旅はまだ始まったばかりだ。
そして今回の出来事は、サトシたちが知らないところで、小さな変化も残していた。
巨大なフシギバナを見つめていたフシギダネ。
巨大なリザードンから目を離さなかったヒトカゲ。
巨大なカメックスを見上げていたゼニガメ。
それぞれが目にした、自分たちの未来へ繋がる姿。
それがどんな答えへ結びつくのかは、まだ誰にも分からない。
ただ一つ確かなのは――。
彼らの旅も、成長も。
まだまだ、これからだということだった。