ポケットモンスター ―君と目指す頂―   作:あああああ

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第46話 大空へ!ピジョンの決意

翌朝。

 

野宿を終えたサトシたちは、再び旅を始めていた。

 

バタフリーがいなくなったことで、いつもと少しだけ違う。

 

腰のモンスターボールは一つ減り、空を見上げても、そこを飛んでいるのは一匹だけだった。

 

「ピジョン!」

 

サトシたちの頭上を、ピジョンが大きく旋回する。

 

昨日の夜からずっと調子がいい。

 

翼を何度か羽ばたかせると高度を上げ、今度はほとんど羽ばたかないまま風に乗る。

 

「またやってるわね」

 

カスミが空を見上げた。

 

「昨日からずっとだな」

 

タケシも気づいている。

 

サトシは少し先を飛ぶピジョンを見つめた。

 

「ピジョン、もっと上まで行けそう?」

 

「ピジョン!」

 

力強い返事。

 

翼が大きく開く。

 

上昇気流を捕まえたピジョンの身体が、一気に空高く持ち上がった。

 

「おお!」

 

サトシが笑う。

 

「いいぞ!」

 

「ピカピカ!」

 

ピカチュウも空を見上げて声援を送る。

 

ピジョンは高度を上げながら一度旋回し、そこから翼を畳んだ。

 

急降下。

 

「速っ!」

 

カスミが驚く。

 

地面すれすれ。

 

そこで翼を広げる。

 

ばさっ!

 

強い風が吹き抜けた。

 

「うわっ!」

 

サトシたちの服が大きく揺れる。

 

ピジョンは地面へ触れることなく再び上昇した。

 

「ピジョーン!」

 

「すごいじゃない!」

 

「以前より明らかに翼が強くなってる」

 

タケシが感心したように言う。

 

「飛び方も変わったな。力任せに羽ばたくんじゃなくて、風そのものを使ってる」

 

「うん」

 

サトシも同じことを感じていた。

 

旅立った頃。

 

トキワの森近くで出会った時から、ピジョンは飛ぶことに長けていた。

 

けれど今は、それだけではない。

 

強い風にも負けず、風向きを読み、必要なら自分から風を作り出す。

 

アオプルコで海風を受けていた時にも感じた。

 

バタフリーを助けるためロケット団を追った時には、もっとはっきり分かった。

 

ピジョンは今、大きく変わろうとしている。

 

「ピジョン!」

 

空から声が届く。

 

「まだやる?」

 

「ピジョン!」

 

「よし!」

 

サトシは笑った。

 

「だったら今日は、ピジョン中心で行こう!」

 

「ピカ!」

 

◇

 

しばらく歩くと、道は海沿いから山へと変わっていった。

 

高い崖が連なり、その間を強い風が吹き抜けている。

 

「すごい風ね……!」

 

カスミが帽子を押さえる。

 

「この辺りは海から来た風が山の間に集中するみたいだな」

 

タケシが周囲を見る。

 

ごうっ!

 

再び強風。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウがサトシの肩へしがみついた。

 

「大丈夫?」

 

「ピカ!」

 

その横を――

 

「ピジョン!」

 

ピジョンが飛び抜ける。

 

「おい、ピジョン!」

 

サトシが呼ぶ。

 

しかし止まる様子はない。

 

むしろ楽しそうだった。

 

正面から吹きつける風へ翼を傾ける。

 

身体が横へ流される。

 

すぐに姿勢を立て直し、今度は風を利用して上へ。

 

「完全に遊んでるわね」

 

「ピジョンにとっては、いい訓練なんだろうな」

 

タケシが言う。

 

サトシも笑う。

 

「だったら付き合うか」

 

少し開けた場所を見つける。

 

「ピジョン!」

 

呼び戻すと、ピジョンがサトシの前へ降りた。

 

「ここ、風がかなり強いだろ?」

 

「ピジョン」

 

「せっかくだから練習しよう」

 

「ピジョン!」

 

やる気十分。

 

「まずは向かい風に逆らわずに飛んでみよう。風が弱くなった瞬間だけ羽ばたいて、強くなったら翼の角度で受け流す」

 

「ピジョン!」

 

ピジョンが飛び立った。

 

正面から強風が来る。

 

これまでなら、力強く羽ばたいて押し返していただろう。

 

だが今回は違う。

 

翼を僅かに傾ける。

 

身体が風に押されて斜めへ流れる。

 

そこから旋回。

 

風を横から受けながら、高度へ変える。

 

「そう!」

 

サトシが声を上げる。

 

「風と喧嘩しなくていい!」

 

「ピジョン!」

 

一度。

 

二度。

 

三度。

 

繰り返すたびに動きが滑らかになる。

 

強い風が吹けば上へ。

 

弱くなれば前へ。

 

突然風向きが変われば翼を畳んで身体を小さくし、次の流れへ乗り換える。

 

「……上手いな」

 

タケシが呟く。

 

「ピジョン自身が風を読んでる」

 

サトシは頷いた。

 

細かい指示はいらない。

 

方向だけ示せば、あとはピジョン自身が判断している。

 

「じゃあ次!」

 

サトシが崖の上を指さす。

 

「一番上まで!」

 

「ピジョン!」

 

一気に加速した。

 

◇

 

昼過ぎ。

 

サトシたちは山道を進んでいた。

 

ピジョンはまだ空にいる。

 

「元気ねえ」

 

カスミが呆れ半分に笑う。

 

「朝からほとんど飛びっぱなしじゃない」

 

「楽しいんだと思う」

 

サトシは空を見上げた。

 

「ピジョン、飛ぶの好きだから」

 

「ピカ」

 

ピカチュウも頷く。

 

その時。

 

「ピジョーン!」

 

声が変わった。

 

サトシの表情も変わる。

 

「何か見つけた?」

 

ピジョンが前方へ飛んでいく。

 

「行こう!」

 

三人は追いかけた。

 

木々を抜ける。

 

その先にあったのは、大きく開けた谷だった。

 

そして――

 

「うわ……」

 

空に何十匹もの鳥ポケモンがいる。

 

ポッポ。

 

ピジョン。

 

そのほとんどが、谷間に発生した上昇気流へ乗って飛んでいた。

 

「ここ、ポッポたちの群れが暮らしてるのね」

 

カスミが言う。

 

「ピジョン!」

 

サトシのピジョンが群れへ近づく。

 

数匹のポッポが興味深そうに寄ってきた。

 

「ポッポ!」

 

「ピジョン!」

 

すぐに打ち解けたらしい。

 

だが。

 

上空から甲高い鳴き声が響いた。

 

「オニィィ!」

 

サトシが顔を上げる。

 

「オニスズメ?」

 

一匹ではない。

 

十匹以上。

 

さらに、その中央。

 

「オニドリル!」

 

長い嘴。

 

大きな翼。

 

オニドリルだ。

 

「ポッポ!」

 

ポッポたちが一斉に高度を下げる。

 

「縄張り争いか?」

 

タケシが表情を引き締めた。

 

サトシは群れを見る。

 

オニスズメたちはポッポたちを追い立てるように飛び回っている。

 

しかし、妙だった。

 

「……違う」

 

「え?」

 

「あいつら、ここを奪おうとしてるんじゃない」

 

サトシが空を見る。

 

風が急に強くなった。

 

谷の奥。

 

黒い雲が広がり始めている。

 

「天気が変わる」

 

タケシも気づいた。

 

「オニスズメたちも避難場所を探してるのかもしれない」

 

「だからってポッポたちを追い払っていいわけじゃないでしょ!」

 

カスミが言う。

 

「うん」

 

サトシは頷く。

 

「でも、戦って追い返すだけじゃ駄目だ」

 

両方が安全にいられる場所を探す必要がある。

 

その瞬間。

 

「ポッポ!」

 

一匹の小さなポッポが突風に煽られた。

 

「危ない!」

 

谷底へ落ちていく。

 

「ピジョン!」

 

サトシが指示するより早かった。

 

ピジョンが急降下する。

 

「ピジョン!」

 

風が強い。

 

横から叩きつけるような突風。

 

それでもピジョンは翼を畳み、風の隙間を縫って落ちていく。

 

「頑張れ!」

 

「ピカ!」

 

落下するポッポへ追いつく。

 

身体を下へ滑り込ませた。

 

「ポッ!?」

 

背中で受け止める。

 

だが、そこへ強風。

 

「ピジョン!」

 

高度が落ちる。

 

「ピジョン、無理に上がるな!」

 

サトシが叫んだ。

 

「風に乗れ!」

 

「ピジョン!」

 

朝から繰り返していた動き。

 

向かい風に逆らわない。

 

翼を傾ける。

 

風を受け流す。

 

次の瞬間。

 

谷底から吹き上がった上昇気流が翼を捉えた。

 

「ピジョン!」

 

一気に上昇する。

 

「よし!」

 

ピジョンはポッポを安全な岩場へ降ろした。

 

「ポッポ!」

 

「ピジョン!」

 

だが、休んでいる暇はなかった。

 

黒い雲が谷の上を覆う。

 

風がさらに強くなる。

 

「まずいな」

 

タケシが空を見る。

 

「このままだとポッポたちだけじゃない。オニスズメたちも飛べなくなる」

 

群れは混乱していた。

 

ポッポとピジョン。

 

オニスズメ。

 

互いを警戒しているせいで、まともに避難できない。

 

そして中央では、オニドリルが激しく鳴いている。

 

「オニドリル!」

 

「ピジョン!」

 

サトシのピジョンが前へ出た。

 

「ピジョン?」

 

「ピジョン!」

 

群れのピジョンたちが見る。

 

オニドリルも睨み返した。

 

「……ピジョン」

 

サトシが名前を呼ぶ。

 

ピジョンが振り返る。

 

その目は、はっきりしていた。

 

戦いたいわけではない。

 

みんなを安全な場所へ連れていきたい。

 

サトシは笑う。

 

「分かった」

 

それだけで十分だった。

 

「行こう」

 

「ピジョン!」

 

◇

 

雨が降り始めた。

 

「カスミ! タケシ!」

 

「分かってる!」

 

「地上は任せろ!」

 

カスミとタケシが、風に煽られて飛べなくなったポッポたちを安全な岩陰へ誘導する。

 

サトシは空を見る。

 

「ピジョン!」

 

「ピジョン!」

 

サトシのピジョンが群れへ声をかける。

 

最初は動かない。

 

なら。

 

「見せてやろう」

 

「ピジョン!」

 

サトシが谷の向こう側を指さす。

 

崖の中腹。

 

大きな洞窟が見える。

 

「あそこなら入れる!」

 

ただし。

 

そこへ行くには、強烈な横風が吹く谷を渡らなければならない。

 

「ピジョン、先頭を頼む!」

 

「ピジョン!」

 

飛び出した。

 

横から風が叩きつける。

 

身体が大きく流れる。

 

それでも翼を傾ける。

 

風を受け。

 

旋回。

 

上昇。

 

一気に谷の中央へ。

 

「ピジョーン!」

 

ポッポたちへ鳴く。

 

数匹が続いた。

 

「ポッポ!」

 

「ポッポ!」

 

「そうだ!」

 

サトシが叫ぶ。

 

「ピジョンについていけ!」

 

次々と飛び立つ。

 

だが、オニスズメたちは動かない。

 

オニドリルが警戒している。

 

その直後。

 

雷鳴。

 

「オニッ!?」

 

一匹のオニスズメが驚き、風に流された。

 

「ピジョン!」

 

サトシのピジョンが反転する。

 

「助けるんだな?」

 

「ピジョン!」

 

「行け!」

 

急加速。

 

『でんこうせっか』。

 

白い軌跡を残し、ピジョンが嵐の中を駆け抜ける。

 

オニスズメへ追いついた。

 

身体を押し上げる。

 

「オニ……!」

 

「ピジョン!」

 

そのまま洞窟の方向へ誘導する。

 

オニドリルの目が変わった。

 

敵であるはずのオニスズメを助けた。

 

サトシのピジョンを見る。

 

「オニドリル!」

 

大きく鳴いた。

 

オニスズメたちが一斉に動く。

 

「よし!」

 

ポッポ。

 

ピジョン。

 

オニスズメ。

 

そしてオニドリル。

 

群れが同じ方向へ飛び始めた。

 

しかし。

 

「ピジョン!」

 

先頭を飛ぶピジョンの身体が大きく揺れた。

 

「ピジョン!」

 

「朝から飛び続けてたから……!」

 

カスミが叫ぶ。

 

疲労。

 

しかも風はさらに強くなっている。

 

それでも後ろには何十匹もの鳥ポケモンがいる。

 

ピジョンが止まれば、群れがまた混乱する。

 

「ピジョン!」

 

翼を羽ばたかせる。

 

だが進まない。

 

「ピジョン!」

 

サトシは叫んだ。

 

「無理に押し返すな!」

 

ピジョンが僅かに振り返る。

 

「今までやってきただろ!」

 

風を見る。

 

感じる。

 

逆らうのではなく。

 

利用する。

 

「お前なら飛べる!」

 

「ピジョン……!」

 

翼が大きく開いた。

 

一瞬。

 

力を抜く。

 

身体が風に流される。

 

「え!?」

 

カスミが声を上げる。

 

だがサトシは動かない。

 

「そうだ」

 

流されながら、ピジョンが翼の角度を変える。

 

横風を受ける。

 

それを上昇する力へ変える。

 

一気に高度が上がった。

 

「ピジョン!」

 

旋回。

 

今度は背後から風を受ける。

 

加速。

 

「いけ!」

 

「ピジョォォォン!」

 

その瞬間。

 

ピジョンの身体が眩い光に包まれた。

 

「えっ!?」

 

カスミが目を見開く。

 

「進化だ!」

 

タケシが叫ぶ。

 

サトシは空から目を離さなかった。

 

光の中で身体が大きくなる。

 

翼がさらに長く、力強く伸びる。

 

頭部から伸びた美しい飾り羽が、激しい風の中でなびいた。

 

そして――

 

白い光が弾ける。

 

大きくなった翼が、嵐の空いっぱいに広がった。

 

「ピージョーーーッ!」

 

低く、鋭く、それでいて雄大な鳴き声が谷全体へ響き渡る。

 

「ピジョット……!」

 

サトシの顔に笑みが広がった。

 

「進化した!」

 

「ピカピカ!」

 

ピカチュウも飛び跳ねる。

 

ピジョットは大きな翼を一度羽ばたかせた。

 

ぶわっ――!

 

空気が震える。

 

「すごい……!」

 

カスミが髪を押さえた。

 

進化前とは比べものにならないほど大きな翼。

 

それでも、ただ力が増しただけではない。

 

朝から何度も繰り返してきたように、ピジョットは激しい風の流れを読み、翼の角度を細かく変えている。

 

新しい身体になったばかりだというのに、ピジョンだった頃に身につけた感覚は消えていない。

 

「ピジョット!」

 

サトシが呼ぶ。

 

ピジョットが振り返った。

 

「新しい翼でも、やることは同じだ!」

 

「ピジョッ!」

 

「風を掴め!」

 

「ピジョーーーッ!」

 

ピジョットが翼を広げた。

 

激しい横風を受け止める。

 

そのまま身体を傾け、流れを変える。

 

一度では足りない。

 

二度。

 

三度。

 

大きな翼を使い、乱れていた風を一方向へ導いていく。

 

「『かぜおこし』!」

 

「ピジョーーーッ!」

 

力強い羽ばたき。

 

巻き起こされた風が谷を走り、乱気流へぶつかった。

 

完全に嵐を消すことなどできない。

 

だが、一瞬。

 

鳥ポケモンたちが飛べる道が生まれる。

 

「今だ!」

 

サトシが叫ぶ。

 

「みんなを連れていけ!」

 

「ピージョーーーッ!」

 

ピジョットが先頭へ出た。

 

後ろにはポッポ。

 

ピジョン。

 

オニスズメ。

 

そしてオニドリル。

 

大きく翼を広げ、嵐の中へ飛び込む。

 

横風。

 

ピジョットは逆らわない。

 

翼を傾ける。

 

上昇。

 

旋回。

 

そこから一気に前へ。

 

「ピジョーーーッ!」

 

その背中を目印に、鳥ポケモンたちが続いていく。

 

一匹。

 

また一匹。

 

洞窟へ到着する。

 

途中、再び強い横風が吹きつけた。

 

群れの端にいたポッポが流される。

 

「ポッ!」

 

「ピジョット!」

 

サトシの声より先にピジョットが動いた。

 

翼を畳む。

 

「ピジョーーーッ!」

 

一瞬で追いつき、ポッポの下へ潜り込む。

 

そのまま大きな翼で風を受け、上昇気流へ乗った。

 

「いいぞ!」

 

ピジョットが再び先頭へ戻る。

 

最後に残ったのはオニドリル。

 

「オニドリル!」

 

「ピジョッ!」

 

二匹は空中で一瞬だけ視線を合わせる。

 

オニドリルが短く鳴いた。

 

そしてピジョットの後を追い、洞窟へ飛び込む。

 

全員が避難した。

 

「やった!」

 

サトシが拳を握った。

 

「ピカチュウ!」

 

◇

 

しばらくして。

 

嵐は通り過ぎた。

 

雨が止み、黒い雲の切れ間から陽の光が差し込む。

 

ポッポたちが洞窟から外へ出てくる。

 

オニスズメたちも続いた。

 

さっきまで争っていた二つの群れ。

 

完全に仲良くなったわけではない。

 

それでも、もう追い立て合ってはいなかった。

 

「オニドリル」

 

オニドリルがピジョットの前へ降りる。

 

「ピジョッ」

 

しばらく見つめ合う。

 

やがてオニドリルが大きく翼を広げた。

 

「オニ!」

 

それだけを告げると、オニスズメたちを連れて別の山の方向へ飛び立っていく。

 

「ピジョーーーッ!」

 

ピジョットがその背中へ鳴いた。

 

「認めてくれたみたいだな」

 

タケシが言う。

 

「うん」

 

サトシはピジョットへ近づいた。

 

改めて間近で見ると大きい。

 

ピジョンだった頃より身体は一回り以上大きくなり、翼も長く、堂々としている。

 

長く伸びた飾り羽が、雨上がりの風になびいていた。

 

サトシはその頭へ手を伸ばす。

 

「進化、おめでとう」

 

「ピジョッ!」

 

ピジョットが嬉しそうに頭を寄せてくる。

 

サトシはその羽毛を撫でながら笑った。

 

「どう? 新しい翼は」

 

「ピジョーーーッ!」

 

翼を広げる。

 

「かなり気に入ってるみたいね」

 

カスミが笑う。

 

「でも、進化したばかりだからな」

 

タケシはピジョットの翼を見る。

 

「身体の大きさも翼の長さも変わってる。今までと全く同じ感覚じゃ飛べないはずだ」

 

「だよな」

 

サトシも頷く。

 

進化したから完成ではない。

 

むしろ、ここからだ。

 

「じゃあ、しばらくは新しい身体に慣れる練習だな」

 

「ピジョッ!」

 

「でも今日はもう休みなさいよ」

 

カスミが呆れた顔をする。

 

「朝からずっと飛んでたんだから」

 

「ピジョーーーッ!」

 

ピジョットがすぐに飛び上がろうとする。

 

「ほら!」

 

「ははっ」

 

サトシは笑いながら、その身体へ手を添えた。

 

「今日はカスミの言うこと聞こう。明日からな」

 

「ピジョ……」

 

露骨に残念そうな声。

 

「ピカピカ」

 

ピカチュウが笑う。

 

「そんな顔しても駄目」

 

サトシも笑った。

 

◇

 

夕方。

 

十分に休んでから、サトシたちは次の町へ向けて歩き始めた。

 

その上空。

 

「ピジョーーーッ!」

 

結局、ピジョットは飛んでいた。

 

「休むって言ってなかった?」

 

カスミが半眼になる。

 

「移動中に普通に飛ぶくらいならいいかなって」

 

「甘い!」

 

「ピカピカ」

 

サトシの肩でピカチュウまで笑う。

 

空ではピジョットが大きく旋回していた。

 

まだ新しい身体に完全に慣れたわけではない。

 

時々、曲がる時に大きく膨らみすぎる。

 

高度を落とそうとして、思ったより身体が浮くこともある。

 

それでも少しずつ調整していた。

 

強く羽ばたくだけではない。

 

風を捉え。

 

風を読み。

 

必要な時だけ自分の力を加える。

 

今日までピジョンとして身につけてきたものが、そのまま新しい翼を支えていた。

 

「ピジョッ!」

 

ピジョットが高度を下げる。

 

「ん?」

 

サトシの横を通過した。

 

ぶわっ!

 

「うわっ!」

 

帽子が浮く。

 

サトシは慌てて押さえた。

 

「ピジョーーーッ!」

 

そのままピジョットが楽しそうに上昇する。

 

「……お前、わざとやっただろ!」

 

「ピジョーーーッ!」

 

「やったな!」

 

サトシが笑って走り出す。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが肩へしがみついた。

 

「待て、ピジョット!」

 

「ピージョーーーッ!」

 

さらに加速する。

 

「速っ!」

 

進化前とは比べものにならない。

 

サトシは走りながら笑った。

 

「だったら次の町まで競争だ!」

 

「ピジョーーーッ!」

 

「ピカピカ!」

 

「ちょっと! 勝手に始めないでよ!」

 

後ろからカスミの声が飛ぶ。

 

「待てサトシ!」

 

タケシも追いかける。

 

夕暮れの空。

 

ピジョットが大きく翼を広げる。

 

バタフリーが新しい生活へ進み。

 

そしてピジョンは、ピジョットへ進化した。

 

旅を始めた頃より、仲間たちは確実に強くなっている。

 

それでも、まだ先は長い。

 

もっと強くなれる。

 

もっと高く飛べる。

 

サトシは大空を飛ぶピジョットを追いかけながら、その先に続く道を見た。

 

「行こう、ピジョット!」

 

「ピージョーーーッ!」

 

雄大な鳴き声が、夕焼けの空へどこまでも響いていった。

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