ポケットモンスター ―君と目指す頂―   作:あああああ

49 / 50
第49話 ポケモンタワーでゲットだぜ!

ヤマブキジムでの敗北から、一夜が明けた。

 

「ピカ!」

 

「よし。問題なさそうだな」

 

ポケモンセンターの前で、サトシは肩へ飛び乗ってきたピカチュウを受け止めた。

 

昨日のユンゲラー戦では、強力なサイコキネシスを何度も受けている。幸い大きな怪我はなく、十分な治療と休息を取ったことで、今朝にはいつもの元気を取り戻していた。

 

「無茶はするなよ」

 

「ピカピカ!」

 

返事だけは立派だ。

 

サトシが笑って頭を撫でると、ピカチュウも気持ちよさそうに目を細めた。

 

「それで、本当に行くの?」

 

背後から聞こえた声に振り返る。

 

カスミが露骨に嫌そうな顔をしていた。

 

「行く」

 

「……シオンタウンに?」

 

「うん」

 

「……ポケモンタワーに?」

 

「その予定」

 

「やっぱり行かない!」

 

「昨日から何回目だ、それ」

 

タケシが呆れたように言う。

 

「だって幽霊が出るのよ!?」

 

「ゴーストポケモンだろ」

 

「分かってても怖いものは怖いの!」

 

サトシは苦笑しながら歩き始めた。

 

目的は決まっている。

 

ナツメのユンゲラー。

 

昨日の戦いで、ピカチュウはかなり食らいついた。

 

攻撃も何度か通した。

 

サイコキネシスも一度は振りほどいた。

 

それでも最後は押し切られた。

 

次に挑むなら、同じ戦い方を繰り返すだけでは足りない。

 

そしてシオンタウンには――ゴーストタイプのポケモンがいる。

 

それをサトシは知っていた。

 

ただし。

 

(捕まえるかどうかは、会ってからだな)

 

ナツメに勝つためだけに捕まえるつもりはない。

 

一緒に旅をしたいと思える相手と出会えたなら。

 

そして向こうも自分を選んでくれるなら。

 

そのときは――。

 

「ピカ?」

 

「なんでもない。行こう」

 

「ピカ!」

 

三人はシオンタウンへ向けて歩き出した。

 

◇

 

夕方。

 

シオンタウンへ到着したカスミの第一声は、

 

「帰らない?」

 

だった。

 

「着いたばっかりだぞ」

 

「だって!」

 

カスミが指差す。

 

町の向こう。

 

夕暮れの空へ突き刺さるように、一際高い建物が立っていた。

 

ポケモンタワー。

 

遠くからでも、ほかの建物とは明らかに雰囲気が違う。

 

「……あそこよね」

 

「あそこだな」

 

「絶対出るわよ」

 

「何が?」

 

「言わせないで!」

 

タケシが腕を組む。

 

「今日はもう暗くなる。一度ポケモンセンターで休んで、明日の朝――」

 

「行こう」

 

「今!?」

 

カスミの声が裏返った。

 

サトシは空を見る。

 

確かに日が沈みかけている。

 

だが、ゴーストポケモンならむしろこれから活動する可能性が高い。

 

それに――。

 

「夜の方が会いやすそうだろ?」

 

「そういう問題じゃない!」

 

「ピカピカ」

 

「ピカチュウまで!」

 

結局。

 

三人は夜を待ってからポケモンタワーへ向かうことになった。

 

◇

 

ぎぃぃ……。

 

古びた扉が開く。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

サトシが一歩入る。

 

ピカチュウも肩の上から暗い塔内を見回した。

 

「ピカ……」

 

「暗いな」

 

その後ろ。

 

カスミはタケシの服を掴んでいた。

 

「カスミ、歩きにくいんだが」

 

「別に怖いわけじゃないから!」

 

「まだ何も言ってないぞ」

 

「分かってるわよ!」

 

サトシはリュックからライトを取り出した。

 

光が廊下を照らす。

 

古い床。

 

壁。

 

階段。

 

特に変わったものは――。

 

ころころころ。

 

何かが転がった。

 

「きゃああああっ!」

 

カスミがタケシへ飛びつく。

 

「うおっ!?」

 

サトシがライトを向ける。

 

床を転がっていたのは、小さな石だった。

 

「石だぞ」

 

「分かってるわよ!」

 

「今絶対分かってなかっただろ」

 

「うるさい!」

 

「ピカピカ」

 

ピカチュウが笑う。

 

その瞬間。

 

すうっ。

 

背後を何かが通り過ぎた。

 

サトシが振り返る。

 

何もいない。

 

「……」

 

「どうした?」

 

「今、何かいた」

 

「ちょっと!」

 

「ピカ……」

 

ピカチュウも耳を動かしている。

 

今度は確かにいる。

 

一つ。

 

二つ。

 

いや。

 

(複数いるな)

 

サトシはすぐに波導へ頼らず、目と耳で周囲を探った。

 

天井。

 

柱。

 

暗がり。

 

くすくす。

 

どこからか笑い声がした。

 

「今笑った!」

 

「聞こえたな」

 

「帰ろう!」

 

カスミが扉へ向かう。

 

だが。

 

ばたん!

 

「きゃあっ!」

 

扉が勝手に閉まった。

 

「開かない!」

 

「落ち着けって」

 

サトシが近づこうとした瞬間。

 

ぽん。

 

頭に何かが乗った。

 

「ん?」

 

触る。

 

柔らかい。

 

それを掴んで目の前へ持ってくる。

 

真っ白な手。

 

「……手?」

 

「きゃああああああっ!」

 

カスミの悲鳴。

 

次の瞬間。

 

手が煙のように消えた。

 

そして天井から。

 

「ゴース!」

 

「ゴースト!」

 

「ゲーンガー!」

 

三匹が姿を現した。

 

ゴース。

 

ゴースト。

 

ゲンガー。

 

三匹とも腹を抱えるように笑っている。

 

「やっぱりお前たちか」

 

サトシが笑った。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは少し怒っている。

 

「ピカチュウ、怒るなって。遊んでるだけだ」

 

「ピカ?」

 

三匹が止まる。

 

ゴーストがサトシの目の前まで降りてきた。

 

「ゴースト?」

 

「驚かなくて悪かったな」

 

「ゴース……」

 

ゴーストが不満そうに頬を膨らませる。

 

次の瞬間。

 

サトシの真後ろに巨大な骸骨が現れた。

 

「おお」

 

「きゃあああああっ!」

 

「うわっ!」

 

カスミとタケシが飛び退く。

 

サトシは振り返って骸骨を見る。

 

「結構よくできてるな」

 

「ピカピカ」

 

「ゴ、ゴースト……」

 

今度はゴーストの方が困った顔になった。

 

ゲンガーとゴースが大笑いする。

 

「ゲンゲン!」

 

「ゴース!」

 

「ゴースト!」

 

「怒るなって」

 

サトシまで笑った。

 

前世の記憶通りだ。

 

この三匹は、人間を傷つけようとしているわけではない。

 

ただ。

 

遊びたいだけ。

 

「なあ」

 

サトシがゴーストたちを見る。

 

「俺たちと遊ぶ?」

 

三匹が止まる。

 

「ゴース?」

 

「ゴースト?」

 

「ゲン?」

 

「せっかく来たんだし」

 

サトシが笑う。

 

「ただ驚かされるだけじゃ面白くないからな」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウも地面へ降りる。

 

数秒の沈黙。

 

そして。

 

「ゲーンガー!」

 

ゲンガーが笑った。

 

その瞬間。

 

床が消えた。

 

「え?」

 

「きゃああああああっ!」

 

三人が落ちる。

 

――ように見えた。

 

「うわっ!」

 

サトシが着地する。

 

「……あれ?」

 

落ちた距離はほとんどない。

 

床そのものが幻だったらしい。

 

目の前で三匹が大笑いしている。

 

「やったな!」

 

「ピカ!」

 

そこからは、もう勝負だった。

 

壁から無数の手。

 

空中を飛ぶ椅子。

 

突然現れる巨大な顔。

 

サトシとピカチュウは逃げ、追いかけ、時には逆に三匹を驚かせる。

 

カスミは悲鳴を上げ続け、タケシは途中から諦めたように笑っていた。

 

「なんで楽しんでるのよ!」

 

「面白いから!」

 

「ピカピカ!」

 

「信じられない!」

 

塔の中に、久しぶりなのかもしれない笑い声が響いた。

 

◇

 

どれくらい遊んだだろう。

 

「はぁ……」

 

サトシが壁へ寄りかかる。

 

「疲れた」

 

「ピカァ……」

 

ピカチュウも隣に座る。

 

ゴース、ゴースト、ゲンガーはまだ元気そうだった。

 

「体力あるな、お前ら」

 

「ゲンゲン!」

 

そのとき。

 

みしっ。

 

頭上から嫌な音がした。

 

サトシが顔を上げる。

 

天井に吊られた大きなシャンデリア。

 

留め具が外れていた。

 

「サトシ!」

 

タケシが叫ぶ。

 

落ちる。

 

「ピカチュウ!」

 

サトシが反射的にピカチュウへ手を伸ばした。

 

どんっ!

 

視界が暗転した。

 

◇

 

「……あれ?」

 

サトシは目を開けた。

 

身体が軽い。

 

妙に軽い。

 

隣を見る。

 

「ピカ?」

 

ピカチュウがいる。

 

ただし。

 

下にも。

 

「……」

 

倒れている自分。

 

その横にピカチュウ。

 

「なるほど」

 

サトシは自分の半透明の手を見る。

 

「こうなるのか」

 

「ピカ!?」

 

ピカチュウは大混乱だった。

 

「大丈夫。多分戻れる」

 

「ピ、ピカ……?」

 

そこへ。

 

「ゴースト!」

 

さっきのゴーストが飛んでくる。

 

サトシの腕を掴んだ。

 

「お、おい!」

 

そのまま上へ。

 

「うわっ!」

 

身体が浮く。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウも別のゴースに引っ張られる。

 

塔の中を飛ぶ。

 

壁を抜ける。

 

天井を抜ける。

 

「すげえ……!」

 

気づけばサトシは笑っていた。

 

身体がない。

 

重さもない。

 

そのまま夜空へ。

 

シオンタウンが眼下に広がる。

 

「ピカァ!」

 

最初は慌てていたピカチュウも、いつしか楽しそうに声を上げていた。

 

ゴーストたちも笑っている。

 

空を飛び。

 

雲へ入り。

 

塔の周囲を回る。

 

やがてサトシは、一匹のゴーストが少し離れた場所からこちらを見ていることに気づいた。

 

「ん?」

 

さっきまで遊んでいた三匹とは違う。

 

別のゴースト。

 

「ゴースト……」

 

柱の陰に半分隠れている。

 

「お前もいたのか」

 

「ゴース……」

 

近づこうとすると、すっと離れる。

 

けれど逃げない。

 

サトシを見ている。

 

「一緒に遊ぶ?」

 

「……ゴースト」

 

少し迷ってから近づいてきた。

 

そのままピカチュウの周りを一周。

 

「ピカ?」

 

「ゴースト」

 

「ピカピカ」

 

二匹が顔を見合わせる。

 

やがてゴーストが笑った。

 

「ゴースト!」

 

その瞬間。

 

背後からゲンガーがサトシを思いきり押した。

 

「うわっ!?」

 

地面へ急降下。

 

「ゲンゲンゲン!」

 

「やったな!」

 

再び追いかけっこが始まった。

 

そこへ、さっきの別個体のゴーストも加わった。

 

◇

 

気づけば。

 

サトシは自分の身体へ戻っていた。

 

「……っ!」

 

目を開ける。

 

「サトシ!」

 

「大丈夫か!」

 

カスミとタケシが覗き込んでいる。

 

「……大丈夫」

 

起き上がる。

 

隣。

 

「ピカ……!」

 

ピカチュウも目を覚ました。

 

「ピカチュウ!」

 

抱き上げる。

 

「大丈夫か?」

 

「ピカ!」

 

二人とも無事。

 

ゴーストたちがシャンデリアを途中で支えていたらしく、直撃はしていなかった。

 

「まったく……」

 

カスミが涙目で怒る。

 

「心配したんだから!」

 

「ごめん」

 

素直に謝る。

 

「でも、ちょっと面白かった」

 

「サトシ!」

 

「ピカピカ」

 

「ピカチュウまで!」

 

そのとき。

 

「ゴースト」

 

サトシが振り返る。

 

さっきの別個体。

 

他の三匹から少し離れた場所にいる。

 

「お前……」

 

「ゴースト」

 

近づいてくる。

 

ピカチュウの前へ。

 

「ピカ?」

 

「ゴースト!」

 

突然、舌を伸ばした。

 

べろん。

 

「ピカ!?」

 

「ははは!」

 

「ピカピカピカ!」

 

怒ったピカチュウが追いかける。

 

ゴーストが笑いながら逃げる。

 

「仲良くなったみたいだな」

 

タケシが笑った。

 

「どこがよ」

 

カスミは呆れている。

 

サトシは二匹を見る。

 

このゴースト。

 

さっき空を飛んでいたときも、こちらへ興味を示していた。

 

「なあ、ゴースト」

 

「ゴース?」

 

サトシが呼ぶと止まった。

 

「俺、ゴーストタイプを探しにここへ来たんだ」

 

ゴーストがこちらを見る。

 

「強い相手に負けた。次は勝ちたい」

 

一度言葉を切る。

 

「でも、勝つためだけにお前を連れていくつもりはない」

 

ゴーストが目を細める。

 

「俺はいろんな場所へ行く。いろんなポケモンと戦う。もっと強くなる」

 

ピカチュウがサトシの横へ戻る。

 

「ピカ」

 

「お前も一緒に来ない?」

 

「ゴースト……」

 

ゴーストが振り返る。

 

奥には、ゴース、ゴースト、ゲンガー。

 

三匹がいる。

 

特に先ほどからサトシたちと遊んでいたゴーストが前へ出る。

 

「ゴースト!」

 

別個体のゴーストを見る。

 

何かを話しているらしい。

 

サトシに言葉は分からない。

 

けれど。

 

背中を押しているように見えた。

 

ゲンガーも大きく笑う。

 

「ゲーンガー!」

 

ゴースも続く。

 

「ゴース!」

 

別個体のゴーストがサトシを見る。

 

その目に迷いはなかった。

 

「ゴースト!」

 

「……来たいんだな」

 

ゴーストが頷く。

 

「だったら」

 

サトシはモンスターボールへ手を伸ばしかけ――止めた。

 

「その前に一回、バトルしよう」

 

「ゴースト?」

 

「一緒に旅するなら、お互いどんな戦い方をするか知りたい」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが前へ出る。

 

ゴーストは一瞬きょとんとした。

 

そして。

 

にやり。

 

「ゴースト!」

 

◇

 

塔の広い部屋。

 

サトシとピカチュウ。

 

向かいにはゴースト。

 

周囲では三匹のゴーストポケモンが観戦している。

 

「行くぞ、ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

ゴーストが消えた。

 

「ピカ?」

 

静かになる。

 

右。

 

左。

 

見えない。

 

サトシは周囲を見る。

 

ここですぐ波導を広げれば、見つけられる可能性は高い。

 

だが。

 

「ピカチュウ、音を聞け!」

 

「ピカ!」

 

まずは自分たちの感覚で探す。

 

耳が動く。

 

ひゅっ。

 

「上!」

 

ゴーストが天井から現れた。

 

「ゴースト!」

 

黒い影が放たれる。

 

「横!」

 

ピカチュウがかわす。

 

「『エレキボール』!」

 

「ピカ!」

 

電気球。

 

ゴーストは笑う。

 

すうっ。

 

壁へ消えた。

 

「やっぱり厄介だな」

 

サトシが笑う。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウも楽しそうだった。

 

次。

 

背後。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウ自身が気づいた。

 

振り向く。

 

だがゴーストはまた消える。

 

「焦らなくていい!」

 

「ピカ!」

 

サトシは観察する。

 

姿を消す。

 

壁を抜ける。

 

死角から出る。

 

速い。

 

そして何より自由だ。

 

型に嵌まっていない。

 

(面白いな)

 

ナツメ戦のためだけではない。

 

このゴーストと一緒に戦ったら、もっといろいろなことができる。

 

「ゴースト!」

 

再び現れる。

 

「今!」

 

「ピカ!」

 

『でんこうせっか』。

 

一気に距離を詰める。

 

ゴーストが消える。

 

「止まれ!」

 

急停止。

 

サトシは目を閉じた。

 

ここだけ。

 

波導を薄く広げる。

 

塔の中にいる生命の気配。

 

カスミ。

 

タケシ。

 

ゴーストたち。

 

その中で、ピカチュウへ近づく一つの気配。

 

「後ろ!」

 

「ピカ!」

 

振り向く。

 

ゴーストが姿を現した。

 

「『エレキボール』!」

 

「ピカチュウ!」

 

至近距離。

 

どんっ!

 

「ゴースト!」

 

ゴーストが弾かれる。

 

だが倒れない。

 

すぐに笑う。

 

「まだやるか?」

 

「ゴースト!」

 

「いいな」

 

サトシも笑う。

 

「ピカチュウ、『10まんボルト』!」

 

「ピカ――チュウッ!」

 

強烈な電撃。

 

ゴーストは横へ逃げる。

 

「追え!」

 

ピカチュウが走る。

 

ゴーストが壁へ。

 

消える。

 

「止まって周りを見ろ!」

 

「ピカ!」

 

今度は波導を使わない。

 

ピカチュウが耳を澄ます。

 

一秒。

 

二秒。

 

「ピカ!」

 

自分で振り向いた。

 

ゴーストが現れる。

 

「『エレキボール』!」

 

「ピカチュウ!」

 

ゴーストも黒い影を放つ。

 

二つの技がぶつかる。

 

爆発。

 

煙。

 

「ピカチュウ、『でんこうせっか』!」

 

「ピカ!」

 

煙へ飛び込む。

 

ゴーストが姿を現した。

 

ピカチュウがその横を高速で駆け抜ける。

 

「ピカ!」

 

ゴーストの意識がピカチュウを追う。

 

その瞬間。

 

「今だ! 『10まんボルト』!」

 

「ピカ――チュウッ!」

 

振り返りざま。

 

電撃が直撃する。

 

「ゴーストォッ!」

 

ゴーストが吹き飛ぶ。

 

床へ落ちる直前、ふわりと浮いた。

 

「ゴー……スト……」

 

まだ意識はある。

 

サトシはボールを握った。

 

でも。

 

投げない。

 

「どうする?」

 

ゴーストが顔を上げる。

 

「まだ戦うなら続ける」

 

「ピカ!」

 

「それとも――俺たちと来る?」

 

ゴーストはサトシを見る。

 

ピカチュウを見る。

 

後ろにいる仲間たちを見る。

 

少しだけ寂しそうに。

 

けれど。

 

最後には笑った。

 

「ゴースト!」

 

自分からサトシへ飛んでくる。

 

そして。

 

手に持っていたモンスターボールへ額を触れさせた。

 

赤い光。

 

ゴーストがボールへ吸い込まれる。

 

一度。

 

二度。

 

三度。

 

かちっ。

 

静かになる。

 

サトシはボールを見る。

 

そして持ち上げた。

 

「ゴースト、ゲットだぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

ゲンガーたちが歓声を上げる。

 

「ゲーンガー!」

 

「ゴース!」

 

「ゴースト!」

 

すぐにサトシはボールを開いた。

 

「出てこい、ゴースト!」

 

赤い光。

 

「ゴースト!」

 

現れたゴーストがサトシの周囲を一周する。

 

「これからよろしくな」

 

「ゴースト!」

 

「ピカ!」

 

ゴーストがピカチュウへ近づく。

 

「ピカ?」

 

にやり。

 

「ゴースト」

 

べろん。

 

「ピカァッ!」

 

「またやった!」

 

サトシが笑う。

 

ピカチュウがゴーストを追い回す。

 

「元気な仲間が増えたな」

 

タケシも笑う。

 

「私は嫌な予感しかしないんだけど……」

 

カスミが一歩下がった。

 

ぬっ。

 

その背後。

 

もう一匹のゴーストが顔を出す。

 

「ゴースト~」

 

「……」

 

カスミがゆっくり振り向く。

 

「ゴースト!」

 

「きゃあああああああっ!」

 

塔中に悲鳴が響いた。

 

ゴーストたちは大笑い。

 

サトシも堪えきれず笑った。

 

◇

 

翌朝。

 

ポケモンタワーの外。

 

朝日に照らされた塔を、サトシは見上げていた。

 

隣にはピカチュウ。

 

そして、新たに仲間になったゴースト。

 

「ゴースト!」

 

ゴーストは朝でも特に気にした様子はなく、サトシの周囲を漂っている。

 

これで旅をしているポケモンは六匹。

 

ピカチュウ。

 

ピジョット。

 

フシギダネ。

 

ヒトカゲ。

 

ゼニガメ。

 

そして――ゴースト。

 

「これでナツメに勝てる!」

 

カスミが言う。

 

だがサトシは首を振った。

 

「いや」

 

「え?」

 

「ゴーストが仲間になっただけで、勝ったことにはならない」

 

昨日まで、このゴーストと一緒に戦ったことはなかった。

 

技も。

 

癖も。

 

得意な距離も。

 

まだ知らないことばかりだ。

 

「少し練習してから戻る」

 

「ピカ!」

 

「ゴースト!」

 

ゴーストもやる気らしい。

 

すると。

 

「ゴースト」

 

別の声。

 

振り返る。

 

昨日からいた三匹。

 

ゴース。

 

ゲンガー。

 

そして、もう一匹のゴースト。

 

サトシの仲間になった個体とは別の――あの陽気なゴーストだ。

 

「どうした?」

 

「ゴースト!」

 

ゴーストがサトシたちの方へ飛んでくる。

 

「もしかして……ついてくるのか?」

 

「ゴースト!」

 

満面の笑み。

 

サトシはその顔を見て。

 

思い出した。

 

(そうだったな)

 

このゴーストには。

 

これから果たす役目がある。

 

サトシのゴーストが隣へ並ぶ。

 

「ゴースト!」

 

「ゴースト!」

 

二匹が顔を見合わせる。

 

一匹は、新しい世界を見るためにサトシの仲間になった。

 

もう一匹は、まだモンスターボールには入っていない。

 

けれど今は同じ方向へ向かおうとしている。

 

目的地は――ヤマブキシティ。

 

サトシは遠くを見た。

 

脳裏に浮かぶのは、ユンゲラーの強力なサイコキネシス。

 

あの壁を。

 

今度こそ越える。

 

「行こう」

 

「ピカ!」

 

「ゴースト!」

 

「ゴースト!」

 

新しい仲間と。

 

不思議な同行者を加えて。

 

サトシたちは再び、ヤマブキジムへ向かって歩き始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。