ポケットモンスター ―君と目指す頂―   作:あああああ

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第51話 おこらないでねオコリザル!

ヤマブキジムでゴールドバッジを手に入れた翌日。

 

サトシたちは次の町を目指し、森の中を歩いていた。

 

「ピカピカ!」

 

サトシの肩では、ピカチュウが機嫌よく尻尾を揺らしている。

 

その少し後ろ。

 

「ゴースト~」

 

「だから急に後ろから出てこないでって言ってるでしょ!」

 

「ゴースト!」

 

「笑うな!」

 

新しく仲間になったゴーストは、早くも旅に馴染んでいた。

 

特にカスミを驚かせることがお気に入りになったらしい。

 

「元気だな」

 

タケシが苦笑する。

 

「元気で済ませないでよ!」

 

「ゴースト、ほどほどにな」

 

「ゴースト!」

 

返事だけはいい。

 

サトシは苦笑しながら前を見る。

 

四つ目のバッジを手に入れた。

 

ゴーストという新しい仲間も増えた。

 

けれど、旅はまだ半分にも届いていない。

 

「そろそろ休憩しない?」

 

カスミが言った。

 

「俺も腹減った」

 

「なら、ちょうどいい場所を探そう」

 

少し進むと、木々が開けた場所に出た。

 

タケシが荷物を下ろす。

 

「ここならいいな。昼飯にしよう」

 

「賛成!」

 

サトシもリュックを置いた。

 

「みんなも出てこい!」

 

モンスターボールを取り出す。

 

光が次々と弾けた。

 

「ピージョーーーッ!」

 

「ダネ!」

 

「カゲ!」

 

「ゼニゼニ!」

 

ピジョット、フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメ。

 

そして最初から外にいたピカチュウとゴースト。

 

六匹が揃う。

 

進化してからさらに大きくなったピジョットが翼を広げると、軽い風が吹いた。

 

「ピージョーーーッ!」

 

「飛んできていいぞ。ただし遠くまで行くなよ」

 

「ピジョッ!」

 

ピジョットが空へ舞い上がる。

 

サトシはその姿をしばらく見送った。

 

進化してから飛行能力は大きく伸びた。

 

ただ、第47話で練習を始めた『エアスラッシュ』はまだ安定していない。

 

(そろそろ、まとまった時間を取って技を磨かせてもいいかもな)

 

旅をしながらでも鍛えられる。

 

けれど、研究所なら広い場所もある。

 

オーキド博士に頼めば、訓練環境も整えられるだろう。

 

そんなことを考えているうちに、タケシの料理が完成した。

 

「できたぞ」

 

「待ってました!」

 

人間用の昼食。

 

そしてポケモンたちの食事。

 

それぞれが集まる。

 

サトシも座ろうとした――そのとき。

 

がさっ。

 

「ん?」

 

茂みが揺れた。

 

「ピカ?」

 

フシギダネが顔を上げる。

 

「ダネ」

 

ゴーストは面白そうに茂みへ近づいていく。

 

「ゴースト」

 

がさがさ。

 

次の瞬間。

 

「マンキー!」

 

一匹のポケモンが飛び出した。

 

丸い身体。

 

長い手足。

 

豚のような鼻。

 

「マンキーだ」

 

サトシが呟く。

 

前世の記憶が自然と蘇る。

 

(このマンキー……)

 

おそらく。

 

覚えている個体だ。

 

だが、それだけで先の行動を決めるつもりはない。

 

マンキーは警戒するでもなく、食事をじっと見ている。

 

「マンキー……」

 

「お腹空いてるのか?」

 

「マンキ?」

 

サトシはポケモンフーズを少し取った。

 

「食べる?」

 

マンキーが近づいてくる。

 

受け取る。

 

「マンキー!」

 

嬉しそうに食べ始めた。

 

「なんだ、かわいいじゃない」

 

カスミが笑う。

 

「マンキーは感情の変化が激しいポケモンだからな」

 

タケシが言う。

 

「刺激しない方がいい」

 

「普通にしてれば大丈夫だろ」

 

サトシはマンキーを見る。

 

マンキーもサトシを見る。

 

そして。

 

視線が上へ。

 

サトシの帽子。

 

「……?」

 

「マンキー!」

 

ばっ!

 

「うわっ!」

 

帽子を奪われた。

 

「マンキーマンキー!」

 

マンキーが帽子を被る。

 

少し大きい。

 

目まで隠れている。

 

「ピカピカ!」

 

ピカチュウが笑い出す。

 

「笑ってないで取り返してくれよ」

 

「ピカ!」

 

「マンキー!」

 

マンキーは逃げた。

 

「待て!」

 

サトシが追う。

 

「マンキーマンキー!」

 

完全に遊んでいる。

 

木の周り。

 

岩の上。

 

サトシが近づけば逃げる。

 

「速いな!」

 

「マンキー!」

 

「ゴースト!」

 

ゴーストが前へ出る。

 

すうっ。

 

姿を消した。

 

「ゴースト、待った!」

 

「ゴース?」

 

サトシが止める。

 

「まだ遊んでるだけだ。無理に捕まえなくていい」

 

「ゴースト」

 

ゴーストは少し残念そうだ。

 

そのとき。

 

「なんて素敵なマンキー!」

 

聞き覚えのある声。

 

サトシたちの表情が揃って変わった。

 

「この声……」

 

「まさか」

 

茂みの向こうから三人組が飛び出した。

 

「世界の破壊を防ぐため!」

 

「世界の平和を守るため!」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河をかけるロケット団の二人には!」

 

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」

 

「ニャーんてニャ!」

 

「またお前たちか」

 

サトシがため息をつく。

 

「ピカ……」

 

ピカチュウまで呆れている。

 

「ゴースト?」

 

ゴーストだけは初めて見るため興味津々だった。

 

「誰よそのゴースト!」

 

ムサシが指差す。

 

「新しく捕まえた」

 

「また増えたのかニャ!?」

 

「それより!」

 

コジロウがマンキーを見る。

 

「そのマンキー、我々がいただく!」

 

「マンキー?」

 

帽子を被ったマンキーが首を傾げる。

 

「別に俺のポケモンじゃないぞ」

 

「だったら好都合!」

 

ムサシが笑う。

 

「先に捕まえた方のものよ!」

 

「そういうことじゃ――」

 

ロケット団がマンキーへ近づく。

 

「マンキー」

 

マンキーはまだ状況が分かっていない。

 

コジロウが手を伸ばす。

 

「ほら、おとなしく――」

 

「マンキ!」

 

ぱしっ!

 

手を叩かれた。

 

「痛っ!」

 

「この!」

 

ムサシが怒る。

 

そして。

 

余計な一撃を加えた。

 

「マン……」

 

マンキーの動きが止まる。

 

サトシの表情が変わった。

 

「おい」

 

「何よ」

 

「それ、まずいぞ」

 

「何が――」

 

マンキーが顔を上げる。

 

「マンキィィィィッ!」

 

怒声。

 

空気が変わった。

 

「ひっ!?」

 

マンキーの身体が光り始める。

 

「進化!?」

 

カスミが驚く。

 

光の中。

 

身体が大きくなる。

 

手足が逞しくなる。

 

そして。

 

「オコォォォォォッ!」

 

光が消えた。

 

オコリザル。

 

完全に怒っている。

 

「……」

 

ロケット団が固まった。

 

「ニャー……」

 

「逃げる?」

 

「逃げましょう」

 

「オコリザル!」

 

遅かった。

 

オコリザルが飛びかかる。

 

「ぎゃあああああっ!」

 

三人が吹き飛ばされた。

 

「オコォ!」

 

「ちょっと待て!」

 

サトシが呼ぶ。

 

だが。

 

「オコリザル!」

 

次にオコリザルが見たのはサトシだった。

 

正確には。

 

自分が被っている帽子の持ち主。

 

「オコ!」

 

「まだ帽子持ってたのか!」

 

「サトシ、逃げて!」

 

オコリザルが突っ込んでくる。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが前へ出ようとする。

 

「待って!」

 

サトシが止めた。

 

横へ跳ぶ。

 

拳が空を切る。

 

「オコォ!」

 

速い。

 

マンキーのときとは明らかに違う。

 

「進化したばかりでこれか」

 

サトシは少し驚いた。

 

パワーも速度も高い。

 

何より。

 

戦うことへの執着が強い。

 

「オコリザル!」

 

また来る。

 

「だったら――」

 

サトシがモンスターボールへ手を伸ばした。

 

「フシギダネ!」

 

「ダネ!」

 

フシギダネが前へ出る。

 

「相手してやろう!」

 

「オコ!」

 

「『つるのムチ』!」

 

「ダネ!」

 

二本の蔓が伸びる。

 

オコリザルが避ける。

 

右。

 

左。

 

「速い!」

 

「もう一度!」

 

蔓が左右から迫る。

 

「オコ!」

 

一本をかわす。

 

二本目。

 

ぱしっ!

 

「ダネ!?」

 

掴んだ。

 

「引っ張られるぞ!」

 

「オコォォ!」

 

オコリザルが蔓を引く。

 

フシギダネの身体が前へ滑った。

 

「手を離せ!」

 

すぐに蔓を戻す。

 

「『はっぱカッター』!」

 

「ダネ!」

 

鋭い葉が飛ぶ。

 

「オコリザル!」

 

オコリザルが腕で防ぎながら突っ込んでくる。

 

何発か当たる。

 

それでも止まらない。

 

「ダネ!?」

 

体当たり。

 

フシギダネが弾かれる。

 

「フシギダネ!」

 

「ダネ!」

 

すぐに立つ。

 

「強いな……」

 

サトシの目が輝く。

 

怒りで我を忘れている。

 

技術も荒い。

 

それでも、身体能力だけでフシギダネの攻撃を突破してくる。

 

(面白い)

 

もっとちゃんと戦えば。

 

もっと鍛えれば。

 

どこまで強くなるのか。

 

「フシギダネ、『つるのムチ』!」

 

「ダネ!」

 

今度は攻撃ではない。

 

足元。

 

オコリザルが跳ぶ。

 

「そこ!」

 

葉っぱカッター。

 

「ダネ!」

 

空中では避けにくい。

 

「オコ!」

 

直撃。

 

オコリザルが着地する。

 

ふらつく。

 

だが。

 

「オコォォ!」

 

まだ来る。

 

「フシギダネ、戻れ!」

 

「ダネ?」

 

「十分だ。ありがとう」

 

フシギダネを戻す。

 

サトシが前を見る。

 

「ピカチュウ」

 

「ピカ!」

 

肩から飛び降りる。

 

「最後は俺たちで行こう」

 

「ピカチュウ!」

 

オコリザルが拳を握る。

 

「オコ!」

 

「来い!」

 

飛び出す。

 

「『でんこうせっか』!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが加速。

 

正面衝突――しない。

 

直前で横へ。

 

オコリザルの拳が空を切る。

 

「後ろ!」

 

ピカチュウが回り込む。

 

「『アイアンテール』!」

 

「ピカァ!」

 

銀色の尻尾。

 

「オコ!」

 

オコリザルが腕を交差させる。

 

どんっ!

 

受け止めた。

 

「ピカ!?」

 

「マジか!」

 

完全には止められない。

 

オコリザルが後退する。

 

それでも倒れない。

 

「オコォ!」

 

腕を振り払う。

 

ピカチュウが跳ぶ。

 

「距離を取れ!」

 

着地。

 

「『エレキボール』!」

 

「ピカチュウ!」

 

電気球が飛ぶ。

 

「オコ!」

 

オコリザルが横へ跳ぶ。

 

避けた。

 

「そのまま『でんこうせっか』!」

 

エレキボールを避けた直後。

 

ピカチュウが迫る。

 

「ピカ!」

 

直撃。

 

オコリザルが転がる。

 

「オコ……!」

 

立とうとする。

 

「まだ来るか?」

 

「オコォ!」

 

立った。

 

サトシは笑った。

 

「いいな」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウも構える。

 

「次で決める!」

 

「オコリザル!」

 

両者が走る。

 

「ピカチュウ、『アイアンテール』!」

 

「ピカァァ!」

 

銀色の尾。

 

オコリザルの拳。

 

激突。

 

どんっ!

 

一瞬。

 

拮抗する。

 

「押し切れ!」

 

「ピカチュウッ!」

 

「オコ!?」

 

ピカチュウが身体を捻る。

 

尻尾を振り抜く。

 

オコリザルが吹き飛んだ。

 

地面へ落ちる。

 

「オコ……」

 

今度こそ動かない。

 

サトシはモンスターボールを取り出した。

 

「オコリザル!」

 

投げる。

 

ボールが当たる。

 

赤い光。

 

オコリザルが吸い込まれた。

 

ボールが落ちる。

 

一度。

 

二度。

 

三度。

 

かちっ。

 

「……」

 

サトシが近づく。

 

ボールを拾い上げた。

 

「オコリザル、ゲットだぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

仲間たちも声を上げる。

 

「ダネ!」

 

「カゲ!」

 

「ゼニ!」

 

「ゴースト!」

 

空から。

 

「ピージョーーーッ!」

 

ピジョットの声も響いた。

 

「これでまた仲間が増えたな」

 

タケシが言う。

 

「でもサトシ、今六匹持ってるでしょ?」

 

「あ」

 

サトシが手の中を見る。

 

今の携帯メンバーは六匹。

 

なら。

 

七匹目として捕まえたオコリザルは――。

 

◇

 

「やはりこちらに来ておるぞ」

 

ポケモンセンターのモニター。

 

画面の向こうでオーキド博士が笑っていた。

 

「オコリザルじゃ」

 

その後ろ。

 

「オコォォォ!」

 

「待て待て待て!」

 

オーキド博士が慌てて避ける。

 

どんっ!

 

何かが倒れる音。

 

「元気だな……」

 

サトシが苦笑する。

 

「元気で済ませるでない!」

 

「ごめんなさい」

 

サトシは頭を下げた。

 

隣ではカスミが笑っている。

 

「博士、大変そう」

 

「誰のせいじゃ!」

 

「俺です」

 

「分かっておる!」

 

少し落ち着いたところで、サトシは考える。

 

七匹。

 

このままならオコリザルは研究所で過ごすことになる。

 

それも悪くない。

 

けれど。

 

「博士」

 

「なんじゃ?」

 

「一匹、交換したい」

 

サトシは後ろを見る。

 

「ピジョット」

 

「ピジョッ?」

 

ピジョットが近づいてくる。

 

サトシはその大きな翼を見る。

 

「お前、研究所でしばらく特訓してみないか?」

 

「ピジョ?」

 

「進化して、飛ぶ力はかなり上がった。でも『エアスラッシュ』はまだ完成してないだろ」

 

「ピジョッ」

 

「研究所なら広い場所で集中して練習できる」

 

ピジョットが静かに聞いている。

 

「それに」

 

サトシは翼を見る。

 

「もっと翼を活かせる技も覚えられると思う」

 

ピジョットの目が変わった。

 

「ピージョーーーッ!」

 

やる気らしい。

 

「もちろん、ずっとじゃない」

 

サトシが笑う。

 

「もっと強くなったら、また一緒に旅しよう」

 

「ピジョッ!」

 

ピジョットが翼を広げる。

 

「決まりだな」

 

オーキド博士も頷く。

 

『エアスラッシュ』の完成。

 

そして。

 

強靭な翼を活かした、新しい技。

 

サトシの頭にはすでに候補がある。

 

『はがねのつばさ』。

 

今のピジョットなら、きっと覚えられる。

 

「博士、ピジョットの特訓をお願いします」

 

「うむ。任せておけ」

 

「ただ、技を無理に覚えさせないでください。ピジョットのペースで」

 

「もちろんじゃ」

 

転送装置を準備する。

 

サトシはピジョットの前へしゃがんだ。

 

「頑張ってこい」

 

「ピジョッ!」

 

「次に会ったとき、驚かせてくれよ」

 

「ピージョーーーッ!」

 

モンスターボールへ戻る。

 

ボールを転送装置へ。

 

光。

 

ピジョットのボールが研究所へ送られた。

 

少しだけ寂しい。

 

けれど。

 

別れではない。

 

強くなるための時間だ。

 

「じゃあ博士」

 

「うむ」

 

「オコリザルをこっちへ」

 

「分かった。……できれば早く頼む」

 

「そんなに?」

 

画面の向こう。

 

がしゃん!

 

「オコォォォ!」

 

「早く!」

 

「はい!」

 

転送装置が光った。

 

一つのモンスターボールが現れる。

 

サトシが手に取る。

 

「よし」

 

すぐに開く。

 

「出てこい、オコリザル!」

 

赤い光。

 

「オコリザル!」

 

オコリザルが姿を現した。

 

サトシを見る。

 

「……」

 

「……」

 

ピカチュウたちも見守る。

 

「オコ」

 

サトシの帽子を見る。

 

「これはもう取るなよ?」

 

「オコ」

 

一歩。

 

「おい」

 

「オコ!」

 

ばっ!

 

また帽子を奪った。

 

「お前!」

 

「オコリザル!」

 

オコリザルが逃げる。

 

「待てー!」

 

「ピカピカ!」

 

ピカチュウが笑いながら追う。

 

「ゴースト!」

 

ゴーストも面白がって参加。

 

「オコ!」

 

「返せって!」

 

ポケモンセンターの中を走り回る。

 

「こらー! センターの中で走らない!」

 

カスミの怒鳴り声。

 

タケシは頭を抱えた。

 

モニターの向こうではオーキド博士が大笑いしている。

 

「元気そうで何よりじゃ!」

 

「博士、笑ってないで!」

 

それでも。

 

サトシも笑っていた。

 

新しい仲間。

 

オコリザル。

 

そして研究所では、ピジョットがさらに強くなるための一歩を踏み出した。

 

旅をする仲間。

 

研究所で鍛える仲間。

 

場所は違っても。

 

全員がサトシの大切なポケモンだ。

 

そして――。

 

「オコリザル!」

 

「待てって!」

 

また一つ。

 

賑やかな旅が始まった。

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