ポケットモンスター ―君と目指す頂― 作:あああああ
ヤマブキジムでゴールドバッジを手に入れた翌日。
サトシたちは次の町を目指し、森の中を歩いていた。
「ピカピカ!」
サトシの肩では、ピカチュウが機嫌よく尻尾を揺らしている。
その少し後ろ。
「ゴースト~」
「だから急に後ろから出てこないでって言ってるでしょ!」
「ゴースト!」
「笑うな!」
新しく仲間になったゴーストは、早くも旅に馴染んでいた。
特にカスミを驚かせることがお気に入りになったらしい。
「元気だな」
タケシが苦笑する。
「元気で済ませないでよ!」
「ゴースト、ほどほどにな」
「ゴースト!」
返事だけはいい。
サトシは苦笑しながら前を見る。
四つ目のバッジを手に入れた。
ゴーストという新しい仲間も増えた。
けれど、旅はまだ半分にも届いていない。
「そろそろ休憩しない?」
カスミが言った。
「俺も腹減った」
「なら、ちょうどいい場所を探そう」
少し進むと、木々が開けた場所に出た。
タケシが荷物を下ろす。
「ここならいいな。昼飯にしよう」
「賛成!」
サトシもリュックを置いた。
「みんなも出てこい!」
モンスターボールを取り出す。
光が次々と弾けた。
「ピージョーーーッ!」
「ダネ!」
「カゲ!」
「ゼニゼニ!」
ピジョット、フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメ。
そして最初から外にいたピカチュウとゴースト。
六匹が揃う。
進化してからさらに大きくなったピジョットが翼を広げると、軽い風が吹いた。
「ピージョーーーッ!」
「飛んできていいぞ。ただし遠くまで行くなよ」
「ピジョッ!」
ピジョットが空へ舞い上がる。
サトシはその姿をしばらく見送った。
進化してから飛行能力は大きく伸びた。
ただ、第47話で練習を始めた『エアスラッシュ』はまだ安定していない。
(そろそろ、まとまった時間を取って技を磨かせてもいいかもな)
旅をしながらでも鍛えられる。
けれど、研究所なら広い場所もある。
オーキド博士に頼めば、訓練環境も整えられるだろう。
そんなことを考えているうちに、タケシの料理が完成した。
「できたぞ」
「待ってました!」
人間用の昼食。
そしてポケモンたちの食事。
それぞれが集まる。
サトシも座ろうとした――そのとき。
がさっ。
「ん?」
茂みが揺れた。
「ピカ?」
フシギダネが顔を上げる。
「ダネ」
ゴーストは面白そうに茂みへ近づいていく。
「ゴースト」
がさがさ。
次の瞬間。
「マンキー!」
一匹のポケモンが飛び出した。
丸い身体。
長い手足。
豚のような鼻。
「マンキーだ」
サトシが呟く。
前世の記憶が自然と蘇る。
(このマンキー……)
おそらく。
覚えている個体だ。
だが、それだけで先の行動を決めるつもりはない。
マンキーは警戒するでもなく、食事をじっと見ている。
「マンキー……」
「お腹空いてるのか?」
「マンキ?」
サトシはポケモンフーズを少し取った。
「食べる?」
マンキーが近づいてくる。
受け取る。
「マンキー!」
嬉しそうに食べ始めた。
「なんだ、かわいいじゃない」
カスミが笑う。
「マンキーは感情の変化が激しいポケモンだからな」
タケシが言う。
「刺激しない方がいい」
「普通にしてれば大丈夫だろ」
サトシはマンキーを見る。
マンキーもサトシを見る。
そして。
視線が上へ。
サトシの帽子。
「……?」
「マンキー!」
ばっ!
「うわっ!」
帽子を奪われた。
「マンキーマンキー!」
マンキーが帽子を被る。
少し大きい。
目まで隠れている。
「ピカピカ!」
ピカチュウが笑い出す。
「笑ってないで取り返してくれよ」
「ピカ!」
「マンキー!」
マンキーは逃げた。
「待て!」
サトシが追う。
「マンキーマンキー!」
完全に遊んでいる。
木の周り。
岩の上。
サトシが近づけば逃げる。
「速いな!」
「マンキー!」
「ゴースト!」
ゴーストが前へ出る。
すうっ。
姿を消した。
「ゴースト、待った!」
「ゴース?」
サトシが止める。
「まだ遊んでるだけだ。無理に捕まえなくていい」
「ゴースト」
ゴーストは少し残念そうだ。
そのとき。
「なんて素敵なマンキー!」
聞き覚えのある声。
サトシたちの表情が揃って変わった。
「この声……」
「まさか」
茂みの向こうから三人組が飛び出した。
「世界の破壊を防ぐため!」
「世界の平和を守るため!」
「愛と真実の悪を貫く!」
「ラブリーチャーミーな敵役!」
「ムサシ!」
「コジロウ!」
「銀河をかけるロケット団の二人には!」
「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」
「ニャーんてニャ!」
「またお前たちか」
サトシがため息をつく。
「ピカ……」
ピカチュウまで呆れている。
「ゴースト?」
ゴーストだけは初めて見るため興味津々だった。
「誰よそのゴースト!」
ムサシが指差す。
「新しく捕まえた」
「また増えたのかニャ!?」
「それより!」
コジロウがマンキーを見る。
「そのマンキー、我々がいただく!」
「マンキー?」
帽子を被ったマンキーが首を傾げる。
「別に俺のポケモンじゃないぞ」
「だったら好都合!」
ムサシが笑う。
「先に捕まえた方のものよ!」
「そういうことじゃ――」
ロケット団がマンキーへ近づく。
「マンキー」
マンキーはまだ状況が分かっていない。
コジロウが手を伸ばす。
「ほら、おとなしく――」
「マンキ!」
ぱしっ!
手を叩かれた。
「痛っ!」
「この!」
ムサシが怒る。
そして。
余計な一撃を加えた。
「マン……」
マンキーの動きが止まる。
サトシの表情が変わった。
「おい」
「何よ」
「それ、まずいぞ」
「何が――」
マンキーが顔を上げる。
「マンキィィィィッ!」
怒声。
空気が変わった。
「ひっ!?」
マンキーの身体が光り始める。
「進化!?」
カスミが驚く。
光の中。
身体が大きくなる。
手足が逞しくなる。
そして。
「オコォォォォォッ!」
光が消えた。
オコリザル。
完全に怒っている。
「……」
ロケット団が固まった。
「ニャー……」
「逃げる?」
「逃げましょう」
「オコリザル!」
遅かった。
オコリザルが飛びかかる。
「ぎゃあああああっ!」
三人が吹き飛ばされた。
「オコォ!」
「ちょっと待て!」
サトシが呼ぶ。
だが。
「オコリザル!」
次にオコリザルが見たのはサトシだった。
正確には。
自分が被っている帽子の持ち主。
「オコ!」
「まだ帽子持ってたのか!」
「サトシ、逃げて!」
オコリザルが突っ込んでくる。
「ピカ!」
ピカチュウが前へ出ようとする。
「待って!」
サトシが止めた。
横へ跳ぶ。
拳が空を切る。
「オコォ!」
速い。
マンキーのときとは明らかに違う。
「進化したばかりでこれか」
サトシは少し驚いた。
パワーも速度も高い。
何より。
戦うことへの執着が強い。
「オコリザル!」
また来る。
「だったら――」
サトシがモンスターボールへ手を伸ばした。
「フシギダネ!」
「ダネ!」
フシギダネが前へ出る。
「相手してやろう!」
「オコ!」
「『つるのムチ』!」
「ダネ!」
二本の蔓が伸びる。
オコリザルが避ける。
右。
左。
「速い!」
「もう一度!」
蔓が左右から迫る。
「オコ!」
一本をかわす。
二本目。
ぱしっ!
「ダネ!?」
掴んだ。
「引っ張られるぞ!」
「オコォォ!」
オコリザルが蔓を引く。
フシギダネの身体が前へ滑った。
「手を離せ!」
すぐに蔓を戻す。
「『はっぱカッター』!」
「ダネ!」
鋭い葉が飛ぶ。
「オコリザル!」
オコリザルが腕で防ぎながら突っ込んでくる。
何発か当たる。
それでも止まらない。
「ダネ!?」
体当たり。
フシギダネが弾かれる。
「フシギダネ!」
「ダネ!」
すぐに立つ。
「強いな……」
サトシの目が輝く。
怒りで我を忘れている。
技術も荒い。
それでも、身体能力だけでフシギダネの攻撃を突破してくる。
(面白い)
もっとちゃんと戦えば。
もっと鍛えれば。
どこまで強くなるのか。
「フシギダネ、『つるのムチ』!」
「ダネ!」
今度は攻撃ではない。
足元。
オコリザルが跳ぶ。
「そこ!」
葉っぱカッター。
「ダネ!」
空中では避けにくい。
「オコ!」
直撃。
オコリザルが着地する。
ふらつく。
だが。
「オコォォ!」
まだ来る。
「フシギダネ、戻れ!」
「ダネ?」
「十分だ。ありがとう」
フシギダネを戻す。
サトシが前を見る。
「ピカチュウ」
「ピカ!」
肩から飛び降りる。
「最後は俺たちで行こう」
「ピカチュウ!」
オコリザルが拳を握る。
「オコ!」
「来い!」
飛び出す。
「『でんこうせっか』!」
「ピカ!」
ピカチュウが加速。
正面衝突――しない。
直前で横へ。
オコリザルの拳が空を切る。
「後ろ!」
ピカチュウが回り込む。
「『アイアンテール』!」
「ピカァ!」
銀色の尻尾。
「オコ!」
オコリザルが腕を交差させる。
どんっ!
受け止めた。
「ピカ!?」
「マジか!」
完全には止められない。
オコリザルが後退する。
それでも倒れない。
「オコォ!」
腕を振り払う。
ピカチュウが跳ぶ。
「距離を取れ!」
着地。
「『エレキボール』!」
「ピカチュウ!」
電気球が飛ぶ。
「オコ!」
オコリザルが横へ跳ぶ。
避けた。
「そのまま『でんこうせっか』!」
エレキボールを避けた直後。
ピカチュウが迫る。
「ピカ!」
直撃。
オコリザルが転がる。
「オコ……!」
立とうとする。
「まだ来るか?」
「オコォ!」
立った。
サトシは笑った。
「いいな」
「ピカ!」
ピカチュウも構える。
「次で決める!」
「オコリザル!」
両者が走る。
「ピカチュウ、『アイアンテール』!」
「ピカァァ!」
銀色の尾。
オコリザルの拳。
激突。
どんっ!
一瞬。
拮抗する。
「押し切れ!」
「ピカチュウッ!」
「オコ!?」
ピカチュウが身体を捻る。
尻尾を振り抜く。
オコリザルが吹き飛んだ。
地面へ落ちる。
「オコ……」
今度こそ動かない。
サトシはモンスターボールを取り出した。
「オコリザル!」
投げる。
ボールが当たる。
赤い光。
オコリザルが吸い込まれた。
ボールが落ちる。
一度。
二度。
三度。
かちっ。
「……」
サトシが近づく。
ボールを拾い上げた。
「オコリザル、ゲットだぜ!」
「ピッピカチュウ!」
仲間たちも声を上げる。
「ダネ!」
「カゲ!」
「ゼニ!」
「ゴースト!」
空から。
「ピージョーーーッ!」
ピジョットの声も響いた。
「これでまた仲間が増えたな」
タケシが言う。
「でもサトシ、今六匹持ってるでしょ?」
「あ」
サトシが手の中を見る。
今の携帯メンバーは六匹。
なら。
七匹目として捕まえたオコリザルは――。
◇
「やはりこちらに来ておるぞ」
ポケモンセンターのモニター。
画面の向こうでオーキド博士が笑っていた。
「オコリザルじゃ」
その後ろ。
「オコォォォ!」
「待て待て待て!」
オーキド博士が慌てて避ける。
どんっ!
何かが倒れる音。
「元気だな……」
サトシが苦笑する。
「元気で済ませるでない!」
「ごめんなさい」
サトシは頭を下げた。
隣ではカスミが笑っている。
「博士、大変そう」
「誰のせいじゃ!」
「俺です」
「分かっておる!」
少し落ち着いたところで、サトシは考える。
七匹。
このままならオコリザルは研究所で過ごすことになる。
それも悪くない。
けれど。
「博士」
「なんじゃ?」
「一匹、交換したい」
サトシは後ろを見る。
「ピジョット」
「ピジョッ?」
ピジョットが近づいてくる。
サトシはその大きな翼を見る。
「お前、研究所でしばらく特訓してみないか?」
「ピジョ?」
「進化して、飛ぶ力はかなり上がった。でも『エアスラッシュ』はまだ完成してないだろ」
「ピジョッ」
「研究所なら広い場所で集中して練習できる」
ピジョットが静かに聞いている。
「それに」
サトシは翼を見る。
「もっと翼を活かせる技も覚えられると思う」
ピジョットの目が変わった。
「ピージョーーーッ!」
やる気らしい。
「もちろん、ずっとじゃない」
サトシが笑う。
「もっと強くなったら、また一緒に旅しよう」
「ピジョッ!」
ピジョットが翼を広げる。
「決まりだな」
オーキド博士も頷く。
『エアスラッシュ』の完成。
そして。
強靭な翼を活かした、新しい技。
サトシの頭にはすでに候補がある。
『はがねのつばさ』。
今のピジョットなら、きっと覚えられる。
「博士、ピジョットの特訓をお願いします」
「うむ。任せておけ」
「ただ、技を無理に覚えさせないでください。ピジョットのペースで」
「もちろんじゃ」
転送装置を準備する。
サトシはピジョットの前へしゃがんだ。
「頑張ってこい」
「ピジョッ!」
「次に会ったとき、驚かせてくれよ」
「ピージョーーーッ!」
モンスターボールへ戻る。
ボールを転送装置へ。
光。
ピジョットのボールが研究所へ送られた。
少しだけ寂しい。
けれど。
別れではない。
強くなるための時間だ。
「じゃあ博士」
「うむ」
「オコリザルをこっちへ」
「分かった。……できれば早く頼む」
「そんなに?」
画面の向こう。
がしゃん!
「オコォォォ!」
「早く!」
「はい!」
転送装置が光った。
一つのモンスターボールが現れる。
サトシが手に取る。
「よし」
すぐに開く。
「出てこい、オコリザル!」
赤い光。
「オコリザル!」
オコリザルが姿を現した。
サトシを見る。
「……」
「……」
ピカチュウたちも見守る。
「オコ」
サトシの帽子を見る。
「これはもう取るなよ?」
「オコ」
一歩。
「おい」
「オコ!」
ばっ!
また帽子を奪った。
「お前!」
「オコリザル!」
オコリザルが逃げる。
「待てー!」
「ピカピカ!」
ピカチュウが笑いながら追う。
「ゴースト!」
ゴーストも面白がって参加。
「オコ!」
「返せって!」
ポケモンセンターの中を走り回る。
「こらー! センターの中で走らない!」
カスミの怒鳴り声。
タケシは頭を抱えた。
モニターの向こうではオーキド博士が大笑いしている。
「元気そうで何よりじゃ!」
「博士、笑ってないで!」
それでも。
サトシも笑っていた。
新しい仲間。
オコリザル。
そして研究所では、ピジョットがさらに強くなるための一歩を踏み出した。
旅をする仲間。
研究所で鍛える仲間。
場所は違っても。
全員がサトシの大切なポケモンだ。
そして――。
「オコリザル!」
「待てって!」
また一つ。
賑やかな旅が始まった。