ポケットモンスター ―君と目指す頂―   作:あああああ

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第54話 スリーパーとポケモンがえり!?

「ソウ!」

 

朝の森に、元気な声が響いた。

 

一本のつるが伸び、木の枝へ巻きつく。続けてもう一本が別の枝を捉え、フシギソウの身体がふわりと宙へ浮いた。

 

そのまま身体を前へ運ぼうとして――。

 

「ソウ!?」

 

予想以上につるが縮み、フシギソウの身体が勢いよく前へ飛んだ。

 

「ピカ!?」

 

「危ない!」

 

サトシが声を上げる。

 

フシギソウは慌ててもう一本のつるを伸ばし、別の木へ巻きつけた。

 

ぶらん、と身体が揺れる。

 

「……ソウ」

 

「ピカピカ」

 

地面へ降りてきたフシギソウに、ピカチュウが笑う。

 

「ソウ!」

 

笑うな、とでも言いたげにつるが飛んだ。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが素早くかわす。

 

「まだ慣れないみたいね」

 

カスミが苦笑した。

 

昨日、フシギダネからフシギソウへ進化したばかりだ。

 

身体が大きくなっただけではない。『つるのムチ』も以前より太く、長く、力強くなっている。

 

その分、これまで身につけてきた感覚とのズレも大きかった。

 

「力が増えたからこそ、細かい調整を覚え直さないとな」

 

タケシが言う。

 

「まあ、急がなくていいさ」

 

サトシはフシギソウの頭を撫でた。

 

「昨日進化したばっかりなんだから」

 

「ソウ!」

 

それでも早く使いこなしたいらしい。

 

サトシは笑った。

 

「続きはまたあとで。そろそろ出発するぞ」

 

「ソウ!」

 

フシギソウをボールへ戻し、一行は森を抜けて街道へ向かった。

 

◇

 

昼を過ぎた頃。

 

「大きな街ね」

 

カスミが周囲を見回した。

 

建物が並び、人通りも多い。

 

だが。

 

何かがおかしい。

 

「……静かじゃないか?」

 

タケシが呟く。

 

人はいる。

 

けれど、子供の姿がほとんどない。

 

代わりに大人たちが不安そうな顔で行き交っていた。

 

「ピカ……」

 

ピカチュウも周囲を見回す。

 

そのとき。

 

一人の女性がジュンサーへ駆け寄った。

 

「まだ見つからないんですか!?」

 

「現在も捜索中です。必ず見つけますから、落ち着いてください」

 

「でも、もう何人も……!」

 

サトシたちは顔を見合わせた。

 

「何かあったみたいだな」

 

ジュンサーがこちらに気づく。

 

「あなたたち、ポケモントレーナー?」

 

「はい」

 

「だったら、今日はあまり街を歩き回らない方がいいわ」

 

「どうしてですか?」

 

カスミが尋ねる。

 

ジュンサーの表情が険しくなる。

 

「この街で、子供たちが次々といなくなっているの」

 

「子供が?」

 

「ええ。家から突然いなくなった子もいるし、外出したまま戻らない子もいる。共通点もまだ分かっていないの」

 

サトシの表情も引き締まった。

 

「何人くらい?」

 

「今確認されているだけでもかなりの数よ」

 

「そんなに……」

 

カスミが息を呑む。

 

「それだけじゃない」

 

タケシが視線を向けた先。

 

ポケモンセンターから、一人のトレーナーがポケモンを抱えて入っていく。

 

様子がおかしい。

 

「ポケモンにも何か起きてる?」

 

ジュンサーが頷いた。

 

「原因不明の体調不良を訴えるポケモンも増えているわ」

 

サトシは少し考えた。

 

子供の失踪。

 

ポケモンの異常。

 

この街。

 

記憶の中にある出来事が重なる。

 

「……行こう」

 

「サトシ?」

 

「ポケモンセンター。何か分かるかもしれない」

 

◇

 

「ラッキー!」

 

ポケモンセンターでは、ジョーイとラッキーが忙しく動き回っていた。

 

ベッドには何匹ものポケモン。

 

眠り続けているもの。

 

ぼんやりしているもの。

 

落ち着きなく身体を動かすもの。

 

症状は一つではない。

 

「ジョーイさん」

 

「あら、あなたたち」

 

ジョーイが振り返る。

 

「このポケモンたち、どうしたんですか?」

 

「それが分からないの。身体を調べても、大きな怪我や病気は見つからないわ」

 

「ピカ……」

 

ピカチュウが心配そうにベッドを見る。

 

サトシは目を閉じた。

 

意識を集中する。

 

広げすぎない。

 

センターの中だけ。

 

人。

 

ポケモン。

 

それぞれの生命の気配を捉える。

 

弱ってはいる。

 

だが、重い病気で生命力そのものが落ちている感じとは少し違う。

 

「……身体より、頭とか感覚の方に影響が出てるのかも」

 

「分かるの?」

 

カスミが聞く。

 

「はっきりとは。でも、病気で弱ってる感じとは違う」

 

「波導か」

 

タケシの言葉にサトシは頷く。

 

「それだけじゃ原因までは分からないけどな」

 

そのとき。

 

ピカチュウの耳が動いた。

 

「ピカ?」

 

「どうした?」

 

ピカチュウが窓の方を見る。

 

サトシも振り返った。

 

微かな違和感。

 

何かが広がっている。

 

音とは少し違う。

 

けれど、一定の周期を持った何か。

 

「……これか?」

 

「何か感じるの?」

 

「うっすら」

 

サトシは窓の外を見る。

 

「ずっと同じ方向から来てる気がする」

 

ジョーイが顔を上げた。

 

「そういえば……」

 

「何か心当たりが?」

 

「最近、この辺りで特殊な波が観測されているって聞いたわ。睡眠に関係する波じゃないかって」

 

「睡眠……」

 

カスミが呟く。

 

サトシの中で、記憶がさらに明確になる。

 

「スリープと……スリーパー」

 

「え?」

 

「行ってみよう」

 

◇

 

調べていくと、街の一角にある建物へ行き着いた。

 

そこでは大人たちがポケモンたちと楽しそうに過ごしている。

 

いわゆるポケモン大好きクラブ。

 

その中に。

 

「スリープ」

 

一匹のスリープ。

 

そして。

 

「スリーパー……」

 

振り子を持ったスリーパーがいた。

 

「やっぱり」

 

サトシが呟く。

 

「知ってるの?」

 

「スリープもスリーパーも、催眠を使うポケモンだ」

 

それ自体は珍しいことではない。

 

問題は。

 

スリーパーが振り子を動かす。

 

ゆらり。

 

ゆらり。

 

「……」

 

サトシは眉を寄せた。

 

さっき感じたものと似ている。

 

「ピカ……」

 

ピカチュウも頭を振る。

 

「長時間、広い範囲に催眠の力を使ってるのか」

 

タケシが周囲を見る。

 

「それが街まで届いている?」

 

「たぶん」

 

クラブの人々に事情を聞く。

 

彼らは眠れない悩みを解決するため、スリープやスリーパーの催眠能力を利用していた。

 

悪意があったわけではない。

 

しかし。

 

長く使い続けた結果、その催眠波が街へ漏れ出してしまった。

 

「じゃあ、いなくなった子供たちも……」

 

カスミが言った。

 

「可能性は高い」

 

その瞬間。

 

「……あれ?」

 

カスミがふらついた。

 

「カスミ?」

 

「なんか……変……」

 

目が虚ろになる。

 

「おい!」

 

タケシが支えようとする。

 

だが。

 

「うー……」

 

カスミはその場へしゃがみ込んだ。

 

そして。

 

両手を地面につく。

 

「カスミ?」

 

「うーっ!」

 

そのまま身体を揺らし始めた。

 

「まさか、催眠に……!」

 

「カスミ!」

 

サトシが近づく。

 

カスミはサトシを見る。

 

しかし。

 

普段の反応ではない。

 

「うー!」

 

そのまま建物の外へ走り出した。

 

「待て!」

 

サトシたちは追う。

 

「ピカ!」

 

カスミは街を抜ける。

 

子供とは思えないほど迷いなく。

 

何かに呼ばれているように。

 

「サトシ!」

 

「ああ!」

 

サトシは走りながら意識を集中した。

 

波導を広げる。

 

街全体を完全に探ることはできない。

 

それでも。

 

カスミの気配は知っている。

 

その先。

 

複数。

 

いや。

 

もっと多い。

 

小さな生命の気配が同じ方向へ集まっている。

 

「こっちだ!」

 

「分かるのか!?」

 

「カスミの先に大勢いる!」

 

森へ入る。

 

木々の間を抜け。

 

やがて。

 

「いた!」

 

開けた場所。

 

そこに。

 

行方不明になっていた子供たちがいた。

 

「ニャー!」

 

「ワンワン!」

 

「ガウ!」

 

誰も普通に話していない。

 

四つん這いで歩き。

 

木へ登ろうとし。

 

地面を掘る。

 

まるで。

 

ポケモンになったつもりでいる。

 

「催眠で自分をポケモンだと思い込んでるのか……」

 

タケシが驚く。

 

「カスミ!」

 

「うー!」

 

カスミも子供たちの中へ入っていく。

 

「ピカ……」

 

ピカチュウも困惑している。

 

「無理に連れ戻しても駄目だ」

 

サトシは周囲を見る。

 

「原因になってる催眠を解かないと」

 

◇

 

スリーパーを連れてくる。

 

しかし。

 

問題が起きた。

 

「スリーパー……」

 

催眠を解除しようとしても、上手くいかない。

 

長時間影響を受けた子供たちの意識が深く入り込んでいる。

 

「どうするの?」

 

タケシが考える。

 

サトシはスリーパーを見る。

 

そして。

 

スリープ。

 

進化前。

 

力そのものはスリーパーより弱い。

 

だが。

 

「逆に、こっちなら……」

 

「スリープ?」

 

「強すぎる催眠に、違うリズムをぶつける」

 

サトシはスリープの前へしゃがむ。

 

「協力してくれるか?」

 

「スリープ」

 

スリープが頷いた。

 

子供たちの前へ立つ。

 

鼻を揺らす。

 

ゆっくり。

 

一定のリズム。

 

「スリープ……」

 

空気が変わる。

 

サトシは黙って見守る。

 

ここは自分が無理にどうにかする場面ではない。

 

スリープの力が。

 

スリーパーによって乱された意識へ届いていく。

 

「……あれ?」

 

一人。

 

「ここ……どこ?」

 

また一人。

 

「お母さん……?」

 

次々と子供たちの目に意識が戻る。

 

「やった!」

 

タケシが笑う。

 

「カスミ!」

 

「……う」

 

カスミも瞬きをする。

 

「……サトシ?」

 

「戻った」

 

「タケシ……?」

 

数秒。

 

カスミが周囲を見る。

 

そして。

 

「なんであたし地面に座ってるの?」

 

「覚えてないのか?」

 

「何を?」

 

サトシとタケシが顔を見合わせる。

 

「……言わない方がいいかもな」

 

「そうだな」

 

「何よ?」

 

カスミが睨む。

 

「別に」

 

「絶対何かあったでしょ!」

 

「ピカピカ」

 

ピカチュウが笑った。

 

「ピカチュウまで!」

 

森に、ようやく明るい声が戻った。

 

◇

 

事件は解決した。

 

行方不明だった子供たちは家族のもとへ帰り、ポケモンセンターで異常を起こしていたポケモンたちも少しずつ回復していった。

 

クラブの人々も、今後はスリーパーの催眠を街へ影響が出るほど使わないと約束した。

 

「これで一件落着ね」

 

カスミが大きく伸びをする。

 

「結局、自分が何してたか覚えてないのか?」

 

「だから何なのよ!」

 

「いや、別に」

 

「サトシ!」

 

「ピカピカ!」

 

そのとき。

 

「コダ?」

 

「ん?」

 

足元。

 

黄色いポケモンが立っていた。

 

「コダック?」

 

カスミが目を丸くする。

 

「コダ」

 

コダックは頭を抱えたまま、ぼんやりカスミを見ている。

 

「この子、さっきからいたわよね」

 

「そういえば」

 

タケシが頷く。

 

「野生みたいだな」

 

サトシが言う。

 

「コダ」

 

コダックがカスミへ近づく。

 

「な、何よ」

 

「コダ?」

 

「ついてこないでよ」

 

カスミが歩く。

 

コダックも歩く。

 

止まる。

 

コダックも止まる。

 

「……」

 

一歩。

 

「コダ」

 

一歩。

 

「なんでついてくるのよ!」

 

「気に入られたんじゃないか?」

 

「そんなこと言われても!」

 

カスミが荷物を探る。

 

「もう、どっか行きなさいよ!」

 

その拍子に。

 

ころん。

 

モンスターボールが地面へ落ちた。

 

「コダ?」

 

コダックが見る。

 

そして。

 

ぺた。

 

「え?」

 

自分からボタンを押した。

 

赤い光。

 

コダックの身体が吸い込まれる。

 

ボールが地面へ落ちる。

 

ころ。

 

ころ。

 

ころ。

 

ちーん。

 

「……」

 

沈黙。

 

「……え?」

 

カスミが固まる。

 

「ピカ?」

 

「入ったな」

 

サトシが言った。

 

「入ったな」

 

タケシも頷いた。

 

「ちょっと待ってよぉぉぉ!」

 

カスミの叫びが響いた。

 

「こんなゲットあり!?」

 

「でも捕まったぞ」

 

「そういう問題じゃない!」

 

カスミがボールを拾う。

 

「出てきなさい、コダック!」

 

光。

 

「コダ?」

 

コダックが現れる。

 

頭を抱えている。

 

「……」

 

カスミが見つめる。

 

コダックも見つめ返す。

 

「コダ」

 

「なんでそんな顔してるのよ……」

 

「ピカピカ」

 

「笑わない!」

 

サトシも思わず笑った。

 

だが。

 

捕まった以上、それで終わりにはしない。

 

「カスミ」

 

「何?」

 

「コダックが自分から入ったんだし、たぶん一緒にいたいんじゃないか?」

 

「……」

 

カスミがコダックを見る。

 

「コダ?」

 

「もう……」

 

ため息。

 

それから腰を落とした。

 

「分かったわよ。捕まっちゃったものは仕方ないわ」

 

「コダ」

 

「でも!」

 

びしっ、と指を向ける。

 

「これからあたしのポケモンなんだから、ちゃんと言うこと聞くのよ!」

 

「コダ?」

 

分かっているのかいないのか。

 

首を傾げる。

 

「先が思いやられる……」

 

「はは」

 

「笑うな!」

 

◇

 

その日の夕方。

 

街を出た一行は、次の目的地へ向かって歩いていた。

 

「コダ」

 

「なんでボールから出てるのよ!」

 

カスミの後ろをコダックが歩いている。

 

「コダ?」

 

「首を傾げない!」

 

「仲良さそうだな」

 

「どこがよ!」

 

「ピカピカ」

 

サトシの隣。

 

「ソウ!」

 

フシギソウが歩く。

 

進化した身体にも、少しずつ慣れてきたようだ。

 

道の脇へ伸びた枝。

 

「ソウ」

 

つるが伸びる。

 

巻きつく。

 

少し力が入りすぎて枝が大きく揺れた。

 

「ソウ……」

 

「昨日よりは良くなってる」

 

「ソウ?」

 

「ああ」

 

サトシが笑う。

 

「焦らなくていい。少しずつ合わせていこう」

 

「ソウ!」

 

ピカチュウがフシギソウの背中へ飛び乗ろうとする。

 

「ピカ!」

 

「ソウ!?」

 

「お、そこ乗れるのか?」

 

「ピカピカ!」

 

「ソウ!」

 

嫌がったフシギソウのつるが伸びる。

 

ピカチュウが飛び降りる。

 

「ピカ!」

 

「ソウ!」

 

追いかけっこが始まった。

 

「元気ねぇ」

 

カスミが笑う。

 

「コダ?」

 

「あなたは走らなくていいからね」

 

「コダ」

 

そして。

 

数秒後。

 

コダックは何もない場所で転んだ。

 

「コダァ……」

 

「もう!」

 

サトシたちの笑い声が街道へ響く。

 

新しく加わった一匹。

 

新しい身体になった一匹。

 

旅はまた少しだけ賑やかになって。

 

一行は次の道へ進んでいった。

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