ポケットモンスター ―君と目指す頂―   作:あああああ

55 / 69
第55話 ロコン!ブリーダーたいけつ!

「コダ?」

 

「……また出てる」

 

街道を歩きながら、カスミが額を押さえた。

 

その足元にはコダック。

 

いつの間にモンスターボールから出てきたのか、頭を両手で抱えながら、何食わぬ顔でカスミの後ろを歩いている。

 

「コダ」

 

「ねえコダック。あたし、戻っていいって言わなかった?」

 

「コダ?」

 

「なんでそこで首を傾げるのよ!」

 

「ピカピカ」

 

サトシの肩でピカチュウが笑う。

 

「笑わない!」

 

「ピカ!」

 

その隣では。

 

「ソウ!」

 

フシギソウが道端の木へ『つるのムチ』を伸ばした。

 

一本目。

 

枝へ巻きつく。

 

二本目。

 

別の枝を掴む。

 

「ソウ……!」

 

ゆっくり力を入れ、身体を持ち上げる。

 

今度は勢いをつけすぎない。

 

「いいぞ。そのまま」

 

「ソウ!」

 

身体が前へ運ばれ、着地。

 

少しよろけたが、転ばなかった。

 

「ソウ!」

 

「昨日よりかなり良くなったな」

 

サトシが笑う。

 

進化によって長く、太く、力強くなったつる。

 

最初は扱いに苦労していたが、フシギソウは少しずつ新しい身体の感覚を掴み始めていた。

 

「無理に前と同じように動かそうとしなくなったのが大きいな」

 

タケシが言う。

 

「力が変われば、それに合わせて身体の使い方も変えた方がいい」

 

「なるほど」

 

サトシは頷いた。

 

「やっぱりタケシはそういうところよく見てるな」

 

「俺はポケモンブリーダーを目指してるからな」

 

タケシが胸を張る。

 

「戦いだけじゃなくて、身体の状態や成長に合わせて世話するのも大事なんだ」

 

「ソウ!」

 

フシギソウも納得したように鳴く。

 

そのとき。

 

「あっ!」

 

カスミが前方を指差した。

 

街が見えている。

 

「やっと着いた!」

 

「コダ」

 

「あなたは何もしてないでしょ!」

 

「コダ?」

 

旅は今日も賑やかだった。

 

◇

 

街へ入って間もなく。

 

タケシの足が止まった。

 

「……」

 

「タケシ?」

 

「どうしたの?」

 

返事がない。

 

視線の先。

 

一軒の店。

 

大きな看板には、ポケモンの美容と健康管理を扱う店であることが書かれている。

 

店の中には何匹ものポケモン。

 

毛並みを整えてもらっているもの。

 

ブラッシングを受けているもの。

 

爪や身体の状態を見てもらっているもの。

 

そして。

 

「ここ……」

 

タケシの目が輝く。

 

「有名なブリーダーの店だ!」

 

「有名なの?」

 

「ああ!」

 

いつになく声が大きい。

 

「ポケモンの美容だけじゃない。食事や健康管理、そのポケモンに合わせた手入れまで考えてるんだ!」

 

「へえ」

 

サトシも店内を見る。

 

オーキド研究所でポケモンの世話について学んできた。

 

だからこそ分かる。

 

単純に見た目を綺麗にするだけではない。

 

皮膚。

 

毛並み。

 

爪。

 

筋肉。

 

食事。

 

体調。

 

全部が繋がっている。

 

「入ってみましょうよ」

 

カスミの一言に。

 

「もちろんだ!」

 

タケシが真っ先に扉を開けた。

 

◇

 

「いらっしゃいませ」

 

店の奥から女性が現れた。

 

落ち着いた雰囲気。

 

優しい声。

 

「ユキさん!」

 

タケシの目がさらに輝く。

 

「俺、あなたに会いたかったんです!」

 

「え?」

 

ユキが少し驚く。

 

「タケシ……」

 

カスミが呆れた顔をする。

 

だが。

 

今回ばかりは、いつもの女性への反応だけではなかった。

 

タケシは店の中を見回している。

 

使われているブラシ。

 

ポケモン用のケア用品。

 

餌。

 

一つ一つへ真剣な目を向けていた。

 

「俺、ポケモンブリーダーを目指してるんです。だから、ユキさんのことも知ってて……」

 

「そうだったの」

 

ユキが微笑む。

 

「それなら、ゆっくり見ていって」

 

「はい!」

 

そのとき。

 

「コン」

 

声がした。

 

クッションの上。

 

六本の美しい尾を持つポケモンが座っている。

 

「ロコンだ」

 

サトシが目を向ける。

 

毛並みは艶やかで、姿勢もいい。

 

そして。

 

どこか気品がある。

 

「かわいい!」

 

カスミが近づいた。

 

「ロコン!」

 

「コン」

 

手を伸ばす。

 

「コン!」

 

ぷいっ。

 

顔を背けられた。

 

「えっ?」

 

「警戒心が強いみたいだな」

 

サトシも少し距離を取ったまましゃがむ。

 

「ロコン」

 

ロコンがこちらを見る。

 

「こんにちは」

 

「コン」

 

サトシが手を出そうとはしない。

 

向こうが近づいてこないなら、それでいい。

 

ピカチュウも肩の上から眺めるだけ。

 

「ピカ」

 

「コン」

 

互いに軽く鳴く。

 

その横を。

 

「コダ?」

 

コダックがふらふら近づいていく。

 

「コダック、勝手に――」

 

「コン!」

 

ロコンの炎。

 

「コダァ!?」

 

「コダック!」

 

頭を焦がされたコダックが戻ってくる。

 

「もう、何してるのよ!」

 

「コダ……」

 

「ロコンは知らない相手に触られるのが嫌いなの」

 

ユキが説明する。

 

「この子自身が認めない限り、私以外にはなかなか懐かないわ」

 

「なるほど……」

 

タケシがロコンを見る。

 

すぐには近づかない。

 

まず。

 

歩き方。

 

毛並み。

 

耳。

 

尾。

 

身体の状態を見る。

 

「毛並みがすごく綺麗ですね」

 

「ありがとう」

 

「でも、それだけじゃない」

 

タケシがしゃがむ。

 

「脚もしっかりしてる。毎日ちゃんと運動してるんですね」

 

ユキの表情が少し変わった。

 

「分かる?」

 

「はい。見た目だけ整えても、身体までは誤魔化せませんから」

 

「……そうね」

 

ロコンがタケシを見る。

 

「コン」

 

タケシは手を伸ばさなかった。

 

ただ。

 

「いいロコンだな」

 

そう言った。

 

「コン……」

 

ロコンは顔を背ける。

 

けれど。

 

先ほどのカスミやコダックに向けた態度とは少し違っていた。

 

◇

 

「ポケモンを綺麗にするって、ただ飾ればいいわけじゃないのよ」

 

ユキは一匹のポケモンへブラシをかけながら説明する。

 

「その子の身体に合った手入れをする。毛の質も、皮膚も、生活環境も違うから」

 

タケシは真剣に聞いていた。

 

サトシも横から見ている。

 

「食事も同じですか?」

 

「ええ。同じ種類のポケモンでも、運動量や体格によって必要なものは違うわ」

 

「やっぱりそうですよね」

 

タケシが頷く。

 

サトシも納得する。

 

旅に出てから、手持ちは増えた。

 

ピカチュウ。

 

フシギソウ。

 

ヒトカゲ。

 

ゼニガメ。

 

ゴースト。

 

オコリザル。

 

研究所にはピジョット、バタフリー、クラブ。

 

同じ世話でいいはずがない。

 

「サトシも結構詳しいのね」

 

ユキが言った。

 

「オーキド博士の研究所で勉強してたから」

 

「オーキド博士の?」

 

「はい。でも」

 

サトシはタケシを見る。

 

「細かいケアはタケシの方が上ですよ」

 

「サトシ?」

 

「俺はバトルとか生態とか、広く覚えてきた感じだから。毎日の食事とか身体の変化を見るのはタケシの方が細かい」

 

タケシが少し照れる。

 

「まだまだだけどな」

 

「そう思えるなら、もっと伸びるわ」

 

ユキが微笑んだ。

 

「コン」

 

ロコンがその会話を聞いていた。

 

◇

 

ところが。

 

街にはもう一つ、人気を集めている店があった。

 

「何これ……」

 

カスミが目を丸くする。

 

派手。

 

とにかく派手だった。

 

ポケモンたちにリボン。

 

アクセサリー。

 

派手な飾り。

 

毛を大胆に整え、目立つ姿へ変えている。

 

「すごい人気ね」

 

店の前には人だかり。

 

「でも……」

 

タケシは難しい顔をした。

 

「全部が悪いとは言わない。ポケモン自身が喜んでるなら、飾るのもいいと思う」

 

サトシも頷く。

 

「でも嫌がってるのにやるのは違うな」

 

中には明らかに落ち着かないポケモンもいる。

 

「ポケモンのためじゃなくて、人間が満足するためになったら駄目だ」

 

タケシの声は静かだった。

 

けれど強い。

 

「大事なのは、そのポケモンがどう感じてるかだ」

 

「コン」

 

いつの間にかユキのロコンも近くに来ていた。

 

タケシの言葉を聞いている。

 

そのとき。

 

店の奥から派手な声。

 

「もっとゴージャスにするのよ!」

 

「もっと目立たせるニャ!」

 

「世界一美しいポケモン美容店にするのよ!」

 

「……」

 

サトシが目を細める。

 

聞き覚えがありすぎる。

 

「ピカ」

 

ピカチュウも同じだった。

 

「まさか……」

 

そして。

 

どん!

 

店の一部が開く。

 

「なんだかんだと聞かれたら!」

 

「答えてあげるが世の情け!」

 

「やっぱり」

 

サトシがため息をついた。

 

「ロケット団……」

 

「ピカァ……」

 

口上を終えたムサシ、コジロウ、ニャースがポーズを決める。

 

「なんで先に分かったのよ!」

 

ムサシが怒鳴った。

 

「声」

 

「ニャ!?」

 

「分かりやすすぎるぞ、お前ら」

 

「うるさいニャ!」

 

ロケット団の目的は。

 

店へ集まったポケモンたち。

 

「綺麗にしてあげると言えば、ポケモンが向こうから集まってくる!」

 

「そしてまとめていただく!」

 

「完璧な作戦ニャ!」

 

「どこがよ!」

 

カスミが叫ぶ。

 

機械から網が飛び出す。

 

「ピカ!」

 

「危ない!」

 

サトシが叫ぶ。

 

だが。

 

「コン!」

 

炎が走った。

 

網が焼け落ちる。

 

「なっ!?」

 

ロコン。

 

ユキの前へ立っている。

 

「ロコン!」

 

「コン!」

 

「やっちゃいなさい!」

 

「コン!」

 

再び炎。

 

「避けるニャ!」

 

ロケット団が飛び退く。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

サトシも前へ。

 

だが。

 

「待ってくれ、サトシ!」

 

タケシだった。

 

「タケシ?」

 

タケシがユキとロコンを見る。

 

「ここはロコンに任せよう」

 

サトシは一瞬だけ考え。

 

笑った。

 

「分かった」

 

一歩下がる。

 

「ピカチュウ、俺たちは逃げるポケモンを守るぞ」

 

「ピカ!」

 

「フシギソウ!」

 

ボールを投げる。

 

「ソウ!」

 

「つるのムチで捕まってるポケモンを助ける!」

 

「ソウ!」

 

つるが伸びる。

 

ロケット団の機械に捕まっていたポケモンたちを次々と救い出す。

 

一方。

 

ロコンはロケット団を睨む。

 

「コン!」

 

「アーボック!」

 

「ドガース!」

 

ムサシとコジロウもポケモンを出す。

 

「ロコン!」

 

ユキの指示。

 

ロコンが駆ける。

 

炎。

 

素早い動き。

 

小さな身体で攻撃をかわし、間合いを取る。

 

「すごい……」

 

カスミが見つめる。

 

「見た目だけじゃない」

 

タケシが嬉しそうに言う。

 

「しっかり鍛えられてる」

 

ロコンがアーボックをかわす。

 

「今だ!」

 

思わずタケシが声を上げた。

 

ロコンの耳が動く。

 

ユキもタケシを見る。

 

ほんの一瞬。

 

そして。

 

「ロコン!」

 

ロコンが跳んだ。

 

「コン!」

 

炎がアーボックとドガースを包む。

 

「今よ!」

 

ユキが指示を重ねる。

 

「コン!」

 

さらに炎。

 

「やな感じー!」

 

「ニャー!」

 

ロケット団が空へ飛んでいった。

 

きらん。

 

静かになる。

 

「……」

 

タケシは空を見上げた。

 

「勝った……」

 

「コン」

 

ロコンがタケシを見る。

 

そして。

 

ゆっくり歩いてくる。

 

「ロコン?」

 

「コン」

 

目の前で止まる。

 

タケシはしゃがんだ。

 

それでも。

 

自分から触ろうとはしない。

 

「頑張ったな」

 

「コン」

 

ロコンの方から。

 

タケシの手へ鼻先を寄せた。

 

「……!」

 

タケシの目が大きくなる。

 

ユキはその様子を静かに見ていた。

 

◇

 

夕方。

 

「タケシ」

 

店の前で、ユキが呼び止めた。

 

「はい?」

 

その隣にはロコン。

 

「コン」

 

「あなたにお願いがあるの」

 

「俺に?」

 

ユキはロコンを見る。

 

「この子を、あなたに預けたいの」

 

「……え?」

 

タケシが固まる。

 

「えええええっ!?」

 

カスミの声が響いた。

 

サトシも驚いた。

 

「ロコンを?」

 

「ええ」

 

ユキは頷く。

 

「私はここでたくさんのポケモンと接してきた。でも、この子にはもっといろいろな場所を見てほしいと思っていたの」

 

ロコンを見る。

 

「いろんなポケモンと出会って、いろんな経験をしてほしい」

 

そして。

 

タケシへ。

 

「あなたなら安心して任せられる」

 

「ユキさん……」

 

「もちろん」

 

ユキは微笑む。

 

「最後に決めるのはロコンよ」

 

全員の視線がロコンへ集まる。

 

「コン」

 

ロコンはユキを見る。

 

長く一緒にいた相手。

 

そして。

 

タケシを見る。

 

一歩。

 

また一歩。

 

「コン!」

 

タケシの足元へ。

 

「ロコン……」

 

タケシはゆっくり手を伸ばす。

 

今度は。

 

ロコンは逃げなかった。

 

「……一緒に来てくれるのか?」

 

「コン!」

 

「ありがとう!」

 

タケシが笑う。

 

抱き上げようとして。

 

一瞬止まる。

 

ロコンを見る。

 

「抱いてもいいか?」

 

「コン」

 

ロコンの方から身体を寄せた。

 

「ロコン!」

 

タケシが抱き上げる。

 

「大事にする! 絶対に!」

 

「コン!」

 

ユキも嬉しそうに見つめていた。

 

「よろしくね、ロコン」

 

◇

 

街を出る。

 

タケシの隣にはロコン。

 

「コン」

 

「疲れてないか?」

 

「コン!」

 

「喉は渇いてないか?」

 

「コン」

 

「毛にゴミが――」

 

「タケシ」

 

カスミが呆れる。

 

「心配しすぎ」

 

「最初が大事なんだ!」

 

「はいはい」

 

サトシは笑った。

 

「でも良かったな」

 

「ああ!」

 

タケシは本当に嬉しそうだった。

 

「俺ももっと勉強する。ロコンだけじゃない。イシツブテもイワークもズバットも、もっとちゃんと見てやらないとな」

 

「コン!」

 

その横。

 

「コダ?」

 

コダックが歩いている。

 

「……」

 

カスミが見る。

 

「コダ」

 

「なんで今日も普通に出てるのよ!」

 

「コダ?」

 

「だから首を傾げない!」

 

「ピカピカ!」

 

ピカチュウが笑う。

 

「ソウ!」

 

フシギソウも楽しそうに鳴いた。

 

「コン」

 

ロコンが新しい仲間たちを見る。

 

タケシもその姿を見つめる。

 

ブリーダーを目指す旅。

 

その隣に。

 

新しい仲間が加わった。

 

「これからよろしくな、ロコン」

 

「コン!」

 

夕暮れの街道に。

 

ロコンの元気な声が響いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。