ポケットモンスター ―君と目指す頂― 作:あああああ
「オコォッ!」
朝の街道に鋭い声が響き、オコリザルの拳が目の前の木へ次々と叩き込まれる。一発、二発、三発と打ち込まれるたびに太い幹が揺れ、頭上から葉がぱらぱらと舞い落ちた。
さらに大きく踏み込み、とどめとばかりに拳を振りかぶる。
「そこまで!」
サトシの声が飛び、拳が幹の寸前でぴたりと止まった。
「オコ?」
「朝から元気なのはいいけど、木を倒すつもりか?」
「オコ……」
少し不満そうに拳を下ろすオコリザルを見て、サトシの肩にいたピカチュウが楽しそうに笑う。
「ピカピカ」
「オコ!」
「ピカッ!」
今度はピカチュウへ矛先が向いた。肩から飛び降りたピカチュウをオコリザルが追いかけ始め、朝から騒がしい二匹にカスミが呆れたような視線を向ける。
「結局そうなるのね……」
「コダ?」
「あなたはぼーっと見てないで、荷物の邪魔にならないところにいて」
「コダ」
コダックは分かったのか分かっていないのか、いつものように頭を抱えたまま首を傾げた。
少し離れた場所では、タケシがロコンの毛並みを確認している。
「昨日より少し旅の埃がついてるな。夜にブラッシングしよう」
「コン!」
「すっかりロコンにつきっきりね」
「新しい環境に慣れるまでは特に細かく見た方がいいんだ」
タケシが真面目な顔で答える。その様子を横目に、サトシは別の方向へ視線を移した。
そこではフシギソウが『つるのムチ』の練習を続けていた。
「ソウ!」
一本のつるを木の枝へ巻きつけ、続けてもう一本を少し離れた枝へ伸ばす。進化したばかりの頃は力が入りすぎて身体が振り回されていたが、今は違う。二本のつるをゆっくり縮めながら身体を浮かせ、そのまま狙った位置へ移動して着地した。
少しだけ身体が揺れたものの、しっかり四本の脚で踏みとどまる。
「ソウ!」
「いい感じだ。かなり慣れてきたな」
「ソウ!」
嬉しそうに返事をするフシギソウを見ていると、タケシも頷いた。
「前と同じ感覚で動かそうとしなくなったのが大きいな。身体が変われば力の入り方も変わる。今の自分に合った動きを覚えていけばいい」
「なるほどな」
サトシが感心していると、街道の少し先から何かを叩くような音が聞こえてきた。
続いて男の声が響く。
「エビワラー! もっと腰を入れろ!」
「エビワラー!」
何事かと進んでみれば、開けた場所で一人の男とエビワラーが特訓していた。
エビワラーの周囲には小さな標的がいくつも吊されている。その間を滑るように移動しながら、右、左と鋭い拳を打ち込み、一つずつ正確に標的を揺らしていく。
速い。
それ以上に、動きに無駄がない。
「オコ……」
先ほどまでピカチュウを追いかけていたオコリザルも、いつの間にか足を止めていた。
食い入るようにエビワラーを見る。
「気になるのか?」
「オコ」
エビワラーが最後の標的へ拳を叩き込む。
「よし! この調子ならP1グランプリも優勝だ!」
「P1グランプリ?」
サトシが反応すると、男もこちらに気づいた。
「お前たち、旅のトレーナーか?」
「はい。俺、サトシです」
「俺はアノキ。こいつは相棒のエビワラーだ」
「エビワラー!」
「ピカ!」
ピカチュウが挨拶する横で、オコリザルが一歩前へ出た。
「オコリザル!」
拳を握り、エビワラーを真っ直ぐ見据える。その様子を見たアノキが面白そうに笑った。
「いいオコリザルを連れてるじゃないか」
「仲間になってからはまだそんなに経ってないんですけど、力はかなり強いですよ」
「オコ!」
「分かってるって。ただ、戦い方はまだこれからだろ?」
「オコォ!」
「ほら、すぐ怒る」
「ピカピカ」
ピカチュウにまで笑われ、オコリザルがさらに顔を赤くする。そんな姿を見てアノキは豪快に笑った。
「面白い! だったらP1グランプリに出てみるか?」
「どんな大会なんですか?」
「格闘ポケモンたちが力と技を競い合う大会だ。腕に覚えのある格闘ポケモンが大勢集まるぞ!」
その言葉を聞いた瞬間、オコリザルがサトシの前へ回り込んだ。
「オコリザル!」
「出たいのか?」
「オコ!」
迷いのない返事だった。
サトシも笑って拳を差し出す。
「よし。じゃあ挑戦してみよう」
「オコリザル!」
オコリザルも拳をぶつけた。
◇
大会会場へ向かおうとしたところで、サトシたちは一人の少女に呼び止められた。
少女の名はマナミ。話を聞けば、アノキの娘だという。
「お願いがあります!」
「俺に?」
「お兄ちゃんのオコリザルで、お父ちゃんのエビワラーを負かして!」
突然のお願いに、サトシは目を瞬いた。
「マ、マナミ!」
慌てるアノキを無視して、マナミは不満を一気に吐き出した。
「お父ちゃん、P1グランプリのことばっかりなの! 朝から晩までエビワラーの特訓ばっかりで、全然家に帰ってこないんだから!」
「それは優勝するためにだな……」
「いつもそれ!」
「それはちょっと、お父さんが悪いんじゃない?」
カスミが腕を組むと、アノキが言葉に詰まる。
「コダ」
なぜかコダックまで頷いた。
「お前に言われる筋合いはない!」
「コダ?」
サトシは苦笑しながら、マナミとアノキを交互に見る。
「負かすためだけに大会へ出るつもりはないよ。でも、出るからには優勝を狙う」
「オコリザル!」
オコリザルも力強く拳を上げる。
「だからエビワラーと当たったら、本気で戦う。それでいい?」
「うん!」
マナミの顔が明るくなる。
アノキも負けじと笑った。
「言ってくれるじゃないか! だが俺とエビワラーは簡単には負けんぞ!」
「エビワラー!」
「オコリザル!」
二匹の視線がぶつかり、早くも火花が散った。
◇
P1グランプリの会場は、大勢の観客で埋め尽くされていた。
リングでは次々と格闘ポケモンが紹介され、そのたびに歓声が上がる。
「すごい熱気だな」
「ピカ!」
サトシの隣で、オコリザルが拳を鳴らした。
「オコ……!」
強そうなポケモンを見つけるたびに目が輝いている。それでも勝手にリングへ飛び出したりはしない。自分の出番が来るのを、落ち着かないながらもちゃんと待っていた。
サトシはそんなオコリザルへ拳を差し出す。
「ここまで来たんだ。狙うぞ、優勝」
「オコ!」
ごつん、と拳がぶつかった。
◇
初戦の相手はワンリキーだった。
「ワンリキー!」
「オコリザル!」
開始の合図と同時に、オコリザルが飛び出す。
「オコォ!」
迷いなく拳を振るうが、ワンリキーは正面からその腕を受け止めた。
「リキー!」
次の瞬間、オコリザルの身体が宙へ浮く。
「オコ!?」
その勢いを利用され、リングへ投げられた。
「オコリザル!」
すぐに起き上がる。
顔には怒り。
「オコォォ!」
同じように突っ込もうとしたところで、サトシの声が飛んだ。
「待て!」
オコリザルの足が止まる。
「力だけで押すな。相手を見ろ!」
「オコ……」
ワンリキーが構え直す。
今度はオコリザルもすぐには飛び込まなかった。
相手を見る。
ワンリキーが先に踏み込んで拳を放つ。
「横だ!」
「オコ!」
身体をずらしてかわす。
拳が目の前を通り過ぎた。
「今!」
「オコ!」
がら空きになった懐へ潜り込み、拳を叩き込む。
「ワンリキー!」
相手が後ろへ下がった。
勢いのまま追おうとするオコリザルだったが、途中で自分から足を止める。
「オコ……」
ワンリキーを見る。
相手が踏み込む。
その瞬間にかわし、今度はサトシが何も言う前に反撃した。
「オコ!」
拳が決まる。
ワンリキーがリングへ倒れた。
審判の手が上がる。
「勝者、オコリザル!」
「オコリザル!」
「よし!」
サトシも拳を上げた。
初戦突破。
けれど何より大きかったのは、最後の一撃をオコリザル自身が相手を見て放ったことだった。
◇
大会が進むにつれ、相手も強くなっていった。
二回戦では素早く間合いを変える相手に翻弄され、三回戦では正面から力比べを挑まれる。
そのたびにオコリザルは、最初こそ力任せに追いかけようとする。
「焦るな!」
「オコ!」
「相手の動きを見ろ!」
「オコ!」
サトシの声を聞き、一度止まる。
そして見る。
攻撃をかわしたあと、すぐには追わない。相手が次にどちらへ動くかを見て、自分から間合いを調整する。
少しずつ。
本当に少しずつだが、戦い方が変わっていった。
「タマムシジムの時より、ずっとサトシの指示を聞いてるわね」
カスミが感心したように言う。
「それだけじゃない」
タケシはリング上のオコリザルを見つめた。
「自分でも考え始めてる。サトシの指示を待つだけじゃなくて、相手を見て次の動きを選んでるんだ」
サトシにも分かっていた。
元々、身体能力は高い。
強い拳もある。
足も速い。
足りなかったのは、その力をどう使うかだった。
「オコ!」
また一人。
相手がリングへ倒れる。
「勝者、オコリザル!」
歓声の中、オコリザルが拳を高く上げた。
◇
一方で、大会にはどうにも見覚えのある選手が参加していた。
「サワムラー!」
長い脚がしなるように伸び、対戦相手を捉える。
一撃。
相手が大きく吹き飛ばされた。
「強いわね……」
カスミが目を細める。
「サワムラー自体はな」
サトシは、その後ろに立つトレーナーを見る。
帽子。
変装。
顔を隠しているつもりらしい。
「でも、あれコジロウだろ」
「やっぱり?」
「ピカ」
ピカチュウも呆れたように頷く。
するとリングの陰から声が聞こえた。
「このまま勝ち進むニャ……!」
全員の視線がそちらへ向く。
ニャースがいた。
「……」
「……」
「ニャ?」
カスミが指を差す。
「ロケット団じゃない!」
「バレたニャー!?」
結局、ムサシたちの狙いは大会の商品と、会場に集まった強い格闘ポケモンたちだった。
そのためにサワムラーを利用し、さらにはリングの陰でニャースが細工までしている。
「本当に懲りないな」
「ピカァ……」
◇
アノキとエビワラーも順調に勝ち進んでいた。
「エビワラー!」
鋭い連打。
相手の攻撃を最小限の動きでかわし、空いた場所へ拳を入れる。
一歩踏み込んだと思えば、すぐに距離を変える。
「すごいな……」
サトシは素直に感心した。
ただ速いだけではない。
一つ一つの動きが洗練されている。
「オコ……」
隣にいるオコリザルも、黙ってエビワラーを見ていた。
「強いな」
「オコ」
「戦ってみたいだろ?」
「オコリザル!」
「俺もだ」
サトシが笑う。
だが、エビワラーが勝ち進んだ先で待っていたのは、ロケット団のサワムラーだった。
拳と蹴りが激しくぶつかる。
エビワラーの連打をサワムラーが長い脚で押し返し、サワムラーの蹴りをエビワラーが腕で受ける。
「頑張れ、エビワラー!」
マナミが叫ぶ。
アノキも必死に指示を飛ばす。
その最中。
「……ピカチュウ」
サトシはリング際へ目を向けた。
「ピカ」
「頼む」
ピカチュウが駆け出す。
リングの陰では、ニャースがこっそり細工をしようとしていた。
「そこまでだ」
「ニャ!?」
ピカチュウがニャースを押さえる。
「何するニャ!」
「それはこっちの台詞だ。不正するなよ」
細工は止めた。
しかし、リング上の戦いは続いている。
エビワラーとサワムラーは互いに一歩も譲らなかったが、最後はサワムラーの強烈な蹴りが決まり、エビワラーがリングへ倒れた。
「エビワラー!」
アノキが駆け寄る。
マナミもその後を追った。
「お父ちゃん!」
「マナミ……」
「もう十分でしょ!」
アノキは娘を見る。
次に、傷ついたエビワラーへ目を向けた。
勝つこと。
優勝すること。
そのための特訓ばかり考えていた自分を、ようやく振り返ったようだった。
「……すまなかった」
「お父ちゃん?」
「優勝させることばかり考えてた。大会が終わったら、ちゃんと家に帰る」
マナミの表情が明るくなる。
「うん!」
少し離れた場所でそれを見届けたサトシは、再びリングへ視線を向けた。
サワムラー。
次に戦うのは、自分たちだ。
◇
決勝戦。
「オコリザル!」
「サワムラー!」
リング中央で二匹が向かい合う。
サトシはオコリザルの背中を見る。
ここまで何度も戦った。
最初の頃とは、もう目つきが違う。
「ここまで来たな」
「オコ!」
「勝とうぜ」
「オコリザル!」
試合開始。
先に動いたのはサワムラーだった。
長い脚が一気に伸びる。
「横!」
「オコ!」
オコリザルがかわし、そのまま距離を詰める。
「行け!」
拳。
しかしサワムラーは身体を反らして避け、そのまま返すように蹴りを放った。
「オコッ!」
まともに受け、オコリザルが後退する。
「オコォ!」
怒りのまま飛び込もうとした、その瞬間。
「オコリザル!」
サトシの声に足が止まった。
「怒るな」
「オコ……!」
「ここまで何のために戦ってきた?」
オコリザルがサワムラーを見る。
「力だけで勝ってきたわけじゃないだろ」
「……オコ」
拳を握る。
だが。
すぐには飛び出さない。
サワムラーが踏み込む。
一発目の蹴りをかわす。
続く二発目。
これも避ける。
追わない。
ただ見る。
サワムラーの脚。
身体の向き。
踏み込む瞬間の重心。
「オコ……」
サワムラーが大きく脚を振り上げた。
その瞬間。
オコリザルが自分から動いた。
「今だ!」
「オコォ!」
懐へ潜り込む。
長い脚が頭上を通過した。
がら空きになった腹へ拳を叩き込む。
「サワッ!?」
さらに一発。
「オコ!」
サワムラーが後退する。
それでも倒れず、すぐに蹴りを返してきた。
オコリザルは両腕を上げて受け止める。
「オコッ!」
衝撃で身体が揺れる。
痛い。
それでも、もう怒りに任せて突っ込まない。
踏みとどまり。
相手を見る。
サワムラーが次の蹴りへ移ろうとした瞬間。
「行け!」
「オコォォ!」
一気に踏み込む。
拳がサワムラーを捉えた。
「サワァ!」
身体が大きく揺れる。
そして。
リングへ倒れた。
一瞬の静寂。
審判が確認し、腕を上げる。
「サワムラー、戦闘不能! 優勝、オコリザル!」
会場が大歓声に包まれた。
「オコ……」
オコリザルが目を見開く。
自分が勝った。
そのことを理解した瞬間。
「オコリザルーーー!」
両拳を高く突き上げた。
「やったな!」
サトシもリングへ駆け上がる。
「オコ!」
オコリザルが飛びついてきた。
「うわっ!」
そのまま押し倒される。
「重いって!」
「オコリザル!」
「ピカピー!」
ピカチュウも駆け寄り、フシギソウたちもリングのそばから声を上げる。
「ソウ!」
「カゲ!」
「ゼニ!」
「ゴースト!」
仲間たちに囲まれたオコリザルは、満面の笑みを浮かべていた。
怒っているのではない。
ただ純粋に。
勝てたことを喜んでいた。
◇
大会が終わったあと、アノキがサトシのもとへやってきた。
隣にはエビワラーもいる。
「サトシ」
「はい」
「いいオコリザルだ」
「ありがとうございます」
サトシが笑うと、アノキは首を横へ振った。
「だが、まだ粗い」
「オコ!?」
オコリザルの眉間に皺が寄る。
「まあ聞け」
アノキは笑いながら続けた。
「まだ粗いからこそ面白いんだ。身体能力は高い。根性もある。それに今日だけでも、戦いながらどんどん動きが変わっていった」
オコリザルの怒りが少し引く。
「オコ……」
「本格的に格闘を学べば、もっと強くなれる」
アノキは真っ直ぐオコリザルを見た。
「どうだ、サトシ。しばらくこいつを俺に預けてみないか? エビワラーと一緒に鍛えてやりたい」
「オコ……」
オコリザルがサトシを見る。
サトシはすぐには答えなかった。
代わりにしゃがみ、オコリザルと目線を合わせる。
「オコリザル」
「オコ」
「お前が決めていい」
オコリザルが目を瞬いた。
「俺たちとこのまま旅を続けるか、ここに残ってアノキさんから格闘を教えてもらうか。どっちでもいい」
サトシはそれ以上何も言わない。
決めるのはオコリザルだ。
「オコ……」
オコリザルはサトシを見る。
ピカチュウを見る。
フシギソウ、ヒトカゲ、ゼニガメ、ゴースト。
まだ一緒に過ごした時間は長くない。
それでも。
もう仲間だった。
次にエビワラーを見る。
今日の大会で見た、無駄のない拳。
自分にはまだない技術。
そしてアノキ。
しばらく考えたあと。
「オコ」
オコリザルが拳を握った。
エビワラーの前へ歩いていく。
「オコリザル!」
「エビワラー!」
二匹が向かい合う。
それからオコリザルは振り返った。
「オコ!」
その目を見れば十分だった。
サトシは笑う。
「そっか」
寂しくないと言えば嘘になる。
仲間になってから、まだそれほど経っていない。これからもっと一緒に戦えると思っていた。
けれど。
オコリザルが自分で選んだ道だ。
なら。
「分かった」
サトシは立ち上がり、拳を差し出した。
「強くなってこい」
「オコ!」
ごつん。
拳と拳を合わせる。
「修行が終わったら、また一緒に旅しよう」
「オコリザル!」
「約束だ」
「オコ!」
アノキも力強く頷いた。
「責任を持って鍛える」
「お願いします」
「任せろ!」
その横から、マナミがアノキの服を引っ張る。
「でも家にはちゃんと帰るんだからね!」
「わ、分かってる!」
「毎日!」
「分かったと言ってるだろ!」
そのやり取りにカスミが笑った。
「これなら大丈夫そうね」
「コダ」
「あなたは何に頷いてるのよ」
「コダ?」
いつも通りのコダックに、今度はサトシたちも笑った。
◇
夕方。
サトシたちは再び街道を歩き始めていた。
手持ちの仲間は一匹減った。
ピカチュウ。
フシギソウ。
ヒトカゲ。
ゼニガメ。
ゴースト。
オコリザルがいなくなっただけなのに、どこか少し静かに感じる。
「寂しい?」
隣を歩くカスミが聞いた。
「少しな」
サトシは素直に答えた。
肩の上でピカチュウも小さく鳴く。
「ピカ……」
「でも、自分で決めたことだから」
サトシは一度だけ振り返った。
遠く離れた場所に、アノキたちのいる街がある。
「次に会う時、どこまで強くなってるか楽しみだ」
「ピカ!」
その頃。
アノキのもとでは、早くもオコリザルとエビワラーが向かい合っていた。
「オコォ!」
勢いよく拳を振るう。
だがエビワラーは最小限の動きでかわした。
「エビワラー!」
すぐに反撃。
「オコッ!」
オコリザルが後ろへ下がる。
「力任せに追うな!」
アノキの声が飛ぶ。
「相手を見ろ!」
「オコ……!」
オコリザルは一度足を止めた。
拳を握り直す。
エビワラーを見る。
呼吸を整え。
もう一度。
「オコリザル!」
地面を蹴った。
それぞれの場所で強くなる。
いつか、また一緒に戦う日のために。