ポケットモンスター ―君と目指す頂―   作:あああああ

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第59話 セキチクにんじゃたいけつ!

ディグダたちの山を離れてから、サトシたちはセキチクシティを目指して旅を続けていた。

 

次の目的は、もちろんセキチクジム。

 

サトシがこれまでに集めたバッジは五つ。ニビシティのグレーバッジ、ハナダシティのブルーバッジ、クチバシティのオレンジバッジ、ヤマブキシティのゴールドバッジ、そしてタマムシシティのレインボーバッジ。

 

ポケモンリーグ出場に必要な八個まで、あと三個だった。

 

「セキチクジムで勝てば六個目か」

 

「ピカ!」

 

肩の上でピカチュウが元気よく前足を上げる。

 

その後ろではフシギソウとゼニガメが並んで歩き、少し離れたところをヒトカゲが進んでいた。ゴーストは木々の間を好き勝手に飛び回り、ベトベトンは――。

 

「ベットォ!」

 

「だから急に来るなって!」

 

サトシが横へ飛び退く。

 

直後、大きな紫色の身体が先ほどまでサトシのいた場所へ飛び込んだ。

 

「ベット?」

 

「なんで避けるの、みたいな顔するな」

 

「ベットォ……」

 

露骨に落ち込む。

 

「そんな顔されてもな……」

 

サトシが困ったように頭を掻くと、カスミが笑った。

 

「抱きつかせてあげればいいじゃない」

 

「じゃあカスミがやってみる?」

 

「遠慮しとく」

 

「即答かよ」

 

「コダ?」

 

「コダックも近づいちゃ駄目よ」

 

「コダ」

 

その横では、タケシのロコンがベトベトンから絶妙な距離を保って歩いている。

 

「コン」

 

毛並みを汚されたくないらしい。

 

旅の仲間になってまだ日は浅いものの、ベトベトンはすっかり一行に馴染んでいた。

 

ただし。

 

サトシは歩きながらベトベトンを見る。

 

一緒に旅をすることと、バトルで息を合わせることは別だ。

 

発電所では協力して戦ったものの、まだベトベトンがどういう戦い方を得意とするのか、十分には分かっていない。

 

これから少しずつ知っていけばいい。

 

そう考えていると。

 

「サトシ、あれじゃないか?」

 

タケシが前方を指差した。

 

森の中。

 

木々に囲まれるようにして、一軒の大きな屋敷が建っている。

 

「セキチクジム?」

 

カスミが首を傾げる。

 

「ジムっていうより……」

 

サトシも建物を見上げる。

 

「忍者屋敷だな」

 

「ピカ」

 

どこか嫌な予感がする。

 

それでも。

 

「行ってみよう」

 

サトシたちは屋敷へ足を踏み入れた。

 

◇

 

入ってすぐ。

 

「……どっちだ?」

 

廊下が二つに分かれていた。

 

「案内くらい置いておけばいいのに」

 

カスミが文句を言う。

 

「ジムなんだから、挑戦者を試してるのかもしれないな」

 

タケシが壁を見る。

 

「忍者屋敷なら仕掛けがあっても――」

 

がこん。

 

「え?」

 

足元が開いた。

 

「うわあああっ!?」

 

サトシ、カスミ、タケシがまとめて落ちる。

 

「ピカァ!」

 

ピカチュウもサトシの肩へしがみついた。

 

数秒後。

 

どさどさどさっ!

 

「痛たた……」

 

「何なのよ、このジム!」

 

「いきなり落とし穴か……」

 

三人が身体を起こす。

 

すると。

 

「ゴースト!」

 

頭上から楽しそうな笑い声。

 

ゴーストだけが床をすり抜け、空中に浮いていた。

 

「……」

 

カスミが見上げる。

 

「ゴーストだけずるい!」

 

「ゴースト!」

 

ゴーストはさらに笑った。

 

「こいつ絶対楽しんでるな」

 

サトシが苦笑する。

 

どうにか元の廊下へ戻り、今度こそ慎重に進む。

 

だが。

 

壁が回る。

 

「うわっ!」

 

別の通路へ放り出される。

 

天井から何かが落ちる。

 

「危ない!」

 

タケシが避ける。

 

床が傾く。

 

「また!?」

 

カスミが滑る。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウがサトシの肩から跳び、器用に着地する。

 

そのたびにゴーストだけは壁や床をすり抜け、何事もなかったように先へ進んでいく。

 

「ゴースト!」

 

「だから笑わないでよ!」

 

「まあまあ」

 

「サトシも笑ってるじゃない!」

 

そんな騒ぎを繰り返しながら進んでいると、不意に。

 

シュッ!

 

何かが飛んできた。

 

「!」

 

サトシが身体を反らす。

 

壁へ刺さったのは手裏剣――ではなく、それを模した仕掛けだった。

 

「何者!」

 

女性の声。

 

天井近くの梁から、一人の少女が飛び降りる。

 

「この先へ進みたければ、まず私を倒してからよ!」

 

「えっと……」

 

サトシは少女を見る。

 

「俺たち、ジム戦をしに来たんだけど」

 

「だからよ!」

 

少女が構える。

 

「私はアヤ! セキチクジムの忍者!」

 

「忍者……」

 

「本当にいたのね」

 

カスミが小声で言う。

 

「聞こえてる!」

 

「ごめん」

 

アヤがモンスターボールを構えた、そのとき。

 

「そこまでだ、アヤ」

 

奥から低い声が響いた。

 

全員が振り返る。

 

忍者装束をまとった男が、静かに立っている。

 

「兄者!」

 

アヤが振り返った。

 

男はサトシたちを見る。

 

「よくここまで辿り着いた」

 

「あなたがジムリーダー?」

 

「ああ。拙者はキョウ。セキチクジムのジムリーダーだ」

 

サトシの表情が変わる。

 

ここからは挑戦者として。

 

一歩前へ。

 

「俺はマサラタウンのサトシです」

 

肩のピカチュウも前を向く。

 

「ピカ!」

 

「セキチクジムに挑戦しに来ました」

 

キョウは静かに頷いた。

 

「よかろう。その挑戦、受けよう」

 

◇

 

案内されたバトル場も、やはり普通ではなかった。

 

屋内に作られた広い空間。

 

柱。

 

壁。

 

足場。

 

至るところに忍者屋敷らしい仕掛けがある。

 

「ここで戦うのか」

 

「環境を見極めることもトレーナーの力」

 

キョウが反対側へ立つ。

 

「己のポケモンの力だけを頼りにしていては、拙者には勝てぬぞ」

 

「望むところです」

 

サトシは腰のボールへ手を伸ばす。

 

誰を出すか。

 

少し考え。

 

一つのボールを握った。

 

「最初はお前だ!」

 

投げる。

 

「ベトベトン!」

 

光が広がる。

 

「ベットォ!」

 

大きな身体がフィールドへ現れた。

 

「ベトベトン?」

 

カスミが少し驚く。

 

「加入してから初めてのちゃんとしたバトルね」

 

「ああ」

 

タケシが頷く。

 

「サトシも、ここでベトベトンの戦い方を見たいんだろう」

 

キョウはベトベトンを見ても表情を変えなかった。

 

「面白い」

 

モンスターボールを投げる。

 

「行け!」

 

光。

 

相手が姿を現す。

 

サトシはすぐに身構えた。

 

「始め!」

 

合図。

 

相手が動く。

 

「ベトベトン、正面から受けるな! 横へ!」

 

「ベットォ!」

 

ベトベトンが動く。

 

しかし。

 

「そっちじゃない!」

 

「ベット?」

 

逆。

 

攻撃が迫る。

 

「ベットォ!?」

 

直撃。

 

身体がぐにゃりと変形し、ベトベトンが後ろへ押された。

 

「やっぱりまだ指示に慣れてないか」

 

サトシは焦らない。

 

加入して数日。

 

最初から完璧に動ける方がおかしい。

 

「大丈夫! 次は俺の声をよく聞いてくれ!」

 

「ベット!」

 

相手が再び迫る。

 

今度はサトシも、ベトベトンへ細かく方向を指示するのをやめた。

 

「そのまま受けろ!」

 

「ベットォ!」

 

「何?」

 

キョウの目が細くなる。

 

攻撃がベトベトンへ当たる。

 

柔らかな身体が大きくへこむ。

 

だが。

 

「ベット!」

 

倒れない。

 

むしろ。

 

相手の身体がベトベトンへ沈み込んだ。

 

「今だ、捕まえろ!」

 

「ベットォ!」

 

身体全体で包み込む。

 

「そうか!」

 

タケシが気づいた。

 

「無理に普通のポケモンみたいに避けさせる必要がないんだ!」

 

「ベトベトンの身体を使う!」

 

サトシも笑う。

 

「そのまま押し返せ!」

 

「ベットォォ!」

 

柔らかな身体が一気に動いた。

 

相手を弾き飛ばす。

 

どんっ!

 

「よし!」

 

「ベット!」

 

初めて。

 

サトシとベトベトンの動きが噛み合った。

 

キョウは静かにそれを見る。

 

「なるほど。戦いながら相手を知るか」

 

「まだ仲間になったばかりなんです」

 

サトシはベトベトンを見る。

 

「だから今、知っていけばいい!」

 

「ベットォ!」

 

嬉しそうに鳴く。

 

「ただしこっちに来るなよ!」

 

「ベット?」

 

「今はバトル中だから!」

 

◇

 

勝負は続いた。

 

キョウの戦い方は厄介だった。

 

単純に正面から攻めてこない。

 

柱を利用する。

 

視界から消える。

 

攻撃の角度を変える。

 

さらに毒を絡め、少しずつこちらの動きを削ってくる。

 

「慌てるな、ベトベトン!」

 

「ベット!」

 

毒そのものを見れば、タマムシジムでの経験がある。

 

フシギソウが『どくどく』を覚え、実際のジム戦でも使った。

 

だからこそ。

 

毒を受けたからといって、すぐに勝負が終わるわけではないと分かっている。

 

「相手を追いかけるな!」

 

「ベット!」

 

見えない相手を無理に追わせない。

 

ベトベトンはその場で構える。

 

柱の陰。

 

気配。

 

動く影。

 

「今!」

 

「ベットォ!」

 

身体を大きく伸ばす。

 

相手が飛び出したところへ合わせる。

 

命中。

 

「よし!」

 

ベトベトンが押す。

 

少しずつ。

 

連携ができていく。

 

最初はサトシの言葉と動きが合わなかった。

 

今は。

 

「ベトベトン!」

 

「ベット!」

 

名前を呼ぶだけで、こちらを見る。

 

「前!」

 

「ベットォ!」

 

動く。

 

「止まれ!」

 

「ベット!」

 

止まる。

 

まだ荒い。

 

それでも。

 

確実に変わっていた。

 

そして――。

 

「そこだ!」

 

「ベットォォ!」

 

最後の一撃。

 

相手が倒れる。

 

「……」

 

審判役のアヤが確認する。

 

「戦闘不能!」

 

「やった!」

 

「ピカ!」

 

カスミたちの横にいるピカチュウが前足を上げる。

 

「ベットォ!」

 

ベトベトンがサトシへ振り返る。

 

「よくやった!」

 

「ベットォォ!」

 

「待て」

 

迫る。

 

「今は待て!」

 

「ベットォ!」

 

「うわっ!」

 

べちゃっ。

 

押し倒された。

 

「ピカピカ!」

 

「だからバトル中だって!」

 

「ベットォ~」

 

嬉しいものは嬉しいらしい。

 

◇

 

「面白いポケモンだ」

 

キョウが次のボールを構える。

 

「だが、ここからだ」

 

「戻れ、ベトベトン」

 

サトシがボールを向ける。

 

「ベット?」

 

「まだ戦いたそうだけど、毒も受けてる。ここからは交代だ」

 

「ベット……」

 

「十分頑張ったよ」

 

「ベット」

 

納得したようにボールへ戻る。

 

サトシは次の一匹を考える。

 

そのとき。

 

ドォン!

 

建物が揺れた。

 

「何!?」

 

アヤが振り返る。

 

天井の一部から煙が上がる。

 

そして。

 

「なんだかんだと聞かれたら!」

 

「答えてあげるが世の情け!」

 

「……またか」

 

サトシの肩が落ちる。

 

「ピカァ……」

 

ピカチュウも同じ顔。

 

壁を突き破るように現れたのは。

 

「世界の破壊を防ぐため!」

 

「世界の平和を守るため!」

 

ムサシ。

 

コジロウ。

 

ニャース。

 

そして。

 

「アーボック!」

 

「マタドガース!」

 

進化した二匹。

 

「昨日進化したばっかりでもう来たのか」

 

「何よその反応!」

 

ムサシが怒る。

 

「もっと驚きなさいよ!」

 

「進化したところは見てたし」

 

「そういう問題じゃない!」

 

「アーボック!」

 

アーボックが大きく身体を起こす。

 

以前のアーボとは違う。

 

体格も。

 

威圧感も。

 

「マタドガース!」

 

マタドガスも煙を吐きながら浮かぶ。

 

「昨日より確実に強そうだな」

 

サトシの表情が変わった。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウも前へ。

 

「拙者のジムで好き勝手をするとは」

 

キョウが静かにロケット団を見る。

 

「覚悟はできているのだろうな?」

 

「何よ!」

 

「忍者だろうがジムリーダーだろうが関係ない!」

 

「今日こそピカチュウと、このジムのポケモンをいただくニャ!」

 

アヤもボールを構える。

 

「兄者!」

 

「行くぞ」

 

「はい!」

 

サトシも頷く。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

◇

 

進化した二匹は、やはり以前とは違った。

 

アーボックが床を這う速度が上がっている。

 

マタドガスも身体が大きくなっただけでなく、以前より広い範囲へ煙を広げる。

 

「ピカチュウ、煙の外へ!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが『でんこうせっか』で駆ける。

 

アーボックが追う。

 

「アーボック!」

 

長い身体が一気に迫った。

 

「上!」

 

ピカチュウが跳ぶ。

 

その下をアーボックが通過する。

 

「ピカ!」

 

着地。

 

すぐ振り返る。

 

「10まんボルト!」

 

「ピッカァァ――チュウ!」

 

電撃が走る。

 

しかし。

 

「マタドガス!」

 

マタドガスが割り込む。

 

爆発。

 

煙。

 

「前より耐える!」

 

カスミが声を上げる。

 

「進化したんだ。当然だ!」

 

サトシは煙を見つめる。

 

その中からアーボックが飛び出した。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

間に合わない。

 

その瞬間。

 

「ゴースト!」

 

床からゴーストが現れた。

 

「シャドーパンチ!」

 

「ゴースト!」

 

拳。

 

アーボックの顔へ命中。

 

「アーボック!?」

 

軌道が逸れる。

 

「ありがとう、ゴースト!」

 

「ゴースト!」

 

キョウたちも同時に動く。

 

アヤのポケモンがマタドガスの動きを止め、キョウがアーボックを牽制する。

 

「今だ!」

 

サトシが叫ぶ。

 

「ピカチュウ、エレキボール!」

 

「ピカ!」

 

尻尾の先に電気が集まる。

 

黄色い球体。

 

「ピーカ!」

 

放つ。

 

アーボックとマタドガスの間へ。

 

着弾。

 

爆発。

 

「まだよ!」

 

煙の中からムサシの声。

 

二匹は倒れていない。

 

「本当に強くなってるな」

 

サトシは笑った。

 

それなら。

 

「こっちもちゃんとやる!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが構える。

 

マタドガスが煙を広げる。

 

視界が消える。

 

だが。

 

サトシは慌てない。

 

波導へ意識を向ける。

 

この程度なら。

 

煙の向こうにいる仲間の位置を掴む。

 

ピカチュウ。

 

右前。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

声。

 

ピカチュウがこちらを見る。

 

細かな位置を言葉にする必要はない。

 

「右へ走れ!」

 

「ピカ!」

 

『でんこうせっか』。

 

煙の中を駆ける。

 

アーボックの攻撃が空を切った。

 

「そのまま前!」

 

「ピカ!」

 

煙を抜ける。

 

マタドガスが目の前。

 

「アイアンテール!」

 

「ピッカ!」

 

尻尾が光る。

 

振り抜く。

 

「マタドガス!」

 

直撃。

 

マタドガスがアーボックの方へ吹き飛ばされた。

 

「仕上げだ!」

 

ピカチュウが着地する。

 

「10まんボルト!」

 

「ピカァァァ――チュウ!」

 

強烈な電撃。

 

二匹まとめて包み込む。

 

「アーボック!」

 

「マタドガース!」

 

「そんなぁ!」

 

「進化したのに!」

 

「まだ一日しか経ってないニャー!」

 

爆発。

 

ロケット団が屋根を突き破る。

 

「やな感じー!」

 

遠ざかっていく声。

 

しばらくして。

 

ぱらぱら。

 

壊れた天井の欠片が落ちてきた。

 

「……」

 

カスミが上を見る。

 

「また壊したわね」

 

「俺じゃないだろ」

 

「ピカ」

 

◇

 

騒ぎが収まり、負傷したポケモンたちの状態を確認する。

 

幸い、大きな怪我はない。

 

ベトベトンも毒への処置を受け、少し休ませれば問題ないという。

 

そして。

 

キョウは再びフィールドへ立った。

 

「邪魔が入ったな」

 

「はい」

 

「どうする?」

 

問われたサトシは迷わない。

 

「もちろん続けます」

 

「ピカ!」

 

キョウの口元が僅かに上がる。

 

「よかろう」

 

中断されていたジム戦が再開された。

 

サトシは次のボールを握る。

 

相手の毒。

 

地形。

 

隠れる場所。

 

全部を見る。

 

「行くぞ!」

 

光が広がる。

 

戦いは先ほど以上に激しくなった。

 

キョウは柱や影を使い、真正面から狙わせない。

 

サトシも一つの戦い方には固執しない。

 

追えば逃げられるなら、追わない。

 

相手から来させる。

 

視界を奪われるなら、音と動きを見る。

 

毒を受けても焦らない。

 

これまでの旅。

 

これまでのバトル。

 

その一つ一つが、ここで繋がっていく。

 

「そこだ!」

 

サトシの声。

 

最後の攻撃が決まった。

 

キョウのポケモンがフィールドへ倒れる。

 

静寂。

 

アヤが確認する。

 

そして。

 

「戦闘不能!」

 

腕を上げた。

 

「勝者、マサラタウンのサトシ!」

 

「……!」

 

サトシの表情が明るくなる。

 

「やった!」

 

「ピッカ!」

 

ピカチュウが胸へ飛び込んできた。

 

「ピカチュウ!」

 

受け止める。

 

「勝ったな!」

 

「ピカ!」

 

カスミとタケシも駆け寄ってくる。

 

「六個目ね!」

 

「ああ!」

 

キョウが静かに歩み寄った。

 

手には一つのバッジ。

 

「見事だった」

 

「ありがとうございます」

 

「力だけではない。戦いの中でポケモンを見て、相手を見て、戦い方を変える。それができる者には、これを持つ資格がある」

 

キョウが差し出す。

 

「ピンクバッジだ」

 

サトシは受け取った。

 

手のひらの上。

 

六個目のバッジ。

 

「……よし!」

 

高く掲げる。

 

「ピンクバッジ、ゲットだぜ!」

 

「ピッカチュウ!」

 

◇

 

ジムを出る前。

 

サトシはベトベトンをボールから出した。

 

「ベット?」

 

「今日はありがとう」

 

「ベットォ!」

 

「最初は全然合わなかったけどな」

 

「ベット……」

 

「落ち込むなって」

 

サトシは笑って、大きな身体へ手を置いた。

 

「俺もお前のこと、まだ全然知らないからさ」

 

「ベット?」

 

「これからもっと一緒に戦って、お前が得意なことを覚えていく。だから次は、今日よりもっと上手くやろう」

 

「ベットォ!」

 

ベトベトンの顔が一気に明るくなる。

 

「うん。だから――」

 

サトシは一歩下がった。

 

「抱きつくならゆっくり――」

 

「ベットォォ!」

 

「やっぱり聞いてない!」

 

べちゃっ!

 

再び押し倒された。

 

「ピカピカ!」

 

「ソウ!」

 

「ゼニゼニ!」

 

仲間たちが笑う。

 

「ベットォ~」

 

「分かった、分かったから……!」

 

大きな身体の下からサトシがどうにか顔を出す。

 

その手には。

 

新しく手に入れたピンクバッジ。

 

これで六個。

 

ポケモンリーグまで。

 

残るバッジは、あと二つだった。

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