ポケットモンスター ―君と目指す頂―   作:あああああ

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第63話 ぼうそうぞくとサイクリングロード

サファリゾーンを出発してから、しばらく。

 

サトシたちは次の街を目指し、海沿いの道を歩いていた。

 

「ミニュ!」

 

「ピカ!」

 

先頭ではピカチュウとミニリュウが競うように進んでいる。

 

ミニリュウが仲間になってから、まだそれほど時間は経っていない。

 

それでも、最初に比べれば随分と馴染んできた。

 

最初はピカチュウたちが近づくだけでも少し警戒していたが、今ではピカチュウとはこうして遊ぶようになっている。

 

「速いぞ、二匹とも!」

 

「ピカ!」

 

「ミニュ!」

 

サトシが呼びかけると、二匹が同時に振り返った。

 

「なんだか楽しそうね」

 

カスミが笑う。

 

「野生だった頃は一匹で暮らしてたみたいだからな」

 

タケシがミニリュウを見る。

 

「仲間がいる環境そのものが新鮮なのかもしれない」

 

「そうだな」

 

サトシも頷く。

 

捕獲した。

 

だから仲間。

 

それだけで終わりではない。

 

一緒に食事をする。

 

歩く。

 

遊ぶ。

 

バトルする。

 

そういう毎日の積み重ねで、本当の意味で仲間になっていく。

 

「焦らなくていいさ」

 

「ミニュ?」

 

ミニリュウが首を傾げる。

 

「これから長いんだから」

 

「ミニュ!」

 

意味を全部理解したわけではないだろう。

 

それでもミニリュウは嬉しそうに鳴くと、再びピカチュウを追いかけた。

 

その姿を見ながら、サトシも歩き出した。

 

◇

 

昼過ぎ。

 

一行は海沿いに建つポケモンセンターへ到着した。

 

「今日はここで休んでいく?」

 

カスミが尋ねる。

 

「そうだな。ミニリュウも旅を始めたばかりだし、一度診てもらおう」

 

「ピカ」

 

「ミニュ?」

 

「健康診断みたいなものだよ」

 

「ミニュ!」

 

中へ入る。

 

ところが。

 

いつものポケモンセンターとは少し様子が違った。

 

ジョーイが通信機の前で、何度も連絡を取っている。

 

「お願いします。何とか――」

 

通信が切れる。

 

「ジョーイさん?」

 

タケシが真っ先に反応した。

 

「何かあったんですか!?」

 

その勢いにカスミが半眼になる。

 

「相変わらずね」

 

「実は……」

 

ジョーイは困ったように一枚の地図を広げた。

 

「この先にあるポケモンセンターで、急病のポケモンがいるんです」

 

「急病?」

 

サトシの表情が変わる。

 

「治療に必要な薬がこちらにしかなくて、本来ならすぐ届ける予定だったんですが……」

 

ジョーイが窓を見る。

 

空には黒い雲が集まり始めていた。

 

「天候が崩れる前に届けたいんです。でも、最短ルートはサイクリングロードで……」

 

「だったら俺たちが届けます」

 

サトシは即答した。

 

「サトシ?」

 

「待ってるポケモンがいるんだろ?」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウも頷く。

 

「私も行くわ」

 

「もちろん俺もだ」

 

カスミとタケシも並ぶ。

 

ジョーイは三人を見ると、深く頭を下げた。

 

「お願いします」

 

◇

 

用意された自転車に乗り。

 

三人はサイクリングロードへ入った。

 

「気持ちいいな!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウはサトシの前の籠に乗っている。

 

ミニリュウたちは一度ボールへ戻していた。

 

薬はタケシが濡れないよう厳重に包んで持っている。

 

「でも、のんびりしてる場合じゃないわよ!」

 

「分かってる!」

 

長い道。

 

海から吹く風。

 

遠くでは雲がさらに濃くなっている。

 

サトシたちは速度を上げた。

 

だが。

 

道の中央。

 

何台もの自転車が並んでいた。

 

「止まりな!」

 

先頭の一人が道を塞ぐ。

 

「……何?」

 

カスミが眉をひそめる。

 

派手な格好をした少年少女たち。

 

それぞれが自転車に乗っている。

 

「ここを通りたきゃ、俺たちに挨拶してもらおうか」

 

「今急いでるんだ」

 

サトシが答える。

 

「ポケモンの薬を届けないといけない。悪いけど通してくれ」

 

「そんな簡単に通せるかよ!」

 

「ここは俺たちの縄張りなんだからな!」

 

サトシは小さく息を吐いた。

 

「道路だろ」

 

「ピカ」

 

ピカチュウも同意する。

 

「なんだと!?」

 

一人が前へ出る。

 

「だったらポケモン勝負だ!」

 

「勝ったら通すってこと?」

 

「もちろんだ!」

 

サトシは空を見る。

 

まだ時間はある。

 

ここで延々と言い争うより早い。

 

「分かった」

 

自転車から降りる。

 

「一戦だけだ」

 

「その余裕、後悔させてやる!」

 

相手がボールを投げる。

 

光の中からポケモンが現れた。

 

サトシは腰へ手を伸ばす。

 

一瞬。

 

ピカチュウを見る。

 

「ピカ?」

 

そして。

 

別のボールを取った。

 

「ミニリュウ、行こう!」

 

光。

 

「ミニュ!」

 

ミニリュウが地面へ降り立つ。

 

初めて見る場所。

 

初めての正式なトレーナー戦。

 

その目が一気に鋭くなる。

 

「やる気十分だな」

 

「ミニュ!」

 

「じゃあ行くぞ!」

 

◇

 

開始直後。

 

相手のポケモンが突っ込んでくる。

 

「ミニリュウ、たつまき!」

 

「ミニュ!」

 

風が集まる。

 

だが。

 

ミニリュウはサトシが想定したより早く放った。

 

「まだ――!」

 

『たつまき』が相手の手前を通過する。

 

かわされた。

 

そのまま相手が距離を詰める。

 

「ミニュ!」

 

ミニリュウが自分の判断で『アクアテール』。

 

水をまとった尾を振るう。

 

しかし。

 

今度はサトシが別の動きを指示しようとしていた。

 

「ミニリュウ、右へ――」

 

声が重なる。

 

一瞬の迷い。

 

その隙を突かれた。

 

「ミニュッ!」

 

攻撃を受け、地面を滑る。

 

「ミニリュウ!」

 

「ミニュ……!」

 

すぐに起き上がる。

 

ダメージそのものは大きくない。

 

問題は別だった。

 

「……噛み合ってないな」

 

捕獲したときは。

 

サトシ対ミニリュウだった。

 

互いに相手を倒すために動いていた。

 

今は違う。

 

一緒に戦う。

 

その経験が、まだ足りない。

 

「ミニュ!」

 

ミニリュウが相手を睨む。

 

サトシは少し考え。

 

「ミニリュウ!」

 

呼ぶ。

 

ミニリュウが振り返る。

 

「一回、お前の好きに動いてみろ」

 

「ミニュ?」

 

「俺がお前に合わせる」

 

細かく縛る必要はない。

 

まず。

 

このミニリュウがどう戦いたいのかを見る。

 

「行け!」

 

「ミニュ!」

 

ミニリュウが走った。

 

相手が迎え撃つ。

 

「ミニュ!」

 

身体をしならせる。

 

右。

 

左。

 

サトシは見る。

 

ミニリュウの視線。

 

尾。

 

相手との距離。

 

――ここか。

 

「今だ!」

 

ほぼ同時。

 

「ミニュ!」

 

『アクアテール』。

 

今度はサトシの声とミニリュウの動きが重なった。

 

バシィッ!

 

直撃。

 

相手がよろめく。

 

「そのまま距離を取れ!」

 

「ミニュ!」

 

ミニリュウが後ろへ跳ぶ。

 

「たつまき!」

 

「ミニュ!」

 

今度は。

 

狙い通り。

 

巻き起こった風が相手を捉える。

 

「よし!」

 

「ミニュ!」

 

相手が倒れた。

 

勝負あり。

 

「やった!」

 

「ピカピカ!」

 

サトシがしゃがむ。

 

戻ってきたミニリュウと目線を合わせる。

 

「最初より良かっただろ?」

 

「ミニュ!」

 

「まだまだこれからだな」

 

「ミニュ!」

 

ミニリュウも悔しさより、次を楽しみにしているようだった。

 

サトシは笑って、その頭を撫でた。

 

◇

 

「約束だ。通してくれ」

 

サトシが立ち上がる。

 

暴走族たちは顔を見合わせる。

 

「仕方ねえな」

 

道を空けようとした。

 

そのとき。

 

「ちょっと待ったー!」

 

聞き覚えのある声。

 

「……」

 

サトシたちの表情が一斉に止まる。

 

現れたのは。

 

妙に派手な自転車へ乗った三人組。

 

「このサイクリングロードに!」

 

「伝説のライダーが帰ってきた!」

 

「ニャー!」

 

「ロケット団……」

 

サトシが額を押さえる。

 

「何しに来たのよ!」

 

カスミが叫ぶ。

 

「何しにって失礼ね!」

 

ムサシが胸を張る。

 

「私たちは昔、この辺りじゃちょっとした有名人だったのよ!」

 

「俺たちの華麗な自転車さばき!」

 

コジロウも得意げだ。

 

暴走族の何人かが二人を見る。

 

「あれ?」

 

「もしかして……」

 

「ムサシさん?」

 

「コジロウさん?」

 

「え?」

 

サトシが振り返る。

 

「知り合い?」

 

「昔の仲間よ!」

 

ムサシが得意げに髪を払う。

 

「……本当に暴走族だったんだ」

 

「ピカ……」

 

「何よその反応!」

 

「いや、妙に納得しただけ」

 

「どういう意味よ!」

 

その横。

 

コジロウは昔話を始めている。

 

サトシは空を見上げた。

 

ポツ。

 

頬へ水滴。

 

「雨……」

 

「まずい」

 

タケシも気づく。

 

「急ごう。薬を濡らすわけにはいかない」

 

「そうだった!」

 

サトシは自転車へ戻る。

 

「悪いけど、俺たちは行く!」

 

◇

 

雨は。

 

想像以上に早く強くなった。

 

「うわっ!」

 

風。

 

横殴りの雨。

 

自転車が揺れる。

 

「サトシ! 速度落として!」

 

「分かった!」

 

前が見えにくい。

 

路面も滑る。

 

無理に速度を上げれば転倒する。

 

だが。

 

遅すぎれば薬が間に合わないかもしれない。

 

「タケシ、薬は!?」

 

「大丈夫だ! 濡れてない!」

 

「よし!」

 

雷鳴。

 

ゴロゴロゴロ。

 

「ピカ……!」

 

籠のピカチュウが空を見る。

 

「大丈夫」

 

サトシが声をかける。

 

そのとき。

 

後ろから声。

 

「待ちなさーい!」

 

「何!?」

 

振り返る。

 

暴走族。

 

そして。

 

ムサシとコジロウたち。

 

「なんでついてくるのよ!」

 

カスミが叫ぶ。

 

「こんな嵐の中を走るって聞いたら放っておけるか!」

 

「サイクリングロードを甘く見るんじゃないわよ!」

 

さっきまで道を塞いでいた暴走族まで一緒だ。

 

「道案内する!」

 

「風が強い場所は俺たちが知ってる!」

 

サトシは一瞬驚き。

 

すぐに笑った。

 

「頼む!」

 

「おう!」

 

◇

 

集団で進む。

 

風を避ける場所。

 

滑りやすい場所。

 

暴走族たちは、この道を知り尽くしていた。

 

「次のカーブは外側に膨らむな!」

 

「分かった!」

 

「その先、橋だ!」

 

橋。

 

海から吹きつける風がさらに強くなる。

 

自転車が流される。

 

「くっ!」

 

サトシがハンドルを握り締める。

 

その瞬間。

 

前方。

 

倒木。

 

「止まれ!」

 

急ブレーキ。

 

全員が止まる。

 

「こんな時に……!」

 

カスミが叫ぶ。

 

大きな木が完全に道を塞いでいる。

 

「回り道は?」

 

「ここからじゃ遠すぎる!」

 

「だったら退かす!」

 

サトシがボールを取る。

 

「みんな、手伝ってくれ!」

 

光が広がる。

 

「ソウ!」

 

「カゲ!」

 

「ゼニ!」

 

「ゴースト!」

 

「ミニュ!」

 

フシギソウ。

 

ヒトカゲ。

 

ゼニガメ。

 

ゴースト。

 

そしてミニリュウ。

 

「フシギソウ、つるのムチ!」

 

「ソウ!」

 

つるが倒木へ巻きつく。

 

「ミニリュウも!」

 

サトシが言いかけ。

 

止める。

 

「ミニリュウ、どこを動かせばいいと思う?」

 

「ミニュ?」

 

ミニリュウが倒木を見る。

 

フシギソウを見る。

 

そして。

 

根元側へ移動する。

 

身体を巻きつけた。

 

「そこか!」

 

「ミニュ!」

 

引く。

 

フシギソウとは別方向。

 

木が少し動く。

 

「いいぞ!」

 

「ソウ!」

 

「ミニュ!」

 

二匹が力を合わせる。

 

暴走族たちも加わる。

 

「押せ!」

 

「せーの!」

 

木が。

 

ゆっくり。

 

道の端へ動いていく。

 

「もう少し!」

 

ヒトカゲとゼニガメも身体を押しつける。

 

「カゲ!」

 

「ゼニ!」

 

最後に。

 

ドン!

 

通れるだけの隙間ができた。

 

「よし!」

 

サトシがミニリュウを見る。

 

「今の良かったぞ!」

 

「ミニュ!」

 

嬉しそうに鳴く。

 

指示されたから動いたのではない。

 

自分で考え。

 

サトシがそれを見て合わせた。

 

バトルだけではない。

 

こういう積み重ねも。

 

一緒に旅をするということなのだろう。

 

◇

 

ようやく。

 

雨の向こうに建物が見えた。

 

「ポケモンセンター!」

 

「着いた!」

 

自転車を止める。

 

タケシが薬を抱えて中へ走る。

 

「ジョーイさん!」

 

「薬です!」

 

「ありがとうございます!」

 

ジョーイが受け取る。

 

そのまま治療室へ。

 

サトシたちは。

 

ずぶ濡れのまま。

 

その場に立っていた。

 

「間に合った……」

 

「ピカァ……」

 

サトシは壁へ背を預ける。

 

カスミも座り込む。

 

「もう……最悪」

 

「でも届けられた」

 

「そうね」

 

少しして。

 

治療室からジョーイが出てきた。

 

「間に合いました」

 

その一言。

 

全員の身体から力が抜ける。

 

「よかったぁ……」

 

カスミが息を吐く。

 

サトシも笑う。

 

「本当によかった」

 

「ピカ」

 

◇

 

雨が弱まった頃。

 

センターの軒下。

 

サトシはミニリュウと並んで外を見ていた。

 

「ミニュ」

 

「疲れた?」

 

「ミニュ!」

 

まだ元気らしい。

 

「そっか」

 

サトシが笑う。

 

「俺は疲れた」

 

「ミニュ?」

 

「自転車って結構きついんだぞ」

 

「ピカピカ」

 

横のピカチュウが笑う。

 

「お前は籠に乗ってただけだろ」

 

「ピカ!」

 

ミニリュウがサトシを見る。

 

少し。

 

近づく。

 

「ん?」

 

身体を。

 

サトシの腕へ軽く巻きつけた。

 

「ミニュ」

 

「……どうした?」

 

「ミニュ」

 

サトシは一瞬驚き。

 

やがて。

 

その頭を撫でる。

 

「今日はありがとう」

 

最初のバトルでは。

 

指示が噛み合わなかった。

 

それでも。

 

少しずつ。

 

ミニリュウの考えを見て。

 

ミニリュウもサトシを見るようになった。

 

まだ始まったばかり。

 

それでいい。

 

「これからもよろしくな」

 

「ミニュ!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウも間へ入ってくる。

 

「お前もな」

 

「ピカピカ!」

 

そのとき。

 

「サトシー!」

 

カスミの声。

 

「そろそろ出発するわよ!」

 

「もう雨もほとんど止んだぞ!」

 

タケシも呼んでいる。

 

「分かった!」

 

サトシが立ち上がる。

 

ミニリュウも身体を離し。

 

すぐ横へ並んだ。

 

「行こうか」

 

「ピカ!」

 

「ミニュ!」

 

雨上がりの空。

 

雲の切れ間から。

 

光が差し込んでいた。

 

新しい仲間との旅は。

 

まだ始まったばかりだった。

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