ポケットモンスター ―君と目指す頂― 作:あああああ
サファリゾーンを出発してから、しばらく。
サトシたちは次の街を目指し、海沿いの道を歩いていた。
「ミニュ!」
「ピカ!」
先頭ではピカチュウとミニリュウが競うように進んでいる。
ミニリュウが仲間になってから、まだそれほど時間は経っていない。
それでも、最初に比べれば随分と馴染んできた。
最初はピカチュウたちが近づくだけでも少し警戒していたが、今ではピカチュウとはこうして遊ぶようになっている。
「速いぞ、二匹とも!」
「ピカ!」
「ミニュ!」
サトシが呼びかけると、二匹が同時に振り返った。
「なんだか楽しそうね」
カスミが笑う。
「野生だった頃は一匹で暮らしてたみたいだからな」
タケシがミニリュウを見る。
「仲間がいる環境そのものが新鮮なのかもしれない」
「そうだな」
サトシも頷く。
捕獲した。
だから仲間。
それだけで終わりではない。
一緒に食事をする。
歩く。
遊ぶ。
バトルする。
そういう毎日の積み重ねで、本当の意味で仲間になっていく。
「焦らなくていいさ」
「ミニュ?」
ミニリュウが首を傾げる。
「これから長いんだから」
「ミニュ!」
意味を全部理解したわけではないだろう。
それでもミニリュウは嬉しそうに鳴くと、再びピカチュウを追いかけた。
その姿を見ながら、サトシも歩き出した。
◇
昼過ぎ。
一行は海沿いに建つポケモンセンターへ到着した。
「今日はここで休んでいく?」
カスミが尋ねる。
「そうだな。ミニリュウも旅を始めたばかりだし、一度診てもらおう」
「ピカ」
「ミニュ?」
「健康診断みたいなものだよ」
「ミニュ!」
中へ入る。
ところが。
いつものポケモンセンターとは少し様子が違った。
ジョーイが通信機の前で、何度も連絡を取っている。
「お願いします。何とか――」
通信が切れる。
「ジョーイさん?」
タケシが真っ先に反応した。
「何かあったんですか!?」
その勢いにカスミが半眼になる。
「相変わらずね」
「実は……」
ジョーイは困ったように一枚の地図を広げた。
「この先にあるポケモンセンターで、急病のポケモンがいるんです」
「急病?」
サトシの表情が変わる。
「治療に必要な薬がこちらにしかなくて、本来ならすぐ届ける予定だったんですが……」
ジョーイが窓を見る。
空には黒い雲が集まり始めていた。
「天候が崩れる前に届けたいんです。でも、最短ルートはサイクリングロードで……」
「だったら俺たちが届けます」
サトシは即答した。
「サトシ?」
「待ってるポケモンがいるんだろ?」
「ピカ!」
ピカチュウも頷く。
「私も行くわ」
「もちろん俺もだ」
カスミとタケシも並ぶ。
ジョーイは三人を見ると、深く頭を下げた。
「お願いします」
◇
用意された自転車に乗り。
三人はサイクリングロードへ入った。
「気持ちいいな!」
「ピカ!」
ピカチュウはサトシの前の籠に乗っている。
ミニリュウたちは一度ボールへ戻していた。
薬はタケシが濡れないよう厳重に包んで持っている。
「でも、のんびりしてる場合じゃないわよ!」
「分かってる!」
長い道。
海から吹く風。
遠くでは雲がさらに濃くなっている。
サトシたちは速度を上げた。
だが。
道の中央。
何台もの自転車が並んでいた。
「止まりな!」
先頭の一人が道を塞ぐ。
「……何?」
カスミが眉をひそめる。
派手な格好をした少年少女たち。
それぞれが自転車に乗っている。
「ここを通りたきゃ、俺たちに挨拶してもらおうか」
「今急いでるんだ」
サトシが答える。
「ポケモンの薬を届けないといけない。悪いけど通してくれ」
「そんな簡単に通せるかよ!」
「ここは俺たちの縄張りなんだからな!」
サトシは小さく息を吐いた。
「道路だろ」
「ピカ」
ピカチュウも同意する。
「なんだと!?」
一人が前へ出る。
「だったらポケモン勝負だ!」
「勝ったら通すってこと?」
「もちろんだ!」
サトシは空を見る。
まだ時間はある。
ここで延々と言い争うより早い。
「分かった」
自転車から降りる。
「一戦だけだ」
「その余裕、後悔させてやる!」
相手がボールを投げる。
光の中からポケモンが現れた。
サトシは腰へ手を伸ばす。
一瞬。
ピカチュウを見る。
「ピカ?」
そして。
別のボールを取った。
「ミニリュウ、行こう!」
光。
「ミニュ!」
ミニリュウが地面へ降り立つ。
初めて見る場所。
初めての正式なトレーナー戦。
その目が一気に鋭くなる。
「やる気十分だな」
「ミニュ!」
「じゃあ行くぞ!」
◇
開始直後。
相手のポケモンが突っ込んでくる。
「ミニリュウ、たつまき!」
「ミニュ!」
風が集まる。
だが。
ミニリュウはサトシが想定したより早く放った。
「まだ――!」
『たつまき』が相手の手前を通過する。
かわされた。
そのまま相手が距離を詰める。
「ミニュ!」
ミニリュウが自分の判断で『アクアテール』。
水をまとった尾を振るう。
しかし。
今度はサトシが別の動きを指示しようとしていた。
「ミニリュウ、右へ――」
声が重なる。
一瞬の迷い。
その隙を突かれた。
「ミニュッ!」
攻撃を受け、地面を滑る。
「ミニリュウ!」
「ミニュ……!」
すぐに起き上がる。
ダメージそのものは大きくない。
問題は別だった。
「……噛み合ってないな」
捕獲したときは。
サトシ対ミニリュウだった。
互いに相手を倒すために動いていた。
今は違う。
一緒に戦う。
その経験が、まだ足りない。
「ミニュ!」
ミニリュウが相手を睨む。
サトシは少し考え。
「ミニリュウ!」
呼ぶ。
ミニリュウが振り返る。
「一回、お前の好きに動いてみろ」
「ミニュ?」
「俺がお前に合わせる」
細かく縛る必要はない。
まず。
このミニリュウがどう戦いたいのかを見る。
「行け!」
「ミニュ!」
ミニリュウが走った。
相手が迎え撃つ。
「ミニュ!」
身体をしならせる。
右。
左。
サトシは見る。
ミニリュウの視線。
尾。
相手との距離。
――ここか。
「今だ!」
ほぼ同時。
「ミニュ!」
『アクアテール』。
今度はサトシの声とミニリュウの動きが重なった。
バシィッ!
直撃。
相手がよろめく。
「そのまま距離を取れ!」
「ミニュ!」
ミニリュウが後ろへ跳ぶ。
「たつまき!」
「ミニュ!」
今度は。
狙い通り。
巻き起こった風が相手を捉える。
「よし!」
「ミニュ!」
相手が倒れた。
勝負あり。
「やった!」
「ピカピカ!」
サトシがしゃがむ。
戻ってきたミニリュウと目線を合わせる。
「最初より良かっただろ?」
「ミニュ!」
「まだまだこれからだな」
「ミニュ!」
ミニリュウも悔しさより、次を楽しみにしているようだった。
サトシは笑って、その頭を撫でた。
◇
「約束だ。通してくれ」
サトシが立ち上がる。
暴走族たちは顔を見合わせる。
「仕方ねえな」
道を空けようとした。
そのとき。
「ちょっと待ったー!」
聞き覚えのある声。
「……」
サトシたちの表情が一斉に止まる。
現れたのは。
妙に派手な自転車へ乗った三人組。
「このサイクリングロードに!」
「伝説のライダーが帰ってきた!」
「ニャー!」
「ロケット団……」
サトシが額を押さえる。
「何しに来たのよ!」
カスミが叫ぶ。
「何しにって失礼ね!」
ムサシが胸を張る。
「私たちは昔、この辺りじゃちょっとした有名人だったのよ!」
「俺たちの華麗な自転車さばき!」
コジロウも得意げだ。
暴走族の何人かが二人を見る。
「あれ?」
「もしかして……」
「ムサシさん?」
「コジロウさん?」
「え?」
サトシが振り返る。
「知り合い?」
「昔の仲間よ!」
ムサシが得意げに髪を払う。
「……本当に暴走族だったんだ」
「ピカ……」
「何よその反応!」
「いや、妙に納得しただけ」
「どういう意味よ!」
その横。
コジロウは昔話を始めている。
サトシは空を見上げた。
ポツ。
頬へ水滴。
「雨……」
「まずい」
タケシも気づく。
「急ごう。薬を濡らすわけにはいかない」
「そうだった!」
サトシは自転車へ戻る。
「悪いけど、俺たちは行く!」
◇
雨は。
想像以上に早く強くなった。
「うわっ!」
風。
横殴りの雨。
自転車が揺れる。
「サトシ! 速度落として!」
「分かった!」
前が見えにくい。
路面も滑る。
無理に速度を上げれば転倒する。
だが。
遅すぎれば薬が間に合わないかもしれない。
「タケシ、薬は!?」
「大丈夫だ! 濡れてない!」
「よし!」
雷鳴。
ゴロゴロゴロ。
「ピカ……!」
籠のピカチュウが空を見る。
「大丈夫」
サトシが声をかける。
そのとき。
後ろから声。
「待ちなさーい!」
「何!?」
振り返る。
暴走族。
そして。
ムサシとコジロウたち。
「なんでついてくるのよ!」
カスミが叫ぶ。
「こんな嵐の中を走るって聞いたら放っておけるか!」
「サイクリングロードを甘く見るんじゃないわよ!」
さっきまで道を塞いでいた暴走族まで一緒だ。
「道案内する!」
「風が強い場所は俺たちが知ってる!」
サトシは一瞬驚き。
すぐに笑った。
「頼む!」
「おう!」
◇
集団で進む。
風を避ける場所。
滑りやすい場所。
暴走族たちは、この道を知り尽くしていた。
「次のカーブは外側に膨らむな!」
「分かった!」
「その先、橋だ!」
橋。
海から吹きつける風がさらに強くなる。
自転車が流される。
「くっ!」
サトシがハンドルを握り締める。
その瞬間。
前方。
倒木。
「止まれ!」
急ブレーキ。
全員が止まる。
「こんな時に……!」
カスミが叫ぶ。
大きな木が完全に道を塞いでいる。
「回り道は?」
「ここからじゃ遠すぎる!」
「だったら退かす!」
サトシがボールを取る。
「みんな、手伝ってくれ!」
光が広がる。
「ソウ!」
「カゲ!」
「ゼニ!」
「ゴースト!」
「ミニュ!」
フシギソウ。
ヒトカゲ。
ゼニガメ。
ゴースト。
そしてミニリュウ。
「フシギソウ、つるのムチ!」
「ソウ!」
つるが倒木へ巻きつく。
「ミニリュウも!」
サトシが言いかけ。
止める。
「ミニリュウ、どこを動かせばいいと思う?」
「ミニュ?」
ミニリュウが倒木を見る。
フシギソウを見る。
そして。
根元側へ移動する。
身体を巻きつけた。
「そこか!」
「ミニュ!」
引く。
フシギソウとは別方向。
木が少し動く。
「いいぞ!」
「ソウ!」
「ミニュ!」
二匹が力を合わせる。
暴走族たちも加わる。
「押せ!」
「せーの!」
木が。
ゆっくり。
道の端へ動いていく。
「もう少し!」
ヒトカゲとゼニガメも身体を押しつける。
「カゲ!」
「ゼニ!」
最後に。
ドン!
通れるだけの隙間ができた。
「よし!」
サトシがミニリュウを見る。
「今の良かったぞ!」
「ミニュ!」
嬉しそうに鳴く。
指示されたから動いたのではない。
自分で考え。
サトシがそれを見て合わせた。
バトルだけではない。
こういう積み重ねも。
一緒に旅をするということなのだろう。
◇
ようやく。
雨の向こうに建物が見えた。
「ポケモンセンター!」
「着いた!」
自転車を止める。
タケシが薬を抱えて中へ走る。
「ジョーイさん!」
「薬です!」
「ありがとうございます!」
ジョーイが受け取る。
そのまま治療室へ。
サトシたちは。
ずぶ濡れのまま。
その場に立っていた。
「間に合った……」
「ピカァ……」
サトシは壁へ背を預ける。
カスミも座り込む。
「もう……最悪」
「でも届けられた」
「そうね」
少しして。
治療室からジョーイが出てきた。
「間に合いました」
その一言。
全員の身体から力が抜ける。
「よかったぁ……」
カスミが息を吐く。
サトシも笑う。
「本当によかった」
「ピカ」
◇
雨が弱まった頃。
センターの軒下。
サトシはミニリュウと並んで外を見ていた。
「ミニュ」
「疲れた?」
「ミニュ!」
まだ元気らしい。
「そっか」
サトシが笑う。
「俺は疲れた」
「ミニュ?」
「自転車って結構きついんだぞ」
「ピカピカ」
横のピカチュウが笑う。
「お前は籠に乗ってただけだろ」
「ピカ!」
ミニリュウがサトシを見る。
少し。
近づく。
「ん?」
身体を。
サトシの腕へ軽く巻きつけた。
「ミニュ」
「……どうした?」
「ミニュ」
サトシは一瞬驚き。
やがて。
その頭を撫でる。
「今日はありがとう」
最初のバトルでは。
指示が噛み合わなかった。
それでも。
少しずつ。
ミニリュウの考えを見て。
ミニリュウもサトシを見るようになった。
まだ始まったばかり。
それでいい。
「これからもよろしくな」
「ミニュ!」
「ピカ!」
ピカチュウも間へ入ってくる。
「お前もな」
「ピカピカ!」
そのとき。
「サトシー!」
カスミの声。
「そろそろ出発するわよ!」
「もう雨もほとんど止んだぞ!」
タケシも呼んでいる。
「分かった!」
サトシが立ち上がる。
ミニリュウも身体を離し。
すぐ横へ並んだ。
「行こうか」
「ピカ!」
「ミニュ!」
雨上がりの空。
雲の切れ間から。
光が差し込んでいた。
新しい仲間との旅は。
まだ始まったばかりだった。