ポケットモンスター ―君と目指す頂―   作:あああああ

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第67話 おきろ!カビゴン!

照りつける日差しの下、サトシたちは乾いた道を歩いていた。

 

「暑い……」

 

カスミが額の汗を拭う。

 

「さっきから全然風が吹かないわね」

 

「もう少し行けば村があるはずだ」

 

タケシが地図を確認する。

 

「そこで水を補給できればいいんだけどな」

 

サトシも水筒を振ってみる。

 

残りは少ない。

 

「ピカァ……」

 

肩のピカチュウも暑そうに耳を垂らしていた。

 

「もう少し我慢な」

 

「ピカ……」

 

少し先を進んでいたミニリュウも戻ってくる。

 

「ミニュ……」

 

「お前も暑いか」

 

「ミニュ」

 

さすがに今日は元気がない。

 

それでも歩き続けていると、やがて建物が見えてきた。

 

「村だ!」

 

カスミの表情が明るくなる。

 

ところが。

 

近づくにつれて、サトシたちは違和感に気づいた。

 

畑。

 

土。

 

水路。

 

そのどれもが。

 

「乾いてる……」

 

サトシが足を止める。

 

畑の作物は萎れ、水路にはわずかな水しか流れていない。

 

「これじゃ作物が育たないぞ」

 

タケシがしゃがみ込む。

 

「最近雨が降ってないのかしら」

 

「それだけじゃなさそうだな」

 

サトシは水路を見る。

 

水が完全に枯れているわけではない。

 

ほんの少しだけ流れている。

 

なら。

 

本来はもっと水が来るはずなのだ。

 

「上流で何か起きてるのかも」

 

そのとき。

 

「旅の人かい?」

 

声をかけられた。

 

振り返ると、村人たちが集まっている。

 

「はい。マサラタウンのサトシです」

 

「ピカチュウ!」

 

「カスミです」

 

「タケシです」

 

村人の一人が疲れた顔で水路を見る。

 

「この川がこんな状態になってから、ずっと困ってるんだ」

 

「前はもっと流れてたんですか?」

 

「ああ。畑を潤すには十分な水があった」

 

別の村人が続ける。

 

「でも急に水が来なくなってな」

 

サトシは川の上流を見る。

 

「だったら、見に行ってみます」

 

「え?」

 

「何か塞いでるなら、原因が分かるかもしれない」

 

「俺も行こう」

 

タケシが頷く。

 

「もちろん私も」

 

カスミも続いた。

 

「ピカ!」

 

「ミニュ!」

 

ピカチュウとミニリュウも元気を取り戻したように声を上げる。

 

サトシは笑う。

 

「よし。行こう!」

 

◇

 

水の少なくなった川を遡る。

 

上流へ進むにつれ。

 

植物が増えていった。

 

「何これ……」

 

カスミが足を止める。

 

「イバラ?」

 

大量のイバラが川岸を覆っている。

 

一部は川へ張り出し、流れを邪魔していた。

 

「これも原因の一つだな」

 

タケシが言う。

 

「でも、これだけじゃない」

 

サトシはさらに上を見る。

 

水は。

 

その先でほとんど止まっている。

 

「行ってみよう」

 

イバラを避けながら進む。

 

そして。

 

川幅が少し広くなった場所へ出た。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

三人が揃って止まる。

 

「ピカ……?」

 

「ミニュ?」

 

そこに。

 

巨大な何かが横たわっていた。

 

丸い腹。

 

太い手足。

 

青緑色の身体。

 

クリーム色の腹部。

 

そして。

 

「ゴォォォォ……」

 

大きないびき。

 

「カビゴン……」

 

サトシが呟いた。

 

「大きい……!」

 

カスミが見上げる。

 

カビゴンは川を塞ぐように眠っていた。

 

その巨体のせいで。

 

水の流れが大きく妨げられている。

 

「水が来ない理由って……」

 

「こいつか」

 

タケシが額を押さえた。

 

「ゴォォォ……」

 

当の本人は。

 

何も知らずに熟睡している。

 

サトシは苦笑した。

 

「まず起こしてみるか」

 

◇

 

「カビゴーン!」

 

サトシが叫ぶ。

 

「起きろー!」

 

「ゴォォォ……」

 

「……駄目だ」

 

「もっと大きな声!」

 

カスミも加わる。

 

「カビゴーン!」

 

「ゴォォォ……」

 

変化なし。

 

「ピカチュウも呼んでみて」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウがカビゴンの耳元へ。

 

「ピッカァァァ!」

 

「ゴォォォ……」

 

「ピカ?」

 

ピカチュウが振り返る。

 

「全然駄目ね」

 

「だったら揺らすか」

 

三人で押す。

 

「せーの!」

 

「ううううっ!」

 

「重い!」

 

「全然動かないぞ!」

 

「ピカァ!」

 

ピカチュウも押す。

 

「ミニュ!」

 

ミニリュウも身体を使う。

 

だが。

 

「ゴォォォ……」

 

微動だにしない。

 

サトシは手を離した。

 

「やっぱり普通に起こすのは無理か」

 

「やっぱり?」

 

カスミが振り返る。

 

「カビゴンって一度寝るとなかなか起きないんだ」

 

「知ってたなら先に言いなさいよ!」

 

「一応試してみたかったんだよ」

 

サトシはカビゴンを見る。

 

ここまで深く眠っているなら。

 

思い当たるものはある。

 

「ポケモンのふえ……」

 

「何それ?」

 

「カビゴンを起こせる笛があるんだ」

 

タケシが頷く。

 

「俺も聞いたことがある。特殊な音色で眠っているポケモンを起こす道具だ」

 

「じゃあ、それがあれば!」

 

「問題はどこにあるかだな」

 

三人が考えていると。

 

「ゴォォォ……」

 

カビゴンが寝返りを打った。

 

ズン!

 

地面が揺れる。

 

「うわっ!」

 

「ピカ!」

 

「危なっ!」

 

サトシたちは慌てて離れた。

 

「……早く探そう」

 

「賛成」

 

◇

 

村へ戻って事情を話すと。

 

「ポケモンのふえ?」

 

老人が顎へ手を当てた。

 

「そういえば、この辺りを旅している笛吹きの爺さんが持っていたような……」

 

「本当ですか!?」

 

「少し前に向こうの山道へ行ったはずだ」

 

「ありがとうございます!」

 

サトシたちはすぐに出発した。

 

しばらく探し。

 

ようやく。

 

木陰で昼寝をしている老人を発見した。

 

「……また寝てる」

 

カスミが呆れる。

 

老人の横には一本の笛。

 

「これじゃない?」

 

「たぶんな」

 

サトシが老人へ声をかける。

 

「すみませーん」

 

「……」

 

「起きてくださーい!」

 

「……」

 

「この人も起きないんだけど!」

 

「まさかこの人にもポケモンのふえが必要なんじゃないだろうな」

 

タケシの言葉に。

 

三人が笛を見る。

 

「いやいや」

 

サトシが首を振る。

 

「それはおかしいだろ」

 

「ピカ」

 

しばらく声をかけ続け。

 

ようやく。

 

「んん……?」

 

老人が目を開けた。

 

「何じゃ?」

 

事情を説明する。

 

すると。

 

「ああ、あのカビゴンか」

 

老人はあっさり言った。

 

「知ってるんですか?」

 

「毎年この辺りに来るからの」

 

「毎年?」

 

「腹いっぱい食べて、眠って、また食べて。それがあいつの日課みたいなもんじゃ」

 

老人は立ち上がる。

 

「まあ、行ってみるか」

 

◇

 

再び川の上流。

 

「ゴォォォ……」

 

カビゴンは。

 

まだ寝ていた。

 

「本当にこれで起きるの?」

 

カスミが尋ねる。

 

「まあ見ておれ」

 

老人が笛を口元へ運ぶ。

 

息を吸う。

 

そして。

 

軽快な音色が川辺へ響き始めた。

 

♪~♪~~♪

 

「ゴォォ……」

 

カビゴンの耳が。

 

ぴくり。

 

「動いた!」

 

「♪~~♪」

 

「ゴン……」

 

ゆっくり。

 

目が開く。

 

「起きた!」

 

「カビ……」

 

カビゴンが上半身を起こす。

 

そして。

 

大きく。

 

「ゴォォォン……!」

 

あくび。

 

「すごいな」

 

サトシが見上げる。

 

カビゴンは辺りを見回す。

 

ぐぅぅぅぅぅ……。

 

巨大な腹の音。

 

「……」

 

「……」

 

カビゴンの目が。

 

イバラへ向く。

 

「カビ!」

 

次の瞬間。

 

むしゃ。

 

「え?」

 

むしゃむしゃむしゃむしゃ。

 

「イバラ食べてる!」

 

カスミが驚く。

 

老人は笑った。

 

「そうじゃ。こいつはこの辺りに生えるイバラが大好物でな」

 

「じゃあ……」

 

タケシが気づく。

 

「毎年カビゴンが食べることで、増えすぎないようになってたのか」

 

「そういうことじゃ」

 

サトシは川を見る。

 

カビゴンの身体だけではない。

 

大量のイバラも。

 

水の流れを妨げていた。

 

「こいつが起きないからイバラまで増えすぎたのか」

 

「カビ!」

 

カビゴンは。

 

そんな話など気にせず食べ続けている。

 

「だったら俺たちも手伝おう」

 

サトシがボールを取る。

 

「フシギソウ!」

 

光。

 

「ソウ!」

 

フシギソウが現れる。

 

「水路の中に絡んでる枝を退かしたい。できる?」

 

「ソウ!」

 

フシギソウが川を見る。

 

『つるのムチ』。

 

二本のつるが伸びる。

 

以前より長く。

 

力強い。

 

それでいて。

 

動きは滑らかだった。

 

一本が太い枝へ巻きつく。

 

もう一本は。

 

周囲の細い植物へ触れないよう角度を変える。

 

「その枝だけだ!」

 

「ソウ!」

 

引く。

 

ザバッ!

 

枝が水から抜ける。

 

「上手くなったな」

 

サトシが笑う。

 

進化した直後。

 

強く長くなったつるを持て余す場面もあった。

 

今は違う。

 

力だけではない。

 

どこを掴み。

 

どれだけ引くか。

 

フシギソウ自身が分かっている。

 

「ソウ!」

 

「その調子!」

 

「ミニュ!」

 

ミニリュウも水辺へ。

 

「手伝ってくれる?」

 

「ミニュ!」

 

水の中へ入り。

 

身体を使って小さな枝を押し流していく。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウも運べる枝を引っ張る。

 

カスミとタケシ。

 

村人たちも加わった。

 

少しずつ。

 

水路が開いていく。

 

そして。

 

カビゴンは。

 

「カビ!」

 

むしゃむしゃむしゃむしゃ。

 

圧倒的な勢いでイバラを食べていた。

 

「……俺たちより働いてない?」

 

カスミが言う。

 

「食べてるだけだけどな」

 

サトシが笑った。

 

◇

 

だが。

 

そこへ。

 

ガガガガガ!

 

機械音。

 

「何だ?」

 

巨大なアームが伸びる。

 

狙いは。

 

「カビ?」

 

カビゴン。

 

「やっぱり!」

 

サトシが振り返る。

 

「カビゴンみたいな大きくて強いポケモン!」

 

「いただかない手はないわ!」

 

「ロケット団!」

 

「しかも今なら食事に夢中ニャ!」

 

巨大な網が飛ぶ。

 

「カビゴン!」

 

サトシが叫ぶ。

 

だが。

 

「カビ?」

 

カビゴンは振り返り。

 

網に包まれた。

 

「やった!」

 

「簡単だったな!」

 

「そのまま運ぶニャ!」

 

クレーンが動く。

 

網が持ち上がる。

 

……はずだった。

 

ギギギギギ。

 

「ん?」

 

ギギ……。

 

動かない。

 

「重っ!」

 

コジロウが叫ぶ。

 

「もっと出力上げなさい!」

 

「やってる!」

 

機械が震える。

 

カビゴンは。

 

「カビ」

 

網の中でもイバラを食べていた。

 

「気にしてない!?」

 

「どんな神経してるニャ!」

 

サトシが苦笑する。

 

「さすがだな……」

 

「感心してる場合!?」

 

「分かってる!」

 

サトシが前へ。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

「アイアンテール!」

 

ピカチュウが走る。

 

跳ぶ。

 

光る尻尾。

 

ガキィン!

 

クレーンのアームへ直撃。

 

「壊される!」

 

「アーボック!」

 

「マタドガス!」

 

二匹が飛び出す。

 

「アーボック!」

 

「マタドガース!」

 

「フシギソウ!」

 

「ソウ!」

 

『つるのムチ』。

 

アーボックの進路を止める。

 

「ミニリュウ!」

 

「ミニュ!」

 

ミニリュウが横から回り込む。

 

「たつまき!」

 

「ミニュ!」

 

風が巻き起こり。

 

マタドガスが押し戻される。

 

その間に。

 

網の中。

 

「カビ……」

 

カビゴンが。

 

ようやく食べ終わった。

 

「カビゴン!」

 

大きく伸びをする。

 

そして。

 

腕を広げる。

 

ブチィッ!

 

「網が!」

 

力任せに。

 

破った。

 

「嘘でしょ!?」

 

カビゴンが立ち上がる。

 

「カビ?」

 

目の前。

 

ロケット団の機械。

 

食事を邪魔された。

 

少し。

 

機嫌が悪そうだった。

 

「カビィ!」

 

腕を一振り。

 

ドゴォン!

 

「機械が!」

 

「一発!?」

 

「退却ニャ!」

 

「逃がさない!」

 

サトシが叫ぶ。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

『10まんボルト』。

 

「ピッカァァァ――チュウッ!」

 

電撃が機械を包む。

 

爆発。

 

「やっぱり最後はこうなるのねー!」

 

「カビゴン重すぎるぞー!」

 

「やな感じニャー!」

 

三人が空の彼方へ消えていった。

 

◇

 

夕方。

 

最後のイバラを。

 

「カビ!」

 

カビゴンが飲み込んだ。

 

その瞬間。

 

今まで堰き止められていた水が。

 

一気に流れ始める。

 

「来た!」

 

サトシが川岸へ下がる。

 

ザァァァァ――!

 

勢いを取り戻した水が下流へ。

 

村へ向かって流れていく。

 

「やった!」

 

カスミが笑う。

 

「これなら畑も大丈夫だ」

 

タケシも頷く。

 

村人たちは大喜びだった。

 

「ありがとう!」

 

「これで作物を守れる!」

 

「カビゴンもありがとう!」

 

「カビ!」

 

カビゴンは満足そうに腹を叩く。

 

サトシがその前へ立った。

 

「すごいな、お前」

 

「カビ?」

 

「あれだけ食べられるのも才能だよな」

 

「そこ褒めるところ?」

 

カスミが突っ込む。

 

「でも強かったし」

 

「ピカ!」

 

「ミニュ!」

 

サトシはカビゴンを見る。

 

大きい。

 

力も強い。

 

戦えば。

 

きっと面白い。

 

そんな気持ちが少しだけ湧く。

 

けれど。

 

「ここがお前の場所なんだな」

 

「カビ」

 

この土地で。

 

イバラを食べ。

 

眠る。

 

それがカビゴンの暮らしだ。

 

サトシは笑う。

 

「またな」

 

「カビ!」

 

カビゴンは大きく手を上げた。

 

そして。

 

その場へ寝転がる。

 

「え?」

 

「まさか……」

 

「ゴォォォォ……」

 

数秒。

 

もう寝た。

 

「早っ!」

 

カスミの声が響く。

 

「起きたばっかりじゃない!」

 

「腹いっぱいになったからじゃないか?」

 

タケシが笑う。

 

「ゴォォォ……」

 

「……まあ」

 

サトシも笑った。

 

「カビゴンらしいな」

 

「ピカ……」

 

ピカチュウも呆れたように肩をすくめる。

 

◇

 

村を出る頃。

 

空は茜色に染まっていた。

 

「今日は疲れたわ……」

 

「でも水も補給できた」

 

タケシが水筒を確認する。

 

「村の人が食料まで分けてくれたしな」

 

サトシの少し前。

 

「ピカ!」

 

「ミニュ!」

 

ピカチュウとミニリュウが進む。

 

その横。

 

「ソウ!」

 

フシギソウも今日はボールへ戻らず歩いていた。

 

サトシはそのつるを見る。

 

進化直後より。

 

ずっと自然に動いている。

 

「フシギソウ」

 

「ソウ?」

 

「今日の『つるのムチ』、すごく上手かった」

 

「ソウ!」

 

嬉しそうに胸を張る。

 

「もう新しい身体にも慣れたな」

 

「ソォォォ!」

 

「ははっ、頼もしいよ」

 

サトシが頭を撫でる。

 

進化すれば。

 

身体が変わる。

 

力も変わる。

 

戦い方も変わっていく。

 

それでも。

 

時間をかければ。

 

その力は自分のものになっていく。

 

サトシは仲間たちを見る。

 

ピカチュウ。

 

フシギソウ。

 

ヒトカゲ。

 

ゼニガメ。

 

ゴースト。

 

ミニリュウ。

 

それぞれ違う。

 

進む速さも。

 

選ぶ道も。

 

だからこそ。

 

面白い。

 

「よし!」

 

サトシが前を向く。

 

「次へ行こう!」

 

「ピカ!」

 

「ソウ!」

 

「ミニュ!」

 

夕陽へ伸びる道を。

 

サトシたちは再び歩き始めた。

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