ポケットモンスター ―君と目指す頂―   作:あああああ

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第68話 たいけつ!ポケモンジム!

乾いた風が、砂を巻き上げていた。

 

「うわっ……!」

 

サトシは帽子を押さえながら前を見る。

 

「すごい砂埃だな」

 

「髪に砂が入るんだけど!」

 

カスミが顔をしかめる。

 

「もう少しで町のはずだ」

 

タケシが地図を確認した。

 

その言葉通り、砂の向こうから少しずつ建物が見えてくる。

 

「ピカ……」

 

サトシの肩に乗ったピカチュウも目を細めていた。

 

「着いたら休もうな」

 

「ピカ」

 

やがて。

 

三人は町へ入った。

 

「ここがダークシティか」

 

しかし。

 

サトシはすぐに違和感を覚えた。

 

人がいない。

 

昼間だというのに店の多くは閉まり、窓にも板が打ちつけられている。

 

建物の壁には傷。

 

地面には砕けた木材。

 

「何かあったのか?」

 

タケシが周囲を見回す。

 

そのとき。

 

「出ていけ!」

 

声。

 

サトシが振り返る。

 

「え?」

 

物陰から。

 

子供たちがこちらを睨んでいた。

 

「ポケモントレーナーなんか出ていけ!」

 

石が飛んでくる。

 

「危ない!」

 

サトシは身体をずらす。

 

石が足元へ落ちた。

 

「ちょっと! 何するのよ!」

 

カスミが怒る。

 

「待って、カスミ」

 

サトシが止める。

 

子供たちは。

 

怒っている。

 

でも。

 

それ以上に。

 

怖がっていた。

 

「俺たち、何かした?」

 

サトシが聞く。

 

「トレーナーなんてみんな同じだ!」

 

「ポケモンを戦わせて町を壊すんだ!」

 

「出てけ!」

 

サトシの表情が変わる。

 

「……町を壊す?」

 

◇

 

事情を知ったのは。

 

町に残っていた食堂だった。

 

「ヤスジムとカズジム?」

 

「そうだ」

 

店の主人が深いため息をつく。

 

「この町には二つのポケモンジムがある」

 

「正式なジムなんですか?」

 

サトシが尋ねる。

 

「いや。どちらもまだポケモンリーグから公認されていない」

 

タケシが眉を寄せた。

 

「それで公認ジムの座を争っているのか」

 

「その通りだよ」

 

主人が外を見る。

 

「ヤスジムとカズジム。どちらも自分たちこそ公認ジムにふさわしいと言って、毎日のように争っている」

 

「町の中で?」

 

カスミが信じられないという顔をする。

 

「そうだ」

 

壊れた壁。

 

閉まった店。

 

怯えていた子供たち。

 

全部。

 

つながった。

 

「……」

 

サトシは黙る。

 

これまで。

 

六つのジムで戦ってきた。

 

ジムリーダーにも。

 

いろいろな人がいた。

 

けれど。

 

少なくとも。

 

自分のために町を壊しながら戦う場所ではない。

 

「強くなるために戦うのと」

 

サトシが静かに言う。

 

「町を巻き込んで暴れるのは違うだろ」

 

「ピカ」

 

ピカチュウも不満そうに耳を立てる。

 

「どうにかならないの?」

 

カスミが聞く。

 

主人は首を振った。

 

「俺たちが何を言っても聞かない」

 

そのとき。

 

料理が運ばれてきた。

 

「まあ、まずは食べなさい」

 

「ありがとうございます!」

 

サトシたちは席につく。

 

そして。

 

「ピカ?」

 

ピカチュウの目が止まった。

 

テーブルの上。

 

赤い容器。

 

「ん?」

 

ピカチュウが近づく。

 

「それ、ケチャップだぞ」

 

「ピカ?」

 

サトシが少しだけ料理へかける。

 

ピカチュウが興味深そうに舐める。

 

「……」

 

「どう?」

 

「ピカ!」

 

目が輝いた。

 

「気に入ったの?」

 

カスミが笑う。

 

「ピカピカ!」

 

もう一度。

 

今度は自分で容器を抱える。

 

「おい」

 

「ピカ♪」

 

料理へ。

 

どばどば。

 

「かけすぎだって!」

 

「ピカ!」

 

「いや、絶対多い!」

 

サトシが取ろうとする。

 

ピカチュウは容器を抱えて背中を向ける。

 

「ピカ!」

 

「取らないから。せめて全部使うなよ」

 

「ピカピカ♪」

 

カスミが吹き出す。

 

「すごく気に入ったみたいね」

 

「初めて見たぞ、あんなにケチャップに執着するピカチュウ」

 

タケシも笑っていた。

 

サトシは苦笑する。

 

「食べ終わったら返せよ?」

 

「ピカ」

 

返事はした。

 

しかし。

 

食事が終わっても。

 

ピカチュウはケチャップを抱えていた。

 

「……返す気ないだろ」

 

「ピカ♪」

 

◇

 

町の争いを止めるには。

 

まず。

 

両方のジムがどんな連中なのか知る必要がある。

 

「それで、何で変装する必要があるのよ」

 

路地裏。

 

カスミが呆れた声を出す。

 

「普通のトレーナーだって分かったら警戒されるだろ」

 

タケシが答える。

 

「それは分かるけど」

 

カスミはサトシを見る。

 

「問題は名前よ」

 

「……俺もそう思う」

 

サトシは遠い目をしていた。

 

「ピカ?」

 

ケチャップを抱えたピカチュウが見上げる。

 

「本当に名乗るの?」

 

「ここまで来たら仕方ないだろ」

 

「じゃあ行くわよ」

 

ヤスジム。

 

中へ入る。

 

「何者だ!」

 

声をかけられ。

 

サトシは一瞬黙った。

 

「……」

 

「名前は!」

 

「……オムライスケチャップ郎」

 

「ピカ?」

 

ピカチュウまで振り返った。

 

「笑うなよ」

 

「ピ、ピカ……!」

 

肩が震えている。

 

「笑ってるだろ!」

 

「ピカピカ!」

 

カスミも顔を背けながら続く。

 

「チキンライスソース子です」

 

「カレーライスチャツネざえもんだ」

 

タケシだけ妙に堂々としていた。

 

「何でタケシだけ平気なの?」

 

「こういう時は迷った方が負けだ」

 

「そんな勝負した覚えないよ」

 

サトシが小さくため息をつく。

 

だが。

 

中へ入れば。

 

表情は変わった。

 

ヤスジム。

 

中心にいるのは。

 

「ストライクか」

 

鋭い鎌。

 

緑色の身体。

 

ストライクが威圧するように立っている。

 

「ストライク!」

 

「強そうだな」

 

サトシは素直に思う。

 

問題は。

 

その力を何に使っているかだ。

 

「俺たちこそダークシティの正式なジムにふさわしい!」

 

ヤスジムの連中はそう言い切る。

 

話を聞けば。

 

カズジムが悪い。

 

自分たちは正しい。

 

公認されるべきなのは自分たち。

 

そんな言葉ばかり。

 

サトシは黙って聞いた。

 

そして。

 

外へ出たあと。

 

「どう?」

 

カスミが聞く。

 

「駄目だな」

 

サトシは即答した。

 

「自分たちが公認されることしか考えてない」

 

「じゃあ次はカズジムだな」

 

「行こう」

 

◇

 

カズジムも。

 

大して変わらなかった。

 

「エレブー!」

 

主力はエレブー。

 

力強い身体から電気を散らしている。

 

「ピカ……」

 

ピカチュウが少し身構える。

 

「大丈夫」

 

サトシが頭を撫でる。

 

エレブーそのものが悪いわけではない。

 

こちらも。

 

自分たちこそ公認ジムにふさわしい。

 

悪いのはヤスジム。

 

そう主張する。

 

結局。

 

「どっちも同じね」

 

外へ出たカスミが言う。

 

「ああ」

 

タケシも頷く。

 

サトシは町を見る。

 

「このままだと、またぶつかる」

 

そして。

 

その予想は。

 

すぐ現実になった。

 

◇

 

「ヤスジム!」

 

「カズジム!」

 

町の中央。

 

両陣営が向かい合う。

 

住民たちは慌てて家へ逃げ込んでいく。

 

「また始まった!」

 

子供たちも逃げる。

 

「ストライク!」

 

「エレブー!」

 

二匹が前へ。

 

「やめろ!」

 

サトシが間へ入ろうとする。

 

「邪魔するな!」

 

「これはどちらが公認ジムにふさわしいか決める戦いだ!」

 

「町を壊して何がジムだよ!」

 

サトシが声を強める。

 

「ピカ!」

 

しかし。

 

二人は聞かない。

 

「ストライク、行け!」

 

「エレブー!」

 

二匹がぶつかる。

 

ストライクの鎌。

 

エレブーの腕。

 

衝撃。

 

「危ない!」

 

サトシたちは離れる。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウも跳ぶ。

 

その腕には。

 

まだ。

 

ケチャップ。

 

「まだ持ってたの!?」

 

カスミが驚く。

 

「ピカ!」

 

その瞬間。

 

ストライクの鎌が振り抜かれた。

 

ピカチュウは避ける。

 

だが。

 

スパッ。

 

「……ピカ?」

 

ケチャップの容器。

 

真っ二つ。

 

赤いケチャップが地面へ落ちる。

 

「……」

 

ピカチュウが固まった。

 

「ピカチュウ?」

 

サトシが見る。

 

「……ピカ」

 

切れた容器。

 

流れ出すケチャップ。

 

「ピカ……」

 

耳が下がる。

 

「そんなに……」

 

サトシが少し困る。

 

「気に入ってたのか」

 

「ピカァァ……!」

 

悲痛な声。

 

「いや、次の町で買うから!」

 

「ピカ……!」

 

そのとき。

 

「ストライク!」

 

ストライクの様子が変わった。

 

目。

 

地面の赤いケチャップ。

 

「ストライク!」

 

興奮したように鎌を振るう。

 

そして。

 

「エレブー!」

 

エレブーも赤い色へ強く反応した。

 

「……ん?」

 

サトシが気づく。

 

カスミも。

 

「もしかして」

 

タケシが頷く。

 

「二匹とも赤い色に反応してる」

 

サトシは。

 

地面のケチャップ。

 

ストライク。

 

エレブー。

 

そして。

 

争い続ける二人を見る。

 

「……使えるかも」

 

◇

 

「何する気?」

 

カスミが聞く。

 

「二人に、自分たちがやってきたことを少し味わってもらう」

 

サトシはケチャップを見る。

 

まだ残っているものを拾う。

 

「ピカ!?」

 

ピカチュウが反応した。

 

「これは使わせて!」

 

「ピカァ!」

 

「あとで絶対買うから!」

 

「ピカ……」

 

ものすごく不満そうだ。

 

だが。

 

しぶしぶ。

 

許した。

 

「ありがとう」

 

「ピカ」

 

サトシたちは動く。

 

「おい!」

 

ヤスとカズが振り返る。

 

「何だ!」

 

「これでも食らえ!」

 

べちゃっ。

 

「うわっ!」

 

ヤスの服。

 

赤。

 

「何しやがる!」

 

今度は。

 

べちゃっ。

 

「なっ!」

 

カズにも。

 

赤。

 

「ストライク!」

 

「エレブー!」

 

二匹の視線が。

 

ぴたり。

 

トレーナーへ。

 

「……え?」

 

ヤスとカズが固まる。

 

「ストライク!」

 

「エレブー!」

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

「俺はお前のトレーナーだぞ!」

 

二人が逃げる。

 

二匹が追う。

 

「うわあああ!」

 

「何で俺たちを追うんだ!」

 

サトシが腕を組む。

 

「自分たちの都合で町中を追い回してたんだからな」

 

「ピカ」

 

ピカチュウも。

 

まだケチャップを惜しみながら頷いた。

 

「でも、これで終わりじゃない」

 

タケシが言う。

 

「ああ」

 

根本的に。

 

二人が変わらなければ意味がない。

 

そのとき。

 

「そこまでです!」

 

声が響いた。

 

◇

 

一人の女性が歩いてくる。

 

「ジョーイさん?」

 

カスミが驚く。

 

確かに。

 

ポケモンセンターで何度も見てきた顔。

 

だが。

 

雰囲気が違う。

 

「私はポケモンリーグから派遣されたジム検定員です」

 

「ジム検定員!?」

 

ヤスとカズの顔色が変わる。

 

「では……!」

 

「俺たちのどちらを公認ジムに!?」

 

ジョーイは。

 

静かに二人を見る。

 

「どちらも認めません」

 

「え?」

 

「なっ!?」

 

即答。

 

「なぜです!」

 

「俺たちのポケモンはこんなに強い!」

 

「強ければ公認ジムになれるわけではありません」

 

ジョーイの声は厳しい。

 

「あなたたちは公認ジムになるために争い、町を傷つけ、住民たちを怯えさせた」

 

ヤスとカズが黙る。

 

「そして何より」

 

ジョーイはストライクとエレブーを見る。

 

「ポケモンたちを、自分たちの意地の張り合いに使いました」

 

「……」

 

「ジムは、そんな場所ではありません」

 

サトシは。

 

黙って聞いていた。

 

自分が言う必要はない。

 

正式な検定員が。

 

言うべきことを言っている。

 

「まず」

 

ジョーイが町を見る。

 

「自分たちが壊したものを、自分たちの手で直してください」

 

「……」

 

「公認ジムの話は、それからです」

 

ヤス。

 

カズ。

 

二人は。

 

周囲を見る。

 

壊れた壁。

 

割れた窓。

 

逃げていた人たち。

 

そして。

 

自分たちを見るストライクとエレブー。

 

「……分かりました」

 

最初に。

 

ヤスが言った。

 

「俺も……」

 

カズも俯く。

 

「やります」

 

◇

 

翌日。

 

ダークシティには。

 

昨日とは違う音が響いていた。

 

戦う音ではない。

 

金槌。

 

木材。

 

修理。

 

「そこ持て!」

 

「こっちだ!」

 

ヤスジム。

 

カズジム。

 

両方の人間が。

 

町を直している。

 

ストライクは鎌を器用に使って木材を切る。

 

エレブーは重い資材を運ぶ。

 

「ちゃんと働いてるわね」

 

カスミが言う。

 

「最初からこうやって力を使えばよかったんだ」

 

サトシが笑う。

 

「ピカ」

 

そのとき。

 

昨日。

 

石を投げてきた子供たちが近づいてくる。

 

「……あの」

 

「ん?」

 

「ごめんなさい」

 

一人の少年が言う。

 

「石、投げて」

 

「いいよ」

 

サトシは笑った。

 

「怖かったんだろ?」

 

少年は頷く。

 

「ポケモントレーナーって、みんなああいう人だと思ってた」

 

「いろんなトレーナーがいるよ」

 

サトシはピカチュウを見る。

 

「でも、俺はポケモンと一緒に強くなりたい」

 

「ピカ!」

 

「戦うことは嫌いじゃない。むしろ好きだよ」

 

サトシは笑う。

 

「でも、それで関係ない人まで困らせたら駄目だろ」

 

少年は。

 

ピカチュウを見る。

 

「僕も……」

 

少し迷い。

 

「いつかポケモンと旅してみたい」

 

「いいじゃん」

 

サトシが笑う。

 

「トレーナーになるなら、ポケモンとちゃんと一緒に強くなれよ」

 

「うん!」

 

◇

 

町の出口。

 

「じゃあな!」

 

子供たちが手を振る。

 

「またね!」

 

カスミも振り返る。

 

「元気でな!」

 

タケシも続く。

 

サトシの肩。

 

「……ピカ」

 

ピカチュウだけ。

 

元気がない。

 

「まだケチャップのこと気にしてるの?」

 

「ピカ……」

 

「そんなに落ち込むなって」

 

「ピカァ……」

 

サトシは苦笑する。

 

そして。

 

「次の町で新しいの買おう」

 

「……ピカ?」

 

耳。

 

ぴん。

 

「一本な」

 

「ピカ!」

 

一瞬で元気になった。

 

「切り替え早っ!」

 

カスミが突っ込む。

 

「ピカピカ!」

 

「はいはい」

 

サトシが笑う。

 

「ちゃんと買うよ」

 

「ピカ♪」

 

機嫌を直したピカチュウが。

 

サトシの肩で嬉しそうに鳴く。

 

そのまま。

 

三人はダークシティを後にする。

 

争うためだけの強さではなく。

 

誰かを守り。

 

支えるためにも。

 

ポケモンの力は使える。

 

そのことを。

 

町に残った二つのジムも。

 

きっとこれから学んでいく。

 

そしてサトシたちも。

 

次の出会いへ向かって。

 

旅を続けていった。

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