ポケットモンスター ―君と目指す頂―   作:あああああ

70 / 75
第70話 パラスとパラセクト

カーニバルの町を離れてから、しばらく。

 

森の中にある開けた場所で、サトシたちは休憩を取っていた。

 

「リザード、もう一回やってみよう」

 

「リザ!」

 

サトシの正面には、進化したばかりのリザード。

 

少し離れた場所では、カスミとタケシがその様子を見守っている。

 

「今度はもっと弱く。火力を上げるんじゃなくて、ヒトカゲだった頃と同じくらいを意識して」

 

「リザ」

 

リザードが頷く。

 

目の前にあるのは小さな岩、大きく息を吸い込む。

 

「『かえんほうしゃ』!」

 

「リザー!」

 

ゴォッ!

 

炎が岩を包み込む。

 

「……まだ強いな」

 

「リザ……」

 

リザードが自分の口元を見る。

 

ヒトカゲだった頃なら、同じ感覚で問題なく調整できた。

 

だが今は違う身体が大きくなっただけではない。

 

炎そのものの出力も増している。

 

「でも、昨日よりは抑えられてるよ」

 

「リザ?」

 

「ああ。もう一回やろう」

 

「リザ!」

 

落ち込むどころか、リザードはやる気を見せる。

 

「反抗期どころか、前より練習熱心になったんじゃない?」

 

カスミが言った。

 

「強くなった実感があるんだろうな」

 

タケシが答える。

 

「それにサトシも、進化したからって急に扱いを変えてない」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウもリザードを応援している。

 

「よし」

 

サトシが手を上げる。

 

「次は炎を細くしてみよう。威力を抑えることだけじゃなくて、出す範囲も意識して」

 

「リザ!」

 

リザードが再び構える、そのとき。

 

がさっ。

 

「ん?」

 

近くの草むらが揺れた。

 

「何かいる」

 

「ピカ?」

 

サトシたちが見る。

 

草の陰から小さなポケモンが姿を現した。

 

背中に二つのキノコ。

 

黄色い身体。

 

「パラスか」

 

「パラ……」

 

パラスはサトシたちを見ると。

 

びくっ。

 

すぐ草むらへ隠れた。

 

「怖がらせたかな」

 

サトシは追わない。

 

しゃがみ、少し離れたまま待つ。

 

「大丈夫。何もしないよ」

 

「ピカ」

 

ピカチュウも地面へ降りる。

 

やがて草の間から。

 

パラスがもう一度顔を出した。

 

「パラ……」

 

そのとき。

 

「パラスー!」

 

女の子の声。

 

「あ!」

 

森の奥から、一人の少女が走ってくる。

 

「やっと見つけた!」

 

「パラ!」

 

パラスが少女の足元へ駆け寄る。

 

「よかった……」

 

少女はパラスを抱き上げる。

 

「急にいなくなるから心配したのよ」

 

「パラ……」

 

「そのパラス、君のポケモン?」

 

サトシが尋ねる。

 

「ええ。私はキヨミ」

 

少女が答えた。

 

「薬剤師になるために、ポケモンから採れる薬の材料を研究してるの」

 

「薬剤師?」

 

タケシが興味を示す。

 

「じゃあ、薬草なんかも?」

 

「もちろん!」

 

キヨミの表情が明るくなる。

 

「ポケモンの力を借りて作れる薬もたくさんあるのよ」

 

そして。

 

腕の中のパラスを見る。

 

「だから、この子にもパラセクトへ進化してほしいんだけど……」

 

「パラ……」

 

途端にパラスが小さくなる。

 

サトシはその様子を見た。

 

◇

 

キヨミの家には薬草、木の実、乾燥させたキノコ様々な材料が並んでいた。

 

「すごいな」

 

サトシが棚を見る。

 

「全部薬になるの?」

 

「組み合わせや使い方次第ね」

 

キヨミが答える。

 

「パラセクトの背中のキノコから採れる成分も、とても貴重なの」

 

「それでパラスを進化させたいのか」

 

「ええ」

 

キヨミは頷く。

 

だが。

 

「この子、すごく臆病で……」

 

「パラ……」

 

パラスは椅子の下へ隠れている。

 

「バトルをして経験を積ませようとしても、すぐ逃げちゃうの」

 

「なるほど」

 

サトシはしゃがむ。

 

「パラス」

 

「パラ?」

 

「進化するの、嫌なのか?」

 

キヨミが目を瞬く。

 

「え?」

 

「進化させたいなら、パラスがどう思ってるのかも大事だろ」

 

サトシは手を伸ばさず。

 

パラスが自分から顔を出すのを待つ。

 

「パラ……」

 

パラスはキヨミを見るそれから自分の背中のキノコを見る。

 

「パラ」

 

小さく、でも逃げずに鳴いた。

 

「……この子も進化したいの?」

 

キヨミが尋ねる。

 

「パラ」

 

今度は少し強く頷いたキヨミの顔が明るくなる。

 

「パラス!」

 

「でも」

 

サトシが続ける。

 

「怖いものは怖いんだと思う」

 

「……そうね」

 

「だったら、いきなり強い相手と戦わせなくてもいいんじゃない?」

 

サトシは考える。

 

そして外で待っているリザードを見る。

 

「よかったら、俺たちが手伝おうか?」

 

◇

 

「リザ!」

 

「パ、パラ……!」

 

森の広場。

 

リザードを見た瞬間パラスがキヨミの後ろへ隠れた。

 

「あ……」

 

キヨミが困る。

 

「やっぱり駄目かしら」

 

「いや」

 

サトシはリザードを見る。

 

「リザード、ちょっと離れて」

 

「リザ?」

 

「怖がってるから」

 

「リザ」

 

リザードは素直に数歩下がった。

 

「パラス」

 

サトシは言う。

 

「今日はリザードに勝たなくていい」

 

「パラ?」

 

「まず、逃げないところからやってみよう」

 

「リザードも」

 

「リザ!」

 

「今日は勝つためのバトルじゃない。パラスが自分から動けるように手伝ってやって」

 

「リザ」

 

リザードが頷いた。

 

向かい合う。

 

「始めよう」

 

キヨミが息を呑む。

 

「パラス、頑張って!」

 

「パ、パラ!」

 

リザードが一歩。

 

「パラ!?」

 

パラスが下がる。

 

もう一歩。

 

「パラ……!」

 

逃げそうになる。

 

「リザード、そこで止まって」

 

「リザ」

 

サトシはパラスを見る。

 

「大丈夫。今のでいい」

 

「パラ?」

 

「逃げなかっただろ?」

 

パラスが自分の足を見る。

 

確かにまだその場にいる。

 

「もう一回やろう」

 

◇

 

何度も繰り返した。

 

最初はリザードが近づくだけ。

 

次は少し速く。

 

さらにパラスが避ける。

 

「今!」

 

キヨミが声を出す。

 

「パラス、攻撃よ!」

 

「パラ!」

 

パラスが反撃する。

 

だがリザードには届かない。

 

「リザ」

 

「いいぞ!」

 

サトシが笑う。

 

「今、自分から攻撃できた!」

 

「パラ?」

 

パラスが顔を上げる。

 

「もう一回!」

 

今度はリザードが少し動く。

 

パラスが追う。

 

攻撃するが外れる。

 

「パラ……」

 

「下向くなって」

 

サトシが言う。

 

「さっきより動けてた」

 

「パラ」

 

少しずつパラスの動きが変わっていく。

 

◇

 

だが大きな問題があった。

 

「リザード」

 

「リザ」

 

サトシが手を上げる。

 

「今度は炎を見せる。でも絶対にパラスへ向けないで」

 

「リザ」

 

リザードが横を向く。

 

「ほんの少しでいい」

 

「リザ……」

 

口を開く。

 

ぼっ。

 

小さな炎。

 

「パラァッ!?」

 

パラスは。

 

キヨミの後ろへ飛び込んだ。

 

「パラス!」

 

「やっぱり炎は怖いか」

 

サトシはすぐリザードを止める。

 

「リザ……」

 

リザードが申し訳なさそうにパラスを見る。

 

「リザードのせいじゃないよ」

 

サトシは頭を撫でる。

 

「むしろ、今の炎かなり小さくできた」

 

「リザ?」

 

「ああ」

 

進化した直後あれほど苦労していた出力調整。

 

今の炎は明らかに小さかった。

 

「もう一回やってみよう。ただし、もっと離れて」

 

「リザ!」

 

サトシはパラスにも言う。

 

「パラスも、近づかなくていい」

 

「パラ……?」

 

「怖いなら、いきなり平気にならなくていいよ」

 

遠くから見るそれだけ。

 

「少しずつでいい」

 

「パラ……」

 

パラスが。

 

キヨミの足元から顔を出した。

 

◇

 

「なんだか面白そうなことしてるじゃない」

 

木の陰。

 

「またあいつらニャ」

 

ムサシ。

 

コジロウ。

 

ニャース。

 

ロケット団が覗いていた。

 

「弱そうなパラスだな」

 

コジロウが言う。

 

「弱いなら捕まえても仕方ないわね」

 

ムサシが腕を組む。

 

「でも進化したら薬の材料が取れるって言ってたニャ」

 

ニャースの耳が動く。

 

「薬?」

 

「高く売れるかもしれないニャ」

 

ムサシとコジロウの目が光る。

 

「それよ!」

 

「だったら進化させればいい!」

 

「話は決まりニャ!」

 

二人と1匹が悪い笑みを浮かべた。

 

◇

 

その後なぜかパラスの特訓場にニャースが現れた。

 

「おみゃー、そんなんじゃいつまでたっても進化できないニャ!」

 

「パラ!?」

 

「ニャース!?」

 

サトシが驚く。

 

「何してるんだ?」

 

「気にするニャ!」

 

「いや、気にするだろ」

 

「今日は敵じゃないニャ!」

 

「その言い方で信用できると思う?」

 

カスミが呆れる。

 

だがニャースはパラスの前へ立つ。

 

「いいかニャ。怖くても一歩出るニャ!」

 

「パラ……」

 

「逃げてばっかりじゃ何も変わらないニャ!」

 

妙に熱い。

 

「……何か企んでるな」

 

タケシが言う。

 

「絶対企んでる」

 

サトシも頷く。

 

それでもパラスはニャースを見る。

 

「パラ」

 

一歩前へ。

 

「そうニャ!」

 

ニャースが笑う。

 

「その調子ニャ!」

 

「意外と面倒見いいな」

 

サトシが呟く。

 

「聞こえてるニャ!」

 

◇

 

特訓は続いた。

 

リザードが小さな炎を出す。

 

「リザ」

 

「パラ……!」

 

パラスは震える。

 

それでも逃げない。

 

次。

 

少し近く。

 

「リザ」

 

ぼっ。

 

「パラ……!」

 

また踏みとどまる。

 

「いいぞ」

 

サトシが笑う。

 

「リザードも上手くなってる」

 

「リザ!」

 

炎は。

 

以前よりずっと小さい。

 

必要な分だけ必要な場所へ。

 

リザード自身も自分の変化を実感している。

 

「今度はバトル形式でやってみよう」

 

「パラ!」

 

パラスが自分から前へ出た。

 

「パラス……!」

 

キヨミが驚く。

 

「やるの?」

 

「パラ!」

 

「分かった」

 

キヨミが笑う。

 

「やってみよう!」

 

サトシも頷く。

 

「リザード」

 

「リザ!」

 

「今度はさっきまでより動くぞ」

 

「リザ!」

 

向かい合う。

 

「始めよう!」

 

リザードが走る。

 

「パラ!」

 

パラスが身構える。

 

速い。

 

今までよりずっと。

 

「パラス、避けて!」

 

「パラ!」

 

横へ。

 

リザードが方向を変える。

 

パラスが一瞬固まる。

 

「逃げないで!」

 

キヨミが叫ぶ。

 

「相手を見て!」

 

「パラ……!」

 

パラスがリザードを見る。

 

「リザ!」

 

リザードが迫る。

 

「今よ!」

 

パラスが動いた。

 

ぎりぎりで避ける。

 

そして振り返る。

 

「パラ!」

 

攻撃

 

リザードへ命中。

 

「リザ!」

 

リザードが一歩下がった。

 

「当たった!」

 

キヨミが叫ぶ。

 

「パラ……?」

 

パラス自身が一番驚いていた。

 

サトシが笑う。

 

「今のは俺たちが当てさせたんじゃない」

 

パラスが見る。

 

「ちゃんと自分で見て、避けて、当てたんだ」

 

「パラ……!」

 

身体が震える。

 

今度は恐怖ではない。

 

「パラ!」

 

もう一度前へ出る。

 

「リザ!」

 

リザードも応える。

 

そしてパラスの身体が白い光に包まれた。

 

「パラス!」

 

キヨミが目を見開く。

 

「進化だ!」

 

身体が大きくなる。

 

背中のキノコが大きく広がる。

 

光が消える。

 

「パラセクト……!」

 

「セクト!」

 

パラセクトが力強く鳴いた。

 

「やった……!」

 

キヨミが駆け寄る。

 

「パラセクト!」

 

「セクト!」

 

抱きつく、パラセクトも嬉しそうに応える。

 

「リザ!」

 

リザードも笑う。

 

サトシが肩を叩いた。

 

「お前もいい相手だったよ」

 

「リザ!」

 

◇

 

「進化したニャ!」

 

離れた木陰。

 

ニャースが喜ぶ。

 

「これで薬の材料が!」

 

ムサシが飛び出す。

 

「いただきよ!」

 

「やっぱりそれが目的か!」

 

サトシが叫ぶ。

 

「ピカ!」

 

「待ちなさい!」

 

キヨミがパラセクトを守る。

 

「そのパラセクトをいただいて――」

 

「パラセクト」

 

キヨミが前を見る。

 

「戦える?」

 

「セクト!」

 

今度は隠れない。

 

「よし!」

 

サトシが笑う。

 

「ピカチュウ、俺たちも手伝うぞ!」

 

「ピカ!」

 

ロケット団がアーボックとマタドガスを出す。

 

だが今日何度も一歩を踏み出したパラセクトはもう最初に会った時のパラスではなかった。

 

相手を見て避ける、そして自分から前へ出る。

 

「セクト!」

 

「いいぞ、パラセクト!」

 

キヨミが叫ぶ。

 

ピカチュウも横から駆ける。

 

「ピカチュウ、『10まんボルト』!」

 

「ピッカァァァ――チュウッ!」

 

電撃。

 

「やな感じー!」

 

「ニャー!」

 

ロケット団が。

 

空へ消えていった。

 

◇

 

別れの時間。

 

「本当にありがとう」

 

キヨミが頭を下げる。

 

隣にはパラセクト。

 

「セクト!」

 

「俺たちは少し手伝っただけだよ」

 

サトシが答える。

 

「最後に前へ出たのはパラセクトだから」

 

「そうね」

 

キヨミはパラセクトを見る。

 

「これから一緒に薬の勉強を頑張ろうね」

 

「セクト!」

 

「進化したから終わりじゃないしな」

 

サトシが笑う。

 

「むしろ、ここから新しい身体に慣れていかないと」

 

「リザ?」

 

隣のリザードが振り返った。

 

「お前もだぞ」

 

「リザ!」

 

◇

 

キヨミたちと別れ少し歩いたところでサトシは立ち止まった。

 

「リザード」

 

「リザ?」

 

「最後に一回だけやってみよう」

 

「ほんのちょっとだけ炎」

 

「リザ」

 

リザードが息を整える。

 

進化直後のように勢いだけで吐かない。

 

自分の中の炎を少しだけ外へ。

 

ぼっ。

 

小さな炎が灯る。

 

「おっ」

 

サトシの顔が明るくなる。

 

「できた!」

 

「リザ!」

 

リザードも嬉しそうに炎を見る。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが拍手するように前足を合わせる。

 

「昨日とは大違いね」

 

カスミが笑った。

 

「ああ」

 

サトシはリザードを見る。

 

進化して力は大きく増した。

 

でも強くなるというのは大きな炎を出せるようになることだけではない。

 

「まだ進化したばっかりだ」

 

「リザ」

 

「焦らず、一つずつ使いこなしていこう」

 

「リザー!」

 

力強い声。

 

サトシが笑う。

 

「じゃあ行こう!」

 

「ピカ!」

 

「リザ!」

 

「ミニュ!」

 

旅はまだ続く。

 

パラスが一歩ずつ恐怖を乗り越えたようにリザードもまた新しく手に入れた力を少しずつ自分のものにし始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。