ポケットモンスター ―君と目指す頂―   作:あああああ

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第72話 ふっかつ!?かせきポケモン!

「見えてきたぞ」

 

タケシの声に、サトシは顔を上げた。

 

山道の先、赤茶けた巨大な岩壁が幾重にも連なり、その間を深い谷が走っている。

 

グランパキャニオン。

 

普段なら雄大な景色に目を奪われる場所なのだろう。

 

だが今日は、それ以上に目立つものがあった。

 

「すごい人……」

 

カスミが目を丸くする。

 

谷のあちこちで、大勢の人間が地面を掘っている。

 

スコップ。

 

つるはし。

 

ブラシ。

 

中には本格的な発掘道具を持ち込んでいる者までいた。

 

「化石発掘か」

 

サトシが呟く。

 

「ピカ?」

 

肩のピカチュウが耳を動かす。

 

「この辺りでは昔のポケモンの化石が見つかるんだ」

 

「へえ」

 

カスミが周囲を見る。

 

「だからこんなに人が集まってるのね」

 

「ただ……」

 

サトシは谷底へ視線を向けた。

 

ここには化石だけではない。

 

今も生きている古代のポケモンたちがいる。

 

「どうした?」

 

タケシが尋ねる。

 

「いや」

 

サトシは首を振る。

 

「掘りすぎなきゃいいけどなって」

 

そのとき。

 

「やあ、サトシじゃないか」

 

聞き覚えのある声。

 

振り返る。

 

「シゲル」

 

「ピカ」

 

シゲルが腕を組み、余裕の笑みを浮かべて立っていた。

 

「君まで化石を探しに来たのかい?」

 

「俺たちは通りかかっただけだよ」

 

「そうかい?」

 

シゲルは手にしていた発掘道具を見せる。

 

「まあ、せっかく来たなら見ていけばいい。僕が歴史的な大発見をするところをね」

 

「相変わらず自信満々ね」

 

カスミが呆れる。

 

「当然さ」

 

シゲルは笑う。

 

サトシは苦笑した。

 

そのとき少し離れた場所から。

 

どん、と妙な音がした。

 

「……ん?」

 

サトシの表情が変わる。

 

もう一度。

 

どん。

 

地面が僅かに揺れる。

 

「何の音だ?」

 

タケシも気づいた。

 

サトシは谷の奥を見る、嫌な予感がした。

 

「行ってみよう!」

 

「ピカ!」

 

◇

 

「もっと大きいのを持ってきなさいよ!」

 

「これでも十分危ないと思うぞ!」

 

「一気に吹き飛ばせば化石がごっそり出てくるニャ!」

 

岩陰。

 

ムサシ。

 

コジロウ。

 

ニャース。

 

そして目の前には大量の爆薬。

 

「やっぱりお前らか!」

 

「げっ!」

 

三人が振り返る。

 

「ジャリボーイ!」

 

「何してるんだ!」

 

サトシが走ってくる。

 

「見て分からない?」

 

ムサシが胸を張る。

 

「化石発掘よ!」

 

「それを発掘とは言わない!」

 

タケシが叫ぶ。

 

「こんな場所で爆発させたら崩れるぞ!」

 

「その前に化石をいただけばいいのよ!」

 

「そういう問題じゃない!」

 

サトシが爆薬を見る。

 

すでに導火線。

 

火。

 

「まずい!」

 

「ピカ!」

 

サトシが駆ける。

 

だが。

 

一瞬遅かった。

 

ドォォォォォン!!

 

大地が跳ねた。

 

「うわっ!」

 

「きゃあ!」

 

亀裂。

 

サトシの足元。

 

「サトシ!」

 

地面が崩れる。

 

「ピカァ!」

 

ピカチュウがサトシへ飛びつく。

 

そのまま。

 

サトシとピカチュウ。

 

そしてロケット団の三人が。

 

暗い穴の中へ落ちていった。

 

「サトシー!」

 

カスミの叫びが遠ざかる。

 

◇

 

「っ……」

 

サトシはゆっくり目を開けた。

 

「ピカ……」

 

「ピカチュウ!」

 

すぐそば。

 

ピカチュウが身体を起こす。

 

「大丈夫?」

 

「ピカ!」

 

「よかった」

 

サトシも立ち上がる。

 

身体のあちこちが痛む、だが大きな怪我はない。

 

「いたたた……」

 

「ひどい目に遭ったわ……」

 

「ニャーの尻が割れたニャ……」

 

「最初から割れてるだろ」

 

サトシが言う。

 

「そういう問題じゃないニャ!」

 

ロケット団も無事らしい。

 

サトシは周囲を見回した。

 

広い地下空間。

 

上を見る、崩れた穴の遥か向こうに僅かな光。

 

「かなり落ちたな……」

 

「ピカ」

 

「早く出口を探しましょ」

 

ムサシが歩き出そうとした。

 

「待って」

 

サトシが止める。

 

「何よ?」

 

「何かいる」

 

「ピカ?」

 

サトシは目を閉じる。

 

波導。

 

地下。

 

岩。

 

その向こう、一つではない。

 

いくつもの生命の気配。

 

ゆっくり。

 

こちらへ近づいてくる。

 

「来る」

 

闇の中。

 

かさ。

 

音。

 

そして。

 

「オム……」

 

「え?」

 

コジロウが固まる。

 

丸い殻。

 

そこから伸びる触手。

 

「オムナイト……!」

 

さらに。

 

「オムスター!」

 

「カブト!」

 

「カブトプス!」

 

一匹。

 

二匹。

 

次々と姿を現す。

 

「生きてる……」

 

コジロウが目を見開く。

 

「化石じゃないニャ!」

 

サトシも息を呑んだ。

 

知っていた、ここにいることは。

 

それでも実際に見るのは違う。

 

遥か昔から姿を変えずこの地下で生き続けてきたポケモンたち。

 

「すごい……」

 

「ピカ……」

 

だが感動している場合ではなかった。

 

「カブトプス!」

 

鋭い鎌。

 

「避けろ!」

 

全員が飛び退く。

 

ざんっ!

 

岩へ傷が走る。

 

「怒ってる!」

 

「当たり前だ!」

 

サトシは叫ぶ。

 

「上であれだけ爆発させたんだぞ!」

 

「私たちだけのせいじゃないわよ!」

 

「爆発させたのはお前らだろ!」

 

「今は喧嘩してる場合じゃないニャ!」

 

その通りだった。

 

オムスター。

 

カブトプス。

 

古代のポケモンたちが迫ってくる。

 

サトシはモンスターボールへ手を伸ばしかけ。

 

止めた。

 

ここは。

 

このポケモンたちの場所だ。

 

「戦って倒すんじゃない」

 

「はあ!?」

 

ムサシが叫ぶ。

 

「逃げるぞ!」

 

「ピカ!」

 

「何でよ!」

 

「侵入したのは俺たちだ!」

 

サトシは走る。

 

「出口を探す!」

 

「待ちなさいよ!」

 

ロケット団も追いかける。

 

その背後を古代ポケモンたちが追ってきた。

 

◇

 

地上。

 

「サトシ!」

 

カスミが穴を覗き込む。

 

「返事して!」

 

返事はない。

 

「落ち着け」

 

タケシが周囲を見る。

 

「別の入口を探すんだ」

 

「でも!」

 

「サトシなら大丈夫だ」

 

タケシはそう言ったものの、表情は険しい。

 

そのとき。

 

「リザ!」

 

腰のボールが揺れた。

 

ぽん。

 

光。

 

リザードが現れる。

 

「リザ!」

 

「リザード?」

 

リザードは穴へ駆け寄る。

 

下を見る。

 

「リザ……!」

 

サトシの姿は見えない。

 

「大丈夫よ」

 

カスミが言う。

 

「今、助ける方法を探してるから」

 

「リザ……」

 

リザードは穴を睨んだ。

 

尾の炎が。

 

強く揺れた。

 

◇

 

地下。

 

「こっちだ!」

 

サトシは僅かに風を感じる方向へ走っていた。

 

「出口が近い!」

 

「本当でしょうね!」

 

「文句言うなら残ってろ!」

 

「誰が残るか!」

 

そのとき。

 

古代ポケモンたちの動きが突然止まった。

 

「……?」

 

サトシも足を止める。

 

「どうしたニャ?」

 

オムナイト。

 

オムスター。

 

カブト。

 

カブトプス。

 

さっきまで怒って追ってきていたポケモンたちが。

 

一斉に。

 

奥を見る。

 

怯えている。

 

「何か……いる」

 

サトシの背筋に。

 

冷たいものが走る。

 

波導。

 

大きい。

 

鋭い。

 

そして。

 

速い。

 

ばさっ。

 

翼の音。

 

「上!」

 

サトシが叫ぶ。

 

闇を。

 

巨大な影が横切る。

 

「何よ今の!?」

 

再び。

 

ばさっ!

 

岩壁へ爪が突き刺さる。

 

大きな翼。

 

長い顎。

 

鋭い牙。

 

「プテラ……!」

 

「ギャオオオーン!!」

 

咆哮。

 

地下空間が震える。

 

古代ポケモンたちが一斉に逃げ出した。

 

「こいつを恐れてたのか……!」

 

プテラの目が。

 

侵入者を捉える。

 

「来るぞ!」

 

急降下。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

横へ飛ぶ。

 

プテラが地面すれすれを通過。

 

その風圧だけでロケット団が転がる。

 

「強い……!」

 

サトシは立ち上がる。

 

プテラが旋回。

 

もう一度。

 

「ピカチュウ、『10まんボルト』!」

 

「ピッカァァァ――チュウッ!」

 

電撃。

 

だが。

 

プテラは翼を傾ける。

 

外れる。

 

「速い!」

 

直後。

 

「プテラ!」

 

「しまっ――」

 

爪。

 

サトシの服を掴む。

 

身体が浮いた。

 

「サトシ!」

 

「ピカァァァ!」

 

ピカチュウが跳ぶ。

 

届かない。

 

「くっ!」

 

サトシは空中へ持ち上げられる。

 

プテラは崩落した穴へ向かって一気に上昇した。

 

◇

 

地上。

 

ドン!

 

岩が弾ける。

 

「何!?」

 

カスミたちが振り返る。

 

巨大な影。

 

「プテラ!?」

 

その爪には。

 

「サトシ!」

 

「大丈夫!」

 

サトシが叫ぶ。

 

「まだ平気!」

 

「どこがよ!」

 

プテラがさらに上昇する。

 

「ピカァ!」

 

穴から遅れてピカチュウも飛び出してくる。

 

ロケット団も這い出す。

 

「助かったニャ……」

 

「サトシ!」

 

リザードが。

 

上を見る。

 

サトシ。

 

その身体を掴んでいるプテラ。

 

「リザ……」

 

尾の炎が大きく揺れる。

 

「リザァァァ!」

 

『かえんほうしゃ』。

 

炎が空へ伸びる。

 

だがプテラは簡単にかわす。

 

「リザ!」

 

もう一度炎。

 

また届かない。

 

「リザード!」

 

サトシが空から叫ぶ。

 

「無茶するな!」

 

「リザ!」

 

リザードは走る。

 

岩へ。

 

蹴る。

 

跳ぶ。

 

「リザァ!」

 

爪を伸ばす、だが届かない。

 

プテラはさらに高く飛ぶ。

 

「リザ……!」

 

リザードが着地する。

 

見上げる。

 

空。

 

サトシに届かない。

 

翼がない。

 

どれだけ強くなっても。

 

地上からでは追えない。

 

「リザ……!」

 

拳を握る。

 

「リザード!」

 

サトシの声。

 

「大丈夫だ!」

 

その声を聞いて。

 

リザードは顔を上げた。

 

ヒトカゲだった頃。

 

雨の中捨てられても誰かを信じようとしていた。

 

その手を取ったのがサトシだった。

 

一緒に歩いた、一緒に戦った。

 

負けた、勝った。

 

何度も炎を吐いた。

 

進化して力が大きくなって、その力を扱うためにまた一緒に練習した。

 

そして今、サトシが空にいる。

 

助けたい、届きたい、もっと高く。

 

「リザァァァァ!!」

 

光。

 

「え……?」

 

カスミが目を見開く。

 

「リザードが……!」

 

白い光がリザードの全身を包む。

 

身体が大きくなる。

 

腕。

 

脚。

 

首。

 

そして。

 

背中。

 

二枚の翼が大きく広がった。

 

「進化……!」

 

タケシが叫ぶ。

 

光が弾ける、大地へ立ったのはオレンジ色の巨大な身体。

 

腹部は淡い色。

 

鋭い爪。

 

頭の角。

 

背中には。

 

力強い翼。

 

尾の先では。

 

炎が燃え上がっている。

 

「リザァァァァー!!」

 

咆哮。

 

「リザードン……!」

 

空中。

 

サトシの顔に。

 

笑みが浮かぶ。

 

「進化したんだな!」

 

「リザァ!」

 

リザードンはサトシを見る。

 

目が合う。

 

ヒトカゲからリザードそしてリザードン。

 

姿は変わった、だがその目は何も変わっていない。

 

「来い!」

 

サトシが叫ぶ。

 

「リザードン!」

 

「リザァ!」

 

翼。

 

一度。

 

大きく羽ばたく。

 

身体が浮く。

 

「リザ!?」

 

バランスが崩れる。

 

「焦るな!」

 

サトシが叫ぶ。

 

「翼だけで飛ぼうとするな! 身体全部でバランスを取れ!」

 

「リザ!」

 

翼を広げる。

 

尾。

 

脚。

 

身体の角度を修正する。

 

もう一度羽ばたく。

 

今度は上がった。

 

「リザァァァ!」

 

初めての空、リザードンが飛ぶ。

 

「ギャオオ!」

 

プテラもリザードンを見る。

 

挑発するように牙を見せた。

 

「リザァ!」

 

リザードンが追う。

 

◇

 

空中。

 

プテラが加速する。

 

「速い!」

 

サトシは掴まれたまま、その動きを見る。

 

リザードンも追う。

 

だが、直線では距離を詰められてもプテラが翼を傾ける。

 

急旋回。

 

「リザ!?」

 

リザードンが大きく膨らむ。

 

「追いかけるだけじゃ駄目だ!」

 

サトシが叫ぶ。

 

「プテラの動きを見ろ!」

 

「リザ!」

 

プテラが旋回。

 

もう一度リザードンが追う。

 

今度は少し早く翼を傾ける。

 

「そうだ!」

 

まだ遅いだが、一回目より近い。

 

「ギャオ!」

 

プテラが岩壁の間へ。

 

「リザードン、真正面から追うな!」

 

サトシは周囲を見る。

 

プテラの飛び方。

 

翼。

 

視線。

 

岩壁。

 

そして。

 

次の動き。

 

「右へ来る!」

 

「リザ!」

 

リザードンが。

 

先に右へ。

 

直後。

 

岩陰からプテラ。

 

「今だ!」

 

「リザァァ!」

 

リザードンが突っ込む。

 

「ギャオ!?」

 

初めて。

 

プテラの表情が変わった。

 

激突。

 

サトシを掴んでいた爪が緩む。

 

「っ!」

 

落下。

 

「サトシ!」

 

カスミの悲鳴。

 

「ピカァ!」

 

だが。

 

「リザァ!」

 

リザードンが急降下。

 

サトシへ。

 

「頼む!」

 

サトシを受け止める。

 

「……よし!」

 

サトシはリザードンの背へしがみついた。

 

「助かった!」

 

「リザ!」

 

「でもまだ終わってない!」

 

「リザ!」

 

二人が前を見る。

 

プテラも空中で体勢を立て直していた。

 

「ギャオオーン!」

 

「リザァァ!」

 

互いに。

 

睨み合う。

 

「リザードン」

 

サトシはその背中へ手を置く。

 

「行けるか?」

 

「リザ!」

 

即答。

 

「よし!」

 

サトシが笑う。

 

「行こう!」

 

リザードンが空を蹴るように加速した。

 

◇

 

リザードンとプテラ。

 

二つの影がグランパキャニオンの空を飛ぶ。

 

飛行技術では明らかにプテラが上。

 

だがリザードンは一度飛ぶたびに、一度曲がるたびに自分の翼の使い方を覚えていく。

 

「左!」

 

「リザ!」

 

旋回。

 

「上だ!」

 

急上昇、プテラが追う。

 

「今度は落ちろ!」

 

「リザ!」

 

翼を畳む。

 

急降下。

 

プテラが僅かに遅れる。

 

「今!」

 

リザードンが反転。

 

「『かえんほうしゃ』!」

 

「リザァァァ!」

 

炎。

 

リザードに進化直後巨大になりすぎた炎。

 

何度も練習して少しずつ扱えるようになった力。

 

その炎が狙った軌道を走る。

 

「ギャオオ!」

 

直撃。

 

プテラの身体が揺れる。

 

だが。

 

落ちない。

 

「やっぱり強い!」

 

サトシの目が輝く。

 

「リザ!」

 

リザードンも。

 

笑っていた。

 

強い相手。

 

初めての空。

 

そして。

 

サトシが背中にいる。

 

「もう一回行くぞ!」

 

「リザァ!」

 

プテラが突っ込む。

 

リザードンも。

 

正面から。

 

激突。

 

空気が弾ける。

 

「ギャオーン!」

 

「リザァ!」

 

互いに押す。

 

「負けるな!」

 

「リザァァァ!」

 

リザードンが。

 

押し切った。

 

プテラが吹き飛ぶ。

 

岩場へ。

 

激突。

 

「ギャオ……!」

 

地面へ落ちる。

 

「リザードン!」

 

「リザ!」

 

サトシとリザードンも着地する。

 

サトシが背中から降りた。

 

プテラは。

 

まだ立とうとしている。

 

「ギャオ……」

 

「まだやるのか?」

 

「ギャオオオン!……!」

 

翼を広げる。

 

だが。

 

力が入らない。

 

サトシは。

 

モンスターボールを取らない。

 

ゆっくり。

 

前へ。

 

「サトシ、危ない!」

 

カスミが叫ぶ。

 

「大丈夫」

 

サトシは止まらない。

 

「ギャオオオン!」

 

プテラが睨む。

 

「悪かった」

 

「ギャオ……?」

 

「お前たちの住処を荒らしたのは俺たち人間だ」

 

ロケット団がそっと目を逸らす。

 

「俺は爆破してないけど」

 

サトシが一度だけ後ろを見る。

 

「原因はあいつらだけどな」

 

「そこでこっち見るな!」

 

「でも」

 

サトシはプテラへ向き直る。

 

「お前たちから見たら、そんなの関係ないよな」

 

プテラは黙っている。

 

「だから、もう地下のポケモンたちには手を出さない」

 

「ギャオオン……」

 

「でも」

 

サトシの目が。

 

変わる。

 

「お前、すごく強いな」

 

「ギャオ?」

 

「俺はもっと強くなりたい」

 

リザードンが隣へ立つ。

 

「リザ」

 

「だから」

 

サトシはモンスターボールを一つ取り出した。

 

「俺たちと一緒に来ないか?」

 

「プテ……」

 

プテラの目が細くなる。

 

「嫌なら無理には捕まえない」

 

ボールを握る。

 

「でも、もし俺たちを認めてくれるなら」

 

サトシが笑う。

 

「もう一回勝負しよう」

 

沈黙。

 

風。

 

プテラはサトシを見る。

 

そしてリザードンを見る。

 

自分を空で追い。

 

初めて飛んだばかりだというのに最後には正面から押し切った相手。

 

「ギャオーン……!」

 

翼を広げる。

 

「リザ!」

 

リザードンが構える。

 

「……受けてくれるんだな」

 

「ギャオーーン!」

 

「よし!」

 

サトシが前へ出る。

 

「リザードン!」

 

「リザ!」

 

短い。

 

最後の勝負。

 

プテラが地面を蹴る。

 

「リザードン、上へ!」

 

「リザ!」

 

飛ぶ。

 

プテラも追う。

 

「来るぞ!」

 

プテラが突進。

 

「避けて!」

 

翼を傾ける。

 

今度は大きく膨らまない。

 

ぎりぎりかわす。

 

「そのまま後ろへ!」

 

リザードンが旋回し、プテラの背後。

 

「『かえんほうしゃ』!」

 

「リザァァァ!」

 

炎。

 

「プテラ!」

 

直撃、プテラが地上へ落ちる。

 

それでも立ち上がる。

 

サトシと目が合う。

 

「今だ!」

 

モンスターボールを投げる。

 

「行け!」

 

ボールがプテラへ触れる。

 

赤い光。

 

プテラの身体が吸い込まれる。

 

地面へ落ちる。

 

一度。

 

揺れる。

 

二度。

 

三度。

 

そして、かちっ。

 

静かになった。

 

「……」

 

サトシは数秒動かなかった。

 

「ピカ……」

 

ピカチュウが見つめる。

 

やがて。

 

サトシの顔に笑みが広がった。

 

「よし!」

 

拳を握る。

 

「プテラ、ゲットだ!」

 

「ピッカァ!」

 

リザードンも。

 

「リザァァ!」

 

大きく吠えた。

 

その直後モンスターボールが光に包まれる。

 

「あ」

 

サトシが思い出した。

 

「今、六匹いる」

 

ボールはオーキド研究所への転送。

 

「……いきなり研究所行きか」

 

「ピカ」

 

「あとでちゃんと連絡しないとな」

 

◇

 

その後。

 

グランパキャニオンでは大騒ぎになった。

 

だが、地下に生きた化石ポケモンがいることを。

 

サトシたちは詳しく話さなかった。

 

「本当に何もいなかったの?」

 

シゲルが尋ねる。

 

「さあな」

 

サトシが答える。

 

「落ちるのに必死でよく分からなかったよ」

 

「ふーん」

 

シゲルは疑わしそうに見る。

 

それでもそれ以上は聞かなかった。

 

やがてこれ以上の発掘は危険だとして。

 

周囲への立ち入りが制限されることになった。

 

「これで少しは静かになるな」

 

タケシが言う。

 

「ああ」

 

サトシは谷を見る。

 

地下。

 

オムナイト。

 

オムスター。

 

カブト。

 

カブトプス。

 

これからも静かに暮らしてほしい。

 

そのとき。

 

「サトシ!」

 

カスミの声。

 

「あれ!」

 

「ん?」

 

岩陰、そこに丸いものがあった。

 

「卵……?」

 

タケシが持ち上げる。

 

白っぽい殻。

 

赤と青の模様。

 

サトシは見覚えがあった。

 

「……これ」

 

「知ってるの?」

 

カスミが聞く。

 

「いや」

 

サトシは首を振る。

 

今はまだ言わない。

 

「何の卵なんだろうな」

 

「しばらく様子を見るしかないな」

 

タケシが慎重に抱える。

 

「俺が預かっておくよ」

 

「頼む」

 

サトシはその卵を見つめ小さく笑った。

 

◇

 

夜。

 

グランパキャニオンから少し離れた場所。

 

焚き火。

 

「リザードン」

 

「リザ?」

 

サトシは目の前のリザードンを見上げた。

 

「……でかいな」

 

「リザ?」

 

「いや、ヒトカゲの頃を知ってるからさ」

 

「ピカピカ」

 

ピカチュウも。

 

リザードンを見上げる。

 

「リザ」

 

リザードンが少し得意そうに胸を張る。

 

「でも」

 

サトシは翼を見る。

 

「飛ぶのはまだ練習が必要だな」

 

「リザ……」

 

「最初すごい膨らんでたし」

 

「リザ!」

 

「怒るなって」

 

サトシが笑う。

 

「初めてだったんだから当たり前だよ」

 

リザードンの翼へ触れる。

 

「明日から飛ぶ練習もしよう」

 

「リザ!」

 

「炎もな」

 

「……リザ」

 

「そっちは嫌そうな顔するなよ」

 

「ピカピカ!」

 

ピカチュウが笑う。

 

サトシも笑った。

 

そして拳を出す。

 

「進化、おめでとう」

 

リザードンはその拳を見る。

 

大きな手で拳を作る。

 

こつん。

 

サトシの拳へ軽く合わせた。

 

「リザ」

 

「これからもよろしくな」

 

「リザァ!」

 

ヒトカゲからリザードへ。

 

リザードからリザードンへ。

 

姿が変わっても力が変わっても。

 

二人の間にあるものは何一つ変わっていなかった。

 

「それと」

 

サトシはオーキド研究所の方向を見る。

 

「プテラにも会いに行かないとな」

 

「リザ」

 

リザードンの目が少し鋭くなる。

 

「また戦いたい?」

 

「リザ!」

 

即答。

 

「ははっ」

 

サトシは笑う。

 

「仲間になったんだから、今度は一緒に練習だ」

 

「リザァ!」

 

新しく二匹の空を飛ぶ仲間ができた。

 

一匹はずっと一緒に歩いてきた相棒。

 

もう一匹は遥か昔から生き抜いてきた古代の強者。

 

サトシは夜空を見上げる。

 

「もっと強くなろうな」

 

「ピカ!」

 

「リザァ!」

 

旅はまた一つ大きく動き始めていた。

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