ポケットモンスター ―君と目指す頂― 作:あああああ
朝、森の中に差し込む木漏れ日の下で甲羅の回転音が響いていた。
「カメール、右!」
「カメ!」
地面を走っていたカメールが僅かに回転速度を落とす。
昨日までなら大きく膨らんでいた軌道が、今日はかなり小さい。
長い尻尾によって変わった重心を意識しながら方向を調整し、二本の木の間を抜ける。
「そこで止まれ!」
「カメ!」
回転が止まり、カメールが甲羅から飛び出した。
「よし!」
「カメェ!」
カメールが両腕を上げて喜ぶ。
「昨日よりずっと良くなってるぞ」
「ピカピカ!」
ピカチュウも拍手する。
カメールは得意げに胸を張った。
進化してからまだ二日目。
ゼニガメだった頃と比べれば身体は大きくなり、甲羅の重さも、長くなった尻尾も違う。それでも昨日の戦いと今朝の練習だけで、少しずつ新しい身体の感覚を掴み始めていた。
「もう一回!」
「カメ!」
やる気満々で甲羅へ入ろうとするカメールを、サトシが止める。
「待った。少し休憩」
「カメェ……」
「そんな声出しても駄目」
「ピカピカ」
ピカチュウが笑う。
「順調そうね」
カスミがトゲピーを抱きながら歩いてきた。
「チョゲピー!」
「昨日よりかなりな」
「カメールって進化しても本当に特訓好きね」
「カメ!」
褒め言葉として受け取ったらしい。
カメールが胸を張る。
少し離れた場所では、タケシが朝食の片付けをしていた。
「身体に慣れるまでは、今くらいのペースがちょうどいいだろうな」
「ああ。焦って新しいことをやるより、まず今までできてたことを取り戻す」
サトシはそう答えながら、もう一匹の仲間へ目を向けた。
「……ん?」
木陰。
そこにフシギソウがいた。
いつもならカメールの特訓を眺めていたり、自分も身体を動かしたりしている。
しかし今日は違った。
「ソウ……」
じっと森の奥を見つめている。
「フシギソウ?」
「ソウ」
呼びかければ反応はする。
けれど、すぐに森の奥へ視線を戻した。
サトシが近づく。
「どうした?」
「ソウ……」
背中のつぼみが、僅かに震えた。
「体調悪いのか?」
サトシはフシギソウの前へしゃがんだ。
呼吸に乱れはない。
表情にも苦しそうな様子はなかった。
それでも、明らかにいつもとは違う。
「タケシ」
「ああ」
タケシも近づき、フシギソウの様子を確認する。
「熱があるわけじゃなさそうだな」
「ソウ……」
また背中のつぼみが震える。
今度は少し大きく。
その直後だった。
ざわっ。
風が吹いた。
木々の葉が揺れる。
甘い香りが森の奥から漂ってきた。
「何、この匂い……」
カスミが辺りを見回す。
「花?」
タケシも鼻を動かす。
サトシは知っていた。
この森でこの香りが意味するものを。
けれど。
「ソウ!」
フシギソウが立ち上がった。
「フシギソウ?」
「ソウ!」
サトシを見る。
そして森の奥を見る。
もう一度サトシへ視線を戻すと、そのまま歩き始めた。
「行きたいのか」
「ソウ!」
サトシは立ち上がった。
「分かった。行こう」
「ピカ!」
「私たちも行くわ」
「チョゲピー!」
カスミの腕の中でトゲピーも楽しそうに声を上げる。
タケシが荷物を背負った。
「何があるか分からない。準備だけはしておこう」
サトシはカメールへ振り返る。
「カメール、戻ってくれ」
「カメ!」
赤い光がカメールを包み、モンスターボールへ戻す。
そして。
「案内してくれ、フシギソウ」
「ソウ!」
フシギソウが森の奥へ走り出した。
◇
進むほど、森の様子が変わっていった。
木々は深く。
差し込む光は少なくなっている。
それなのに、不思議と暗さは感じない。
所々に咲く花が柔らかな光を反射し、道を示しているようだった。
「綺麗……」
カスミが呟く。
「チョゲ……」
トゲピーも目を輝かせている。
「ソウ!」
先を進んでいたフシギソウが立ち止まった。
「どうした?」
サトシたちも足を止める。
草むら。
がさっ。
「ダネ!」
一匹のフシギダネが姿を現した。
「フシギダネ?」
続いて。
「ダネ!」
「ダネダネ!」
別の方向からも現れる。
一匹。
二匹。
三匹。
どのフシギダネもサトシたちを一瞬だけ警戒したものの、すぐに同じ方向へ歩いていく。
「みんな同じところに向かってる」
「何かあるみたいだな」
タケシが言う。
フシギソウは歩いていくフシギダネたちを見つめた。
「ソウ……」
一匹のフシギダネが足を止める。
サトシのフシギソウを見る。
「ダネ?」
「ソウ」
互いに鳴き声を交わす。
やがてフシギダネは嬉しそうに鳴き、再び仲間たちの後を追った。
「知ってる場所なのか?」
「ソウ……」
フシギソウ自身にも、はっきりとは分からないらしい。
それでも。
何かに導かれている。
サトシにはそう見えた。
「行こう」
「ピカ」
一行はフシギダネたちを追って森の奥へ進んだ。
◇
やがて。
視界が開けた。
「うわぁ……」
カスミが思わず声を漏らす。
巨大な木々に囲まれた場所。
地面いっぱいに色とりどりの花が咲き、空から柔らかな光が差し込んでいる。
そこには。
「ダネ!」
「ダネダネ!」
数え切れないほどのフシギダネが集まっていた。
その中には何匹ものフシギソウもいる。
「ここが……」
サトシが呟く。
不思議の花園。
フシギダネたちにとって特別な場所。
「こんな場所があったなんて……」
タケシも驚きを隠せない。
そのとき。
集まっていたポケモンたちが一斉に道を開けた。
ずしん。
地面が揺れる。
ずしん。
花々の奥から、一匹の巨大なポケモンが姿を現した。
青緑色の大きな身体。
背中には巨大な花。
「バナァァ……!」
「フシギバナ……!」
カスミが目を見開く。
フシギバナはゆっくり進み、集まったフシギダネたちを見渡した。
そして。
視線が止まる。
サトシのフシギソウ。
「……ソウ」
フシギソウもフシギバナを見返した。
「バナ……」
フシギバナが低く鳴く。
すると、サトシのフシギソウの背中にあるつぼみが再び脈打った。
どくん。
「ソウ……!」
「フシギソウ?」
サトシが一歩近づく。
しかしフシギソウは苦しんではいない。
驚いている、自分の身体の中で起こっている変化に。
「バナァ」
フシギバナがゆっくり背を向けた。
花園の中央へ進んでいく。
集まっていたフシギダネたちも、その後へ続いた。
サトシは黙って見守った。
やがて風が吹く。
花びらが舞う。
フシギバナが空を仰いだ。
「バナァァァ――!」
その声に応えるように。
「ダネ!」
「ダネダネ!」
フシギダネたちの身体が次々と光り始めた。
「進化……!」
カスミが息を呑む。
光の中。
小さかった身体が大きくなり、背中の種がつぼみへ変わっていく。
一匹。
また一匹とフシギダネがフシギソウへ進化していく。
「すごい……」
タケシもその光景に見入っていた。
サトシは隣を見る。
「ソウ……」
フシギソウは、進化していく仲間たちをじっと見つめている。
そして。
どくん。
背中のつぼみが脈打つ。
一瞬。
身体の周囲に淡い光が浮かんだ。
「……!」
サトシは何も言わなかった。
フシギソウも自分の身体を見る。
光はすぐに消えた。
「ソウ……」
その様子を、群れのフシギバナが静かに見ていた。
「バナ」
フシギソウへ向かって一度鳴く。
「ソウ」
フシギソウも返す。
何を話しているのか。
正確な言葉は分からない。
けれどサトシには、フシギバナが何かを急かしているようには見えなかった。
ただ、待っている。
フシギソウ自身が次の一歩を踏み出す瞬間を。
「ピカ……」
ピカチュウがサトシを見上げる。
サトシは小さく頷いた。
「大丈夫」
それだけだった。
◇
その頃、花園を見下ろせる崖の上では。
「見なさい!」
ムサシが双眼鏡を握っていた。
「フシギダネにフシギソウがあんなに!」
「しかもフシギバナまでいるぞ!」
コジロウが驚く。
ニャースの目が輝く。
「あれを全部捕まえてボスに献上すれば……」
三人の頭の中に、都合のいい未来が浮かぶ。
「大出世!」
「幹部!」
「最高級ネコ缶食べ放題ニャ!」
三人が笑う。
「決まりね」
ムサシが振り返る。
そこには大きな捕獲装置が準備されていた。
◇
花園では、進化したばかりのフシギソウたちが互いの姿を確かめ合っていた。
「ソウ!」
「ソウソウ!」
サトシのフシギソウも、その輪の中にいる。
自分より少し小さなフシギソウが近づいてきた。
「ソウ?」
「ソウ!」
サトシのフシギソウが優しくつるを伸ばし、その頭を軽く撫でる。
「昔からああいうところは変わらないな」
サトシが笑う。
「面倒見がいいものね」
カスミも頷いた。
フシギダネの里にいた頃から。
サトシと出会ってからもフシギソウは仲間を守ることを大切にしてきた。
「チョゲピー!」
トゲピーが楽しそうに手を伸ばす。
「トゲピーも行きたいの?」
「チョゲ!」
カスミが苦笑した、そのときだった。
ばしゅっ!
空から巨大な網が落ちてきた。
「ソウ!?」
「ダネ!?」
「何!?」
何匹ものフシギダネとフシギソウが網に捕らわれる。
「なんだかんだと聞かれたら!」
「やっぱりお前らか!」
サトシが顔を上げる。
気球。
そこにはロケット団。
「昨日の今日で懲りないわね!」
「昨日は昨日、今日は今日よ!」
ムサシが胸を張る。
「今日は大量ゲットの日ニャ!」
ニャースが装置のスイッチを押す。
次々と網が放たれた。
「逃げろ!」
サトシが叫ぶ。
フシギダネたちが散る。
しかし。
「ダネ!」
一匹が足を蔓に取られて転んだ。
頭上から網が落ちる。
「ソウ!」
サトシのフシギソウが飛び出した。
「つるのムチ!」
「ソウ!」
二本のつるが伸び、網を横から弾き飛ばす。
「ダネ!」
「大丈夫か!」
「ダネ!」
フシギダネが逃げる。
「邪魔するんじゃないわよ!」
「アーボック!」
「マタドガス!」
二匹が気球から飛び降りる。
「シャーボ!」
「ドガース!」
「ピカチュウ!」
「ピカ!」
サトシの肩からピカチュウが飛び降りる。
「アーボック、あのフシギソウを止めなさい!」
「シャーボ!」
アーボックが突進する。
「はっぱカッター!」
「ソウ!」
鋭い葉が飛ぶ。
アーボックが身体を捻る。
その隙にフシギソウは網に捕まった仲間たちへつるを伸ばした。
「ソウ!」
網を引き裂く。
「ソウ!」
「ダネ!」
仲間たちが次々と逃げ出す。
「こいつ!」
ムサシが苛立つ。
「だったら装置を最大出力よ!」
「了解ニャ!」
ニャースがレバーを倒す。
機械が唸る。
今度は何本ものワイヤーが一斉に射出された。
「危ない!」
「ソウ!」
フシギソウが仲間の前へ立つ。
「つるのムチ!」
つるがワイヤーを叩く。
一本。
二本。
三本。
しかし。
「ソウッ!」
一本がつるへ絡みついた。
「フシギソウ!」
さらに別のワイヤー。
身体へ巻きつく。
「ソウ!」
「今ニャ!」
機械が巻き上げを始める。
フシギソウの身体が引っ張られた。
「ピカチュウ、助けるぞ!」
「ピカ!」
だが。
「マタドガス、えんまく!」
「ドガース!」
黒煙が広がる。
「くっ……!」
視界が塞がれる。
「ソウ……!」
フシギソウが地面へ爪を立てる。
後ろには。
まだ逃げ切れていないフシギダネたち。
進化したばかりのフシギソウたち。
自分が避ければ、ワイヤーはそちらへ向かう。
「ソウ!」
踏みとどまる。
「何してるんだ! 逃げろ!」
サトシが煙の向こうから叫ぶ。
「ソウ!」
フシギソウは動かなかった。
背中のつぼみが脈打つ。
どくん。
朝から感じていたもの。
森の奥から呼ばれた感覚。
花園へ来て。
多くの仲間を見て。
群れを導くフシギバナと出会った。
そして今守りたいものが背後にいる。
「ソウ……!」
ワイヤーをつるで掴む。
引き返す。
機械と力比べになる。
「まだ抵抗するニャ!?」
「出力を上げなさい!」
「これ以上は壊れるぞ!」
「いいから上げるのよ!」
「ニャ!」
機械の音がさらに大きくなる。
「ソウッ……!」
フシギソウの足が地面を滑った。
一歩。
また一歩。
それでも倒れない。
「ダネ……!」
後ろのフシギダネが震えている。
その声を聞いた瞬間。
フシギソウの目が開いた。
「ソウ――!」
どくん。
つぼみが大きく脈打つ。
そして。光が溢れた。
「……フシギソウ!」
煙を抜けたサトシが足を止める。
「ピカ……!」
フシギソウの身体が眩い光に包まれている。
身体が大きくなる。
四本の足が太く、力強くなる。
背中のつぼみが膨らみ。
ゆっくりと大きく開いていく。
花びらが広がる。
巨大な花が咲く。
光が消えた、そこに立っていたのは。
「バナァァァァ――!」
力強い咆哮が花園全体へ響いた。
「フシギバナ……!」
サトシの顔に笑みが広がる。
「進化した!」
カスミが目を見開く。
「チョゲピー!」
「ピカピカ!」
ピカチュウも嬉しそうに跳ねる。
フシギバナは自分の身体を見る。
大きくなった。
重い。
視線も高くなった。
背中には、今までのつぼみとは比べものにならない大きな花。
けれど。
「バナ!」
その目に迷いはない。
「フシギバナ!」
サトシが呼ぶ。
フシギバナが振り返った。
「バナ!」
一瞬。
サトシと目が合う。
それだけで十分だった。
「仲間を助けるぞ!」
「バナァ!」
フシギバナがワイヤーを掴んでいたつるへ力を込める。
「ニャ!?」
機械が傾いた。
「な、何よこの力!?」
「進化前と全然違うぞ!」
「そのまま引っ張れ!」
「バナ!」
フシギバナが身体を低くする。
地面を踏み締め。
一気に引く。
ぶちっ!
ワイヤーが千切れた。
「嘘ぉ!?」
「今だ、つるのムチ!」
「バナァ!」
太く力強いつるが伸びる。
捕獲装置へ巻きつく。
「まずいニャ!」
「引き倒せ!」
「バナァァ!」
フシギバナがつるを振るった。
機械が地面から浮き上がる。
「うわぁぁぁ!」
そのまま地面へ叩きつけられた。
ばきん!
装置が壊れる。
捕らわれていたフシギダネとフシギソウたちが解放された。
「ダネ!」
「ソウ!」
「よし!」
サトシが拳を握る。
「アーボック! 何してるの!」
「マタドガスも行け!」
二匹が再び飛び出す。
サトシはフシギバナを見る。
進化したばかり。
身体の感覚はまだ完全には掴めていないはずだ。
だから、無理に新しいことはさせない。
「今まで通りでいくぞ!」
「バナ!」
「はっぱカッター!」
「バナァ!」
背中の花の周囲から無数の葉が舞い上がった。
「シャーボ!?」
「ドガ!?」
アーボックとマタドガスへ襲いかかる。
二匹が吹き飛ぶ。
「ピカチュウ!」
「ピカ!」
「10まんボルト!」
「ピィィカァァァ――チュウッ!」
電撃が走る。
アーボック。
マタドガス。
そして壊れかけた装置、全てを包み込む。
ドォォォン!
「やな感じー!」
ロケット団が空の彼方へ飛んでいった。
きらん。
◇
静けさが戻った。
「バナ……」
フシギバナがゆっくり息を吐く。
サトシが駆け寄った。
「フシギバナ!」
「バナ」
「大丈夫か?」
「バナ!」
大丈夫だと言うように頷く。
けれど、一歩動いた瞬間。
「バナ?」
身体が僅かに傾いた。
「あっ」
サトシが慌てて身体へ手を添える。
もちろん、人間一人で支えられる大きさではない。
「やっぱりまだ慣れてないな」
「バナ……」
フシギバナが少し恥ずかしそうに目を逸らした。
「当たり前だろ」
サトシが笑う。
「ついさっき進化したんだから」
「ピカピカ!」
ピカチュウもフシギバナの前足へ触れる。
「バナ」
そのとき、群れを導いていたフシギバナが近づいてきた。
「バナ……」
サトシのフシギバナも向き直る。
二匹のフシギバナが見つめ合う。
群れのフシギバナが大きく鳴いた。
「バナァ」
サトシのフシギバナが応える。
「バナ!」
周囲から。
「ダネ!」
「ソウ!」
「ソウソウ!」
たくさんの声が上がった。
フシギバナを囲む。
先ほど助けられた小さなフシギダネが前へ出てきた。
「ダネ!」
「バナ?」
「ダネダネ!」
フシギバナの前足へ頬を寄せる。
「バナ……」
フシギバナがつるを伸ばし、優しく頭を撫でた。
「やっぱり変わらないな」
サトシが呟く。
身体が大きくなっても。
姿が変わっても。
仲間を守ろうとするところは、フシギダネだった頃から何も変わらない。
「バナ?」
フシギバナがサトシを見る。
サトシは近づき、その大きな額へ手を置いた。
「これからもよろしくな、フシギバナ」
「バナァ!」
力強い返事。
「ピカ!」
サトシは笑った。
◇
夕方、花園では再び穏やかな時間が流れていた。
サトシたちは出発前に、フシギバナの身体を軽く確認していた。
「少し歩いてみよう」
「バナ」
フシギバナが一歩進む。
二歩。
三歩。
先ほどより安定している。
しかし方向を変えようとしたとき。
「バナ?」
大きな花が揺れ、身体が少し外側へ持っていかれる。
「背中の花も考えないと駄目みたいだな」
タケシが言う。
「ああ」
サトシは頷く。
カメールと同じだ。
進化は強くなるだけではない。
身体が変われば、動き方も変わる。
今まで当たり前にできていたことも、もう一度覚え直す必要がある。
「今日はここまで」
「バナ?」
「進化したばっかりで戦っただろ。続きは明日」
「バナ……」
不満そうな顔。
「その顔、カメールとそっくり」
カスミが笑う。
「チョゲピー!」
トゲピーも楽しそうに笑った。
「ピカピカ!」
「バナ……」
フシギバナは少しだけむっとする。
だが。
サトシが背中の花を見上げる。
「焦らなくていいさ」
「バナ?」
「これからいくらでも強くなれる」
フシギバナはしばらくサトシを見つめ。
「バナ!」
大きく頷いた。
新しい技はまだいらない。
まずはこの身体を知る。
大きくなった身体。
太くなったつる。
そして背中に咲いた巨大な花。
そのすべてを自分のものにしてから。
次へ進めばいい。
◇
「そろそろ行こう」
サトシが立ち上がる。
「ピカ!」
カスミはトゲピーを抱き直し、タケシも荷物を背負う。
フシギバナは群れの仲間たちを見る。
「バナ」
「ダネ!」
「ソウ!」
「バナァ」
群れを導くフシギバナが最後に鳴いた。
サトシのフシギバナも力強く応える。
「バナァ!」
そしてサトシの隣へ歩いてくる。
「行こう、フシギバナ」
「バナ!」
夕暮れの森へ向かって歩き始める。
「ねえサトシ」
カスミが隣へ並んだ。
「ん?」
「リザードンに続いてフシギバナまで進化したのよね」
「ああ」
「最初に会った頃から考えると、ずいぶん変わったわよね」
サトシは隣を歩くフシギバナを見る。
初めて出会ったときは、小さなフシギダネだった。
仲間を守るため、人間を簡単には信用しなかった。
それでも一緒に旅をして、戦って少しずつ強くなった。
フシギソウになりそして今日、フシギバナになった。
「姿は変わったけどな」
サトシが笑う。
「中身はあんまり変わってないよ」
「バナ?」
「仲間思いなところ」
「バナ!」
フシギバナが嬉しそうに鳴く。
「ピカピカ!」
ピカチュウも頷いた。
「チョゲピー!」
トゲピーの明るい声が重なる。
サトシは前を見る。
セキチクジムを越え、手にしたバッジは六つ。
まだ旅は続くそして仲間たちも、これからもっと強くなる。
「よし、行こう!」
「ピカ!」
「バナ!」
夕日に染まる森の中。
新たな姿となったフシギバナと共に、サトシたちは次の目的地へ歩き出した。