ポケットモンスター ―君と目指す頂― 作:あああああ
朝日が木々の隙間から差し込み、森の中に柔らかな光を落としていた。
不思議の花園を出て一夜が明けた朝。
サトシたちは少し開けた場所で足を止めていた。
今日は急いで先へ進む予定はない。
理由は一つ。
「よし。今日は一日、特訓するぞ!」
「ピカ!」
サトシの声に応えるように、肩の上のピカチュウが元気よく前足を上げる。
その前には五つのモンスターボール。
「みんな、出てこい!」
サトシが一斉に投げる。
白い光が広がった。
「バナァ!」
「グォォォ!」
「カメ!」
「ゴース!」
「ミニィ!」
フシギバナ。
リザードン。
カメール。
ゴースト。
ミニリュウ。
そしてピカチュウ。
現在サトシが連れている六匹全員が揃った。
「こうやって見ると……ずいぶん変わったわよね」
カスミが六匹を見渡す。
「チョゲピー!」
腕の中のトゲピーも楽しそうに手を伸ばしている。
タケシも頷いた。
「特に最近はリザードン、カメール、フシギバナと、身体が大きく変わったポケモンが多いからな」
「ああ」
サトシはフシギバナを見る。
「バナ?」
昨日進化したばかりで、背中の巨大な花を含め、新しい身体を完全には扱えていない。
カメールも同じだ。
「カメ!」
もっとも、こちらは早く始めたくて仕方がないらしい。
サトシは笑った。
「今日は全員、やることが違う。焦らず一つずつやっていこう」
「ピカ!」
「バナ!」
「グォ!」
「カメ!」
「ゴース!」
「ミニ!」
六匹の声が重なった。
◇
最初にサトシが向かったのはリザードンだった。
「リザードン。今日はエアスラッシュを完成させよう」
「グォ!」
リザードンが翼を大きく広げる。
エアスラッシュの練習を始めてから、すでに何度も失敗してきた。
最初はただ強い風を起こすだけだったが、そこから風を狭くまとめる感覚を覚え、葉の端を切れるところまで進んでいる。
しかし、まだ安定しない。
細くできても狙いがずれたり、力を込めすぎれば再びただの突風へ戻ったりする。
サトシは少し離れた木の枝へ数枚の葉を吊るした。
「狙うのはあれだ」
「グォ」
「強い風はいらない。今まで何度もやってきただろ?」
リザードンが頷く。
「風を広げるんじゃない。薄く、鋭く。刃みたいにまとめるんだ」
「グォォ!」
リザードンが翼を振るった。
ぶわっ!
強風が吹き抜ける。
吊るしていた葉だけでなく、周囲の草木まで大きく揺れた。
「まだ広い!」
「グォ……」
「でも力は十分だ。次はもっと抑えてみよう」
リザードンがもう一度構え、翼を振るう。
ヒュッ!
今度は細い風が飛ぶ。
しかし、狙った葉の横を抜けた。
「方向は悪くない!」
「グォ!」
何度も繰り返す。
失敗するたび、サトシは原因を確認する。
翼を振る角度。
力を込める瞬間。
風を絞る感覚。
やがてリザードンが大きく息を吐いたところで、サトシは手を上げた。
「一回休もう」
「グォ?」
「疲れたまま続けても感覚が崩れる」
少し不満そうだったが、リザードンは素直に翼を畳んだ。
サトシはその首を軽く叩く。
「ここまで来てるんだ。急がなくても今日中に掴める」
「グォ!」
◇
「カメール。次はお前だ」
「カメ!」
待ってましたと言わんばかりにカメールが前へ出る。
サトシは、その長く立派になった尻尾を見る。
ゼニガメだった頃にはなかったものだ。
進化直後はその重さによって、こうそくスピンの軌道まで乱されていた。
だが、今では少しずつ扱えるようになってきている。
ならば次は、この変化そのものを武器にすればいい。
「せっかく立派な尻尾になったんだ。今日はこいつを使うぞ」
「カメ?」
「狙うのは――アクアテールだ」
「カメ!」
カメールが自分の尻尾を見る。
「まずは尻尾に水の力を集中させるんだ。みずでっぽうを出す時みたいに、水を生み出す感覚を尻尾の方へ持っていってみろ」
「カメ……」
カメールが目を閉じる。
意識を集中させる。
「カメェ……!」
尻尾の周囲に小さな水滴が生まれた。
それが少しずつ増え、やがて細い水流となって長い尻尾へまとわりついていく。
「おっ!」
カスミが目を輝かせる。
「水が出てきた!」
「ああ。でも、まだ不安定だ」
水流は確かにカメール自身から生み出されている。
だが、尻尾の周囲で形を保つだけでも精一杯なのか、表面が激しく揺れていた。
「そのまま振り抜いてみろ!」
「カメ!」
カメールが勢いよく尻尾を振る。
ばしゃっ!
「カメ!?」
水流が途中で形を失い、辺りへ飛び散った。
「惜しい!」
「カメェ……」
「水を出すところまではできたんだ。次は動いても水を離さないようにする」
「カメ!」
もう一度。
カメールが集中する。
水流が生まれる。
尻尾へまとう。
ゆっくり振る。
今度は水が残った。
「そう、それだ!」
少し速くする。
水流が揺れる。
さらに速く。
ばしゃっ!
再び崩れた。
それでも一回目とは違う。
「今の感覚を覚えよう。いきなり全力で振らなくていい」
「カメ!」
カメールの目が輝く。
進化して扱いづらくなった尻尾。
その尻尾が、少しずつ新しい武器へ変わり始めていた。
◇
少し離れた日当たりのいい場所では、フシギバナが四本の足を地面につけていた。
「バナァ……」
大きな花へ朝日が降り注いでいる。
サトシが隣へ立つ。
「昨日進化したばっかりだから、無茶はしないぞ」
「バナ」
「でも、その花でできることは確認してみよう」
フシギバナが背中を見ようとして首を動かす。
「バナ……?」
当然、見えない。
「ピカピカ!」
ピカチュウが笑う。
「バナ!」
つるが伸びてピカチュウをくすぐった。
「ピカァ!」
「遊ぶのは後!」
サトシが苦笑しながら二匹を止める。
「フシギバナ。狙うのはソーラービームだ」
「バナ?」
サトシは空を見上げた。
「太陽の光を、その大きな花で受け止める」
知識として技の仕組みを知っていても、実際に扱うのはフシギバナ自身だ。
いきなり完成するとは思っていない。
「今日は撃てなくていい。まずは太陽の力を集めてみよう」
「バナ!」
フシギバナが目を閉じる。
背中の花へ日光が降り注ぐ。
「急がなくていいぞ」
「バナァ……」
少しずつ。
花の中心に淡い光が浮かんだ。
「来た!」
しかし、すぐに消える。
「バナ?」
「大丈夫。もう一回」
再び集中する。
今度は先ほどより長い。
けれど、集めた力が身体全体へ散ってしまった。
「花の中心だ。そこに集める感じで」
「バナ……!」
淡い光が一か所へ寄っていく。
先ほどより明るい。
「そうだ!」
光が大きくなる。
フシギバナの身体が震えた。
そして。
ぱしゅん。
消える。
「バナァ……」
「十分だ」
サトシが笑う。
「今ので方向は合ってる」
「バナ!」
まず太陽の力を集める。
発射するのは、その先だ。
◇
「次はゴースト!」
「ゴース!」
ゴーストがサトシの目の前へ浮かんでくる。
「お前は攻撃する技がかなり揃ってる」
ナイトヘッド。
あくのはどう。
シャドーボール。
シャドーパンチ。
正面から戦う手段は十分にある。
「だから今日は、ちょっと違う戦い方を覚えよう」
「ゴース?」
「さいみんじゅつ」
「ゴース!」
面白そうだとばかりに目を輝かせる。
「相手の目を捉えて、意識に働きかける感じだ」
練習相手としてサトシが前へ立つ。
「まず俺で――」
「待て、サトシ」
タケシが止めた。
「どうした?」
「成功したら寝るぞ」
「……確かに」
「ピカ……」
ピカチュウが呆れたように見上げる。
「じゃあどうする?」
サトシが考えていると。
「ゴース……」
ゴーストがにやりと笑った。
「ん?」
その目が怪しく光る。
「ゴース!」
「うわっ!」
サトシの身体が一瞬ふらついた。
「サトシ!?」
「……大丈夫」
眠ったわけではない。
ただ、一瞬だけ強烈な眠気が襲ってきた。
「今の……ちょっと効いたぞ」
「ゴース!」
ゴーストが大喜びする。
「でも、まだ一瞬だけだな」
「ゴース!」
もう一度、目が光る。
「待て待て! 連続で俺にやるな!」
「ゴース!」
楽しそうに追いかけてくる。
「ピカピカ!」
「笑ってないで助けてくれ!」
森の中に笑い声が響いた。
◇
「ミニリュウ」
「ミニ!」
最後はミニリュウ。
サトシは少し離れた場所にある岩を標的に選んだ。
「今のお前には、たつまきとアクアテール、それにりゅうのいかりがある」
「ミニ!」
「今日はドラゴンの力をもっと一点に集める練習をする」
ミニリュウが首を傾げる。
「りゅうのはどうだ」
「ミニ?」
「口元に力を集めて、それを一気に前へ飛ばす」
ミニリュウが集中する。
「ミニィ……!」
口元に淡い光が生まれる。
一瞬だけ形になる。
「そのまま!」
「ミニ!」
だが。
ぱちっ。
消えた。
「ミニ……」
「今のでいい」
サトシはすぐに励ます。
「最初は集めるところからだ」
二回目。
また消える。
三回目。
少し大きくなる。
しかし、発射前に崩れた。
「ミニィ……!」
悔しそうに地面を尻尾で叩く。
「焦るなって」
サトシが頭を撫でる。
「今日始めたばっかりだぞ」
「ミニ……」
「もう一回だけやって、それで休憩しよう」
「ミニ!」
再び集中する。
光が集まる。
小さい。
それでも今までより形が整っている。
「そのまま前へ!」
「ミニィ!」
ぽんっ!
小さな光弾が飛び出した。
岩へ届く前に消えてしまう。
それでも。
確かに前へ飛んだ。
「できた!」
「ミニ!?」
「今の感覚、忘れるなよ!」
「ミニィ!」
ミニリュウが嬉しそうにサトシへ飛びついた。
「うわっ!」
サトシが受け止める。
「ピカピカ!」
まだ技とは呼べない。
けれど、確かな一歩だった。
◇
昼を挟み、午後。
「ピカチュウ、行くぞ」
「ピカ!」
ピカチュウが広場の中央へ立つ。
少し離れた場所には大きな岩。
「かみなり!」
「ピィィカァァァ!」
電気がピカチュウの頬袋から溢れる。
10まんボルトを大きく上回る電力。
空気が震える。
そして。
「チュウゥゥゥッ!」
轟音と共に凄まじい電撃が落ちた。
どぉん!
「すごい!」
カスミが驚く。
だが。
電撃が直撃したのは岩ではない。
そのすぐ横の地面が黒く焦げていた。
「威力は十分なんだけどな」
サトシが近づく。
「ピカ……」
「落ち込むな。前よりずっと近い」
最初の頃は、大きすぎる電力そのものを扱えなかった。
今は違う。
出力そのものは十分。
問題は、その大きな力を狙った場所へ落とすことだった。
「もう一回やろう。ただし、今度は威力を少し抑える」
「ピカ?」
「全力で撃つことより、狙ったところに落とす方を優先するんだ」
「ピカ!」
二回目。
電撃が空気を走る。
どぉん!
今度は岩の端へ命中した。
「当たった!」
「ピカ!」
「でもまだ端だ」
サトシは笑う。
「完成までもう少しだな」
「ピカチュウ!」
ピカチュウの目には、まだやる気が残っている。
「今日はあと一回」
「ピカ!」
三度目。
電気を溜める。
放つ。
雷撃は岩へ向かい――。
どぉん!
中央から僅かにずれた場所へ命中した。
岩の一部が砕ける。
「……すごい威力ね」
カスミが呟く。
「だからこそ、ちゃんと制御できないと危ない」
タケシが答えた。
サトシも頷く。
「今日はここまで」
「ピカ?」
「もう十分進んだよ。次はもっと正確にする」
「ピカ!」
完成まで。
あと少し。
◇
休憩を終えると、サトシはカメールとミニリュウを向かい合わせた。
「次は軽い模擬戦だ」
「カメ!」
「ミニ!」
「新しい技だけじゃなく、今までの技も使っていい」
二匹が構える。
「始め!」
「カメ!」
カメールが最初から尻尾へ意識を集中させる。
水滴が生まれ、水流へ変わっていく。
「ミニ!」
ミニリュウも口元へ光を集め始めた。
サトシは何も言わずに見ていた。
二匹とも、新しい技に集中しすぎている。
「カメェ!」
カメールがアクアテールを振るおうとする。
水が散る。
「ミニ!」
ミニリュウもりゅうのはどうを撃とうとして、光が消える。
その隙に互いがぶつかった。
「カメ!?」
「ミニ!?」
二匹とも転がる。
「ストップ!」
サトシが止めた。
カメールとミニリュウが不満そうに立ち上がる。
「新しい技を使うことばっかり考えてただろ?」
「カメ……」
「ミニ……」
図星だった。
「新しい技を覚えるのは大事だ。でも、それだけで戦うわけじゃない」
サトシは二匹の間へ立つ。
「今までできたことの中に、新しい技を混ぜるんだ」
二匹がサトシを見る。
「カメール。こうそくスピンで距離を詰めてからアクアテールを狙ってみろ」
「カメ!」
「ミニリュウは、たつまきで相手の動きを崩してから力を集める」
「ミニ!」
「もう一回!」
二匹が離れる。
「始め!」
「ミニ!」
先に動いたのはミニリュウ。
「たつまき!」
風が巻き起こる。
「カメール、こうそくスピン!」
「カメ!」
甲羅へ入り、回転する。
進化直後よりずっと安定した軌道で竜巻の横を抜ける。
「今だ!」
「カメェ!」
カメールが甲羅から飛び出す。
その瞬間、尻尾の周囲に水流が生まれた。
回転の勢いを殺さず、尻尾へまとわせる。
今度はすぐには散らない。
「ミニリュウ!」
「ミニ!」
ミニリュウも体勢を立て直し、口元へ光を集める。
互いに新技を放つ寸前。
「そこまで!」
二匹が止まる。
カメールの尻尾を覆っていた水流が崩れ落ちる。
ミニリュウの口元から光が消える。
「今のだ」
サトシが笑う。
「カメ?」
「ミニ?」
「今までできることを使ったから、新しい技を出す余裕ができただろ?」
「カメ!」
「ミニ!」
二匹が顔を見合わせ、嬉しそうに笑った。
◇
夕方。
今日最後の特訓。
サトシの前にはピカチュウとリザードンがいた。
「最後に軽く模擬戦するぞ」
「ピカ!」
「グォ!」
ただし目的は勝敗ではない。
リザードンのエアスラッシュ。
その完成だ。
「始め!」
ピカチュウが駆ける。
「でんこうせっか!」
「ピカ!」
白い光をまとい、一気に加速する。
「リザードン、飛べ!」
「グォ!」
翼を広げ、空へ舞い上がる。
ピカチュウが木を蹴って追う。
「アイアンテール!」
「ピカァ!」
鋼のように輝く尻尾。
リザードンが身体を捻ってかわす。
そのまま高度を上げる。
「ピカチュウ、10まんボルト!」
「ピィィカァァ――チュウ!」
電撃が空へ走る。
「かわして!」
「グォ!」
リザードンが翼を傾ける。
電撃の横を抜けた。
サトシはその飛び方を見る。
翼。
角度。
風。
これまで何度も繰り返してきた。
「リザードン!」
「グォ!」
「エアスラッシュ!」
リザードンが翼を振り抜く。
ぶわっ!
広い風。
「違う!」
ピカチュウが着地する。
「ピカ!」
リザードンが悔しそうに歯を食いしばる。
「力じゃない!」
サトシが叫ぶ。
「今までやってきたことを思い出せ!」
葉を切った感覚。
風を細くした感覚。
何度も失敗した。
狭く。
薄く。
鋭く。
「グォ……!」
リザードンが空中で翼を広げる。
サトシは近くの木を見る。
枝には、特訓用に吊るした三枚の葉。
「狙うのはピカチュウじゃない!」
「ピカ?」
「その後ろの葉だ!」
ピカチュウの後方。
三枚の標的。
「グォォォ……!」
リザードンが集中する。
翼の周囲に風が集まる。
しかし、今までのような大きな風ではない。
細く。
鋭く。
刃の形へ。
「今だ!」
「グォォォォ!」
翼が振り抜かれた。
ヒュンッ!
鋭い風の刃が走る。
ピカチュウの左右を抜け――。
すぱっ。
一枚。
すぱっ。
二枚。
すぱっ。
三枚。
吊るされていた葉だけが切れた。
一瞬。
静寂が訪れる。
「……ピカ」
ピカチュウが後ろを見る。
三枚の葉が地面へ落ちていく。
サトシの顔が輝いた。
「できた……!」
リザードンが着地する。
「グォ?」
「今のだ!」
サトシが駆け寄った。
「今のがエアスラッシュだ!」
「グォォォォォ!」
リザードンが両翼を大きく広げる。
「ピカピカ!」
ピカチュウも駆け寄った。
「グォ!」
「ピカ!」
二匹が前足を合わせる。
「ついに完成したな!」
長かった。
一度できただけでは認めなかった。
葉を切れたときも。
風を細くできたときも。
狙いが安定しなければ、完成とは呼ばなかった。
でも今は違う。
自分で風を絞り、狙いを定め、三つの標的へ正確に飛ばした。
リザードン自身が掴んだ技。
エアスラッシュ。
「グォ!」
リザードンが嬉しそうにサトシの肩へ顔を寄せる。
「うわっ、重いって!」
「グォ!」
「分かった、分かった!」
カスミが笑う。
「嬉しそうね」
「あれだけ練習したからな」
タケシも笑っていた。
◇
日が沈み始める頃。
六匹がサトシの前に並んでいた。
「ピカチュウ」
「ピカ!」
「かみなりはもう少し。威力は十分だから、次はもっと正確に狙えるようにしよう」
「ピカ!」
「フシギバナ」
「バナ!」
「ソーラービームは、まず光を集めるところから。最後のやつはかなり良かったぞ」
「バナァ!」
「リザードン」
「グォ!」
サトシが笑う。
「エアスラッシュ、完成だ」
「グォォ!」
リザードンが翼を広げて喜ぶ。
「カメール」
「カメ!」
「アクアテールは、自分で生み出した水流を尻尾から離さずに振り抜くこと。最後の模擬戦ではかなり長く維持できてたぞ」
「カメェ!」
「ゴースト」
「ゴース!」
「さいみんじゅつは……」
サトシが少し考える。
「まず俺を追い回すのをやめよう」
「ゴース!」
「なんで嬉しそうなんだよ!」
「ピカピカ!」
笑い声が広がる。
「最後、ミニリュウ」
「ミニ!」
「りゅうのはどう。小さかったけど、ちゃんと前へ飛んだ。次はあの感覚を忘れないようにな」
「ミニィ!」
サトシは六匹を見渡した。
今日だけで完成した技は一つ。
それでいい。
新しい技は、名前を知っているだけでは使えない。
教えればすぐ完成するものでもない。
失敗して、考えて、少しずつ感覚を掴んで、最後には自分の技にする。
サトシは拳を前へ出した。
「急ぐ必要はない。一個ずつ、自分たちのものにしていこう!」
「ピカ!」
「バナァ!」
「グォォ!」
「カメ!」
「ゴース!」
「ミニィ!」
六匹の声が夕暮れの森に響いた。
カスミの腕の中では。
「チョゲピー!」
トゲピーまで一緒になって声を上げる。
「トゲピーも特訓する?」
「チョゲ!」
「何を覚えるつもりなのよ」
「ピカピカ!」
サトシたちの笑い声が重なる。
一日で劇的に強くなる必要はない。
昨日できなかったことが、今日は少しできる。
今日できなかったことが、明日はできるかもしれない。
その積み重ねこそが、サトシと仲間たちが目指す頂へ続く道だった。