ポケットモンスター ―君と目指す頂―   作:あああああ

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第80話 げきとう!ポケモンひなまつり

前日の特訓を終え、サトシたちは再び旅を続けていた。

 

リザードンがエアスラッシュを完成させ、ピカチュウのかみなりも完成まであと一歩。フシギバナ、カメール、ゴースト、ミニリュウもそれぞれ新しい技への第一歩を踏み出した。

 

だからこそ、今日は無理な特訓を入れず、身体を休ませながら次の街へ向かう。

 

そんな予定だったのだが――。

 

「見て見て! すっごい!」

 

街へ入った途端、カスミの声が響いた。

 

「ピカ?」

 

サトシの肩に乗ったピカチュウも周囲を見回す。

 

通りの両側には色鮮やかな飾りが並び、店先には女の子向けの商品が所狭しと置かれている。

 

服。

 

アクセサリー。

 

人形。

 

お菓子。

 

そして、ポケモン用品。

 

街全体がいつも以上に華やかだった。

 

「ポケモンひなまつりか」

 

タケシが店先の看板を見ながら言う。

 

「今日は女の子が主役の日みたいだな」

 

「しかも見てよ!」

 

カスミが一枚の張り紙を指差した。

 

『女の子限定! 本日限りの大特価!』

 

「大特価よ、大特価!」

 

嫌な予感がした。

 

サトシとタケシは顔を見合わせる。

 

「……逃げるか?」

 

「もう遅いと思うぞ」

 

「サトシ! タケシ! 行くわよ!」

 

「やっぱりか……」

 

「ピカァ……」

 

こうして、サトシたちの長い一日が始まった。

 

◇

 

「次、あっち!」

 

「まだ行くのか!?」

 

「当然でしょ!」

 

しばらくして。

 

サトシの両腕にはいくつもの紙袋がぶら下がっていた。

 

タケシも同じである。

 

「昨日の特訓よりきつい……」

 

「同感だ」

 

「ピカピカ……」

 

ピカチュウだけは荷物を持たず、サトシの肩で楽しそうにしている。

 

「ピカチュウ、お前も少しくらい持ってくれよ」

 

「ピカ?」

 

何のこと?

 

そんな顔をされた。

 

「絶対分かってるだろ」

 

少し前を歩くカスミは上機嫌だった。

 

その腕にはトゲピー。

 

「チョゲピー!」

 

トゲピーも華やかな街が気に入ったのか、朝からずっと楽しそうだ。

 

「トゲピー、見て! あのお人形かわいいでしょ?」

 

「チョゲ!」

 

「こっちもいいわねぇ」

 

「……まだ増えるのか」

 

サトシが呟く。

 

「聞こえたわよ!」

 

「何も言ってない!」

 

「言った!」

 

そんなやり取りをしながら歩いていると、突然、カスミが足を止めた。

 

「わぁ……!」

 

ショーウインドーの中。

 

そこには豪華な雛壇が飾られていた。

 

ただし、普通の雛人形ではない。

 

ポケモンを模した人形たちが、美しい衣装をまとって並んでいる。

 

「すごいな」

 

サトシも思わず見入る。

 

「欲しい……」

 

カスミの目が輝いた。

 

しかし。

 

値札を見る。

 

「…………」

 

そのまま静かに離れた。

 

「諦めるの早いな」

 

「うるさい!」

 

◇

 

その頃。

 

同じ街の別の場所でも、一人の女性がショーウインドーへ張り付いていた。

 

「欲しい……!」

 

ムサシだった。

 

その視線の先にあるのも、豪華なポケモン雛人形。

 

「ムサシ、そんなに欲しいの?」

 

ニャースが尋ねる。

 

「欲しいに決まってるでしょ!」

 

ムサシは振り返る。

 

「女の子なら一度くらい、こんな豪華な雛人形を飾ってみたいものなのよ!」

 

「買えばいいじゃないか」

 

コジロウが言う。

 

ムサシがゆっくり振り向いた。

 

「お金は?」

 

「……ない」

 

「だったら言うんじゃないわよ!」

 

「痛い痛い!」

 

コジロウの頬を引っ張る。

 

だが、再び雛人形へ向けられたムサシの目には、いつもの欲深さとは少し違うものがあった。

 

幼い頃。

 

豪華な雛壇を眺めることなど、自分にはできなかった。

 

だからこそ。

 

「絶対に手に入れてやるんだから……!」

 

「でもどうやってニャ?」

 

「それを今から考えるのよ!」

 

その時。

 

一枚のポスターが風に乗ってムサシの顔へ張り付いた。

 

「何よこれ!」

 

引き剥がす。

 

そして、目を見開いた。

 

『ポケモンひなまつり大会開催!』

 

『優勝者には豪華ポケモン雛人形セットをプレゼント!』

 

「…………」

 

「ムサシ?」

 

「出るわよ」

 

「へ?」

 

「絶対優勝するわよ!」

 

炎が燃え上がった。

 

「今日は誰にも負けないんだからぁぁぁ!」

 

◇

 

「ポケモンバトル大会?」

 

カスミがポスターを見る。

 

買い物の途中で見つけたものだった。

 

そして賞品を確認する。

 

「……これ」

 

先ほど見ていた雛人形セットだった。

 

「出る!」

 

即答だった。

 

「早いな」

 

「当たり前でしょ!」

 

カスミはトゲピーを抱いたまま胸を張る。

 

「買えないなら、優勝してもらえばいいのよ!」

 

「なるほど」

 

サトシは納得した。

 

「頑張れよ」

 

「もちろん!」

 

しかし。

 

参加条件を確認したカスミが固まった。

 

「複数のポケモンを使用可能……」

 

カスミは自分のモンスターボールを見る。

 

そして。

 

ゆっくりサトシへ顔を向けた。

 

「……サトシ」

 

「嫌な予感しかしない」

 

「ピカ」

 

「一匹貸して」

 

「やっぱり」

 

サトシは苦笑した。

 

とはいえ、断る理由はない。

 

「誰がいい?」

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ!?」

 

即答された。

 

カスミがピカチュウへ顔を近づける。

 

「お願い、ピカチュウ!」

 

「ピ、ピカ……」

 

ピカチュウがサトシを見る。

 

サトシは笑った。

 

「いいんじゃないか?」

 

「ピカ?」

 

「今日はカスミの試合だ。力を貸してやってくれ」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウがカスミの肩へ飛び移った。

 

「ありがとう!」

 

「ただし」

 

サトシは指を立てる。

 

「ピカチュウ」

 

「ピカ?」

 

「今日は俺じゃなくて、ちゃんとカスミの指示を聞くんだぞ」

 

「ピカ!」

 

胸を張る。

 

カスミも笑った。

 

「任せて!」

 

「俺は何も言わないからな」

 

「分かってるわよ。これはあたしの勝負なんだから!」

 

その言葉を聞いて、サトシは満足そうに頷いた。

 

◇

 

大会会場は大勢の観客で賑わっていた。

 

女の子限定の大会ということもあり、普段とは少し違った華やかな雰囲気がある。

 

カスミは順調に勝ち進んでいった。

 

水ポケモンを中心に相手へ合わせて戦い方を変え、必要な場面ではピカチュウの力も借りる。

 

ただし。

 

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

 

「ピカ!」

 

最初は少しだけ呼吸が合わなかった。

 

普段ならサトシの声へ即座に反応するピカチュウも、カスミの指示では僅かにタイミングが違う。

 

「そこから10まんボルト!」

 

「ピカ……ピカチュウ!」

 

一瞬遅れて電撃を放つ。

 

それでも勝利。

 

試合を重ねるごとに、二人の呼吸は合っていった。

 

観客席からサトシは黙って見ていた。

 

「指示しなくていいのか?」

 

タケシが尋ねる。

 

「しないよ」

 

サトシは笑う。

 

「今はカスミのポケモンとして戦ってるんだから」

 

「なるほどな」

 

「それに」

 

サトシはフィールドを見る。

 

「ちゃんと合ってきてる」

 

「ピカチュウ、右!」

 

「ピカ!」

 

相手の攻撃をかわす。

 

「そのまま、でんこうせっか!」

 

「ピカ!」

 

命中。

 

「よし!」

 

カスミが拳を握った。

 

ピカチュウも振り返る。

 

「ピカ!」

 

「やったわね!」

 

二人が手を合わせる。

 

サトシは小さく笑った。

 

◇

 

そして。

 

決勝戦。

 

「なんであんたがいるのよ!」

 

「それはこっちの台詞よ!」

 

フィールドの両側。

 

カスミ。

 

そしてムサシ。

 

「優勝賞品はあたしのものよ!」

 

「絶対渡さないんだから!」

 

二人の間に火花が散る。

 

「……似た者同士だな」

 

サトシが呟く。

 

「言わない方がいいぞ」

 

タケシが忠告した。

 

「ピカ……」

 

ピカチュウも同意する。

 

ムサシはコジロウたちから借りたポケモンも使い、ここまで勝ち上がってきていた。

 

普段とは違う。

 

本気だ。

 

ただ悪事のためではない。

 

自分自身が欲しいもののために、正面から大会へ挑んでいる。

 

「絶対に勝つ!」

 

ムサシの気迫に、カスミも負けていない。

 

「こっちだって!」

 

試合開始。

 

互いのポケモンがぶつかり合う。

 

カスミも苦戦した。

 

ムサシの執念は凄まじく、いつものような雑な戦い方ではない。

 

「まだよ!」

 

何度倒されそうになっても食らいついてくる。

 

やがて。

 

最後の勝負へ。

 

カスミの横にはピカチュウ。

 

「ピカ!」

 

「お願い、ピカチュウ!」

 

カスミが構える。

 

ムサシも最後のポケモンへ命令を飛ばす。

 

攻撃が迫る。

 

「ピカチュウ、避けて!」

 

「ピカ!」

 

横へ飛ぶ。

 

「そこからでんこうせっか!」

 

「ピカ!」

 

一気に懐へ。

 

ムサシもすぐに反撃を指示する。

 

「まだよ!」

 

攻撃が迫った。

 

「飛んで!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが相手を踏み台にして跳び上がる。

 

カスミが腕を振り上げた。

 

「今よ! 10まんボルト!」

 

「ピィィカァァ――チュウ!」

 

凄まじい電撃がフィールドを照らす。

 

爆煙。

 

静寂。

 

やがて煙が晴れる。

 

立っていたのは――。

 

「ピカ……!」

 

ピカチュウ。

 

勝負あり。

 

「やったぁぁぁ!」

 

カスミが飛び上がった。

 

「ピカ!」

 

戻ってきたピカチュウを抱き締める。

 

「ありがとう、ピカチュウ!」

 

「ピカピカ!」

 

観客席からサトシも立ち上がった。

 

「やったな!」

 

タケシも拍手する。

 

「見事だったぞ、カスミ!」

 

「チョゲピー!」

 

トゲピーまで嬉しそうに跳ねていた。

 

一方。

 

「…………」

 

ムサシはフィールドに立ったまま、俯いていた。

 

悔しい。

 

当然だ。

 

欲しかった。

 

ただの高価な人形だからではない。

 

ずっと手に入らなかったものだから。

 

「ムサシ……」

 

コジロウが声をかける。

 

「分かってるわよ」

 

ムサシが顔を上げた。

 

「負けは負けよ」

 

悔しそうではある。

 

それでも今日は、いつものように賞品を奪おうとはしなかった。

 

「帰るわよ!」

 

「え? 盗まないのかニャ?」

 

「正々堂々負けた後で盗んだら、あたしが惨めになるでしょ!」

 

「おお……」

 

「何よ、その反応!」

 

「何でもない!」

 

三人は騒ぎながら会場を去っていった。

 

サトシはその後ろ姿を少しだけ見つめていた。

 

今日のムサシは、いつもと少し違って見えた。

 

◇

 

「すごーい!」

 

大会終了後。

 

カスミの前には豪華なポケモン雛人形セットが置かれていた。

 

「本当にあたしのものなのね!」

 

「優勝したんだからな」

 

サトシが答える。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウがサトシの肩へ戻ってくる。

 

「お疲れ」

 

「ピカピカ!」

 

サトシが頭を撫でた。

 

「カスミの指示、ちゃんと聞けてたな」

 

「ピカ!」

 

「最初はちょっと合ってなかったけどね」

 

カスミが笑う。

 

「でも最後は完璧だったでしょ?」

 

「ああ」

 

サトシも素直に認める。

 

「今日は完全にカスミが主役だったな」

 

「何よ、たまにはいいでしょ!」

 

「たまにはって自分で言うのか?」

 

「そこは黙ってなさい!」

 

「チョゲピー!」

 

トゲピーが笑うように鳴いた。

 

「そうだ!」

 

カスミが何かを思いつく。

 

「せっかくだから写真撮りましょうよ!」

 

「写真?」

 

「優勝記念!」

 

ほどなくして、豪華な雛人形の前に全員が並んだ。

 

中央にはトゲピーを抱いたカスミ。

 

その隣にサトシとピカチュウ。

 

反対側にはタケシ。

 

「もっと寄って!」

 

「これくらい?」

 

「サトシ、もうちょっと!」

 

「分かったって」

 

「ピカ!」

 

「チョゲピー!」

 

カメラのタイマーが進む。

 

「撮るぞ!」

 

「ちょっと待って、まだ――」

 

カシャッ!

 

その瞬間。

 

写真の中には、少し慌てたカスミ。

 

笑うサトシ。

 

肩の上で手を上げるピカチュウ。

 

穏やかに笑うタケシ。

 

そして、誰よりも楽しそうなトゲピーの姿が残った。

 

「もう! ちゃんと撮れてるでしょうね?」

 

「自然でいいんじゃないか?」

 

「サトシは黙ってて!」

 

「なんでだよ!」

 

また笑い声が響く。

 

昨日は六匹と一緒に、一歩ずつ強くなるための一日だった。

 

今日は仲間の勝負を見守る一日。

 

自分が戦うことだけが旅ではない。

 

仲間が頑張る時には、その背中を押す。

 

サトシはそんな当たり前のことを改めて感じながら、夕暮れの街を仲間たちと歩いていった。

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