「もう、そんなに怒らなくてもいいじゃん」
休憩にちょうどよさそうな木を見つけて腰を下ろしてからも、イーブイはまだ不満そうだった。
「ぶいっ!」
「だって、最初に追いかけたのはイーブイの方でしょ?」
「ぶいー!」
私の隣で、ラルトスが心配そうにイーブイを見つめている。
ミミッキュは少し離れたところで、こちらの様子を眺めていた。
さっき出会ったヤヤコマは、ずいぶんといたずら好きな性格だったらしい。
最初はいつものように、近くにいたヤヤコマをイーブイが追いかけただけだった。
ヤヤコマはすぐに飛び上がったのだが、少し先に降りて、イーブイが近づくとまた飛んでいく。
そのうち面白くなってしまったのか、今度はヤヤコマの方から近づいてきては、イーブイが追いかけてきたところでひらりと空へ逃げるようになった。
それを何度も繰り返した末、ヤヤコマは満足したように飛んでいってしまった。
そしてイーブイだけが、こうして悔しがっている。
「でも、飛ばれちゃったら追いかけられないもんね」
「ぶい……」
イーブイの耳が少し下がった。
大会で戦ったピジョンのときもそうだった。
でんこうせっかは速い。
でも、遠くにいる相手や空を飛んでいる相手には届かない。
そういえば、ヨマワルにはそもそも当たらなかった。
「イーブイも、遠くまで届く技が使えたらいいよね」
「ぶい!」
「ちょっと調べてみよっか」
スマホロトムを取り出して、イーブイが覚えられそうな技を探してみる。
いくつか表示された中に、気になる名前を見つけた。
「……スピードスター?」
イーブイがすぐ隣から画面を覗き込んでくる。
「星みたいな光を飛ばして攻撃するんだって。これなら遠くまで届きそう!」
「ぶい!」
「動画もあるよ。見てみる?」
動画を再生すると、一匹のヒトデマンが出てきた。
トレーナーのものらしき掛け声が聞こえた後、ヒトデマンの周りに光が集まり、それがいくつもの星になって飛んでいった。
「わあ……かっこいいね」
イーブイも食い入るように見つめている。
「これ、イーブイも覚えられるみたいだよ」
「ぶいっ!」
「なんかできそうじゃない? やってみる?」
イーブイはすぐに立ち上がった。
少し開けたところまで移動して構える。
画面で見たヒトデマンを意識したのか、身体を斜めにし、気合いの入った面持ちだ。
「がんばれ、イーブイ!」
「ブイッ!」
…………。
何も起こらない。
「……もう一回やってみる?」
「ぶい!」
もう一度。
「ブイッ!」
…………。
やっぱり何も出ない。
何度か試してみたものの、星どころか光ひとつ出てこなかった。
「うーん……。さすがに動画見ただけじゃ無理かあ」
「ぶい……」
「まあまあ。まだできないだけだよ。またチャレンジしてみよ!」
頭を撫でると、イーブイはまだ少し悔しそうにしながらも頷いた。
「よし。じゃあそろそろ行こっか」
ラルトスにも声をかけ、次の町へ向かって歩き始めた。
ミミッキュは少し疲れたようで、ボールの中で休んでいる。
三人で並んでしばらく歩いていると、道の端で何かが光った。
「ん?」
近づいて拾い上げる。
丸い、小さなディスクのようなもの。
どこかで見たことがあるような――。
「あ。これってもしかして、わざマシン?」
以前、わざマシンが落ちていることもあると教えてもらったことを思い出した。
スマホロトムで読み込んでみると、画面に表示されたのは、『いばる』という技だった。
覚えられるポケモンの一覧には、イーブイも表示されている。
「いばる……?」
説明を開く。
「相手を怒らせて、こんらんさせる……だって」
「ぶい?」
「こんらんさせられるんだ。空にいるポケモンもこんらんしたら降りてくるかな?」
目を回したピジョンが地面に降りてくる場面を想像してみる。
「いいじゃん!」
さっきスピードスターを覚えられなかったばかりだ。
これなら、すぐに新しい技を増やせるかもしれない。
「イーブイ、使ってみる?」
「ぶいっ!」
わざマシンを使おうとすると、スマホロトムの画面に別の表示が出た。
「えっと……新しい技を覚えるなら、今覚えてる技をひとつ忘れないといけないんだって」
イーブイが首を傾げる。
今覚えている技を確認してみる。
でんこうせっか。
すなかけ。
つぶらなひとみ。
しっぽをふる。
「うーん……」
でんこうせっかは、今のイーブイにとって大事な攻撃技だ。
すなかけも、つぶらなひとみも、今まで何度も助けられている。
「この中なら……しっぽをふるかな?」
「ぶい」
イーブイも異論はないらしい。
「よし。じゃあ、しっぽをふると交換!」
イーブイは『しっぽをふる』を忘れて、新しく『いばる』を覚えた。
「新しい技、増えたね!」
「ぶいっ!」
「今度使ってみようね!」
そう話しながら、再び歩き出してしばらくしたころだった。
道の脇から、何かを叩くような音が聞こえてきた。
どんっ。
どんっ。
何度も何度も繰り返し音が鳴っている。
「何の音?」
音のする方へ進んでいくと、見慣れないポケモンがいた。
ずんぐりとした身体で、太い木の幹に向かって何度も突っ張るように腕を突き出している。
「……何ていうポケモンだろ?」
スマホロトムを向けてみる。
『マクノシタ。こんじょうポケモン。
強い身体を作るため、厳しい稽古を繰り返す』
「へえ。じゃあ、あれはトレーニングなんだ」
感心して眺めていると、マクノシタがこちらに気づいた。
イーブイを見る。
「マク!」
そして、ぐっと構えた。
「……もしかして、勝負したいの?」
「マクッ!」
イーブイもすぐに前へ出る。
「ぶいっ!」
どうやら、やる気らしい。
「じゃあ……ちょうどいいかも」
私が呟くと、イーブイはくるりと振り向いた。
「イーブイ、新しい技も使ってみよう!」
「ぶい!」
イーブイが身体を低くする。
マクノシタが構えるのを待って、私は声を上げた。
「イーブイ! でんこうせっか!」
「ぶいっ!」
イーブイが地面を蹴る。
一気に距離を詰め、そのままマクノシタに体当たりした。
「マクッ!」
マクノシタの身体が後ろへ揺れる。
しかしどっしりとした身体を倒すほどの威力はなかったようだ。
マクノシタは踏ん張ると、すぐに両腕を前へ突き出した。
「マク! マクッ!」
「わっ、なに!? 相撲!?」
イーブイは一発目を受けながらも、次の攻撃を横へかわした。
「イーブイ、下がって距離を取って!」
「ぶいっ!」
イーブイが後ろへ跳ぶ。
マクノシタは追いかけてこなかった。
その場で足を踏ん張り、ぐっと拳を握る。
「……ん?」
マクノシタの表情が変わった。
さっきまでよりも、ずっと集中しているように見える。
「よくわかんないけど強そうな構え……!
イーブイ、気をつけて!」
次の攻撃に備えているのかもしれない。
イーブイも身体を低くする。
「じゃあ、こっちも! イーブイ、つぶらなひとみ!」
「ぶい!」
イーブイがマクノシタをじっと見つめる。
大きな目で、きゅるん。
「マク……?」
マクノシタが、ほんの少し動きを止めた。
「よし! ここでいばる!」
イーブイが一歩前へ出る。
そして、どや! とでも言いたげに胸を張った。
「ぶいっ!」
「マク……?」
マクノシタが首を傾げる。
ふらり。
もう一度、ふらり。
「……あ!」
身体が左右に揺れ始めた。
「見て! こんらんしてる!」
「ぶい!」
ちゃんと効いた!
でんこうせっかで先制できたし、つぶらなひとみも使えた。
新しい技まで成功して、今のところいい感じだ。
そう思った次の瞬間。
マクノシタが、さっきまでトレーニングに使っていた木へ向き直った。
「マクッ!!」
どんっ!!
「わっ」
さっきよりずっと大きな音が響いた。
バキッ。
「…………え?」
木の幹に、大きな亀裂が入った。
そしてゆっくりと傾いていく。
「えっ、ちょっと待って」
マクノシタがこちらを向いた。
「マク……!」
「……なんか、さっきより怒ってない?」
次の瞬間、マクノシタがものすごい勢いでイーブイに向かってきた。
「怒ってる!!」
「ぶいっ!?」
「イーブイ、すなかけ!」
イーブイが地面を蹴り上げる。
砂をまともに浴びたマクノシタが、一瞬動きを止めた。
「ラルトス、さいみんじゅつ!」
「らる!」
ラルトスの目が淡く光る。
ふらふらしていたマクノシタの身体が、さらに大きく揺れた。
やがて、その場にどさっと座り込む。
「……寝た?」
「らる」
「よし、今のうちに行こう!」
眠ってしまったマクノシタの周りに危ないものがなさそうなことを確認すると、その場から急いで離れた。
しばらく歩き続けてから、ようやく足を止める。
「……なんだったの、今の」
「ぶい……」
そうだ。
ちゃんと説明を読んでいなかった。
もう一度スマホロトムを取り出して、『いばる』を開く。
今度は、最後まで読む。
「相手を怒らせてこんらんさせる代わりに……」
その先を読んで、止まった。
「……攻撃が、ぐーんと上がる?」
「ぶい?」
「…………」
イーブイと顔を見合わせる。
「それで木、折れたの!?」
危なかった。
ものすごく危なかった。
「……わざの説明って、ちゃんと最後まで読まないとだめだね」
「ぶい……」
「……やっぱり私たちは、おとなしくしっぽ振っとこうか……」
「ぶい……」
私とイーブイのやりとりを見ながら、ラルトスは少し困ったように笑っていた。
「ラルトス、助かったよー。ありがとうね」
「ぶい……」
「らる!」
ここのところラルトスはどんどん頼もしくなってきている。
何かと突っ走りがちな私とイーブイにとっては、本当にありがたい存在だ。
こうしてイーブイの新技『いばる』は、覚えたその日のうちに『しっぽをふる』へ戻ることになった。
*
次の街に着いたころには少しずつ日が傾いてきていた。
イーブイと一緒に通りを歩いていると、かわいらしい看板が目に入った。
「あ、カフェだ」
窓から中を覗くと、明るくて入りやすそうな雰囲気だ。
「ちょっと休んでいこっか」
「ぶい!」
中に入ると、人だけではなくポケモンの姿も多かった。
席に案内されてメニューを開くと、ポケモン用のページがいくつもある。
「わあ、ポケモンのメニューもいっぱいある!」
「ぶいっ!」
「今日はみんなで食べちゃう?」
「ぶいぶい!」
「よーし、ラルトスもミミッキュも、出ておいで!」
ボールから出てきた二人を席に迎え、テーブルにメニューを広げる。
ミミッキュは不安そうにキョロキョロ辺りを見回していたが、隣にラルトスがいることに気づくと、そのままちょこんと座った。
「みんな、好きなの選んでいいよ〜」
イーブイがさっそく身を乗り出した。
ラルトスも隣から覗き込み、ミミッキュは少し遅れてメニューの端に顔を寄せる。
「どれにする? ……あ、ミミッキュ、辛いのもあるよ!」
「……きゅ」
それぞれ好きなものを選んで注文すると、やがてテーブルの上が料理でいっぱいになった。
お店に入るときはイーブイ以外はボールにいることが多いので、何だか新鮮だ。
「いただきまーす!」
「ぶい!」
「らる!」
「……きゅ」
イーブイは待ってましたとばかりに食べ始め、ラルトスも嬉しそうにスプーンを口に運んでいる。
ミミッキュは相変わらずボックス席の奥側に顔を向けてはいたが、黙々と食べているようだ。
みんなで食卓を囲むのはやはり楽しい。
すっかり満足したころ、店員さんが席にやってきた。
「トレーナーさんでしたら、奥でポケモンバトルもできますよ。よかったら参加してみませんか?」
「えっ、ここでバトルもできるんですか?」
「はい。対戦相手がいなくても、こちらでマッチングできますよ」
イーブイを見る。
「……やってみる?」
「ぶいっ!」
即答だった。
「じゃあ、お願いします!」
少しして名前を呼ばれ、イーブイと一緒に奥のコートへ向かう。
そこには私と同い年くらいの女の子と、グレーの毛並みがふさふさとした、可愛らしいポケモンが待っていた。
実物を見るのは初めてだが、確かチラーミィというポケモンだ。
「よろしくなぁ!」
「ミィ!」
「よろしくお願いします!」
「ぶいっ!」
女の子がにかっと笑った。
「うち、ここでバトルするの初めてやねん。
家族と旅行で来てて、たまたまこのカフェ入ったら、バトルもできるって聞いたから」
この辺りでは珍しいイントネーションの話し方だった。
少し興奮した様子で女の子は続ける。
「地元では何回かやったことあるんやけど、せっかくやし、知らんとこのトレーナーともやってみたくてお願いしてみてん!」
「私たちも、カフェでバトルするのは初めてだよ!」
「ほんなら、お互い楽しもな!」
「うん!」
それぞれコートの端へ移動する。
イーブイが私の前で振り返った。
「イーブイ、がんばろうね!」
「ぶいっ!」
店員さんが二匹を確認して、片手を上げた。
「それでは、バトル、スタート!」
「イーブイ! でんこうせっか!」
「ぶいっ!」
イーブイが勢いよく飛び出した。
チラーミィとの距離を一気に詰め、体当たりする。
「ミィッ!」
「チラーミィ、はたく!」
「ミィ!」
チラーミィはよろめきながらも、すぐにイーブイへ手を伸ばした。
ぱしんっ!
「ぶいっ!」
イーブイが少し後ろへ下がる。
「今度は、うたう!」
チラーミィが口を開いた。
「イーブイ! 離れて耳を塞いで!」
「ぶいっ!」
イーブイが素早く後ろへ跳ぶのと同時に、チラーミィの歌声がコートに響いた。
うたうをもろに受けると眠ってしまうということは知っている。
とっさに距離を取ったイーブイは、ぎゅっと耳を押さえて何とか回避することができた。
「よし! イーブイ、つぶらなひとみ!」
「ぶい!」
イーブイが遠くからチラーミィをじっと見つめる。
「ミィ……?」
チラーミィの動きが少し緩んだ。
「距離があるなら、スピードスターや!」
「え! スピードスター?!」
チラーミィの周りに、小さな光が集まった。
それがいくつもの星になって、イーブイへ向かって飛んでくる。さっき動画で見た、あの技だ。
「イーブイ! ジャンプで避けて!」
「ぶいっ!」
イーブイが高く跳ぶ。
けれど、星はその動きを追いかけるように軌道を変えた。
「ぶいっ!」
身体をひねって直撃を抑えたものの、いくつもの星がイーブイに命中した。
「イーブイ、大丈夫!?」
「ぶいっ!」
着地したイーブイが、すぐに顔を上げる。
しかし、ジャンプで避けても追いかけてくるとは思わなかった。
スピードスター、やはり魅力的なわざだ。
「イーブイ、でんこうせっかで距離を詰めて!」
「ぶいっ!」
イーブイが駆け出す。
「チラーミィ、下がって!」
「ミィ!」
チラーミィも後ろへ走る。
けれど、でんこうせっかの速さからは逃げきれない。
イーブイが、チラーミィのすぐ目の前まで迫った。
「今! すなかけ!」
「ぶいっ!」
イーブイが地面を蹴り上げる。
「ミィッ!?」
砂がチラーミィの顔にかかり、思わず目を閉じた。
「そのまま、でんこうせっか!」
「ぶいっ!」
イーブイがもう一度地面を蹴った。
チラーミィが目を開けるより早く、体当たりが決まる。
「ミィ……!」
チラーミィが倒れた。
少し待っても、立ち上がらない。
店員さんが手を上げる。
「そこまで! 勝者、イーブイ!」
「やったー!」
「ぶいっ!」
イーブイがこちらへ駆け寄ってくる。
しゃがんで両手を広げると、そのまま胸に飛び込んできた。
「やったね、イーブイ!」
「ぶい!」
そこへ、女の子とチラーミィもやってきた。
「対戦ありがとうな!」
「こちらこそ!」
審判に握手を促され、お互いの手をギュッと握る。
手を離すと、女の子はそのまま話を続けた。
「わざの使い方めっちゃ上手いやん!
うちら、つい攻撃ばっかりになってしまったわ……」
「ミィ……」
チラーミィも少ししょんぼりしている。
「でも、チラーミィもいろんな技使えてすごかったよ!」
「ほんま? もう一つあまえるってわざもあるんやけど、使いどころがイマイチ分からんくて、全然使われへんねん」
「あまえる?」
スマホロトムで調べてみる。
「……あ! これ、相手の攻撃をぐーんと下げられるんだって! 使った方がいいよ!」
「そうなん!?」
「うん! チラーミィのかわいさアピールだよ!」
「ミィ!」
チラーミィが、得意げに胸を張った。
「なるほどなぁ! 今度使ってみるわ!」
「あ、そうだ! ところで、スピードスターなんだけど……」
「スピードスター?」
女の子は意外そうな様子で聞き返した。
「今、イーブイもスピードスターを覚えたくて練習してるんだけど、なかなか上手くいかなくて……。コツとかあったりする?」
「ぶい……」
「うーん、チラーミィも、いつの間にか使えるようになってたんよなぁ……」
女の子がチラーミィに顔を向ける。
「コツとかあるん?」
「ミィ……?」
チラーミィは不思議そうに首を傾げた。
「……分からんみたいやな!」
「そっかあ、そうだよね……」
「とりあえず、もう一回やってみよか!」
「ミィ!」
チラーミィが少し離れたところへ移動する。
今度はバトル中よりもゆっくりと、身体の周りに小さな光が浮かぶ。
光が集まって、星の形になる。
そして、前へ飛んでいった。
イーブイはその様子をじっと見ていた。
「やってみる?」
「ぶい!」
イーブイも構える。
「ぶいっ!」
…………。
何も出ない。
「もう一回!」
「ぶい!」
イーブイが目を閉じる。
さっき見たチラーミィの動きを思い出すように、じっと力を込める。
「ぶいっ!」
その瞬間。
きらっ。
「……あ!」
イーブイの前で、ほんの一瞬だけ小さな光が瞬いた。
「今、光ったよね!?」
「光った光った! もうちょっとでできそうやん!」
「ミィ!」
イーブイ自身も驚いたように、自分の前を見つめている。
「ぶい……?」
「できそうだよ、イーブイ!」
「ぶいっ!」
イーブイがもう一度構える。
「ぶいっ!」
…………。
今度は何も出なかった。
「あはは。そんなすぐにはできないかあ」
それでも、さっきは小さな光が確かに見えた。
「ありがとう! チラーミィも!」
「こっちこそ! うちらも、あまえる練習してみるわ!」
「ミィ!」
女の子とチラーミィに手を振って、イーブイと一緒に元の席へ向かう。
「ラルトス、ミミッキュ、お待たせー!」
「らる!」
ミミッキュも、こちらを向いて小さく手を上げた。
「イーブイ、ちょっとだけ光が出たんだよ! 見ててくれた?」
「ぶいっ!」
イーブイが得意げに胸を張ると、ラルトスがにっこりと笑って頷いた。
「まだスピードスターって感じじゃなかったけどね」
「ぶい……」
「でも、最初よりは進歩したよね。また練習しよう!」
「ぶいっ!」
そう言って席に戻ろうとすると、イーブイが私の足元で立ち止まった。
「ん?」
「ぶい」
イーブイがテーブルの上のメニューをちらりと見る。
「……もしかして、まだ食べたいの?」
「ぶいっ!」
「ええー、さっき食べたじゃん」
「ぶいー」
「…………」
まあ、今日はいっぱい走ったし。
スピードスターの練習も、がんばってるし。
久しぶりのバトルにも勝てたことだし。
「……うーん、しょうがないなあ。今日だけだからね!」
「ぶいっ!!」
イーブイは、目をキラキラとさせながら、今日一番嬉しそうな顔をした。
イーブイが注文したデザートには、小さな星の飾りが乗っていた。
偶然かもしれないが、スピードスターを練習中のイーブイにはぴったりだ。
それに気づいているのかいないのか、運ばれてきたデザートに夢中になるイーブイを眺めながら、私はさっきの小さな光を思い出していた。
明日はきっと、もっと大きな星を出せそうだな。
何の根拠もないが、何となくそんな気がした。