「うーん……そろそろアルバイトしなきゃかなぁ」
目の前の器から、白い湯気が立ち上っている。
スプーンですくってひと口飲むと、いろいろなキノコの味が溶け込んだ温かい汁が、じんわりと身体に広がった。
「……でも、これおいしいね」
「ぶい!」
隣で食べていたイーブイも、嬉しそうに返事をする。
山あいにあるこの町へ着いたのは、昨日の夕方だった。
ここ最近は雨に足止めされることも多く、思うように進めない日が続いていた。
それでも少しずつ山道を進み、ようやく辿り着いた町だ。
朝から曇り空だったこともあって、外はまだ少し薄暗い。
それでも店の中は思っていたより賑わっていて、いくつものテーブルから楽しそうな話し声が聞こえてくる。
厨房からは忙しそうに食器の触れ合う音がして、私たちが食べているのと同じきのこ汁も、次々と運ばれていった。
そして今朝、町でお金を下ろしたついでに残高を確認してみたのだが――。
「結構減ったなぁ……」
旅に出る前に貯めていた自分のお金と、お父さんたちが用意してくれた旅のお金。
全部を持ち歩くのは怖いから、町に着くたびに必要な分だけ下ろして使っていた。
宿に泊まって、ごはんを食べて。
イーブイたちのフードや、旅に必要なものも買って。
そんな生活を続けていれば当然なのだけれど、旅に出た頃と比べると、残っているお金はずいぶん少なくなっていた。
――少なくなってきたら、旅の途中でアルバイトでも探しなさい。
出発前、お父さんにもそう言われていた。
「でも、そんなに簡単に仕事なんてあるのかな?」
「ぶい……」
イーブイと二人で首を傾げる。
「仕事を探してるのかい?」
突然声をかけられて、顔を上げる。
料理を運んできた店のおばさんが、こちらを見ていた。
「はい! もしかして何かあります!?」
思わず身を乗り出す。
おばさんは少し驚いた顔をしたあと、けらけらと笑った。
「ちょうど人手が欲しかったところなんだよ」
「ほんとですか!?」
話を聞けば、今食べているきのこ汁にも、近くの山で採れるキノコが使われているらしい。
雨の多い今の時期は、キノコそのものはよく採れる。
しかし、そのぶん山の中はぬかるんでいて足場が悪く、少し奥まで採りに行くのが大変なのだという。
「山で採ってきてくれたら、持ってきた分だけ買い取るよ」
「やります!」
「ぶい!」
即答した私の隣で、イーブイも元気よく返事をする。
「ふふ。頼もしいねぇ」
おばさんはそう言うと、店で使っているキノコを見せてくれた。
丸い傘に、少し太めの軸。
形や色をよく見て、スマホロトムでも写真を撮っておく。
「似たようなのもあるからね。分からないものは採ってくるんじゃないよ」
「はい!」
こうして私たちは、旅に出て初めてのアルバイトをすることになった。
*
「よーし! みんなでがんばってキノコ採るぞー!」
「ぶい!」
「きる!」
「きゅ!」
空は相変わらず雲に覆われていたが、幸い雨は降っていない。
片手に籠を持って、私たちは町の近くの山へ入った。
昨日までの雨で、山の中はまだあちこち濡れている。
土を踏むたびに靴の裏が少し沈み、頭上の木々からは、ときどき溜まっていた雫が落ちてきた。
おばさんに教えてもらったキノコは、湿った木の根元や、落ち葉の下によく生えているらしい。
「この辺にありそうだけどなぁ……」
足元を見ながら、ゆっくり歩く。
道の脇にある葉っぱの上では、ケムッソが一匹、端からむしゃむしゃと葉を食べていた。
私たちが横を通っても、まるで気にする様子はない。
「ぶい!」
少し先からイーブイの声がした。
「なに? あった?」
駆け寄ると、イーブイが木の根元に鼻先を近づけている。
しゃがみ込んで落ち葉を退けると、その下から小さなキノコがいくつか顔を出した。
「おお!」
スマホロトムの写真と見比べる。
「……うん。これだ!」
一つずつ採って、籠へ入れていく。
「幸先いいね!」
「ぶい!」
そこからは、四人で山の中を探し回った。
イーブイはあちこちの木の根元に鼻を突っ込み、キルリアは落ち葉を一枚ずつ退けながら丁寧に探している。
ミミッキュは少し離れたところを歩いていたかと思うと、倒れた木の隙間を覗き込んでいた。
「きゅ」
「ん? あった?」
私も隣から覗き込むと、奥に同じキノコがいくつか生えている。
「すごい! よく見つけたね!」
少しずつ、籠の中が埋まっていく。
最初は見つけるたびにスマホロトムの写真と見比べていたけれど、何度か見ているうちに、だんだん形を覚えてきた。
「これもそうだよね。……うん、合ってる!」
なんだか宝探しみたいだ。
もう少し奥まで探してみようと、木々の間へ入っていったときだった。
「きる」
後ろから、小さな声がした。
「ん?」
振り返ると、キルリアがすぐそばに立っていた。
「どうしたの? キノコあった?」
キルリアは答えず、少し先へ歩いていく。
そして、こちらを振り返った。
「……?」
何か見つけたのだろうか。
「イーブイ、ミミッキュ。ちょっと行ってみよ」
キルリアのあとを追って、さらに茂みの中へ入る。
濡れた枝を避け、足元の草を踏まないように進んでいくと、少し先に大きな岩が見えてきた。
よく見ると、張り出した岩の下に、雨を避けられそうな小さな空間ができている。
道からは茂みに遮られて、ほとんど見えない場所だ。
キルリアが、その少し手前で足を止めた。
「ここ?」
葉をそっと掻き分ける。
薄暗い岩陰の奥に、小さなポケモンがいた。
青と黒の身体に、大きな耳。
「…………えっ」
思わず目を見開く。
「リオル!?」
ルカリオの進化前として有名なポケモンだ。
テレビでは見たことがあるけれど、実際に見るのは初めてだった。
「すごい……! 本当にいるんだ……!」
思わず一歩近づこうとして――
「ヴヴッ……!」
「わっ!」
低い唸り声に、慌てて足を止める。
「ご、ごめん!」
リオルは岩陰で身体を縮め、こちらを警戒するように睨んでいる。
そのまま立ち上がろうとした。
しかし、片方の足を地面につけた途端、身体がぐらりと揺れる。
「……もしかして、けがしてる?」
よく見ると、その足には思っていたよりもひどい傷があった。
どうしてこんな傷ができたのかは分からないが、これでは歩くのも大変そうだ。
「待って。きずぐすりあるよ」
鞄を開けて、きずぐすりを取り出す。
「これを使えば、少しは楽になると思うんだけど……」
驚かせないように、ゆっくり近づこうとする。
「ヴッ!」
さっきよりも鋭い声が飛んできた。
「……ダメ?」
リオルは低く身体を構えたまま、こちらを睨んでいる。
「そっかぁ……」
逃げることもできないのに、無理に近づくのはよくない。
私はきずぐすりをリュックへ戻した。
でも、あの足では食べ物を探しに行くのも難しいだろう。
「じゃあ……これだけ置いてくね」
今日採ったキノコをいくつか取り出す。
それから、リュックに入れていたきのみも、その隣に置いた。
「あとは、お水も」
小さな器に水を注ぎ、少し離れた場所へ置く。
リオルは何も言わない。
ただ、私のすることをじっと見ていた。
「いらなかったら、そのままでいいからね」
ゆっくりと立ち上がる。
「行こっか」
イーブイたちと一緒に、来た道を戻る。
茂みを抜けると、岩陰はすぐに見えなくなった。
「……食べてくれるといいんだけど」
「きる」
隣を歩くキルリアが、小さく声を返した。
*
山を下りる頃には、空が少し暗くなり始めていた。
「けっこう採れたねー!」
籠を覗き込む。
最初は底が見えていた籠も、今ではたくさんのキノコで埋まっている。
そのまま町へ戻り、朝のお店へ向かった。
「おお、ずいぶん採ってきたね!」
おばさんが籠を覗き込む。
「みんなで集めたんです!」
「みんなで?」
「はい!」
足元にいる三人を見る。
イーブイは得意そうに胸を張り、キルリアも嬉しそうに笑っている。
ミミッキュは、私の後ろにぴたりとくっついたまま、ちょこんと顔を出した。
おばさんが三人を見渡す。
「あんた、ポケモントレーナーかい?」
「はい!」
「そうかい。この山の向こうにもスクールがあるんだよ」
「へぇ、こんなところにもあるんですね」
思わず、窓の向こうに見える山の方を見る。
ここからでは、重なった木々と山の斜面しか見えない。
「この町にはいつまでいるんだい?」
「ある程度お金が貯まるまではいるつもりです!」
「そうかい。そりゃ助かるよ」
おばさんから、今日採った分のお金を受け取る。
初めて自分で働いてもらったお金だ。
「やった!」
思わずイーブイたちに見せる。
「明日もがんばろうね!」
「ぶい!」
「きる!」
「きゅ!」
店を出ると、山から吹いてきた風が少し冷たかった。
もう一度、山の方を見る。
先ほどまでいた山は、沈みかけた夕日で赤く染まっていた。
あのリオルは、置いてきたものを食べただろうか。
*
翌日。
今日も空にはどんよりとした雲が広がっている。
昨日歩いた道を辿りながら、私たちはまた山へ入った。
地面はまだ湿っているものの、昨日よりは少し歩きやすい。
「昨日のリオル、どうしてるかな……」
キノコを探しながら、あの岩陰へ向かう。
目印にしていた大きな木を曲がり、茂みの中へ入る。
葉をそっと掻き分けると――。
「……いた!」
昨日と同じ場所に、リオルがいた。
「あっ」
置いていったキノコときのみが、なくなっている。
水を入れておいた器も空っぽだ。
「食べてくれたんだ!」
嬉しくなって、思わず近づきかける。
「ヴヴッ……」
「あ、ごめんごめん。ここまでね」
すぐに足を止めた。
昨日より少し元気そうには見える。
でも、足にはまだ痛々しい傷が残っていた。
「今日もきずぐすり使わない?」
鞄から取り出して見せる。
リオルの身体が強張る。
「……やっぱりダメかぁ」
仕方がない。
今日もキノコときのみ、それから新しい水を置く。
「じゃあ、またね」
岩陰を離れて、キノコ探しに戻る。
「早くよくなるといいねぇ」
「ぶい」
足元を歩くイーブイも、岩陰の方を気にするように一度振り返った。
*
翌日。
朝から覆っていた雲は少し薄くなり、木々の隙間から淡い光が差し込んでいた。
濡れていた落ち葉も少しずつ乾き始めている。
「あった!」
大きな木の根元からキノコを見つけて、籠へ入れる。
少し離れたところでは、イーブイが何かを見つけたらしく、夢中で落ち葉の匂いを嗅いでいた。
「それ、キノコ?」
駆け寄ってみる。
落ち葉の中から顔を出していたのは――。
「……イシツブテじゃん!」
丸まっていたイシツブテが、ゆっくりと目を開ける。
「ご、ごめんなさい」
慌てて距離を取る。
「ぶい?」
「イーブイもキノコだと思ったでしょ!」
何事もなかったような顔をするイーブイを連れて、その場を離れた。
しばらくキノコを集めたあと、いつもの岩陰へ向かう。
リオルは今日もそこにいた。
でも、私たちを見ても、すぐには唸らなかった。
「……あれ?」
少しだけ近づいてみる。
リオルはこちらをじっと見ている。
それでも、初めて会ったときのように立ち上がろうとはしない。
「……今日もダメ?」
きずぐすりを取り出して見せる。
リオルの目が、私の手元へ向く。
「使ってもいい?」
「…………」
返事はない。
でも、逃げようともしない。
私はゆっくりと近づく。
一歩。
もう一歩。
途中で止まってみても、リオルは何も言わなかった。
「……じゃあ、ちょっとだけね」
そっと傷にきずぐすりを使う。
一瞬、リオルの身体が強張った。
私も思わず手を止める。
それでも唸らなかったので、ゆっくりと傷の手当てを続けた。
「……はい、おしまい!」
終わると、すぐに少し離れる。
リオルは傷のある足をちらりと見る。
「これで少しよくなるといいね」
その隣に、今日も食べ物と水を置く。
「じゃあ、また明日ね!」
リオルは何も答えなかった。
少し離れた場所では、イーブイたちがこちらを見ていた。
「今日は使わせてくれたよ!」
「ぶい!」
イーブイが嬉しそうに尻尾を振る。
リオルはその声に反応してちらりとイーブイを見たけれど、何も言わなかった。
*
翌日。
朝から空は曇っていた。
それでも雨は降っていなかったので、私たちはいつも通り山の中でキノコを探していた。
何日も山へ通っているうちに、写真と見比べなくても目当てのキノコが分かるようになってきた。
「これと……こっちも!」
木の根元からキノコを採り、籠へ入れる。
キルリアも見つけたらしく、少し先でこちらを呼んでいる。
「今行くー!」
立ち上がった、そのとき。
頬に、冷たいものが当たった。
「……ん?」
空を見上げる。
木々の隙間から見える空が、いつの間にか朝よりも暗くなっている。
ぽつ。
もう一滴。
「……雨?」
「ぶい?」
そう言った直後だった。
ぱらぱらと葉を叩き始めた雨音が、あっという間に大きくなる。
「わっ、やば!」
慌てて籠を抱える。
「今日はもう帰ろ! キノコどころじゃないや!」
「ぶい!」
「きる!」
「きゅ!」
ミミッキュを抱き上げると、来た道を急いで戻る。
途中で、ふと足を止めた。
「……リオル、大丈夫かな」
さっき様子を見に行ったときには、いつもの岩陰にいた。
「……でも、あそこなら雨は入らないもんね」
「きる」
「うん。明日また見に行こ!」
雨脚はどんどん強くなっていく。
今日採れたキノコは、籠の半分にも届いていない。
「まあ、こんな日もあるよね!」
ミミッキュと籠を濡らさないように抱えながら、私たちは急いで山を下りた。
*
翌日。
昨晩遅くまで雨が降り続いていたものの、目が覚めたときには、雲の隙間からうっすらと光が差していた。
木々の葉にはまだ大きな雫が残っている。
足元には新しい水たまりがいくつもできていて、そのたびに避けながら進んでいく。
「今日は昨日の分まで採るぞー!」
「ぶい!」
山へ入ってしばらくすると、いつもの岩陰へ向かった。
「昨日すごい雨だったけど、大丈夫だった?」
茂みを抜けると、リオルはいつもの場所にいた。
「よかった。ちゃんといる」
そう言いながら近づいたところで、リオルが立ち上がった。
「あ」
傷のある足を、ゆっくりと地面につける。
一歩。
もう一歩。
少しぎこちないけれど、ちゃんと歩いている。
「歩けてる!」
「ぶい!」
嬉しくなって、思わず声が大きくなる。
リオルが驚いたようにこちらを見る。
「ごめん。でも、すごいね! だいぶよくなったんだ!」
今日も水を置く。
少し離れたところまで下がると、リオルは器の前へ歩いていった。
そして、私たちがまだそこにいるのに水を飲み始める。
「…………」
思わずイーブイを見る。
イーブイもこちらを見上げた。
なんとなく声を出さない方がいい気がして、二人で黙ってリオルを見る。
キルリアは少し後ろで微笑んでいる。
ミミッキュも、その隣に立っていた。
水を飲み終えたリオルが顔を上げる。
「……もうちょっとで、元通りになりそうだね」
リオルは何も答えない。
それでも、初めて会った日のように私たちを睨むことはなかった。
*
翌日。
いつものようにキノコを探しながら、岩陰へ向かう。
何日か通ううちに、ここまでの道もすっかり覚えてしまった。
「あの大きい木を曲がって……」
茂みの中へ入る。
「リオルー。今日も来たよー」
葉を掻き分ける。
「……あれ?」
いつもの場所には、誰もいなかった。
空になった器だけが転がっている。
「リオル?」
岩陰を覗き込む。
少し奥まで見てみても、青い姿はどこにもない。
「……いないね」
「ぶい……」
辺りを見回す。
昨日にはもう、自分で歩けるくらいまで回復していた。
「どこか行ったのかな」
少しだけ寂しい。
毎日ここへ来れば当たり前のようにいたから、空っぽの岩陰を見ると、なんだか変な感じがする。
でも、ずっとここから動けない方が心配だ。
「……まあ、野生の子だもんね」
キルリアが静かに岩陰を見る。
ミミッキュも、その隣から中を覗いていた。
「元気になったってことだよね。よかった」
私は立ち上がる。
何日か、この山へ通った。
最初はほとんど空だった籠をいっぱいにするだけでも時間がかかったのに、今ではみんなで探せばかなりの量を集められるようになった。
そのぶん、お金もだいぶ貯まった。
「……そろそろお金も貯まったし、私たちも明日出発しよっか」
「ぶい!」
「きる!」
「きゅ!」
「よーし! じゃあ今日は最後のキノコ採りだ!」
籠を持ち直す。
「いっぱい採って帰ろー!」
声をかけると、それぞれがまたキノコを探しに散って行った。
*
空が赤く染まり始めた頃、私たちはいつものお店に戻ってきた。
「おお、今日もいっぱい採ってきたね!」
いっぱいになった籠を、おばさんに渡す。
「もうキノコ探すの、かなり上手くなりました!」
「ふふ。うちで働いてもらいたいくらいだよ」
「えへへ」
今日の分のお金を受け取る。
これなら、しばらくはまた旅を続けられそうだ。
「あの、私たち明日出発しようと思うんです」
「そうかい」
おばさんは少し驚いたあと、笑った。
「ずいぶん助かったよ」
「私も助かりました! ありがとうございました!」
「ちょっとそこに座って待ってな」
店の奥へ引っ込んでいくおばさんを見ながら、四人掛けのテーブルに腰を下ろす。
何だろうと思いながら待っていると、しばらくして湯気の立つ器を持ったおばさんが戻ってきた。
「ほら。これ食べな」
「わあ……!」
見覚えのある、たっぷりのキノコ。
この店に初めて来た日に食べた、きのこ汁だ。
「今日あんたたちが採ってきてくれたキノコも入ってるよ」
「いいんですか!?」
「最後の日くらい、ご馳走させておくれ」
「ありがとうございます!」
イーブイたちの分も用意してもらい、四人でテーブルを囲む。
「いただきます!」
ひと口飲むと、温かい汁が、身体にじんわりと広がっていく。
「……やっぱりおいしいね」
「ぶい!」
「きる!」
「きゅ!」
数日前にここで同じものを食べたときには、まさか自分たちでこのキノコを採ることになるなんて思ってもいなかった。
初めてのアルバイトは、思っていたよりずっと楽しかった。
空になった器を置いて、おばさんにもう一度お礼を言う。
「ごちそうさまでした!」
*
店を出ると、外はもう暗くなっていた。
昼間まで空を覆っていた雲は、いつの間にかところどころ途切れている。
「あ」
何気なく空を見上げて、足を止める。
山の上に、白い月が浮かんでいた。
「月、久しぶりに見た気がする」
「ぶい」
イーブイも隣で空を見上げる。
キルリアも足を止め、ミミッキュも私たちにつられるように顔を上げた。
雨が降ったり止んだりしていたせいか、ここ最近はずっと雲ばかり見ていた気がする。
月明かりに照らされた町の道を、四人で歩き出す。
「きのこ汁、おいしかったねぇ」
「ぶい!」
「きる!」
「きゅ!」
「いっぱいキノコ採ったもんね!」
数日間通った山も、明日にはもう離れる。
そう思うと少しだけ名残惜しい。
それでも、また知らない道を歩けると思うと、なんだかわくわくしてきた。
「よーし! 今日は早く寝よ!」
「ぶい?」
「明日から、また新しい旅だー!」
「ぶい!」
元気な声が、静かな町に響く。
通りに並ぶ家々の窓からは、温かな明かりが漏れていた。
イーブイと私、少し後ろにキルリアとミミッキュ。
私たちは月明かりの下、宿へ向かって歩いていった。