次の日、タクヤはビリリダマと一緒に学校へ向かった。
家から学校まで歩くのは、いつもと同じだった。隣でころころ転がるビリリダマに合わせて、タクヤも歩く。
けれど、校門をくぐると、ビリリダマが学校の中にいるのが少し不思議だった。
「タクヤ、こっち」
先に来ていたケンタが手を振った。足元にはコラッタがいる。ミホもいて、そばのポッポは校庭の隅を気にしていた。
「ビリリダマも来たんだね」
「うん。今日、連れてきてええ日やから」
教室の前には、ほかにもポケモンがいた。青い犬みたいなブルーの横で、男の子が首輪を直している。少し離れたところにはチコリータがいて、葉っぱを揺らしていた。
「チコリータや」
「かわいいなあ」
誰かが言った。チコリータのそばにいた子は、少し照れたように笑っていた。
先生が教室から出てきて、子どもたちとポケモンを順番に見た。
「おはよう。今日、初めて一緒に練習するポケモンもいるから、先にいつもの様子を聞かせてね。普段どんな言葉が通じるか、急に走り出したり、苦手なことをしたりするか。技で気をつけることも教えて」
ケンタは、コラッタは走るのが好きで、気になるものがあるとそっちへ行くことがあると言った。ミホは、ポッポは飛びたがるけれど、呼ぶと戻ってくると話した。
ブルーは家の中で暮らしていて、「待って」や「おいで」はよく分かるらしい。チコリータも人と一緒に練習するのに慣れていると、そばの子が教えた。
「ビリリダマは?」
先生に聞かれて、タクヤは答えた。
「電気を出すときがある。あと、音も鳴らす」
「分かった。今日は先生が合図するまで技は使わないよ。どのポケモンも、順番にやろうな」
先生はそう言って、校庭にいくつかの目印を置いた。ポケモンたちはそれぞれ、子どものそばで待っている。
「まずは技を使わない練習。呼んだら来る、待ってと言ったら止まる。先生が指した場所まで行って、また戻ってくる。いつもの言葉でいいよ」
タクヤはビリリダマのそばに立った。
「ビリリダマ、待って」
ビリリダマは、ころんと動きかけて止まった。
「こっち」
今度はタクヤの足元まで転がってくる。
先生が校庭の目印を指した。タクヤが「あっち行って」と言うと、ビリリダマは目印まで転がり、そこで止まった。
「戻っておいで」
ビリリダマはタクヤのところへ戻ってきた。
横では、コラッタが目印まで走りかけたところで、校庭の端にいたポッポへ気を取られていた。ケンタがもう一度呼ぶと、コラッタは向きを変えて戻った。
「コラッタ、こっちだよ」
ミホのポッポは、呼ばれる前に羽を広げた。ミホが「まだだよ」と言うと、ポッポは地面に降りて待った。
先生はみんなの様子を見ていた。
「タクヤとビリリダマは、呼ぶ言葉も、止まる言葉もちゃんと分かってるね。よく伝わってるよ」
タクヤはビリリダマを見た。いつも通りだった。学校の中でも、言うたら動いて、待ってと言えば止まる。
次は、技の名前を使う練習になった。
先生が、校庭に置いた柔らかい的を指した。
「ここからは、先生が合図してから一匹ずつ。覚えている技を、的に向かって使ってみよう。終わったら、ポケモンを呼び戻してね」
先生が合図をすると、ケンタが先にコラッタへ声をかけた。
「コラッタ、たいあたり!」
コラッタは的へ走り、体をぶつけた。的が少し揺れた。
「よし、戻って」
コラッタはケンタの足元へ戻った。
先生が次々に合図を出した。ミホはポッポに、かぜおこしを頼んだ。羽ばたきで、的のそばに吊るした細い紙が揺れた。ブルーも、飼い主の「たいあたり」という声を聞いて、的へ向かって動いた。
チコリータは、子どもの「たいあたり」という声に反応した。的へまっすぐ進み、ぽすんと当たってから、呼ばれて戻ってきた。
「すげー」
タクヤは声に出していた。
技の名前を言っただけで、チコリータは何をしたらいいのか分かっているみたいだった。コラッタもポッポも、ブルーも、それぞれの言葉で動いていた。
先生がタクヤを見た。
「じゃあ、タクヤもやってみようか。先生の合図のあとね」
タクヤはうなずいた。先生が合図をすると、タクヤはビリリダマに声をかけた。
「ビリリダマ、たいあたり」
ビリリダマは動かなかった。
昨日と同じだった。ビリリダマはタクヤを見ている。
ケンタが小さく首をかしげた。ミホもポッポを見たあと、タクヤたちを見た。誰も笑わなかった。
「普段は、どう言ってるの?」
先生が尋ねた。
タクヤは的を指さした。
「あれにぶつかって」
ビリリダマはすぐに転がり、的へぽすんと当たった。
「ちゃんと伝わってるね」
先生はうなずいた。
「今の動きと、『たいあたり』を一緒に覚えていこうか。いつもの言い方のあとに、技の名前もつけてみよう」
タクヤは的を指さした。
「あれにぶつかって。たいあたり」
ビリリダマは的へ向かって転がった。さっきと同じように、丸い体が当たる。
「そう。それが、たいあたり」
先生が言った。
もう一度、先生の合図を待つ。タクヤは同じ言葉をかけた。ビリリダマは動き、的にぶつかった。
何度か繰り返してから、タクヤはいつもの言葉を言わずに、技名だけを試した。
「ビリリダマ、たいあたり」
ビリリダマは、的を見た。すぐには動かず、タクヤのほうへ少し傾く。それから、ゆっくり転がりはじめた。
先生が手を上げた。ビリリダマは止まった。
「今、的を見たね」
タクヤは、ビリリダマと的を見比べた。まだ、いつもみたいにすぐ動くわけではない。でも、さっきとは少し違った。
帰り道、タクヤはビリリダマの隣を歩いた。
「たいあたり」
ビリリダマが、道の脇の植え込みへ向かって転がりはじめる。
「ちゃうちゃう、今せんでええ!」
タクヤが言うと、ビリリダマは止まった。
「待って」
その言葉にも、ビリリダマはいつものように止まっていた。
「たいあたりも、そのうち分かるようになるかな」
タクヤはまた歩き出した。ビリリダマも、隣をころころついてきた。