次の練習の日、タクヤはビリリダマと校庭に出た。
前に来たときと同じように、ケンタの足元にはコラッタがいる。ミホのそばではポッポが羽をたたんでいた。ブルーとチコリータも、先生の置いた目印の近くにいる。
先生は校庭の端に柔らかい的を並べ、それから子どもたちを集めた。
「今日は、簡単なバトルの練習をします。先生の合図で始めて、今回は一対一。先生が使っていいと言った技だけを使います」
先生は的と、子どもたちの立つ場所を順に指した。
「人のいるほうへ技を出さないこと。相手がもう続けられないときは、そこで終わり。先生が止めたら、すぐ止まります。終わった相手を追いかけて、もう一度攻撃するのもなしです」
タクヤは、先生が話すたびに頷いた。バトルの決まりは知っている。けれど、実際に自分が出る練習となると、話を聞く姿勢も少し変わった。
「ポケモンは、トレーナーの指示を待ってから動くわけではありません。相手の動きを見て、自分でよけたり、動いたり、危ないと思ったら止まったりします。バトル中も、ポケモン自身が見て考えて動いているんです」
「じゃあ、自分でよけたらいいのに、なんでトレーナーが『よけて』って言うの?」
誰かが聞いた。
「バトル中は、ポケモンから見えないものもあるからね。相手がどこにいるか、後ろに何があるか、別の技が来ていないか。外から見ているトレーナーには、ポケモンとは違うものが見えることがあります。ポケモンが自分で分かることは任せて、トレーナーに見えたことを伝えたり、次にどうするか一緒に考えたりするんだよ」
先生は、目印の間を歩いて見せた。
「バトルが好きなポケモンもいるし、勝ちたい子も、強くなりたい子もいる。新しいことを覚えるのが好きだったり、人と一緒に何かするのが好きだったりする子もいるよ。あまりバトルをしたくない子もいる。みんな同じじゃないから、トレーナーがやりたいだけで、嫌がるポケモンに無理をさせるものではありません」
練習に入る前に、先生はそれぞれの子に、自分のポケモンの様子を確かめるよう言った。
タクヤはビリリダマの前にしゃがんだ。
「ビリリダマ、やる?」
ビリリダマは、タクヤの手に軽く体を寄せた。それから、校庭の真ん中へころころ転がっていく。
「やるんやな」
タクヤも立ち上がった。
最初の組は、タクヤとビリリダマ、ケンタとコラッタだった。先生が二人に立つ場所を教え、使っていい技を確認する。
「今回は、たいあたりだけ。的じゃなくて、相手に向けるよ。始めの合図までは待っていてね」
コラッタはケンタの前で、地面をかくように前足を動かしていた。ビリリダマはタクヤの横で止まっている。
「じゃあ、はじめ!」
コラッタが先に走った。タクヤもすぐに声をかけた。
「ビリリダマ、たいあたり!」
言葉は通じた。ビリリダマはコラッタへまっすぐ進む。
「よけて、コラッタ!」
コラッタは走る向きを変えた。ビリリダマは、さっきまでコラッタがいたところを通り過ぎていく。
「あれ、動くんや」
タクヤの声が出た。
的とちゃう。コラッタはもう、そこにいなかった。
ビリリダマは校庭の端へ向かって転がっていく。勢いがつくと速いのは、前から知っている。けれど、まっすぐ速く進んでも、コラッタはそこを避けていた。
「ビリリダマ、止まって!」
ビリリダマはすぐに減速し、校庭の端へ着く前に止まった。
先生が手を上げた。コラッタもケンタの声に応じて、少し離れたところで止まる。
「いい止まり方だったね。タクヤが呼んだら、すぐ止まれた。ケンタもコラッタを戻して」
「コラッタ、こっちだよ」
コラッタはケンタのところへ駆け戻った。
先生は二匹と子どもたちの位置を見てから、もう一度合図をした。
「続けます。はじめ!」
今度はコラッタが横へ走り、ビリリダマの進む先から離れた。ビリリダマはその動きに合わせて向きを変えようとしたが、すぐには曲がれず、少し大きく弧を描いた。
「こっち!」
タクヤが呼ぶ。ビリリダマはコラッタを追うのをやめて、タクヤのほうへ戻ってきた。
コラッタもケンタの声で立ち止まる。先生の手が上がった。
「はい、そこまで」
二匹とも動きを止めた。コラッタは少し息を弾ませ、ビリリダマはタクヤの足元で静かになった。
「今日はここまでにしよう。相手が動くと、的に当てるのとは違うね。続きはまた練習しよう」
タクヤは頷いた。たいあたり、という言葉はビリリダマに届いた。けれど、コラッタは動いて、避けた。
帰り道、ビリリダマはいつものようにタクヤの隣を転がっていた。
「さっき、速かったなあ」
ビリリダマは、タクヤの少し先をころころ進んでいく。
「待って」
声をかけると、ビリリダマは止まった。
「たいあたりは、動く相手に当てなあかんのか」
タクヤは、コラッタが横へ走ったのを思い出した。
「どうしたら当たるんやろな」
ビリリダマは、隣をころころ転がっていた。タクヤも、そのまま歩き続けた。