休み時間、タクヤはケンタに、前の練習のことを話していた。
「コラッタ、横にひょいって避けたもんな」
「うん。ビリリダマ、まっすぐ行ってたよね」
「そやねん。あれ、動くんやなって思ったわ」
「この前見たアサギジムの試合でも、ポケモンがすごく避けてたよ」
「どんな試合やったん?」
「ミカンさんのジムに挑戦してた人が、ピカチュウを使ってたんだ。コイルと戦ってて、ピカチュウもコイルもすごく速かったよ」
「どのくらい速かった?」
「めっちゃ速かった」
ケンタは、手を左右へ動かした。
「こう、あっち行ったりこっち行ったりしてた」
「曲がるんも速かった?」
「そこまでは見てなかったな」
ピカチュウもコイルも、でんきタイプだ。形も大きさも違うし、動き方も違う。
「そういや、ミカンさんのデンリュウ、前に具合悪かったやろ。もう元気なん?」
「うん。こないだ灯台の近くに行ったら、デンリュウも元気だったよ。灯台もいつもどおり光ってた」
デンリュウもでんきタイプだ。ビリリダマも同じやけど、デンリュウは歩くし、ピカチュウは走る。コイルは浮いて動く。
ビリリダマは転がる。
速くなったビリリダマは、どのあたりで向きを変えてくるんやろ。
*
次の日も、その次の日も、タクヤは宿題を終えてから公園へ寄った。
木のほうへ転がっていくビリリダマに、少し離れたところから声をかける。
「こっち!」
木まではまだ距離があるのに、ビリリダマはすぐに速くなった。
「もうそんな速いん?」
ビリリダマは木のそばを通り過ぎて、大きな弧を描いて戻ってきた。タクヤはその動きを目で追った。
「ここで呼んだら、あっちを回ってくるんやな」
ビリリダマはタクヤの横まで来て、くるりと向きを変えた。
「もう一回やろ」
今度は、木へ着く少し前に呼んだ。ビリリダマは小さく向きを変えて、タクヤのほうへ転がってきた。
木を通り過ぎてから呼ぶと、さっきと同じように大きく回る。
「もうちょい手前やと、このくらいなんや」
速くなってから「止まって」と言うと、ビリリダマは木を越えて、少し先まで進んでから止まった。タクヤはその場所まで走っていった。
速くなる前に呼ぶと、木の手前で止まる。
雨の日は公園へ行かなかった。家の中ではクッションにぶつからないようにして、短い距離で「こっち」と呼んだ。
次の日には、また外へ出た。少し早く呼ぶ。もう少し進んでから呼ぶ。タクヤは声をかけるたび、ビリリダマがどこを通ってくるか目で追った。
戻ってくると、ビリリダマはまた木のほうへ転がり出す。タクヤも笑いながら追いかけた。
「もう一回」
その言葉を、何度も使った。
暗くなる前には帰る。お母ちゃんに呼ばれるより先に、タクヤが「今日は帰ろか」と言う日もあった。
*
何日もそうして遊んだあと、学校でまたポケモンとの練習をする日が来た。
校庭には柔らかい的が並べられている。先生が組み合わせを告げると、タクヤはビリリダマの隣に立った。向かいにはケンタとコラッタがいる。
「今日は二匹とも、使う技はたいあたりだけ。先生の合図で始めて、止めたら止まるんだよ」
二人がうなずく。先生の合図で、練習が始まった。
「ビリリダマ、たいあたり!」
ビリリダマが転がり出す。まっすぐ進む速さは、前と変わらない。
コラッタは、近づいてくるビリリダマを見て横へ跳んだ。
タクヤは、その動きを見て声を出す。
「こっち!」
ビリリダマは大きな弧を描いて、コラッタがいた場所を通り過ぎた。ケンタがすぐに声を上げる。
「コラッタ、たいあたり!」
コラッタは自分で向きを変え、ビリリダマへ走った。
「ビリリダマ、よけて!」
ビリリダマはすぐには止まらず、進む向きを少し変えた。コラッタはその横を駆け抜ける。ビリリダマもタクヤのほうへ戻りかけて、最初に向かっていた先から外れた。
「はい、止め!」
先生の声で、二匹が止まった。タクヤはビリリダマのところへ歩いていく。ケンタもコラッタのそばへ行った。
「もう一回やってみよう」
タクヤとケンタは元の位置に立った。ビリリダマとコラッタも、それぞれの前で向かい合う。先生がもう一度合図した。
「ビリリダマ、たいあたり!」
ビリリダマが転がり出す。コラッタが横へ動き始めた。
ケンタも声を上げる。
「コラッタ、たいあたり!」
コラッタは向きを変えて、ビリリダマへ走り出した。
タクヤは、その先を指さした。
「こっち!」
ビリリダマは、いつもと同じように大きな弧を描いた。ケンタの声で進むコラッタが、その弧の先へ走ってくる。
コラッタは直前に身をかわそうとした。けれど、ビリリダマの赤と白の体が、コラッタの肩にぽんと当たった。
「止め!」
先生の声で、二匹は動きを止めた。
タクヤは目を丸くした。コラッタはすぐに立ち直り、ケンタのそばへ戻る。
「当たったな」
ケンタが言った。
「うん。当たった!」
タクヤはビリリダマを見た。ビリリダマも、いつもと同じようにタクヤのそばへ来た。
「今の、よく見てたね」
先生が言った。
「公園でいっぱい遊んでたからかな」
タクヤはそう答えた。
帰り道、ビリリダマはタクヤの隣を転がっていた。
「また明日もやろな」
ビリリダマが「ビリ」と鳴いた。
タクヤは、次に公園でどこから呼ぼうか考えながら、家まで歩いた。