港へ近づくと、タクヤたちの列の向こうに、大きな船が見えてきた。
「あれがアクア号だよ」
先生が指さした。船の横には、乗り降りするための通路がかかっている。甲板の上では船員たちが動いていた。
「大きいね。あれに乗るの?」
ミホが見上げる。
「今日は見学だよ。アサギシティとクチバシティを結ぶ船なんだ」
先生の説明を聞きながら、タクヤも船を見上げた。ビリリダマは、タクヤの足元で船のほうを向いている。
先生が人数を確かめてから、子どもたちは船員に案内されて船へ上がった。通路の脇には手すりがあり、先生は「走らないで、前の人についていこう」と声をかけた。
客室には窓のそばに座席が並び、食堂にはテーブルと椅子が置かれていた。船員は、乗客の案内や荷物運びのほか、出航前に通路や甲板の安全を確かめる仕事もあると教えてくれた。
通路を抜けると、マリルリが荷物を積んだ台車を押していた。小柄な体で台車の取っ手を握り、船員と歩調を合わせて進んでいく。船員が角で台車を支えると、マリルリは向きを変えて、荷物を置く場所まで押していった。
「マリルリも手伝ってるんだね」
ミホが言った。
「そうさ。ああして荷物を運んでくれるんだ」
案内役の船員が答え、甲板へ続く通路の先を指した。
「おーい、シゲロウ! 見学の子たちが来たぞ!」
甲板では、ゴルダックが船員とロープを片づけていた。シゲロウがロープを引くと、ゴルダックはたるみを送り、指さされた場所へ置く。最後のひと巻きを揃えると、二人は手を止めた。
「今行くよ」
シゲロウは子どもたちのところへ来た。ゴルダックもその隣に並ぶ。
「甲板の作業も手伝ってくれるんですか?」
ケンタが尋ねた。
「ああ。ロープの扱いは、長いこと一緒にやってるからな」
シゲロウが言うと、ゴルダックは彼の手元を見て、片づけたロープをもう一度確かめた。シゲロウがうなずく。ゴルダックもそれを見て、甲板の端へ戻った。
子どもたちは作業場所から離れたところで見学を続けた。シゲロウは、乗客や船員が海に落ちたときには、ゴルダックが泳いで救助に向かうこともあると話した。
「水の中で助けてくれるんだね」
ミホが言った。
「そう。でも、みんなが落ちないように気をつけるのが一番だよ」
タクヤはゴルダックを見た。ロープを扱う手が、今は甲板の仕事を終えて休んでいる。
「ゴルダックって、バトルもするん?」
タクヤが尋ねた。
「するよ。仕事じゃ頼りになるんだけど、バトルになると格闘戦ばっかりやりたがってね」
シゲロウが笑う。ゴルダックは、首を少し傾けて彼を見た。
「前にクチバシティへ寄ったとき、ピカチュウを連れたトレーナーとバトルしたんだ。ゴルダックはみずタイプだろ。でんきタイプのピカチュウ相手じゃ不利だろ。だから俺は距離を取って戦おうとしたんだけど、ゴルダックときたら、いつもみたいに突っ込んでクロスチョップを狙いにいってさ」
ゴルダックは腕を持ち上げ、胸の前で交差させた。シゲロウが、困ったように肩をすくめる。
「で、勝ったん?」
タクヤが聞いた。
「いや、負けちまった。あのピカチュウ、強かったよ」
シゲロウがそう言うと、ゴルダックは彼の肩をこつんとつついた。
「いてっ! なんだよ、本当のことじゃねえか!」
ゴルダックは腕を組み、そっぽを向いた。
「お前が勝手に突っ込んでったんだろ?」
シゲロウが言うと、ゴルダックがもう一度シゲロウの肩をつついた。
「いてっ! だから本当だろって!」
タクヤたちが笑った。
タクヤはゴルダックを見た。足元のビリリダマもゴルダックを見ていた。タクヤがビリリダマに目を向けると、ビリリダマもこちらを向いた。
まだ見たい場所はあったが、先生が子どもたちを集めた。船員にお礼を言って、みんなで船を降りる。
「ありがとうございました!」
タクヤたちはシゲロウとゴルダックに声をかけた。シゲロウが手を振る。ゴルダックも、甲板から子どもたちを見送っていた。
岸に立ってから、タクヤはもう一度アクア号を見上げた。
「なあ、先生。あの船、クチバシティまで行くんやんな」
「そうだよ」
タクヤは港の向こうの海を見た。
「いつか乗ってみたいな」
ビリリダマは、タクヤの隣でころんと向きを変えた。
「ビリリダマも一緒にな」
「ビリ!」
先生に呼ばれ、タクヤは列へ戻った。アクア号は、港に停まったまま海の上でゆっくり揺れていた。