その日の夜、お母ちゃんに「今日はもう、しんどない?」と聞かれて、タクヤはうなずいた。
「うん。なあ、きのうのとこに、赤と白の丸いやつおった」
「赤と白?」
「うん。ボールみたいで、ぼくの顔より大きかった。物置のとこ」
お母ちゃんが、お父ちゃんのほうを見た。
「それ、ビリリダマかもしれへんな。赤と白で、丸いポケモンやろ」
「ビリリダマ?」
お母ちゃんは、さっきより少し低い声で言った。
「電気を出すことがあるんや。近づいたらあかんで」
タクヤは、背中の近くで白く光ったのを思い出した。背中から腕まで、びりっとした。目が覚めたら、白い天井の下にいた。
「あれが、きのうのやったんかな」
「そうかもしれんけど、分からへんな」
お父ちゃんはそう言ってから、お母ちゃんと顔を見合わせた。
「園の先生に話しとこ。タクヤが倒れたとこの近くやしな」
次の日、園へ行くとき、お母ちゃんは先生に話をした。
「昨日、タクヤが物置の近くで、ビリリダマらしいポケモンを見たそうです。電気を出すことがあると聞いたので、確認してもらえますか」
先生はタクヤのほうを見て、「教えてくれてありがとう。先生たちで見てくるね」と言った。
先生たちが物置のまわりを見に行っている間、タクヤたちは部屋で絵本を見ていた。戻ってきた先生は、みんなを集めて言った。
「物置の近くを見てきたけれど、今日はビリリダマは見つからなかったし、危ないところもなかったよ。でも、念のため、しばらく物置の近くには行かないでね。先生たちが確認するから、みんなは遊具のほうで遊ぼうね」
タクヤは「はーい」と返事をした。
ビリリダマは、電気を出す。危ないから、近づかない。
それは分かった。
外遊びの時間、タクヤは先生の見えるところで、ほかの子たちと遊んでいた。遊具のそばから園庭の端を見ると、赤と白の大きな丸いものがあった。
ビリリダマだ。
先生も園庭の端を見た。
「みんな、お部屋に戻ろうね。先生と一緒に」
先生は子どもたちを集め、みんなで部屋へ戻り始めた。タクヤも、ほかの子たちのあとについて歩いた。先生はみんなを戻しながら、腰のモンスターボールに手を伸ばした。
ビリリダマは白い光を出さず、一度、子どもたちのほうを向いた。それから向きを変えて、園庭の端へ転がり始めた。タクヤたちのいるほうへは来なかった。
タクヤは先生の後ろについて部屋へ入った。戸口で一度だけ振り返ると、赤と白の丸い姿が、園庭の向こうへ遠ざかっていった。