転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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11話目 事件が終わって

11話目 事件が終わって

 

「ぅ、あ」

 

「目が覚めましたか?」

 

 目が覚めると身体中が痛み、思わずうめき声を上げてしまう。そんな俺に声を掛けてくれたのは紫色の髪のメイドさん、ノエルであった。

 

「鎮痛剤です、飲めますか?」

 

 ノエルが俺に鎮痛剤を渡そうとしてくるが、俺は痛みで身体を動かすのも辛い状態だ。

 

「わかりました、失礼します」

 

 俺の様子を見てか、自力で鎮痛剤を飲むことが無理と判断したノエルは俺の口を軽く開かせ薬を入れると水差しを使って水と一緒に薬を飲ませた。

 

 飲み込む瞬間身体が痛むがそれを我慢して薬を飲み込む。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ」

 

「私はお嬢様に報告して参りますのでゆっくりとお休みください」

 

 ノエルはそう言うと部屋から出て行く。今気づいたがどうやらここで月村邸の俺の部屋のようだ。

 

 ——あれから、どうなったんだ?

 

 氷村に全力で魔法を放った後の記憶がない。身体を半分吹っ飛ばしたところまでは覚えているのだが……

 

 ——皆は無事なのか?

 

 あの時、あの場所にいたメンバーのことを考える。ノエルは無事なのはわかった。報告に行ったということは忍も無事なのだろう。高町家の面々やすずか、アリサは大丈夫なのだろうか?

 

「起きたようね」

 

「忍……」

 

 ガチャっと部屋のドアが開き、忍が部屋の中へと入ってくる。

 

「この、馬鹿っ!!」

 

「悪い」

 

 忍の罵倒に俺は謝る事しかできない。痛みであまり話せないのもあるが、それ以上に自分の短慮な行動を理解しているからだ。

 

「勝手に先走って、氷村遊と戦って、大怪我して馬鹿じゃないのっ」

 

「ゴメン」

 

「……でも、生きてて良かった」

 

 忍はそう言って俺の近くへと座る。その瞳には潤んでいた。どうやら本当に心配を掛けたようだ。

 

「アレから、どうなったんだ?」

 

「氷村遊は恭也がトドメを刺したわ。すずかとアリサちゃんは無事よ、アリサちゃんは少し打撲の痕があるみたいだけど、それも大したものじゃないみたい」

 

「そう……よかった」

 

 すずかとアリサが無事であることを忍の口から確認し安堵する。恭也が氷村遊を殺したようだが、それについては何も思うところはない。あの状況で自分が死ななかっただけでも儲けものだ。

 

「自動人形たちは誰一人怪我すら負わずに倒したわよ。この事件で怪我をしたのはアリサちゃんと貴方だけ」

 

 忍の言葉の棘がチクチクを俺を刺して来る。

 

「肋骨二本と左腕骨折、右足には罅、無数の打撲、内臓も損傷、しばらくは寝たきりね」

 

「道理で……」

 

 そこまで重症なら身体中の痛みも理解できる。しかし、この程度で済んだのは幸運であった。氷村が俺を甚振らずに最初から殺すつもりであったなら間違いなく俺は死んでいただろう。そうでなくても身体をもがれたり、穴をあけられたりしなかっただけでもマシだと言える。

 

「それであの時のことなんだけど……」

 

「俺がおかしかったことか?」

 

 俺は事件の時のことを思い出す。思えばあの時はすずかが誘拐されたと聞いた瞬間から既におかしかった。普通であれば入れておかないであろう魔法をインストールしたり、非殺傷設定を解除したり、冷静に考えればまともな行動ではない。

 

「あの時はテンションが上がりまくってて、物凄く敵を殺したいって衝動が湧き上がったんだ」

 

 忍にあの時の精神状態のことを説明する。忍はそれを黙って聞いていた。

 

「無茶苦茶調子が良くて、魔力が溢れて、それで……止まらなくなった」

 

 あの時のことを思い出すと、身体の底から衝動が湧き上がる。しかし、身体に痛みによってそれは一瞬で治まった。

 

「だから様子がおかしかったのね」

 

 俺の言葉に忍は納得したような表情を浮かべる。

 

「でも、いくらアレが初の実戦とはいえ、おかしいんだよ」

 

 ——いや、初の実戦なのにと言うべきか……

 

「魔法が使えるとはいえ相手は武器を持っていたし、今回は死ぬかもしれない事態だ。恐怖を感じないなんてありえないんだよ」

 

「そうね。貴方は恐怖を感じたようには見えなかったわ」

 

「なんていうか俺らしくないんだよ」

 

 ——俺、割とビビリのはずなんだけどな〜

 

 自分の本来の性格とのギャップに頭の中が混乱する。

 

「ねぇ、拓斗はもともと魔法を使えなかったのよね?」

 

「ああ、ただの大学生だったな」

 

「こうは考えられないかしら」

 

 忍はあの時の俺の状態について自らの考察を述べる。

 

「普通の大学生がいきなり魔法という強大な力を手に入れた」

 

「だから力に酔ってしまった……と」

 

 考えとしてはわからないわけでもない。確かに急に魔法が使えるようになって気が大きくなってしまった面もある。ノーパソに関しても同様だ。しかし、そうだとしてもあの状態はおかしすぎた。

 人の本質など簡単に変えられるものではない。いくら力を得ようときっかけにはなりこそすれ、すぐには変わらないだろう。それこそ命が賭かったあの状況では……。

 

「それにしては……だけどね」

 

「わかってるわよ。だからコレはあくまで推論、事実がどうかなんて私にはわからないわ。もしかしたら、私達の吸血衝動やアレのようなものかもしれないし」

 

 忍もお手上げという感じで溜め息を吐く。実際、当人である俺自身わかっていないことなのだ、忍の言葉も参考程度に考えておくことにしよう。

 

「まぁ今は身体を治すことに専念しなさい」

 

「痛くて動けないんだけど」

 

「ノエルとファリンが世話をするから安心しなさい」

 

 忍はそう言うがこの年になって他人に世話をされるのは恥ずかしい。

 

 ——いや逆に考えるべきか、メイドさんがお世話してくれるのだ。ここは素直に喜ぼう。

 

 そう考えると少しの羞恥心など我慢できそうだ。

 

「それとすずかにバレたようね」

 

「ああ、氷村が言ったからな。アリサは気絶してて聞いてないと思うけど」

 

 俺が夜の一族のことについて知っていることがすずかにバレたことについて話す。……隠しておくという話しだったのに結局一年持たなかったことにお互いに溜め息が漏れる。

 

「まぁ仕方ないわ。後ですずかと話し合っておきなさい」

 

「お前にも一部、事情を説明する義務があることを忘れるなよ」

 

 黙ることになった理由である忍にも説明することを求める。

 

「もう言ったわよ。それであの子にかなり責められたんだから、貴方も覚悟しておきなさいよ」

 

 忍はげんなりした表情を見せる。すずかが忍を責めるところを想像してみるが、コイツだったら聞き流しそうなイメージがあるのでこんな表情を見せられるとどれほどのものか全然想像できない。

 

「はあ、怪我人だから加減してくれるかな?」

 

「あっ、そうそう、あれから三日経ってるから」

 

「え?」

 

 忍の言葉に慌ててIPhoneに手を伸ばすが身体が痛むため、手を伸ばすことすらままならない。

 

「なにやってるのよ、はい」

 

 忍が近くに置いてあるIPhoneと取ってくれる。俺はそれで日付を確認すると確かにあの日から三日経過していた。

 

「俺、そんなに寝てたんだ」

 

「全く起きる気配すらなかったわね。すずかもだけど、ノエル達も付きっ切りだったから、後でお礼を言っておくのね」

 

「わかってる。忍もありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 忍はそう言って部屋から出て行った。俺は目を瞑り、三日も寝ていた理由を考える。

 

 ——強引な魔力による肉体強化、魔力の使いすぎ、初めての実戦による疲労ってところか

 

 思えば恭也と試合をして連戦であったのもこれだけ寝ていた理由の一つだろう。それにここまで魔法を使ったのは初めてだった。

 

 ——早く身体を治したいな〜

 

 身体の痛みから開放されるためにも一刻も早い回復を俺は願った。

 

 

 

 

 

「拓斗君……」

 

 すずかは学校から帰ってくると俺が目を覚ましたことを聞いたのか、一直線に俺の部屋へとやってきた。

 

「すずか……」

 

「大…丈夫、なの?」

 

「怪我は酷いけど生きてるよ」

 

 すずかは俺の言葉を聞くと近くへと駆け寄ってくる。その瞳からは涙が零れ落ちていた。

 

「よかった、よかったよぅ」

 

 泣いているすずかを宥めるために右手を伸ばし髪を撫でる。

 

「あれから起きなくて、もしかしたら、一生起きないのかもって」

 

「大丈夫だよ」

 

 それからすずかが泣き止むまで俺はずっとすずかの髪を撫でていた。落ち着かせるために、安心させるために、大丈夫だと伝えるために……。

 

 しばらく撫で続けているとすずかも落ち着いたのか、泣いて真っ赤になった顔を隠すように俯いている。

 

 

「ゴメンね、泣いちゃって」

 

「こっちこそゴメン、心配かけちゃって」

 

「ホントに心配したんだよ」

 

「ゴメン」

 

 すずかに何度も謝る。自分のせいで泣かせてしまったと言うことで心の中は罪悪感でいっぱいだった。

 

「それでね、拓斗君……」

 

「夜の一族のことか?」

 

 すずかが言い辛そうにしているので、俺が話題を切り出すとすずかはコクンと頷いた。

 

「拓斗君は夜の一族のこと、知ってたんだよね?」

 

「……ああ」

 

 すずかの問いかけに肯定する。今まで黙っていたことに罪悪感を感じるので、どんなことを言われようと受け入れるつもりだ。

 

「ねぇ拓斗君、あの時、拓斗君は夜の一族のこと、どうでもいいって言ったよね?」

 

「うん」

 

「どうして? 吸血鬼……なんだよ、怖くないの?」

 

 すずかは俺の反応に怯えながら聞いてくる。

 

「どうして怖がる必要があるんだ? すずかは別に化け物ってわけじゃないだろ?」

 

「化け物だよっ!! 私達は血を吸うんだよっ、普通の人よりも遥かに力が強いんだよっ、腕がなくなっても再生するんだよっ!! ……私達は普通じゃ、ないんだよ」

 

 すずかの瞳から涙が溢れている。一体、どれほどの想いがその言葉に籠もっているのだろう。自分が普通の人とは違うということでどんなに辛い思いをしてきたのだろう。その全てがすずかの涙に籠められている気がした。

 

 ぎゅっ

 

 俺はすずかを抱きしめる。彼女の全てを受け入れるために、俺は拒絶しないと証明するために……。

 

「俺は魔法使いだよ」

 

「え?」

 

「魔法を使って火を出せるし、凍らすことができる。空も飛べるし、人よりも速く動ける。それに簡単に人を殺せる。俺だって普通の人とは違うよ」

 自分のできることをすずかに聞かせる。それは訓練のときに見せたこともある魔法とそれによって行えることだ。

 

「すずかは俺のことを化け物だって思う?」

 

「ううん」

 

「それと同じだよ。俺はすずかのことを化け物だなんて思わない。だから安心して、俺はすずかを拒絶したりしないから」

 

「うん、うん」

 

 すずかが俺の言葉を聞き、腕の中で泣く。受け入れられたことが嬉しいのだろう。その心中は俺なんかでは理解できないほどのものだ。俺の知っている中で理解できるのは姉である忍ぐらいだ。

 

「ありがとう、拓斗君」

 

「どういたしまして」

 

 すずかが俺から離れる。その表情はこれ以上ないほど幸せそうだ。

 

「でもゴメンな。夜の一族のこと、知ってたの黙ってて」

 

「いいよ、私も秘密にしてたんだから」

 

 俺の謝罪にすずかはなんでもなかったように許してくれる。忍のように責められるかと思っていたので少々拍子抜けだ。

 

「拓斗君」

 

「ん?」

 

「これからもよろしくね」

 

「ああ、よろしく、すずか」

 

 俺達はお互いに笑いあう。

 

 こうして今回の事件は終わりを告げ、俺達の関係は深まり、より親密になった。


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