転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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12話目 そんな彼女との邂逅

12話目 そんな彼女との邂逅

 

 目が覚めてから数日が経過し、俺は今も治療中であった。当然、学校に通うこともできず、ベッドの上で過ごしている。

 

「拓斗さん、お身体の具合はいかがですか?」

 

「ああ、大丈夫だよノエル」

 

 こうしてノエルやファリンが看病してくれているのだが、その看病が地味に精神を削ってくる。

 

 食事なんかはまだ大丈夫なのだが、汚れた身体を洗うために彼女達が拭いてくれたり、トイレなども彼女達が世話をしてくれるのだ。

 

 ——尿瓶とか恥ずかしすぎるだろ

 

 そういった下の世話をしているときのことを思い出し、少し憂鬱になる。これから何度彼女達に任せなければならないのだろう。

 彼女達も俺の肉体が子供であることや怪我人であるため、気にせずやってくれてはいるのだが色々と辛いものがある。

 

 身体を拭いてもらうときなど怪我を気遣ってソフトタッチで拭いてくれるため痛くはないのだが、アレが反応してしまうときがあるのだ。まぁ身体の痛みのせいですぐに萎えるのだが……

 

 ——子供の姿のままっていうのも辛いよな〜

 

 かろうじて無事であった右手の手のひらを開いては閉じる。子供の姿になったことで色々とできないことが増え、多少不満を抱いていた。学校でも友達はいるのだが、やはり小学生のため少しあわせないといけない。高いところには手が届かないし、筋力も子供の身体なのでそれほどない。

 

 そしてなにより……欲求不満が解消できないっ!!

 

 これは切実な問題であった。精神が大人であるためか、ノエルやファリン、忍という魅力的な女性陣に囲まれているため、そういった感情が溢れ出す。

 

 ——前までは抑えられてた筈なんだけどな〜

 

 あの事件以来、様々な衝動が溢れてくるようになった。特に攻撃衝動、そして性的衝動だ。性的な衝動に関しては今までは家主であることやお世話になっていることもあり、気にすることもなく、多少湧いたとしてもすぐにどうにかできていたものが、そうはいかなくなっていた。

 

 攻撃衝動もいきなり魔法をぶっ放したくなったり、サーチャーで気に入らない場面などを見かけると相手を殺したくなる。

 

 これらに関しては包み隠さず、忍に報告している。何かが起こってからでは拙いので警戒してもらいたいからだ。

 忍はこれを聞いて、戸惑っていたが俺が衝動を抑えられていることや俺が怪我人であるのを考慮してか何も対策をしていない。それどころか忍はノエルとファリンまでを使い、俺をからかってきた。

 俺の目の前でノエルやファリンのスカートの裾を上げたり、服をはだけさせて、俺の衝動を煽る。衝動は湧き上がってくるのだが痛みのため動くことができない俺の姿を見て、アイツは笑っていた。仕返しにバインドを使ってセクハラをして、ついでのその姿をデータに残してやったが……。

 

 ——でも魔法の調子はいいんだよな〜

 

 試しに近くに置いてあった財布から硬貨を取り出すと、指で弾いて宙に飛ばす。

 

「アクセルシューター」

 

 デバイスを使わず、最近覚えたばかりの誘導弾を放つとコインは弾かれさらに上に飛んだ。

 

「一回」

 

 誘導弾を操作し、コインが地面に落ちないように何度も上へと弾く。アニメでなのはが空き缶でやっていたものと同じだ。

 

「十五っと」

 

 コインが地面に落ちず十五回上空に弾かれたのを確認すると、誘導弾でコインを自分のもとへと弾く。そして、そのコインをキャッチした。

 

「調子良すぎるだろ」

 

 こんなこと今まではできなかった。一度試してみようと思ったことはあったが、空き缶を相手に五回しか続かず、無理に練習するよりも…とクイックドロウの練習の方に時間を費やしたのだ。

 

 ——それに治りも早いんだよな

 

 氷村に殴られた痕が少しずつ薄くなっているのがわかる。完治まで三ヶ月程度と言われたのだが、魔法を使って診断してみると全治一ヶ月と診断された。昔、骨折したことがあったが、ここまで治りは早くなかった。しかも、魔法など使っていないのにだ。

 

 ——回復力、魔法技術の向上、その他もろもろか、悩み事ばかり増えるな。

 

 元の自分から変化していることに頭を抱えながらノーパソを操作する。療養中はずっとこうやって過ごしていた。

 ノーパソで様々な情報を集めたり、新たな魔法や技術を開発してみたり、デバイスの性能アップに努めてみたり、おかげで暇だけはしなかった。

 

「そういえば確かあの魔法があったな」

 

 パソコンを操作して目的の魔法を検索する。……どうやらあったようだ。

 

 コンコン

 

「拓斗〜入るわよ〜」

 

 俺が魔法をデバイスにインストールしていると、ドアがノックされ、俺の返事を待たずに忍が入ってくる。まぁ文句を言うのは諦めた。どうせ見られて困るものなどない。

 

「どう調子は?」

 

「悪くはないな。それでどうしたんだ? 俺の部屋に来て」

 

「ちょっと会わせたい人がいてね」

 

 忍がドアに目をやると一人の女性が部屋の中に入ってくる。濃い桃色の髪をしたきれいな女性だ。

 

「君が、烏丸拓斗くん?」

 

「あっ、はい」

 

 女性の問いかけに思わず反応が遅れる。わざわざ忍が俺に紹介するような相手で、この容姿ってことは……

 

「私は綺堂さくら、忍の親戚よ」

 

「えっ」

 

 目の前に現れたのはとらハ1の人気投票でぶっちぎりの一位を獲得し、プレイヤーに幸福を与えてくれたヒロイン、綺堂さくらであった。

 

 忍が俺に紹介できて、わざわざ会わせにくるような相手など彼女ぐらいしか思い浮かばないわけだが、まさかこうやって出会うことになるとは思わなかった。

 

「本当はもっと早く会いに来るつもりだったんだけどね」

 

 そう言ってさくらは微笑む。その笑顔は思わず見惚れてしまいそうだが、俺の心はいきなり出会った彼女に動揺していた。

 

「綺堂さくら?」

 

「そう、だけど」

 

「あの獣人と夜の一族とのハーフで氷村遊の妹の?」

 

「忍から聞いてたけどそこまで知ってるのね」

 

「高校時代、血液を飲まずに貧血で身体も小さくて、血液を提供してもらえる人が現れてようやく身体が成長し始めたあの?」

 

「どこまで知ってるのっ!?」

 

 俺の言葉に彼女は思わず驚いた。いくらか俺の事情を知っているとはいえ、ここまで自分のことを話されたら驚かずにはいられないだろう。

 

「耳と尻尾があるとか、一目惚れで失敗したとか?」

 

「へぇ〜」

 

「うぅ〜」

 

 俺の言葉に忍は面白いことを聞いたという表情を浮かべる。さくらも先ほどまでの少し大人びた表情が崩れ、こちらを恨みがましげな目で見てくるが、むしろ見た目とのギャップで可愛く感じる。

 

「それもゲームの知識なの?」

 

「ああ、シリーズもので彼女は一作目、忍は三作目だな」

 

 ここで俺は初めて忍達にゲームの内容などについて話す。今までは彼女達のことをゲームで知ったと言うことは話していたがゲームの内容までは話していなかった。

 

「俗に言うエロゲってジャンルで、人気投票で綺堂さくらは一位だったんだよ。大人気で萌え死ぬとかって言われてたっけ」

 

「ねえねえ、私は?」

 

 忍は俺の暴露に興味深そうな表情で聞いてくる。さくらが一位と聞いて自分の順位が気になったようだ。

 

「確か六位だったかな? ノエルが八位のはず」

 

「そんなに低いのっ!?」

 

「事前投票はそんな感じだったかな」

 

 俺の言葉に忍がショックを受ける。さくらが一位なら、自分も上かもと期待していたのだろう。

 

「でもエロゲってことはそういうシーンもあるのよね?」

 

 忍はショックからすぐに立ち直り、普通であれば聞きづらいであろう事を聞いてくる。

 

「まあね、お二人にはお世話になりました」

 

 堂々と二人に言い放つ。もう話してしまっているので俺は開き直っていた。

 

「まあ、いいわ。どうせ二次元のことだし」

 

 忍はあっさりとそのことを流したが、隣にいたさくらは違っていたようだ。

 

「う、うう」

 

 顔を真っ赤にしてこちらを見てくる。やはり男からそういったことを聞くのは恥ずかしいようだ。……発情期とかあるのに。

 

「それで目的は?」

 

 俺は話題を帰るためにさくらがここに来た理由を聞く。さくらも話題が変わったことに少し落ち着いたのか、表情から羞恥の色が消えた。

 

「烏丸くんでいいかな?」

 

「名前でもかまわないですよ、綺堂さん」

 

 少し真面目になるために丁寧な口調へと変える。流石に元の世界のようにさくらなんて呼ぶわけにはいかない。

 

「拓斗くんね、私のことも名前でいいわよ。それで、私がここに来た理由なんだけどね」

 

 さくらの表情が真剣なものへと変わる。

 

「もともとはここで暮らすことになったっていう貴方を見に来たの。知っての通り、私達は普通の人間とは違う。そんなところにどこの誰かわからないような人間が現れたから、確認しに来たの」

 

「まあ当たり前だよな」

 

 さくらの言葉は予想通りではあった。忍も最初は警戒していたし、俺がどんな人間なのか彼女が見に来るのも納得できる。

 

「そして貴方の持ってきた技術や情報、あれによってかなりの利益を手に入れることができたから、そのお礼もね」

 

「あれって、俺は何もしてないんだけどな〜」

 

 忍にノーパソを渡して、後は忍が勝手にやったことだ。俺は何もしていない礼を言われるのは少し困る。それに忍からお金なども受け取っているので、これ以上は余計に心苦しい。

 

「最後に先日の事件の件ね、私の姪を助けてくれてありがとう、貴方のお陰で私の姪が傷つくこともなく、一般人も助けられたわ」

 

 さくらはそういって礼を言ってくるがこれに関しても俺はあまり役に立ってないように思う。勝手に突っ込んで怪我しただけだもんな〜。結局氷村を倒したのは恭也だし、忍の身を危険に晒した。

 

「でもいいのか? 俺達が氷村を殺したのに……」

 

 そう俺達はさくらの兄である氷村遊を殺した。

 

「いいの、遊はこれまで問題を犯しすぎた。これはその罰なのよ」

 

 さくらの表情は少し悲しげだ。あんな奴でも兄は兄、問題を犯す前に止められなかったことを悔やんでいるのかもしれない。

 

「純血種とかその辺りのことはいいのか?」

 

 少し疑問に思ったので聞いてみる。純血種というのはこういう一族にとって貴重な存在であるはずだ。氷村は忍やすずかと同じ純血種だった、あいつを殺したことで問題はないのだろうか?

 

「いくら純血種とはいえ、許されることではないでしょう?」

 

「それに氷村遊は一族の中でも異端にあったから……」

 

 俺の質問に二人が答えてくれる。その辺りのことは俺が関与できる問題ではないので二人に任せるしかない。

 

「じゃあ、失礼するわ。渡すのが遅れたけど、はい、お見舞いの品よ」

 

 さくらはそう言って袋を手渡してくれる。中に入っているのはお菓子のようだ。

 

「それじゃあ、またね拓斗くん」

 

「ああ、またなさくら」

 

 初めて彼女の名前を呼ぶ。彼女はそのことに少し驚いた表情を見せるがすぐに笑みに変えて部屋から出て行った。

 

「じゃあ、ゆっくり休んでね〜」

 

「ああ」

 

 忍も部屋から出て行く。こうして騒がしかった部屋の中に静けさが戻った。

 

 「そういえば耳と尻尾見せてもらってないな」

 

 ——できたら触ってみたかったな

 

 今日会うことでできた彼女のことを考えながら、俺はノーパソへと向き直った。

 

 

 

 

 

 

「それでどうだった、拓斗を見た感想は?」

 

 部屋から出た私に忍は問いかけてくる。

 

「なんていうか不思議だったわ」

 

 先ほどまで一緒にいた彼のことを思い出す。忍から聞いていたが元が大学生ということで、見た目が子供であるにも関わらず、相応の雰囲気を持っていなかった。あれなら、元が大学生と言われても少し納得できる。

 

「私としてはさくらのこと弱みを握れて大満足よ」

 

「私としては災難なんだけど」

 

 彼が私の昔のことを話したときは驚いた。今まで、忍にも話してない内容を聞かれ、あの時は本当に焦った。

 それに彼が私達が、そのエッチなゲームに出ていると言ったときには恥ずかしさで一杯だった。忍は気にしていないようだが、私は忍とは違って経験がないのでやはり男性にそういった風に思われているのは恥ずかしい。

 

 ——あれ? 私、姪に負けてる?

 

 恋人のいる姪と恋人ができたことがない私……間違いなく敗北していた。

 

 ——そういえば彼、もともと大学生なのよね

 

 自分と年はそう変わらないぐらいだろう。最後に自分の名前を呼び捨てにしてくれたことを思い出す。

 

 ——異性に名前で呼ばれるのって、遊以外であったかな〜?

 

 よくよく考えてみれば、遊以外に名前で呼ばれたこともないかもしれない。

 

 ——今度、会うときはこんな機会じゃないといいな

 

「さくら、なに笑ってるの?」

 

「ゴメン、少し楽しみになって……」

 

「楽しみ?」

 

 私の言葉に忍は不思議そうに聞き返してくる。でも、これは忍には言わない、だって……

 

 ——私が異性と話すのを楽しみにしてるなんて言ったらからかわれるもの

 

「そうね、これからのことよ」

 

 忍にはそう言って誤魔化しておいた。

 

 

 

 

 

「すずかちゃん、最近機嫌がいいね〜」

 

「うん、色々あって、今まで悩んでいたことが少し解決したの」

 

「すずか、なに悩んでたの?」

 

 いつもとは違う拓斗君がいない昼食で最近の私のことを不思議に思ったのか、なのはちゃん達が聞いてくる。

 

「それは……秘密っ」

 

 まだ、なのはちゃんやアリサちゃんに秘密を打ち明けるほどの勇気はない。でも拓斗君が受け入れてくれたことで、二人にも受け入れてもらえるかもって前向きに思うことができる。

 

「でも拓斗も災難よね〜。親に呼ばれて一度外国に行くことになるなんて」

 

 拓斗君は親に呼ばれて海外に行っているということになっていた。本当は怪我で動けないんだけど、本当のことを言うわけにはいかない。

 アリサちゃんはあの事件のときのことを覚えていなかった。だから拓斗君が怪我していることも知らない。

 

「そういえばお兄ちゃん達が拓斗君のこと聞いてきたな〜」

 

 なのはちゃんが思い出すように言ってくる。その表情は不思議そうだ。

 

「なのはのお兄さん達が?」

 

「うん、拓斗君はどんな子なんだ〜って」

 

 どうやら恭也さん達が拓斗君のことを気にしているらしい。

 

「そういえば恭也さんがうちに来たときに拓斗君と会ったからじゃないかな?」

 

 流石に本当のことはいえないのでなのはちゃん達に誤魔化すように言う。

 

「でも、お父さんやお姉ちゃんも気にしてたし……」

 

「へぇ〜、何かあったのかしら」

 

 なのはちゃんの言葉にアリサちゃんは不思議そうな声を上げる。

 

「お兄ちゃん達に聞いても答えてくれないの」

 

「まあ拓斗が帰ってきたらわかるわよ。あいつも向こうで暮らすってわけじゃないんでしょ?」

 

「うん、今回は両親に会いに行って、ついでに向こうで色々することがあるからって言ってたよ」

 

「短期留学でもないのに向こうにそんなに長くいるなんて気になるわね」

 

 アリサちゃんが疑ってくるが、それは拓斗君に全部任せよう。

 

 ——ゴメンね、拓斗君

 

 心の中で拓斗君に謝る。怪我が治ってから、間違いなくアリサちゃん達に問い詰められることだろう。

 

 ——早く拓斗君と一緒に学校に通いたいな〜

 

 私は一刻も早く拓斗君の怪我が治ることを祈りながら、お昼休みを過ごした


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