転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

14 / 75
13話目 彼女達の関係

 綺堂さくらと会ったあの日から数ヶ月が経った。

 

 俺の怪我は完治し、学校へ行くとクラスメイトからもみくちゃにされた。どうやら俺が一月も休んで海外へ行ったということで気になったようだ。

 

 作り話ではあるので、適当に言って誤魔化す。アリサには少々疑われたが、何とか誤魔化すことができた。

 

 怪我が治るまでの間、俺はずっとノーパソを使って情報を集めていた。クラスメイト達を騙すための情報もそうなのだが、最近調べていたのはロストロギアに関するものだ。

 

 ジュエルシード、闇の書、レリックなど原作に関わってくるものもそうだが、俺が元の世界に帰るために使えそうなものなどだ。

 俺はまだ元の世界に帰る事を諦めることはできていない。魔法、次元震、ロストロギア、アルハザード……様々な面から可能性を調べていたが、ノーパソから集められる情報には存在しなかった。ノーパソから調べられることは俺が知っている限りでは、この世界でのことだけだった。俺のいた世界に干渉する術に関した情報など存在していないのは当然なのだろう。

 

 それでも…と一縷の望みをかけて調べた。もともとあのノーパソは俺と一緒にこの世界に来たものだ。何かしらの手がかりがあるかもしれないと諦めきれなかった。

 

 ——結局、何の手がかりも見つからなかったけどな……

 

 帰る術が見つからないことに心が折れそうになる。諦めてこの世界で一生暮らしていくことも考えるようになってきた。

 

 俺は他にも自分以外の転生者についての情報も集めた。ここに来る直前のことを考えると、俺のほかにも転生者がいることが考えられたからだ。

 

 №099、そして転送先という言葉。俺のナンバーは99、つまり俺の前にはそれまでの98人が存在しているを推測できる。転送先というのも一箇所だけではないことはわかるが、全部違う場所とは考え難い。

 

 もしも俺の前にこの世界へと来ている人間がいるなら、俺はその人に会いたい。

 

 情報を共有したいし、これからどうするつもりなのかを知りたかった。俺達はもうすぐ三年生に進級する。原作が始まるのもすぐだ。

 

 しかし、自分以外の転生者がいるかどうかも最近では怪しくなってきた。その理由だが、俺に接触してこないことだ。なのはやすずか、アリサの三人と交流していれば、少なくとも近くにいれば接触ぐらいはしてくるだろうと思っていたが、そんな気配は今のところない。

 

 しかも俺の場合、ノーパソを使って、忍に情報提供を行い、地球の技術水準を上げたりもしている。テレビで報道されたぐらいのものなので、同じ転生者であれば感づくと思ったのだ。……忍に情報を渡したのは信用してもらうこととこれが理由だ。

 とはいえ、これは転生者が原作の知識を持っているという前提での話しなので、持ってない人間はスルーすることもあるだろう。

 

 

 そしてもう一つの理由が、今度は逆にノーパソを使って何かがされている様子がないということだ。俺のように技術の提供をしたり、他の行動として不正を暴いたりなど、何かしら大きな行動をとった様子がない。正確に言うと時空管理局で有名になったり、技術で新しい発見などをした人はいるのだが、それが転生者なのかということはわからなかった。

 なぜなら、そのどれもが実際努力すれば実現できそうなものであったりするので、怪しいとは思っても断言できるほどのものではなかった。

 ノーパソを利用して何かしら功績をあげたりするんじゃないかと思ったが、これも結局空振りに終わる。

 

 他に行っていたことがあるとすれば、高町家の面々との修行だろう。衝動や感情をコントロールするために高町家の面々に色々と教えてもらったり、精神統一や戦闘訓練などをしている。しかし、効果は今だ出ていない。まあ数ヶ月で精神がコントロールできるようになるわけがないんだが……。

 

 恭也、士郎さん、美由希の三人には魔法のことを話した。流石にあのときの俺の動きや、氷村の状況を見られては誤魔化せるものではなかったからだ。

 そして俺は彼らになのはが魔力を持っていることを伝えた。ジュエルシードが落ちてくれば、なのはは魔法に関わることになるだろう。というより関わらせるつもりだった。

 原作では彼女は管理局で働くことを決めている。それは色々考えた上での選択なのだから、それを邪魔する必要はないだろう。

 

 それを聞いて士郎さん達は最初は戸惑っていたが、すぐに落ち着いたものとなった。魔力があるとはいえ、何か危険があるわけではないと説明したからだ。

 少しすれば、ジュエルシードが落ちてきて巻き込まれることになるのだが、それを言うわけにはいかない。流石になぜそんなことをわかるかという説明をするのがめんどくさいからだ。

 

 それで俺は士郎さん達に頼まれ、なのはに魔法を教えることになった。彼らにとっては護身術を学ばせるような気持ちだったのだろう。一応、覚えておいて損はないものだと思ってくれたようだ。

 

 そしてこのことは桃子さんにも話され、お願いされた。肝心のなのはであるが、最初、魔法のことを聞いたとき戸惑っていた。まぁ、いきなり魔法が使えますなどと言われれば戸惑うのも無理がない。

 

 説明するために彼女に魔法を見せると、今度は興味を持ったのか次々に質問してきた。俺は魔法のことや自分のことなどを彼女に話した。それは、すずかに話したのと同じ内容だ。最後までは話していない。

 

 なのはに魔法を教えると彼女はまるでスポンジが水を吸収するかのように魔法を習得していった。デバイスがないため、高度なものは使えないが、誘導弾やシールドなどはかなり上手く扱えたりする。

 

 そんな理由もあり、なのはと二人で話したりする機会が増えた。これに戸惑ったのはアリサだ。

 

 あの事件以来、俺とすずかの関係が深まり、なのはとも魔法のことで仲良くなった。その中で彼女が一人だけ、取り残されることになったのだ。

 

 四人の関係が変わってきて、自分だけ取り残された彼女はその原因となった俺を問い詰めてきた。今まで、変わることがなかった三人の関係が俺が来たことで崩れたのだ。アリサはそれが寂しく、辛かったようだ。

 

 結局、アリサにも事情を説明することになった。これで三人全員に魔法のことがバレてしまったことになる。

 

 こういった感じでこの数ヶ月は過ぎていった。

 

 

 

 

 

「なのは、魔法を覚えてみない?」

 

「え?」

 

 私は拓斗君の言った言葉の意味を理解できずに問い返した。休みの日、お父さん達に連れられ向かった先はお友達であるすずかちゃんの家だった。

 なんでお父さんがすずかちゃんの家に連れていくのかは理解できなかったが、中に入り、広いお庭へと案内されるとそこには、拓斗君がいていきなりそんなことを言ってきたのだ。

 

「まぁ、いきなり言っても普通はわからないだろうから見せるけど、こういう力を使ってみたくないか?」

 

 拓斗君はそう言うと、空に浮かび上がった。私は目の前で起こったことに混乱する。

 

「まっ、魔法ってなに? 何で拓斗君が空飛んでるのっ?」

 

「魔法は魔法だよ。ゲームとかアニメのアレのこと」

 

 拓斗君はさらに周囲に薄い青色の球体をいくつも飛ばす。そして、それが弾けると周囲に光が雪のように降り注いだ。その不思議な光景に私は魔法という存在を認識する。ホントに魔法ってあったんだ……。

 

「俺は内緒にしてたけど、魔法使いなんだ。そして、なのはにもその才能があるから聞いてみたの」

 

「私に、魔法の才能が?」

 

「うん、それもかなり凄い魔法の才能がある」

 

 拓斗君は私に魔法の才能があると言い切ってくれる。それは嬉しいんだけど、私には少し気になったことがあった。

 

「お兄ちゃんたちは魔法は使えないの?」

 

「残念だけど使えない。恭也さん達は魔力を持ってないからね」

 

「すずかちゃんは?」

 

「すずかもだよ。俺達の中で魔力を持っているのは俺となのはだけだ」

 

 拓斗君の言葉に少し複雑な気分になる。魔法を使えるのが嬉しい反面、すずかちゃんやアリサちゃんが魔法を使えないのは残念だった。

 

「魔法が使えるとどうなるの?」

 

「まぁ、色々便利かな。何かあったとき便利だし、使えて損はないと思うよ」

 

「なら、私に魔法を教えてほしいの」

 

 私は拓斗君にお願いする。魔法を使ってみたいっていう気持ちもあるし、こんな私でも取り柄があるんだと思うと私には魔法が必要な気がした。

 

「うん、わかった」

 

 拓斗君が了承してくれ、私は拓斗君から魔法を教わることになった。

 

 これが私が魔法を覚えることになったきっかけ。

 

 魔法を教わることになった後、拓斗君から自分が地球出身じゃないって言われた時にはびっくりしたけど、魔法があるなら他の世界があっても不思議じゃないよねって納得する。

 

 それからというもの、私の生活は魔法で一杯となった。拓斗君から教わった魔法を家でも毎日練習したり、拓斗君から渡してもらった魔法の本などを一日中眺めたりしていた。

 

 拓斗君からはあまりやりすぎるなと言われたけど、私は魔法を覚えることが、使うことが楽しくて仕方なかった。……結局、家族からも止められ、魔法の練習時間は拓斗君との練習を除いて一日に一時間だけと決められてしまったのでかなり落ち込むことになってしまった。

 

 それでは満足できなかったので学校でも拓斗君に色々聞いてみたり、授業中も魔法のことばかり考える。

 

 私の生活に魔法は欠かせないものとなっていった。

 

 

 

 

 

「最近なのはやすずかとなにしてるのよ?」

 

 私は拓斗に問い詰めた。

 

「アンタが帰ってきてから、すずかとアンタの関係が変わり過ぎてるのよ。あんな表情のすずか、私も見たことないわよ」

 

 拓斗が外国から帰ってきてからというもの、すずかと拓斗の雰囲気が違っていた。すずかの表情が明るくなり、いつも拓斗と一緒にいるようになったのだ。

 すずかの様子がおかしくなったのは私達が誘拐事件に遭って数日が経過した後、拓斗が休むようになって数日が経った時からだ。

 

 あんなことがあったにもかかわらず、すずかは嬉しそうな表情を浮かべていた。……私はまだあの事件のことが忘れられず、恐怖が残っていたのにだ。

 それは拓斗が学校に来るようになってから余計に酷くなった。いつも拓斗のそばにすずかはいるようになり、離れようとしない。そして、私達が今まで見たこともないような笑顔で拓斗と話していた。

 

「なのはも、毎日アンタと楽しそうに話してるし……」

 

 そしてその数日後、今度はなのはが拓斗と良く話すようになっていた。なのはは楽しそうに拓斗と話していた。その表情は本当に楽しそうで、何かに夢中になっているような、そんな表情だ。

 話の内容を私が聞いても秘密にするし、私は仲間はずれにされた気分になる。

 

「何でそんな急に仲良くなったのよ? 二人に聞いてもはぐらかされるだけだし」

 

 すずかとなのはが拓斗と良く話すようになってから、私は一人疎外感を感じていた。すずかもなのはも拓斗とよく話すようになって、どんどん仲良くなっていっているのに私だけ一人取り残されている。

 

 それが私は嫌だった。なにより大切な友達である二人を取られた気になった。すずかとなのはは一年生の頃、まだ、不器用で人付き合いも上手くなかった私にできた大事な親友だ。

 

 拓斗が現れて、私達三人の関係が変わって本当に怖くなった。もしかしたら、二人が私から遠ざかるかもしれない、友達だって言ってもらえなくなるかも知れない。それが本当に怖かった。

 

「それは秘密なんだ」

 

 拓斗はそう言ってくる。その反応はなのはもすずかも同じだった。

 

「どうして?」

 

「事情があるんだよ」

 

「どうしても言えないことなの?」

 

「ああ」

 

 拓斗はそう言うが私も引き下がるわけにはいかない。今のままの関係は嫌なのでどうしてもその秘密が知りたかった。

 

「ゴメンなアリサ」

 

「謝るくらいなら教えなさいよっ!!」

 

 謝ってくる拓斗に今まで溜め込んでいたものが爆発し、拓斗の胸倉をつかんで思いっきり怒鳴ってしまう。

 

「どうして私には教えてくれないのっ? なんで私だけ仲間はずれなのっ? 私にも教えなさいよ……私にも、教えてよぅ」

 

 最後は彼に対する懇願だった。拓斗を問い詰めていくうちに目から涙が溢れ出す。胸倉をつかんだ手に雫が零れ落ちる。

 一人になるのは嫌だった。秘密にされるのは辛かった。二人が自分から離れていくみたいで怖かった。その感情が溢れ出す。

 

「わかった、言うよ……」

 

 私の言葉に拓斗は降参したかのように今まで秘密にしていた内容を話してくれる。

 まずはなのはのことだ。拓斗は自分が魔法使いでなのはに魔法を教えているのだと言う。その言葉に私は魔法なんてあるわけないじゃないっと怒鳴ろうとするが、彼が私と一緒に空へと飛び上がり、その機会を失ってしまう。

 下を見ると自分達が今までいた場所が見え、空を飛んでいるのが嘘ではないことがわかる。拓斗は他にも魔法を見せてくれた。火を出したり、氷を出したりとそれは間違いなく普通では起こりえない魔法といわれるものだった。

 拓斗が説明するには私達の中でなのはだけ魔法が使えることができ、なのはの家族にも頼まれて魔法を教えることになったのだと言う。

 

 そしてすずかだ。あの誘拐事件のとき、拓斗は私達を助けるためにあの場所に来ていたと説明してくれる。嘘かと思ったが、あの魔法を見てしまってはそのことを否定することができなかった。彼ならできるかもしれないと感じたからだ。

 それで私達を助ける際、犯人の一人と戦って重症を負い、それで学校を休んでいたようだ。あの不自然な休みはそれが本当の理由だと言う。これには納得することができた。あの休みのことも疑問に思っていたが、理由がわかれば、彼には感謝するしかない。自分を助けてくれたのだから……

 すずかはその時起きていたので、拓斗が助けに来てくれたのを知っていて、だから態度が変わったらしい。

 

「どうして、言ってくれなかったの?」

 

「魔法のことはあまり人に言ってはいけないことなんだ。それにあの事件のことはアリサも思い出したくないだろう」

 

 拓斗はあの事件のことを話せば、魔法のことも教えなければいけなくなるからと話すのを躊躇ったらしい、なのはやすずかも拓斗にお願いされて秘密にしていたようだ。

 

「でも言ってほしかった、教えてほしかったの。私一人だけ仲間はずれにされるのは嫌なの」

 

「ゴメン」

 

「ううん、言ってくれてありがとう」

 

 私は拓斗にお礼を言う。これで拓斗のことを知ることができた。すずかやなのはとも普通に話すことができる。元の隠し事をしない関係に戻れることが嬉しかった。

 

 

 

 

 

 私は今、なのはちゃんが拓斗君に魔法を教わっているのを見ていた。拓斗君がなのはちゃんに魔法を見せ、なのはちゃんがそれを再現する。私にはそれが羨ましかった。

 

 ——拓斗君の秘密を知ってたのは私だけだったのに

 

 私となのはちゃん、アリサちゃんの中で拓斗君が魔法使いであるということを知っていたのは私だけだった。

 

 ——お互いの秘密を知ってたのに

 

 私と拓斗君だけの秘密。それはお互いの正体に関わることだった。私は夜の一族という吸血鬼の一族で、拓斗君が魔法使いで、その秘密を共有できているのが嬉しかった。しかし、それもなのはちゃんが拓斗君に魔法を教わるようになってから崩れてしまう。

 

 なのはちゃんが拓斗君が魔法使いだってことを知って、この間はアリサちゃんが知った。今まで私だけが知ってたことが、二人にも知られてしまい、これで秘密を持つのが私一人になってしまった。

 拓斗君が来る前と同じ、私だけが秘密にしている状況。いくら拓斗君が私のことを知ってくれていても、それでも私だけ隠し事をしているのは辛い。

 

 ——どうしてなのはちゃんなのかな?

 

 なのはちゃんが魔法を使えることが羨ましい。拓斗君の隣でああやって魔法を使えることが羨ましかった。二人がまだ魔法のことを知らなかった頃、拓斗君に一番近い場所にいたのは私だ。でも今は違う。アリサちゃんもなのはちゃんも拓斗君の秘密を知ってしまった。いくら、私の秘密を拓斗君が知っていようと関係ない。だって、それは彼が私との距離を縮める理由じゃなく、私が彼との距離を縮める理由だから……

 

 私は拓斗君に依存していた。初めて自分の秘密を知った友達で、自分のことを受け入れてくれた人だからだ。彼のそばにいたい。彼がそばにいてほしい。そんな気持ちばかり強くなる。

 

 今、拓斗君に一番近いところにいるのはなのはちゃんだ。魔法が使えて、拓斗君のことが一番理解できるから……

 

 ——私にも魔法がつかえたらいいのに……

 

 魔法の練習をしている拓斗君となのはちゃんを見ながら、私はそんなことを思った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。