転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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14話目 開幕

 深夜、俺は忍と二人で今後のことについて話し合っていた。

 

「それでジュエルシードはどうするつもりなの?」

 

「集めるよ。暴走すると危険だし被害も出るだろう。それにジュエルシード自体にも興味があるからな」

 

 俺はジュエルシードを集める意思があることを忍に伝える。暴走体による被害を防ぐことはもちろんだが、本当の理由は後者にあった。

 

 ——願いを叶えるロストロギア。可能性は低いけど、ゼロじゃない

 

 ジュエルシードには願望を実現する力がある。それは俺が元の世界へと帰還する方法の中で唯一可能性があるものであった。

 ただ、その可能性はかなり低い。まず、ジュエルシードをどれほど集める必要があるのかわからない。その上、集められたところで本当に帰還できるのかがわからないのだ。

 その他にも集める上での障害も多数存在している。フェイト・テスタロッサ、彼女は自分の母親のためにジュエルシードを集めるだろう。彼女にはアルフという使い魔もいるため、かなり厄介な存在だ。母親であるプレシア・テスタロッサも自らの願いを叶えるためにこちらに容赦などしてこないだろう。

 そして時空管理局、クロノ・ハラオウンという単体でも現段階で最強の存在がありながら、組織としての戦力も保有、さらにはリンディ・ハラオウンという奥の手まで存在していた。それに俺は管理外世界への違法渡航、現地住民への魔法の漏洩、管理世界の技術漏洩などかなりの違法を行っているのだ。この上、ジュエルシードを集めて使用すれば、その罪はもっと重くなる。

 最後にユーノ・スクライアだ。彼がなのはと接触するかどうかはわからないが、彼が俺の目的を知ったとすれば、まず間違いなく止めてくるだろう。それほどジュエルシードは危険なものなのだ。

 

「私も興味あるわ。願望を叶えるもの、それに魔力の結晶体なんでしょ。色々調べてみたいわね」

 

 忍はノーパソでジュエルシードのデータを眺める。その表情はどこか楽しげだ。

 

「まあ集めるのに苦労しそうだけどな」

 

「ノエルやファリンにも探させるし、恭也達にも助けてもらうわよ、いざとなったらこれもあるしね」

 

 忍はそう言って、長い棒状のものを持ち上げる。先には大きな飾りがついていることから、棒ではなく杖だろう。

 

「完成したんだ?」

 

「ええ、まだ試作機で出力も低いし、使用回数の制限もあるけどね」

 

 忍が持っているのは忍が俺の渡したデータをもとに一族の技術を結集して作り上げた簡易デバイスだった。カートリッジシステムで魔力を持ってきて魔法を使用することができるため、使用者に魔力の有無は関係ない。ただし、使用できる魔法が三種類しかないことやカートリッジ搭載分しか使用できないこと、連続使用が不可能なこともあり、普通の魔導師の方が遥かに強かったりする。

 

「これ造るのに相当なお金もかかってるしね。まあ、技術研究なんかの成果はあったから、無駄ではないんだけど」

 

「ちなみにそれ造るのにどれだけ金使ったんだ?」

 

 俺は興味が湧いたので聞いてみる。魔法技術もないこの世界ではデバイスを造るのに相当苦労したはずだ。研究設備だけではない、製造工程、実験など相当なお金が使われたことは簡単に予想がつく。

 

「二億円ぐらいかな。まぁ、個人的に造ったものだし、企業として開発したわけじゃないから」

 

「二億って……」

 

 予想はしていたが忍の言葉に唖然としてしまう。個人で使うようなお金じゃない。ミッドでデバイスを購入すればこの何百分の一ぐらいには抑えられるだろう。まあ、そういうわけにもいかないため仕方ないと言えば仕方ないのだが……。

 

 忍が自作したデバイスの金額に驚いていたその時であった。ノーパソから電子音が流れる。

 

「電子音? どうして?」

 

 今まで一度も起こったことがないことに驚く。こんなことは一度もなかった。

 

「忍、どいて」

 

 忍を押しのけてノーパソの画面へと目を向ける。するとそこにはこんな表示がされていた。

 

 メッセージ一件

 

 俺は恐る恐るとそのメッセージを開く。今までなかった事態に手が震えてしまう。メッセージを開くとそこには短い言葉でこう書かれていた。

 

 魔法少女リリカルなのは、スタート

 

 メッセージを見て、その意味を理解した瞬間にそれは起きた。

 

『助けて…』

 

 頭の中に念話が響く。

 

『僕の声が聞こえている人、助けてください』

 

「忍っ!!」

 

「な、なに?」

 

 俺が忍に呼びかけると彼女は戸惑ったように返す。俺は忍に先ほどのメッセージを見せて、今の状況を説明しようとすると部屋の中にノエルとファリンが入ってきた。

 

「お嬢様っ」

 

「忍お嬢様〜」

 

「ノエル? ファリンも……」

 

 どうやら先ほどの念話は二人にも聞こえていたようだ。二人が部屋に入ってきたことに忍は気を取られるが、俺にはそんな余裕がない。

 

「忍、先に説明するぞ。ジュエルシードが落ちてきた」

 

 俺は忍に簡単に説明する。

 

「わかったわ。じゃあ、ノエルとファリンは拓斗一緒にジュエルシードの探索を」

 

「この家の敷地内にジュエルシードが落ちているはずだ。まずはそれを見つけよう」

 

 俺は原作のことを思い出し、二人に月村邸の敷地を探すように指示を出す。他のジュエルシードが落ちている場所は海の奴以外ではっきりと覚えているのはここだけだ。

 

「かしこまりました」

 

「わかりました」

 

 二人はそう言ってすぐに探索するために部屋を出る。

 

「拓斗、私はどうすればいい?」

 

「ここで俺達に指示を出してくれ、俺達の報告を元にマップを作って、作業の効率化を頼む」

 

「わかったわ」

 

 忍に指示を出し、俺もすぐに外へと出た。できるだけ早く、そして多くのジュエルシードを確保したい。

 

 サーチャーを使って月村邸だけではなく海鳴市全体にジュエルシードの反応がないかを確かめる。がやはり活性化していない状態のジュエルシードを見つけるのは難しい。

 

 ——できるだけ早く、見つけないと……

 

 先ほどのメッセージのことなど気になることはたくさんあるのだが、それ以上に俺はジュエルシードの収集に焦りを感じていた。

 被害が出る出ないとかの問題ではなく、妨害が始まる前に集めたいのだ。今、一番早く行動をできているのは間違いなく俺達だ。ユーノは行動不能、フェイトや管理局の到着もまだだ。すなわち、今がもっとも多くジュエルシードを確保できるチャンスなのである。

 

『拓斗さん、ノエルです。ジュエルシードを発見しました』

 

 ノエルから念話で連絡が入る。おそらく忍にも連絡がいっていることだろう。

 

『わかった』

 

 ノエルの位置を確認し、そちらへと急ぐ。ノエルの元へとたどり着くとジュエルシードは封印処理され、ノエルの手の中にあった。

 

「ノエル、大丈夫だったか?」

 

「はい、そちらの方に落ちていましたので封印をさせていただきましたが、それ以外は何も」

 

 ノエルからジュエルシードを受け取り、それをデバイスへと格納する。これで一個目、残りはまだ二十個あり、先はまだまだ長い。サーチャーをもう一度ばら撒き、探索を続ける。今日はできる限り探索を続けるつもりだった。

 

「……見つけたっ!!」

 

 サーチャーが魔力反応を捕らえる、サーチャーから映し出された映像には動物に取り付いたのか、黒い獣となった暴走体がいた。

 

「ノエル、ジュエルシードを見つけた。忍に言っておいてくれ!!」

 

「でしたらファリンをお連れください。一人で行動するのは危険です」

 

 ノエルが俺とは別の方向に目を向けるとファリンが駆け寄ってくる。

 

「わかった。ノエルは忍の護衛をお願い、ファリンっ急ぐよ」

 

「え? え、ちょ、ちょっと拓斗君っ!?」

 

 ノエルに報告と忍の護衛を任せ、俺はファリンを抱えると空へと舞い上がり、先ほど見つけた暴走体へと急ぐ。

 

「あの〜拓斗君?」

 

「ああ、悪い。ジュエルシードを見つけたんだ、ファリンも手伝ってくれ」

 

 いきなり俺に抱えられ空を飛んでいることに戸惑っているファリンに事情を説明する。

 

「それはいいんですけど、この体勢はどうにかなりませんか? 落ちそうで怖いんですけど…」

 

 ファリンは俺に抱えられているのだが、子供の俺と彼女では体格が全く違うため、俺は彼女の背中からお腹に腕をまわして何とか抱えている状態だ。クレーンゲームのように持ち上げられている彼女にとって、今の体勢は少し辛いものがあるらしい。しかし、子供の身体ではこの体勢が一番安定しているのも事実である。

 

「うう〜、怖いです〜」

 

 地面を見ながら恐怖で震えているファリンを見て、本当に自動人形なのかと思いつつ、俺はとある魔法を使うことにした。

 

「カートリッジロード」

 

 カートリッジをロードし、インストールされてある魔法を使う。すると俺の身体が大きくなり、元の大学生だった頃の俺の姿へと戻った。そしてファリンを抱えなおし、お姫様抱っこの体勢になる。

 

「あれ? 拓斗君?」

 

「そうだよ、魔法で一時的に大人の姿になっているだけ」

 

 姿の変わった俺に戸惑った様子のファリンに説明する。この魔法は以前、さくらと会う前にインストールした魔法だ。子供の身体にちょっと不便を感じていたので、ヴィヴィオの大人モードを思い出して、インストールしてみたのだ。

 身体が成長した状態になるのだが、カートリッジを全て使っても最長で二時間ぐらいしか大人の姿を保つことはできない。ただ、それでも十分でたまにこの姿で街を出歩いたりすることもあった。

 

「ふぇ〜」

 

 俺の大人の姿にファリンは驚いてなにやら変な声を上げる。

 

「まあ、この姿を見せたのはファリンが初めてなんだけどね」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ」

 

 忍とノエルにこの姿を見せたことはない。二人は俺が大学生だと知っているため、見せようと思ってはいたのだが、なぜか機会に恵まれなかった。

 

「ファリン、そろそろ到着するよ。準備はいいか?」

 

「はっ、はい」

 

 俺の言葉でファリンは意識を切り替える。ちょうど俺達の進む先にジュエルシードの暴走体が確認できた。

 

「結界を張る。ファリンはフォローを」

 

「はい」

 

 俺の言葉にファリンは暴走体へと向き直り、警戒を強める。その間に俺は結界を張った。ちょうど開けた場所なので戦いやすい。

 暴走体は俺達の存在に気づくと、一直線に突っ込んできた。

 

「プロテクション」

 

 目の前にプロテクションを張り、暴走体の突進を止める。

 

「ファリンッ!!」

 

「わかりました、フラッシュブローッ!!」

 

 俺が暴走体を止めている隙にファリンが魔法を使って殴りつける。殴りつけられた暴走体はかなりの勢いで吹っ飛ばされると地面にバウンドした。

 

「シュート」

 

 追撃をかけるためにデバイスと暴走体へと向けトリガーを引く。すると暴走体の下に魔方陣が展開され、そこからチェーンが現れ暴走体を縛り付けた。

 

「ジュエルシード、封印」

 

 拘束した暴走体に向けてもう一度トリガーを引く。すると、暴走体からジュエルシードとおそらくは発動させたであろう黒猫が現れた。

 俺はジュエルシードをデバイスの中へと格納するとその黒猫に近づく。デバイスを使って黒猫の状態を調べると弱っているが命に別状はないようだ。

 

「フィジカルヒール」

 

 黒猫を抱きかかえて治癒魔法をかける。黒猫は俺の手の中で眠ったまま動かない。

 

「拓斗君」

 

「コイツ、連れて帰ってもいいかな?」

 

「首輪もついてないみたいですし、野良だと思いますから大丈夫ですよ。お嬢様も怒ったりはしませんよ」

 

 そう言ってファリンは子猫の頭を撫でる。

 

「戻りましょう、この子の手当てもしないといけませんし」

 

「そうだね」

 

 俺達は子猫を連れて月村邸へと戻る。帰りもファリンをお姫様抱っこして、空を飛んで帰った。大人の姿のままだったせいで帰ったときに忍やノエルに驚かれたのだが、魔法のことを説明するとすぐに納得してくれた。その時、忍が口を滑らせたのでファリンに俺がもともと大学生であることがばれてしまったのだがファリンはすんなりと受け入れてくれる。

 ちなみに連れて帰った黒猫はまんまクロと名づけられ月村邸で飼われることとなった。

 

 今のタイミングでメッセージが送られてきたことやどこからメッセージが送られてきたのか、気になることはたくさんある。

 メッセージが送られてきて、物語は始まりを告げた。俺はこれからどうなるのだろう。そんなことを考えながら、俺は明日からのジュエルシード探索に備えて眠った。


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