転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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16話目 思惑

 いきなり涙を流しだしたなのはを宥めると俺たちは時計を見る。するともう既に塾の始まる時間は過ぎていた。

 

「今日はもう帰りましょ、塾はもう始まっちゃってるし、それに受けられるような気分でもないわよ」

 

「そうだね、そうしようか」

 

 アリサの提案を聞き、俺は賛成する。塾まで送るのもそうだが、先ほどの戦闘でかなり消耗している。ダメージも結構受けているため、今日の探索はこれ以上できそうになかった。

 

「じゃあ、私は鮫島を呼ぶから、アンタ達もそれに乗って帰るわよ」

 

「俺も忍さんに電話して、報告しておくよ。後、なのはちゃんやコイツのことも士郎さんに言わなきゃいけないし」

 

 そう言って、ユーノを拾い上げる。あんなに激しい戦闘があったにもかかわらず、起き上がる気配すら見せないコイツにイラッとするが、まあ行動不能状態なので仕方ないのだが……。

 忍が用意してくれた携帯を取り出し、忍に連絡を取る。Iphoneでもいいのだが、忍がこの世界にいるのだから、こちらの世界に合わせろとしつこく言ってきたので、基本的にIphoneはノーパソ代わりにしか使っていない。

 

「はい、もしもし」

 

 電話に出てきたのはノエルだ。俺はノエルにジュエルシードを二個見つけたこと、それが暴走体で戦闘になったこと、昨日の念話の相手を発見したこと、なのはがその相手の持つデバイスと契約したことなどを伝えた。

 

「かしこまりました、お嬢様に伝えておきます」

 

 ノエルの言葉を聞き、電話を切る。俺たちはその間にユーノをどうするか話し合う。

 

「私の家は無理よ、犬がいるし」

 

「私の家は喫茶店だから、ペットはちょっと」

 

「私の家も猫がたくさんいるから、危ないと思うよ」

 

 それぞれに理由があって、ユーノを誰が連れて帰るのか決まらない。

 

「すずか、とりあえずコイツには色々聞きたいことがあるから連れて帰ろう。まあ、猫から守ってあげればいいだけだから、何とかなるでしょ」

 

 俺はすずかを説得する。ユーノには聞きたいことがあるし、俺のことも説明しておかないといけない。それに忍が間違いなく説明などを要求するはずだ。

 

「うん、拓斗君がそう言うなら」

 

 すずかは俺の説得で納得してくれる。そうこうしている内にアリサの家の執事である鮫島さんが迎えに来てくれた。

 

「アリサお嬢様、お迎えに参りました」

 

「ありがとう鮫島、さあ皆も乗って」

 

 アリサに促され、鮫島さんが用意してくれたリムジンへと乗る。アリサの送り迎えのときに何度か乗ることはあったのだが、何度乗ってもその豪華さに慣れることがない。

 

「お嬢様、塾を休んでということは何かございましたか?」

 

「ええ、拓斗、鮫島にも説明してあげて」

 

「わかったよ」

 

 アリサが鮫島さんへの説明を俺に任せる。鮫島さんは既に魔法のことについて知っていた。アリサに俺のことをバラした後、あの誘拐事件の説明として、俺達がアリサの両親達に説明したときに知ったのだ。あの誘拐事件は当初は高町家と月村家で何とかしたということになっていたのだが、アリサの両親にはそこに俺が混ざっていたことも知られていた。そして、俺の怪我のことも……。

 最初に説明されたとき、俺のことを忍達が隠していたことから、何かあると思っていたようだが詮索しないでいたくれたらしい。その後、アリサの両親からお礼を言われたが、むしろ気を遣って聞かないでいてくれたことにこちらが感謝をした。

 

「鮫島、家の者達を使って拓斗達を手伝ってあげて」

 

「かしこまりましたアリサお嬢様。私どもでもそのジュエルシードとやらと探索しましょう。発見したら即座にそちらへ連絡します」

 

「ありがとうございます鮫島さん」

 

 アリサの言葉で鮫島さん達がジュエルシードの探索に協力してくれることになる。正直、人手が増えるのはありがたい。

 

「高町様、到着しました」

 

 ジュエルシードについて鮫島さんに伝えていると車は高町家の前へと到着する。

 

「ありがとうございました、鮫島さん」

 

「いえ、これが私どもの仕事ですから」

 

「なのは」

 

 車を降り、鮫島さんにお礼を言うなのはに声をかける。

 

「今日のことは必ず士郎さん達に伝えて」

 

「わかった、ちゃんとお父さんたちに話すよ。それじゃ、アリサちゃん、すずかちゃん、拓斗君、また明日」

 

 なのはは車が出てからも、見えなくなるまで手を振り続ける。それに俺達も返すと車は月村邸へと向かう。

 

「なのはちゃんが泣いたとこ初めて見たね」

 

「うん、あの子、自分の弱いとこ誰にも見せないから」

 

 なのはがいなくなったため、車内でなのはのことが話題になる。

 

「二人でも見たことないんだ?」

 

「うん、よっぽど嬉しかったんだろうね、なのはちゃん」

 

「なのは、ずっと悩んでたみたいだから、自分に何ができるのかって、自分は何もできないんじゃないかって」

 

 すずかとアリサの言葉に俺はなのはの過去を思い出す。士郎さんが怪我で入院して、家族が忙しくなって、一人寂しい思いをすることも多かったはずだ。

 

 ——しかし、子供の考えることじゃないだろうに

 

 士郎さんが入院した時、なのははまだ幼かったはずだ。何かをできるような年齢でもなかっただろう。何もできないのが当たり前の年齢で、何かをしたいと思ってて、それを今でも引きずっている。

 

「でも、なのはは拓斗から魔法を教わるようになって変わったわよ」

 

「うん、悩んだりしてるとこを最近は見なくなった」

 

 二人はなのはが魔法に関わるようになってから変わったと教えてくれる。それは俺も短い付き合いではあるが気づいていた。

 俺から魔法を教わるようになって、なのはは魔法にのめり込むようになった。そのときの表情はとても嬉しそうで、魔法を覚えていくたびに、新しい魔法ができていくたびに、本当に喜んでいた。その姿は俺には魔法にすがり付いているように見えた。まるで、自分にはそれしかないと、それ以外にできることはないんだと言わんばかりに……。

 

「でも今は魔法のことばかりだから、少し不安かな」

 

「そうね、良くも悪くも一つのことに囚われすぎちゃうから」

 

「その辺りは俺達がうまくフォローしてあげればいいさ」

 

 それが俺達、友人の役目だ。もし彼女が道を間違えそうになったら止めてあげればいい、悩みがあるなら聞いてあげればいい、困ったときには手を差し伸べればいい、ただそれだけのことだ。

 

「月村様、烏丸様、到着致しました」

 

「ありがとうございます鮫島さん」

 

「ありがとうございます」

 

 鮫島さんにお礼を言って、俺とすずかは車から降りる。

 

「アリサ、じゃあ、また明日」

 

「アリサちゃん、また明日」

 

「うん、じゃあね二人とも」

 

 アリサに挨拶をすると車は発進する。車が見えなくなるまで、俺達は車を見送り、そして車が見えなくなると屋敷へと戻った。

 

「お帰りなさいませ、すずかお嬢様、拓斗さん」

 

「ただいまノエル」

 

「ノエル、ただいま」

 

 屋敷へ戻るとノエルが出迎えてくれた。俺はすぐに荷物を部屋に置くと、忍のところへと急ぐ。

 

「忍入るよ」

 

 忍は自分の部屋ではなく、研究室の方にいた。自分の趣味を存分に発揮するために彼女が作った部屋だ。

 

「ん、あっ、拓斗〜」

 

 忍は俺が入ってきたことに気づき、作業を中断して、こちらへと向き直る。

 

「ノエルから聞いたわよ、ジュエルシードを二つ封印したって」

 

「ああ、これで四つ目だ」

 

 デバイスに格納した今日確保したジュエルシードを取り出し、宙に浮かばせる。なのはが封印した奴も受け取っていた。

 

「それでなのはちゃんに助けられたみたいだけど」

 

 忍はニヤニヤとこちらを見てくる。年下の女の子に助けられた気分でも聞きたいのだろう。

 

「ああ、今回はなのはがいないとやばかった」

 

 素直になのはに助けられたことを認める。アリサやすずかがいて、そちらを気にしながら戦ったとはいえ、二対一であそこまで追い込まれることになるとは思わなかった。

 

 ——もっと強くならないとな

 

 これから起こることを考え、もっと自分に力が欲しいと考える。しかし、俺は気づかなかった。もし、俺がジュエルシードで帰れることを信じているなら、先のことなんて考える必要もないことに、もう既に俺がこの世界での生活になじんでしまっていることに、俺は全く気づかない。

 

「それでその子が?」

 

 忍は俺の手の中にいたユーノを指差しながら聞いてくる。

 

「ああ、コイツは魔導師で今回の事件の主要人物だ」

 

「へぇ〜、ちょっと変わったフェレットにしか見えないけど、人間なのね〜」

 

 忍は俺の手の中にいるユーノを指でつつきながら、興味深そうにユーノを観察する。

 

「ん、うう」

 

「あっ、起きた」

 

「大丈夫か?」

 

 手の中でユーノが目を覚まし、呻き声を上げる。フェレットが人間らしい声を上げる姿になんだか不思議な気持ちになった。

 

「あ、ここ…は?」

 

「ここは私の家よ。彼があなたを助けたの」

 

 机の上にユーノを置くと、起き上がったので忍が声をかける。

 

「あなたが…ありがとうございます」

 

 ユーノは俺のほうを向いて頭を下げる。動物が芸をしているみたいで和んだ。

 

「それでどうして魔導師がこの世界に来てるんだ? まぁ予想はついてるけど……」

 

「あの、貴方がたは魔導師ですよね?」

 

「俺はそうだけど彼女は違うぞ」

 

 ユーノの質問に返答すると彼は驚いた表情を浮かべる。

 

「非魔導師の方ですか。僕はユーノ・スクライアといいます。お気づきかと思われますけど魔導師で人間です」

 

「俺は烏丸拓斗、一応魔導師だ。とはいってもなんでこの世界にいるのかわからないけどな」

 

「私は月村忍。この屋敷の主で彼の協力者よ」

 

 お互いに自己紹介を済ませる。するとユーノが疑問に思ったのか口を開いた。

 

「なら烏丸さんは次元漂流者なんですね」

 

「拓斗でいい。いつの間にかこの世界に来ていたっていうのがそうなら、そうなんだろうな」

 

 ユーノの質問に俺は答える。

 

「あの月村さんは現地の、この世界の人間ですよね」

 

「そうよ」

 

「ということは管理外世界の人間に魔法のことを話したんですか?」

 

 ユーノは俺のほうを向いて質問してくる。

 

「ああ、俺がここに来たときに彼女に助けられてな」

 

「それ違法ですよ」

 

「なら、お前も人のこと言えないだろう。この世界に来て、念話で現地住民に助けを求めたんだ。それも法に触れるんじゃないのか」

 

「うっ」

 

 俺の指摘にユーノは自分の行動が違法であることに気づいたのか、言葉に詰まる。

 

「俺にも事情があってな、彼女達に知識や魔法のことを教える代わりに衣食住の提供と協力をお願いしている」

 

「そう、ですか」

 

「それでお前の目的はこれだろう?」

 

 俺はユーノにジュエルシードを一つ見せる。

 

「それはっ!!」

 

「お前を見つけたときに襲ってきたんで封印した」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 ユーノは俺にお礼を言う。そして、ジュエルシードを受け取ろうとしてあることに気づいた。

 

「ない、デバイスがないっ!?」

 

 ユーノは自分が持っていたデバイスがないことに気づく。そのことに慌てふためいた。

 

「お前のデバイスなんだけどな、俺の連れが勝手に起動した」

 

「え?」

 

「これを封印するときにてこずってな、ちょうどもう一人魔力資質があった子がいたんだけど、その子が起動させたんだ」

 

「そうなんですか」

 

 ユーノはデバイスが手元にない理由を知り、納得したのか落ち着きを見せる。

 

「すまない。アレはインテリジェントデバイスだし、かなり高価なものだろ。契約したら、それなりの設備がないとマスター登録が解除できないし」

 

「いえ、今の僕が持っていても使うことができませんし、それにあの時助けに来てくれた人に使ってもらって、ジュエルシードの収集を手伝ってもらうつもりでしたから…」

 

「そうか」

 

 ユーノはここに来たにも関わらず、すぐに助けを求めることになったことを悔しがっている様子だ。自分ひとりで何とかしようと思っていたのだろう。

 他人を巻き込もうとしたりと色々言いたいことはあるが、今、彼に言うのは酷なことだろう。

 

「ジュエルシード探索は俺達も手伝うよ」

 

「ありがとうございますっ」

 

「これは俺が保管しておくよ。デバイスがないとそれもできないだろう」

 

「はい」

 

 俺の言葉に納得したのか、ユーノは俺にジュエルシードの保管を許してくれる。

 

「じゃあ、今日はお開きね。ユーノ君、部屋を用意してあげるから、そこでゆっくりと休んでちょうだい」

 

「何から何までありがとうございます」

 

 忍はユーノにそう言うとノエルを呼び、彼を部屋へと案内させた。そして、二人だけになると忍は話しかけてくる。

 

「うまくやったわね」

 

「なんのこと?」

 

「ジュエルシードのことよ。自分に保管させるように仕向けたんでしょ」

 

「やっぱりバレてた?」

 

 忍には何もかもお見通しのようだ。忍の言うとおり、俺は自分のもとにジュエルシードを集めるつもりだった。もちろん、当初の目的である元の世界への帰還というのが最大の理由なのだが、もう一つ理由がある。

 

「時空管理局との交渉用ってところかしら?」

 

「正解、これを集めるのに使った労力を少しは管理局に返してもらわないとね」

 

 交渉の材料としてジュエルシードを扱う。ジュエルシード自体もそうだが、集めるのに使った労力なども交渉材料となるだろう。それによって、俺の罪の軽減などに役立てるつもりだった。

 

「まぁ、私も同じことを考えてたけど」

 

 そう言って、忍は笑う。それにつられて俺も笑った。

 


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