転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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17話目 必要なこと 

 ユーノと出会った次の日のこと、月村邸には高町家の面々やアリサが集まっていた。

 

 皆、ユーノから話しを聞くために集まってきたのだ。

 

「なるほど、つまり君は事故によって落ちたこれの回収に来たのか」

 

「はい、そうなります」

 

 ユーノから話しを聞き終わると皆、複雑な表情を浮かべている。

 

「しかし、それは君でなくてはいけなかったのか? 君はまだ子供なのだし、しかも一人なんて……」

 

 士郎さんがユーノに対して思うところがあるのか質問する。これに関しては皆、同意見のようだ。

 

 ユーノの取った行動は正直、無謀な行動である。ジュエルシード程のロストロギアの回収に協力者もなく単独での行動。

 確かに危険物の回収ゆえに迅速な行動が求められるだろうが、こんな結果になっている以上、やはり無謀というほかない。

 

「その通りなんですが、ジュエルシードの発掘には僕も関わっていましたし、何よりこういったことに対応する時空管理局の行動を待っていたら、現地の被害が拡大すると思ったんです」

 

「それは確かに立派な思いだと思うが、一人で行動した挙げ句、現地住民を巻き込んだことを考えれば、もう少し考えて行動するべきだったとしか言えないな」

 

「うっ」

 

 俺の言葉にユーノは自覚があるのか落ち込む。

 

「すまない、その時空管理局というのは?」

 

 士郎さんがユーノに質問する。そういえば、管理局のことについてはまだ説明してなかった。この事件が始まって、まだ二日しか経っていないから、説明する時間がなかったと言えばその通りなんだが……。

 

「時空管理局というのはですね、次元世界の平和維持を目的とした組織で、この世界でいうところの警察と裁判所が一緒になったような組織ですね」

 

 ユーノが士郎さんに説明する。僅か一日ではあるが、ユーノはこの世界の基本的な知識を得ているらしい。

 

「それはなんというか、大丈夫なのか?」

 

 ユーノの話しを聞いて、士郎さんは管理局について不安になったようだ。日本で過ごしていれば確かに疑問の残る組織ではある。

 

「慢性的な人手不足ですから、この世界のような管理外世界に対する事件や事故の対応も遅れていますし、権力の集中という意味でも巨大な組織になりすぎていて……」

 

「拓斗君は管理局という組織については?」

 

「知識としては知ってます」

 

 ユーノだけではわからないことがあるので士郎さんは俺にも聞いてくる。

 

「大体はユーノの言った通りですね。慢性的な人手不足もあり、所属している人間の低年齢化、中学生ぐらいの年齢の子供が働いているみたいですね。

 それともう一つ、管理世界という管理局が統治する世界があるんですけど、管理世界になるにあたって管理局の地上本部の設置や質量兵器の破棄が義務付けられているようです」

 

 ちなみに質量兵器はこの世界にある武器全てと思ってくださいと補足しつつ、俺は管理世界の住民じゃないですけどね、と付け足しておく。

 

 ホント、言葉だけ並べると酷い組織にしか感じられない。

 

「そ、その組織は大丈夫なのか?」

 

 俺の説明に更に不安になったのか士郎さんはどもりながら、俺に聞いてくる。他の面々も苦々しいというか、管理局を不審に思っている様子だ。

 

「正直、組織としてはどうかとは思いますが、彼らによって次元世界の平和が守られているのは事実です。……無くなれば困る組織ではありますね」

 

 素直に事実だけを伝える。時空管理局に対して不審に思うのは仕方ない。俺だってこの話しを聞かされれば、管理局に対して良い印象は抱かないだろう。

 

 そして俺と忍はさらにノーパソを時空管理局の情報を多く握っている。その中には不正であったり、管理局の裏の部分だったりも多数ある。

 

 ——これがわかりやすいほど悪の組織であれば良かったんだけど

 

 管理局の下の人間は日々、頑張って業務をこなしているのは理解できる。

 問題なのは組織のことを決める上の人間や組織の在り方などである。

 

 もっと良い組織の運営や法の整備などできることは多そうだ。

 

 ——俺が言っても仕方ないことだけどな

 

 俺は管理局の人間というわけではない。俺がやっていることは端から見て不満を述べているだけだ。

 

 自分で何かを変えようとするわけではなければ、そのつもりもない。

 

「管理局がこの世界に来た時は俺とユーノ、そして忍さんへの連絡をお願いします」

 

 俺はこの場にいる全員にお願いする。

 

「君達はわかるが忍にもか?」

 

 恭也が忍にも報告をお願いしたことについて聞いてくる。

 

「ええ、皆さんにも連絡をさせていただきますけど、今回の収集に関しては責任者は忍さんです。管理局との対話は忍さんに任せたいと、なのはの保護者として士郎さん達にも参加をお願いすると思いますけど……」

 

 管理局と接触した時のことを考えて、この場にいる全員にどうするべきか伝えておく。

 

 交渉ごとに関しては俺も条件を述べさせてもらうが殆どは忍に丸投げになるだろう。

 

 管理局については接触してからもう一度考えるということになり、今度はなのはとレイジングハートのことへと話題が移った。

 

「あの、ユーノ君。勝手にレイジングハートを起動させちゃってごめんなさい」

 

 なのははユーノに深く頭を下げる。

 

「ううん、僕も巻き込んでしまったし、僕の方こそごめんなさい」

 

 二人はお互いに頭を下げ合う。ただ、片方がフェレットであるためか、微笑ましい気持ちにしかならない。

 

「それでレイジングハートなんだけど……」

 

「あっ、レイジングハートは君が使ってください。彼女も君をマスターと認証していますし、僕は彼女を扱えませんから」

 

「いいの?」

 

 ユーノの言葉になのはは彼に聞き返す。

 

「はい、それに巻き込んでしまったのは僕の責任ですし、助けてくれた人に使ってもらおうと思ってましたから」

 

「ありがとうユーノ君。私はなのは、高町なのは。なのはって呼んで」

 

 なのはは嬉しそうにユーノに自己紹介する。そこからはユーノとの自己紹介タイムとなった。

 アリサとすずかがなのはに続いて自己紹介を行い、その後に他の皆が続く。

 

 そして、デバイスを手に入れたなのはとの模擬戦へと移る。

 

「お姉ちゃんいくよ〜、アクセルシューター、シューーートッ」

 

「えっ、ちょ、なのはぁ」

 

 今、戦っているのはなのはと美由希だ。なのはが誘導弾を大量に展開し、それを美由希へと放つ。

 

 美由希は自分に飛んでくる誘導弾に焦りながら、それを飛針で撃ち落とし、細かく移動しながら回避する。

 

 この辺りは経験差であろう。実戦経験豊富な美由希とは違い、なのはは魔法を覚えたてのうえ、実戦もジュエルシードを一個封印しただけだ。

 

 美由希は誘導弾をすり抜けるように回避しながら、なのはに近づくとなのはを斬りつける。なのはは咄嗟にプロテクションで防御するのだが、おそらく徹だろう、衝撃をを徹されてダメージを与えられる。

 そのままなのははダウンしてしまい、試合はそこで終了する。

 

「なのは、大丈夫?」

 

「うん大丈夫だよ、お姉ちゃん」

 

 美由希に差し伸べられた手を握り、なのはは起き上がる。

 

「うぅ〜〜勝てると思ったのに」

 

「お姉ちゃんだからね、まだまだなのはには負けないよ」

 

 デバイスを手に入れたなのはは自信があったようだが、美由希に負けてショックを受けている。美由希もそんななのはを見て苦笑いしながらなのはの頭を撫でる。

 

「二人ともお疲れ様」

 

「なのは大丈夫か?」

 

 俺と恭也が声をかける。俺は二人に対してなのに恭也はなのはだけに声をかけた。

 

「恭ちゃん、私の心配は?」

 

「お前は怪我してないだろう」

 

「確かにそうだけど……」

 

 扱いの違いに不満そうな顔をする美由希。まぁ、なのはは彼女の妹なので仕方ない。

 

「美由希、それでなのははどうだった?」

 

「強かったよ。長期戦になったら厳しかったかも」

 

 美由希は士郎さんと先ほどの試合のことについて話し、反省をする。俺達、魔導師組も反省会をすることにしよう。

 

「なのは、惜しかったね」

 

「ううん。お姉ちゃんは強いもん、まだまだだよ」

 

 なのはは自分と美由希の実力差を理解しているようで、俺の言葉にそう返してくる。

 

「ユーノはどうだった? さっきの試合見て」

 

「魔導師じゃなくても、あんなに強い人っているんだ」

 

 先ほどの試合を見て、ユーノは驚きを隠せないようだ。

 なのはは同じ魔導師であれば、すぐにわかるぐらいの才能を持っている。そのなのはがレイジングハートという高性能デバイスを持っていながら負けたのだ、その光景は彼らにとって目を疑いたくなるほどのものだろう。

 

「そっちの感想は置いておくとして、なのは、今回の授業ではああいう相手の対処の仕方を教えておこうか」

 

 今日はなのはがデバイスを手に入れたということで今後に備え、なのはに戦闘について教えることにする。

 

「お姉ちゃんみたいな相手?」

 

「人というよりは美由希さんみたいに高速で移動して接近してくる相手の対処法だね」

 

 なのはが小首を傾げたのでちょっと詳しく説明する。

 

「えっ、でも、もっと基本の戦い方みたいなのは?」

 

「なのはは砲戦がメインだから、戦い方はシンプルに離れて魔法を放つ。これだけだよ。動かない相手なら楽勝だろうからね」

 

 砲戦魔導師は離れて撃つシンプルな戦法である。それゆえに奥深いものであるが、そんなのどれでも同じだ。

 動かない相手なら当てるのにも苦労せず勝つのも容易いが、今回のような相手だと当てるのにも苦労し、苦戦もしくは敗北してしまうだろう。

 

「今回みたいな高速で動く敵を相手にする時は———」

 

 なのはに対処法を指導しているとなのはは真剣な表情で俺の話しを聞く。やはり負けるのは悔しいのか、次は負けないとやる気に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

「なんか私達、蚊帳の外よね〜」

 

「……そうだね」

 

 私達は拓斗君がなのはちゃんに色々教えているのを離れたところから見ている。

 

 昨日、ジュエルシードのことを知ってから私達は疎外感を感じていた。

 魔法のことに関われないのは仕方ないことだけど、昨日ジュエルシードの暴走体に襲われたとき、私達は何もすることができなかった。

 

 拓斗君が必死で私達を守ってくれているのに見ていることしかできなくて、拓斗君がピンチになったときも助けたくても何もできなかった。

 

 唯一、なのはちゃんだけが拓斗君を助けることができて、拓斗君からお礼を言ってもらっていた。

 

 なのはちゃんは魔法を使うことができる。それはこの事件に関わることができて、拓斗君を手伝うことができるということだ。

 

 拓斗君の助けになれて、拓斗君のそばにいられるなのはちゃんが羨ましい。

 

 ——そういえば拓斗君、事件が起こってすぐ、私に教えてくれなかったな〜

 

 私がジュエルシードのことを知ったのは昨日、なのはちゃんやアリサちゃんと同時だった。本当はその前の日にはわかっていたのに、そうでなくても朝教えてくれたら良かったのに……

 

 ——私、拓斗君に特別に思われてないんだ……

 

 お姉ちゃん達は知っていたのに私だけ後になって教えられたことが苦しくて、寂しくて、辛い。

 

 そんな感情を隠しながら、私はアリサちゃんと拓斗君達を見ていた。


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