転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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20話目 旅行なのに疲れてる?

 今、俺達の目の前にはフェイト・テスタロッサがいる。彼女も俺達の存在に気がつくと、こちらに向き直りデバイスを構え警戒をしている。彼女の手元にはジュエルシードがあり、既に彼女がジュエルシードを封印しているのが見てわかった。

 

「あの時の、白い魔導師」

 

「また、会ったね」

 

「…うん」

 

 なのはとフェイトは俺を置いて二人だけで会話をしている。少し、複雑な気分になりながらもこの場をどうするべきか考えることにした。

 

「私はなのは、高町なのは。君の名前、教えてくれないかな?」

 

「…フェイト、フェイト・テスタロッサ」

 

 なのはとフェイトがお互いに自己紹介をしあう。そのやり取りを俺とユーノは邪魔にならないように見ていることしかできない。

 しかし、こうして見てみるとフェイトのバリアジャケットは色々際どい。レオタードにミニのスカート、下着という訳ではないのだが、なんていうか空を飛んでいるときに中がちらちらと見えてしまうと、ちょっと意識してしまいそうな気がする。ああいった、バリアジャケットは彼女の趣味なのだろうか? stsのときのバリアジャケットを思い出しても色々危険な気がするので、少し彼女の将来が心配になる。

 

「フェイトちゃん…、ねえ、どうしてフェイトちゃんはジュエルシードを集めてるの?」

 

 なのははフェイトに彼女がジュエルシードを集めている理由を問いかける。その表情は真剣だ。

 

「私がジュエルシードを集めているのはユーノ君の探し物だから。私はそのお手伝いをしてるの。でも、それだけじゃない、自分達の暮らす街を、自分の周りにいる人達に危険が降りかかるのは嫌なの、だから、私はジュエルシードを集めてるの」

 

 なのはは自分の気持ちを素直にフェイトにぶつける。なのはの気持ちは子供ながらに真摯的なもので純粋で真っ直ぐにそう思っていることがわかる。

 

 ——俺みたいに打算や自分のことしか考えてない人間とは大違いだよな。

 

 さすが主人公などと思いつつ、少し自虐的なことを思ってしまう。これも自分が大人になったからなのだろうか? 子供の時のように真っ直ぐなだけじゃ、純粋なだけじゃいられない。

 

「ジュエルシード」

 

「え?」

 

「ジュエルシードを賭けて、もし君が勝ったらこのジュエルシードと私が集めてる理由、ちゃんと話す。でも私が勝ったら、君の持っているジュエルシードを私に頂戴」

 

「え、あの、拓斗君?」

 

 フェイトの言葉になのはは戸惑ったように俺の顔を窺う。なのはは今、ジュエルシードを持っておらず、持っているのは俺だけだ。当然、こんな賭けを持ち出されたとしても、すぐにYesと答えるわけにはいかない。

 

「ちょっと、いいかな?」

 

「貴方は?」

 

「俺は烏丸拓斗、一応魔導師でこの子の先生みたいなもんだ」

 

 ここに来て初めて、フェイトと言葉を交わす。今までずっと蚊帳の外だったので、本当に退屈であった。

 離している間にも周囲の気配を窺う。目の前にいるフェイトとアルフの他に既に士郎さん達もこの近くに集まっているが、気配を消して、こちらの様子を窺っていた。どうやらこの場の判断は俺達に任せるつもりのようだ。

 

「こっちのジュエルシードは全部俺が管理している。だからこの勝負、俺が君の相手をさせてもらう」

 

「拓斗君……」

 

 なのははこっちを見つめてくる。自分が変わりたいのか、その表情は少し不満げだった。

 

「と思ったんだけど、なのははあの子と戦いたい?」

 

 俺はここでなのはに問いかける。正直、この場において圧倒的に有利なのは俺達だ。士郎さん達もいるし、強引に捕縛しようと思えば、簡単にできるだろう。

 

「うん」

 

「どうして?」

 

「フェイトちゃんのことが気になるから。フェイトちゃんのこと、もっと知りたいから」

 

 なのはは自分の思いを俺に伝えてくる。

 

「わかった、ジュエルシードを一つだけ賭けてあげる」

 

「タクトッ!!」

 

 俺の言葉にユーノが大きな声を上げる。まぁ、ジュエルシードを集めている身としてはこういうことは、良くない事なんだろう。俺としてもなのはが負けてジュエルシードが減るような事態は避けたいというのが本音だ。

 

「ユーノ、ゴメン。今回だけは俺の我侭を許してくれ」

 

「わかったよ。どの道、僕の力だけじゃ、ジュエルシードを集めることができないんだ。だから、君達に任せるよ」

 

「ありがとう」

 

 ユーノを説得すると、俺はなのはに目線で合図を送る。なのははそれに気づいて、一歩前に踏み出すとデバイスを構え、フェイトと対峙した。

 

 

 

 

 

 私は今、ジュエルシードを賭けて、フェイトちゃんと対峙している。拓斗君がフェイトちゃんとの戦いを譲ってくれた。本当なら、私より強い拓斗君の方が良いに決まっている。それでも拓斗君は私にフェイトちゃんとの戦いを託してくれた。

 

「ゴメンね、待たせちゃって」

 

「ううん。勝負方法は一対一、本人かデバイスが負けを認めたら、そこでお仕舞い」

 

「うん、わかった。拓斗君、ユーノ君、ジュエルシードをお願い」

 

「アルフ、見張りをお願い。絶対に手は出さないで」

 

 私たちの言葉に拓斗君達は少し離れた場所でジュエルシードを見張る。私達はそれを確認するとお互いにデバイスを構えた。

 

「いくよっ、フェイトちゃん!!」

 

 私の言葉と共に私たちの戦いが始まった。私はまず、牽制のための誘導弾をばら撒く。フェイトちゃんの行動を少しでも妨害するためだ。

 

「クッ、前戦ったときよりもずっと正確っ」

 

 フェイトちゃんは私の誘導弾に少し、焦ったようだけど、それでも全て回避される。

 

「いくよっ、バルディッシュ」

 

 私の誘導弾が止んだのを見計らって、フェイトちゃんは接近してくると、デバイスに展開した魔力刃で斬りつけてくる。私はそれを回避すると、少し距離を置いて、今度は砲撃を放つことにした。

 

「ディバイン、バスターーー」

 

 私の魔法が一直線にフェイトちゃんに飛んでいくが、フェイトちゃんも回避して魔力弾を放ってくる。フェイトちゃんのスピードと私の砲撃、どちらもお互いに譲ることはなかった。

 

 

 

 

「なのは、凄い」

 

「そうだな、無茶苦茶レベルを上げてる。これは俺もやばいかもしれないな」

 

 俺達はなのはとフェイトの戦いをじっくりと観察していた。フェイトのスピードに翻弄されながらもなのはは誘導弾などをうまく使い、互角に渡り合っていた。俺はその事に素直に関心を抱く。

 ここ最近のなのはの成長具合は異常と言っていいほどだ。いくら俺や恭也と模擬戦を重ねていたところでそれはあくまで模擬戦だ。実戦には実戦独特の緊張感であったり、敵対する相手と本気でやりあわなければならなかったりする。そういった実戦経験が少ないなのはがデバイスを持って一ヶ月足らずでフェイトと互角に戦えていることは本当に驚くべきことなのだ。

 

「まさか、あのちびっ子があんなに強くなってるなんて」

 

 俺たちの隣でアルフも驚いている。フェイトが負けるとは思っていないだろうが、それでも以前、戦った相手がここまで成長していることには驚きを隠せないのだろう。

 

 なのはとフェイトの戦いはお互いに全力を尽くしあうといっても過言ではないほど激しいものであった。なのはの魔法をフェイトが紙一重で回避し、フェイトの魔法をなのはがシールドで防ぐ。お互い捌ききれなくなって被弾もかなりして、ボロボロの状態だった。

 

 ——頃合かな

 

 二人の状態を見て、そろそろ決着がつきそうだと認識すると、俺は隠れている士郎さん達に合図を送る。フェイト達には悪いがなのはが負けたとしてもジュエルシードを渡すつもりなどさらさらなかった。もちろん、なのはが勝ってくれれば問題はないのだが、この様子だとそれは難しそうだ。

 

 気づかれないようにジュエルシードまでの距離を確認する。距離はお互いに数歩進めば届きそうな距離だ。

 

 なのは達を確認してみると、なのはが力を振り絞り大量の誘導弾をフェイトに向けて放とうとしているところであった。フェイトはなのはの展開している誘導弾を確認して、こちらも大量の魔力弾を用意している。回避するのも防御するのも不可能と感じたのだろう。なのはを相手に撃ちあいを挑むつもりのようだ。

 

「いくよフェイトちゃんっ!!」

 

「うん、私もっ!!」

 

 お互いに大量の魔力弾の撃ちあいをすると思ったのだが、少し様子が違う。フェイトの用意した大量の魔力弾が収束していき、なのはの展開した魔力弾に向かって一直線に放たれた。

 

「砲撃っ!!」

 

 フェイトが行ったことを瞬時に理解する。彼女はおそらくなのは相手に撃ちあいになるのは不利になると感じたのだろう。砲撃魔法でなのはの弾幕を貫く作戦に出たようだ。

 リニスに教えてもらった、彼女が使える魔法の中で最も威力の高いファランクスシフトを使ってくると思ったのだが、どうやらその予想は外れたようだ。いや、これはフェイトが上手であったと考えるべきか。お互いに全力であったとはいえ、彼女も最後で自身の最大の魔法を使えないのはプライドが傷つくはずだ。しかし、彼女は冷静に判断して、魔法を選ぶことができた。これはフェイトの判断力を褒めるべきだろう。

 

 なのはの誘導弾はフェイトの砲撃の威力を少し削いではいくが止めるまでには至らない。フェイトの砲撃もなのはの誘導弾をかき消していくが、全てを消すことは叶わない。そして、お互いの魔法が両者に直撃する。

 

「なのはっ!!」

 

「フェイトッ!!」

 

 落ちようとしている二人にユーノとアルフは駆け寄る。俺はその場に残り、この状況に少し笑みを浮かべた。

 

 ——今回はかなり上手くいったな

 

 自分の近くにあるジュエルシードを手に取り回収する。アルフがいなくなったため回収が容易であったのは言うまでもない。

 今回、なのはがフェイトと戦い、実戦経験をつむことができた。それだけではなく、フェイトと戦うことで無印以降の交流もしやすくなったわけだ。それはこれからの展開的に好都合なものだった。フェイトとなのはの交流が深まれば、当然、A's以降のように友人としてお互い助け合う仲になるはずだ。なのはなら関係ないとは思うのだが、俺が関わってしまったことで彼女達の接点が少なくなり、原作どおりの関係ではなくなることを考えると、ここでの戦いはむしろあって良かっただろう。

 

 俺は手の中にあるジュエルシードを転がしながら、これをどうするべきか考える。今回の勝負は引き分けであった。もちろん、俺達がこれを保有しておくに越したことはないのだが、忍やユーノとは違い、俺の目的はもとの世界に帰ることにある。

 元の世界に帰ることのできる可能性を考えると、正直、どうするべきなのか迷っているのも事実だ。あまり無茶をして死ぬつもりもない。そう考えるとこの世界に留まることも考えなければいけなかった。正直、管理局との交渉なんかはノーパソを使えばどうにかなる自信はある。

 

 ——ここでフェイト達にジュエルシードを渡して好印象を与えておくべきか?

 

 人間関係を打算で考え始める自分に少し嫌気が刺しながらも手元にあるジュエルシードをどうするべきか考えつつ、なのは達の下へと歩き出す。

 

 なのは達の下へ到着するとそこには地面に寝ているなのはとアルフの肩を借りながら立ち上がっているフェイトの姿があった。二人の姿はボロボロで二人の戦いが如何に激しかったのかを物語っている。

 

「あはは、私の負けみたい。ゴメンね、拓斗君」

 

 なのはが俺に向かって目元を腕で隠しながらそう言ってくる。頬には少し涙の痕が見えることから負けたことが悔しくて泣いているようだ。

 

「ううん、引き分けだよ。私もアルフの力を借りて立つことしかできないから」

 

「フェイトちゃん」

 

 フェイトの言葉になのはは彼女の方へと顔を向ける。

 

「……お母さんが必要としてるから」

 

「え?」

 

「私がジュエルシードを集めている理由、お母さんが必要としているから」

 

 フェイトはなのはに向かって自分がジュエルシードを集めている理由を話す。しかし、その表情は少し寂しげで、悲しそうな顔をしていた。

 

「それじゃあね」

 

「ちょっと待て」

 

 去っていこうとするフェイトに俺は手に持ったジュエルシードを投げ渡す。

 

「え?」

 

「引き分けなんだろう。こっちだけ理由を教えてもらったら不公平だ」

 

 俺が投げ渡したジュエルシードはフェイトの手の中に納まり、フェイトはそれを握り締めた。このまま、持って帰ろうかと思ったが、それはそれで後味が悪い。目的のために何でもするというのも少し違う気がしたので、俺はジュエルシードをフェイトに渡した。

 

「あ、ありが、とう」

 

 フェイトは俺に戸惑いながらもお礼を言って、転移魔法で去っていく。それを止めることはしない。流石にここで捕まえたりするのは無粋であるし、なのはからも非難されそうなので、そんなことはできなかった。

 

「結構可愛かったな」

 

「拓斗君、なんかずるい」

 

 フェイトのお礼を言ったときの表情を見て素直に感想を漏らす。すると、なのはが少しむくれた顔でそんなことを言ってきた。

 

「最後に出てきて良いとこ取りして、フェイトちゃんからお礼を言ってもらえるなんて……」

 

「そこはほら役得ってことで。それよりなのはもお疲れ様、よく頑張ったな」

 

 なのはを労い、機嫌を取ってあげる。

 

「でも、フェイトちゃんに勝てなかった」

 

 なのはは悔しそうな表情だ。フェイトに負けてからずっと頑張ってきて、今度は勝てると思っていたのに勝てなかったことが悔しいのだろう。俺から言わせれば、むしろ互角に戦えたことを喜ぶべきなんだけど、彼女はまだ不満のようだ。

 

「でも互角に戦えてただろ。相手はなのはよりも経験が上なんだ。それでも互角に戦えたことは凄いと思う」

 

「でも、せっかく拓斗君が任せてくれたのに、私、期待に応えられなくて」

 

 なのはの目から涙が溢れる。俺が任せたことでなのははどうやら背負いこんでしまったようだ。まさか、ここまで責任感の強い子だったとは思いもしなかった。

 

「いいよ、次、頑張ればいい」

 

 俺はなのはを抱きしめ、その頭を撫でる。なのはに魔法を教え始めてから、彼女のことは本当に自分の弟子のように思えてくる。師匠として彼女を導いてあげたいという気になってしまう。

 

 その後、俺達は旅館へと戻り、もう一度ゆっくり温泉に浸かりなおした。 

 


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