転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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23話目 二人の違い

「まずは何から話そうか、そうだな、ここに来た時のことからでいいか」

 

 薙原はそう言って俺に話し始める。

 

「多分、お前もそうだと思うが、俺は若返ってあの部屋の中で目覚めた。それで、あの場所を色々歩いた結果、コレを見つけてこの世界に跳ばされた」

 

 そう言って薙原は俺にデバイスを見せる。どうやらこの世界に来るまでの過程は同じようだ。

 

「ナンバーは?」

 

「87、そういうお前は?」

 

「99。間が結構空いているな」

 

 薙原の番号は俺より十番以上早い、つまり俺達の間には十人の人間がいることが推測できる。

 

「俺がこの世界、リリカルなのはの世界に来た時はどの世界かはわからなかったが、ぶっ倒れて目が覚めたら管理局に保護されてた。ちょうど俺を拾ったのがリンディで、彼女に後見人になってもらって管理局に入局したんだ」

 

「なるほど」

 

 彼が月村に保護してもらったのと同じように彼もまたリンディさんに保護してもらったようだ。

 

「リンディ・ハラオウンに俺達のことを話したのか?」

 

「ああ、と言ってもコレのこととか俺達の元の世界のこと、本当の年齢、そしてほんの少し原作のことについてだけどな」

 

「普通、信じてもらえるとは思えないんだけど」

 

 管理局という組織に俺達のことを説明したところで信じてもらえるとは思えない。精神異常者と間違えられるか、信じてもらえたところで利用されるのがオチだろう。

 

「まぁ信じてはもらえなかったな……これまでは」

 

 薙原はそう言って不敵な笑みを浮かべる。

 

「今回のジュエルシード事件が実際に起こったお陰で、少なくとも未来の情報を知っているというのは信じてもらえたからな。まぁ公人としてはコレである程度の信用はしてもらえただろう」

 

「管理局は俺達のことについて、どれほど把握しているんだ」

 

 そう実際の問題はここにある。俺達の存在は管理局にとって喉から手が出るほど欲しい存在だろう。デバイスを自由に改造でき、インストールされた魔法であれば何でも扱うことができ、その上ノーパソによって情報を自由に集め、改竄することができる。これほどの人材を管理局が放っておくわけがない。

 

「何も」

 

「はあ?」

 

「管理局は俺達転生者に関する情報を全く持ってない。少なくとも俺の知る限りではな。リンディやクロノには言わないように頼んであるし、あの二人もそれがどれほど危険なのかを理解している。うかつに公表するわけにはいかねぇよ」

 

 それに情報収集や改竄については言ってねぇよとつけ加えてくる。それを言わない辺り、コイツは冷静に物事を考えられる人間なんだろう。情報収集、改竄を公表するのは間違いなく、俺達の身を危険に晒す。それが組織ならなおさらだ。今、俺が無事なのも忍が良い人間であるからに他ならない。コレが悪い人間であったり、組織に忠実な人間であれば、俺は相当ヤバかっただろう。そこらへんの見極めもある程度していたとはいえ、俺の場合、本当に運が良かったとしか言えない。

 

 確かに薙原の言っていることは理解できる。しかし、その全てを信用するわけにはいかない。ノーパソを使って管理局のデータに進入し、俺達の転生者についてのデータがなかったのは知っているが、それでも薙原が何かをした可能性もあるし、実際に確かめてみるまではわからない。

 

「まぁ、信用できるわけがないよな」

 

 俺の表情を見てか、薙原は笑いながらそんなことを言ってくる。

 

「その辺は自分で確かめるといいさ。そんなこんなで俺は管理局に入った。それで今では執務官だ」

 

「今更だが、俺達以外の転生者は?」

 

 本来なら真っ先に聞くべきであろう質問なのだが、こいつの話を聞いていて質問するのが遅れてしまった。

 

「少なくともお前以外の転生者を俺は知らない。お前みたいに派手に動いてくれりゃ、わかりやすいんだがな」

 

 薙原は呆れたような、それでいて楽しそうな表情で俺を見る。

 

「お前の存在を知ったときはすぐに会いに行きたかったんだけどな、仕事が忙しくてそんな余裕もなかった」

 

「いや、ノーパソ使って連絡しようと思えばできただろ」

 

 ノーパソさえ使えば、携帯なり、月村のパソコンなりに連絡を入れることも難しくなかったはずだ。

 

「わかってねぇな。こういうのは直接会って驚かせるからいいんだぜ」

 

「アホか」

 

 薙原の言葉を切って捨てる。俺としてはなるべく早い接触が希望であったので、こいつの行動には呆れるほかない。

 

「まぁ、安心したよ」

 

 薙原が俺を見て、言葉を漏らす。

 

「月村家に情報や技術を与えていたから、チートを使って俺スゲーとか言ってるような奴だろうって勝手な予想をしてたからな。そういう奴って、管理局に反抗してくるだろうし、面倒くさそうなんだよ。まぁ、お前はまともそうだけどな」

 

 薙原の言葉に自分の行動を振り返ってみる。忍に情報と技術を与えて、住居とお金を貰い、すずかやなのは、アリサと友達になって、デバイスを使って氷村遊と戦った。それでなのはに魔法を教えて、今はジュエルシードを集めて、管理局と交渉中。

 

 ——なんというか、コレも相当だと思うんだけどな

 

 自分のしてきたことを間違っているとは思わないが結構なことをやっているなとは感じる。少なくとも自分のやってきたことに後悔はしていない。

 

「管理局との交渉は反抗には入らないのか?」

 

「予想はしてたからな。一応、管理局のルールでもあるんだぜ。現地の人間がロストロギアを回収、もしくは保有している場合、交渉によって穏便にロストロギアを回収することってね」

 

「そのロストロギアが回収できなかった場合は?」

 

「場合によりけりだな。管理外世界で国宝指定とかにされている場合とかはその世界に人を派遣して監視や管理するような場合もあるし、一個人の保有の場合は事情を説明して封印処理や管理の仕方を教える場合もあるし、最悪危険なものだと強奪ってこともありうる」

 

 薙原の説明に納得する。原作ではその辺りのことを書かれていなかったため、どうなのかわからなかったがある程度のルールは作られているようだ。まぁ、最後の強奪というのはどうかと思うが、日本でも道路を作るのに立ち退きを強制したような事例は過去にもあるので、この辺りは仕方のないことなのだろう。納得するかは別物であるが……。

 

「国宝とかでない場合は基本的に交渉で何とかなってるから、強奪っていう事例はここ数年、記録を見た限りではないみたいだぞ。まぁ世の中ものをいうのは金らしいな。世知辛い世の中だ」

 

「つうか原作だと、なのはに報酬とかなかった気がするんだが?」

 

「無償で回収できるのに越したことはないだろ?」

 

 要するに相手の善意につけ込んで報酬を支払わなかったと。まぁ、ロストロギアを発見するたびに対価や報酬を用意するのは相当キツイのだろう。管理局は慢性人手不足な上に資金不足だ。だからどうしてもその辺りは考えないといけない。むしろ、その辺りの費用を抑えるために少々強引な手段に出るという可能性も考えられたのだが記録ではそのようなことが起こってないのは管理局の規律がしっかりとしていると言うべきなのか、隠蔽が上手いと言うだけなのか。

 まぁ、今回に限って言えば忍が出し抜かれる可能性など皆無に等しいため心配は無用だろう。

 

「他に聞きたいことは?」

 

「お前にもメールは届いたのか?」

 

「ああ、あの開始メールね。届いたよ」

 

 俺の質問に薙原はつまらなそうに答える。どうやらあのメールはコイツにも届いたようだ。

 

「俺達がこの世界に送られてきた理由とか、誰がやったのかとかはどうだ?」

 

「知るかよ、そんなこと。まぁ、でもここに来たばかりの頃は考えてたな。もう考えるのやめたけど」

 

 薙原は溜息を吐きながら、頭を掻くと俺を正面から見つめる。

 

「お前ってさ、元の世界に帰りたいって思ってる?」

 

「ああ、当たり前だろ」

 

 薙原の質問に俺は即答する。俺はそのためにジュエルシードを集めていた。可能性は低いとはいえ、それが現時点で唯一の可能性だと思ったからだ。

 

「俺はさ、別に元の世界に帰りたいとは思わないんだよ」

 

 別に薙原の意見などおかしいとは思わない。五年以上もこの世界にいるのだ。そういった結論に辿り着くこともあるだろう。

 

「俺は元の世界で社会人だったけど、お前は?」

 

「大学生だったけど」

 

「そうか」

 

 薙原は少し憂鬱そうな顔をする。元の世界のことでも思い出したのだろうか。

 

「元の世界に比べて、この世界はどう?」

 

「良いんじゃないかな」

 

 元の世界に比べてこの世界は良い場所だと思う。元の世界が悪いというわけではない。ただ、この国の経済はこの世界の方が安定しているし、月村家が技術を握っていることで世界的な発展も見込める。それに髪の色とかに違和感を感じないわけではないが美人も多い。忍は言うに及ばず、ノエルやファリン、さくら、美由希、桃子さんなど少なくとも俺の周りの女性陣には美人が多かった。夜の一族の騒動や今回のような魔法関係の事件があるのは事実だが、それを踏まえたとしても元の世界に比べれば良い所だと思う。……家族や友人などがいないことを除けばだが。

 

「ああ、俺もそう感じている。それに俺達の場合はコレがあるから少なくとも管理局には優遇される」

 

 薙原の言うことは理解できる。情報収集のことは公にできないとしてもデバイスの改造、そしてコイツも執務官であることからそこそこの魔力を持っているだろう。

 

それだけでも管理局に優遇されるのは間違いない。

 

「俺も執務官になったし、努力次第ではすぐにキャリアを積める。ついでに言うなら、エリートってだけで女にもモテるしな」

 

「そこでオチをつけるとは流石だな」

 

 微妙にシリアスになったが、薙原の一言によって払拭される。俺はこの状況でこんな冗談を言える薙原に呆れつつもむしろ尊敬してしまった。てか、顔も悪くないし、少なくともこんな風に会話できるなら元の世界でもそこそこモテそうな気もするが、確かにこちらの世界の方がちやほやはされそうだ。

 

「お前は俺よりまだ恵まれてるだろ。月村家と仲が良くて、高町なのは達ともお友達だ。こっちで生活しても良いし、管理局に来てもいい」

 

 この世界に残ることを考えれば確かに俺は薙原よりも遥かに恵まれた立場にある。薙原にも選択肢はあっただろうが少なくとも現時点で管理局に入ることを選んだ。それによってある程度未来は決まったと言っても過言ではない。

 

「誰が俺達をこの世界に送ったのか、どういう目的があるか、なんて俺はどうでもいいんだよ。元の世界に帰るつもりもないし、この世界で生きていくことに満足してる。まぁ、友達や親に会えないのは残念に思うけど、それでも自分の幸せを優先したいんだ」

 

 薙原の話しを黙って聞く。俺よりも長くこの世界にいたのだ。結論に至るまでに苦悩したのかどうかはわからないが、参考程度に聞いておいた方が良いだろう。

 

「お前は元の世界に帰りたいって言っていたよな。今のところ一番可能性があるのはジュエルシードだろ? でもその可能性は低い、だから管理局と交渉するのも止めようとしないんだろ」

 

 まるで俺の思考を読んでいるかのように言ってくる。それは間違いなく俺の考えていたことと一致していた。

 

「俺も同じことを考えたよ。ま、諦めたけどな」

 

 薙原も同じことを考えたようだ。俺も少ない可能性に賭けるかどうか迷ってはいるが、今のところジュエルシードによる帰還はあまり期待してはいなかった。

 

「まぁ、元の世界に帰るっていうなら同郷のよしみで手伝うさ。俺も心変わりしないとは限らないしな」

 

 薙原の言葉はありがたいと思うと同時に少し考えさせられた。俺ももしかしたら心変わりをするかもしれない。もし帰還方法を見つけたとき、俺はどちらを選択することになるのだろう。今はまだ帰りたいという思いが強いが、その時はどうなるかわからない。

 

「未来か…」

 

「どうしたんだ?」

 

 思わず呟いてしまったことに薙原が反応してくる。

 

「いや、この世界ってマテリアル事件が起こるのかなって思ってさ」

 

「ああ、ゲームの」

 

 俺の言葉に薙原が思い出したように言葉を漏らす。

 マテリアル事件、それはリリカルなのはがゲーム化したときのオリジナルストーリーだ。なのはのゲームはPSPで二作品発売されており、マテリアル事件はその一作目でのストーリーだ。そして二作品目であるGODではある人物が登場するのだ。

 

「GODだと未来からヴィヴィオとアインハルトが来る」

 

「二人に会ったときの反応で未来の俺達のことを知るわけだ」

 

 そう薙原の言った通りだ。彼女達に会えば少なくとも俺達が未来で存在しているのかを知ることができる。

 

「まぁ、マテリアル事件が起こるかもわからないけどな」

 

「その時はその時だ。帰還方法を頑張って探せばいいさ」

 

 薙原はそう言って俺の肩を叩く。

 

「そういえば名乗ってなかったな。烏丸拓斗、拓斗でいい。よろしくお願いしますよ先輩」

 

 俺は薙原に名乗っていなかったことを思い出し、自己紹介を済ませる。

 

「なんだよ先輩って。さっきも名乗ったけど薙原和也だ。まぁ、実年齢でも俺のほうが上だけど、和也でいいぞ。それと敬語もいい、仲良くやろうぜ後輩」

 

 俺と和也は握手を交わす。そしてお互いに笑った。まだ、お互いに信用したわけでも信頼しているわけでもない。ただ、こうして同郷の人間と会えただけでもよしとしよう。

 

 ——そろそろ無印も終わりそうだし、頑張りますか。

 

 和也と握手を解くと、俺は気持ちを切り替える。そして、忍と管理局との交渉の進展を確認するために彼女達のいる部屋に戻るために歩き出した。


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