「ユーノ、結界をっ!!」
「わかった!!」
転移魔法によって、地上へと転移した瞬間にユーノに指示を出し結界を張ってもらう。
「フェイトちゃんっ!!」
なのはがフェイトの下へと飛んでいく。フェイトは既にボロボロでバリアジャケットも破損しており、何とか飛んでいるという状態であった。
「ユーノ、竜巻を止めて」
「うんっ」
なのはがフェイトのところへ向かっているのを見ながらも俺とユーノはジュエルシードに集中する。ユーノがチェーンバインドを使い竜巻の動きを封じている間に、俺はカートリッジを三発ロードし、ジュエルシードの封印のための準備に取り掛かる。
「フェイトちゃん、手伝って!! 一緒にジュエルシードを止めようっ!!」
なのははそう言って、フェイトに魔力を分け与える。フェイトも戸惑っていたが、フェイトのデバイス、バルディッシュがシーリングモードへと変形し、フェイトの戸惑いを消す。
「二人できっちり半分こ」
「フォトンブラスター、ファイア」
なのはがフェイトと何か言い合っていたようだが、それを無視して魔力砲撃をジュエルシードによって発生した竜巻に向けてぶっ放す。
「えっ?」
なのはが戸惑った声を上げる。自分達がこれから封印しようとしたときに、隣で俺が魔法をぶっ放したからだ。しかし、これは仕方ない。ジュエルシードは危険なので一刻も早く封印しておきたかった。それに先ほどの管理局の対応で少しイラついていたので、八つ当たりの意味もある。そして、もう一つ、以前ユーノを拾ったときに俺は暴走体二体を相手に苦戦し、なのはに助けてもらった。状況は違うとはいえ、今回はジュエルシード六個分が相手なので、十分にリベンジを果たすことができる。
「ジュエルシード封印完了」
俺の砲撃によってジュエルシードが封印される。しかし、流石にカートリッジを三発もロードしたため、体にかなりの疲労を感じた。
「せっかく私とフェイトちゃんが力を合わせようとしてたのに…」
「なのはも俺を無視してただろ」
なのはが不満そうにこちらを見てくる。確かに空気を読めなかったという自覚はあるが、反省するつもりはないし、する必要もない。それになのはもフェイトと二人だけで分け合おうとしていたのだ。この場には俺もユーノも、それにアルフもいるというのに…。
「そうだね。ねぇ、フェイトちゃん。寂しい気持ちも、辛い気持ちも分け合えるよ」
なのははフェイトを真っ直ぐ見つめ、フェイトもなのはを見つめ返す。その雰囲気は誰にも邪魔はできない。
「私はフェイトちゃんと分け合いたい…お友達になりたいんだ」
「え……」
なのはが自分の想いをフェイトに伝える。その言葉にフェイトの気持ちが揺れ動いているのが、傍から見てもわかる。今まで、どんな言葉でも心を開こうとしなかったフェイトが今、なのはの言葉で少し、心を開こうとしていた。
その瞬間、上空から落雷がユーノの張った結界を破って俺達を襲ってくる。
「クソッ!!」
とっさにシールドを張って、防御をしようとするが先ほどの魔法の反動で思うように魔法を発動することができない。ユーノも自分の張った結界が破られたことで反応が遅れ、なのはやフェイトも反応が遅れる。
「母さん」
フェイトがそう呟くと同時に俺達と落雷の間に誰かが割って入り、落雷を防いでくれる。
「チッ、キツイな…」
防いでくれたのは和也であった。落雷を受けなかったことにホッと息を吐くのも束の間、アルフがフェイトを抱きかかえ、ジュエルシードを回収しようとする。それを防ぐようにクロノがアルフ達とジュエルシードの間に割って入り、アルフを妨害する。
「邪魔ぁ…」
「なっ!?」
「するなーーっ!!!」
アルフは力ずくでクロノを無理やり弾き飛ばすと目の前にあったジュエルシードに手を伸ばす。
「っ!? 三つしかない?」
アルフの手にはジュエルシードが三つしかない。クロノの方を見てみるが、あちらも二つしか回収できていなかった。
「残りはっ!?」
俺が慌てて周りを見てみると、アルフが抱えているフェイトの手元にジュエルシードが一つ握られていた。先ほどの一瞬の交錯のときにフェイトも手を伸ばしていたようだ。
「うぉりゃああ!!」
アルフが海面を魔力の籠もった右手で叩きつける。それによって海面の水が弾け、彼女達の姿を隠した。その隙にアルフ達は逃げる。クロノや和也も止めようとするが、海水によって見えないので追う事すらままならない。
俺達がアースラに戻るとアースラのスタッフは忙しく動き回っていた。どうやら、こちらも先ほどの攻撃を受けていたようだ。
しかし、先ほどの攻撃を仕掛けてきたプレシアには驚かざるをえない。
別次元からの魔法攻撃の上、ユーノの結界を破った。和也が何とか防いでくれたが、その上、アースラにも被害が出るような攻撃を仕掛けていたとするとその技量、魔力量は計り知れない。さらにプレシアは病気であるのだ。そんな状態であれほどの攻撃、いったいどれほど身体に負担がかかることか…。
他人のことであるし、同じようにジュエルシードを必要としている者として、彼女の執念には尊敬をしてしまう。
——俺はあんな風にはなれないな
心の中でそう思う。俺はあれほどまでに必死になることができない。少ない可能性に賭けて命を落としたくはなかった。プレシアのアリシアを想う気持ちがそうさせるのか、それとも残り少ない命であると自覚しているからそこまでできるのか……。どちらにしても、俺はアレほどまでの執念を抱くことはできなかった。
「今回は不信感を抱かせるような行動をしたことをお詫びします」
俺達が戻るとリンディさん、クロノ、和也が並び、俺達に頭を下げる。
「まぁ、こちらとしては今回のジュエルシードの回収分の報酬に少し上乗せするから、特に謝罪は必要ないわ」
忍が三人に向かってそう言う。仮にも忍は月村家の当主であり、今回のような事態に伴う、責任や判断の重要性というものは理解している筈だ。今回のようなケースの場合、管理局にとって重要なのは犯人であるフェイトの確保だ。現地に被害はありませんでした。でも、犯人は取り逃してしまい、また犯人が犯罪を行いましたというのは一番避ける事態であった。しかし、この場に現地人がいる場合は違う。犯人の確保がメインとはいえ、もちろん現地の安全も考えなければならず、今回の場合だと、現地に被害が及ばないようにある程度の対応はしているとアピールしておくべきであったのだ。
今回の場合、プレシアの攻撃があったとはいえ、現地には被害は出ていないようなので、忍もジュエルシードの対価の上乗せ以上は望まないようだ。
「わかりました…」
リンディさんは少し、暗い表情を浮かべる。実際、最後にジュエルシードを確保したのはクロノであるため、ある程度の考慮はするだろうが、それでも今回の上乗せ分で差し引きゼロといった具合だろう。
「鮫島さん、バニングス家からは何かありますか? 今回の分の交渉はそちらにお任せしたいのですが?」
「かしこまりました。旦那様にご連絡をさせていただきます」
忍がバニングス家に今回の分の交渉を任せ、一旦、この件についての話は終わる。
「さて、問題はこれからですが…クロノ。事件の大本について、何か心当たりが?」
「はい。エイミィ、モニターに」
クロノがエイミィに指示を出すとモニターに一人の女性が映し出される。
「彼女は…?」
「僕らと同じミッドチルダ出身の魔導師、プレシア・テスタロッサ。専門は次元航行エネルギーの開発。偉大な魔導師でありながら違法研究と事故によって放逐された人物です。登録データとさっきの攻撃の魔力波動も一致しています。そして、あの少女…フェイトはおそらく…」
「母親だと思われます」
クロノの言葉を引き継ぎ和也は言う。この場において原作知識によって、フェイトの生まれのことやプレシアの目的を知っているのは、俺、和也、リンディさん、クロノ、忍の五人だが、他の人達に真実を告げるわけにはいかない。俺達、転生者について知られるわけにはいかないからだ。
「他の情報は?」
「いえ、まだ…」
リンディさんの言葉にクロノが答える。まだ、事実を確認していないため、話すことができないのだろう。
「それでは後日、情報が集まり次第、そちらにも連絡をいたしますので…」
「わかりました。交渉に関してもそのときに」
リンディさんと忍が言葉を交わし、今日のところは解散となる。皆で転送ポートへ移動し、地上へ移動しようとすると和也が呼び止めてくる。
「拓斗、悪かったな今日は…」
和也は謝ってくる。今回のフェイトの件で俺達が転移するまで、何も言ってこなかったことについてだろうか?
「いや、そっちも立場があるのはわかってる。こっちも勝手に動いたりしてすまなかった」
「お前がそっちの気持ちを代弁してくれたから、多少の不満は解消されたはずだ。まぁ、確かに色々始末書は書かないといけないけどな」
和也は笑ってそう言う。始末書を書くことを苦にも思っていない、その表情に俺は少し安心する。
「じゃあ、なんかあったら連絡するから」
「ああ、よろしく」
そう言って、地上に戻る。今日はたった一度ではあるが全力での魔法行使をしたので少し疲れている。
——カートリッジ使った全力がここまで、疲れるなんてな
カートリッジを使わずに全力で魔法を放ったことは何度もある。カートリッジを一発だけ使って魔法を放ったこともある。ただ、カートリッジを複数使って魔法を全力で放ったことは初めてであった。
——原作でなのはとか割と使ってた気がするけど、無茶しすぎだろ
原作で派手にカートリッジを消費していたなのは達を思わず尊敬してしまう。これからはカートリッジの複数行使も練習していく必要もあるのかもしれない。
——ジュエルシードは全部発見と、後はプレシアだけか…
今回の一件でジュエルシード二十一個全てが発見され、俺達、もしくはフェイト達がそのジュエルシードの全てを回収している。これによって、無印編のイベントは残すところあとわずかだ。
プレシアのこと、フェイトのことなど考えることはある。もちろん、元の世界への帰還方法も当然ながら、考えないといけない。
——ホント、絶対に帰れる手段が見つかるといいんだけどな
ジュエルシードでは可能性が低い、まぁ試してみるまでわからないが、それでも本当に低い可能性だ。それにこの世界にも少しずつ、馴染んできている。魔法を使うことにも違和感がない。事件に関わることにも慣れてきた。元の世界に帰れば、帰ったで元の世界の生活に違和感を感じるだろうし、もしかしたら物足りなさを感じるようになるかもしれない。
「できるだけ早く…か」
今はまだ帰りたいという気持ちが強い。でも、これから先はわからない。そのためにもできるだけ早くもとの世界に帰る方法を見つける必要があった。
「拓斗君?」
「どうしたのよ拓斗?」
「いや、早く、それと何事もなく事件が終わればいいなって」
なのはとアリサが俺の様子を見てか、声をかけてきたので適当に返しておく。
「そうね、あの子、フェイトも無事に終われば一番いいわ」
「うん、そうだね」
アリサの言葉にすずかが頷く。皆、一刻も早い事件の終わりを望んでいた。