転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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28話目 願い事

 今、俺達がいるアースラのブリッジには緊張感が漂っていた。

 

「武装隊、突入準備整いました」

 

「では突入を」

 

 モニターにはリンディさんの指示で時の庭園に突入する武装局員達の様子が映る。俺はその光景を食い入るように見つめる。

 

 ——あと少しで無印が終わる。

 

 結局、元の世界に帰るための手がかりを得ることはできなかった。和也に会えたことは十分に価値のあることではあったが、それでも少し物足りなく感じる。

 

「拓斗?」

 

 隣にいた忍が俺の名前を呼ぶ。現在、ここにはなのはとフェイトを除いて、主要メンバーが全員揃っている。

 

「なに、忍?」

 

「なんか怖い顔していたから、どうしたのかなって…」

 

「まぁ、ちょっとな」

 

 忍の言葉に俺は苦笑いで返す。元の世界に帰ることができないのが少し寂しく感じたなんて、この場で言うわけには行かない。

 そんな中、武装局員はどんどん進んでいく。原作でやられてしまった彼らが出ることはどうかと思ったが、それはリンディさんの判断なので俺が口を挟むわけにもいかない。原作と違う結果になるかもしれないし、ただでさえ、管理局はこの事件に対して何も貢献していないような状況なのだ。彼らのプライドの問題もあるだろう。

 

「和也、大丈夫なのか?」

 

 そういったことを考えながら、俺は和也に質問する。コイツはこういうことに慣れているはずなので、少なくとも俺より的確な状況判断ができるはずだ。

 

「キツイだろうな。次元跳躍魔法を使えるような相手だ。いくら訓練しているとはいえ自力の差は間違いなく存在する」

 

 武装局員の魔導師ランクがどの程度なのかはわからないが、魔導師ランクの差というのは意外と大きい。それこそ訓練した管理局員よりもランクが高いちょっと齧っただけの素人が強いなんてこともあるらしい。プレシアの場合、そこらへんの素人ではなく一流の魔導師だ。やはり彼らには荷が重いらしい。

 

「失礼します」

 

 俺達が武装局員の突入に注目しているとブリッジになのはとフェイトが入ってくる。どうやら目を覚ましたようだ。

 

「大丈夫か?」

 

「うん、私は大丈夫だよ」

 

「あっ、はい」

 

 俺が二人を心配するとなのはは笑顔で返してくる。フェイトも返してくれるがその表情は少し固い。まぁ、明るくなれるわけがないんだが。彼女の手には魔力を抑制する手錠がはめられている。

 

「母さん……」

 

 モニターを見てみると武装局員達がプレシアの元に辿り着き、彼女を囲み降伏勧告を促していた。しかし、プレシアはそれを鼻で笑い、余裕の表情を見せている。

 そして、もう一つの部隊がとある場所へと踏み込んだとき、艦内の空気が変わる。

 

「え?」

 

 その声を上げたのは誰だっただろう。皆、モニターに映っているあるものを見て戸惑っていた。透明な液体に満たされたカプセルの中に金色の髪の少女が浮かんでいる。その少女の姿はフェイトと瓜二つであった。

 

「私のアリシアに近づかないで!!」

 

 アリシアの元へと転移したプレシアが局員達を吹き飛ばす。局員達も反撃するが、その攻撃はまったく届かない。そしてプレシアがもう一度魔法を放つと残っていた局員達も倒されてしまう。

 

「局員の送還をっ!!」

 

 リンディさんの指示で時の庭園にいた局員が回収される。原作通りな展開にやっぱりかという思いも抱きながらも、もう少し粘れないのかと管理局の実力ということに不安を覚える。いくら格上が相手でもあっさり負けすぎではないだろうか。こういった荒事なども管理局では珍しいことではないだろうし、もう少し粘れるかと思ったがそうでもなかった。

 

 ——これで大丈夫なのか管理局?

 

 管理局の将来にに不安を抱くが、管理局員ではないし、今は優先しなければならないことが目の前にある。

 

「もう駄目ね…時間がないわ。たったこれだけのジュエルシードでアルハザードに辿り着けるかわからないけど」

 

 プレシアはカプセルに手を添えるとモニター越しではあるが真っ直ぐにこちらを睨んでくる。

 

「でも、もういいわ。終わりにする。子の子を亡くしてからの暗鬱とした日々も、この子の身代わりの人形を娘扱いするのも…」

 

 フェイトはプレシアの言葉を聞いて、その目を大きく見開く。

 

「あなたのことよ、フェイト。せっかくアリシアの記憶をあげたのにそっくりなのは見た目だけ。役立たずで使えない私のお人形」

 

「プレシア・テスタロッサはね。過去の事故のときに娘を亡くしてるの。その子の名前がアリシア。その事故の後、彼女は人造魔導師を作る研究をしていたの。それがプロジェクトF.A.T.E」

 

 プレシアの言葉に補足説明をするようにエイミィが話してくる。要するにクローン技術だ。娘と同じ肉体を造り、同じ記憶を与えることで娘と同じ存在になると考えたらしい。

 

「そうよ。だけど駄目ね。ちっとも上手くいかなかった。作り物の命は所詮作り物だもの」

 

 プレシアの言葉にフェイトが俯く。プレシアはそんなフェイトの状態すらお構い無しに話しを続けてきた。

 

「アリシアはもっと優しく笑ってくれた。時々我侭を言うけど、私の言うことをとてもよく聞いてくれた」

 

「……めて」

 

「アリシアはいつでも優しくしてくれた」

 

「やめて…」

 

 なのはの言葉などまったく意に介さずにプレシアは言葉を続ける。

 

「フェイト、あなたはやっぱりアリシアの偽者よ。だからもういらないわ、どこへなりと消えなさいっ」

 

 プレシアは高笑いを上げる。

 

「良いことを教えてあげる。あなたを作り出してから私はずっとあなたが…」

 

「お願いっ、もうやめてっ!!」

 

 モニターに移るプレシアの表情が憎しみに染まる。なのはの叫びを無視してプレシアはその言葉はフェイトに向けてはなった。

 

「大嫌いだったのよっ!!!」

 

 プレシアの言葉でフェイトの身体が崩れ落ちる。すぐにアルフが駆け寄って心配するがフェイトの反応はない。

 

「ま、魔力反応増大っ、推定Aランク、個体数五十、六十、まだ増えますっ」

 

 モニターに映った映像に大型の機械でできた兵士が映し出される。

 

「私達は旅立つのっ、永遠の都アルハザードにっ!!!」

 

 プレシアが叫ぶ。その姿を見た俺達の行動は早かった。

 

「クロノッ!!」

 

「わかってるっ、いくぞ!!」

 

 和也とクロノがお互いに声を掛け合い、時の庭園へと向かおうとする。俺をすぐにセットアップを済ませると二人に続いて時の庭園へと向かった。

 

「お前も来たのか?」

 

「当然だろ、お前らだけに任せられるか」

 

 時の庭園に転移する和也が声をかけてきたので、俺はデバイスを構えながら言葉を返す。俺達はすでに大量の機械兵に囲まれていた。

 

「足引っ張るなよ」

 

「はいはい、いくぞっ!!」

 

 俺の言葉を合図として俺、和也、クロノの三人は機械兵へと向かう。なのははまだ来ていない。崩れ落ちたフェイトに付き添って医務室へと向かっていった。

 

「スティンガースナイプ」

 

 クロノの魔法によって機械兵が数体破壊される。和也の方を見てみると、和也も同じように魔法を使って機械兵を破壊していた。

 

「それがお前のデバイスか?」

 

 俺は機械兵を撃ちぬきながら、和也に近づき背中合わせになると彼に声をかける。和也の持っていたデバイスは何の変哲もない杖型のデバイスにしか見えない。

 

「ああ、意外と杖型って使いやすいんだぜ」

 

 和也はそう言うと機械兵に特攻する。持っていたデバイスの先から魔力刃を出すと、デバイスを振り回し機械兵を貫き、もしくは真っ二つに斬り裂いていった。

 どうやら和也のスタイルはオールラウンダーのようだ。距離が離れれば、魔法を使って攻撃し、近づけば今のように魔力刃を展開して斬りつける。その上、機動力も高く、動きが速い上に流石執務官というべきかバインドなどの補助的な魔法もかなり扱えるようだ。

 

 そんな和也の姿を横目で見ながら、俺も機械兵を倒しながら先へと進んでいく。俺が用があるのはプレシアただ一人、目的は彼女の持つジュエルシードだ。

 

 

 

 

 

「あの子達が心配だから、行ってくるね。なのは、フェイトをお願い」

 

「わかりましたアルフさん」

 

「すぐ帰ってくるよ。そして全部終わったら、ゆっくりでいいから、あたしの大好きな、ほんとのフェイトに戻ってね…」

 

 アルフがそう言って、部屋を出て行った。私の傍にはあの白い子がいる。

 

「フェイトちゃん…」

 

 その子はまるで祈るかのように私の手を両手で握る。

 

 ——母さんは、最後まで私に微笑んでくれなかった。私が生きていたいと思ったのは、母さんに認めてほしいと思ったからだ…どんなに足りないといわれても、どんなにひどいことをされても…。

 

 母さんにただ笑って、よくやったねって一言言ってほしかっただけなのに、いつの間にかこんなところまで来てしまった。こんなはずじゃなかったのに。

 

 ——だけど、笑ってほしかった。あんなにはっきりと捨てられた今でも、私まだ母さんにすがりついてる…。

 

 映し出されているモニターにアルフの姿が映る。

 

 ——アルフはずっとそばにいてくれて、言うことを聞かない私に、随分悲しんでた…。

 

 そして、私は隣で自分の手を握っている女の子に目を向ける。

 

 ——何度もぶつかった、真っ白な服の女の子。はじめて私と対等に、まっすぐに向き合ってくれたあの子…。

 

 何度も出会って戦って、何度も自分の名前を呼んでくれた。思えば、初めて名前を呼ばれた時、少しうれしかった気がする。ふと、涙があふれて、堪え切れなくなって、私は身体を起こした。

 

「フェイトちゃん?」

 

 自分が生きていたいと思ったのは、母さんに認めてもらいたいからだった。それ以外生きる意味なんかないと思っていた。それができないと、生きていけないんだと思っていた。

 

 ——捨てればいいってわけじゃない…逃げればいいってわけじゃ、もっとない。

 

 私はバルディッシュを手に取りセットアップする。

 

「私の、私たちの全ては、まだ何も始まっていない…」

 

「フェイトちゃん…」

 

「そうなのかな、バルディッシュ…私、まだ始まってもいなかったのかな…?」

 

「get set」

 

 私のバリアジャケットが展開され、いつも身に着けているマントが羽織られる。

 

 ——私達の全ては何も始まってない。

 

 隣にいる女の子に目を向ける。その子は真っ直ぐに私を見つめてきてくれる。

 

「ホントの自分を始めたい。だから今までの自分を終わらせる」

 

「うん、フェイトちゃんならきっとできるよ。私もアルフさんも皆、手伝うから…」

 

 彼女はそう言って私に微笑んでくれる。どうしてだろう、この子の言葉は私の心に響いてくる。

 

「行こう、フェイトちゃん。新たな一歩を踏み出すために、ホントの自分を始めるために…」

 

「うん…」

 

 私はその子の手を握り、時の庭園へと転移する。そして、お母さんのいる場所を目指す。全ては今までの決着をつけるために…。

 

 

 

 

 俺達は機械兵を薙ぎ払いながら、進んでいった。あまりの数の多さに最初は大丈夫かと思っていたが、意外にも余裕がある。

 

「クロノ、拓斗、まだいけるかっ?」

 

「ああ、まだ大丈夫だ」

 

「余裕、むしろ調子が良すぎるっ」

 

 今まで我慢していた衝動を解き放ったためか、いつもより調子がいい。思えば氷村の誘拐事件以来、衝動を解放することはなかった。海のジュエルシードを封印したときもあったが、あれは一発だけだったのでここまで思いっきり動けるのは本当に誘拐事件以来だったりする。

 

 ふと和也を見てみると和也の顔を笑っていた。それはもう楽しそうに。唯一、クロノだけが冷静に戦況を把握しながら、機械兵を倒している。

 

「二人とも先に進め、ここは僕が抑える」

 

 クロノがそう言い、魔法を放つと先に機械兵が薙ぎ払われ、先に進むための道ができる。俺達はクロノに感謝しつつ、先へと急いだ。

 機械兵を破壊しながら先へと進む。途中、俺と和也は二手にわかれ、俺はプレシアの方に、和也は駆動炉へと向かった。

 

 プレシア・テスタロッサの元へと辿り着いた俺であったが、俺よりも先に辿りついた者がいた…フェイトだ。転移魔法で奥のほうに転移したのか、それとも彼女しか知らない道を使ったのかはわからないが、彼女は俺よりも早くここに辿りついていた。

 

「私は、フェイト・テスタロッサはあなたに生み出してもらって、育ててもらった、あなたの娘です!」

 

 フェイトはプレシアにそう言い放つ。しかし、プレシアはそんなフェイトの想いを嘲笑った。

 

「だから何?今更娘と思えと言うの?」

 

「あなたが、それを望むなら、私は、世界中の誰からも、どんな出来事からも、あなたを守る。私が、あなたの娘だからじゃない、あなたが、私の母さんだから」

 

「くだらな、いわ…」

 

 プレシアは無情にもフェイトを拒絶しようとした瞬間、プレシアの身体が崩れ落ちる。その理由は簡単…俺がプレシアを狙い撃ったからだ。

 

「え?」

 

 フェイトが戸惑った声を上げる。いきなり、目の前で自分の母親が撃たれたのだ。仕方ないかもしれない。だが、もう時間がなかった。

 俺はフェイトの前に出ると、プレシアの元へと近づき、彼女の身体を抱え上げてフェイトへと預ける。

 

「どうして、撃ったの?」

 

 フェイトは戸惑った表情を浮かべながら俺に問いかけてくる。

 

「もうすぐここも崩れる。早く脱出しないと全員死ぬぞ」

 

 俺はそれだけ言うと、プレシアがいた場所の近くにあったジュエルシードに手を伸ばそうとする。その時であった。轟音が鳴り響き、地面に亀裂が入ると、足場が崩れていく。

 

「クソッ、ここまで来てっ!!」

 

 近くにあるジュエルシードを回収しながら、何とか離脱しようとするがバランスを崩してそのまま落下してしまう。

 

「拓斗君っ!!」

 

 名前を呼ばれ、そちらを見てみるとなのはが必死の形相でこちらを見ながら、俺の名前を叫んでいた。しかし、落下しているためか、彼女との距離が離れていく。なのはは俺を助けようとするが、和也とクロノに止められていた。当然だ。虚数空間によって魔法が消されてしまうのに何とかできるはずがない。なのはだけでなく、和也やクロノ、ユーノも必死にバインドを使って救助使用としてくれるが途中で消され、俺を助けるには至らない。その間にも俺はゆっくりと落下していく。

 隣を見てみると、アリシアの入ったカプセルも俺と同じように落下していた。

 

 ——俺もコイツみたいに死ぬのか?

 

 このまま落ちれば死んでしまうのかもしれない。虚数空間に飲まれてしまえばどうなるかもわからない。そして、死んだ後、どうなるのかもわからない。だから、俺は自分が今できるたった一つの手段を使うことにした。

 

 ——ジュエルシード、俺を元の世界に帰してくれっ!!

 

 プレシアの持っていたものと俺の持っていたものあわせて二十一個、全てのジュエルシードを取り出し、抱きかかえると必死に願いを籠める。すると、俺の願いに反応したのかジュエルシードが光を放ち、俺を包み込んだ。

 

 光に包み込まれた俺はそのまま意識を手放した。


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